説明

ブラシ用毛材

【課題】 被洗浄面に打痕傷や細かな傷を付けることが無く、高い洗浄性が発揮される各種洗浄ブラシ、各種清掃ブラシに使用されるブラシ用毛材を提供する。
【解決手段】 ブラシ用毛材1は、熱可塑性樹脂で構成された複数本の概柱形状からなるモノフィラメント発泡糸2、3が溶融接合された接合部2a、2bを有して集束されマルチフィラメント状に形成されていると共に、外力によって、接合された前記モノフィラメント発泡糸2、2(3)同士が前記接合部2a、2bあるいは前記接合部2a、2bの近傍から分離可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や車両等を洗浄する自動洗車機、各種ガラス洗浄機等に搭載される回転ブラシに使用するブラシ用毛材や、食器洗浄ブラシ、食品洗浄ブラシ等の各種洗浄用ブラシに使用するブラシ用毛材、各種清掃用ブラシ用毛材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の洗浄、清掃等に使用するブラシ用毛材に関しては、使用目的に応じて、さまざまな改良がなされている。例えば、断面に複数の凹凸を有する多葉断面モノフィラメントのブリッスルからなり、少なくとも一方の先端には、多葉断面の境界部分を介して分岐した複数の先割れ部を有する研磨のためのブラシ用毛材がある(特許文献1)。
【0003】
また、断面が複数の芯部と、該複数の芯部間を連結する結合部とにより構成され、少なくとも長手方向の一端は、前記結合部において分割されているブラシ用毛材がある(特許文献2)。このブラシ用毛材は、結合部の肉厚と芯部の肉厚との差を任意に設定する事によって、毛腰を強く設定することができるものであった。
【0004】
また、剛性度が1200kg/cm2〜5000kg/cm2の熱可塑性樹脂で構成された分岐形状の断面をなす発泡糸で、発泡倍率が1.1〜1.7倍であるブラシ用毛材に使用する発泡糸がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−172724号公報
【特許文献2】特開2007−50497号公報
【特許文献3】特公平6−21371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術においては、先割れ部を形成するために、ある程度大きな機械的応力(バリ取りや研磨などにおける機械的応力)を負荷させる必要があるので、軽度な洗浄や磨き、清掃等の小さな機械的応力では先割れ部が形成され難いという課題を有していた。また、特許文献1に開示されているブラシ用毛材は、多葉断面のモノフィラメントである為、機械的応力の負荷のかかり方により、先割れ部の形成状態にばらつきや不均一さが発生するという課題を有していた。
【0007】
また、上記特許文献2に開示されている技術においては、先割れ部が結合部に限定されるため、微細な先割れ部を形成することが困難であるという課題を有していた。
【0008】
また、上記特許文献3に開示されている技術においては、発泡糸が分岐形状の断面をなしているので、ブラシ回転時に加わる衝撃を吸収、分散することが難しいことから、発泡糸が摩耗し易くなり、分岐形状の断面を維持することが難しかった。その為、水付着性が悪くなり、洗浄効果を低下させると共に、被洗浄面に打痕傷を発生させ易くなるという課題を有していた。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決する為になされたもので、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を付けることが無く、高い洗浄性が発揮される各種洗浄ブラシ、各種清掃ブラシに使用されるブラシ用毛材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決する為に、請求項1の発明は、熱可塑性樹脂で構成された複数本の概柱形状からなるモノフィラメント発泡糸が溶融接合された接合部を有して集束されマルチフィラメント状に形成されていると共に、外力によって、接合された前記モノフィラメント発泡糸同士が前記接合部あるいは前記接合部近傍から分離可能であることを特徴としている。したがって、ブラシ用毛材に外力が加わると、接合部が分離して再びモノフィラメント発泡糸が形成される。その為、被洗浄面への衝撃を吸収、分散させることができるため、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は複数のモノフィラメント発泡糸の間に空隙部が形成されていることを特徴としている。したがって、空隙部によって外力を吸収、分散させることができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面はモノフィラメント発泡糸の外縁に表皮層が形成されていると共に、隣接する前記モノフィラメント発泡糸の表皮層同士が互いに接合された接合部を有することを特徴としている。したがって、表皮層からなる接合部は、互いの表皮層がはがれやすく弱いことから、外力によって分離し易くすることができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は中央部にモノフィラメント発泡糸を有し、該中央部のモノフィラメント発泡糸の周りに複数のモノフィラメント発泡糸が接合部を有して形成されていることを特徴としている。したがって、ブラシ毛材の曲げ方向への方向性が無く、均等な曲げ反発性を保持することができる為、被洗浄面をムラなく洗浄することが出来、洗い残しを低減させることができる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は中央部にモノフィラメント発泡糸を有し、該中央部のモノフィラメント発泡糸の周りに複数のモノフィラメント発泡糸が接合部を有して形成されていると共に、隣接する前記複数のモノフィラメント発泡糸が互いに接触した接触部を有することを特徴としている。したがって、接合部と接触部とを有することによって、マルチフィラメント状における断面変形を容易にし、接合されていない接触部にて外力を吸収、分散させることができる。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は複数のモノフィラメント発泡糸を数珠状に形成し、中央部に中空部を設けたことを特徴としている。したがって、中空部によって外力を吸収、分散させることができると共に、扁平等の断面変形が容易となり、被洗浄面への接触面積を増加させることができる。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は複数のモノフィラメント発泡糸を略C字形状に形成し、開口部を設けたことを特徴としている。したがって、開口部によって、外力を吸収、分散させることができると共に、水分を保持することができる。
【0017】
請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材は接合されている複数のモノフィラメント発泡糸が互いに分離した分岐部を有することを特徴としている。したがって、マルチフィラメント状の腰の強さと、分岐部により分離されたモノフィラメント状の柔らかさ、しなやかさ等の作用が相まって、こびりついたしつこい汚れ等を洗浄、除去できると共に、被洗浄面への衝撃を吸収、分散させることができるため、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。
【0018】
請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材はモノフィラメント発泡糸が長手方向に長尺な気泡を有することを特徴としている。したがって、長尺な気泡により、モノフィラメント発泡糸を、さらに微細に分岐させた先割れ部を形成させることが容易となり、この先割れ部によって、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明は、分岐部で被洗浄面への衝撃を吸収、分散させることができるため、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。また、請求項2の発明は、空隙部によって外力を吸収、分散させることができる。また、請求項3の発明は、外力によって分岐部を形成し易くすることができる。また、請求項4の発明は、洗浄面をムラなく洗浄することが出来、洗い残しを低減させることができる。また、請求項5の発明は、接合されていない接触部にて外力を吸収、分散させることができる。また、請求項6の発明は、中空部によって外力を吸収、分散させることができると共に、接触面積を増加できる。また、請求項7の発明は、略C字形状のモノフィラメント発泡糸によって、外力を吸収、分散させることができると共に、水分を保持することができる。また、請求項8及び9の発明は、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態を示す斜視図
【図2】(a)本発明の第1実施形態を示す断面図(b)本発明の第2実施形態を示す断面図
【図3】本発明の第3実施形態を示す断面図
【図4】本発明の第4実施形態を示す断面図
【図5】本発明の第5実施形態を示す斜視図
【図6】本発明の第6実施形態を示す斜視図
【図7】(a) 本発明の第7実施形態における延伸前を示す断面図、(b) (a)の延伸後を示す断面図
【図8】本発明の第8実施形態を示す断面図
【図9】本発明の第9実施形態を示す斜視図
【図10】本発明に係るブラシ用毛材を使用した回転ブラシを示す斜視図
【図11】本発明に係るブラシ用毛材を使用したチャンネルブラシを示す断面図
【図12】本発明に係るブラシ用毛材を使用した洗車機を示す正面図
【図13】本発明の第10実施形態を示す断面図
【図14】本発明の第11実施形態を示す断面図
【図15】本発明の第12実施形態を示す断面図
【図16】本発明の第13実施形態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態を示す斜視図であり、図2(a)は、同断面図である。第1実施形態に係るブラシ用毛材1は、断面略円形の中央のモノフィラメント発泡糸3の周囲を囲むように、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸2が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸2、3は、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸3は、周囲のモノフィラメント発泡糸2との間に接合部2aを有している。また、周囲のモノフィラメント発泡糸2、2同士の間にも接合部2bを有している。上記構成からなるブラシ用毛材1は、外力が加わると、接合部2a及び2bが分離してモノフィラメント状の分岐部が形成され、この分岐部で被洗浄面への衝撃を吸収、分散させることができるため、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。また、ブラシ用毛材1は、モノフィラメント発泡糸2、3が溶融接合されて接合部2a及び2bが形成されているが、溶融接合とは、モノフィラメント発泡糸同士が完全固化する前に、互いに接合される状態をいう。また、溶融接合の方法として、完全固化後の状態でモノフィラメント発泡糸同士に振動を与え、互いに溶融させて接合する方法も採用できる。さらにまた、ブラシ用毛材1は、外力にて接合されたモノフィラメント発泡糸同士が接合部あるいは接合部近傍から分離可能であるが、外力についての方法は、例えば、ブラシ用毛材の使用時の衝撃とか、モノフィラメント発泡糸同士が、接合された状態で、押し潰し等により、先端部をほぐし、接合部を分離させる方法等がある。
【0022】
また、ブラシ用毛材1の、モノフィラメント発泡糸2、3間には、空隙部2cが形成されている。この空隙部2cによって、外力を吸収、分散させることができる。
【0023】
図2(b)は、本発明の第2実施形態を示す断面図である。第2実施形態に係るブラシ用毛材11は、断面略六角形の中央のモノフィラメント発泡糸13の周囲を囲むように、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸12が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸12、13は、第1実施形態と同様に、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸13は、周囲のモノフィラメント発泡糸12との間に接合部12aを有している。また、周囲のモノフィラメント発泡糸12、12同士の間にも接合部12bを有している。
【0024】
図3は、本発明の第3実施形態を示す断面図である。第3実施形態に係るブラシ用毛材21は、断面略円形の中央のモノフィラメント発泡糸23の周囲を囲むように、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸22が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸22、23は、概柱形状を有している。また、中央のモノフィラメント発泡糸23と、周囲のモノフィラメント発泡糸22の外周面には、表皮層24が形成されている。そして、中央のモノフィラメント発泡糸23は、周囲のモノフィラメント発泡糸22との間に接合部22aを有している。また、周囲のモノフィラメント発泡糸22、22同士の間にも接合部22bを有している。この接合部22a及び22bは、表皮層24、24同士が接合しているものである。また、モノフィラメント発泡糸22、23は、外部から冷却されていく為、表皮層24は、内部よりも密度が高い状態にて形成される。
【0025】
上記構成からなるブラシ用毛材21は、外力が加わると、接合部22a及び22bが分離してモノフィラメント状の分岐部が形成され、この分岐部で被洗浄面への衝撃を吸収、分散させることができるため、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。また、接合部22a及び22bは表皮層24、24同士が接合しているものなので互いの表皮層24が剥がれやすく弱いことから、外力によって分岐部を形成し易くしている。ここで表皮層24とは、モノフィラメント発泡糸22、23の表面に形成される内部よりも密度の高い層のことである。形成された表皮層24は、表皮層24と内部の境界より分離して分岐部を形成し易い傾向になる。また、接合部22a及び22bの接合力を設定する事により、互いの表皮層24が分離するようにすることもできる。
【0026】
また、ブラシ用毛材21の、モノフィラメント発泡糸22、23間には、空隙部22cが形成されている。この空隙部22cによって、外力を吸収、分散させることができる。
【0027】
図4は、本発明の第4実施形態を示す断面図である。第4実施形態に係るブラシ用毛材31は、断面多角形の中央のモノフィラメント発泡糸33の周囲を囲むように、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸32が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸32、33は、第1実施形態と同様に、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸33は、周囲のモノフィラメント発泡糸32との間に接合部32aを有している。また、周囲のモノフィラメント発泡糸32、32同士の間には接触部32bが形成されている。また、ブラシ用毛材31の、モノフィラメント発泡糸32、33間には、空隙部32cが形成されている。この空隙部32cによって、外力を吸収、分散させることができる。
【0028】
ここで、接合部32aは、ブラシ用毛材31の長手方向に接触面が形成されることから、接合力は強い。一方、接触部32bは、隣接する周囲のモノフィラメント発泡糸32同士が互いに接触はしているが、接合はされていない状態である。
【0029】
図5は、本発明の第5実施形態を示す斜視図である。第5実施形態に係るブラシ用毛材41は、断面略円形の中央のモノフィラメント発泡糸43の周囲を囲むように、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸42が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸42、43は、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸43は、周囲のモノフィラメント発泡糸42との間に接合部42aを有している。また、周囲のモノフィラメント発泡糸42、42同士の間にも接合部42bを有している。さらに、周囲のモノフィラメント発泡糸42は、捩られて螺旋状部44が形成されている。
【0030】
図6は、本発明の第6実施形態を示す斜視図である。第6実施形態に係るブラシ用毛材51は、断面略円形の中央のモノフィラメント発泡糸53の周囲を囲むように、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸52が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸52、53は、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸53は、周囲のモノフィラメント発泡糸52との間に、接合部を有している。また、周囲のモノフィラメント発泡糸52、52同士の間にも接合部を有している。
【0031】
そして、ブラシ用毛材51の長手方向の一方の端部には、モノフィラメント発泡糸52、53の接合部が分離され、分岐部54が形成されている。さらに、分岐部54よりも先端側には先割れ部55が形成されている。したがって、分岐部54により、被洗浄面への衝撃を吸収、分散させることができる。また、分岐部54及び先割れ部55によって、被洗浄面に打痕傷や細かな傷を発生し難くすることができる。
【0032】
図7は、本発明の第7実施形態を示す縦断面図である。第7実施形態に係るブラシ用毛材を構成するモノフィラメント発泡糸2又は3の内部には、図7(a)に示すように、多数の気泡4、4が形成されている。この気泡4、4は、後述する延伸を施すことによって、図7(b)に示すように、モノフィラメント発泡糸2又は3の長手方向に延びる長尺な気泡4a、4aに変形される。このように長尺な気泡4a、4aとなることによって、ブラシ用毛材に外力が加わると、裂け易くなり、第6実施形態で説明した先割れ部55を容易に形成させることができる。
【0033】
尚、ブラシ用毛材には低密度ポリエチレン樹脂が使用されているが、ブラシ用毛材を形成する低密度ポリエチレン樹脂の曲げ弾性率は、約370MPaであるが、使用目的に応じて、120MPa〜1000MPaの熱可塑性樹脂を、適宜、採用できる。
【0034】
また、ブラシ用毛材は、約5000デニールであるが、使用目的に応じて、3000デニール〜20000デニールの設定を、適宜、採用できる。なお、デニールとは合成樹脂あるいは化学繊維の太さを示す単位のことであり、9000m当たりの重さが1gのものを1デニールという。
【0035】
ブラシ用毛材を形成する樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂以外にも、各種ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、エチレンメチルアクリレート樹脂、エチレンブチルアクリレート樹脂等のポリオレフィン系樹脂、あるいはウレタン樹脂が採用できる。
【0036】
次に、ブラシ用毛材の製造方法について説明する。まず、ブラシ用毛材を形成する低密度ポリエチレン樹脂に、あらかじめ発泡剤を混入しておき、押出機(図示せず)の先端に取り付けられた複数の口金を通して押し出されることにより複数のモノフィラメント発泡糸が形成される。押し出し後、互いのモノフィラメント発泡糸同士を完全固化前の状態にて接合させる。その後、加熱しながら延伸機にて長手方向に延伸をかけ、延伸後、アニーリングと呼ばれる工程にて冷却固化させることにより形成される。ところで、一般的には、樹脂の成形技術には、溶融成形、固層成形、注型成形、射出成形、真空成形、圧空成形、プレス成形等があるが、前記の如くの製造方法は、溶融成形の一種の押出成形と呼ばれている。
【0037】
また、長手方向に延伸させる上記の如くの方法は、一軸延伸と呼ばれている。一軸延伸とは、一方向にのみ延伸応力をかける加工方法であり、延伸方向にたいして平行の方向は、分子配向が起こるので、引張強さが著しく向上するが、延伸方向にたいして直角の方向は、引張強さが向上しない為、延伸方向にたいして平行の方向に、裂けやすくなるという性質を有している。その為、ブラシ用毛材は、先割れ部を形成することが可能となる。なお、分子配向とは、線状分子が溶融または固体状態において、外力の作用により、一定方向に配列することである。また、先割れ部の形成方法は、ブラシ用毛材の両側先端部の所定長さを、所定回転速度の分割刃やカッターを有する先割れ加工機にて先割れ加工することにより形成される。
【0038】
ブラシ用毛材の製造時に使用する発泡剤には、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、N,N´−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4´−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等の熱分解型発泡剤がある。
【0039】
また、ブラシ用毛材の発泡倍率は、1.1〜2.0倍程度が好適であり、1.3倍程度が、より好適である。尚、発泡倍率とは、JIS−K7112(水中置換法)により、発泡でないもの(非発泡)と発泡の密度を各々測定して、発泡倍率=ρ/ρで求めた値をいう。但し、ρは非発泡の密度で、ρは発泡の密度である。
【0040】
また、ブラシ用毛材の発泡における気泡率は、5〜30%程度が好適であり、10%程度が、より好適である。尚、気泡率とは、発泡部材の全体積中に占める気泡の体積の割合を示すものである。
【0041】
また、ブラシ用毛材の延伸倍率は、約5.0倍にて形成されているが、より好適には、5.0〜8.0倍程度である。
【0042】
ブラシ用毛材は、長手方向に高延伸させることで、高延伸させない通常品に比べ、延伸方向にたいして平行の方向に、分子配向が著しく起こるので、引張強さが著しく向上すると共に、延伸方向にたいして直角の方向は、引張強さが向上しない為、延伸方向にたいして平行の方向に、裂けやすくなるという性質を有している。その為、先割れ部が通常品に対し、より細かく細分割できる効果がある。先割れ部をより細かくすることで、洗浄面に対し洗浄時の衝撃を吸収、分散できる為、キズ、ブラシ痕が発生しない。また、先割れ部をより細かくすることで、被洗浄面の細かな凹凸部分にも当接することができ、洗浄性も良好である。なお、通常、高延伸とは、5倍以上の延伸倍率を指す。
【0043】
また、発泡剤を添加して高延伸させた場合には、先ず、材料の中に気泡が形成される。形成された気泡は高延伸工程で延伸方向に引き伸ばされる。引き伸ばされた気泡は植物の茎のように延伸方向に長尺な形状に形成される。長尺な形状に形成された気泡を有するブラシ用毛材は裂けやすくなり先割れ部が高延伸させない通常品に対し、よりいっそう細かく細分割できる効果がある。また、長尺な気泡が形成されている為、ブラシ用毛材先端の先割れ部が摩耗しても、洗浄時の車体への衝撃時に先割れ部より細かく裂けが進行するため、先割れ部として消滅することが無い。その為、ブラシ寿命まで、もしくは長期に渡って、先割れ部が継続的に形成される為、キズの発生が無く、先割れ部が消滅することがない為、安定した洗浄性能を長期に亘って維持することができる。
【0044】
また、ブラシ用毛材の線径については、マルチフィラメント状の仮想外径で0.3〜3mmが好適である。0.3mm以下では、洗浄等に必要とされる毛腰の確保が困難となり、3mm以上では洗浄ムラが発生し易くなる。
【0045】
また、ブラシ用毛材を構成するモノフィラメント発泡糸の線径については、ブラシ用毛材を構成するモノフィラメント発泡糸の本数により、適宜設定できるが、好適には、モノフィラメント発泡糸の仮想外径で、0.05〜1.5mmが好適である。0.05mm以下では、製造時に毛切れ等が発生し易く、一定の品質を確保することが困難となり、1.5mm以上では、洗浄ムラが発生し易くなる。
【0046】
図8は、本発明の第8実施形態を示す断面図である。第8実施形態に係るブラシ用毛材61は、断面十字状の中央のモノフィラメント発泡糸63の先端部に、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸62が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸62、63は、第1実施形態と同様に、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸63は、周囲のモノフィラメント発泡糸62との間に接合部62aを有している。断面十字状の中央のモノフィラメント発泡糸63が形成されている為、ブラシ用毛材の毛腰を強く設定できる。また、なお、前記実施例においては、中央のモノフィラメント発泡糸63は断面十字状の断面に形成されているが、上記以外にも、概三日月型等、採用できる。
【0047】
図9は、本発明の第9実施形態を示す斜視図である。第9実施形態に係るブラシ用毛材71は、断面略円形の中央のモノフィラメント発泡糸73の周囲を囲むように、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸72が配置され、集束してマルチフィラメント状に形成されている。また、モノフィラメント発泡糸72、73は、第1実施形態と同様に、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸73は、周囲のモノフィラメント発泡糸72との間に接合部72aを有している。また、周囲のモノフィラメント発泡糸72、72同士の間にも接合部72bを有している。さらに、モノフィラメント発泡糸72、73は、長手方向に波形状部74が形成されている。
【0048】
図10は、本発明に係るブラシ用毛材を使用した洗車機用洗浄ブラシを示す斜視図である。また、図11は、本発明に係るブラシ用毛材を使用したチャンネルブラシを示す断面図である。洗車機用洗浄ブラシ120は、ブラシ用毛材133を芯線132、及び帯状体131にて挟み付けると共に、折り合わして形成された長尺形状のチャンネルブラシ130が、アルミニウム、鉄等の金属材料、あるいは塩化ビニル、ポリアセタール等の合成樹脂材料からなる略円筒形状の軸体123の外周部に螺旋状に巻き付けられると共に、チャンネルブラシ130の両端部に係止具125aを覆い被せ、係止具125aの両端部をネジ125bにて軸体123に固定して形成されている。
【0049】
チャンネルブラシ130を構成する芯線132は、概丸形断面を有する略円柱形状で、アルミニウム、鉄等の金属材料からなる。また、帯状体131は、概コ字状断面を有する長尺形状で、アルミニウム、鉄等の金属材料からなる。ブラシ用毛材133は、分岐部136を有すると共に、端部に先割れ部135が形成された長尺形状であり、芯線132、及び帯状体131にて挟み付けられると共に、概V字断面を有するように折り合わされている。ブラシ用毛材133は、洗車機用洗浄ブラシ120の回転に伴い、先割れ部135、分岐部136にて分離されたモノフィラメント発泡糸、及びマルチフィラメント状に形成されたブラシ用毛材130の各部が被洗浄面に当接する。先割れ部135及びモノフィラメント発泡糸にて細かな汚れの洗浄ができると共に、マルチフィラメント状の箇所にて傷つくことなく洗浄できると共に、好適な毛腰を付与できる。また、被洗浄面の状態に応じて、先割れ部135及び分岐部136にて分離されたモノフィラメント発泡糸のみを被洗浄面に当接させることもできる。
【0050】
図12は、本発明に係るブラシ用毛材を使用した洗車機を示す正面図である。図12において、120は洗車機用洗浄ブラシ、140は洗車機、142は駆動源、143はノズル、144は乾燥機である。
【0051】
洗車機140は、図12の如く、本発明のブラシ用毛材を配した洗車機用洗浄ブラシ120が搭載されており、前記洗車機用洗浄ブラシ120は駆動源142により回転される。ノズル143からは、被洗浄面にたいして、洗浄剤、及び水が散布され、洗車機用洗浄ブラシ120により、洗浄され、洗浄後は洗車機140の乾燥手段である乾燥機144により被洗浄面が乾燥される。尚、洗車機140の回転数は、高速回転では、100rpm〜150rpmの範囲に設定されており、120rpm程度が好適である。
【0052】
本発明のブラシ用毛材を配した洗車機用洗浄ブラシ120を搭載した洗車機140の動作、作用は下記の通りである。
【0053】
洗車機140は、被洗浄面である車体にたいして、打痕傷や細かな傷を付ける事が無く、且つ、高い洗浄性を兼ね備えた洗車機用洗浄ブラシ120が使用できる。その為、洗車機140は、洗車機用洗浄ブラシ120を高速回転に設定すると共に、洗浄時間を短時間に設定した場合においても、被洗浄面に傷が付着すること無く、且つ洗浄残りの無い高い洗浄性が付与される。また、洗車機用洗浄ブラシ120の回転を、低速回転から高速回転等に急変させた場合においても、前記と同様の作用が洗車機140に付与される。その為、被洗浄面である車体に傷を付けること無く、非常に高い洗浄性が発揮できる洗車機140を提供することができる。
【0054】
図13は、本発明の第10実施形態を示す断面図である。第10実施形態に係るブラシ用毛材81は、複数のモノフィラメント発泡糸82、82同士を数珠状に形成し、中央部に中空部83を形成している。また、モノフィラメント発泡糸82、82同士の間には、接合部82bが形成されている。したがって、中空部によって外力を吸収、分散させることができると共に、被洗浄面への当接時における断面変形が容易となる為、扁平等に変形することにより、ブラシ用毛材81の被洗浄面への接触面積を大きくすることができ、より確実に洗浄ができる。
【0055】
図14は、本発明の第11実施形態を示す断面図である。第11実施形態に係るブラシ用毛材91は、複数のモノフィラメント発泡糸92、92同士を略C字形状に形成し、開口部93が形成されている。また、モノフィラメント発泡糸92、92同士の間には、接合部92bが形成されている。したがって、開口部93によって、外力を吸収、分散させることができると共に、水分を保持することができる。また、開口部93が閉じて、接触状態になった場合においても、外力の吸収、分散、水分保持等の効果は著しく低下するものではない。
【0056】
図15は、本発明の第12実施形態を示す断面図である。第12実施形態に係るブラシ用毛材101は、断面略円形の中央のモノフィラメント発泡糸103の周囲に、断面略円形の周囲のモノフィラメント発泡糸102が配置されている。また、モノフィラメント発泡糸102、103は、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸103は、周囲のモノフィラメント発泡糸102との間に接合部102aを有している。一方、周囲のモノフィラメント発泡糸102、102同士の間は、接合されておらず、開口部102cが形成されている。したがって、開口部102cによって、外力を吸収、分散させることができると共に、水分を保持することができる。
【0057】
図16は、本発明の第13実施形態を示す断面図である。第13実施形態に係るブラシ用毛材111は、断面略円形で大径の中央のモノフィラメント発泡糸113の周囲に、断面略円形で、中央のモノフィラメント発泡糸113の約3分の1の小径の周囲のモノフィラメント発泡糸112が配置されている。また、モノフィラメント発泡糸112、113は、概柱形状を有している。そして、中央のモノフィラメント発泡糸113は、周囲のモノフィラメント発泡糸112との間に接合部112aを有している。一方、周囲のモノフィラメント発泡糸112、112同士の間は、接合されておらず、開口部112cが形成されている。したがって、開口部112cによって、外力を吸収、分散させることができると共に、水分を保持することができる。また、中央のモノフィラメント発泡糸113は、周囲のモノフィラメント発泡糸112よりも機械的強度が大である為、設定に応じて強い毛腰を付与できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のブラシ用毛材は、自動車や車両等を洗浄する自動洗車機、各種ガラス洗浄機等に搭載される回転ブラシ、食器洗浄ブラシ、食品洗浄ブラシ等の各種洗浄用ブラシ、各種清掃用ブラシに、ブラシ用毛材として使用する。
【符号の説明】
【0059】
1、11、21、31、41、51、61、71、81、91、101、111、133 ブラシ用毛材
2、12、22、32、42、52、62、72、82、92、102、112 周囲のモノフィラメント発泡糸
2a、2b、12a、12b、22a、22b、32a、42a、42b、62a、72a、72b、82b、92b、102a、112a 接合部
2c、22c、32c 空隙部
3、13、23、33、43、53、63、73、103、113 中央のモノフィラメント発泡糸
4 気泡
4a 長尺な気泡
24 表皮層
32b 接触部
44 螺旋状部
54、136 分岐部
55、135 先割れ部
74 波形状部
83 中空部
93、102c、112c 開口部
120 洗車機用洗浄ブラシ
123 軸体
125a 係止具
125b ネジ
130 チャンネルブラシ
131 帯状体
132 芯線
140 洗車機
142 駆動源
143 ノズル
144 乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂で構成された複数本の概柱形状からなるモノフィラメント発泡糸が溶融接合された接合部を有して集束されマルチフィラメント状に形成されていると共に、外力によって、接合された前記モノフィラメント発泡糸同士が前記接合部あるいは前記接合部近傍から分離可能であることを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項2】
請求項1に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は複数のモノフィラメント発泡糸の間に空隙部が形成されていることを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面はモノフィラメント発泡糸の外縁に表皮層が形成されていると共に、隣接する前記モノフィラメント発泡糸の表皮層同士が互いに接合された接合部を有することを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は中央部にモノフィラメント発泡糸を有し、該中央部のモノフィラメント発泡糸の周りに複数のモノフィラメント発泡糸が接合部を有して形成されていることを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は中央部にモノフィラメント発泡糸を有し、該中央部のモノフィラメント発泡糸の周りに複数のモノフィラメント発泡糸が接合部を有して形成されていると共に、隣接する前記複数のモノフィラメント発泡糸が互いに接触した接触部を有することを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は複数のモノフィラメント発泡糸を数珠状に形成し、中央部に中空部を設けたことを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材の断面は複数のモノフィラメント発泡糸を略C字形状に形成し、開口部を設けたことを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材は接合されている複数のモノフィラメント発泡糸が互いに分離した分岐部を有することを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の構成よりなるブラシ用毛材において、前記ブラシ用毛材はモノフィラメント発泡糸が長手方向に長尺な気泡を有することを特徴とするブラシ用毛材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−187307(P2012−187307A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54279(P2011−54279)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(391044797)株式会社コーワ (283)
【Fターム(参考)】