説明

ブラシ回転駆動装置

【課題】 細くて長いブラシの場合、いくら自転させながら公転させてもブラシが基部から曲がってしまう状態を回避することができず、作業面にブラシの周面しか接当させることができない。
【解決手段】 モータにより回転駆動するもので複数のブラシを円周上に配する支持部材、該支持部材に可回転に設けられ各ブラシを取り付ける回転部材、各回転部材の偏心位置で可回転に連結する駆動リング、該駆動リングに接当させることにより該駆動リングの回転中心が該支持部材の回転中心から外れた位置に支持する偏心支持ピンとによって構成し、各ブラシを、該支持部材の回転で公転させると共に、該偏心支持ピンを該駆動リングを支持しながら回転駆動させることにより自転させて作業面の研磨等を行う装置において、各ブラシの先端側を保持する保持部を備えたブラシガイドを該支持部材に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシを回転駆動させることにより研磨や洗浄等を行う装置において、回転方向によって生じるブラシの変形を防止することを目的としたブラシ回転駆動装置の改良に関する。

【背景技術】
【0002】
本発明者が開発したものとして特許文献1に開示されたブラシ回転駆動装置がある。この装置は、円周上に複数配したブラシを個々に超低速で自転させながら公転させる構造としたことにより、ブラシに曲がり癖が付くことを防止でき、作業面の洗浄や研磨を常にブラシの先端で行えるため、極めて高い効果を得ることができる。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−289460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなブラシ回転駆動装置においては、ブラシの材質や大きさ、装置の使用形態によって本来の機能が充分発揮できない場合があった。
例えば、細くて長いブラシの場合、いくら自転させながら公転させてもブラシが基部から曲がってしまう状態を回避することができず、作業面にブラシの周面しか接当させることができない。また、ブラシに大きな荷重がかかったり、ブラシを押し付けて作業する場合なども同様であり、最も高い効果が得られるブラシの先端で研磨や洗浄することができなくなってしまう。

【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は上記問題に鑑み鋭意研究の結果、本発明を成し得たものであり、その特徴とするところは、モータにより回転駆動するもので複数のブラシを円周上に配する支持部材、該支持部材に可回転に設けられ各ブラシを取り付ける回転部材、各回転部材の偏心位置で可回転に連結する駆動リング、該駆動リングに接当させることにより該駆動リングの回転中心が該支持部材の回転中心から外れた位置に支持する偏心支持ピンとによって構成し、各ブラシを、該支持部材の回転で公転させると共に、該偏心支持ピンを該駆動リングを支持しながら回転駆動させることにより自転させて作業面の研磨等を行う装置において、各ブラシの先端側を保持する保持部を備えたブラシガイドを該支持部材に設けたことにある。
【0006】
ここで、本明細書中でいう「ブラシ」とは、複数円周上に配し該円周の中心軸で回転駆動することにより、洗浄や研磨などに供する部材をいう。本発明においては、金属、プラスチック、布などをブラシ状にしたもので、オフィス、学校、病院などの床面洗浄や、金属の研磨、錆落とし、塗装の除去作業などに供する。本発明の最大の特徴は、ブラシを自転させながら公転させると共に、ブラシの先端側をブラシガイドで保持することによって、ブラシの変形を防止しブラシの機能を最大限に発揮させることにある。ここでいう自転と公転は、それぞれ強制駆動させることが要件であり、これによって稼働時におけるブラシの変形防止が達成できる。ブラシとしての形態は、複数の金属線やプラスチック線材などを筆のように断面円形や多角形に束ねたものを基本とする。
【0007】
「支持部材」とは、複数のブラシを円周上に配する部材であり、これをモータで回転駆動させることによって、各ブラシを公転させる。支持部材には各ブラシを取り付けるための回転部材が可回転に設けられ、各ブラシはその位置でそれぞれ回転できる状態に支持される。支持部材は同心円上に2つ設け、相互に逆回転させることで、装置本体(床面洗浄機や研磨用手動工具など)が回転するのを打ち消したり緩和することができる。この場合、支持部材をバネなどの弾性体で懸架させることによって、より効果を高めることができる。
【0008】
「駆動リング」とは、支持部材に設けられた各回転部材を所定の偏心位置で可回転に連結する部材をいう。従って、支持部材に設けた回転部材のピッチ円と駆動リングの各回転部材との連結部のピッチ円は同じ径であり、駆動リングを偏心半径で回動させると、各回転部材及び各ブラシの全てが同方向に回転する。
【0009】
「偏心支持ピン」とは、駆動リングに接当させることによって該駆動リングの回転中心が支持部材の回転中心から外れた位置に支持する部材をいう。駆動リングは、支持部材をモータで回転駆動させると同時に回動するが、偏心支持ピンで支持することにより、回動することなくほぼ定位置で回転する。この場合、支持部材が1回転すると、各回転部材及び各ブラシが支持部材に対して逆方向に1回転する。つまり、各ブラシは自転しながら公転するため、各ブラシが一定の方向を保った状態で回動することになり、稼働時における各ブラシの曲がり方向がほぼ周面全域に渡って推移し曲がり癖の防止が図れる。このことは、偏心支持ピンが一定の位置で駆動リングを支持した場合であり、偏心支持ピンを回転駆動させることで、自転速度を大幅に減速することができる。
【0010】
通常、ブラシは高回転で回動させて洗浄や研磨に供するが、本発明の目的であるブラシの変形防止を図る点から、各ブラシの自転速度はあまり高める必要はない。このため、偏心支持ピンを支持部材と同方向に減速回転させたり、支持部材よりやや高回転させることで各ブラシの自転速度を低くさせる。
【0011】
「ブラシガイド」とは、支持部材に設けることにより、回転部材に取り付けたブラシの先端側を保持する部材をいう。ブラシガイドは、支持部材と共に回転し、ブラシガイドの保持部で自転するブラシを保持する。ブラシガイドは、摩耗するブラシに対応させるため、ブラシの軸方向に調節可能に設け、ブラシの突出長さを調節する。ブラシの先端をブラシガイドから突出させる長さは、ブラシの材質や径によって異なるが、約5mm〜15mmである。

【0012】
作業面に対してブラシの先端で研磨や洗浄させることをより強調させるためには、ブラシガイドでブラシの先端側を公転方向及び/又は法線方向外方に保持させる。また、ブラシガイドは、ブラシの先端側に設ける必要があるため、ブラシガイド自体が作業面等に接当する場合が生じることから、ブラシガイドの保持部のみをブラシの先端側に設けるようにしてもよい。

【発明の効果】
【0013】
本発明に係るブラシ回転駆動装置は、ブラシを強制的に自転及び公転させると共に、ブラシの先端側をブラシガイドで保持したことにより、ブラシの先端を作業面に向けた状態で、ブラシ周面をその全周に渡って公転する方向に順次向かせることができるため、ブラシが作業面との接触抵抗によってつく曲がり癖を生じさせることなく、洗浄能力や研磨能力を長期に渡って維持することができる。しかもブラシが寝てしまうことによる抵抗が全く無くなるため、ブラシの回転による装置本体の挙動が安定し、手動操作による作業性が向上すると共に、安全性も高くなるなど実用上極めて有益な効果を有するものである。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の係る回転駆動装置の一実施例を示す側面図及び底面図である。(実施例1)
【図2】図1に示した回転駆動装置の部分拡大図である。
【図3】ブラシを自転及び公転させる原理の平面図である。
【図4】ブラシを自転及び公転させる原理の斜視図である。
【図5】ブラシを強制的に自転及び公転させた場合の稼働時におけるブラシの変形状態を下から見た状態を示す概略底面図である。
【図6】ブラシを自転及び公転させる原理の概略部分断面図である。
【図7】ブラシを自転及び公転させる原理の他の例を示す概略部分断面図である。
【図8】ブラシガイドの分解斜視図である。
【図9】ブラシガイドの他の例を示す底面図である。
【図10】ブラシガイドのさらに他の例を示す底面側の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ブラシを回転させることによって洗浄や研磨等を行う装置において、複数のブラシを強制的に自転及び公転させると共に、ブラシの先端側をブラシガイドで保持したことによって、ブラシをより好適な状態に保持し、ブラシの機能をほとんど損なうことなく作業できる。

【実施例1】
【0016】
図1は本発明に係るブラシ回転駆動装置1の一実施例を示すもので、各ブラシB(本例では3本)を自転及び公転させながら研磨する装置であり、動力源としてディスクサンダDに設けている。各ブラシBは、その先端側をブラシガイド5で保持しており、ブラシBの先端が作業面から逃げないようにすることで、曲がり癖を防止する自転及び公転の効果によって極めて高い研磨能力が得られる。
【0017】
ブラシBは、図2に示すようにディスクサンダDの駆動軸からベルト6で回転駆動される回転ドラム24に、可回転に支持された回転部材21に取り付けている。そして、各回転部材21の偏心位置を駆動リング22で連結すると共に、該駆動リング22の内周を回転駆動する偏心支持ピン23で支持することによって、低速で自転させながら公転させている。自転と公転の回転数の比は、約1:10である。
【0018】
本発明に係る回転駆動装置1における自転と公転の駆動原理を図3及び図4に示す。
上述の回転ドラム24としての支持部材2に、複数(図では19個)の回転部材21を可回転に設けている。各回転部材21は、それぞれ偏心位置を駆動リング22で可回転に連結している。この駆動リング22を偏心支持ピン23に接当させて支持しながら、支持部材2を白抜き矢印の方向に回転させると、駆動リング22がその位置で同方向に回転すると共に、各回転部材21はそれぞれ塗りつぶし矢印の方向に自転しながら白抜き矢印の方向に公転する。本例では、駆動リング22の内周面に偏心支持ピン23を接当させているが、外周面側に接当させるように設けてもよい。
【0019】
ブラシBが自転しながら公転することにより、個々のブラシBはあたかも回転することなく静止した状態で公転運動することとなる。このため、ブラシBは図5の白抜き矢印の公転方向に伴って、(a)の位置では左、(b)では上、(c)では右、(d)では右に曲がり、順次曲がる方向が推移して曲がり癖がつかなくなる。
【0020】
支持部材2や偏心支持ピン23は、例えば図6のように配置する。支持部材2及び偏心支持ピン23はカバー3の内部に設けられ、支持部材2はモータ等により駆動力を伝達する駆動プーリー4、駆動板31、連結具32を介して回転駆動される。偏心支持ピン23はカバー3の内底面に固定している。本例では、分かりやすくするためブラシBや回転部材21は2つのみ表示している。
【0021】
固定した偏心支持ピン23に駆動リング22を接当させて支持部材2を回転させた場合、ブラシBは1回転公転する毎に1回転自転する。このため、自転による曲がり癖がつかないようにするには、図7のように偏心支持ピン23を支持部材2の回転方向に減速して回転させる。本例では、偏心支持ピン23を回転板33に設け、該回転板33をチェーンとスプロケットホイールにより支持部材2に対して減速回転させている。上側の駆動ホイール34は駆動プーリー4と駆動板31を連結する駆動軸に固定し、下側の減速ホイール35と回転板33は該駆動軸に可回転に設けており、両者をアイドルホイール36を介してチェーンで連結して回転板33を減速回転させている。本例の駆動ホイール34は歯数を30、減速ホイール35は歯数を33としている。アイドルホイール36の歯数は同じであるが、これの歯数を変えて増減速させてもよい。
【0022】
図2の回転駆動装置1では、ディスクサンダDの駆動軸で回転ドラム24を直接回転駆動して、各ブラシBを公転させている。そして、回転ドラム24の駆動力を、駆動ドラム37、アイドルドラム39、減速ドラム38へと伝達して偏心支持ピン23を回転させ、自転の回転数を減速している。
【0023】
ブラシガイド5は、図8のようにブラシBを保持するための保持部として挿通孔51を設けている。本例では、ブラシBを挿通しやすいように挿通部を幅広にして保持する部分を狭くしている。これを、支持具52を介して回転ドラム24に取り付ける。支持具52は、中央部にネジ53を設けており、これによって高さ調節する。周囲の3本の棒材は、ブラシガイド5をブラシBと共に回転させるためのガイド54であり、回転ドラム24に設けた貫通孔25に摺動可能に挿通する。
【0024】
ブラシガイド5によるブラシBの保持は、ブラシBを鉛直方向に保持するだけでなく、図9のようにブラシBの先端を公転方向や法線方向外方に向けて保持することで、研磨力を高めたり隅部や狭い箇所での研磨が可能となる。また、図10のように、ブラシガイド5の保持部を部分的に高くすることにより、ブラシガイド5本体との高低差が設けられ、回転駆動装置1を傾けて使用してもブラシガイド5本体と作業面との接触を少なくすることができる。このためには、ブラシガイド5の構造として、保持部を円筒状や半円状にして放射状に設けた構造にするのが好ましい。

【符号の説明】
【0025】
1 回転駆動装置
2 支持部材
21 回転部材
22 駆動リング
23 偏心支持ピン
24 回転ドラム
25 貫通孔
3 カバー
31 駆動板
32 連結具
33 回転板
34 駆動ホイール
35 減速ホイール
36 アイドルホイール
37 駆動ドラム
38 減速ドラム
39 アイドルドラム
4 駆動プーリー
5 ブラシガイド
51 挿通孔
52 支持具
53 ネジ
54 ガイド
6 ベルト
B ブラシ
D ディスクサンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより回転駆動するもので複数のブラシを円周上に配する支持部材、該支持部材に可回転に設けられ各ブラシを取り付ける回転部材、各回転部材の偏心位置で可回転に連結する駆動リング、該駆動リングに接当させることにより該駆動リングの回転中心が該支持部材の回転中心から外れた位置に支持する偏心支持ピンとによって構成し、各ブラシを、該支持部材の回転で公転させると共に、該偏心支持ピンを該駆動リングを支持しながら回転駆動させることにより自転させて作業面の研磨等を行う装置において、各ブラシの先端側を保持する保持部を備えたブラシガイドを該支持部材に設けたことを特徴とするブラシ回転駆動装置。
【請求項2】
ブラシガイドは、ブラシの軸方向に調節可能に設け、ブラシの突出長さを調節する請求項1記載のブラシ回転駆動装置。
【請求項3】
ブラシガイドは、先端側保持部によりブラシの先端側を公転方向及び/又は法線方向外方に保持する請求項1又は2記載のブラシ回転駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−111738(P2013−111738A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263278(P2011−263278)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(391039771)
【Fターム(参考)】