説明

ブレーカートッピング用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】低燃費性、硬度、破断時伸び、接着性をバランスよく改善できるブレーカートッピング用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分と、シリカと、硫黄と、特定の加硫促進剤と、下記式で表される化合物及び/又はその水和物と、ステアリン酸及び/又はステアリン酸コバルトとを含み、硫黄と該加硫促進剤の含有比率、ステアリン酸とステアリン酸コバルトの合計量がそれぞれ特定値であるブレーカートッピング用ゴム組成物に関する。
MOS−S−(CH−S−SO
(式中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーカートッピング用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのブレーカーに使用されるゴム組成物には、低燃費性、硬度、破断時伸び、スチールコードなどのコードとの接着性などの性能をバランスよく改善することが求められている。
【0003】
これらの性能を改善する方法として、天然ゴムとともに、変性ブタジエンゴムや1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴムなど、各種ブタジエンゴムを用いる方法などが知られている。
【0004】
しかし、混練中に天然ゴムとブタジエンゴムを完全に混合することは困難であるため、ブタジエンの塊が混入することがあり、また、ブタジエンゴムには合成時のゴム焼けの可能性もある。従って、天然ゴムとブタジエンゴムの混合ゴムでは、天然ゴムに比べて破壊強度が著しく低下し、コード剥離が発生し易く、混練性と合成時のゴム焼けの両面でフェイルセーフの考え方に反しているという問題がある。
【0005】
また、ブレーカー用ゴム組成物には、ゴムの架橋反応による高硬度化のためにステアリン酸が使用されているが、接着反応についての詳細な検討はなされておらず、前述の性能バランスは充分に考慮されていない。
【0006】
特許文献1には、特定のベンゾチアゾリルスルフェンイミドと有機酸コバルトなどとを使用することが記載されているが、フェイルセーフを満足させながら、低燃費性、硬度、破断時伸び、接着性をバランスよく改善する点については未だ検討の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−7549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、硬度、破断時伸び、接着性をバランスよく改善できるブレーカートッピング用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム成分と、シリカと、硫黄と、下記式(1)で表される化合物と、下記式(2)で表される化合物及び/又はその水和物と、ステアリン酸及び/又はステアリン酸コバルトとを含み、硫黄の含有量/下記式(1)で表される化合物の含有量の比率は、2.1〜6.0であり、ゴム成分100質量部に対して、ステアリン酸及びステアリン酸コバルトの合計含有量は、ステアリン酸量に換算して0.5〜1質量部であるブレーカートッピング用ゴム組成物に関する。
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (2)
(式中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【0010】
上記ゴム組成物は、ステアリン酸コバルト以外の有機酸コバルトを含むことが好ましい。また、ゴム成分100質量部に対して、シリカの含有量が5〜60質量部、硫黄の含有量が4.5〜6質量部、上記式(2)で表される化合物及びその水和物の合計含有量が0.2〜5質量部、コバルトの含有量が0.05〜0.15質量部であることが好ましい。
【0011】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が50質量%以上、変性スチレンブタジエンゴムの含有量が50質量%以下であることが好ましい。
【0012】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が100質量%であることが好ましい。
【0013】
上記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、レゾルシノール樹脂、変性レゾルシノール樹脂、クレゾール樹脂及び変性クレゾール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を0.5〜4質量部含むことが好ましい。
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したブレーカーを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゴム成分、シリカ、硫黄、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び/又はその水和物、並びにステアリン酸及び/又はステアリン酸コバルトを含むブレーカートッピング用ゴム組成物において、硫黄量/式(1)の化合物量で示される含有比率と、ステアリン酸とステアリン酸コバルトの合計量(ステアリン酸換算量)とを特定値に調整したものであるため、低燃費性、硬度、破断時伸び、接着性をバランスよく改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のブレーカートッピング用ゴム組成物は、ゴム成分と、シリカと、硫黄と、式(1)で表される化合物と、式(2)で表される化合物及び/又はその水和物と、ステアリン酸及び/又はステアリン酸コバルトとを含み、硫黄と式(1)の化合物の含有比率、ステアリン酸とステアリン酸コバルトの合計量がそれぞれ特定値に調整されている。
【0016】
本発明において前述の効果を奏する理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
ステアリン酸は、亜鉛華や加硫促進剤とともに中間体を形成することで、亜鉛華上に吸着された硫黄が接着層へリリースされるのを妨げる。このため、従来の配合例では、接着層付近で硫黄が不足し、充分な接着性が得られなかった。一方、本発明では、前記の配合材料において、硫黄量と式(1)で表される特定の加硫促進剤の含有比率と、ステアリン酸とステアリン酸コバルトの合計量とを特定値に調整しているため、接着層付近での硫黄不足が解消され、ポリマー−硫黄−タイヤコード(Cu)の結合が良好に形成される。その結果、良好な接着性が得られるとともに、低燃費性、硬度、破断時伸びをバランスよく改善できる。
【0017】
さらに、ゴム成分として多量のイソプレン系ゴムを使用すること、例えばイソプレン系ゴムのみを使用することで、前述の性能を顕著に改善できるとともに、ブタジエンゴムの使用に起因する性能低下リスクを回避できフェイルセーフを達成できる。
【0018】
本発明で使用できるゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、低燃費性、硬度、破断時伸び、接着性の性能バランスを顕著に改善できるという理由から、イソプレン系ゴムが好ましい。また、イソプレン系ゴムと併用しても相分離せず、良好なリバージョン性、低燃費性、硬度が得られるという理由から、SBRを併用してもよい。
【0019】
イソプレン系ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)などが挙げられる。なかでも、前述の性能バランスに優れるという理由から、NRが好ましい。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0020】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。50質量%未満であると、充分な破断時伸びが得られないおそれがある。
【0021】
上記SBRとしては、特に限定されないが、優れたリバージョン性、低燃費性、硬度が得られるという点から、特開2010−111753号公報に記載されている下記式(3)で表される化合物で変性されたもの(変性SBR)を好適に使用できる。
【0022】
【化2】

(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは1〜4のアルコキシ基)、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)を表す。nは整数(好ましくは1〜5、より好ましくは3)を表す。)
【0023】
、R及びRとしては、アルコキシ基が望ましく、R及びRとしては、水素原子が望ましい。これにより、優れた低燃費性、硬度が得られる。
【0024】
上記式(3)で表される化合物の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
上記式(3)で表される化合物(変性剤)によるスチレンブタジエンゴムの変性方法としては、特公平6−53768号公報、特公平6−57767号公報、特表2003−514078号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を使用できる。例えば、スチレンブタジエンゴムと変性剤とを接触させることで変性でき、具体的には、アニオン重合によるスチレンブタジエンゴムの調製後、該ゴム溶液中に変性剤を所定量添加し、スチレンブタジエンゴムの重合末端(活性末端)と変性剤とを反応させる方法などが挙げられる。
【0026】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量の下限は特に限定されないが、好ましくは10質量%以上であり、上限は好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0027】
イソプレン系ゴム及びSBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム及びSBRの合計含有量は、好ましくは100質量%である。これにより、良好な低燃費性、硬度が得られ、フェイルセーフを達成できる。
【0028】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0029】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは160m/g以上である。100m/g未満では、破断時伸びが低下する傾向がある。該NSAは、好ましくは220m/g以下、より好ましくは180m/g以下である。220m/gを超えると、低燃費性、加工性が低下する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0030】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。5質量部未満であると、充分な接着性(特に湿熱劣化後)が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。60質量部を超えると、硬度、低燃費性が低下するおそれがある。
【0031】
本発明のゴム組成物は、シリカとともにシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドがより好ましい。
【0032】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。1質量部未満であると、破壊時伸びが低下する傾向がある。該含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。15質量部を超えると、シランカップリング剤を添加することによる破壊時伸びの増加や転がり抵抗低減などの効果が得られない傾向がある。
【0033】
本発明のゴム組成物はカーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、良好な補強性が得られ、優れた硬度、破断時伸び、耐紫外線劣化性などが得られる。
【0034】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は40m/g以上が好ましく、70m/g以上がより好ましい。40m/g未満では、充分な破断時伸びが得られないおそれがある。該NSAは200m/g以下が好ましく、90m/g以下がより好ましい。200m/gを超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0035】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であると、前述の性能が良好に得られる。
【0036】
カーボンブラックを配合する場合、シリカ及びカーボンブラックの合計100質量%中のカーボンブラックの含有率は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。また、該カーボンブラックの含有率は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。上記範囲内であると、前述の性能バランスが良好となる傾向がある。
【0037】
硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは4.5質量部以上、より好ましくは5.0質量部以上である。4.5質量部未満では、硬度、接着性が低下するおそれがある。該含有量は好ましくは6質量部以下、より好ましくは5.6質量部以下である。6質量部を超えると、トッピングシートに加工する際、硫黄がシート表面にブルームし粘着加工性が大幅に悪化する傾向がある。また、湿熱劣化後の破断時伸び、低燃費性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明のゴム組成物は、下記式(1)で表される化合物を含む。
【化3】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
【0039】
のアルキル基としては、本発明の効果が良好に得られるという理由から、分岐構造を有するものが好ましい。分岐構造を有するアルキル基としては、−(CH−CH(kは1〜14の整数)で表される直鎖アルキル基における炭素鎖(CHを構成する少なくとも1個の水素原子をアルキル基で置換した分岐構造を有するもの(分岐構造を有する直鎖アルキル基)が好ましい。
【0040】
のアルキル基の炭素数は、3〜16が好ましく、4〜16がより好ましく、6〜12が更に好ましい。1では、吸着してしまう傾向があり、17以上では、硬度が低くなる傾向がある。
【0041】
の好ましいアルキル基としては、エチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2−エチルプロピル基、2−エチルブチル基、2−エチルペンチル基、2−エチルヘプチル基、2−エチルオクチル基などが挙げられる。
【0042】
のアルキル基としては、本発明の効果が良好に得られるという理由から、分岐構造を有するものが好ましい。分岐構造を有するアルキル基としては、前述のRの場合と同様のものが好ましい。
【0043】
のアルキル基の炭素数は、4〜16が好ましく、6〜12がより好ましい。2以下では、吸着してしまう傾向があり、17以上では、硬度が低くなる傾向がある。
【0044】
の好ましいアルキル基としては、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2−エチルプロピル基、2−エチルブチル基、2−エチルペンチル基、2−エチルヘプチル基、2−エチルオクチル基などが挙げられる。
【0045】
のベンゾチアゾリルスルフィド基は、下記式で表される基である。
【化4】

【0046】
のシクロアルキル基の炭素数は、3〜16が好ましい。Rの好ましいシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0047】
なお、優れた硬度が得られるという点から、Rがt−ブチル基の場合、Rはベンゾチアゾリルスルフィド基であることが好ましい。
【0048】
上記式(1)で表される化合物としては、川口化学工業(株)製のBEHZ(N,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、川口化学工業(株)製のBMHZ(N,N−ジ(2−メチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、フレキシス(株)製のサントキュアーTBSI(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド)、大内新興化学工業(株)製のETZ(N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド)などが挙げられる。
【0049】
上記式(1)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.75質量部以上、より好ましくは1.1質量部以上である。0.75質量部未満では、硬度が低下するおそれがある。該含有量は、好ましくは2.86質量部以下、より好ましくは1.9質量部以下である。2.86質量部を超えると、接着性(特に湿熱劣化後)が低下する傾向がある。
【0050】
本発明のゴム組成物は、硫黄の含有量/上記式(1)で表される化合物の含有量(含有比率)が2.1〜6.0の関係を満たす。低燃費性、硬度、破断時伸び、接着性が良好に得られるという点から、2.2〜6.0の関係を満たすことが好ましく、2.5〜4.5の関係を満たすことがより好ましい。
【0051】
本発明のゴム組成物は、下記式(2)で表される化合物及び/又はその水和物を含む。
MOS−S−(CH−S−SOM (2)
(式中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【0052】
式(2)中、qは3〜10、好ましくは3〜6の整数である。3未満では、破断時伸びを充分に改善できないおそれがあり、10を超えると、分子量が増大するわりに破断時伸びなどの改善効果が小さい傾向がある。
【0053】
式(2)中、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトが好ましく、カリウムまたはナトリウムがより好ましい。また、式(2)で表される化合物の水和物としては、例えば、ナトリウム塩一水和物、ナトリウム塩二水和物などがあげられる。
【0054】
式(2)で表される化合物及びその水和物としては、チオ硫酸ナトリウム由来の誘導体、例えば、1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物が好ましい。
【0055】
上記式(2)で表される化合物及びその水和物の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.35質量部以上である。0.2質量部未満では、接着性(特に湿熱劣化後)が低下するおそれがある。該含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。5質量部を超えると、配合量に応じた改善効果が得られない傾向がある。
【0056】
なお、本発明では、式(2)で表される化合物及びその水和物が使用されるが、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物では、湿熱劣化後の接着性を充分に改善できない傾向がある。
【0057】
本発明では、ステアリン酸量換算で、所定量のステアリン酸及び/又はステアリン酸コバルト(ステアリン酸コバルト量から算出されるステアリン酸量)が使用される。
【0058】
ステアリン酸量換算のステアリン酸及びステアリン酸コバルトの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上、好ましくは0.6質量部以上である。0.5質量部未満では、硬度、低燃費性が低下するおそれがある。該含有量は、1質量部以下、好ましくは0.8質量部以下である。1質量部を超えると、接着性(特に湿熱劣化後)が低下する傾向がある。
【0059】
本発明のゴム組成物は、前述のとおり、ステアリン酸コバルトを配合してもよいが、その他の有機酸コバルトを配合してもよい。これにより、コードとゴムとの接着性を向上できる。有機酸コバルトとしては、例えば、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルトなどのホウ素含有有機酸コバルトなどが挙げられる。なかでも、接着性に優れるという理由から、ホウ素含有有機酸コバルトが好ましい。
【0060】
本発明のゴム組成物において、コバルトの含有量(ステアリン酸コバルト、他の有機酸コバルトなどに由来する全コバルト量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上である。0.05質量部未満では、接着性(特に湿熱劣化後)が悪化する傾向がある。該含有量は好ましくは0.15質量部以下、より好ましくは0.12質量部以下である。0.15質量部を超えると、破断時伸び(特に湿熱劣化後)が悪化する傾向がある。
【0061】
本発明のゴム組成物は、レゾルシノール樹脂、変性レゾルシノール樹脂、クレゾール樹脂及び変性クレゾール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、硬度、破断時伸び、接着性が高い次元で得られる。なかでも、良好な低燃費性、接着性が得られるという理由から、レゾルシノール樹脂、変性レゾルシノール樹脂がより好ましい。
【0062】
レゾルシノール樹脂としては、例えば、レゾルシノール・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。具体的には、住友化学工業(株)製のレゾルシノールなどが挙げられる。変性レゾルシノール樹脂としては、例えば、レゾルシノール樹脂の繰り返し単位の一部をアルキル化したものが挙げられる。具体的には、インドスペック社製のペナコライト樹脂B−18−S、B−20、田岡化学工業(株)製のスミカノール620、ユニロイヤル社製のR−6、スケネクタディー化学社製のSRF1501、アッシュランド化学社製のArofene7209などが挙げられる。
【0063】
レゾルシノール樹脂、変性レゾルシノール樹脂、クレゾール樹脂及び変性クレゾール樹脂の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.5質量部未満では、硬度、接着性(特に湿熱劣化後)が低下するおそれがある。該合計含有量は、好ましくは4質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。4質量部を超えると、破断時伸び(特に湿熱劣化後)が低下する傾向がある。
【0064】
本発明のゴム組成物は、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)の部分縮合物及び/又はヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物を含むことが好ましい。これにより、コードとゴム接着層を強化できる。なかでも、優れた接着性が得られるという理由から、HMMPMEの部分縮合物が好ましい。
【0065】
良好な接着性、低燃費性が得られるという理由から、HMMMの部分縮合物及びHMMPMEの部分縮合物の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.7質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下である。
【0066】
なお、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)を使用すると、コードとの接着性が充分ではなく、耐久性が低下する。
【0067】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、各種老化防止剤、酸化亜鉛などを適宜配合できる。
【0068】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0069】
本発明のブレーカートッピング用ゴム組成物は、トレッドの内部で、かつカーカスの半径方向外側に配されるブレーカーに使用される。具体的には、特開2004−67027号公報の図1などに示されるブレーカーに使用される。
【0070】
本発明の空気入りタイヤは、タイヤコードを上記ブレーカートッピング用ゴム組成物で被覆してブレーカーの形状に成形したのち、他のタイヤ部材と貼りあわせて未加硫タイヤを成形し、加硫することによって製造できる。
【実施例】
【0071】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0072】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
変性SBR:JSR(株)製のHPR340(変性S−SBR、結合スチレン量:10質量%、Tg:−64℃、アルコキシシランでカップリングし末端に導入、式(3)で表される化合物により変性(R〜R=メトキシ基、R〜R=水素原子、n=3))
シリカ:デグッサ社製のULTRASIL VN3(NSA:175m/g)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックN326(NSA:84m/g、DBP吸油量74cm/100g)
ホウ素ネオデカン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のDicnate NBC−II(ホウ素3ネオデカン酸コバルト、コバルト含有量:22.0質量%)
ネオデカン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のネオデカン酸コバルト(コバルト含有量:14.0質量%)
ステアリン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のcost−F(コバルト含有量:9.5質量%、ステアリン酸含有量:90.5質量%)
シランカップリング剤:テグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
ハイブリッド架橋剤:フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)
V200:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)
老化防止剤:FLEXSYS(株)製のFLECTOL TMQ
ステアリン酸:日油(株)製の椿
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
20%オイル含有不溶性硫黄:フレキシス(株)製のクリステックスHSOT20(硫黄80質量%及びオイル分20質量%を含む不溶性硫黄)
加硫促進剤(TBSI):フレキシス(株)製のサントキュアーTBSI(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド)(下記式)
【化5】

加硫促進剤(BEHZ):川口化学工業(株)製のBEHZ(N,N−ジ(2−エチルヘキシル)−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)(下記式)
【化6】

加硫促進剤(ETZ):大内新興化学工業(株)製のETZ(N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド)(下記式)
【化7】

スミカノール620:田岡化学工業(株)製のスミカノール620(変性レゾルシノール樹脂(変性レゾルシノール・ホルムアルデヒド縮合物))
スミカノール507A:住友化学工業(株)製のスミカノール507A(変性エーテル化メチロールメラミン樹脂(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物)、シリカとオイル35質量%含有)
【0073】
表1〜4に示す配合に従って、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進剤、ハイブリッド架橋剤及びスミカノール507A以外の薬品を混練りした。次に、ロールを用いて、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤、ハイブリッド架橋剤及びスミカノール507Aを添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫して加硫ゴム組成物を得た。
【0074】
また、得られた加硫ゴム組成物を温度80℃、湿度95%の条件下で150時間、湿熱劣化し、湿熱劣化品を得た。
【0075】
加硫ゴム組成物(新品、湿熱劣化品)を下記により評価し、結果を表1〜4に示した。
【0076】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%及び動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物(新品)の複素弾性率E(MPa)及び損失正接tanδを測定した。Eが大きいほど剛性が高く、硬度(操縦安定性)が優れることを示し、tanδが小さいほど発熱性が低く、低燃費性が優れることを示す。なお、Eが4.5以上、tanδが0.11以下であれば実用上問題ない。
【0077】
(引張試験)
加硫ゴム組成物(新品、湿熱劣化品)からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸びに優れることを示す。なお、EBが新品で300以上、劣化品で200以上であれば実用上問題ない。
【0078】
(接着試験(剥離後ゴム付き評点))
加硫ゴム組成物(新品、湿熱劣化品)について、剥離試験用サンプルを用いて接着試験を行い、剥離後のゴム被覆率(スチールコードとゴム間を剥離したときの剥離面のゴムの覆われている割合)を測定し、5点満点で表示した。5点は全面が覆われ、0点は全く覆われていない状態を示す。評点の大きい方がスチールコードとの接着性が良好である。なお、評点が新品で3点以上、劣化品で2点以上であれば実用上問題ない。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
シリカ、HTSとともに、硫黄及び特定の加硫促進剤(TBSI、BEHZ、ETZ)を特定比率で配合し、かつステアリン酸又はステアリン酸コバルトを特定量用いた実施例では、低燃費性、硬度、破断時伸び、接着性がバランスよく得られた。また、これらの実施例ではBRを用いなかったためフェイルセーフが達成された。一方、該比率やステアリン酸量が特定の範囲外である比較例では、いずれかの性能が充分に得られず、高性能なブレーカーを作成できないことが明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、シリカと、硫黄と、下記式(1)で表される化合物と、下記式(2)で表される化合物及び/又はその水和物と、ステアリン酸及び/又はステアリン酸コバルトとを含み、
硫黄の含有量/下記式(1)で表される化合物の含有量の比率は、2.1〜6.0であり、
ゴム成分100質量部に対して、ステアリン酸及びステアリン酸コバルトの合計含有量は、ステアリン酸量に換算して0.5〜1質量部であるブレーカートッピング用ゴム組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜16のアルキル基を表す。Rは炭素数3〜16のアルキル基、ベンゾチアゾリルスルフィド基又はシクロアルキル基を表す。)
MOS−S−(CH−S−SOM (2)
(式中、qは3〜10の整数を表す。Mは、同一若しくは異なって、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケル又はコバルトを表す。)
【請求項2】
ステアリン酸コバルト以外の有機酸コバルトを含む請求項1記載のブレーカートッピング用ゴム組成物。
【請求項3】
ゴム成分100質量部に対して、シリカの含有量が5〜60質量部、硫黄の含有量が4.5〜6質量部、前記式(2)で表される化合物及びその水和物の合計含有量が0.2〜5質量部、コバルトの含有量が0.05〜0.15質量部である請求項1又は2記載のブレーカートッピング用ゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が50質量%以上、変性スチレンブタジエンゴムの含有量が50質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のブレーカートッピング用ゴム組成物。
【請求項5】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が100質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のブレーカートッピング用ゴム組成物。
【請求項6】
ゴム成分100質量部に対して、レゾルシノール樹脂、変性レゾルシノール樹脂、クレゾール樹脂及び変性クレゾール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を0.5〜4質量部含む請求項1〜5のいずれかに記載のブレーカートッピング用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したブレーカーを有する空気入りタイヤ。


【公開番号】特開2012−236958(P2012−236958A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108621(P2011−108621)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】