説明

ブレンド用ポリエステル樹脂

【課題】結晶化速度の遅いポリエステル樹脂にブレンドすることにより、適度な結晶化速度を有し、耐熱性容器等の成形に好適に使用可能なポリエステルブレンド物を提供可能なブレンド用ポリエステル樹脂を提供する
【解決手段】液相重合及び固相重合により固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂を調製し、次いで該ポリエステル樹脂の固有粘度を0.3乃至0.75dL/gに低下させた、末端カルボキシル基濃度が20乃至50eq/tonの範囲にあるポリエステル樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル容器成形用のポリエステル樹脂に関するものであり、より詳細には、固有粘度が高く、結晶化速度の遅いポリエステル樹脂にブレンドすることにより、固有粘度及び結晶化速度を調整可能なブレンド用ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂から成る容器は、透明性、機械的強度等の特性に優れていることから、飲料、油、調味料等の容器として広く用いられているが、充填する内容物や、充填方法或いは殺菌処理の有無等によってポリエステル容器が具備すべき性能は異なっており、例えば、二軸延伸ブロー成形ボトルにおいては、耐熱性ボトル、耐圧性ボトル、耐熱圧性ボトル、或いはアセプティック充填用ボトル等のポリエステル容器が知られている。
一般に液相重合により製造されたポリエステル樹脂中にはアセトアルデヒド等の低分子量成分や環状三量体等のオリゴマーが含有されており、これらの物質を含んだ状態のポリエステル樹脂を用いて容器の成形を行うと、成形時にポリエステル樹脂中のオリゴマーが析出して金型表面に付着して、肌荒れによる透明性低下の原因になったり、或いは頻繁な金型の清掃が必要になる等の問題があった。また成形された容器中にアセトアルデヒドが多量に存在すると、内容物に移行し内容物の風味を損なうという問題もあった。
【0003】
このような問題を解決するため、ポリエステル樹脂中の環状三量体等のオリゴマーやアセトアルデヒドを低減させるべく、液相重合により製造されたポリエステル樹脂を更に固相重合に付することが従来から行われている (特許文献1)。
一般に固相重合に付されたポリエステル樹脂は、アセトアルデヒドや環状三量体等の低分子量成分が低減されている一方、固有粘度が高く、樹脂の結晶化速度が遅いという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4064112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般にポリエステル樹脂は耐熱性に劣るため、耐熱性容器の成形においては、口部を熱結晶化すると共に賦形後ヒートセット(熱固定)に付することにより、ポリエステル樹脂の結晶化度を上げて耐熱性を向上させる必要があるが、結晶化速度が遅いポリエステル樹脂ではかかる口部の熱結晶化やヒートセットを効率的に行うことができない。従って、耐熱性容器においては、上述したような固相重合により固有粘度が上昇したポリエステル樹脂をそのまま用いても効率よく製造することができなかったことから、特定の触媒や結晶核剤を用いる等、特別な方法によって製造された高価なポリエステル樹脂の使用が余儀なくされていた。
【0006】
従って本発明の目的は、固有粘度が高く、結晶化速度の遅いポリエステル樹脂にブレンドすることにより、適度な結晶化速度を有し、耐熱性容器等の成形に好適に使用可能なポリエステルブレンド物を提供可能なブレンド用ポリエステル樹脂を提供することである。
本発明の他の目的は、上記ポリエステルブレンド物から成り、成形性に優れたポリエステル容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ポリエステル容器の成形に用いられるエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂において、液相重合及び固相重合により調製された固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂の固有粘度を0.3乃至0.75dL/gに低下させた、末端カルボキシル基濃度が20乃至50eq/tonであることを特徴とするポリエステル樹脂が提供される。
本発明のポリエステル樹脂においては、
1.ポリエステル樹脂の固有粘度の低下が、加水分解処理によるものであること、
2.固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲にあるポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度が15乃至50eq/tonであること、
が好適である。
【0008】
本発明によればまた、上記ポリエステル樹脂を、固有粘度が0.8乃至1.0dL/gのポリエステル樹脂と、10:90乃至50:50の重量比でブレンドして成るポリエステルブレンド物から成るポリエステル容器が提供される。
【0009】
前述した通り、容器の製造に用いられるポリエステル樹脂は、一般に液相重合、及び必要により固相重合を経て製造されるが、液相重合及び固相重合により固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲となるように調製されたポリエステル樹脂は、風味低下の原因となるアセトアルデヒド等の低分子量成分や、成形時の金型汚れの原因となる環状三量体等のオリゴマーは充分に低減されている一方、固有粘度が高く結晶化速度が遅いため、耐熱性容器の製造には向かない。
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂は、このような固有粘度が高く結晶化速度が遅いポリエステル樹脂にブレンドすることによって、ブレンド物中のアセトアルデヒド等の低分子量成分やオリゴマーが低減された状態を維持しつつ、口部の結晶化や熱固定等を効率よく行うことが可能な結晶化速度に調整することが可能となる。
【0010】
すなわち、本発明のポリエステル樹脂は、液相重合及び固相重合を経て得られた固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂の固有粘度を、オリゴマーや低分子量成分の含有量が低減された状態を維持しながら、固有粘度0.30乃至0.75dL/gの範囲に低減されており、固有粘度の高いポリエステル樹脂にブレンドすることにより、ブレンド物のオリゴマーや低分子量成分の含有量を増加させることなく、結晶化速度を好適な範囲に調整することが可能となるのである。
また本発明のブレンド用ポリエステル樹脂においては、末端カルボキシル基濃度が20乃至50eq/tonであることも重要であり、これによりポリエステル樹脂中のアセトアルデヒド等の低分子量成分やオリゴマーが充分に低減されていると共に、固有粘度の高いポリエステル樹脂との相溶性を向上し、優れた成形性を得ることが可能となる。
【0011】
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂において、オリゴマーや低分子量成分の含有量が低減された状態を維持しながら、固有粘度0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂の固有粘度を上記範囲に低減させるには、ポリエステル樹脂を加水分解させることにより行うことが望ましい。
すなわち、一般にポリエステル樹脂の固有粘度を低下させる方法としては、ペレット化されたポリエステル樹脂を再溶融するだけでも固有粘度は低下するが、その場合には、アセトアルデヒド等の低分子量成分や環状三量体等のオリゴマーが増加するおそれがあるが、加水分解による場合には、固相重合を経たポリエステル樹脂が有するアセトアルデヒド等の低分子量成分或いは環状三量体等のオリゴマーの量を増大させることなく、固有粘度のみを低下させることが可能となるのである。
尚、固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂は、固相重合により経済性、生産性を満足しつつ適度にアセトアルデヒドや環状三量体の量が低減され、一般に飲料用容器に使用することが可能なポリエステル樹脂である。
【0012】
本発明のこのような特徴は後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわち、結晶化速度の速い耐熱性容器成形用のポリエステル樹脂(0.77dL/g)においては、耐熱性容器を生産性よく成形することができるが(参考例)、固有粘度が0.8dL/g未満(0.79dL/g)のポリエステル樹脂を用いた場合には、フレーバー性や金型汚れに起因する透明性等の点で劣っており(比較例1)、更に固相重合を経た固有粘度が0.8乃至1.0dL/g以上のポリエステル樹脂を用いた場合には、成形時にアセトアルデヒドが増加し、フレーバー性に劣っていると共に、プリフォームの口部熱結晶化或いは熱固定を効率的に行うことができず、耐熱性容器を生産性よく成形することができなかった(比較例2)。
【0013】
また末端カルボキシル濃度が50eq/tonよりも大きいポリエステル樹脂の場合には、固有粘度が0.3乃至0.75dL/gの範囲にある場合でも、末端分解によりアセトアルデヒド等が副生するおそれがあるため、フレーバー性の点で満足するものではなかった(比較例4)。
これに対して、本発明のブレンド用ポリエステル樹脂を、固相重合を経た固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂にブレンドしてなるブレンド物においては、プリフォームの口部の熱結晶化や熱固定を効率よく行うことが可能となり、耐熱性容器を生産性よく成形することができたと共に、成形時にフレーバー性も優れていた(実施例1〜7)。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂においては、結晶化速度の遅いポリエステル樹脂にブレンドすることにより、結晶化速度を調整することができるため、口部の熱結晶化や熱固定等を効率的に行うことができ、耐熱性容器等の成形に好適に使用可能なポリエステルブレンド物を提供することができる。
また本発明のブレンド用ポリエステル樹脂は、液相重合及び固相重合を経て得られる固有粘度が0.8乃至1.0dL/gのポリエステル樹脂の固有粘度を低下させたものであることから、アセトアルデヒド等の低分子量成分や環状三量体等のオリゴマーが低減されているため、フレーバー性に優れていると共に、成形時金型汚れに起因する透明性の低下という問題を生じることもない。
更に本発明のブレンド用ポリエステル樹脂をブレンドしてなるブレンド物は、本発明のブレンド用ポリエステル樹脂を配合することにより、固有粘度が低減されているため、成形に際してのストレスが小さく、容器等の成形時のアセトアルデヒドの増加を有効に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ブレンド用ポリエステル樹脂の調製)
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂は、液相重合及び固相重合を経て得られた固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂を用いて、固有粘度の低下処理を行うことによって調製される。
液相重合及び固相重合を経て得られるポリエステル樹脂は、必ずしもこれに限定されるものではないが、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とを主体とする原料を、触媒の存在下に液相重合及び固相重合させることにより得られたものである。
【0016】
経済的なポリエチレンテレフタレートの合成は、高純度テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とを直接反応させてポリエチレンテレフタレート(PET)を合成する方法であり、通常二つの工程に分けられており、(A)TPAとEGとを反応させて、ビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)オリゴマーを合成する工程、(B)BHTオリゴマーからエチレングリコールを留去して重縮合を行う工程から成っている。
【0017】
BHTオリゴマーの合成はそれ自体公知の条件で行うことができ、例えばTPAに対するEGの量を1.0乃至1.5モル倍として、EGの沸点以上、例えば240乃至280℃の温度に加熱して、1乃至5kg/cmの加圧下に、水を系外に留去しながら、エステル化を行う。この場合、TPA自体が触媒となるので、通常触媒は必要ないが、それ自体公知のエステル化触媒を用いることもできる。
【0018】
第二段階の重縮合工程では、第一段階で得られたBHTオリゴマーにそれ自体公知の重縮合触媒を加えた後、反応系を260〜290℃に保ちながら徐々に圧力を低下させ、最終的に1〜3mmHgの減圧下に撹拌し、生成するEGを系外に留去しながら、反応を進行させる。反応系の粘度によって分子量を検出し、所定の値に達したら、系外に吐出させ、冷却後チップとする。
重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物、アルミニウム化合物等、従来公知の触媒を使用できるが、特にチタン化合物を用いることが好ましい。
【0019】
エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂は、エステル反復単位の50%以上を占めるものであり、一般に70モル%以上、特に80モル%以上をエチレンテレフタレート単位が占めるものであることが好ましい。
ホモポリエチレンテレフタレートが耐熱性の点で特に好適であるが、エチレンテレフタレート単位以外のエステル単位の少量を含む共重合ポリエステルも使用し得る。テレフタル酸以外の二塩基酸としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;の1種又は2種以上の組合せが挙げられ、エチレングリコール以外のジオール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0020】
液相重合で得られたポリエステルは、一般に0.5乃至0.75dL/gの固有粘度を有する。次いで、このポリエステルをペレタイズして固相重合を行うが、固相重合に先立って、このペレットをポリエステルの結晶化温度に加熱して、ポリエステルの予備結晶化を行わせることもできる。
このポリエステルの結晶化に伴い内部に含有される環状三量体は外部にはみだし、環状三量体含有量は減少する。この結晶化は、一般に160乃至200℃の範囲が適当であり、また処理時間は2乃至240分間が適当である。ポリエステルペレットの結晶化のための熱処理は、例えば加熱窒素ガス等の加熱不活性ガスを用いて、流動床または固定床で行うことができ、また真空加熱炉内で行うこともできる。予備結晶化後ペレットを180乃至220℃の温度で30乃至240分間乾燥及び予熱した後、固相重合に付する。
【0021】
固相重合に際しては、液相重合の場合とは異なり、固有粘度の増大に伴って、環状三量体含有量の低下を生じる。また、一般に固相重合温度の上昇に伴って環状三量体含有量が低下し、重合時間の増大に伴って環状三量体含有量が低下する。固相重合は、一般に200乃至230℃の温度で8乃至20時間行うことが望ましい。
本発明においては、固相重合により得られたポリエステル樹脂は、固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲にあり、環状三量体の含有量が0.3乃至0.6wt%、アセトアルデヒド濃度が1ppm以下であることが好ましい。
【0022】
また本発明においては、固相重合後のポリエステル樹脂が、末端カルボキシル基濃度が15乃至50eq/ton、特に20乃至45eq/tonの範囲にあるポリエステル樹脂であることが望ましい。上記範囲よりも末端カルボキシル基濃度が小さい場合には、次いで行う加水分解処理で効率よく固有粘度を低下させることができず、一方上記範囲よりも末端カルボキシル基濃度が大きい場合には、末端分解によりアセトアルデヒド等の副生物が生成してしまうおそれがあるので好ましくない。
末端カルボキシル基濃度を上記範囲に調整するため、液相重合における仕込量において、EG/TPA比(モル比)を1に近づけることで末端カルボキシル基濃度を大きくすることが出来、逆にEG/TPA比を1より大きくすることで末端カルボキシル基濃度を小さくすることが出来る。
【0023】
(固有粘度低下処理)
固相重合により得られた固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂の固有粘度を0.3乃至0.75dL/g、特に0.50乃至0.70dL/gの範囲に低下させる処理としては、加水分解処理によることが好適である。加水分解処理は、ポリエステル樹脂を水と接触させ、ポリエステル樹脂を加水分解させて固有粘度を低下し得る限り、処理の方法は問わないが、100乃至160℃、好適には120乃至150℃の熱水中にポリエステル樹脂ペレットを1乃至8時間、特に2乃至6時間浸漬させることにより行うことが望ましい。具体的には、ポリエステル樹脂を水道水、工業用水、純水のいずれか1種類以上からなる水源を利用して浸漬し、オートクレーブ、レトルト釜等の加圧加熱処理装置を用いて所定時間処理した後、大気圧下の状態に戻して、通常の乾燥工程に供する。
【0024】
加水分解処理後、ペレットの脱水処理を行い、次いで80乃至180℃の温度下で0.1乃至24時間乾燥処理を行うことによって、固有粘度0.3乃至0.75dL/g、末端カルボキシル基濃度20乃至50eq/tonの範囲にあるブレンド用ポリエステル樹脂に調製される。
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂は、アセトアルデヒド等の低分子量成分や、環状三量体等のオリゴマーが低減されており、透明性、風味保持性等の優れた特性を有していると共に、固有粘度の高いポリエステル樹脂にブレンドした際に、耐熱性容器の製造に適した結晶化速度をブレンド物に発現できるため、耐熱性容器の成形に際して効率的に成形することができる。また容器成形に際してアセトアルデヒド濃度の増加を抑制可能な固有粘度を有しているため、ブレンドポリエステル樹脂から成る成形体はアセトアルデヒド量が10ppm以下と優れた風味保持性を有している。更に固有粘度0.8乃至1.0dL/gの範囲にあるポリエステル樹脂と相溶性にも優れている。
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂は、これに限定されるものではないが、ガラス転移点(Tg)が50乃至90℃、特に55乃至80℃で、融点(Tm)が200乃至275℃、特に220乃至270℃にあることが好適である。
【0025】
(ブレンドポリエステル樹脂)
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂は、固有粘度が0.8乃至1.0dL/g、特に0.80乃至0.90dL/gの範囲にある液相重合及び固相重合経た、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂にブレンドして用いることが好適である。
ブレンド比は、ブレンド用ポリエステル樹脂及び固有粘度が0.8乃至1.0dL/gの範囲にあるポリエステル樹脂のそれぞれの固有粘度、或いはブレンド物が有すべき固有粘度の値によって異なり、一概に規定することはできないが、ブレンド用ポリエステル樹脂:固有粘度0.8乃至1.0dL/gのポリエステル樹脂(重量比)で10:90乃至50:50、特に30:70乃至50:50の範囲にあることが好適である。
【0026】
(ポリエステル容器)
本発明においては、ブレンド用ポリエステル樹脂を、固有粘度が0.8乃至1.0dL/gの範囲にあるポリエステル樹脂に、上記割合でブレンドして成るポリエステルブレンド物を、ダイレクトブロー成形、二軸延伸ブロー成形等によるボトル成形、或いは真空成形、圧空成形、張出成形、プラグアシスト成形等によるカップやトレイの成形に好適に使用することができる。
すなわち、二軸延伸ブロー成形における耐熱性容器の製造方法においては、容器口部の熱変形を防止するため、口部を熱結晶化させ、熱固定(ヒートセット)に付される。またダイレクトブロー成形や真空成形等の熱成形においても、熱による変形や容積の収縮変形を防止するため、容器の成形後に熱固定(ヒート・セット)することが行われているが、ポリエステルブレンド物においては効率よく成形することができる。
尚、アセプティック充填用容器の製造においては、耐熱性は必須ではないので一般に口部熱結晶化や熱固定は施されないが、容器殺菌の手法(熱水殺菌など)や販売形態(ホットウォーマー販売など)等の都合に応じて適宜行うことができる。
【0027】
尚、本発明のポリエステル容器は、ボトルやカップ、或いはトレイ等の最終成形品は勿論、例えば容器がカップ、トレイの場合はシートやブランク、二軸延伸ブローボトルの場合はプリフォーム等の前駆体も含むものである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
1.[固有粘度の測定]
ポリエステル樹脂またはプリフォームを約3g凍結粉砕して140℃15分間乾燥した後、0.20g計量し、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール(1/1)(重量比)の混合溶媒を20ml用いて120℃で15分間撹拌して完全に溶解して室温まで冷却した後グラスフィルターを通して試料とする。ブレンド後に関しては、成形時と同じ重量比でポリエステル樹脂を混合した後、凍結粉砕した。25℃に温調されたウベローデ粘度計((株)離合社製)を用いて試料および溶媒の落下時間を計測し、次式により固有粘度[η]を求めた。
[η]=(−1+√(1+4K’ηSp))/2K’C
ηSp=(τ−τ)τ
ここで、
[η]:固有粘度(dl/g)
ηSp:比粘度(−)
K’:ハギンスの恒数(=0.33)
C:濃度(=1g/dl)
τ:試料の落下時間(sec)
τ:溶媒の落下時間(sec)
【0030】
2.[末端カルボキシル基の測定]
ポリエステル樹脂またはプリフォームを冷凍粉砕して140℃15分間乾燥した後、0.10g計量し、ベンジルアルコールを3ml用いて窒素吹き込み下、205℃3分間で溶解させる。室温まで冷却後、クロロホルム5mlを加えフェノールレッド指示薬を滴下し、0.1N NaOHにて滴定して末端カルボキシル基〔COOH〕を求める。末端カルボキシル基〔COOH〕は1×10g当たりのカルボキシル基濃度(eq/ton)である。
末端カルボキシル基〔COOH〕は下記式から算出した。
【0031】
【数1】

A:サンプル滴定量(μl)
B:ブランク滴定量(μl)
F:0.1NNaOHのfactor(力価)
W:サンプル重量(g)
【0032】
3.[プリフォーム成形]
150℃で4時間乾燥したポリエステル樹脂をホッパーへ供給し、成形温度としてバレルの設定温度が280℃に設定された射出成形機を用いて28gの500ml用耐熱型プリフォームを作成した。このとき金型温度は15℃に設定し、成形サイクルを33秒とした。
【0033】
4.[ボトル成形]
(1)口部結晶化方法
射出成形機を用いて作製したプリフォームを、40秒間で室温から150℃に昇温し、その後30秒間で180℃に昇温後、さらに30秒間180℃保持するように設定された加熱結晶化装置で口部を熱結晶化させた。
(2)ブロー成形
口部結晶化されたプリフォームを赤外線加熱で18秒間加熱し、105℃の延伸温度に達した後ブロー金型内に挿入した。ブロー金型内に設置されたプリフォームを、ストレッチロッドにより縦方向延伸すると共にエアブローにより横方向延伸することで二軸延伸ボトルを成形した。この時、ブローエアーは28℃に調整し、プレブロー圧は0.9MPa、メインブロー圧は3.7MPaに設定した。また、金型温度は150℃に設定し熱固定した。
【0034】
5.[加水分解処理]
オートクレーブを用いてポリエステル樹脂を各実施例、比較例に記した設定温度・設定時間で加水分解処理した。
加水分解処理条件は、液温20℃から加温処理を開始し、15分間で液温が設定温度および所定圧力になるように制御(時間比例制御)し、設定時間処理後、15分間で液温20℃及び内圧が大気圧になるように制御する。
【0035】
6.[評価、測定]
(1)アセトアルデヒド濃度の測定
成形したプリフォームを切り出し、凍結粉砕した後1gをバイアル瓶に精秤し、超純水5mlを加えて蓋をした。超純水と試料を良く振り混ぜてから、あらかじめ120℃に設定した電気オーブンにて60分加熱した。加熱後、氷冷して静置し、上澄みを1ml取り出して、0.1%2,4−ジニトロフェニルヒドラジン・リン酸0.2mlを加えてキャップを閉め、30分以上室温で放置した。高速液体クロマトグラフィー(東ソー(株)製・高速液体クロマトグラフィーシステム:CCP&8020システム、カラム:Inertsil ODS−2 2.1mm×150mm、検知器:UV、360nm、溶媒:蒸留水:アセトニトリル=0.47:0.53混合溶媒、注入量:15μL)を用いて、得られた試料溶液中のアセトアルデヒド濃度(ppm)を測定した。
【0036】
(2)口部結晶化の評価
口部結晶化の評価は、目視と示差走査熱量計(DSC)測定により行った。DSC測定はプリフォーム10mgを切り出し、40℃から300℃まで昇温速度10℃/minで測定したときの結晶化発熱ピーク温度からもとめた。ピーク温度が低いほど結晶化が早いことを表し、参考例の150℃と同程度かそれ以下であることが好ましい(表2参照)。
目視の評価では、参考例を指標として口部全体が十分白化しているものを○、十分に白化していないものを×とした。
【0037】
(3)ボトルフレーバー特性の官能評価
ブロー成形されたボトルにあらかじめ無味無臭であることを確認した蒸留水を充填し、65℃で30分間殺菌処理を行った。殺菌処理後、37℃で1ヶ月間保管したものについて、10人のパネラーによる評点法フレーバー試験を実施し、無味あるいはわずかに味がするものを○、味がするものを△、かなり味がするものを×とした。
【0038】
(実施例1)
高純度テレフタル酸 13kg、エチレングリコール 5.05kg、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド20%水溶液6.88gをオートクレーブに仕込み、圧力1.7kg/cm2、260℃の窒素雰囲気下にて6時間、撹拌しながら反応させた。この反応により生成した水は常時系外に留去した。次にテトラ−n−ブチルチタネート201gを反応系に加え、20分間撹拌した後、85%リン酸1.26gを加えた。1時間かけて280℃まで昇温し、系内を2torrまで減圧し、さらに50分反応させ、エチレングリコールを系外に留去した。
反応終了後、反応物を反応器外にストランド状に抜き出し、水中に浸漬、冷却した後、ストランドカッターによりチップ状に裁断した。以上の液相重合によって得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.64dl/gであり、COOH基濃度は25eq/tonであった。
【0039】
このように液相重合して得られたポリエチレンテレフタレートはさらに、窒素雰囲気下170℃、2時間で乾燥するとともに結晶化を行った後、バッチ式固相重合装置で、窒素流量をポリエチレンテレフタレート1kgに対して、22Nm/hrとし、窒素雰囲気下215℃で12時間固相重合を行った。このようにして得られたポリエチレンテレフタレートの固有粘度は0.86dl/gであり、末端カルボキシル基濃度は20eq/tonであった。この樹脂をベース樹脂1とし、要目を表1に示す。
【0040】
このポリエチレンテレフタレート樹脂を150℃で4時間、加水分解処理を行った。処理後、樹脂を取り出し、150℃で4時間乾燥した樹脂の固有粘度は、0.70dl/g、末端カルボキシル基濃度は30eq/tonであった。得られた樹脂をブレンド用樹脂とし、ベース樹脂1とブレンド用樹脂とを50:50の重量比でブレンドし、プリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびこのプリフォームから成形したボトルの評価結果を表2に示す。
【0041】
(実施例2)
ベース樹脂1とブレンド用樹脂とのブレンド比を重量比で70:30とした以外は実施例1と同様にプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0042】
(実施例3)
エチレングリコールの仕込量を4.96kgとし、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート201gの代わりに酢酸アンチモン252gを用い、固相重合時間を10時間とし、その他の製造要件は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレート樹脂を製造した。なお、液相重合時点の固有粘度は0.65dl/g、COOH基濃度は30eq/tonであり、固相重合後の固有粘度は0.85dl/g、末端カルボキシル基濃度は26eq/tonであった。この樹脂をベース樹脂2とし、要目を表1に示す。
このポリエチレンテレフタレート樹脂を125℃で6時間、加水分解処理を行った。処理後、樹脂を取り出し、150℃で4時間乾燥した樹脂の固有粘度は、0.75dl/g、末端カルボキシル基濃度は33eq/tonであった。
得られた樹脂をブレンド用樹脂とし、ベース樹脂2とブレンド用樹脂とを50:50の重量比でブレンドして作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0043】
(実施例4)
エチレングリコールの仕込量を5.10kgとし、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート201gの代わりに二酸化ゲルマニウム105gを用い、固相重合時間を10時間とし、その他の製造要件は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレート樹脂を製造した。なお、液相重合時点の固有粘度は0.65dl/g、COOH基濃度は22eq/tonであり、固相重合後の固有粘度は0.84dl/g、末端カルボキシル基濃度は18eq/tonであった。この樹脂をベース樹脂3とし、要目を表1に示す。
このポリエチレンテレフタレート樹脂を125℃で8時間、加水分解処理を行った。処理後、樹脂を取り出し、150℃で4時間乾燥した樹脂の固有粘度は、0.75dl/g、末端カルボキシル基濃度は23eq/tonであった。
得られた樹脂をブレンド用樹脂とし、ベース樹脂3とブレンド用樹脂とを50:50の重量比でブレンドして得られた樹脂を用いて作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0044】
(実施例5)
エチレングリコールの仕込量を 5.22kgとした他は実施例1と同様にして、ポリエチレンテレフタレート樹脂を製造した。なお液相重合時点の固有粘度は0.64dl/g、COOH基濃度は18eq/tonであり、固相重合後の固有粘度は0.85dl/g、末端カルボキシル基濃度は15eq/tonであった。この樹脂をベース樹脂4とし、要目を表1に示す。
このポリエチレンテレフタレート樹脂を150℃で2時間、加水分解処理を行った。処理後、樹脂を取り出し、150℃で4時間乾燥した樹脂の固有粘度は、0.75dl/g、末端カルボキシル基濃度は22eq/tonであった。
得られた樹脂をブレンド用樹脂とし、ベース樹脂4とブレンド用樹脂とを30:70の重量比でブレンドして得られた樹脂を用いて作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0045】
(実施例6)
ベース樹脂1を用いて加水分解処理を150℃で5時間行い、ブレンド用樹脂を作製した。得られた樹脂の固有粘度は、0.60dl/g、末端カルボキシル基濃度は43eq/tonであった。
ベース樹脂1とこのブレンド用樹脂とを70:30の重量比でブレンドして得られた樹脂を用いて作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0046】
(実施例7)
ベース樹脂1を用いて加水分解処理を150℃で6時間で行い、ブレンド用樹脂を作製した。得られた樹脂の固有粘度は、0.55dl/g、末端カルボキシル基濃度は47eq/tonであった。
ベース樹脂1とこのブレンド用樹脂とを80:20の重量比でブレンドして得られた樹脂を用いて作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例4で作製したベース樹脂3の製造要件において固相重合時間を8時間とした他は同様にして、ポリエチレンテレフタレート樹脂を作製した。得られた樹脂の固有粘度は0.79dL/g、末端カルボキシル基濃度は18eq/tonであった。要目を表1に示す。
このポリエステル樹脂を他の樹脂とブレンドすることなくそのまま用いてプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0048】
(比較例2)
ベース樹脂1を他の樹脂とブレンドすることなくそのまま用いてプリフォームを成形した。得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0049】
(比較例3)
ベース樹脂1を用いて加水分解処理を150℃、0.5時間で行った。得られたブレンド用樹脂の固有粘度は、0.80dl/g、末端カルボキシル基濃度は23eq/tonであった。
ベース樹脂1とこのブレンド用樹脂とを50:50の重量比でブレンドして得られた樹脂を用いて作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0050】
(比較例4)
ベース樹脂1を用いて加水分解処理を150℃、8時間で行った。得られたブレンド用樹脂の固有粘度は、0.45dl/g、末端カルボキシル基濃度は55eq/tonであった。
ベース樹脂1とこのブレンド用樹脂とを95:5の重量比でブレンドして得られた樹脂を用いて作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0051】
(比較例5)
ベース樹脂4を用いて加水分解処理を150℃ 0.5時間で行った。得られたブレンド用樹脂の固有粘度は、0.81dl/g、末端カルボキシル基濃度は18eq/tonであった。
ベース樹脂1とこのブレンド用樹脂とを50:50の重量比でブレンドして得られた樹脂を用いて作製したプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0052】
(参考例)
重合触媒として二酸化ゲルマニウムを用いた市販の耐熱用ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いて、プリフォームを成形した。この樹脂の固有粘度は0.77dL/g、末端カルボキシル基濃度は9eq/tonであった。この樹脂の要目を表1に、得られたプリフォームおよびボトルの評価結果を表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
実施例1〜7では、固有粘度が0.8〜1.0のポリエステル樹脂であるベース樹脂に対して、その樹脂を加水分解処理して得られたブンレンド用樹脂をブンレンドして評価したが、ベース樹脂となりうる他のポリエステル樹脂とブンレドしても、同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のブレンド用ポリエステル樹脂は、固有粘度が0.3乃至0.75dL/gの範囲に低減されているため、固有粘度が高く結晶化速度の遅いポリエステル樹脂にブレンドすることにより、特に耐熱性容器を生産性よく成形することができるので、特に耐熱性容器の生産に好適に使用できる。
また耐熱性容器の生産のみならずアセプティック充填用容器にも好適に使用することができる。すなわち、アセプティック充填用容器は、内容物及び容器の両方を予め滅菌した状態で無菌状態で充填処理されるものであるため、一般に耐熱性が必要とされないが、内容物として水や茶飲料等、特に容器の風味保持性が要求される内容物が充填されることが多く、本発明のブレンド用ポリエステル樹脂を配合して得られたポリエステルブレンド物から成る容器は、上述したように内容物の風味低下の原因となるアセトアルデヒドが低減され、且つ成形時のアセトアルデヒドの副生も抑制されているため、特にアセトアルデヒド濃度が10ppm以下、特に8ppm以下に低減されているアセプティック充填用容器として提供するができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル容器の成形に用いられるエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂であって、液相重合及び固相重合により調製された固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲のポリエステル樹脂の固有粘度を0.3乃至0.75dL/gに低下させた、末端カルボキシル基濃度が20乃至50eq/tonであることを特徴とするブレンド用ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の固有粘度の低下が、加水分解処理によるものである請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記固有粘度が0.80乃至1.0dL/gの範囲にあるポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度が15乃至50eq/tonである請求項1又は2記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のポリエステル樹脂を、固有粘度が0.8乃至1.0dL/gのポリエステル樹脂と、10:90乃至50:50の重量比でブレンドして成るブレンド物から成るポリエステル容器。

【公開番号】特開2010−248291(P2010−248291A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96231(P2009−96231)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】