説明

ブラシ製造装置

【課題】毛材の構成を損なわずに、ブラシ体と係合体とを摩擦圧接させて接合する、ブラシ製造装置を提供する。
【解決手段】樹脂製の複数の毛材の基端部側に融着部を形成したブラシ本体210と、ブラシ装置の取付け部に着脱自在に係合する係合部220を有し融着部212に接合した樹脂製の係合体220とを含むブラシを製造するためのブラシ製造装置1であって、ブラシ本体210の融着部212を径方向からクランプしてブラシ本体210の移動を拘束するクランプ機構10と、係合体220を加振させる加振機構20と、を備え、クランプ機構10にクランプされたブラシ本体210の融着部212に係合体220を押し付けた状態で、加振機構20の加振によってブラシ本体210の融着部212に係合体220を融着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品のバリを除去するため、特許文献1に示すように、従来から研磨用のブラシが利用されている。ブラシを構成する毛材は使用に伴って磨耗していくので、製品の品質を維持するため、一定期間使用したブラシは別の新たなブラシに取り換えられている。
【0003】
磨耗したブラシを取り換える場合、ブラシ装置全体の交換は費用が嵩むため、通常、ブラシ装置に装着されているブラシを交換可能に構成している。図14は従来のブラシ100の概略図である。ブラシ100は、複数の毛材101と、これらの毛材101を支持するキャップ102と、を備えている。
【0004】
毛材101は研磨材を樹脂に含めて構成された線状の部材で、同じ長さの毛材101が先端位置を揃えて、図示しない針金で束ねられている。これら毛材101の基端部はキャップ102内に入れられている。キャップ102は、円形の底部とこの底部の周縁から立ち上がった円筒形の側壁とから構成されている。これらの側壁と底部とで画成される凹部領域に複数の毛材101の基端部が密集して入れられている。ブラシ100の製造時に、キャップ102の凹部内に接着剤を充填し、この接着剤に基端部が浸るように複数の毛材101をキャップ102に収容する。凹部内に複数の毛材101が入り込むことで、接着剤が複数の毛材101間に浸入する。そして、接着剤が固化するまで放置する。接着剤によって、キャップ102と複数の毛材101、さらに毛材101同士が接着される。このようにして、ブラシ100を製造している。
【0005】
製造されたブラシ100は、ブラシ装置のブラシヘッドに着脱可能に取付けられる。例えば、ブラシヘッドに設けられた取付け穴にブラシ100の基端側、つまりキャップ102側を挿入し、取付け穴内に進退自在に取付けられたネジを当該取付け穴内に入ったキャップ102に押し付けることで、ブラシ100はブラシヘッドに固定される。
【0006】
図14に示す従来のブラシ100の製造方法は、複数の毛材101をキャップ102に入れる場合に毛材101同士の基端と先端とを揃え、さらに密集させた毛材を断面円形のキャップ102に入るよう、図示しない針金等で毛材101を束ねる必要があり、作業が煩雑となってしまう。また、複数の毛材101をキャップ102に固定する接着剤を乾燥させる時間、例えば24時間程度を必要とするため、製造時間が長くなってしまう。なお、毛材101のキャップ102内に収容されている部分は使用に供することができないため、その部分が無駄になり交換頻度を高めている。このため、樹脂製または金属製のキャップ102を廃止できるブラシ構造が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−38328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、次のような構造のブラシを案出した。図15は図14に示すブラシ100に代わるブラシ200を示す側面図であり、図16は図15のブラシ200の分解図である。ブラシ200は、ブラシ本体210と係合体220とで構成されている。
【0009】
ブラシ本体210は、樹脂で線状に形成された複数の毛材211を同じ向きで束ねて構成されている。各毛材211は同じ寸法に設定されており、各毛材211の基端部同士が連結されて構成されている。具体的には、ブラシ本体210は、複数の毛材211からなる毛束の端部に各毛材211が融けて一体に溶着した融着部212を有する。この融着部212は係合体220と当接するための固着面213(図16参照)を有する。
【0010】
図17は係合体220の斜視図である。係合体220は、円盤状に樹脂で形成された支持部221と、ブラシ本体210の固着面213に対向する面に、この支持部221の一端面を刻設して形成されたリブ222と、支持部221の底面側に埋め込まれた金属製のナット(図15の一点鎖線参照)223と、から構成されている。支持部221の断面は、ブラシ本体210の融着部212の固着面213と同じ円形に形成されている。
【0011】
図18は図16のA−A線に沿った部分断面図である。リブ222は、支持部221の上面221Aから上方へ突出するように形成されている。具体的には、リブ222は、支持部221の上面221Aの中心C(図17参照)と同じ位置に中心を持つ仮想の円に沿ったリング状に形成されている。なお、リブ222は、支持部221の上面221Aで外周縁221B寄りの位置に設けられている。これは、リング状を成すリブ222がブラシ本体210との接合箇所を構成し、この接合箇所に加わる力、つまり図19に示すブラシヘッド300に取付けられた状態でブラシヘッド300の回転に伴って加わる力にブラシ本体210との接合が耐えられるようにするためである。なお、図19中のWはワークである。
【0012】
図18に示すように、リブ222は、断面四角形状の基部222Aと、基部222Aの上端からさらに上方へ向かうにつれて先細に形成されたテーパー部222Bと、から構成されている。基部222Aと、テーパー部222Bとは、樹脂製の支持部221を刻設して一体に形成されている。
ナット223(図15の一点鎖線参照)は、ブラシ本体210と共に係合体220をブラシヘッド300に取付けるためのものであり、ブラシヘッド300に設けられた図示を省略するボルトと係合する。
【0013】
また図15及び図16のブラシよりも簡素化した構造の別のブラシも案出されている。図20は図14に示すブラシ100に代わるブラシ300を示す側面図であり、図21は図20のブラシ300の分解図である。ブラシ300は、ブラシ体310と係合体320とで構成されている。
【0014】
ブラシ本体310は、図21に示すように、樹脂で線状に形成された複数の毛材211を同じ向きで束ねて構成されている。各毛材211は1本毎に分離した状態で束ねられており、それぞれ同じ寸法に設定され、ブラシ本体310の両端側で各毛材211の端末が揃えて配置されている。
【0015】
係合体320は、図21に示すように、円盤状に樹脂で形成された支持部321と、支持部321の底面側に埋め込まれた金属製のナット323(図20の一点鎖線参照)と、から構成されている。支持部321の断面は、ブラシ本体310の外形と略同じ円形に形成されている。
【0016】
図15のブラシ200や図20のブラシ300を製造する際、係合体220,320を、摩擦圧接(超音波溶着)によって毛材211の束、つまりブラシ本体210,310に接合させることができれば、従来の樹脂製または金属製のキャップ102(図14参照)を備えたブラシ100に比べて、製造時間を短縮することができる。
【0017】
例えば図22に示すように、ブラシ本体210の各毛材211の先端部を受容するブラシ体受部400を利用して、ブラシ本体210の軸線方向の移動を制限した状態で、係合体220をブラシ本体210に接合することが考えられる。ブラシ本体210の軸線方向の移動を拘束した状態で、例えばブラシ本体210の基部側、つまり融着部212に係合体220を載置し、さらにこの上にホーン410等を配置して、振動子で発生させた振動をホーン410等を介して係合体220に付与することができれば、この振動によって係合体220をブラシ本体210に摩擦圧接させることが期待できる。
【0018】
しかし、図22に示す手法では、係合体220を上下方向に加振させると、振動が係合体220を介してブラシ本体210の毛材211に伝わり、毛材211の軸線方向に振動方向が沿うことで、毛材211自体に軸線方向の伸縮運動を与えることになり、結果として毛材211が縮れてしまうおそれがある。これでは、例えばストレートに製造した毛材211の構成が損なわれてしまう。また、ブラシ本体210の材質がやわらかく、剛性が低い場合、上下方向の振動をブラシ本体210が吸収してしまうため、係合体220をブラシ本体210の融着部212に摩擦圧接させることができないおそれが生じる。
【0019】
そこで、本発明は、毛材の構成を損なわずに、ブラシ体と係合体とを摩擦圧接させて接合する、ブラシ製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明の第1の構成は、樹脂製の複数の毛材を同じ向きで束ねて構成したブラシ本体と、ブラシ本体の基端部に接合された樹脂製の係合体と、を有し、係合体をブラシ装置の取付部に着脱自在に係合して使用されるブラシを製造するためのブラシ製造装置であって、ブラシ本体を径方向からクランプするクランプ機構と、クランプ機構にクランプされたブラシ本体の基端部と係合体とを当接させた状態で係合体を加振する加振機構と、を備え、加振機構は係合体を基端部に押し付けて加振することで、基端部と係合体とを融着する、ことを特徴としている。
前記ブラシの製造装置は、クランプ機構にクランプされたブラシ本体の複数の毛材の先端を当接して支持する先端支持機構を備えていてもよい。
【0021】
上記目的を達成するために、本発明の第2の構成は、樹脂製の複数の毛材を同じ向きで束ねて構成され且つ基端部に融着部が形成されたブラシ本体と、ブラシ本体の基端部に接合された樹脂製の係合体と、を有し、係合体をブラシ装置の取付部に着脱自在に係合して使用されるブラシを製造するためのブラシ製造装置であって、ブラシ本体の融着部を径方向からクランプしてブラシ本体の移動を拘束するクランプ機構と、係合体を加振する加振機構と、を備え、加振機構は、クランプ機構にクランプされたブラシ本体の融着部に係合体を押し付けながら加振することで、融着部と係合体とを融着する、ことを特徴としている。
【0022】
前記ブラシの製造装置は、上記ブラシ体の基端部をクランプしているクランプ機構が基端部をアンクランプする際に、上記係合体を支承する保持部を有していてもよい。
前記製造装置の加振機構は、上端に係合体を載置する振動面を有し、振動面上の係合体に載置されたブラシ本体の基端部をクランプ機構によりクランプした状態で、係合体上に載置されたブラシ本体の基端部に係合体を押し付けながら加振することで、基端部と係合体とを融着する、ことを特徴としている。
【0023】
前記ブラシの製造装置において、加振機構は例えば係合体を超音波領域で加振する超音波加振機構である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のブラシ製造装置によれば、ブラシ本体の基端部と係合体とを融着する際、クランプ機構によりブラシ本体をクランプした状態で、加振機構により係合体を基端部に押し付けながら加振する。そのため先端側を長手方向に当接させる必要がなく、ブラシ本体の基端部と係合体とを押し付けて十分に加振しても、毛材の変形や伸縮等が生じることを防止できる。よって、毛材の構成を損なわずに、ブラシ本体と係合体とを摩擦圧接させて接合するブラシ製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係るブラシ製造装置を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るブラシ製造装置の動作のフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態に係るブラシ製造装置を用いたブラシの製造工程を順次説明する図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るブラシ製造装置を用いたブラシの製造工程を順次説明する図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るブラシ製造装置を用いたブラシの製造工程を順次説明する図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るブラシ製造装置により作製したブラシを取り出す状態の説明図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るブラシ製造装置を示す概略図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係るブラシ製造装置の動作のフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態に係るブラシ製造装置を用いたブラシの製造工程を順次説明する図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係るブラシ製造装置を用いたブラシの製造工程を順次説明する図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係るブラシ製造装置を用いたブラシの製造工程を順次説明する図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係るブラシ製造装置を用いたブラシの製造工程を順次説明する図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係るブラシ製造装置により作製したブラシを取り出す状態の説明図である。
【図14】従来のブラシを示す図である。
【図15】図14に示すブラシに代えて要望されるブラシの側面図である。
【図16】図15に示すブラシの分解図である。
【図17】図15に示すブラシの係合体の斜視図である。
【図18】図16のA−A線に沿った部分断面図である。
【図19】図15に示すブラシの使用状態を示すブラシヘッドの斜視図である。
【図20】図14に示すブラシに代えて要望される別のブラシの側面図である。
【図21】図20に示すブラシの分解図である。
【図22】図15に示すブラシを製造するための従来の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係るブラシ製造装置1を示す図である。ブラシ製造装置1は、図15〜図18に示すブラシ200の製造に使用可能な装置である。
ブラシ製造装置1は、ブラシ本体210を着脱自在にクランプするクランプ機構10と、係合体220に振動を与える加振機構20と、係合体220と加振機構20とを所定の間隔で保持する位置調整機構30と、電気供給などを制御する制御手段40と、を備えている。
【0027】
クランプ機構10は、ブラシ本体210の基端部の融着部212を径方向からクランプして、融着部212を所定の位置に固定する。本第1実施形態のクランプ機構10は、コレットチャック11と、図示を省略する第1駆動機構と、を備えている。
【0028】
コレットチャック11は、内側に配置される筒状のチャック部12と、外側に配置される筒状のスリーブ部13と、を備えている。なお、図面では、チャック部12とスリーブ部13とを鉛直面で切った端面形状が表されている。
【0029】
スリーブ部13の内周面13Aは、チャック部12が入り込む下側の開口から上側の開口までが次第に径が狭くなるテーパー面として形成されている。チャック部12は、スリーブ部13のテーパー面を摺動するように、外周部12Aが下側から上側に行くにつれて次第に径が狭くなるテーパー面として形成され、さらに内周部12Bの下端部には、ブラシ本体210の融着部212の側面を把持するように突起部12Cが設けられている。
【0030】
チャック部12とスリーブ部13との相対的な位置関係が、例えばチャック部12がスリーブ部13の内側への侵入量が大きくなるに従って、チャック部12の下側の開口が縮径、つまり対向する突起部12C同士の間隔が狭くなるように、チャック部12は構成されている。このような相対移動を行わせるために、図示を省略する第1駆動機構が、コレットチャック11のスリーブ部13を上下に移動させる。
【0031】
加振機構20は、振動子21と、ホーン22と、を備えている。振動子21はピエゾ素子から構成されている。ホーン22は、振動子21からの振動を係合体220に伝達する、具体的には超音波振動の振幅を、係合体220に対して適正な幅に調整するものである。ホーン22は、段階的に太さを変えた円柱状に形成されており、基端側が太く先端側が細く形成されている。ホーン22の先端は平坦な振動面22Aとして形成されており、この振動面22Aに係合体220が載置される。一方、ホーン22の底面22Bにピエゾ素子が密着して設けられている。
【0032】
位置調整機構30は、係合体支持部31と、ホーン支持部32と、図示を省略する第2駆動機構と、を備えている。係合体支持部31は、ホーン22の振動面22Aに載置された係合体220の位置決めを行う。係合体支持部31は係合体220を収容する穴部31Aを有し、この穴部31Aの大きさは係合体220の外形とほぼ同形に形成されており、係合体220は穴部31Aに嵌入して、つまり係合体支持部31に支承された状態で振動面22Aに載せられる。係合体支持部31の穴部31Aの位置が変わらないよう、係合体支持部31は固定して設けられている。
【0033】
係合体支持部31の上面31Bは、平坦に形成されており、この上面31B上にコレットチャック11の下端が当接するように設けられている。なお、図面では、係合体支持部31は鉛直面で切った端面形状が部分的に表されている。
【0034】
ホーン支持部32はホーン取付け用の穴部32Aを有する。ホーン支持部32は、穴部32Aに取付けられたホーン22を所定の高さ位置に保持する。ホーン支持部32は、係合体支持部31に対する相対位置を変えられるように配設されている。具体的には、図示を省略する第2駆動機構によって係合体支持部31との距離を変えられるよう、ホーン支持部32は上下方向に移動することができる。なお、図面では、ホーン支持部32は、鉛直面で切った端面形状が部分的に表されている。
【0035】
制御手段40は、各種の操作スイッチを有する。例えば、ピエゾ素子を操作するためのスイッチ、第1駆動機構や第2駆動機構を操作するためのスイッチを備えている。これらのスイッチを操作することで、ピエゾ素子に高周波が与えられ、また第1駆動機構や第2駆動機構のモータなどの駆動源に対する制御信号等が与えられる。
【0036】
このように構成されたブラシ製造装置1の動作を、図2のフローチャートと図3〜図6とに基づいて説明する。なお、図面では、ブラシ本体210の一部の表現を省略している。例えば、係合体220のリブ222に構成された基部222Aを省略している。
先ずステップS1で図3(A)に示すように、コレットチャック11を拡開させると共に、ホーン22を下方の位置に移動させた初期状態に装置をセッティングする。
【0037】
ステップS2では、図3(B)に示すように、ホーン22の振動面22Aに係合体220を載置する。このとき、係合体220のリブ222を有する上面221Aをコレットチャック11側に向けて配置する。
【0038】
ステップS3では、図3(C)に示すように、ブラシ本体210を係合体220上に載置する。このとき、ブラシ本体210の融着部212の固着面213を係合体220に向けて配置する。リブ222のテーパー部222Bがブラシ本体210の融着部212と接触する。
【0039】
ステップS4では、図4(D)に示すように、第1駆動機構によってスリーブ部13を下げて、チャック部12をスリーブ部13内に押し込む。これにより、チャック部12が係合体支持部31の上面31B上を移動しながら縮径することで、突起部12Cがブラシ本体210の融着部212の側面を挟持する。このようにして、ブラシ本体210がコレットチャック11によって固定される。ブラシ本体210は、ホーン22の振動面22Aに置かれた係合体220に当接した状態で固定されて、一定の位置に保持される。
【0040】
ステップS5では、図4(E)に示すように、振動子21に高周波を付与して係合体220に超音波振動を与える。
【0041】
ステップS6では、係合体220に超音波振動を与える状態を維持しつつ、図4(F)に示すように、ホーン支持部32を第2駆動機構によって矢印方向へ上昇させる。これにより、所望の押し付け荷重で係合体220をブラシ本体210に押し付ける。押し付け荷重はホーン22が移動している間、一定の荷重であっても、又は位置に応じて荷重を変えてもかまわない。このとき、係合体220のリブ222の内、テーパー部222Bが融けてこれが広がり、この溶融部分がブラシ本体210の固着面213に接合する。ブラシ本体210を構成する樹脂と係合体220を構成する樹脂とが同じ材料、例えば両者がPBTで構成されていることで、係合体220とブラシ本体210とが強固に接合する。リブ222の基部222Aが溶融しないよう、上述のとおり所望の押し付け荷重で係合体220をブラシ本体210に押し付けているので、図15に示すように、基部222Aはブラシ200のブラシ本体210と係合体220との間に残る。
【0042】
このような押付荷重の付与を、所定の時間が経過するまで継続する(ステップS7)。所定時間が経過した場合、ステップS8で、図5(G)に示すように、振動と押し付け動作とを停止する。次に、ステップS9では、図5(H)に示すように第2駆動機構によってホーン支持部32を矢印方向へ下降させ、さらに図5(I)に示すように、第1駆動機構によってスリーブ部13を上昇させてチャック部12の開口を拡開させることで、ブラシ本体210の融着部212をアンクランプする(ステップS10)。なお、ブラシ本体210の融着部212をクランプしているクランプ機構10が融着部212をアンクランプする際、係合体220が係合体支持部31によって支持、具体的には係合体220の支持部221が穴部31Aに嵌入して係合体220が係合体支持部31に支承されているので、図5(I)に示すように、クランプ機構10は確実にブラシ本体210の融着部212をアンクランプすることができる。
そして、ステップS11では、図6(J)に示すように、コレットチャック11を拡開させると共に、ホーン22を下げた位置に移動させた状態の装置から、完成したブラシ200を取り出す。
【0043】
このように本第1実施形態に係るブラシ製造装置1によれば、ブラシ200を製造することができる。特に、係合体220を上下方向に加振させると、振動が係合体220を介してブラシ本体210に伝わるが、本第1実施形態では、振動の入力口としてのブラシ本体210の融着部212をクランプ機構10で固定しているため、毛材211自体に軸線方向の伸縮運動を与えることを低減できる。このため、毛材211が縮れてしまうことがなく、ブラシ本体210を製造したときの毛材211の状態、例えばストレート状態をブラシ完成後も維持することができる。これで、例えば当初のストレートに製造した毛材211の構成を確保することができる。また、ブラシ本体210の材質がやわらかく、剛性が低い場合でも、ブラシ本体210の剛性の影響を受けずに、係合体220をブラシ本体210の融着部212に接合することができる。
【0044】
本第1実施形態では、ブラシ本体210の融着部212をクランプする、つまり隣接する複数の毛材の一部が融けて固まった融着部212をクランプするので、ブラシ体を強固に一定位置に保持することができる。この構成により係合体220からブラシ本体210の毛材211への上下方向の振動の伝達を軽減することができる。
【0045】
また、図22に示す従来の製造装置では、ブラシ200の毛材211は砥粒が含まれていると、係合体220を介してブラシ本体210の毛材211に伝わる振動に伴って毛材の砥粒がブラシ体受部400の内面を削り、ブラシ体とブラシ体受部400との間に空隙が生じてしまう。これでは、製造されたブラシ200が整った束にならないので、ブラシ体受部400をかなりな頻度で交換しなければならない。一方、本発明では、クランプ機構10がブラシ本体210の融着部212を径方向からクランプしてブラシ本体210の移動を拘束するので、クランプ機構10の交換頻度が低減される。
【0046】
以上説明したが、本発明は発明の趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。
ブラシを構成する毛材も上記説明例に限定されるものではなく、例えば砥材を省略して構成されてもよい。
【0047】
上記説明では超音波振動をつくり出す圧電素子としてピエゾ素子の例を示したが、振動による摩擦熱で接合される面において融着が発生するのであれば、その振動は超音波域でなくてもかまわない。
上記した第1実施形態で取り扱った係合体は、支持部221の一端面を刻設してリブ222を形成した例を示したが、本発明で取り扱う係合体としては支持部221の一端面に突起又は膨出部があれば好ましく、その突起又は膨出部は一端面全域に一様にあってもかまわない。例えば、ローレット目を、一端面に施してもかまわない。また、支持部221の一端面に対向するブラシ本体210の固着面213(図16参照)に、例えば、リブやローレット目が設けられてもよい。
【0048】
[第2実施形態]
図7は第2実施形態に係るブラシ製造装置2を示す図である。ブラシ製造装置2は、図20、図21に示すブラシ300の製造に使用可能な装置である。
ブラシ製造装置2は、ブラシ本体310を着脱自在にクランプするクランプ機構10と、係合体320に振動を与える加振機構20と、係合体320と加振機構20とを所定の間隔で保持する位置調整機構30と、電力供給などを制御する制御手段40と、加振機構20と対向する位置に配設された先端支持機構50と、を備えている。
【0049】
このブラシ製造装置2では、先端支持機構50が設けられて制御手段40により制御可能に構成され、クランプ機構10のチャック部12の内周面12Bが突起部のない平滑な曲面に形成されている他は、第1実施形態と同様に構成されている。
【0050】
先端支持機構50は、クランプ機構10にクランプされたブラシ本体310の複数の毛材211の先端を当接して支持するものである。この先端支持機構50は、加振機構20のホーン22の振動面22Aと対向して配置される当接部51と、当接部51を支持する支持ロッド52と、支持ロッド52に接続された図示を省略する第3駆動機構と、を備えている。
【0051】
当接部51はパッド状に形成され、ホーン22の振動面22Aと対向する表面が、作製するブラシの先端側形状に対応した形状に形成されており、ここでは平面に形成されている。この当接部51は、制御手段40により駆動制御されて移動し、クランプ機構10のチャック部12内にブラシ本体310が収容された状態でホーン22側へ移動することで、表面がブラシ本体310の先端部に当接可能となっている。
【0052】
このように構成されたブラシ製造装置2を用いてブラシを製造する工程を、図8〜図13に基づいて順次説明する。
先ずステップS21で、図9(A)に示すように、コレットチャック11を拡開させると共に、ホーン22を下方の位置に移動させた初期状態に装置をセッティングする。
【0053】
ステップS22では、図9(B)に示すように、ホーン22の振動面22Aに係合体320を載置する。このとき、係合体320のナット223の埋没に使用しない面をコレットチャック11側に向けて配置する。係合体320は円盤状の形状であるため、コレットチャック11側の表面は平面となっている。
【0054】
ステップS23では、図9(C)に示すように、ブラシ本体310を係合体320上に載置し、ブラシ本体310の基端部を係合体320に当接させる。ブラシ本体310が複数の毛材211をそれぞれ独立した状態のまま集合させることで同じ向き、即ち、各端が同じ側となるように束ねたものであるため、各毛材211の端末がそれぞれ係合体320の表面に当接する。このとき隣接する毛材211同士が接触していることなどのため、全ての毛材211の端末が正確に係合体320の表面に当接することは困難である。一部の毛材211が係合体320の表面から浮き上がった状態で配置され、複数の毛材211が長手方向にばらついた状態で係合体320上に載置される。
【0055】
ステップS24では、図10(D)に示すように、第1駆動機構によってスリーブ部13を下げて、チャック部12をスリーブ部13内に押し込む。このときスリーブ部13を軽く押し込むことで、ブラシ本体310をクランプ機構10により軽くクランプし、ブラシ本体310を非完全拘束状態にする。
この状態では、チャック部12の内面とブラシ本体310との間、ブラシ本体310の毛材211同士の間に、各毛材211が長手方向に移動できて径方向の移動が阻止される程度の間隙を有しており、ブラシ本体310が径方向に穏やかに拘束される。
【0056】
またこのステップS24では、先端支持機構50の当接部51を第3駆動機構によりホーン22側となる下方へ移動させ、ブラシ本体310の先端部に当接させて加圧する。ブラシ本体310が当接部51と係止体320との間で長手方向に穏やかに拘束される。
係合体320から浮き上がった一部の毛材211が上方に突出していると、当接部51の加圧力が一部の毛材211に負荷される。当接部51の加圧力は毛材211に変形や破損が生じない程度の加圧力とするのがよい。そのため一部の毛材211が長手方向に移動して、各毛材211のばらつきが小さくなることもあるが、通常、各毛材211の位置が長手方向にばらついた状態で配置されたままとなる。
【0057】
ステップS25では、図10(E)に示すように、振動子21に高周波を付与して係合体320に超音波振動を与え、加振する。
当接部51からブラシ本体310に加圧力が負荷されているため、振動子21から係合体320を介してブラシ本体310の基端部に超音波振動が負荷されると、係合体320に当接していない各毛材211は長手方向の振動子21側に変位し、各毛材211が移動する。各当接部51の表面形状が係合体320の表面に対応して平面に形成されているため、ブラシ本体310の基端部全体が係合体320に当接する。ブラシ本体310の先端部では、各毛材211が当接部51の表面に当接することで、各毛材211の先端の位置が当接部51の表面形状に対応して揃う。
【0058】
ステップS26では、図10(F)に示すように、所定時間が経過したか又は当接部51が所定位置に到達したかの何れかが判定され、ステップS27では、加振を停止する。
【0059】
次いで、ステップS28では、図11(G)に示すように、第1駆動機構によってスリーブ部13を下げて、チャック部12をスリーブ部13内に押し込む。これにより、チャック部12が係合体支持部31の上面31B上を移動しながら縮径することで、チャック部12の内面部12Bでブラシ本体310を挟持する。このようにして、ブラシ本体310がコレットチャック11によって固定される。ブラシ本体310は、ホーン22の振動面22Aに置かれた係合体320に当接した状態で固定されて、一定の位置に保持される。
【0060】
ステップS29では、図11(H)に示すように、振動子21に高周波を付与して係合体320に超音波振動を与える。
ステップS30では、係合体320に超音波振動を与えた状態を維持しつつ、図11(I)に示すように、ホーン支持部32を第2駆動機構によって矢印方向へ上昇させ、所望の押し付け荷重で係合体320をブラシ本体310に押し付ける。
押し付け荷重はホーン22が移動している間、一定の荷重であっても、又は位置に応じて荷重を変えてもかまわない。これによりブラシ本体310の基端部と係合体320の表面との一方又は双方が溶融する。
【0061】
その後ステップS31では、押付荷重の付与を、所定の時間が経過するまで継続する。所定時間が経過した場合、ステップS32で、図12(J)に示すように、振動と押し付け動作とを停止する。
ステップS33では、図12(K)に示すように第2駆動機構によってホーン支持部32を矢印方向へ下降させる。さらにステップS34では、図12(L)に示すように、第3駆動機構によって当接部51を上昇させ、第1駆動機構によってスリーブ部13を上昇させてチャック部12の開口を拡開させることで、ブラシ本体310をアンクランプする。
そして、ステップS35では、図13(M)に示すように、コレットチャック11を拡開させると共に、ホーン22を下げた位置に移動させた状態の装置から、完成したブラシ300を取り出す。
【0062】
以上のような本実施形態に係るブラシ製造装置2によれば、ブラシ300を製造することができる。
ここではブラシ本体310の基端部と係合体320とを融着する際、クランプ機構10によりブラシ本体310をクランプした状態で、加振機構20により係合体320を基端部に押し付けながら加振するため、毛材211の変形や伸縮等を防止して、ブラシ本体320の基端部と係合体320との当接部位を十分に発熱させて確実に融着可能である。よって、毛材211の構成を損なわずに、ブラシ本体310と係合体320とを摩擦圧接させて接合するブラシ製造装置2を提供することができる。
特に、先端支持機構50により毛材211の長手方向の移動を拘束するため、ブラシ本体310の基端部を係合体320に溶着させた際、複数の毛材211の先端を揃えて溶着することができる。
【0063】
上記第1実施形態及び第2実施形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば第1実施形態では先端支持機構50を設けない例について説明したが、第2実施形態と同様に先端支持機構50を設けることも可能である。また第2実施形態では、チャック部12の内周面12Bに突起部がない例について説明したが、第1実施形態と同様にブラシ本体の基端部を把持する突起部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1,2 ブラシ製造装置
10 クランプ機構
11 コレットチャック
12 チャック部
13 スリーブ部
20 加振機構
21 振動子
22 ホーン
30 位置調整機構
31 係合体支持部
32 ホーン支持部
40 制御手段
50 先端支持機構
51 当接部
200,300 ブラシ
210,310 ブラシ本体
212 融着部
220,320 係合体
222 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の複数の毛材を同じ向きで束ねて構成されたブラシ本体と、該ブラシ本体の基端部に接合された樹脂製の係合体と、を有し、該係合体をブラシ装置の取付部に着脱自在に係合して使用されるブラシを製造するためのブラシ製造装置であって、
上記ブラシ本体を径方向からクランプするクランプ機構と、
上記クランプ機構にクランプされた上記ブラシ本体の基端部と上記係合体とを当接させた状態で上記係合体を加振する加振機構と、を備え、
上記加振機構は上記係合体を上記基端部に押し付けて加振することで、上記基端部と上記係合体とを融着する、ことを特徴とするブラシ製造装置。
【請求項2】
前記クランプ機構にクランプされた前記ブラシ本体の複数の毛材の先端を当接して支持する先端支持機構を備える、請求項1に記載のブラシ製造装置。
【請求項3】
樹脂製の複数の毛材を同じ向きで束ねて構成され且つ基端部に融着部が形成されたブラシ本体と、該ブラシ本体の基端部に接合された樹脂製の係合体と、を有し、該係合体をブラシ装置の取付部に着脱自在に係合して使用される上記ブラシを製造するためのブラシ製造装置であって、
上記ブラシ本体の融着部を径方向からクランプして該ブラシ本体の移動を拘束するクランプ機構と、
上記係合体を加振する加振機構と、を備え、
該加振機構は、上記クランプ機構にクランプされた上記ブラシ本体の融着部に上記係合体を押し付けながら加振することで、上記融着部と上記係合体とを融着する、ことを特徴とするブラシ製造装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のブラシの製造装置において、
前記毛材は砥粒を含むことを特徴とする、ブラシ製造装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載のブラシの製造装置において、
前記ブラシ本体の基端部をクランプしているクランプ機構が前記基端部をアンクランプする際に、前記係合体を支承する係合体支持部を有することを特徴とするブラシ製造装置。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れかに記載のブラシの製造装置において、
前記加振機構は、上端に前記係合体を載置する振動面を有し、該振動面上の前記係合体に載置されたブラシ本体の基端部を前記クランプ機構によりクランプした状態で、該係合体上に載置されたブラシ本体の基端部に前記係合体を押し付けながら加振することで、前記基端部と前記係合体とを融着する、ことを特徴とするブラシ製造装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載のブラシの製造装置において、
前記加振機構は、前記係合体を超音波領域で加振する超音波加振機構であることを特徴とするブラシ製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2013−48886(P2013−48886A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−122554(P2012−122554)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】