説明

ブラシ用毛材の製造方法およびブラシ用毛材およびブラシ製品

【課題】極めてソフトな肌さわりを呈する、合成樹脂製モノフィラメントからなるブラシ用毛材の製造方法およびブラシ用毛材およびブラシ製品を提供する。
【解決手段】酸化チタンを合成樹脂の重量対比3.0〜4.0重量%含有する合成樹脂からなるモノフィラメントの先端部分を、アルカリ溶液でテーパー形状とすることによりブラシ用毛材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製モノフィラメントからなるブラシ用毛材の製造方法およびブラシ用毛材およびブラシ製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧ブラシなどのブラシ用毛材として獣毛が多用されてきたが、近年では、ブリッスルと称される合成樹脂製モノフィラメントからなるブラシ用毛材が多用されている。そして、かかるブラシ用毛材を例えば化粧筆などとして用いた際に、肌に対する刺激を低減するために通常先端部をアルカリ溶液でテーパー形状にしている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)が、まだ満足とはいえなかった。
なお、例えば特許文献3などでは、ブラシ用毛材の表面に無機粒子を吹きつけることにより表面に凹部を形成し、塗布性を向上させることが提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭49−47618号公報
【特許文献2】特開2004−284995号公報
【特許文献3】特開2008−136712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、極めてソフトな肌さわりを呈する、合成樹脂製モノフィラメントからなるブラシ用毛材の製造方法およびブラシ用毛材およびブラシ製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、合成樹脂からなるモノフィラメントの先端部分をアルカリ溶液でテーパー形状とすることによりブラシ用毛材を製造する際、合成樹脂として特定量の酸化チタンを含有する合成樹脂を用いると、テーパー形状の表面にミクロクレーター(凹部)が現れ、該ブラシ用毛材を化粧筆などとして使用すると極めてソフトな肌さわりを呈することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0006】
かくして、本発明によれば「合成樹脂からなるモノフィラメントの先端部分をアルカリ溶液でテーパー形状とする、ブラシ用毛材の製造方法であって、前記合成樹脂として、酸化チタンを合成樹脂の重量対比3.0〜4.0重量%含有する合成樹脂を用いることを特徴とするブラシ用毛材の製造方法。」が提供される。
その際、前記合成樹脂がポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。また、前記モノフィラメントの直径が0.02〜0.2mmの範囲内であることが好ましい。
【0007】
本発明のブラシ用毛材の製造方法において、前記先端部分を、濃度200〜300g/L、温度95〜110℃の苛性ソーダバス中に、50〜200分間浸漬することによりテーパー形状とすることが好ましい。また、前記先端部分をアルカリ溶液でテーパー形状とした後、染色加工を施すことが好ましい。
【0008】
また、本発明によれば、前記のブラシ用毛材の製造方法で製造され、テーパー形状の表面に凹部を有するブラシ用毛材が提供される。かかるブラシ用毛材において、ブラシ用毛材の全長が25〜200mmの範囲内であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記のブラシ用毛材を用いてなる、化粧ブラシ、化粧筆、およびボデイブラシからなる群より選択されるいずれかのブラシ製品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極めてソフトな肌さわりを呈する、合成樹脂製モノフィラメントからなるブラシ用毛材の製造方法およびブラシ用毛材およびブラシ製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、モノフィラメントを形成する合成樹脂として、酸化チタンを合成樹脂の重量対比3.0〜4.0重量%含有する合成樹脂を用いることが肝要である。酸化チタンの含有量が3.0重量%よりも小さいと、モノフィラメントの先端部分をアルカリ溶液でテーパー形状とする際にテーパー形状の表面に十分凹部を形成することができず好ましくない。逆に、酸化チタンの含有量が4.0重量%よりも大きいとモノフィラメントの繊維強度が低下するおそれがある。ここで、かかる酸化チタンとしては、ポリエステル繊維の艶消し剤として一般的に用いられる酸化チタン(二酸化チタン)でよい。
【0011】
前記合成樹脂の種類としては特に限定されないが、ポリエステル樹脂が熱セット性および染色性の点で好ましい。かかるポリエステル樹脂としては、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレート系ポリエステル、主たる繰り返し単位がブチレンテレフタレートであるポリブチレンテレフタレート系ポリエステル、主たる繰り返し単位がプロピレンテレフタレートであるポリプロピレンテレフタレート系ポリエステルが好ましく例示され、第3成分が共重合されたものでもよい。なかでも、ブラシ用毛材に反発性を持たせる上で、ポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。かかる合成樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて前記の酸化チタン(艶消し剤)以外に、抗菌剤、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、無機微粒子等を1種又は2種以上を添加してもよい。
【0012】
本発明で用いるモノフィラメントは前記の合成樹脂を通常の方法で紡糸、延伸したものでよい。かかるモノフィラメントにおいて、直径が0.02〜0.2mmの範囲内であることが好ましい。該直径が0.02mmよりも小さくても0.2mmよりも大きくてもソフトな肌さわりが得られないおそれがある。また、モノフィラメントの横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、六角など公知の断面形状が採用でき、中空部を有するものであってもよい。なお、ブラシ用毛材の横断面形状が丸でなく異型の場合は、その外接円の直径をもって、ブラシ用毛材の直径とする。
【0013】
本発明において、前記モノフィラメントの先端部をアルカリ溶液でテーパー形状とする。モノフィラメントの先端部をアルカリ溶液でテーパー形状とすることにより、モノフィラメントに含まれる酸化チタンはアルカリ溶解されず、合成樹脂のみがアルカリ溶解されるためテーパー形状となった先端部の表面に凹部が現れる。
【0014】
ここで、モノフィラメントの先端部をアルカリ溶液でテーパー形状とする方法としては、前記のモノフィラメントを適宜束ねて所定の長さ(好ましくは25〜200mm)に切断した後、毛材の一方先端部分または両先端部分を、濃度200〜300g/L、温度95〜110℃の苛性ソーダバス中に、50〜200分間浸漬する方法が好適に例示される。苛性濃度及び浸漬時間は、ブラシ用毛材の用途すなわちモノフィラメントの材質、直径により前記範囲内で適宜設定される。なお、テーパー加工は通常、前記のカットの後に行うことが好ましい。
【0015】
次いで、かかるモノフィラメントに通常の染色加工を施すことにより着色すると、モノフィラメントに前記含有量の酸化チタンが含まれるため、天然獣毛に近い艶消し外観を有するブラシ用毛材が得られ好ましい。
【0016】
かくして得られたブラシ用毛材において、テーパー形状になっている先端部表面に凹部(ミクロクレーター)が現れるため、極めてソフトな肌さわりを呈する。ここで、かかる凹部の個数としては、10〜60個/10μmの範囲内であることが好ましい。また、凹部の平均深さとしては30〜0.1μmの範囲内であることが好ましい。
【0017】
なお、かかるブラシ用毛材に帯電防止加工を施すと静電気の発生を防ぐことができ好ましい。かかる帯電防止加工に用いる制電剤としては通常のものでよく、例えば、ポリオキシアルキレン鎖成分を含んだ共重合ポリマー、ポリエーテルエステル、ポリウレタン系、変性シリコンなどが例示される。
【0018】
また、ブラシ用毛材の表面にプラズマ照射またはサンドブラスト加工によりさらに凹凸を付与したり、さらには、ポリエチレングリコールジアクリレートやその誘導体、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの吸水化剤を用いて、ブラシ用毛材に吸水加工を施してもよい。
【0019】
次に、本発明のブラシ製品は前記のブラシ用毛材を用いてなる、化粧ブラシ、化粧筆、およびボデイブラシからなる群より選択されるいずれかのブラシ製品である。かかるブラシ製品は前記のブラシ用毛材を用いているので、極めてソフトな肌さわりを呈する。
なお、前記のブラシ用毛材は、毛筆、絵筆、工業用ブラシ、歯ブラシなどとしても好適に用いられる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
(1)IV値
ポリマーのIV値は、ポリマーの試料をオルソクロロフェノール溶液について、35℃において測定した粘度の値から求めた。
(2)肌さわり
得られたブラシ用毛材を用いて化粧筆を得た後、試験者3人により、下記3段階に官能評価した。3級:獣毛調の肌さわりである。2級:少し獣毛調の肌さわりである。1級:獣毛調の肌さわりでない。
【0021】
[実施例1]
ポリブチレンテレフタレート(IV値0.97、融点230℃、酸化チタンを含有しない)ベース樹脂チップに、酸化チタンを樹脂重量対比40重量%含有するマスターチップをブレンドして酸化チタンの含有量を樹脂重量比3.3重量%に調整し、通常の溶融紡糸方法(溶融温度295℃)で紡糸し、4.4倍に延伸することにより直径100μmのモノフィラメント(ブラシ用毛材)を得た。
【0022】
次いで、該モノフィラメント1万本の繊維束を走行速度10m/分で、内部が温度200℃に加熱(乾熱)されたチャンバー(長さ3m)中を、オーバーフィード率30%で走行させることにより加熱処理した。次いで、全長LLが50mmとなるようにカットすることにより、ブラシ用毛材を得た。そして、ブラシ用毛材の先端部分を、濃度250g/l、温度102℃の苛性ソーダバス中に、60分間浸漬することにより、先鋭角のきれいなテーパー形状を形成し、さらに分散染料を用いて淡いピンク色に染色した。
【0023】
得られたブラシ用毛材は、図1に示すように、繊維軸方向に不規則な凹凸ミクロクレター(個数10〜60個/10μm、深さ3〜0.1μm)を有していた。
次いで、該ブラシ用毛材を用いて化粧筆を得た後、肌さわりを評価したところ、獣毛調の肌さわりであった(3級)。
【0024】
[比較例1]
実施例1において、酸化チタンを含有しないベースチップのみの溶融紡糸を行いその後の工程は実施例1と同様にした。得られたブラシ用毛材は、直線状で繊維軸方向にミクロクレーターを有しておらず、該ブラシ用毛材を用いて化粧筆を得た後、肌さわりを評価したところ、獣毛調の肌さわりでなかった(1級)。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、極めてソフトな肌さわりを呈する、合成樹脂製モノフィラメントからなるブラシ用毛材の製造方法およびブラシ用毛材およびブラシ製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1で得られたブラシ用毛材の表面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなるモノフィラメントの先端部分をアルカリ溶液でテーパー形状とする、ブラシ用毛材の製造方法であって、
前記合成樹脂として、酸化チタンを合成樹脂の重量対比3.0〜4.0重量%含有する合成樹脂を用いることを特徴とするブラシ用毛材の製造方法。
【請求項2】
前記合成樹脂がポリブチレンテレフタレートである、請求項1に記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項3】
前記モノフィラメントの直径が0.02〜0.2mmの範囲内である、請求項1または請求項2に記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項4】
前記先端部分を、濃度200〜300g/L、温度95〜110℃の苛性ソーダバス中に、50〜200分間浸漬することによりテーパー形状とする、請求項1〜3のいずれかに記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項5】
前記先端部分をアルカリ溶液でテーパー形状とした後、染色加工を施す、請求項1〜4のいずれかに記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のブラシ用毛材の製造方法で製造され、テーパー形状の表面に凹部を有するブラシ用毛材。
【請求項7】
ブラシ用毛材の全長が25〜200mmの範囲内である、請求項6に記載のブラシ用毛材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のブラシ用毛材を用いてなる、化粧ブラシ、化粧筆、およびボデイブラシからなる群より選択されるいずれかのブラシ製品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−126819(P2010−126819A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299404(P2008−299404)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(502014086)帝人ネステックス株式会社 (17)
【Fターム(参考)】