説明

ブラシ用導電性芯鞘複合アクリル繊維

【課題】均一な帯電性能と、柔らかさが要求される工業用除電ブラシを、原料となる毛材から機械植えを行うことにより効率的に製造するにあたり、単糸繊度が20dtex以下であるにもかかわらず、機械植えが可能な毛さばき性能を有し、十分な導電性能を有する毛材を得るための導電性繊維を提供する。
【解決手段】単糸繊度が9dtex以上20dtex以下、芯部にカーボンブラックを30質量%以上含み、印加電圧100Vにおける単繊維の抵抗値が10MΩ/cm以下、繊維表面にシリコン系油剤が付着しているブラシ用導電性芯鞘複合アクリル繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ブラシ製造工程において機械植えが可能となる毛材の原料となる単糸繊度の小さい導電性アクリル繊維。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真複写機や、プリンターなどで使用される帯電又はクリーニングブラシや、静電気の発生を嫌う用途で使用される除電ブラシなどでは、導電性繊維が毛材として使用されてきた。毛材とはマルチフィラメントであって、繊維が収束され1000ktex程度の太さの束となったものであり、通常はブラシのサイズに合わせた長さにカットした後に使用される。各用途で使用されているブラシにおいては、製造された繊維をそのままブラシ状に加工する場合と、毛材として収束されたものを加工する場合があるが、本発明は毛材を使用してブラシを製造する場合において、好適に使用されるブラシ用導電性繊維に関するものである。
毛材からブラシを製造する場合においては、毛材として繊維を収束される工程の作業効率とブラシの製造工程においる毛さばき性能が要求性能として挙げられている。毛さばき性能とは、ブラシの基材に毛材を植え込む作業を行う際に、毛材が絡まないように分離しやすいかどうかを示すものであり、特に工業用ブラシのように機械作業で植え込みを行う場合には、ブラシ生産の効率の点から重要な要素となる。機械植えでは、毛材をカットした毛束から、適量を機械で摘み取り基材に植え込みを行うので、毛さばき性能が悪い場合は毛束の繊維が絡み、作業を安定に行うことができないと連続生産ができないと言う問題が発生する。従って、導電繊維の毛材から工業用ブラシを製造する場合においても、毛さばき性能を有するものが求められていた。
【0003】
毛材として利用される導電繊維としては、モノフィラメントの製造工程を利用したものが先行文献1により開示されている。先行文献1実施例では、太さ0.4mmの導電性モノフィラメントの製造法が示されているが、太繊度の導電繊維から得られた毛材では、毛さばき性が非常に優れるものの、電子写真複写機等均一な帯電性能が求められる用途には適用が難しいと言う問題があった。このため単糸の繊度が20dtex以下の導電繊維の毛材が求められていたが、モノフィラメントの製造方法では細繊度の導電繊維を得ることが難しかった。
一方、従来から導電性繊維は通常カーボンブラック等の導電性微粒子を含むポリマーを溶融紡糸して生産されてきた。
マルチフィラメントの製造工程を利用した特許文献2の実施例では、ポリエチレンテレフタレートを原料として、カーボンブラックを練り込んだポリマーを導電層とする300デニール、50フィラメントである導電繊維の製造方法が開示されている。通常空気冷却による溶融紡糸においてはノズル口から吐出されたポリマーを延伸した後巻き取りを行うために、総繊度が大きいものは生産効率が低いという問題があった。このため先行文献2の実施例の方法で得られた繊維から毛材を得ようとした場合、30000万本以上の繊維を収束しなければならないため、作業効率が悪いと言う問題があった。また、パーンやチーズに巻き取られた状態の繊維を解舒して収束を行う場合、実質的に撚りが入り、毛さばき性能が悪くなることも問題となっていた。一方、モノフィラメントの製造工程を利用した導電繊維では、太さ0.4mmの導電性モノフィラメントの製造法が特許文献2により開示されている。太繊度の導電繊維から得られた毛材では、毛さばき性が非常に優れるものの、電子写真複写機等の用途等均一な帯電性能が求められる用途には適用が難しいと言う問題があった。一方、細繊度の導電繊維を毛材として使用する場合、毛さばき性能が大幅に悪くなるために、機械植えを行うブラシ用途への展開ができないという問題を抱えていた。
【特許文献1】特開2006−112007号公報
【特許文献2】特開平3−137212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
均一な帯電と柔らかさが要求される工業用除電ブラシを、原料となる毛材から機械植えを行うことにより効率的に製造するにあたり、機械植えが可能な毛さばき性能を有し、十分な導電性能を有する毛材を得るための導電性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、単糸の繊度が9dtex以上20dtex以下、
芯部にカーボンブラックを30質量%以上含み、
印加電圧100Vにおける単繊維の抵抗値が10MΩ/cm以下、
繊維表面にシリコン系油剤を付着してなるブラシ用導電性芯鞘複合アクリル繊維にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、均一な帯電が可能で毛先が柔らかい導電性工業用ブラシが、毛材を原料として機械作業により効率的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の導電性繊維は導電性粒子を含む導電層を繊維の一部に形成している。導電性粒子としては、繊維の導電性能を繊維一本あたり導電率が10MΩ/cm以下とするためには、導電性粒子がカーボンブラックであることが望ましい。
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等の種類があるが、製糸安定を確保できる種類のものであれば任意に選択することが可能である。カーボンブラックの基本的特性であるDBP吸収量は、70cm/100g以上の値であることが好ましく、導電性能からは100cm/100g以上であることがより好ましい。DBP吸収量が、70cm/100gより小さい値のカーボンブラックを使用した場合、導電層のカーボンブラック濃度を紡糸性が得られる範囲で上限まで上げても導電性能が10MΩ/cm以下とならないために好ましくない。カーボンブラックの平均一次粒子径についても、特に限定されないが、本発明の紡糸技術を利用して繊維の導電性能が10MΩ/cm以下となる範囲で選択されることが望ましい。
【0008】
カーボンブラックの添加濃度は導電性能が10MΩ/cmとなる範囲で決定されなければならない。添加部位となる導電層においてカーボンブラックの濃度が30質量%以上であることが好ましい。30質量%より少ないの場合には、カーボンブラックの種類によって前記導電性能を得られないことがあるために好ましくない。カーボンブラックの添加濃度の上限は紡糸可能な範囲で高いことが望ましいが、繊維の製造段階での安定性の点から、80質量%以下の範囲が特に望ましい。
カーボンブラックの繊維に対する添加量は、繊維の導電性能が10MΩ/cmとなる範囲で設定されなければならない。本発明の導電繊維においては、3質量%から20質量%の範囲が好ましく、製糸安定性を考慮すると3質量%から10質量%の範囲がさらに好ましい。
【0009】
本発明の導電繊維の非導電層には、アクリロニトリルを93質量%以上の割合で共重合された重合体であることが好ましい。アクリロニトリル以外の成分は、アクリロニトリルと共重合可能な不飽和モノマー、またはその重合体であればよい。
アクリロニトリルと共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンの不飽和モノマーが挙げられる。
【0010】
さらに染色性を改良する目的で共重合されるモノマーとして、p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらのアルカリ金属塩が挙げられる。アクリロニトリルを含有するポリマーのアクリロニトリル含有量が93質量%未満では、繊維の熱収縮が大きくなるために、毛材または刷毛とした時に、ブラシ部分の形状安定性が低くなるために好ましくない。
【0011】
本発明の導電繊維の断面形状は特に限定されないが、導電層が非導電層に被覆された芯鞘断面形状であることが好ましい。導電層と非導電層の割合も製糸安定性が得られる範囲で特に限定されない。
【0012】
本発明の導電繊維の繊度は、単繊維が9dtex以上20dtex以下の範囲でなければならない。単繊維の繊度が9dtexより小さい場合、毛材とした時の毛さばき性が悪くなるために、機械植えによるブラシの製造工程で毛材が絡まることが問題となるために好ましくない。また、単繊維の繊度が20dtexを越える場合には、毛材として風合いが固くなり、微細な製品や柔らかい製品に使用される用途には適さないだけでなく、均一に帯電することが要求されるコピー機などの精密機器用途へ好適に使用できないために好ましくない。精密機器用途などに好適に使用される繊度としては、9dtex以上13dtex以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の導電繊維の表面にはシリコン系油剤が塗布されていなければならない。単繊維の繊度が50dtexより大きい場合には、繊維の毛さばき性能が良いために、ブラシ製造工程で機械植えができる。しかしながら、繊度が細くなると機械にて毛材から植え込む量の毛材を取り分けた際に、毛材が絡まり連続的に機械植え作業ができなくなってしまう。このため従来は20dtexより細い毛材では機械植えができず、効率的にブラシを製造することができなかった。本発明では単繊維の繊度が20dtex以下の導電繊維において、毛さばき性を改善させるために、鋭意検討した結果、毛材として収束させる際に、繊維束にシリコン系油剤を塗布することにより、良好な毛さばき性のある導電繊維毛材を得ることができたのである。シリコン系油剤を含まない油剤を使用した場合、単繊維繊度が20dtex以下の繊維では、十分な毛さばき性が得られないのである。また、単繊維繊度が9dtexより小さい場合には、シリコン系油剤を塗布しても十分な毛さばき性を得ることができないために好ましくない。
【実施例】
【0014】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。
【0015】
(実施例1)
水系懸濁重合法により、アクリロニトリル単位95%、酢酸ビニル単位4.4%、メタリルスルホン酸ソーダ単位0.6%からなる還元粘度1.6のアクリロニトリル系ポリマーを重合した。アクリルニトリルと酢酸ビニルの組成は、赤外分光々度計(日本分光社製、製品名:FT−IR660)を使用し、アクリルニトリルのニトリル基に起因する吸収と、酢酸ビニルのケトン基に起因する吸収の強度比を、既知量のモノマーより作成した検量線と比較して濃度を求めた。
前記アクリロニトリル系ポリマーをジメチルアセトアミドに溶解し、重合体濃度24質量%となるように溶解して鞘ポリマーの紡糸原液を得た。
前記アクリロニトリル系ポリマー14質量%とカーボンブラック(三菱化学株式会社製、製品名:MA100)を9質量%、ジメチルアセトアミドを77質量%として、カーボンブラックの分散液を調整し、前記溶液を芯ポリマーの紡糸原液とした。
孔径0.07μm、孔数1000の芯鞘複合ノズルを使用して、芯ポリマーの紡糸原液吐出量を1.42l/hr、鞘ポリマーの紡糸原液を8.24l/hrとして、ノズルから吐出して、貧溶媒(ジメチルアセトアミド 56質量%水溶液)中で凝固した。前記凝固繊維束を沸水中で、溶剤を洗浄しながら4.5倍延伸を施し、続いて油剤を付着させ、
150℃の熱ローラーで乾燥させたものを8本収束させ、単繊維繊度11dtex、総繊度8.8ktexの芯鞘複合導電アクリル繊維を得た。単繊維の抵抗値を測定するために、繊維を1cmの間隔で導電性ペースト(藤倉化成株式会社製、製品名:ドータイト)で固定し、100Vの印加電圧で抵抗値を測定し、N数20の対数平均値を求めたところ、1.5×10MΩ/cmの値が得られた。
前記芯鞘複合導電アクリル繊維に、油剤(主成分がアミノ変性ポリシロキサンである油剤を5g/l(松本油脂製薬株式会社製、製品名:シリコンソフナーN−20)、主成分が陽イオン基変性高分子である油剤を1g/l(松本油脂製薬株式会社製、製品名:TC−194)混合)を、浴比1:10として、60℃で15分間処理することにより、繊維表面にシリコン系油剤を付着させ、乾燥後、110本収束し引きそろえることによって970ktexの毛材を得た。
前記毛材を10cmにカットし、機械植毛を実施したところ、毛絡みもなく、安定に工業用ブラシを製造することができた。
【0016】
(比較例1)
実施例1で得られた8.8ktexの芯鞘複合導電アクリル繊維を、シリコン系油剤を付着させずに110本収束して970ktexの毛材を得た。前記毛材を10cmにカットし、機械植毛を行ったところ、毛束を取るところで毛絡みが発生し、連続生産することができなかった。
【0017】
(比較例2)
実施例1で得られた8.8ktexの芯鞘複合導電アクリル繊維に、ソルビタンモノパルミテート(三洋化成株式会社製、製品名:F−26)及び硬化ひまし油(松本油脂株式会社製、製品名:MCA−90)をそれぞれ1g/lとした油剤を、浴比1:10として60℃で15分間処理することにより、繊維表面に油剤を付着させた後、乾燥を行い110本収束し引きそろえることにより、970ktexの毛材を得た。前記毛材を10cmにカットし、機械植毛を行ったところ、毛絡みが発生し、連続生産することができなかっできなかった。
【0018】
(比較例3)
実施例1と同様の方法により、単糸繊度が8dtexで、総繊度が6.4ktexの芯鞘複合導電繊維を得た。実施例1と同様の方法により、シリコン系油剤を付着させた毛材を調整し、機械植毛を行ったところ、毛絡みが発生し、連続生産することができなかった。
【0019】
(比較例4)
水系懸濁重合法により、アクリロニトリル単位95%、酢酸ビニル単位4.4%、メタリルスルホン酸ソーダ単位0.6%からなる還元粘度1.6のアクリロニトリル系ポリマーを重合した。アクリルニトリルと酢酸ビニルの組成は、赤外分光々度計(日本分光社製、製品名:FT−IR660)を使用し、アクリルニトリルのニトリル基に起因する吸収と、酢酸ビニルのケトン基に起因する吸収の強度比を、既知量のモノマーより作成した検量線と比較して濃度を求めた。
前記アクリロニトリル系ポリマーをジメチルアセトアミドに溶解し重合体濃度24質量%となるように溶解して鞘ポリマーの紡糸原液を得た。
前記アクリロニトリル系ポリマー18.4質量%とカーボンブラック(三菱化学株式会社製、製品名:MA100)を4.6質量%、ジメチルアセトアミドを77質量%としてカーボンブラックの分散液を調整し、この溶液を芯ポリマーの紡糸原液とした。
実施例1と同様の方法により、単繊維繊度11dtex、総繊度8.8ktexの芯鞘複合導電アクリル繊維を得た。単繊維の抵抗値を測定したところ、2.87×10MΩ/cmの値が得られた。
前記芯鞘複合導電アクリル繊維に、実施例1と同様の方法によりシリコン系油剤を付着させ、150本収束させて960ktexの毛材を得た。
前記毛材を10cmにカットし、機械植毛を実施したところ、安定に工業用ブラシを製造できることが確認されたが、導電性ブラシとして十分な除電性能を得ることができなかった。
【0020】
(比較例5)
水系懸濁重合法により、アクリロニトリル単位92%、酢酸ビニル単位7.4%、メタリルスルホン酸ソーダ単位0.6%からなる還元粘度1.5のアクリロニトリル系ポリマーを重合した。アクリルニトリルと酢酸ビニルの組成は、赤外分光々度計(日本分光社製、製品名:FT−IR660)を使用し、アクリルニトリルのニトリル基に起因する吸収と、酢酸ビニルのケトン基に起因する吸収の強度比を、既知量のモノマーより作成した検量線と比較して濃度を求めた。
以下、実施例1と同様の方法により芯鞘複合導電アクリル繊維を得た。
前記芯鞘複合導電アクリル繊維に、主成分アミノ変性ポリシロキサンである油剤(松本油脂製薬株式会社製、製品名:シリコンソフナーN−20)を5g/l、主成分が陽イオン基変性高分子である油剤(松本油脂製薬株式会社製、製品名:TC−194)を1g/lとした油剤を、浴比1:10として60℃で15分間処理することにより、繊維表面にシリコン系油剤を付着させ乾燥させたところ、繊維の収縮が大きく、毛材として引き揃える工程で、均一な毛材を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が9dtex以上20dtex以下、
芯部にカーボンブラックを30質量%以上含み、
印加電圧100Vにおける単繊維の抵抗値が10MΩ/cm以下、
繊維表面にシリコン系油剤を付着させたブラシ用導電性芯鞘複合アクリル繊維。
【請求項2】
鞘部に使用されているポリアクリロニトリルポリマーが、
アクリロニトリルを93質量%以上含有するポリマーである請求項1記載のブラシ用導電性芯鞘複合アクリル繊維

【公開番号】特開2010−246838(P2010−246838A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102064(P2009−102064)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】