説明

ブリージング水排出装置及び覆工用移動型枠

【課題】型枠内に打設した未硬化のコンクリートから滲出したブリージング水を簡易な装置で排出する。
【解決手段】型枠面材11にブリージング水を排出する排出口11aを開削し、排出口11aの周囲に型枠面材11の外側に突出するガイド部材30を固着する。ガイド部材30の内部に型枠面材11の内側に向かって進退可能に中空の筒状部材20を支持させる。筒状部材20のコンクリート打設範囲内に突き入れられる領域の周面には中空部に貫通するスリット状の開口21が形成され、筒状部材20の先端面20aは閉塞され、後方端20bは開放され、筒状部材20がコンクリートを打設する範囲内に突き入れられた状態では、開口21から流入したブリージング水を後方端20bから排出する。コンクリートが排出口11aより高い位置まで流し込まれると、筒状部材20先端面20aを型枠面材11の排出口11aまで後退させて、排出口11aを閉鎖する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、型枠内にコンクリートを打設するときに未硬化のコンクリートの表面に滲み出すブリージング水を型枠外に排出するためのブリージング水排出装置及びブリージング水排出装置を備える覆工用移動型枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
型枠で仕切られたコンクリート打設範囲内に未硬化のコンクリートを流し込んでコンクリート構造物を形成するときに、未硬化のコンクリートからブリージング水が表面に滲み出し、型枠内に滞留することがある。このブリージング水を放置しておくとコンクリートの質が低下したりコンクリート内に空隙が生じたりして、コンクリートの強度及びコンクリート構造物の耐久性に影響を及ぼすこととなる。このため、コンクリートの打設中にブリージング水を型枠外へ排出することが望まれる。
【0003】
特にトンネルの覆工コンクリートを打設するときに生じたブリージング水を排出する技術が望まれており、例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。
トンネルの覆工は、地山を掘削して形成された空間内に、この空間の内周面と対向して覆工用移動型枠(セントル)を設置し、この型枠と地山の掘削面つまり掘削した空間の内周面との間にコンクリートを打設して形成される。覆工コンクリートの打設は、多くの場合にトンネルの掘削とともに行われ、覆工用移動型枠を移動しながら坑口側から切羽側に向かって順次に覆工コンクリートが打設される。つまり、所定の長さの覆工コンクリートが打設されると覆工用移動型枠がトンネル内を切羽側に前進して、先に打設された覆工コンクリートに連続して次の覆工コンクリートが打設される。したがって、一回にコンクリートを打設する範囲は、掘削した空間の内周面と覆工用移動型枠の型枠面との間であり、坑口側が先に打設して硬化したコンクリーとで閉鎖され、切羽側には妻型枠を設けて閉鎖された範囲内となる。なお、掘削した空間の内周面には、吹き付けコンクリートが施されたり、防水シートが取り付けられたりすることが多い。
【0004】
上記のように覆工コンクリートを打設する範囲は閉鎖された空間となり、コンクリートの打設中にブリージング水を排出することが難しくなることがある。特許文献1に記載の技術は、コンクリートを打設する範囲の切羽側で滲み出したブリージング水を妻型枠用の堰板に開削された排水孔から排出するものである。しかし、先に打設したコンクリートで閉鎖された側(坑口側)に滲み出したブリージング水は排出されない。このため、覆工用移動型枠に設けられた検査用窓等からブリージング水を汲みだすことになり、作業性は良好ではない。
【0005】
また、トンネル覆工以外の構造物のコンクリートを打設するときにも、ブリージング水を排出することが難しい場合がある。例えば、擁壁等のコンクリートを打設するときにブリージング水を汲み出そうとしても、多くの鉄筋が配置されていると、排出する作業は難しくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−121103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、未硬化のコンクリートの表面に滲み出すブリージング水を簡易な装置で速やかに排出することができるブリージング水排出装置及びブリージング水排出装置を備えた覆工用移動型枠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 コンクリートを所定の形状に打設するための型枠に開削された孔から前記コンクリートの打設範囲に挿入され、進退が可能に支持された中空の筒状部材と、 該筒状部材が進退方向に移動するのを案内するガイド部材と、を有し、 前記筒状部材は、前記コンクリート打設範囲に挿入される先端面が閉塞されるとともに後方端が開放され、前記コンクリート打設範囲に挿入される領域には、外周面から中空となった内側に貫通し、未硬化のコンクリートから滲み出すブリージング水を通過させる開口が設けられており、 該筒状部材を後退させて前記先端面が、前記型枠の孔が設けられた部分に想定した仮想面であって前記型枠のコンクリートと接触する面に連続する仮想面とほぼ一致する位置にあるときには、閉塞された前記先端面によって前記型枠に設けられた前記孔を閉鎖するものであるブリージング水排出装置を提供する。
【0009】
このブリージング水排出装置では、打設された未硬化のコンクリートから滲み出すブリージング水が、コンクリートの打設範囲内に挿入した筒状部材の開口から中空となった筒状部材の内部に流入する。そして、筒状部材の開放された後方端からブリージング水が型枠外に排出される。
また、ブリージング水の排出後、筒状部材を後退させ、閉塞された先端面が周囲の型枠面つまり型枠のコンクリートと接触する面とほぼ連続する位置に設定することができる。これにより、筒状部材を挿入する孔が設けられた位置において、周囲の型枠と筒状部材の先端面とがほぼ連続する滑らかな面を形成する。したがって、打設されたコンクリートは、凹凸のない滑らかな形状に形成される。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のブリージング水排出装置において、 前記ガイド部材は、前記筒状部材が、該筒状部材の先端から所定の長さが前記コンクリート打設範囲内に突き入れられた位置と、前記筒状部材の前記先端面が前記型枠のコンクリートと接触する面に連続する前記仮想面とほぼ一致する位置との間で、前記筒状部材を進退させるとともに、双方の位置で前記筒状部材を固定可能とするものとする。
【0011】
このブリージング水排出装置では、筒状部材が型枠に対して前進したときにはブリージング水を排出する位置に筒状部材を支持し、後退したときには、筒状部材の先端面と型枠のコンクリートと接触する面とが滑らかなほぼ連続する面を形成する位置に正確に支持することができる。これにより、ブージング水を排出する状態から型枠に形成された孔を閉鎖する状態へ、簡単な作業で筒状部材を移動させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のブリージング水排出装置において、 前記開口は、前記筒状部材の軸線方向のスリット状に形成され、該筒状部材の周方向に複数が設けられているものとする。
【0013】
このブリージング水排出装置の筒状部材に形成された開口は、軸線方向のスリット状となっているので、コンクリートに混合された骨材等の開口への侵入を防ぐことができるとともに、ブリージング水を効率よく排出することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1、請求項2又は請求項3に記載のブリージング水排出装置おいて、 前記筒状部材の前記後方端に接続され、該筒状部材の内側を減圧して前記ブリージング水を前記開口を介して吸引する吸引装置を備えるものとする。
【0015】
このブリージング水排出装置では、筒状部材の内側に負圧を生じさせて、未硬化コンクリートの表面近くに溜まっているブリージング水を積極的に筒状部材内に導くことができる。これにより、短時間で効率よくブリージング水を型枠外に排出することが可能となる。
【0016】
請求項5に係る発明は、 地山を掘削したトンネル内を移動し、覆工コンクリートを順次に打設するために用いられる覆工用移動型枠であって、 既に打設して硬化した覆工コンクリートと隣接して設置し、未硬化コンクリートを打設するときに該未硬化コンクリートを流し込む位置より既に硬化した覆工コンクリート側に複数のブリージング水排出装置が設けられ、 該ブリージング水排出装置は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載するものである覆工用移動型枠を提供するものである。
【0017】
トンネルの覆工コンクリートを所定長毎に順次打設するときに、未硬化コンクリートを流し込む位置よりも、既に硬化した覆工コンクリートに近接した位置に生じたブリージング水は、流下による排出が難しく、コンクリートの打設にともなって滞留量が増加してゆく。この覆工用移動型枠では、未硬化コンクリートを流し込む位置よりも、既に硬化した覆工コンクリートに近接した位置にブリージング水排水装置が設けられ、既設の覆工コンクリートの端面で閉塞された領域付近に滲み出したブリージング水を効率よく型枠外へ排出することができる。また、ブリージング水排出装置が設けられた位置においても、覆工コンクリートの内周面は、滑らかに仕上げることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本件発明のブリージング水排出装置では、コンクリートの打設中に未硬化のコンクリートから滲みだしたブリージング水を簡易な装置で容易に排出することができるとともに、打設したコンクリートの型枠と接触する面を滑らかに仕上げることができる。
また、本件発明の覆工用移動型枠では、先に打設した覆工コンクリートの端面に近接した位置に滲み出したブリージング水を簡易な装置で容易に排出することができるとともに、覆工コンクリートの内周面を滑らかな良好な状態に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願発明に係るブリージング水排出装置が設けられた覆工用移動型枠を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す覆工用移動型枠の概略側面図である。
【図3】本願発明に係るブリージング水排出装置のコンクリート打設範囲外からの概略斜視図である。
【図4】図3に示すブリージング水排出装置で用いられる筒状部材の概略斜視図である。
【図5】図3に示すブリージング水排出装置の筒状部材がコンクリート打設範囲に突き入れられた状態の概略斜視図である。
【図6】筒状部材がコンクリート打設範囲に突き入れられた状態を示す平断面図である。
【図7】筒状部材がコンクリート打設範囲に突き入れられた状態を示す立断面図である。
【図8】筒状部材がコンクリート打設範囲から引き出された状態を示す立断面図である。
【図9】筒状部材に形成された開口の他の例を示す側面図及び断面図である。
【図10】筒状部材に形成された開口の他の例を示す側面図である。
【図11】図3に示すブリージング水排出装置に吸引装置を付加した例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係るブリージング水排出装置が設けられた覆工用移動型枠を示す概略断面図であり、図2は同じ覆工用移動型枠の概略側面図である。
この覆工用移動型枠1は、トンネルの内周面2に所定の厚さで巻き立てられる覆工コンクリート3を打設するための型枠であり、トンネルを掘進する切羽の後方に配置される。そして、掘削された地山の内面と対向する型枠を構成するものであり、トンネルの軸線方向に所定の長さの範囲で覆工コンクリート3を打設することを可能とする。覆工コンクリート3は通常坑口側から切羽側に向かって順次にコンクリートが打設され、覆工用移動型枠1を移動して先に打設されて硬化した覆工コンクリート3の端面と連続するように次のコンクリートが打設される。
【0021】
上記覆工用移動型枠1は、覆工コンクリートが打設される前のトンネル内周面2に対向して曲面状に組み立てられた型枠面材11と、この型枠面材11を支持する支持フレーム12と、で主要部が構成されている。
【0022】
上記型枠面材11は、周方向に配列された複数の部分からなり、トンネルの内周面2に対して進退する方向に移動が可能となっており、覆工コンクリート3の内周面となる位置に正確に設定することができるものである。
型枠面材11には未硬化のコンクリートを流し込んだり、コンクリートの打設状態等を検査したりするための複数の開閉窓13が形成されている。これらの開閉窓13は、打設する覆工コンクリートの周方向に複数が設けられるとともに、トンネルの軸線方向にも複数が配列されている。そして、未硬化のコンクリートは、先に打設した覆工コンクリート3の端面3aに近い位置にある開閉窓13a,13b,13cから流し込んで打設され、未硬化コンクリートを流し込む初期にはトンネル断面の低い位置に設けられた開閉窓13aが使用される。コンクリートの打設が進行して、図2中に破線A,B,Cで示すように未硬化コンクリートの表面が上昇するのにともなって高い位置に設けられた開閉窓13b,13cに流し込む位置を変更し、下方に設けられた開閉窓13aは閉鎖される。さらに、未硬化コンクリートの表面が上昇したときには、型枠面材11の頂部に設けられたコンクリート注入孔(図示しない)から型枠面材11と地山側の内周面2との間に未硬化のコンクリートが送り込まれる。
【0023】
上記型枠面材11の坑口側は、所定の長さが既に打設されて硬化した覆工コンクリート3の内周面に当接される。これにより、型枠面材11と地山側の内周面2との間の空間は、坑口側では既に硬化した覆工コンクリート3で閉鎖される。一方、切羽側には妻型枠14が設けられ、型枠面材11と地山側の内周面2との間の空間が閉鎖され、妻型枠14にはブリージング水を排出することができる程度の隙間又は小孔を設けるのが望ましい。
【0024】
上記支持フレーム12は、型枠面材11を支持するとともに、トンネルの底面に敷設されたレール4上を走行して型枠面材11をトンネルの軸線方向に移動することができるものとなっている。これにより、トンネル内を移動して、覆工コンクリート3を打設する位置に型枠面材11を順次に設定することができるものである。
なお、覆工コンクリート3を打設する前のトンネル内周面2は、掘削した地山の内周面に沿って鋼支保工が建て込まれ、地山面にコンクリートを吹き付けたものの他、その他の形式の支保工が施されたものであってもよいし、支保工が施されずに地山の岩盤が露出したものであってもよい。また、コンクリートを吹きつけた面又は掘削された岩盤の表面に防水シート等が取り付けられたものであってもよい。
【0025】
ブリージング水排出装置10は、覆工コンクリートが施工される前のトンネルの内周面2とこの内周面2に対向して配置された覆工用移動型枠1の型枠面材11との間にコンクリートが打設されるときに、未硬化コンクリートの表面上に浸み出すブリージング水をコンクリート打設範囲外に排出するものである。
このブリージング水排出装置10は、図1及び図2に示すようにコンクリートを流し込む位置よりトンネルの抗口側、つまり先に打設されて硬化した覆工コンクリートの端面3a側で、周方向に複数の位置に設けられる。型枠面材11と地山側の内周面2との間に流し込まれた未硬化のコンクリートは、図2中の破線A,B,Cで示すように表面が傾斜して流動する。そして、コンクリートを流し込む位置より坑口側で既に硬化した覆工コンクリート3にせき止められ、図2中に符号Wで示す位置にブリージング水が滞留する。ブリージング水排出装置10は、上記ブリージング水を排出するものであり、未硬化コンクリートの表面の上昇にともない、複数の高さの位置でブリージング水を排出するものとなっている。
なお、妻側(切羽側)へ滲み出したブリージング水は、未硬化コンクリートの傾斜した表面を流下して妻型枠14に設けられた隙間又は小孔から排出することができる。
【0026】
図3は、上記ブリージング水排出装置10のコンクリート打設範囲外からの概略斜視図である。上記ブリージング水排出装置10は、上記型枠面材11に設けられた孔つまりブリージング水の排出口11aからコンクリートが打設される領域内に先端部が挿入され、進退が可能となった筒状部材20と、この筒状部材20が型枠面材11に対して進退するのを案内するガイド部材30と、で主要部が構成されている。
【0027】
図4は上記筒状部材20の概略斜視図である。また、図5はこの筒状部材を型枠面材11に設けられた排出口11aに挿入したときのコンクリート打設範囲からの概略斜視図である。
この筒状部材20は鋼からなり、外径が型枠面材11に開削された上記排出口11aの内径より僅かに小さく形成されている。そして、本実施の形態では長さが、約400mmで前方部の150mmが型枠面材11に形成された排出口11aから型枠面材11の内側つまりコンクリートが打設される範囲内に突き入れられるものである。型枠面材11の内側に突き入れられる範囲の周面には軸線に沿った方向に長いスリット状の開口21が設けられており、この開口21は周方向に複数が配列されている。これらの開口21は、中空となった筒状部材20の内側に貫通しており、これらの開口21の幅つまり筒状部材20の周方向における開口21の寸法は、コンクリートに混入された骨材等の侵入を妨げる大きさとなっている。本実施の形態では10mm以下としている。また、前方側の端面である筒状部材の先端面20aは閉塞されており、後方端20bは開放されている。したがって、図5に示すように筒状部材20の前方部分が型枠面材11の排出口11aからコンクリートの打設範囲内に突き入れられると、未硬化コンクリートから滲み出したブリージング水が開口21から筒状部材20の内側に流れ込み、筒状部材20の後方端20bから流出するようになっている。
【0028】
上記筒状部材20の後方部は、上記型枠面材11の外側つまりコンクリートの打設範囲と反対側に突き出しており、ガイド部材30(図5では図示していない)によって支持される。また、後方端付近には、筒状部材20を型枠面材11に対して進退させるときに把持するためのハンドル22が両側方へ突き出すように設けられている。なお、符号23はハンドルの接合部を補強するためのリブである。
【0029】
上記ガイド部材30は、図3に示すように、型枠面材11の外側つまり覆工コンクリート3が打設される領域の反対側へ突き出した箱状の部材であり、この箱状となった内部に上記筒状部材20を支持するとともに筒状部材20の進退を許容するようになっている。
このガイド部材30は、型枠面材11の排出口11aの周囲に固着された前方固着部31と、この前方固着部31の後方に連結された後方接合部32とを備えている。
【0030】
上記前方固着部31は、底面板33と、上面板34と、2つの側面板35とを備えており、それぞれの前方側の端縁が型枠面材11の排出口11aの周囲に溶接により固着されている。
上記底面板33及び上面板34は、ほぼ同じ形状に形成されており、型枠面材11から離れた後方側の位置で幅方向の寸法が拡大されている。そして、後方端には上記後方接合部32と接合するための下側接続板33aと上側接続板34aとが設けられ、下側接続板33aが底面板33から下方へ、上側接続板34aが上面板34から上方へほぼ直角に突き出している。
【0031】
上記側面板35は、底面板33と上面板34との側縁を互いに接合するものであり、図3に示すように、側面板35の型枠面材11との接合縁から後方への長さは底面板33及び上面板34よりも短く形成されている。これにより、側面板35の後端より後方は底面板33と上面板34との間の空間が側方に開放されている。
【0032】
上記後方接合部32は、前方固着部31の底面板33と連結される後部底面板37と、前方固着部31の上面板34と連結される後部上面板38と、後部上面板38と後部底面板37とを連結する連結部材39とを備えるものである。
上記後部上面板38及び後部底面板37はほぼ同じ形状の板状部材であり、上記前方固着部31と接合するために前方側の端部には上側接続板38a及び下側接続板37aがそれぞれ設けられている。上側接続板38aは前方固着部31の上面板34に設けられた上側接続板34aと、下側接続板37aは前方固着部31の底面板33に設けられた下側接続板33aとそれぞれ重ね合わせられ、ボルト36で接合されている。
【0033】
このように構成されたガイド部材30は、型枠面材11に開削された排出口11aの周囲を前方固着部31の上面板34と、底面板33と、二つの側面板35とで囲んでおり、この囲われた内側に筒状部材20の後方部を支持するものである。そして、側面板35が設けられた範囲の後方では上面板34と底面板33との間から筒状部材20の後部に設けられたハンドル22が両側に突出し、この状態で筒状部材20が型枠面材11に対して進退方向に移動するのをガイドするものとなっている。
【0034】
上記筒状部材20は、前方側に押し入れられ、前方部分が型枠面材11の内側のコンクリート打設範囲内に突き出した位置と、上記筒状部材20が後退して該筒状部材20の先端面20aが周囲の型枠面材11とともにコンクリートの型枠面となる位置との間で進退する。
図6は、筒状部材20の前方部分がコンクリート打設範囲内に突き入れられた状態を示す平断面図、図7は同じ状態の立断面図である。図8は、筒状部材20が後退した状態の平断面図である。
上記筒状部材20が後退したときの位置は、図8に示すように、型枠面材11に設けられた排出口11aで周囲の型枠面材11のコンクリートと接触する面から連続するように延長した仮想面を想定したときに、該仮想面と上記筒状部材20の先端面20aとがほぼ一致する位置となっている。
【0035】
上記前方固着部31の上面板34及び底面板33には、これらの対向する位置に第1の位置規制孔41a,41bが設けられている。また、後方接合部32の後方上面板38及び後方底面板37には、これらの対向する位置に第2の位置規制孔42a,42bが開削されている。一方、筒状部材20の後方端近くには、外周面から内側に貫通し、さらに反対側の周面を内側から外側に貫通して上下方向に貫く貫通孔24が開削されている。そして、筒状部材20が型枠面材11の排出口11aに挿入され、前方部の所定の長さがコンクリートを打設する範囲に突き出した位置では、図7に示すように、筒状部材20に形成された貫通孔24a,24bと第1の位置規制孔41a,41bとが同一直線上に並ぶものとなっている。これらの位置規制孔41,及び貫通孔24にピン43を挿通することにより、筒状部材20の前方部がコンクリートの打設範囲内に突き入れられた状態で筒状部材20の位置を固定することができるものである。
【0036】
また、筒状部材20を後退させ、図8に示すように筒状部材20の閉塞された先端面20aが型枠面材11の内面つまりコンクリートと接触する面の延長上とほぼ一致する位置としたときには、筒状部材20に形成された貫通孔24a,24bと第2の位置規制孔42a,42bとが同一線上に並ぶものとなっている。したがって、第2の位置規制孔42と貫通孔24とにピン43を挿通して、筒状部材20の位置を固定することにより、筒状部材20の先端面20aで排出口11aを閉鎖するとともに、打設された覆工コンクリートが硬化したときに、排出口11aが設けられていた位置に凹凸が形成されない状態とすることができる。
【0037】
なお、筒状部材の両側方に取り付けられたハンドル22は、ガイド部材30の両側方へ突出しており、第2の位置規制孔42a,42bと貫通孔24a,24bとが対向する位置へ筒状部材20が到達したときには、後方接合部32に設けられた連結部材39に突き当たるようになっている。これにより、筒状部材20の脱落を防止するとともに、筒状部材20を後退させた位置でピン43を挿入して位置を固定する作業を、簡単かつ迅速に行うことが可能となっている。
【0038】
次に、上記ブリージング水排出装置10を備えた覆工用移動型枠1でブリージング水を排出する方法について説明する。
上記覆工用移動型枠1にブリージング水排出装置10を最初に装着する工程は次のように行うことができる。
覆工用移動型枠1の型枠面材11に排出口11aが設けられ、型枠面材11の外側つまりコンクリート打設範囲の外側の面の上記排出口11aの周囲に、ブリージング水排出装置の前方固着部31を溶接によって固着する。このとき前方固着部31の上面板34と底面版33との間は後部で開放されており、この後部から筒状部材20を排出口11aに挿入する。筒状部材20の前方部分を排出口11aから型枠面材11の内側に突き入れた状態で、前方固着部31の後方に後方接合部32を接合する。この接合は、前方固着部31の後方端に設けられた上側接続板34aと下側接続板33aとに後方接合部32の前方端に設けられた上側接続板38aと下側接続板37aとを当接し、これらを貫通するボルト36及びこれに螺合されたナットによって接合する。これにより、前方固着部31と後方接合部32とが一体に接合されてガイド部材30となる。そして、このガイド部材30の上面板34と底面板33とに間に筒状部材20が保持され、筒状部材20に設けられたハンドル22はガイド部材30の両側方へ突き出して操作者が把持することができる状態となる。
【0039】
上記ブリージング水排出装置10が取り付けられた覆工用移動用型枠1は、掘削されたトンネル内を移動して順次に覆工コンクリートの打設に供する。つまり、トンネルの軸線方向における所定長の範囲について覆工コンクリートを打設して硬化した後、切羽側に移動して先に打設した覆工コンクリートと連続して次の覆工コンクリートを打設する位置に設置する。その後、型枠面材11の型枠面つまり打設されるコンクリートと接触する面が、覆工コンクリートの内周面となる位置に正確に設定する。このとき、ブリージング水排出装置10の筒状部材20は、図5,図6及び図7に示すように排出口11aから前方部分をコンクリートの打設範囲内に突き入れる。そして、筒状部材20に設けられた貫通孔24がガイド部材30に形成された第1の位置規制孔41と対向する位置まで、ハンドル22を把持して筒状部材20を移動し、図7に示すように貫通孔24a,24b及び第1の位置規制孔41a,41bにピン43を挿通して筒状部材20の移動を規制する。
本実施の形態では、型枠面材11の周方向に4つのブリージング水排出装置10が取り付けられており、これらのすべてについて筒状部材20を上記のように設定する。
【0040】
その後、図2に示すように先に打設した覆工コンクリート3の端面3aに近い位置の開閉窓13aからコンクリートを流し込む。コンクリートはトンネルの軸線方向に流動し、開閉窓13aの直下を頂部として妻型枠14が設けられた切羽側、及び先に打設した覆工コンクリート3の端面側になだらかな傾斜面を形成しながら流動し、堆積する。コンクリートの打設が進むにつれて堆積したコンクリートの表面は型枠面材11の内側で徐々に上昇する。未硬化コンクリートの表面が上昇し、低い位置にある開閉窓13aからはコンクリートを流し込むことができなくなると、この開閉窓13aは閉鎖し、高い位置にある開閉窓13bからコンクリートを流し込む。
【0041】
上記のようにコンクリートを打設しているときに、流し込んだ未硬化のコンクリートからブリージング水が滲み出し、堆積されたコンクリートの表面に浮き出す。そして、傾斜した表面上を流下して妻型枠14が設けられた方向に流下したブリージング水は、妻型枠14にある隙間又は小孔から排出される。一方、先に打設した覆工コンクリート3の端面側に流下したブリージング水は、先に打設した覆工コンクリート3の端面3aにせき止められて滞留する。コンクリートの打設が進むにつれて未硬化コンクリートの表面が上昇するともに滞留するブリージング水の量が増加する。
【0042】
未硬化コンクリートの表面上に滞留しているブリージング水の水面が上昇し、型枠面材11の内側に筒状部材20が突き入れられた位置に到達すると筒状部材20の内側にスリット状の開口21からブリージング水が流入する。この筒状部材20の後方端20bは型枠面材11の外側で開放されており、この後方端20bからブリージング水がコンクリートの打設範囲の外側へ排出される。
【0043】
未硬化コンクリートの表面が排出口11aより約10〜15cm高い位置まで上昇するとブリージング水はこの排出口11aよりも上方に滞留することとなり、ブリージング水はほとんど排出されなくなる。この段階で、未硬化のコンクリート内に突き入れられている筒状部材20を貫通孔24a,24bと第2の位置規制孔42a,42bとが対向する位置まで後退させる。
【0044】
上記筒状部材20を後退させる操作は、次のように行うことができる。
筒状部材20を型枠面材11の内側へ突き入れた位置に固定しているピン43を貫通孔24a,24b及び第1の位置規制孔41a,41bから抜き取り、ハンドル22を把持して筒状部材20をガイド部材30に案内させながら後方へ引き出す。このとき、筒状部材20に形成された開口21は細長いスリット状となっており、骨材等を開口21と型枠面材11に設けられた排出口11aの周縁との間に挟み込むことが抑制される。筒状部材20の貫通孔24a,24bがガイド部材30に設けられた第2の位置規制孔42a,42bと対向する位置まで後退すると、第2の位置規制孔42a,42b及び筒状部材の貫通孔24a,24bにピン43を挿通して、筒状部材20の移動を規制する。第2の位置規制孔42と貫通孔24とが対向する位置は、筒状部材20の閉塞された先端面20aと型枠面材11のコンクリートと接触する面とがほぼ連続する面上にある位置となっており、排出口11aを閉鎖するとともに型枠面材11とともに凹凸がない型枠面を形成する。
【0045】
上記のようにコンクリートの打設及びブリージング水の排出を行って、未硬化コンクリートの表面が上昇し、低い位置にある開閉窓13aから高い位置にある開閉窓13cにコンクリートを流し込む位置を切り換えて、低い位置にある開閉窓13a,13bは閉鎖する。そして、未硬化コンクリートの表面が高い位置にあるブリージング水排出装置が設けられた高さに到達すると、同様にブリージング水の排出及び筒状部材を引き出すことによる排出口の閉鎖を行う。開閉窓からコンクリートを流し込むことができなくなると、型枠面材11の頂部に設けられたコンクリートの注入孔からコンクリートを送り込み、地山側の内周面2と型枠面材11との間の空間の全域にコンクリートを充填して、一回のコンクリートの打設を終了する。
【0046】
このようにして打設されたコンクリートが硬化すると、型枠面材11を後退させて脱型し、次のコンクリートを打設するための位置に走行移動させる。移動後、型枠面材11を覆工コンクリートの内周面となる位置に調整するともに、後退した状態の筒状部材20を型枠面材11の中に突き入れて固定する。そして、前述したのと同様にコンクリートを打設する。このように順次に覆工コンクリートを打設してトンネルを完成する。
【0047】
なお、以上に説明した実施の形態において、筒状部材に形成された開口は、図9に示す筒状部材51に設けられた開口52のように、先端側の周縁を先端52a側から後部側に向けて内側へ傾斜するように形成してもよい。このような形状にすることにより、筒状部材51を未硬化のコンクリートから引き出すときに、開口52に一部が入り込むように骨材等が接触していても周縁の傾斜面52bに沿って骨材等を筒状部材51の外側に押し出すことができる。これにより、骨材等が開口51と排出口11aの周縁との間に挟まるのを回避し、筒状部材51を未硬化のコンクリート内から引き出すことが容易となる。
【0048】
また、図10に示す筒状部材53のように、スリット状となった開口54の先端部54aを、徐々にスリット幅が縮小して先端が尖った形状にしてもよい。このように先端が尖っているとコンクリート内から筒状部材53を引き抜くときにスリット状の開口54の周縁に接触している骨材が徐々にスリット幅が縮小する周縁に押し出され、筒状部材53の後退を妨げることが回避される。
さらに、筒状部材に形成される開口は上記のようなスリット状のものに限定されることはなく、筒状部材の外周面から中空となった内部にブリージング水を流し込むことができる開口であればよく、例えば多数の円形、多角形、楕円形等の小孔が設けられて網状となったもの等であってもよい。
【0049】
本発明のブリージング水排出装置は、図11に示すように、筒状部材20の後方端20bに吸引管5を接続し、吸引装置6によって型枠面材11の内側に滞留しているブリージング水を吸引して型枠面材11の外側へ排出することもできる。
上記吸引装置6は、負圧を発生させる吸気ポンプ7と、吸引したブリージング水と空気とを分離する気液分離槽8とを備えるものを用いることができる。
【0050】
以上に説明した本願発明のブリージング水排出装置は、覆工用移動型枠に取り付けられて、トンネルの覆工コンクリートを打設するときにブリージング水を排出するものであったが、覆工コンクリートに限定されるものではなく、その他の構造物のコンクリートを打設するときに、型枠に取り付けてコンクリートの打設中に発生するブリージング水を排出するものであってもよい。例えば擁壁、橋台、橋脚、ケーソン等のコンクリートを打設するときに用いることもできる。
また、本願発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本願発明の範囲内で他の形態として実施することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1:覆工用移動型枠、 2:掘削したトンネルの内周面、 3:覆工コンクリート、4:レール、 5:吸引管、 6:吸引装置、 7:吸気ポンプ、 8:気液分離層、
10:ブリージング水排出装置、 11:型枠面材、 12:支持フレーム、 13:開閉窓、 14:妻型枠、
20:筒状部材、 21:開口、 22:ハンドル、 23:リブ、 24:貫通孔、
30:ガイド部材、 31:ガイド部材の前方固着部、 32:ガイド部材の後方接合部、 33:底面板、 34:上面板、 35:側面板、 36:ボルト、 37:後部底面板、 38:後部上面板、 39:連結部材、
41:第1の位置規制孔、 42:第2の位置規制孔、 43:ピン、
51:筒状部材、 52:開口、 53:筒状部材、 54:開口




【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを所定の形状に打設するための型枠に開削された孔から前記コンクリートの打設範囲に挿入され、進退が可能に支持された中空の筒状部材と、
該筒状部材が進退方向に移動するのを案内するガイド部材と、を有し、
前記筒状部材は、前記コンクリート打設範囲に挿入される先端面が閉塞されるとともに後方端が開放され、前記コンクリート打設範囲に挿入される領域には、外周面から中空となった内側に貫通し、未硬化のコンクリートから滲み出すブリージング水を通過させる開口が設けられており、
該筒状部材を後退させて前記先端面が、前記型枠の孔が設けられた部分に想定した仮想面であって前記型枠のコンクリートと接触する面に連続する仮想面とほぼ一致する位置にあるときには、閉塞された前記先端面によって前記型枠に設けられた前記孔を閉鎖するものであることを特徴とするブリージング水排出装置。
【請求項2】
前記ガイド部材は、前記筒状部材が、該筒状部材の先端から所定の長さが前記コンクリート打設範囲内に突き入れられた位置と、前記筒状部材の前記先端面が前記型枠のコンクリートと接触する面に連続する前記仮想面とほぼ一致する位置との間で、前記筒状部材を進退させるとともに、双方の位置で前記筒状部材を固定可能とするものであることを特徴とする請求項1に記載のブリージング水排出装置。
【請求項3】
前記開口は、前記筒状部材の軸線方向のスリット状に形成され、該筒状部材の周方向に複数が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブリージング水排出装置。
【請求項4】
前記筒状部材の前記後方端に接続され、該筒状部材の内側を減圧して前記ブリージング水を前記開口を介して吸引する吸引装置を備えることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のブリージング水排出装置。
【請求項5】
地山を掘削したトンネル内を移動し、覆工コンクリートを順次に打設するために用いられる覆工用移動型枠であって、
既に打設して硬化した覆工コンクリートと隣接して設置し、未硬化コンクリートを打設するときに該未硬化コンクリートを流し込む位置より既に硬化した覆工コンクリート側に複数のブリージング水排出装置が設けられ、
該ブリージング水排出装置は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載するものであることを特徴とする覆工用移動型枠。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−214973(P2012−214973A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79118(P2011−79118)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【出願人】(507111553)SMCテック株式会社 (5)
【出願人】(000158725)岐阜工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】