説明

ブレイン・マシン・インターフェース用被り物

【課題】一般の頭部用衣類と同等に装着性が良く、取り扱いが容易なBMI用被り物を提供すること。
【解決手段】装着者の頭部を覆うことにより該装着者の脳活動を表す情報を非侵襲的に取得するためのBMI用被り物1であって、該情報を検出するセンサ部2と、該センサ部2からの信号を伝送する配線3と、該配線3を織り込んだテキスタイル5とが少なくとも備えられたことを特徴とするBMI用被り物1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着者の脳活動を表す情報をセンシングするBMI用被り物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、操作者の脳活動に伴って発生する電場や脳の血流状態等の脳活動を表す情報(信号)をセンシングしてロボットや車等の外部装置を操作するためのブレイン・マシン・インターフェース(Brain Machine Interface:BMI)の開発に対する関心が高まっている。BMIの装着者は身体の動作を介さずに外部装置を操作することができる。このためBMIは、例えば、身体の動きに不自由がある方が自身を補助する装置を操作するコントローラーとしての応用等が期待されている。
【0003】
前記脳活動を表す情報をBMIによって測定する方法は、侵襲法と非侵襲法に大別される。侵襲法では、外科手術を行って脳に電極を埋め込んで脳神経細胞の活動を直接計測して信号を取り出す方法が用いられる。この方法では、脳神経細胞の電気生理学的信号を高いシグナル/ノイズ比で検出することができる利点がある。しかし、外科手術による副作用や感染等の危険性が高いという問題がある。
【0004】
一方、非侵襲法では電極等のセンサーを頭皮や頭髪に接触させ、体外において脳活動を表す情報を測定する方法である。この方法では、前述の外科手術に伴う問題が生じないため、BMIの装着をより安全に行うことができる。近年のセンサーの高性能化によって、シグナル/ノイズ比も高められてきていることから、BMIの装着方法として非侵襲法が一層期待されている。従来知られている非侵襲法のBMIとしては、例えば帽子にセンサーを貼り付けたものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−289565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図8に示すように、従来の非侵襲法のBMI100では、センサー102が入出力する信号を伝送する配線103がBMI100の帽子の布部105から離れて剥き出しになっているためBMI100の装着性が悪く、取り扱いが不便であり、見た目にも不恰好であるという問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、一般の頭部用衣類と同等に装着性が良く、取り扱いが容易なBMI用被り物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載のBMI用被り物は、装着者の頭部を覆うことにより該装着者の脳活動を表す情報を非侵襲的に取得するためのBMI用被り物であって、該情報を検出するセンサ部と、該センサ部からの信号を伝送する配線と、該配線を織り込んだテキスタイルとが少なくとも備えられたことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のBMI用被り物は、請求項1において、前記テキスタイル中で、前記配線が複数備えられていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のBMI用被り物は、請求項2において、複数の前記配線を集積するコネクタが設けられていることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のBMI用被り物は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記テキスタイル中で、前記配線が屈曲部を有することを特徴とする。
本発明の請求項5に記載のBMI用被り物は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記配線は導電性繊維であって、該導電性繊維が、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線、あるいはこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線、または、該金属線或いは該合金金属線表面にこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線であることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載のBMI用被り物は、請求項5において、前記導電性繊維は、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは、撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブルにより構成されたことを特徴とする。
本発明の請求項7に記載のBMI用被り物は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記配線は光ファイバであって、該光ファイバが、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバであることを特徴とする。
本発明の請求項8に記載のBMI用被り物は、請求項7において、前記光ファイバのコア直径が、0.005mm〜2mmであることを特徴とする。
本発明の請求項9に記載のBMI用被り物は、請求項1〜8のいずれか一項において、前記配線の1本に対して、前記センサ部が少なくとも1個以上備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のBMI用被り物は、一般の頭部用衣類と同等の装着性を有し、取り扱いが容易で、外観も一般の頭部用衣類と同等であるため、日常的に違和感なくBMI用被り物を身につけながら、装着者の脳活動を表す情報を非侵襲的に取得することができる。
また、本発明のBMI用被り物のテキスタイル中に複数の配線が備えられている場合には、該BMI用被り物に複数のセンサ部を設けることができる。さらに、複数の前記配線を集積するコネクタが設けられている場合には、各配線から伝送される複数の信号を該コネクタに集積させることができ、複数の信号をまとめて処理することができる。
また、本発明のBMI用被り物における配線が屈曲部を有する場合には、テキスタイル中の該配線の経路を自在に配することができ、センサ部を任意の位置に自在に配置することがより容易になる。
【0009】
さらに、本発明のBMI用被り物における配線が導電性繊維であって、該導電性繊維として、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線、あるいはこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線、または、該金属線或いは該合金金属線表面にこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線を用いること、また、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブル(以下、極細同軸ケーブル)により構成すること、さらには、請求項5に記載の金属線または合金金属線、あるいは金属複合線と、前記極細同軸ケーブルが同時に編み込まれているテキスタイル配線とすることによって、前記センサ部からの信号を確実に伝送することができると共に、装着者の頭部の動きに追従したり、当該BMI用被り物の着脱時の操作に十分対応する柔軟性を有し、接続した導電性繊維が露出することがないテキスタイル配線を提供できる。また、導電性繊維を用いた配線は、太陽光等の紫外線に曝された場合であっても、分解され難いため耐久性に優れる。
【0010】
また、これらの導電性繊維はいずれも極細径であるのでテキスタイル(生地)に織り込むことができ、布状に加工してもスペースを取ることがない。また、金属複合線の場合、例えば銅の周りにチタンを被覆したチタン被覆銅線などを用いることで、高耐食性と高導電性の両方を満足させることが可能になる。極細同軸ケーブルの場合には、高周波での高速データ送信が可能である。
【0011】
本発明のBMI用被り物における配線が光ファイバであって、該光ファイバが、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバである場合、前記センサ部からの信号を光信号によって伝送できるため、電磁波や電気的ノイズによって信号伝送が遮られることがない。また、光ファイバ配線は、配線間のクロストークが起こらないため、テキスタイル中に隣接するように密に織り込むことができる。光ファイバ配線は、軽量性に優れるため、テキスタイル中に密に織り込んだ場合の装着者の負担を軽減することができる。さらに光ファイバ配線は、装着者の発汗によって水分に曝された場合であっても、腐食し難いため耐久性に優れる。
【0012】
前記光ファイバのコア直径が、0.005mm〜2mmである場合、大容量の信号を高速伝送できると共に、テキスタイルに自然に織り込むことが可能である。このため、BMI用被り物の装着者の頭部の動きに追従したり、該BMI用被り物の着脱時の操作に十分対応する柔軟性を有し、該テキスタイルに織り込んだ該光ファイバ(配線)が目立たないテキスタイル配線を提供できる。
【0013】
本発明のBMI用被り物において、前記配線の1本に対して、前記センサ部が1個備えられている場合、該配線は該センサ部の信号のみを伝送するため、該センサ部が発信及び/又は受信する信号をより複雑化(大容量化)することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のBMI用被り物の第1実施形態例を示す概略の斜視図である。
【図2】(a)は本発明のBMI用被り物の第1実施形態例におけるテキスタイル中の配線及びセンサ部の配置を示す概略の展開図、(b)は(a)における配線の有する屈曲部の拡大図であり、(c)は(a)における配線の有するセンサ部周辺の拡大図である。
【図3】テキスタイルに織り込むことのできる金属繊維の断面図である。
【図4】テキスタイルを製造する際に用いることのできる織機の一例を示す概略の構成図である。
【図5】(a)一部に配線が織り込まれたテキスタイルの平面図であり、(b)は(a)におけるD−D間の断面図である。本発明のBMI用被り物のテキスタイルの製造に使用しうる織機の一構成例である。
【図6】本発明のBMI用被り物の別の例を示す概略の斜視図である。
【図7】本発明のBMI用被り物の第2実施形態例におけるテキスタイル中の配線とセンサ部の配置を示す概略の展開図である。
【図8】従来の非侵襲法のBMI用被り物の一例を示す概略の斜視図である。
【図9】本発明のBMI用被り物におけるテキスタイル中の、配線の織り込み方の一例を示す図である。
【図10】本発明のBMI用被り物におけるテキスタイル中の、配線の織り込み方の一例を示す図である。
【図11】本発明のBMI用被り物におけるテキスタイル中の、配線の織り込み方の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
<第1実施形態例>
本発明の第1形態例として、図1〜2にBMI用被り物1A(1)を示す。BMI用被り物1Aは、装着者(図示略)の頭部を覆うことにより該装着者の脳活動を表す情報を非侵襲的に取得するための帽子型のBMI用被り物であって、該情報を検出するセンサ部2と、該センサ部2からの信号を伝送する配線3と、該配線3を織り込んだテキスタイル5とが少なくとも備えられたものである。
【0016】
BMI用被り物1Aの形状は、装着者の頭部を覆うことができて、装着者の頭部にセンサーを接近又は接触させることができるものであれば特に制限されない。例えば、図1に示す帽子型の他に、ヘルメット型、風呂敷型、頭巾型等が挙げられる。
【0017】
センサ部2は装着者の脳活動を表す情報を体外から取得することができるものであり、公知のセンサが使用できる。例えば、センサを設置した部位における脳波を検出する脳波センサ(Electroencephalogram)、脳血流量を検出する近赤外光センサ等が挙げられる。
【0018】
脳活動を表す前記情報としては、脳が発生する電場や脳内の血流状態等が挙げられる。脳が発生する電場をセンシングすることにより、時間分解能に優れた脳活動の検出を行うことができる。一方、脳血流状態をセンシングすることにより、空間分解能に優れた脳活動の検出を行うことができる。
【0019】
配線3はセンサ部2に入出力される信号を伝送するものであり、例えば、電気信号を伝送する導電性配線や、光信号を伝送する光ファイバー等を用いることができる。
図1では、複数の配線3の一端側に各々センサ部2が接続され、各配線3の他端側がコネクタ部4に集合して接続されている。各配線3は、テキスタイル5に織り込まれて配されている。
【0020】
各センサ部2から出力された信号が各配線3を介して、コネクタ部4に収集される。逆に、コネクタ部4にインプットした信号が各配線3を介して各センサ部2へ入力される。すなわち、コネクタ部4において各センサ部2に入出力される信号をまとめて処理することができる。コネクタ部4には、該入出力される信号を処理するための外部装置へ連絡する手段を別途設けてもよい。該手段としては、電気通信回線装置や無線通信装置等が挙げられる。
【0021】
図2(a)は、BMI用被り物1Aのテキスタイル5a(5)〜5f(5)で構成される装着者の頭部を覆う部分を展開して示した概略図である。帽子型のBMI用被り物1Aを構成するパーツ(クラウン)として成形されたテキスタイル5a(5)〜5f(5)は、一般衣類に用いられる繊維を主体として織られた布帛である。この布帛を構成する繊維の一部として前記配線3を用いることにより、通常の布帛と同様にテキスタイル5を製造することができる。テキスタイル5は、BMI用被り物の装着者の頭部を覆うことができるように成形又は縫製される。
【0022】
ここで、テキスタイル5は、テキスタイル5a(5)〜5f(5)が一体物として製造された布帛を裁断又は成形したものであってもよいし、テキスタイル5a(5)〜5f(5)が別体物として個別に製造された布帛を裁断又は成形して、それらを縫製したものであってもよい。ただし、図2(a)のようにテキスタイル5a(5)〜5f(5)を跨いで配線3が配されている場合には、前記一体物としてテキスタイル5を構成する方が製造は容易である。
【0023】
図2(b)は、図2(a)で示すテキスタイル5a(5)に配された配線3の屈曲部7を含む領域Mの拡大図である。該領域Mでは、一般衣料用繊維6が平織りされたテキスタイル5に配線3a(3)〜3c(3)が織り込まれている。各配線3の経糸(縦糸)として織り込まれている端部(各配線3の一端側)には、センサ部2a(2)〜2c(2)が各々接続されており(図2(c))、1配線に1センサ部を配した構成となっている。また、各配線3の緯糸(横糸)として織り込まれている端部(各配線3の他端側)は、コネクタ部4に集合して接続されている。各配線3は、各屈曲部7において経糸と緯糸との向きを変換するように屈曲されて、テキスタイル5に縫い込まれている。
【0024】
配線3として用いうる前記導電性配線としては、例えば図3に示すような、銅(Cu)又は銅合金からなる金属繊維11を用いることができる。金属繊維11は、金属線材12の外周を覆うようにチタン(Ti)又は酸化チタンからなる被覆層13が設けられていることが好ましい。被覆層13を設けることにより、金属線材12を酸化や腐食から保護することができる。
【0025】
金属線材12の太さ(直径)は、10〜100μmとすることが好ましい。この範囲の下限値以上であると、金属繊維11をテキスタイル5に織り込むための適度な剛性を持たせることができ、この範囲の上限値以下であると、金属繊維11をテキスタイル5に織り込んだ際に求められる適度な柔軟性を持たせることができる。すなわち、金属線材12に柔軟性を持たせる観点からは、金属線材12は細いほど好ましく、金属線材12に剛性を持たせる観点からは、金属線材12は太いほど好ましい。金属線材12の太さは、BMI用被り物に配された際に、その部位に求められる強度に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
被覆層13の厚さは、1.0〜10μmであることが好ましい。この範囲の下限値以上であると被覆層13にピンホール等の欠陥が生じて内部の金属線材12が露出することを防ぐことができ、この範囲の上限値以下であると金属繊維11をテキスタイル5に織り込むのに適した屈曲性を維持し、金属線材12の導電性を損なうことを防ぐことができる。
【0027】
また、配線3として用いうる前記導電性配線の好適なものとして、以下に説明する導電性繊維が挙げられる。
該導電性繊維は、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、及び銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線であってもよいし、あるいは銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、及び銀線の中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線であってもよいし、または、該金属線或いは該合金金属線の表面に、銅、アルミニウム、チタン、金、及び銀の中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線であってもよい。
【0028】
前記導電性繊維が、前記金属線、前記合金金属線、又は前記金属複合線であることにより、センサ部2からの信号を確実に伝送することができる。
また、これらの金属線は剛性を備えているので、装着者が当該BMI用被り物を着用したり脱いだりする際に、テキスタイル5に織り込まれた前記金属線、前記合金金属線、及び前記金属複合線に加わる物理的なストレスに十分耐えることができる。
【0029】
前記金属線、前記合金金属線、及び前記金属複合線には、その線の周りにチタンを被覆したチタン被覆金属線、チタン被覆合金金属線、及びチタン被覆金属複合線とすることが好ましい。チタンで被覆して、これらの金属線が露出することを防ぐことにより、これらの金属線の耐食性及び導電性をより高めることができる。
【0030】
前記導電性繊維は、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは、撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブルにより構成されたものであることが好ましい。
このような極細の構成の導電性繊維は、テキスタイル5に織り込んだ際に、テキスタイル5中で過剰なスペースを取ることがなく、テキスタイル5に不要なテンション(張力)を与えずにすむ。さらに、極細の構成の導電性繊維は十分な柔軟性を有するので、装着者がテキスタイル5で構成されるBMI用被り物を着用したり脱いだりする際の着脱性に優れる。また、同軸ケーブルであると、高周波を用いた高速データ通信が可能となる利点がある。
【0031】
前記導電性繊維を織り込んだテキスタイル5は、前記金属線、前記合金金属線、前記金属複合線、チタン被覆金属線、チタン被覆合金金属線、及びチタン被覆金属複合線から選ばれる1種を単独で織り込んだものであってもよいし、2種以上を組み合わせて織り込んだものであってもよい。
【0032】
テキスタイル5は、BMI用被り物1Aの帽子型を形成する布地部であり、綿やポリエステル等の公知の衣類用繊維が平織りによって編まれて、さらに配線3が織り込まれたものとして作製できる。前記衣類用繊維の織り方は平織り(緯糸と経糸とが交互に上下で直交して編む方法)(図9)に限定されず、公知の織り方、例えば4枚斜文の綾織り(図10)や3枚斜文の綾織り(図11)等が適用できる。
【0033】
配線3をテキスタイル5に織り込む方法としては、テキスタイル5の所定の位置に配線3を織り込める方法であれば特に制限されない。例えば図4に示すような織機Mを使用してテキスタイル5に配線3を織り込んで製造することができる。以下にその製造方法について説明する。
【0034】
この織機Mは、対向して水平に離間配置されたロッド状のフロントビーム30およびバックビーム31と、フロントビーム30の下に設置された巻取ローラー型のクロスビーム32と、バックビーム31の下に配置された供給ローラー型のワープビーム33と、前記フロントビーム30およびバックビーム31の中間位置に上下方向に移動自在に設置された第1の綜絖35および第2の綜絖36と、これら綜絖35、36とフロントビーム30との間に綜絖35、36とフロントビーム30との間を水平方向に移動自在に配置された筬37と、この筬37と前記フロントビーム30との間を前記フロントビーム30と平行方向に移動自在に設けられるシャトル39とを主体として構成されている。
【0035】
なお、図4においては、フロントビーム30およびバックビーム31とクロスビーム32およびワープビーム33の支持機構などは略されているが、フロントビーム30およびバックビーム31は門型のフレームなどにより固定支持され、クロスビーム32およびワープビーム33はそれぞれ図示略の門型のフレームや軸受けなどの回転支持機構によりそれらの周周りに回転自在に支持されている。また、綜絖35、36においても図示略のフレームにより上下に平行移動自在に支持されるとともに、筬37についても水平方向に平行移動できるように図示略のフレームに支持されている。
【0036】
前記綜絖35、36は、上枠41と下枠42の間に複数本の針金状のヘルド部材43を個々に離間し平行に架設して構成され、各ヘルド部材43の中央部に針金を輪状に形成したヘルド孔部44が形成されている。これらのヘルド孔部44には後述するように経糸51を通過できるように構成されている。綜絖35と綜絖36は、本第1実施形態ではそれらに形成された各ヘルド部材43を互い違いに横並びに配置するような位置関係に配置され、後述する如くフロントビーム30およびバックビーム31に複数並行に掛け渡される経糸51の1本1本を各綜絖35、36のヘルド穴44に通すことができるように配置されている。
【0037】
これらの綜絖35、36は図示略の上下駆動機構により個々に上下に移動自在に設けられており、しかも綜絖35と綜絖36の上下移動が交互に繰り返しなされるように構成されている。例えば、図4に示す如く綜絖35が下側に、綜絖36が上側に移動することにより、綜絖35がヘルド部材43により区分け支持している1本おきの経糸51の群を下側に引っ張り、綜絖36がヘルド部材43により区分け支持している他の1本おきの経糸51の群を上側に引っ張ることにより、2つに区分けしたうちの1群の経糸51と他の1群の経糸51との間に隙間を大きく形成することができる。この隙間の形成により後述する如くシャトル39の経糸51に対する交差方向への移動が可能となる。また、逆に、綜絖35が上側に綜絖36が下側に移動すると、先の2つに区分けした1群の経糸51と他の1群の経糸51との上下関係が逆転するので、シャトル39が1群の経糸51間の隙間を介して行う経糸51の交差方向への通過が可能となる。
【0038】
また、前記筬37は上枠45と下枠46との間に並行に複数本の筬羽47を平行に備えて構成され、これらの筬羽47の間にフロントビーム30およびバックビーム31間に複数並行に掛け渡されている経糸51を挿通できるように配置され、この状態のまま筬羽47をフロントビーム30側に平行移動できるように構成されている。なお、図4においては綜絖35、36と筬37の個々の支持移動機構についても詳細を略してそれらの動作方向のみを矢印にて示している。
【0039】
前記シャトル39には前述のテキスタイル5のうち、緯糸52が巻き付けられていて、シャトル39はフロントビーム30の長さ方向に沿ってフロントビーム30と平行に移動自在に設けられており、必要に応じてシャトル39から緯糸52を必要な長さで自在に繰り出すことができるように構成されている。
【0040】
次に、図4に示す構成の織機Mを用いて図5に示す構成のテキスタイル5h(5)を製造する方法の一例について説明する。
テキスタイル5h(5)を製造するには、織機Mのフロントビーム30とバックビーム31の間に並行にテキスタイル5h(5)を主に構成する衣料用繊維からなる経糸51を必要本数張設しておく。このとき、配線3からなる経糸51を所定の位置に張設しておく。図4に示す実施形態では、概略のみを示すが、複数張設した経糸51は各綜絖35、36の各ヘルド孔部44を通過するようにしてフロントビーム30とバックビーム31との間に張設しておく。また、シャトル39には衣料用繊維からなる緯糸52を必要長さ巻き付けておく。
【0041】
前述の状態から、綜絖35、36を交互に上下移動させると、図4に示す如く1本おきに経糸51を2つの群に区分けして上下に移動できるので、群分けした1本1本の経糸51間に大きな隙間が生じる。この隙間を利用し、シャトル39に巻かれている緯糸52をフロントビーム30の一端側から反対端側に向かってシャトル39とともに移動させると、シャトル39の移動に伴い、緯糸52を経糸51の1本おきに交差する方向に織り込むことができる。
【0042】
シャトル39が経糸51の全ての列を通過してフロントビーム30の反対端側に移動すると、一列全ての経糸51に対して1本おきに緯糸52を織り込むことができるので、この後、筬37をフロントビーム30側に移動させて緯糸52をフロントビーム30側に押し込む操作を行うことで緯糸52を打ち込むことができる。そして、シャトル39が経糸51の全ての列を通過して織り込んだ緯糸52を上述の如く打ち込み後、綜絖35、36の上下位置を逆転させると、2つに区分けした経糸51の群が上下入れ替わるので、第1のシャトル39を再度フロントビーム30に沿って逆方向移動させて先の位置に戻す操作を行い、張設した経糸51の1本おきに緯糸52を織り込むことができる。
【0043】
以上の操作を繰り返し行うことで、織り込み配置した行毎の緯糸51を筬37の筬羽47により1行1行打ち込んで密着させることができる。また、主に衣料用繊維で構成されるテキスタイル5h(5)の所定の位置に、経糸51として配線3を織り込むことができる。
【0044】
また、テキスタイル5h(5)の所定の位置に緯糸52として配線3を織り込むこともできる。この場合、シャトル39に衣料用繊維を必要長さ巻き付けておくとともに、別途配線3を巻き付けた第2シャトル(図示略)を用意し、適宜衣料用繊維からなる緯糸52との間に介在させるように第2シャトルを織り込む操作を行えば良い。
【0045】
また、図2(b)に示したテキスタイル5のように、配線3が屈曲部7を有する場合には、前述のようにテキスタイル5h(5)を織り込んでいく過程で一時停止し、配線3からなる経糸51のみをバックビーム31から切り離し、ヘルド穴44及び筬37から外して、緯糸52と並行に隣接して配置し、テキスタイルの織り込みを再開することにより、所定の位置で配線3が経糸51方向から緯糸52方向に屈曲した屈曲部7を有するテキスタイル5とすることができる。
【0046】
この逆に、緯糸52として配線3をテキスタイル5に織り込んでいく過程で一時停止して、当該配線3をヘルド穴44及び筬37に通してバックビーム31に固定し、経糸51と並行に配置してテキスタイルの織り込みを再開することにより、所定の位置で配線3が緯糸52方向から経糸51方向に屈曲した屈曲部7を有するテキスタイル5とすることもできる。
【0047】
上記のように製造されたテキスタイル5を適宜公知の方法で帽子型に成形又は縫製し、さらにテキスタイル5に縫いこまれた配線3の一端側にセンサ部2を接続することにより、BMI用被り物1Aを製造することができる。
なお、センサ部2は、配線3が織り込まれたテキスタイル5の製造後に該配線3へ接続して配置されてもよいし、又は、予めセンサ部2が接続された配線3をテキスタイル5に織り込むことにより、配線3と同時にテキスタイル5に配置されてもよい。
【0048】
<第2実施形態例>
本発明の第2実施形態例として、図6にBMI用被り物1B(1)を示す。図6では、図1と同様のものには同じ符号を付してある。図7は、BMI用被り物1B(1)のテキスタイル5i(5)〜5n(5)で構成される装着者の頭部を覆う部分を展開して示した概略図である。図7では、図2と同様のものには同じ符号を付してある。
【0049】
BMI用被り物1Bは、BMI用被り物1Aと同様に、テキスタイル5中に配線3が織り込まれている。配線3の一端側はセンサ部2に接続され、配線3の他端側はコネクタ部4に集合して接続されている。コネクタ部4は頭頂部に設けられているので、各配線3は屈曲部を有していなくてもコネクタ部4に接続されうる。
【0050】
図2の展開図に示すように、各配線3は個々のテキスタイル5i(5)〜5n(5)を跨がずに配されているので、配線3を織り込んだテキスタイル5i(5)〜5n(5)を別体物として個別に製造した後で、縫製してBMI用被り物1Bを作製することが容易である。
【0051】
配線3は、光ファイバである場合にも、前述と同様にテキスタイル5に織り込むことができる。なお、本明細書では、光ファイバからなる配線3を、光ファイバ配線と呼ぶことがある。
前記光ファイバとしては、センサ部2からの信号を伝送できるものであって、テキスタイル5中に織り込み可能な材質からなるものであれば特に制限されない。例えば、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わせた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバが好適である。
前記光ファイバはシングルモード光ファイバ(SMF)又はマルチモード光ファイバ(MMF)のいずれであってもよい。
【0052】
前記石英系光ファイバ及びガラス系光ファイバは伝送損失が少ないため、出力の小さい光源(センサ部2、コネクタ部4)からの信号であっても十分に伝送することができる。
【0053】
前記プラスチック光ファイバとしては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やスチレン等が重合した樹脂(プラスチック)からなるものが挙げられる。プラスチック光ファイバは、曲げに強く折れにくいため、柔軟性に富むテキスタイル5に織り込む場合には特に適している。
【0054】
前記光ファイバのコア直径は、0.005mm〜2mmの範囲が好ましく、0.01mm〜1.5mmの範囲がより好ましく、0.1mm〜1.0mmの範囲がさらに好ましい。この範囲の下限値以上であると、前記光ファイバをテキスタイル5に織り込むための適度な剛性を持たせることができ、この範囲の上限値以下であると、前記光ファイバをテキスタイル5に織り込んだ際に求められる適度な柔軟性を持たせることができる。すなわち、光ファイバ配線に柔軟性を持たせる観点からは、光ファイバ配線は細いほど好ましく、光ファイバ配線に剛性を持たせ、また信号伝送量を増やす観点からは、光ファイバ配線は太いほど好ましい。
【0055】
前記光ファイバのクラッドの厚みは、コア及びクラッドの材料によって適宜調整される。また、光ファイバ配線を樹脂等で被覆してもよい。該被覆によって光ファイバ配線を、衝撃、摩擦、紫外線、及び水分等から保護できる。
【0056】
配線3の1本に対して、センサ部2は1個だけ備えられていることが好ましい。その配線3におけるセンサ部2の位置は特に限定されないが、該配線3の端部にセンサ部2を配置することが好ましい。配線3の端部(末端)にセンサ部2を接続する方が、配線3の途中にセンサ部2を接続するよりも、製造上より容易である。
【0057】
配線3の1本に対して、センサ部2が1個だけ備えられている場合、該配線3は該センサ部2の信号のみを伝送するため、該センサ部2(又はコネクタ部4)が発信及び/又は受信する信号をより複雑化(大容量化)することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、装着者の脳活動を表す情報を非侵襲的に取得するためのBMI用被り物として広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,1B…BMI用被り物、2…センサ部、3…配線、4…コネクタ部、5,5a,5b,5c,5d,5i,5e,5f,5h,5i,5k,5l,5m,5n…テキスタイル、6…一般衣料用繊維、7…屈曲部、11…金属繊維、12…金属線材、13…被覆層、M…製造装置、30…フロントビーム、31…バックビーム、32…クロスビーム、33…ワークビーム、35、36…綜絖、37…筬、39…シャトル、43…ヘルド部材、44…ヘルド孔、47…筬羽、51…経糸、52…緯糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の頭部を覆うことにより該装着者の脳活動を表す情報を非侵襲的に取得するためのBMI用被り物であって、
該情報を検出するセンサ部と、
該センサ部からの信号を伝送する配線と、
該配線を織り込んだテキスタイルと
が少なくとも備えられたことを特徴とするBMI用被り物。
【請求項2】
前記テキスタイル中で、前記配線が複数備えられていることを特徴とする請求項1に記載のBMI用被り物。
【請求項3】
複数の前記配線を集積するコネクタが設けられていることを特徴とする請求項2に記載のBMI用被り物。
【請求項4】
前記テキスタイル中で、前記配線が屈曲部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のBMI用被り物。
【請求項5】
前記配線は導電性繊維であって、該導電性繊維が、銅線、アルミニウム線、チタン線、金線、銀線の中から選ばれる少なくとも1種から構成される金属線、あるいはこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む合金から構成される合金金属線、または、該金属線或いは該合金金属線表面にこれらの中から選ばれた少なくとも1種を含む金属または合金を被覆することにより構成される金属複合線であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のBMI用被り物。
【請求項6】
前記導電性繊維は、中心導体径が0.030mm以下の単線もしくは、撚り線であって、同軸構造とした後に外被(ジャケット)を施した径が0.5mm以下である極細同軸ケーブルにより構成されたことを特徴とする請求項5に記載のBMI用被り物。
【請求項7】
前記配線は光ファイバであって、該光ファイバが、石英系光ファイバ、ガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバ、及びそれらを組み合わた光ファイバのうち、いずれかの光ファイバであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のBMI用被り物。
【請求項8】
前記光ファイバのコア直径が、0.005mm〜2mmであることを特徴とする請求項7に記載のBMI用被り物。
【請求項9】
前記配線の1本に対して、前記センサ部が少なくとも1個以上備えられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のBMI用被り物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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