説明

ブラックシリカコーティング糸およびその製造方法

【課題】ブラックシリカの持つ特有の遠赤外線放射による温熱効果と、消臭抗菌効果が発揮できるブラックシリカコーティング糸と、製造工程の簡略化に伴い生産効率が上がり安価に供給できて経済的なブラックシリカコーティング糸を得る方法を提供する。
【解決手段】マルチフィラメント糸1にブラックシリカ3を混入する合成樹脂4を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として衣料品などに縫着されている商標や製造者名を表示する織ネームあるいは刺繍ワッペンなどの糸に用いるのに適したブラックシリカコーティング糸およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ブラックシリカの持つ特有の効果が発揮できるようにしたブラックシリカコーティング糸とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属酸化物であるセラミックスなどの遠赤外線を放出する物質を繊維に混入したり、付着したりして遠赤外線による保温効果や血行促進効果などを期待した繊維製品は種々提案されているが、いずれの製品においてもその効果は満足できるものではなかった。
【0003】
そこで、常温で高い遠赤外線の放射作用を有するブラックシリカ(黒鉛珪石)を、平均粒径が10μm以下で、0.1〜15重量%含有する繊維が提案されており、防寒衣料、スポーツ衣料、レジャー用品などの用途に適する蓄熱保温性に優れた繊維として知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−22451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の繊維は、繊維断面が芯成分と鞘成分からなる芯鞘型複合構造であり、その芯成分の中心にブラックシリカの粉末を充填して封印してあることから、洗濯しても剥離して落ちることがない長所はあっても、ブラックシリカは芯成分の中にあることから、遠赤外線放射の放射率が少なくて効果が低いという問題点があった。また、極めて細い繊維の中心にブラックシリカの微粉末を規定量充填するのは大変難しく、手間のかかる作業であり、工程が複雑化して生産効率が向上しないといった問題点があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決することを課題として開発されたもので、ブラックシリカの持つ特有の遠赤外線放射による温熱効果と、消臭抗菌効果が発揮できるブラックシリカコーティング糸と、製造工程の簡略化に伴い生産効率が向上して安価に供給できて経済的なブラックシリカコーティング糸を得る方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決し、その目的を達成する手段として、本発明は、マルチフィラメント糸にブラックシリカを混入する合成樹脂を被覆したことを特徴とするブラックシリカコーティング糸を開発し、採用した。
【0008】
上記のように構成したブラックシリカコーティング糸において、前記ブラックシリカを混入する合成樹脂は、単糸と単糸の間および単糸と単糸の外周面に塗布されていることを特徴とするブラックシリカコーティング糸、および前記ブラックシリカは、平均粒子径50μmで、1〜50重量%含有されていることを特徴とするブラックシリカコーティング糸を開発し、採用した。
【0009】
また、本発明は、マルチフィラメント糸を、ブラックシリカの混入した合成樹脂槽に通して、単糸と単糸の間および単糸と単糸の外周面にブラックシリカの混入する合成樹脂を塗布した後、乾燥熱処理を施してブラックシリカの混入した合成樹脂を被覆することを特徴とするブラックシリカコーティング糸の製造方法を開発し、採用した。
【0010】
上記のように構成したブラックシリカコーティング糸の製造方法において、樹脂塗布後、乾燥炉に導入して130〜150℃の乾燥と、150〜200℃の熱処理を同じ炉内で行い、炉内の滞留時間を10〜30秒以内とすることを特徴とするブラックシリカコーティング糸の製造方法を開発し、採用した。
【0011】
上記ブラックシリカとは、北海道桧山郡上ノ国町で産出する黒色の天然鉱石であり、数億年前に堆積した珪素類が地殻変動により地表に隆起したもので、その成分は、二酸化ケイ素が主成分であり、他に炭素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化チタン、酸化第二鉄、酸化マグネシウムなどからなり、常温で強い遠赤外線を放射する特質を持つことが知られている。
【0012】
ブラックシリカの混入する合成樹脂によって被覆される糸は、太さの均一な多数のフィラメント単糸を平行に集束して構成されたマルチフィラメントが適しており、ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維が挙げられるが、その中でもポリエステル、ポリアミドが好適である。
【0013】
糸の形態としては、塗布されるブラックシリカ混入の合成樹脂がマルチフィラメント単糸と単糸の間に入り込んで内部まで浸透しやすく、また、マルチフィラメント単糸と単糸の外周面にもブラックシリカの混入する合成樹脂を塗布しやすいことから、原糸あるいは仮撚り糸であることが望ましい。
【0014】
マルチフィラメント糸の断面形状は、円形でも非円形でも任意の形状が可能である。マルチフィラメント糸の太さも任意であるが、通常は55〜330dtexの範囲が使用可能である。
【0015】
マルチフィラメント単糸と単糸の間およびマルチフィラメント単糸と単糸の外周面に塗布される合成樹脂は、フィラメント糸との接着性およびブラックシリカ粉末との混錬性を考量して、ポリウレタン、アクリル、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエステルなどの合成樹脂を用いるのが好適である。これらの合成樹脂は通常、水分散体であるが、有機溶媒に溶かしたものを用いることもできる。また、これらの合成樹脂は必要に応じて、メラミン、イソシアネート、カルボジイミド、エポキシ系の架橋剤で架橋させることにより皮膜強度が上がり、洗濯による樹脂脱落を防止している。
【0016】
マルチフィラメント糸に被覆される合成樹脂には平均粒子径が約50μmのブラックシリカが1〜50重量%含有されているのが好ましい。粒子径が50μm以下になると、ブラックシリカの持つ特有の効果が期待できない。50μm以上になると、合成樹脂槽の中で沈降し、付着の均一性が保てないので適さない。また、ブラックシリカの含有量が1重量%以下になると、ブラックシリカの持つ特有の効果が低下する。50重量%以上になると、皮膜強度が弱くなって洗濯等で剥離する虞れがあるので適しない。
【0017】
合成樹脂塗布後、乾燥炉に導入して乾燥する温度は、130〜150℃の乾燥が好適である。130℃以下であれば乾燥が不充分で適さず、150℃を超えると皮膜に気泡が入る虞れがあり、皮膜が安定しないので適さない。また、その後の熱処理温度は、150〜200℃が適している。150℃以下では、皮膜の硬化が不充分で適さず、200℃以上では糸を弱体化する虞れがあることから適さない。さらに、乾燥処理と熱処理を同じ炉内で10〜30秒の滞留時間とするのが良い。10秒以下になると乾燥が充分でなくなり、30秒を越えると生産効率が悪くなるので適さない。
【発明の効果】
【0018】
本発明のブラックシリカコーティング糸は、マルチフィラメント糸にブラックシリカを混入する合成樹脂を被覆してあり、従来のような芯成分と鞘成分からなる芯鞘型複合構造芯糸の中ではなく、マルチフィラメント糸の内面および外周面に付着するブラックシリカから遠赤外線を放射することから、安定した高い放射率となる。また、ブラックシリカは、合成樹脂に混入されていることから、洗濯などによっても剥がれることなく、長期に亘って遠赤外線放射機能を保有するものである。そして、織りネームなどの糸として使用すると、遠赤外線放射により蓄熱保温され、健康増進効果や医療効果に優れると共に、消臭抗菌作用があることから、発汗に起因する不快臭を消臭することができ衛生的になる。
【0019】
また、本発明のブラックシリカコーティング糸の製造方法によれば、マルチフィラメント糸を、ブラックシリカの混入した合成樹脂槽に通すという簡単な方法により、マルチフィラメント糸の内面と外周面にブラックシリカの含有する合成樹脂を塗布できる。また、乾燥炉に導入してマルチフィラメント糸の表面と合成樹脂を溶着して一体被覆化することから、合成樹脂が剥離することのないブラックシリカコーティング糸を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を添付の図1に基づいて説明すれば、1は多数のフィラメント単糸2,2……2を平行に集束して構成されたポリエステルマルチフィラメント糸であり、ブラックシリカ粉末3を混入するウレタン樹脂4をフィラメント単糸2と単糸2の間およびフィラメント単糸2と単糸2の外周面に塗布して被覆したものであり、ブラックシリカは平均粒子径が50μmで、1〜50重量%含有している。
【0021】
ここで用いるブラックシリカ3の成分組成は、二酸化ケイ素82.5%、酸化アルミニウム8.4%、酸化カリウム3.3%、炭素3.2%、酸化チタン0.8%、酸化第二鉄0.8%、酸化マグネシウム0.4%、三酸化硫黄0.1%、酸化ナトリウム0.02%、塩素0.01%、フッ素0.01%、(社団法人 日本海事検定協会 理化学分析センター)などからなっている。
【0022】
つぎに、本発明に係るブラックシリカコーティング糸1の製造方法を具体的実施例で説明すると、多数のフィラメント単糸2,2……2を束ねて形成した55dtexのポリエステルマルチフィラメント糸1をボビン5から引き出し、平均粒子径が50μmで100gのブラックシリカ粉末3を3リットルの水溶性ウレタン樹脂4の中に入れ、混合撹拌してブラックシリカ粉末3が均一に分散するウレタン樹脂槽6の中を通過させ、ウレタン樹脂4がマルチフィラメント単糸2と単糸2の間に入り込み内部まで浸透すると共に、マルチフィラメント単糸2と単糸2の外周面にも塗布した後、ウレタン樹脂槽6の上方部に配設したフェルトからなる上下挟着部7,7で余分なウレタン樹脂4を落として付着量を調整する。
【0023】
その後、乾燥炉8内に導入されて、前半の乾燥処理室8aでは130〜150℃で、後半の熱処理室8bでは150〜200℃で熱処理が行われて、ポリエステルマルチフィラメント糸1と、その表面に付着するウレタン樹脂4が一体溶着して被覆されたブラックシリカコーティング糸1となり、ボビン9に巻き取られるものである。得られたブラックシリカコーティング糸1には、平均粒子径が50μmのブラックシリカが1〜50重量%含有していた。
【0024】
このブラックシリカコーティング糸1を、経糸および緯糸として、縦30mm、横90mmの帯状体の織ネームを作り、市販のカッターシャツの襟刳りと袖口に縫い込んだ試験シャツを男女4人が試着し、数時間通常のワークをした後に、それぞれのシャツの臭いを測定した。比較に使用した、織ネームを縫いこんでいないシャツをブランクシャツとし、これとの比較測定を行った。
*試着条件;4時間試着(高温多湿時試着、男子:温度28℃、湿度61%、女子:温度31℃、湿度30%)
*測定用チャンバ;透明アクリル容器(30cm×30cm×30cm)
*臭い測定器;男子用(神栄(株)製吸引式臭い測定器)
女子用(フィガロ技研(株)半導体式高感度ガスセンサTG2602)
*測定条件:試着後、対象のシャツを測定用チャンバに入れ、2分後に臭いを測定。
シャツA:女性用織ネーム付きシャツ1枚、ブランクシャツ1枚
シャツB:男性用織ネーム付きシャツ1枚、ブランクシャツ1枚

【0025】
測定結果
女性用シャツの臭い測定
【表1】

【0026】
測定結果
男性用シャツの臭い測定
【表2】

上記の数値から明らかなように、織ネームを縫いこんだシャツの臭いは、ブランクシャツに比較して臭いの発生を低く抑えることができた。
【0027】
以上、本発明の主要な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限らず、本発明の目的を達成でき、かつ本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のブラックシリカコーティング糸は、衣料品に縫着されている織ネームや刺繍ワッペン、ラベルなどの糸として用いれば有効に利用できるものでる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るブラックシリカコーティング糸の横断面拡大図である。
【図2】本発明のブラックシリカ糸の製造工程を示す簡略図である。
【符号の説明】
【0030】
1 マルチフィラメント糸
2 単糸
3 ブラックシリカ
4 合成樹脂
6 合成樹脂槽
8 乾燥炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメント糸にブラックシリカを混入する合成樹脂を被覆したことを特徴とするブラックシリカコーティング糸。
【請求項2】
前記ブラックシリカを混入する合成樹脂は、単糸と単糸の間および単糸と単糸の外周面に塗布されていることを特徴とする請求項1に記載のブラックシリカコーティング糸。
【請求項3】
前記ブラックシリカは、平均粒子径50μmで、1〜50重量%含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載のブラックシリカコーティング糸。
【請求項4】
マルチフィラメント糸を、ブラックシリカの混入した合成樹脂槽に通して、単糸と単糸の間および単糸と単糸の外周面にブラックシリカの混入する合成樹脂を塗布した後、乾燥熱処理を施してブラックシリカの混入した合成樹脂を被覆することを特徴とするブラックシリカコーティング糸の製造方法。
【請求項5】
樹脂塗布後、乾燥炉に導入して130〜150℃の乾燥と、150〜200℃の熱処理を同じ炉内で行い、炉内の滞留時間を10〜30秒以内とすることを特徴とする請求項4に記載のブラックシリカコーティング糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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