説明

ブレーキアクチュエータ

【課題】ブレーキシステムのコストダウンを図ることができるブレーキアクチュエータを提供する。
【解決手段】第2ブレーキ系110aおよび第1ブレーキ系110bに、タンデム式のマスタシリンダ34における第1圧力室56bおよび第2液圧室56aにそれぞれ接続される導入ポート26bおよび導入ポート26a、モータシリンダ装置16を接続する導入ポート26c、26d、マスタシリンダ34とのブレーキ液の流通を遮断する第1遮断弁60bおよび第2遮断弁60a、第1遮断弁60bの下流圧を検出する圧力センサPp、第2遮断弁60aの上流圧を検出する圧力センサPm、ストロークシミュレータ64、第3遮断弁62、を一体に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムに適用できるブレーキアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
バイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムは、運転者のブレーキ操作を電気信号に変換し、その信号を利用して外部圧力源を作動させて車輪(ホイールシリンダ)に必要な制動力が加えられる。また、外部圧力源と車輪との間には、外部圧力源からの液圧を増圧、減圧してブレーキペダルの操作量に対応した大きさとなるような制御や制動時に車輪のスリップが過大となることを防止するアンチロック制御を行うブレーキアクチュエータが搭載されたものが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−007874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のブレーキアクチュエータを備えたブレーキシステムでは、マスタシリンダからの液圧がブレーキアクチュエータに与えられるのを遮断するバルブ、ストロークシミュレータ、センサなどがマスタシリンダを構成するハウジングに設けられていたため、マスタシリンダを構成するハウジングと、ブレーキアクチュエータを構成するハウジングについてそれぞれ液路を加工しなければならずコスト高となる問題があった。また、バルブやセンサを電気的に接続するためのハーネスやコネクタをそれぞれのハウジングについて設けなければならず、この点においてもコスト高となっていた。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するものであり、ブレーキシステムのコストダウンを図ることができるブレーキアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の各車輪に対応して設けられたホイールシリンダに各々接続される4つの出力ポートと、タンデム式のマスタシリンダにおける第1液圧室および第2液圧室にそれぞれ接続される第1入力ポートおよび第2入力ポートと、前記第1入力ポートと前記出力ポートとの間を遮断する常開式の第1遮断弁と、前記第2入力ポートと前記出力ポートとの間を遮断する常開式の第2遮断弁と、前記第1入力ポートおよび前記第2入力ポートの一方において、前記第1遮断弁または前記第2遮断弁の上流側に設けられるストロークシミュレータと、前記ストロークシミュレータと前記第1入力ポートまたは前記第2入力ポートとの連通を選択的に開放する常閉式の踏力遮断弁と、前記第1遮断弁と前記ホイールシリンダとの間の供給液路、および、前記第2遮断弁と前記ホイールシリンダとの間の供給液路にそれぞれ接続され、選択的に外部圧力源を接続する第3入力ポートと、前記第1入力ポートにおいて、前記第1遮断弁の下流側に設けられる第1圧力センサと、前記第2入力ポートにおいて、前記第2遮断弁の上流側に設けられる第2圧力センサと、前記供給液路にサクションバルブを介して接続され、前記サクションバルブを経由した作動液または低圧源の作動液を吸液して加圧し、前記供給液路に供給するポンプと、前記ポンプの上流と下流の差圧を調整するレギュレータバルブと、前記ホイールシリンダの作動液を前記低圧源側に移動することにより前記ホイールシリンダを減圧する常閉式減圧弁と、前記供給液路と前記ホイールシリンダとの間を選択的に遮断する常開式加圧弁と、を一体に備えることを特徴とする。
【0007】
本発明では、レギュレータバルブ、常閉式減圧弁、常開式加圧弁、ポンプなどを備えた構成に、さらにバルブ類(第1遮断弁、第2遮断弁、踏力遮断弁)、ストロークシミュレータ、センサ類(第1圧力センサおよび第2圧力センサ)を一体化して構成したものである。これにより、マスタシリンダに前記バルブ類やセンサ類を設ける必要がなくなるので、マスタシリンダとして量産品を使用することが可能になり、しかも油路(液圧路)の加工がブレーキアクチュエータ側ですべて行うことができるのでコストダウンが可能となる。また、バルブ類やセンサ類の電極、マスタシリンダ側に設けられていたハウジングをブレーキアクチュエータに集中させることができるので、さらなるコストダウンが可能となる。
【0008】
その結果、従来別個に設けられていた第1遮断弁、第2遮断弁、ストロークシミュレータ、踏力遮断弁、第1圧力センサおよび第2圧力センサを接続するハーネスおよびコネクタを削減でき、コストダウンが可能となる。
【0009】
また、外部圧力源(実施形態に記載のモータシリンダ装置に相当)を接続する第3入力ポートを備えることで、バイ・ワイヤ式のブレーキアクチュエータを備えたシステム(両用ブレーキシステム)に容易に適用することができ、バイ・ワイヤ式で駆動する際にストロークシミュレータにより反力を発生させることができる。
【0010】
また、前記第3入力ポートを機械的に閉塞した状態において、前記第1遮断弁および前記第2遮断弁を閉じるとともに前記踏力遮断弁を開放し、前記第2圧力センサの検知信号に基づいて、前記ポンプおよび前記レギュレータバルブを駆動することにより前記第1圧力センサの検出値が前記第2圧力センサの検知信号に対応した値となるように制御する内部バイ・ワイヤ制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
これによれば、特段の外部圧力源(液圧発生手段)を用いなくても適切な反力を付与しながら、バイ・ワイヤ式の車両用ブレーキシステムを実現できる。すなわち、第3入力ポートに外部圧力源を接続しない構成においても、第1遮断弁および第2遮断弁を閉じて踏力遮断弁を開放することにより、ストロークシミュレータにより反力を発生させつつ、ポンプおよびレギュレータバルブを制御することにより制動力を発生させることができる。これにより、回生ブレーキシステムなど、外部の要求によりバイ・ワイヤ式のブレーキが必要とされるモードに簡易的に対応することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブレーキシステムのコストダウンを図ることができるブレーキアクチュエータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキアクチュエータが適用された車両用ブレーキシステムの車両における配置構成を示す図である。
【図2】車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【図3】本実施形態に係るブレーキアクチュエータを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)上面図である。
【図4】本実施形態に係るブレーキアクチュエータを示す分解斜視図である。
【図5】本実施形態に係るブレーキアクチュエータを備えた車両用ブレーキシステムにおける制動方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキアクチュエータが適用された車両用ブレーキシステムの車両における配置構成を示す図である。なお、車両Vの前後左右の方向を図1に矢印で示す。なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0015】
本実施形態に係るブレーキアクチュエータ18を備えた車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0016】
図1に示すように、ブレーキアクチュエータ18は、マスタシリンダ装置14およびモータシリンダ装置16(外部圧力源)と接続されて車両用ブレーキシステム10を構成している。なお、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動車、後輪駆動車、四輪駆動車のいずれにも適用可能である。
【0017】
マスタシリンダ装置14は、ここでは右ハンドル車に適用するものであり、ダッシュボード2の車幅方向の右側にボルト等を介して固定されている。なお、マスタシリンダ装置14は、左ハンドル車に適用されるものであってもよい。
【0018】
モータシリンダ装置16は、例えば、マスタシリンダ装置14とは逆側の車幅方向の左側に配置され、左側のサイドフレーム等の車体に取付用ブラケット(図示せず)を介して取り付けられている。なお、モータシリンダ装置16は、運転者のブレーキ操作に応じた電気信号だけではなく、他の物理量に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するように構成されていてもよい。他の物理量に応じた電気信号とは、例えば、自動ブレーキシステムのような、運転者のブレーキ操作によらずに、ECU(Electronic Control Unit)が車両Vの周囲の状況をセンサ等で判断して、車両Vの衝突等を回避するための信号などである。
【0019】
ブレーキアクチュエータ18は、例えば、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能、加速時などの車輪空転を防ぐTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、旋回時の横すべりを抑制する機能などを備えて構成されており、例えば、車幅方向の右側の前端に、ブラケットを介して車体に取り付けられている。なお、ブレーキアクチュエータ18は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS機能のみを有する機能を備えていてもよい。
【0020】
また、ブレーキアクチュエータ18は、車両Vのダッシュボード2の前方に設けられたエンジンや走行用モータ等の構造物3が搭載される構造物搭載室Rに、配管チューブ22a、22bを介してマスタシリンダ装置14と接続され、配管22c、22dを介してモータシリンダ装置16と接続され、マスタシリンダ装置14とモータシリンダ装置16と互いに分離して配置されている。
【0021】
図2は、車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【0022】
ブレーキアクチュエータ18には、4つの導出ポート(出力ポート)28a、28b、28c、28dが設けられる。導出ポート28aは、配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。導出ポート28bは、配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。導出ポート28cは、配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。導出ポート28dは、配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
【0023】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液(ブレーキフルード)がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。なお、ブレーキアクチュエータ18の詳細な構成については、マスタシリンダ装置14とモータシリンダ装置16を説明した後に説明する。
【0024】
マスタシリンダ装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する第2ピストン40a及び第1ピストン40bが摺動自在に配設される。第2ピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、第1ピストン40bは、第2ピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0025】
この第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面には、環状段部を介して一対のカップシール44a、44bがそれぞれ装着される。一対のカップシール44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、第2ピストン40aと第1ピストン40bとの間には、ばね部材50aが配設され、第1ピストン40bとシリンダチューブ38の前端部との間には、他のばね部材50bが配設される。
【0026】
なお、第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面にカップシール44a、44bをそれぞれ設ける代わりに、シリンダチューブ38の内周面にパッキンをそれぞれ配設してもよい。
【0027】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0028】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第2圧力室56a及び第1圧力室56bが設けられる。第2圧力室56aは、出力ポート54aと連通するように設けられ、第1圧力室56bは、出力ポート54bと連通するように設けられる。
【0029】
モータシリンダ装置16は、電動式のモータ72の駆動力によって第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置である。なお、モータシリンダ装置16において、ブレーキ液圧を発生させる(上昇させる)ときの第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの移動方向(図2中矢印X1方向)を「前」とし、その反対方向(図2中矢印X2方向)を「後」とする。
【0030】
モータシリンダ装置16は、軸方向に移動可能な第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを内蔵するシリンダ部76と、第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを駆動するためのモータ72と、モータ72の駆動力を第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bに伝達するための駆動力伝達部73とを備えている。
【0031】
駆動力伝達部73は、モータ72の回転駆動力を伝達するギア機構(減速機構)78と、この回転駆動力をボールねじ軸(スクリュー)80aの軸方向に沿った直線方向駆動力に変換するボールねじ構造体80と、を含む駆動力伝達機構74を有している。
【0032】
ギア機構78は、モータ72の出力軸に固定されたピニオンギア78aと、ピニオンギア78aに噛合されるアイドルギア78bと、アイドルギア78bに噛合されるリングギア78cとを備えている。
【0033】
ボールねじ構造体80は、モータ72の回転駆動力を受けることにより回転するナット80cと、ナット80cと係合(螺合)して軸方向に移動可能に設けられると共に前端が第2スレーブピストン88aに当接して第2スレーブピストン88a(ピストン)を押圧するボールねじ軸80a(スクリュー)と、ボールねじ軸80a上のねじ溝に転動可能に配置されるボール80b(図2参照)とを備えている。
【0034】
シリンダ部76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、マスタシリンダ装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
【0035】
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの前端に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
【0036】
第2スレーブピストン88aの外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールすると共に、第2スレーブピストン88aをその軸方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン230が、第2スレーブピストン88aの外周面に対向するように配置されている。ガイドピストン230の内周面にはスレーブカップシール90cが装着される。また、第2スレーブピストン88aの前端側の外周面には、環状段部を介してスレーブカップシール90bが装着される。スレーブカップシール90cとスレーブカップシール90bとの間には、後記するリザーバポート92aと連通する第2背室94aが形成される。そして、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2リターンスプリング96aが配設される。
【0037】
一方、第1スレーブピストン88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブカップシール90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブカップシール90a、90bの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第1背室94bが形成される。そして、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の前端部との間には、第1リターンスプリング96bが配設される。
【0038】
シリンダ部76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内のリザーバ室と連通するように設けられる。
【0039】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98bとが設けられる。
【0040】
なお、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bの最大離間距離と最小離間距離とを規制する規制手段100が設けられ、さらに、第1スレーブピストン88bには、前記第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときにおけるバックアップ時において、一系統の失陥時に他の系統の失陥が防止される。
【0041】
ブレーキアクチュエータ18は、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)を制御する第2ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)を制御する第1ブレーキ系110b、第2遮断弁(常開型の第2遮断弁)60a、第1遮断弁(常開型の第1遮断弁)60b、第3遮断弁(常閉式の踏力遮断弁)62、ストロークシミュレータ64、圧力センサ(第1圧力センサ)Pp、圧力センサ(第2圧力センサ)Pmを有する。
【0042】
なお、第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bと、各ディスクブレーキ機構30a、30b、30c、30dとの接続の組み合わせは、前記した組み合わせに限定されず、互いに独立した2系統が担保されれば、次のような組合せとすることができる。つまり、図示はしないが、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、左側後輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。また、第2ブレーキ系110aは、右側前輪及び左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、右側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0043】
この第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bとで対応するものには同一の参照符号を付すと共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで適宜付記する。
【0044】
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路(供給液路)112及び第2共通液圧路(供給液路)114を有する。
【0045】
第2ブレーキ系110aは、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液(作動液)の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ(常開式加圧弁)120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ(常開式加圧弁)124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0046】
さらに、第2ブレーキ系110aは、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ(常閉式減圧弁)128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ(常閉式減圧弁)130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ(低圧源)132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
【0047】
第2遮断弁60aは、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなり、第2ブレーキ系110aと導入ポート26aとを接続する第2液圧路(供給液路)58aに設けられる。この第2液圧路58aには、第2遮断弁60aの上流側に圧力センサPmが設けられる。この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知するものである。
【0048】
第1遮断弁60bは、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなり、第1ブレーキ系110bと導入ポート26bとを接続する第1液圧路(供給液路)58bに設けられる。この第1液圧路58bには、第1遮断弁60bの下流側に圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりもホイールシリンダ32RR、32FL側の下流側の液圧を検知するものである。
【0049】
この第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2において、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bは励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
【0050】
第3遮断弁62は、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなり、第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58eに設けられる。また、分岐液圧路58eには、ストロークシミュレータ64が第3遮断弁62と直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
【0051】
ストロークシミュレータ64は、第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58eに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液が吸収可能に設けられる。
【0052】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられる。
【0053】
また、第1液圧路58bには、第1遮断弁60bの下流において分岐して導入ポート26dと接続される第3液圧路58dが設けられる。また、第2液圧路58aには、第2遮断弁60aの下流において分岐して導入ポート26cと接続される第4液圧路58cが設けられる。
【0054】
図3は、本実施形態に係るブレーキアクチュエータを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)上面図である。図4は本実施形態に係るブレーキアクチュエータを示す分解斜視図である。
【0055】
図3に示すように、ブレーキアクチュエータ18は、流路(液路)などが形成されるハウジング200、制御装置300(図3(c)参照)、この制御装置300を収容する制御ボックス400、モータMを備えて構成される。
【0056】
ハウジング200は、略直方体形状のアルミニウム合金製の鋳造品などからなり、第2ブレーキ系110aおよび第1ブレーキ系110b(図2参照)に対応する流路(不図示)が形成されている。流路の形成については、公知の方法を採用できる。なお、図示していないが、ハウジング200内には、図2のブレーキアクチュエータ18に示す流路(液圧路)が形成されている。
【0057】
また、ハウジング200には、モータMが取り付けられる面200aに、前記導入ポート26a、26b、26c、26dが形成されている(図3(a)参照)。また、ハウジング200の上面200bには、前記導出ポート28a、28b、28c、28dが形成されている(図3(c)参照)。なお、モータMは、ポンプ136(図2参照)の動力源となるものであり、ハウジング200内に設けられる。また、モータMは、図示しない端子を備えており、この端子が制御装置300に設けられた接続端子(不図示)と接続される。
【0058】
制御ボックス400は、モータMが取り付けられる側の面200aとは反対側の面200c(図4参照)を覆う合成樹脂材料によって略直方体状に形成される。また、制御ボックス400の側面には、電源線および制御線の端子を有するコネクタ部301が設けられている(図3(b)参照)。このコネクタ部301には、ハーネスに設けられたコネクタ(不図示)が接続される。
【0059】
図4に示すように、ハウジング200には、制御ボックス400が取り付けられる側の面200cに、第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62が取り付けられる取付穴202が形成される。また、また、ハウジング200の面200cには、圧力センサPp、Pmが取り付けられる取付穴203が形成される。また、ハウジング200の面200cには、レギュレータバルブ116、第1インバルブ120、第2インバルブ124、第1アウトバルブ128、第2アウトバルブ130が取り付けられる取付穴201が形成される。なお、これら第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62、レギュレータバルブ116、第1インバルブ120、第2インバルブ124、第1アウトバルブ128、第2アウトバルブ130、圧力センサPp、Pmは、その一部(端子部分)がハウジング200の面200cから突出した状態で取り付けられる。
【0060】
また、ハウジング200の面(下面)200dには、ストロークシミュレータ64の構成部品(符号66a、66b、68:図2参照)が挿入される取付穴204が形成される。また、ハウジング200の面(側面)200eには、ポンプ136が取り付けられる取付穴205が形成される。なお、図示していないが、ハウジング200のもう一方の側面にも、同様にもう一方のポンプ136が取り付けられる取付穴が形成される。また、ハウジング200には、リザーバ132、132が取り付けられる取付穴(不図示)も形成される。
【0061】
制御ボックス400は、第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62、圧力センサPp、Pm、レギュレータバルブ116、第1インバルブ120、第2インバルブ124、第1アウトバルブ128、第2アウトバルブ130を覆うようにハウジング200の面200cに固着される。また、制御ボックス400の内部には、第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62、レギュレータバルブ116、第1インバルブ120、第2インバルブ124、第1アウトバルブ128、第2アウトバルブ130を駆動させるための電磁コイル(不図示)が設けられる。制御ボックス400内の制御装置300は、電磁コイル(不図示)やモータMの端子と接続されるように構成されている。
【0062】
制御装置400は、電子回路基板にCPU(Central Processing Unit)、プログラムを記憶したROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力部などが搭載されてなるものであり、圧力センサPm、Ppの検出値(上流液圧、下流液圧)、ブレーキペダル12の操作量を検出するストロークセンサS(図2参照)などの検出値に基づいて、第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62、レギュレータバルブ116、第1インバルブ120、第2インバルブ124、第1アウトバルブ128、第2アウトバルブ130およびモータMの作動を制御する。
【0063】
なお、ブレーキアクチュエータ18の近傍には、図示しない電力源(バッテリ)が配置されている。これにより、バルブ類(第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62)、センサ類(圧力センサPm、Pp)、モータMと距離を短くすることができるので、電圧の低下が起こり難くなり、バルブ類、センサ類、モータMの性能が低下するのを防止できる。
【0064】
本実施形態に係るブレーキアクチュエータ18を備えた車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0065】
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bが励磁で弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が励磁で弁開状態となる(図2参照)。従って、ブレーキアクチュエータ18の第2液圧路58aおよび第1液圧路58bが第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bを介して遮断されているため、マスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0066】
このとき、マスタシリンダ34の第1圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58e及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がリターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力が発生してブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0067】
このようなシステム状態において、制御装置300は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16のモータ72を駆動させ、モータ72の駆動力を駆動力伝達機構74を介して伝達し、第2リターンスプリング96a及び第1リターンスプリング96bのばね力に抗して第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを図2中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの変位によって第2液圧室98a及び第1液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0068】
このモータシリンダ装置16における第2液圧室98a及び第1液圧室98bのブレーキ液圧は、ブレーキアクチュエータ18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0069】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、外部圧力源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する制御装置300が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。
【0070】
また、ブレーキアクチュエータ18での第2ブレーキ系110aおよび第1ブレーキ系110bの動作(VSA制御時)について説明する。なお、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bは同様な構成であるので、以下では第2ブレーキ系110aを参照しながら説明する。
【0071】
運転者がブレーキペダル12を踏んだときには、レギュレータバルブ116が消磁して開弁し、第1インバルブ120および第2インバルブ124が消磁して開弁し、第1アウトバルブ128および第2アウトバルブ130が消磁して閉弁する。従って、作動中のモータシリンダ装置16の出力ポート24a、24bから出力されたブレーキ液圧は、レギュレータバルブ116から開弁状態にある第1インバルブ120および第2インバルブ124を経てホイールシリンダ32FR、32RLに供給され、車輪に制動力が付与される。
【0072】
また、運転者がブレーキペダル12を踏んでいないときには、サクションバルブ142を励磁して開弁した状態においてモータMでポンプ136を駆動すると、モータシリンダ装置16からサクションバルブ142を経て吸入されてポンプ136で加圧されたブレーキ液(作動液)が、レギュレータバルブ116および第1インバルブ120および第2インバルブ124に供給される。従って、レギュレータバルブ116を励磁して開度を調整することで第1共通液圧路112のブレーキ液圧を調圧するとともに、そのブレーキ液圧を励磁により開弁した第1インバルブ120および第2インバルブ124を介してホイールシリンダ32FR、32RLに選択的に供給することで、運転者がブレーキペダル12を踏んでいない状態でも、制動力を個別に制御することができる。
【0073】
したがって、ブレーキアクチュエータ18により四輪の制動力を個別に制御し、旋回内輪の制動力を増加させて旋回性能を高めたり、旋回外輪の制動力を増加させて直進安定性能を高めたりすることができる。
【0074】
また、衝突を回避するために運転者がブレーキペダル12を急激に踏んだときには、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧がポンプ136によって更に増圧され、その増圧されたブレーキ液圧でホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに最大限の制動力を発生させる。すなわち、レギュレータバルブ116を励磁して閉弁し、かつモータMでポンプ136を駆動すると、モータシリンダ装置16が発生したブレーキ液圧はサクションバルブ142を経てポンプ136に吸入され、そこで更に加圧された状態で第1インバルブ120および第2インバルブ124を経てホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに供給されることで、運転者のブレーキ操作をアシストして衝突回避のための大きな制動力を発生することができる。
【0075】
また、運転者がブレーキペダル12を踏んでの制動中に、例えば左側前輪が低摩擦係数路を踏んでロック傾向になったことを図示しない車輪速センサの出力に基づいて検出した場合には、第1ブレーキ系110bの第1インバルブ120を励磁して閉弁するとともに、第1アウトバルブ128を励磁して開弁することで、左側前輪のホイールシリンダ32FLのブレーキ液圧をリザーバ132に逃がして所定の圧力まで減圧した後、第1アウトバルブ128を消磁して閉弁することで、左側前輪のホイールシリンダ32FLのブレーキ液圧を保持する。その結果、左側前輪のホイールシリンダ32FLのロック傾向が解消に向かうと、第1インバルブ120を消磁して開弁することで、モータシリンダ装置16の出力ポート24bからのブレーキ液圧を左側前輪のホイールシリンダ32FLに供給して所定の圧力まで増圧することで、制動力を増加させる。
【0076】
この増圧によって左側前輪が再びロック傾向になった場合には、前記減圧→保持→増圧を繰り返すことにより、左側前輪のロックを抑制しながら制動距離を最小限に抑えるABS(アンチロック・ブレーキ・システム)制御を行うことができる。
【0077】
以上、左側前輪のホイールシリンダ32FLがロック傾向になったときのABS制御について説明したが、右側後輪のホイールシリンダ32RR、右側前輪のホイールシリンダ32FR、左側後輪のホイールシリンダ32RLがロック傾向になったときのABS制御も同様にして行うことができる。
【0078】
前記したVSA制御(ABS制御を含む)を実行している間、第1遮断弁60bおよび第2遮断弁60aが閉弁状態に維持されることで、ブレーキアクチュエータ18の作動による液圧変化がキックバックとなってマスタシリンダ34からブレーキペダル12に伝達されるのを防止することができる。
【0079】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態とし、第1インバルブ120、120および第2インバルブ124、124を自動的に弁開状態とし、第1アウトバルブ128、128および第2アウトバルブ130、130を自動的に弁閉状態とすることで、マスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0080】
また、本実施形態に係るブレーキアクチュエータ18では、図5に示すフローチャートに基づいた制御が行われる。以下では、モータシリンダ装置16が導入ポート26c、26dから切り離され、導入ポート26c、26dが機械的に閉塞された状態での制御について説明する。なお、機械的に閉塞された状態とは、モータシリンダ装置16がブレーキアクチュエータ18に取り付けられていない状態(導入ポート26c、26dに栓がされている状態)、モータシリンダ装置16が失陥した状態などである。また、以下に示す制動方法は、イグニションスイッチIG(不図示)を、車両Vの運転者がオンすることによって内部バイ・ワイヤ制御手段が開始される。
【0081】
まず、ステップS1で、制御装置300は、閉指示を、第1遮断弁60bおよび第2遮断弁60aに送信し、第1遮断弁60bおよび第2遮断弁60aを閉弁状態にする。この閉弁により、第1遮断弁60bおよび第2遮断弁60aの上流側(マスタシリンダ34側)と、下流側(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側)が、液圧を相互に伝達できないように遮断される。すなわち、上流側の液圧(上流液圧)が、下流側の液圧(下流液圧)として伝達されるのではなく、下流液圧を、上流液圧から独立して設定制御することが可能になる。
【0082】
また、制御装置300は、開指示を、第3遮断弁62に送信し、第3遮断弁62を開弁状態にする。第3遮断弁62が開弁することで、ストロークシミュレータ64が、ブレーキペダル12の操作にともなって流動するブレーキ液を吸収しつつ、ブレーキペダル12に適当な反力を作用させる。
【0083】
ステップS2で、制御装置300は、ストロークセンサ(操作量検出手段)Sが、ブレーキ操作(ブレーキ操作量)を検出したか否か判定する。運転者によるブレーキペダル(ブレーキ操作部)12の操作に対応するような所定値以上のブレーキ操作量を検出した場合は(ステップS2、Yes)、ステップS3へ進み、検出していない場合は(ステップS2、No)、ステップS2を繰り返す。
【0084】
ステップS3で、制御装置300は、運転者によるブレーキペダル操作で発生した上流液圧Puの値(上流液圧値)を取得する。上流液圧Pu(上流液圧値)は、圧力センサPmにより検出することができる。なお、ストロークセンサ(操作量検出手段)Sが検出したブレーキペダル12のブレーキ操作量(踏み込み操作量)に基づいて、予め求めておいたブレーキ操作量と上流液圧値の対応関係を利用し推定してもよい。
【0085】
ステップS4で、制御装置300は、第1遮断弁60bおよび第2遮断弁60aの下流に発生させる下流液圧Pdの目標値(目標下流液圧)を設定する。目標下流液圧は、圧力センサPmの値(上流液圧値)に基づいて決定することができる。すなわち、制御装置300は、例えば、上流液圧値が高くなるにつれて目標下流液圧も高くなるようなマップ(予め実験やシミュレーション等によって求められたもの)を備え、このマップに基づいて目標下流液圧を設定する。
【0086】
ステップS5で、制御装置300は、ブレーキアクチュエータ18(第1ブレーキ系110b、第2ブレーキ系110a)の制御を実施する。すなわち、制御装置300は、ステップS4で設定した目標下流液圧となるように、モータMを駆動してポンプ136、136を作動させるとともにレギュレータバルブ116、116を制御する。
【0087】
すなわち、モータMによってポンプ136が駆動されることで、ポンプ136で加圧されたブレーキ液(作動液)が、レギュレータバルブ116および第1インバルブ120および第2インバルブ124に供給される。従って、レギュレータバルブ116を励磁して開度を調整することで第1共通液圧路112のブレーキ液圧を調圧するとともに、そのブレーキ液圧を励磁により所定の開度に開弁した第1インバルブ120および第2インバルブ124を介してホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに供給することで、目標下流圧に対応した制動力を各車輪に与えることができる。なお、目標下流圧に到達したか否かは、圧力センサPpに基づいて判断することができる。
【0088】
ステップS6で、制御装置300は、イグニションスイッチIGが、運転者によってオフされたか否か判定し、オフされたと判定した場合には(Yes)、一連の制動方法を終了させ(エンド)、オフされていないと判定した場合には(No)、ステップS2に戻る。
【0089】
なお、前記した導入ポート26c、26dを機械的に閉塞した状態での制動方法(ブレーキシステム)では、モータMのみの動力に基づいて制動力を与える構成を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、前記した液圧による制動力(液圧制動力)に対して回生による制動力を考慮した構成であってもよい。制御装置300は、例えば、回生による制動力(回生制動力)を、ブレーキ操作量、高圧バッテリ(不図示)に貯えられる電気量(電荷、電力)や現在の充電電流の最大値等に基づいて算出する。さらに、制御装置300は、算出した回生制動力を総制動力から減算して液圧制動力を算出する。このように、回生制動力を考慮して液圧制動力を設定(配分)することにより、液圧制動力を低減することができ、モータMの消費電力を低減することが可能になる。なお、この配分方法は一例であり、これに限らず、様々な分配方法が適用可能である。
【0090】
なお、回生による制動力とは、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車において、モータ(走行モータ)を発電機として機能させ、走行時の運動エネルギを電気エネルギとして回収することで制動力を発生させるブレーキの一種である。
【0091】
また、導入ポート26c、26dを機械的に閉塞した状態での制動方法において、電源が失陥したとしても、第2遮断弁60aおよび第1遮断弁60bは自動的に開弁し、第3遮断弁62は自動的に閉弁し、第1インバルブ120および第2インバルブ124は自動的に開弁し、第1アウトバルブ128および第2アウトバルブ130は自動的に閉弁する。よって、マスタシリンダ34の第2圧力室54aおよび第1圧力室54bにおいて発生したブレーキ液圧は、ストロークシミュレータ64に吸収されることなく、第2遮断弁60aおよび第1遮断弁60bおよび第1インバルブ120および第2インバルブを通過して各車輪のホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLを作動させ、支障なく制動力を発生させることができる。
【0092】
以上説明したように、本実施形態に係るブレーキアクチュエータ18では、第2ブレーキ系110aおよび第1ブレーキ系110bに、第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62、圧力センサPm、Pp、ストロークシミュレータ64を一体にして構成したものである。これにより、量産品のマスタシリンダ34(マスタシリンダ装置14)を流用できる。
【0093】
さらに、本実施形態によれば、図3および図4に示すように、油路(第1液圧路58b、第2液圧路58a、第3液圧路58d、第4液圧路58c、第2ブレーキ系110a、第1ブレーキ系110b)の加工をハウジング200側ですべて行うことができるのでコストダウンが可能となる。すなわち、本実施形態では、従来のように、マスタシリンダ側のハウジングでの油路加工とブレーキアクチュエータ側のハウジングでの油路加工を行う場合に比べて、孔(油路)を形成する数が増えるだけであるので、それぞれのハウジングについて油路を加工するよりも、製造工程が簡素化され、コストダウンが可能となる。
【0094】
さらに、本実施形態によれば、バルブ類(第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62)やセンサ類(圧力センサPm、Pp)の電極、従来マスタシリンダ34側に設けられていたハウジングをブレーキアクチュエータ18のハウジング200に集中して設けることができるので、コストダウンが可能となる。その結果、従来別個に設けられていた第1遮断弁60b、第2遮断弁60a、第3遮断弁62、ストロークシミュレータ64、圧力センサPm、圧力センサPp用のハーネス、コネクタを削減することが可能になる。また、ハーネスを纏めることができるのでハーネスの強度を増すことができる。
【0095】
また、モータシリンダ装置16(外部圧力源)を接続する導入ポート26c、26d(第3入力ポート)を備えることで、バイ・ワイヤ式のブレーキアクチュエータ18を備えたシステム(車両用ブレーキシステム10)に適用することができる。このようにバイ・ワイヤ式で駆動する際にストロークシミュレータ64により反力を発生させることができる。
【0096】
また、本実施形態では、導入ポート26c、26dを機械的に閉塞した状態で、第1遮断弁60bおよび第2遮断弁60aを閉じるとともに第3遮断弁62を開放して、圧力センサPmの検知信号に基づいてポンプ136およびレギュレータバルブ116を駆動することにより圧力センサPpの検出値が圧力センサPmの検知信号に対応した値となるように制御する制御装置300(内部バイ・ワイヤ制御手段)を備える。これにより、モータシリンダ装置16などの特段の外部アクチュエータを用いなくても、ブレーキアクチュエータ18にマスタシリンダ装置14を接続することで、ストロークシミュレータ64によって適切な反力を付与しながら、バイ・ワイヤ式の車両用ブレーキシステムを実現できる。これにより、回生ブレーキシステムなど、外部の要求によりバイ・ワイヤ式の制動が必要とされるモードに簡易的に対応することができる。
【0097】
なお、前記した実施形態では、外部圧力源としてモータシリンダ装置16を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、リザーバからブレーキ液を汲み上げるポンプと、このポンプの駆動源としての電動モータと、ポンプから吐出されたブレーキ液を加圧下に蓄えるアキュムレータ124などで構成されたものであってもよい。
【0098】
また、前記した実施形態では、ブレーキアクチュエータ18を構造物搭載室R(図1参照)の右側前部近傍に配置した場合を例に挙げて説明したが、この位置に限定されるものではなく、ダッシュボード2に配置する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0099】
10 車両用ブレーキシステム
14 マスタシリンダ装置
16 モータシリンダ装置(外部圧力源)
18 ブレーキアクチュエータ
26a 導入ポート(第2入力ポート)
26b 導入ポート(第1入力ポート)
26c、26d 導入ポート(第3入力ポート)
28a、28b、28c、28d 導出ポート(出力ポート)
32FR、32RL、32RR、32FL ホイールシリンダ
34 マスタシリンダ
56a 第2圧力室(第2液圧室)
56b 第1圧力室(第1液圧室)
58a 第2液圧路(供給液路)
58b 第1液圧路(供給液路)
60a 第2遮断弁(常開式の第2遮断弁)
60b 第1遮断弁(常開式の第1遮断弁)
62 第3遮断弁(常閉式の踏力遮断弁)
64 ストロークシミュレータ
110a 第2ブレーキ系
110b 第1ブレーキ系
112 第1共通液圧路(供給液路)
114 第2共通液圧路(供給液路)
116 レギュレータバルブ
120 第1インバルブ(常開式加圧弁)
124 第2インバルブ(常開式加圧弁)
128 第1アウトバルブ(常閉式減圧弁)
130 第2アウトバルブ(常閉式減圧弁)
132 リザーバ(低圧源)
136 ポンプ
142 サクションバルブ
200 ハウジング
300 制御装置(内部バイ・ワイヤ制御手段)
Pp 圧力センサ(第1圧力センサ)
Pm 圧力センサ(第2圧力センサ)
M モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の各車輪に対応して設けられたホイールシリンダに各々接続される4つの出力ポートと、
タンデム式のマスタシリンダにおける第1液圧室および第2液圧室にそれぞれ接続される第1入力ポートおよび第2入力ポートと、
前記第1入力ポートと前記出力ポートとの間を遮断する常開式の第1遮断弁と、
前記第2入力ポートと前記出力ポートとの間を遮断する常開式の第2遮断弁と、
前記第1入力ポートおよび前記第2入力ポートの一方において、前記第1遮断弁または前記第2遮断弁の上流側に設けられるストロークシミュレータと、
前記ストロークシミュレータと前記第1入力ポートまたは前記第2入力ポートとの連通を選択的に開放する常閉式の踏力遮断弁と、
前記第1遮断弁と前記ホイールシリンダとの間の供給液路、および、前記第2遮断弁と前記ホイールシリンダとの間の供給液路にそれぞれ接続され、選択的に外部圧力源を接続する第3入力ポートと、
前記第1入力ポートにおいて、前記第1遮断弁の下流側に設けられる第1圧力センサと、
前記第2入力ポートにおいて、前記第2遮断弁の上流側に設けられる第2圧力センサと、
前記供給液路にサクションバルブを介して接続され、前記サクションバルブを経由した作動液または低圧源の作動液を吸液して加圧し、前記供給液路に供給するポンプと、
前記ポンプの上流と下流の差圧を調整するレギュレータバルブと、
前記ホイールシリンダの作動液を前記低圧源側に移動することにより前記ホイールシリンダを減圧する常閉式減圧弁と、
前記供給液路と前記ホイールシリンダとの間を選択的に遮断する常開式加圧弁と、を一体に備えることを特徴とするブレーキアクチュエータ。
【請求項2】
前記第3入力ポートを機械的に閉塞した状態において、前記第1遮断弁および前記第2遮断弁を閉じるとともに前記踏力遮断弁を開放し、前記第2圧力センサの検知信号に基づいて、前記ポンプおよび前記レギュレータバルブを駆動することにより前記第1圧力センサの検出値が前記第2圧力センサの検知信号に対応した値となるように制御する内部バイ・ワイヤ制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のブレーキアクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−210879(P2012−210879A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78000(P2011−78000)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】