説明

ブレーキシステム

【課題】
大型化を抑制しつつ、フェード時にホイールシリンダを増圧することができるブレーキシステムを提供すること。
【解決手段】
ブレーキ操作に応じてリザーバ4から遮断されて液圧室33にて液圧を発生するマスタシリンダ3と、リザーバ4から液圧室33へのブレーキ液の流れを許容する逆止弁9とを有し、フェード状態にあると判定したとき、液圧室33とホイールシリンダ6との間に設けられた液圧ユニット5が、逆止弁9を介してリザーバ4のブレーキ液を吸引し、ホイールシリンダ6へ供給することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動を行うブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキのフェードによる減速度の低下を抑制するため、アクチュエータによりホイールシリンダの再増圧を行なうブレーキシステムが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−266560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、アクチュエータ内にあるマスタシリンダのピストンが底付きしてしまうと、それ以上ホイールシリンダの増圧ができなくなってしまう。このため、フェードによる減速度の低下を考慮すると、マスタシリンダを大型化せざるを得ず、ブレーキシステムが大型化してしまうという問題があった。本発明の目的とするところは、ブレーキシステムの大型化とフェードによる減速度の低下とを抑制し得るブレーキシステムを提供することとにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキシステムは、好ましくは、ブレーキ操作に応じてリザーバから遮断されて液圧室にて液圧を発生するマスタシリンダと、リザーバから前記液圧室へのブレーキ液の流れを許容する逆止弁とを有し、フェード状態にあると判定したとき、前記液圧室とホイールシリンダとの間に設けられたアクチュエータが、前記逆止弁を介してリザーバのブレーキ液を吸引し、ホイールシリンダへ供給することとした。
【発明の効果】
【0006】
よって、ブレーキシステムの大型化とフェードによる減速度の低下とを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブレーキシステムの概略構成を示す。
【図2】実施例1のマスタシリンダの軸方向断面図である。
【図3】実施例1のマスタシリンダのシリンダ本体をその上面から見た平面図である
【図4】実施例1のマスタシリンダのシリンダ本体の部分断面図である(図3のA−A視断面)
【図5】実施例1のマスタシリンダのシリンダ本体の部分断面図である(図3のB−B視断面)
【図6】実施例1の制御構成を示すブロック線図である。
【図7】実施例1のフェード状態判定用のマップである。
【図8】実施例1のフェードアシスト制御の作動と終了の介入を示すメインフローチャートである。
【図9】実施例1のフェードアシスト制御の作動を判定するフローチャートである。
【図10】実施例1のフェードアシスト制御の終了を判定するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のブレーキシステムを実現する形態を、図面に基づき説明する。
【0009】
[実施例1]
実施例1のブレーキシステムは自動車に適用される。図1は、実施例1のブレーキシステムの概略構成を示し、マスタシリンダ3と電動倍力装置2については、軸方向に沿って切った部分断面を示す。ブレーキシステムは、マスタシリンダ3と、電動倍力装置2と、液圧ユニット5と、制御装置7と、液圧センサ81等の各種センサと、から構成されている。マスタシリンダ3は、運転者のブレーキ操作に連動してブレーキ配管にブレーキ液を供給する液圧発生源であり、その上部に取付けられたリザーバ4からブレーキ液の補給を受け、ピストン31,32の移動によりブレーキ液圧を発生する。マスタシリンダ3は、有底円筒状のシリンダ本体30内にプライマリピストン31とセカンダリピストン32が直列に配置されたタンデム型のマスタシリンダである。シリンダ本体30内の両ピストン31,32によって画成される2つの液圧室(圧力室)33a,33bは給排孔34a,34bを介して車両の異なる(プライマリ系統Pとセカンダリ系統Sの)ブレーキ配管系に接続されている。
【0010】
各ブレーキ配管の末端には、自動車の4つの車輪〔左前輪(FL輪)、右前輪(FR輪)、左後輪(RL輪)、右後輪(RR輪)〕に対応して設けられたホイールシリンダ6が、それぞれ接続されている。4輪に対応したホイールシリンダ6を、以下、適宜、FL輪、FR輪、RL輪、RR輪用ホイールシリンダ6という。ブレーキシステムは摩擦ブレーキを用いており、ホイールシリンダ6は、図示しないシリンダ、ピストン、及び摩擦パッド(摩擦材)を有するディスクブレーキにより構成されている。後述する液圧ユニット5を介したマスタシリンダ3からのブレーキ液の供給を受けてピストンを推進し、摩擦パッドを、車輪と一体に回転するディスクロータに押付けて、車輪に制動力を作用させるようにしている。
【0011】
マスタシリンダ3は、車両に設けられるブレーキペダル1の操作によるピストン31,32の移動に応じてリザーバ4から遮断され、液圧室33にて液圧を発生し、ブレーキ配管を介して各ホイールシリンダ6にブレーキ液圧を供給する。マスタシリンダ3には、リザーバ4から液圧室33へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向、すなわち、液圧室33からリザーバ4へのブレーキ液の流れを禁止する逆止弁9が設けられている。電動倍力装置2は、マスタシリンダ3のピストン(プライマリピストン31)を電動アクチュエータ21により作動させる倍力装置である。液圧ユニット5は、マスタシリンダ3の液圧室33とホイールシリンダ6との間に設けられたアクチュエータであり、ブレーキ回路(ブレーキ液通路500等)と、ブレーキ回路を連通・遮断可能に設けられた弁機構52等と、ブレーキ回路に液圧を供給可能なポンプ(液圧機器)51とを有する。
【0012】
液圧ユニット5は、車両姿勢安定化制御のための自動ブレーキ制御を実行可能に設けられた車両姿勢安定装置として機能するものである。液圧ユニット5は、マスタシリンダ3の液圧室33の液圧を用いてホイールシリンダ圧を直接増圧する(通常ブレーキ)ほか、ポンプ51によって液圧室33から吸引したブレーキ液を吐出する液圧を用いてホイールシリンダ圧を増圧したり、弁機構52等によりホイールシリンダ圧を減圧することが可能である。すなわち、運転者のブレーキ操作とは別にマスタシリンダ3からポンプ51にブレーキ液を吸引可能に設けられており、制御装置7(液圧ユニットECU7b)からの指令に応じて液圧室33のブレーキ液をホイールシリンダ6へ供給してホイールシリンダ6を増圧し、又はホイールシリンダ6の液圧を減圧して液圧室33や内部リザーバ56にブレーキ液を還流する。液圧ユニット5は、車両の運転状況に応じて、制御装置7(液圧ユニットECU7b)からの指令に基づき、上記のようにホイールシリンダ圧を制御することで、アンチスキッド制御(ABS)を始めとして、各種車両制御で要求される制動力に基づき自動的にホイールシリンダ圧を増減圧する制御である自動ブレーキ制御を実行することが可能である。ここで、ABSとは、運転者のブレーキ操作時に車輪がロック傾向になったことを検知すると、当該車輪につき、車輪のロックを防止しつつ最大の制動力を発生させるためにホイールシリンダ圧の減圧と増圧とを繰り返す制御である。また、上記自動ブレーキ制御には、車両旋回時に過オーバーステアや過アンダーステアとなったことを検出すると所定輪のホイールシリンダ圧を制御して車両姿勢の安定を図る車両運動制御(ESC)や、運転状況に応じて前後輪の制動力を最適に配分する配分制御(EBD)や、トラクションコントロールにおけるブレーキ制御や、運転者のブレーキ操作時に実際にマスタシリンダで発生する圧力よりも高い圧力をホイールシリンダで発生させるブレーキアシスト制御(BA)が含まれる。
【0013】
ブレーキランプスイッチ83は、運転者のブレーキ操作(ブレーキペダル1の操作)に応じてオン・オフが切換えられるスイッチであり、ブレーキ操作の有無を検出するためのブレーキ操作検出手段として利用される。液圧センサ81は、マスタシリンダ3で発生するブレーキ液圧(マスタ圧)を検出する液圧検出手段であり、ブレーキシステムにおけるマスタシリンダ3側の液圧供給状態を検出する液圧供給状態検出手段の一部として利用される。車輪速センサ82は、各車輪FL等に設けられて各車輪の回転速度(車輪速)を検出する。
【0014】
制御装置7は、各センサ81等に接続されるとともに、電動倍力装置2及び液圧ユニット5を制御する制御手段であり、電動アクチュエータ21の駆動を制御する(電動倍力装置2を制御する)ための図示しない制御部を含むブースタECU7aと、液圧ユニット5を制御する液圧ユニットECU7bとからなる。実施例1では、液圧センサ81及び車輪速センサ82の検出信号は液圧ユニットECU7bに入力され、ブレーキランプスイッチ83、後述するストロークセンサ84及びレゾルバ85の検出信号はブースタECU7aに入力される。両ECU7a,7bは、双方向通信可能なCAN通信線を介して互いに接続されている。また、ブースタECU7aは、双方向通信可能なCAN通信線を介して、他の制御機器としての統合コントローラ7cに接続されている。ブースタECU7aは、運転者の要求減速度を演算して統合コントローラ7cに送信すると共に、統合コントローラ7cからの各種信号(例えば回生協調指令)の入力を受ける。
【0015】
電動倍力装置2及びマスタシリンダ3は一体のユニットを構成している。電動倍力装置2は、マスタシリンダ3のプライマリピストン31として共用されるピストン組立体31と、このピストン組立体31を構成するブースタピストン311を駆動する電動アクチュエータ21と、エンジンルームと車室とを仕切る隔壁に一端が固定され、他端にマスタシリンダ3を結合したケーシング20とを有する。以下、説明の便宜上、エンジンルーム側を前側、車室側を後側と呼ぶ。
【0016】
ケーシング20は、筒状のケーシング本体20aと、ケーシング本体20aの後側端部にボルト止めされたリヤカバー20bとを有する。ケーシング本体20aの前端には段付の前壁201が一体に設けられ、この前壁201にマスタシリンダ3がボルト締結される。リヤカバー20bは、上記隔壁にボルト締結され、この締結状態で、リヤカバー20bに一体に設けた筒状ガイド部202が上記隔壁を挿通して車室内へ延出される。ケーシング20には、ピストン組立体31と、電動アクチュエータ21の一部であるボールねじ機構23とが内装される。ケーシング20(ケーシング本体20a)の上部には、電動アクチュエータ21の残りの一部である電動モータ22が一体的に設けられる。
【0017】
電動アクチュエータ21は、電動モータ22と、電動モータ22の回転を直線運動に変換してアシスト部材としてのブースタピストン311に伝達するボールねじ機構(回転-直動変換機構)23と、電動モータ22の回転を減速してボールねじ機構23に伝達する動力伝達機構24とを有している。電動モータ22は、複数のコイルを有するステータと、該ステータへの通電により回転するロータとを有している。動力伝達機構24は、電動モータ22の出力軸に設けられた入力側プーリ240と、ボールねじ機構23の後述するナット部材230に設けられた出力側プーリ242と、これらプーリ240,241の間に掛け渡された動力伝達用のベルト242とを有している。ボールねじ機構23は、ケーシング本体20aの内周側に軸受233を介して回転自在に設置されたナット部材(回転部材)230と、このナット部材230にボール231を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)232とを有している。ねじ軸232は、ケーシング20内に回動不能に配設されている。ベルト242を介して電動モータ22から伝達される駆動力によりナット部材230が回転すると、ねじ軸232が直動する。
【0018】
ねじ軸232の前端部には、フランジ部材234が螺着されている。このフランジ部材234とケーシング本体20aの前壁201との間には戻しばね26が介装されている。戻しばね26は、フランジ部材234(ねじ軸232)を後側へ常時付勢し、ねじ軸232が不用意に前側に移動することを規制する。また、フランジ部材234はブースタピストン311の後側端部に当接するようになっており、ナット部材230の回転に応じてねじ軸232が前側に移動すると、該ねじ軸232に押されてブースタピストン311も前側に移動する。ブレーキ非作動時には、フランジ部材234がナット部材230に当接することでねじ軸232が後退端に位置決めされ、これに応じてブースタピストン311も後退端に位置決めされる。また、ピストン組立体31を構成するブースタピストン311と入力ピストン310との間には、ブレーキ非作動時にブースタピストン311と入力ピストン310とを相対移動の中立位置に保持するための一対のバランスばね25a,25bが配設されている。
【0019】
車室内の固定部には、ブレーキペダル1の操作ストロークを検出するストローク検出手段として、ストロークセンサ84が設けられている。ストロークセンサ84としては、例えば、入力ロッド10(又はブレーキペダル1)の動きを介して車体に対する入力ピストン310の絶対変位を検出するポテンショメータを用いることができる。また、電動モータ22のケーシング内には、電動モータ22のロータの回転変位を検出するレゾルバ(回転位置センサ)85が配設されている。電動モータ22の回転変位は、車体に対するブースタピストン311の絶対変位(移動位置)と等価であるため、レゾルバ85はブースタピストン311の変位検出手段を構成している。
【0020】
制御装置7(ブースタECU7a)は、ストロークセンサ84の検出信号に基づき運転者の要求制動力を演算すると共に、統合コントローラ7cからの信号の入力を受け、制動力を決定する。ストロークセンサ84の検出信号(入力ピストン310の絶対変位)とレゾルバ85の検出信号(ブースタピストン311の絶対変位)から入力ピストン310とブースタピストン311の相対変位量を把握し、この把握される相対変位量に基づき電動モータ22の回転を制御することで、ブレーキペダル1の操作に対する所望の制動力(減速度)を実現する液圧をマスタシリンダ3に発生する。
【0021】
すなわち、ブレーキペダル1の操作に応じて入力ロッド10すなわち入力ピストン310が前側へ移動すると、その動きがストロークセンサ84により検出される。すると、ストロークセンサ84からの信号を受けてブースタECU7aから電動モータ22に起動指令が出力され、これにより電動モータ22が回転し、その回転がボールねじ機構23により直動に変換されてブースタピストン311に伝達される。入力ピストン310とブースタピストン311とが一体的に前側へ移動(推進)し、ブレーキペダル1から入力ピストン310に付与される入力推力と、電動モータ22からブースタピストン311に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がマスタシリンダ3内の液圧室33a,33bに発生する。このとき、入力ピストン310とブースタピストン311との間に相対変位が生じないように電動モータ22の回転を制御すると、両ピストン310,311の間に介装した一対のバランスばね25a,25bが中立位置を維持する。このとき、相対変位量がゼロであることから、ブースタピストン311の受圧面積と入力ピストン310の受圧面積との面積比が、いわゆる、倍力装置2の倍力比となる。
【0022】
上記中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を増加させる方向(前側)へブースタピストン311を入力ピストン310に対して相対変位させると、ブレーキペダル1の操作に対する制動力(ブレーキ液圧)が大きくなり、電動モータ22によるブレーキアシスト動作が実現する。このとき、ブレーキ液圧の増加に伴ってブレーキペダル1への反力(ペダル反力)が増大しようとする。しかし、入力ピストン310に対するブースタピストン311の前側への相対変位に応じて一対のバランスばね25a,25bのうち、ブレーキペダル1側(後側)のばね25aの付勢力が増大する。この付勢力によって前述のペダル反力の増大分が相殺されることになり、ブレーキ液圧の増加によるブレーキペダル1への反力変化が生じないようになっている。一方、中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を減少させる方向(後側)へブースタピストン311を入力ピストン310に対して相対変位させると、ブレーキペダル1の操作に対する制動力(ブレーキ液圧)が減少し、ハイブリッド自動車や電動自動車における回生制動時の回生協調動作を実現することが可能となっている。このとき、ブレーキ液圧の低下に伴ってペダル反力が減少しようとする。しかし、入力ピストン310に対するブースタピストン311の後側への相対変位に応じて一対のバランスばね25a,25bのうち、前側のばね25bの付勢力が増大するの。この付勢力によって前述のペダル反力の減少分が相殺されることになり、ブレーキ液圧の低下によるブレーキペダル1への反力変化が生じないようになっている。すなわち、入力ピストン310に対してブースタピストン311を相対変位させても、ブレーキペダル1への反力が調整される結果、ブレーキ操作の違和感はなくなる。
【0023】
図2は、マスタシリンダ3をその軸心を通る平面で切った断面図である。図3は、マスタシリンダ3の有底筒状のシリンダ本体30をその上面から見た平面図である。シリンダ本体30内の底部側には、プライマリピストン(ピストン組立体)31と対をなすセカンダリピストン32が摺動可能に配設されている。図2に示すように、ブースタピストン311は、シリンダ本体30の後側端部に形成された筒状ガイド301に摺動可能に嵌挿されており、その前端部がプライマリ室33a内に延出されている。一方、入力ピストン310は、ブースタピストン311の内周に形成した環状壁部313に摺動可能に嵌挿されており、その前端部が同じくプライマリ室33a内に延出されている。
【0024】
各液圧室33a,33b内には、プライマリピストン(ピストン組立体)31のブースタピストン311とセカンダリピストン32とをそれぞれ常時後退方向へ付勢する(戻り方向の反力を付与する)戻しばね38a,38bが設けられている。各戻しばね38a,38bは、スプリングリテーナ39a,39bに一体に組み付けられ、スプリングユニットとして各液圧室33a,33b内に配置されている。一方、図1に示すように、入力ピストン310の後側端部には、ブレーキペダル1と連動する入力ロッド10の先端部が回動可能に連結されており、入力ピストン310は、ブレーキペダル1の操作によりブースタピストン311内を進退移動する。本実施例1では、入力ピストン310及び入力ロッド10が入力部材を構成する。
【0025】
図2及び図3に示すように、シリンダ本体30の上面には、リザーバ4を取付けるためのボス部301a,301bが設けられており、この各ボス部301a,301bにリザーバ4の円筒状の給排口40a,40b(ブレーキ液の供給部)がそれぞれ接続される。各ボス部301a,301bには、シリンダ本体30の軸心に向かって延びるように凹設され、リザーバ4の給排口40a,40bを受容する接続凹部302a,302bが形成されている。
【0026】
シリンダ本体30には、各液圧室33a,33b内とリザーバ4とを連通する補給通路が形成されている。すなわち、シリンダ本体30の内周面のうち、プライマリピストン31(ブースタピストン311)が嵌合される部位には、リリーフポートとしての環状溝303aが形成されており、その環状溝303aと接続凹部302aが連通孔35aによって接続されている。シリンダ本体30の内周面のうち、環状溝303aの軸方向の前後位置には一対のシール部材(シールリング)36a,37aが装着されており、これらのシール部材36a,37aによってシリンダ本体30とブースタピストン311の摺動隙間が液密にシールされる。ブースタピストン311と入力ピストン310の摺動隙間は環状壁部313に設けたシール部材315,316によりシールされる。これにより、プライマリ室33aからマスタシリンダ3外へのブレーキ液の漏出が抑制される。
【0027】
また、シリンダ本体30の内周面のうち、環状溝303aの前方側(図中左側)には、環状溝303aと液圧室33aを接続する導通溝304aが形成されている。この導通溝304aは、シリンダ本体30の軸方向に沿って形成されている。この導通溝304aの延出方向の途中には前述の一方のシール部材36aが介装されている。このシール部材36aは、断面E字状に形成され、その断面の開口側が前方(図中左側)に向くようにシリンダ本体30に設置され、内周壁がブースタピストン311の外周面に摺動自在に密接するようになっている。また、シール部材36aは、前方側の液圧室33aの圧力が後方側の環状溝303aの圧力よりも低くなった場合に、外周壁が撓み変形することによって導通溝304aを開き、環状溝303a(リザーバ4)から液圧室33aへのブレーキ液の補給を許容する。さらに、ブースタピストン311の先端側には液圧室33aに臨む円筒壁314が設けられ、その円筒壁314には径方向に貫通する戻し孔312が連通ポートとして形成されている。この戻し孔312は、ブースタピストン311が最大に後退した初期位置にあるときに、液圧室33aと環状溝303aとを導通させ、液圧室33a及びブレーキ回路をリザーバ4と同圧の大気圧に維持するようになっている。
【0028】
セカンダリ側についても、上記プライマリ側と同様の環状溝303bや連通孔35b、一対のシール部材36b,37b、導通溝304bや戻し孔321の構造が採用されており、これらにより液圧室33b内とリザーバ4とを連通する補給通路が形成されている。
【0029】
各ピストン311,32が後退端の初期位置にあるときには、リザーバ4と各液圧室33a,33bが連通孔35a,35b、環状溝303a,303b及び戻し孔312,321を介して連通しており、各液圧室33a,33bにはリザーバ4から必要なブレーキ液が補給されて大気圧状態となる。すなわち、ブースタピストン311の戻し孔312の位置がシール部材36aの後側となるときに、プライマリ室33aがリザーバ4と連通して大気圧状態となる。同様に、セカンダリピストン32の戻し孔321の位置がシール部材36bの後側となるときに、セカンダリ室33bがリザーバ4と連通して大気圧状態となる。液圧ユニット5の作動(ESC等)により各液圧室33a,33bのブレーキ液量が不足したときにリザーバ4からブレーキ液が補給される。
【0030】
上記の初期位置の状態からブースタピストン311が前方側に移動して戻し孔312の位置がシール部材36aの前側となるときに、プライマリ室33aとリザーバ4との連通が実質的に遮断されて、プライマリ室33aに液圧が発生する。同様に、セカンダリピストン32の戻し孔321の位置がシール部材36bの前側となるときに、セカンダリ室33bとリザーバ4との連通が実質的に遮断されて、セカンダリ室33bに液圧が発生する。両ピストン311,32の前側への移動(前進)に応じて各液圧室33a,33bの液圧が高まり、各液圧室33a,33b内のブレーキ液が、シリンダ本体30に設けた給排孔34a,34bからブレーキ回路に供給され、液圧ユニット5を介して対応するホイールシリンダ6へ圧送される。また、この状態から各ピストン311,32が戻しばね38a,38bの力を受けて後側へ移動(後退)すると、ブレーキ回路のブレーキ液が給排孔34a,34bを介して各液圧室33a,33b内に戻される。この各ピストン311,32の後側への移動時に、各液圧室33a,33b内の液圧が一時的にリザーバ4の内圧よりも低くなると、前述のようにシール部材36a,36bの外周壁が撓み、導通溝304a,304bを通って各液圧室33a,33b内での不足分のブレーキ液がリザーバ4から補給される。
【0031】
図1に示すように、液圧ユニット5は、独立した2つのブレーキ系統P,Sからなる。プライマリ側ブレーキ系統Pは、FR輪のホイールシリンダ6、RL輪のホイールシリンダ6にブレーキ液の給排を行い、FR輪及びRL輪の制動力を制御する。セカンダリ側ブレーキ系統Pは、FL輪のホイールシリンダ6、RR輪のホイールシリンダ6にブレーキ液の給排を行い、FL輪及びRR輪の制動力を制御する。このようにブレーキ系統P,Sは、X型回路配分となるように構成され、一方の系統に故障が発生しても、他方の系統で、対角2輪分の制動力を確保できるようにしている。各ブレーキ系統P,Sは、同等部材を用いて、同等形態で構成される。ブレーキ系統P,Sの前記同等部材については、数字は同等で、異なる添字(プライマリ側では添字a、セカンダリ側では添字b)を用いた符号で示す。 以下、プライマリ側ブレーキ系統Pを例にとって説明する。
【0032】
ブレーキ系統Pは、基端側が給排孔34aに接続されたブレーキ液通路500aを含む。ブレーキ液通路500aには、常開の電磁弁(例えば比例弁)であるカットバルブ52aが設けられている。ブレーキ液通路500aにおけるカットバルブ52aより先端側(ホイールシリンダ6側)の部分は、第1、第2通路501a,502aに分岐し、第1、第2通路501a,502a は、FR輪、RL輪用のホイールシリンダ6にそれぞれ接続する。第1、第2通路501a,502aの途中には、それぞれ、常開の電磁弁(例えばオン・オフ弁)である増圧弁53aが設けられている。ブレーキ液通路500aにおける第1、第2通路501a,502aとカットバルブ52との間の部分から分岐して、内部リザーバ56aに接続される分岐通路503aが設けられている。分岐通路503aには、セカンダリ側ブレーキ系統Sと共通に用いられるモータ50により駆動されるポンプ51aが設けられている。分岐通路503aにおいて、ポンプ51aの吐出側と吸入側には、それぞれブレーキ液の逆流を抑制するための逆止弁58a,59aが設けられている。分岐通路503aにおいて、ポンプ51aの吸入側(逆止弁58a)と内部リザーバ56aとの間には、内部リザーバ56aに向かうブレーキ液の流れを抑制するための逆止弁57aが設けられている。分岐通路503aにおけるポンプ51aの吸入側(逆止弁58a)と内部リザーバ56a(逆止弁57a)との間の部分と、ブレーキ液通路500aにおけるカットバルブ52aよりマスタシリンダ3側の部分とは、常閉の電磁弁(例えば比例弁)であるサクションバルブ55aが設けられた吸入通路504aにより連通されている。第1、第2通路501a,502aにおけるFR輪、RL輪用ホイールシリンダ6と増圧弁53aとの間の部分と、分岐通路503aにおける内部リザーバ56aと逆止弁57aとの間の部分とは、常閉の電磁弁(例えばオン・オフ弁)である減圧弁54aが設けられた排出通路505aにより連通されている。セカンダリ側ブレーキ系統Sも同様であるため、説明を省略する。
【0033】
ブレーキ液通路500aにおけるカットバルブ52aよりもマスタシリンダ3側(液圧ユニット5外)には、マスタシリンダ3のプライマリ室33aの液圧を検出する液圧検出手段としての液圧センサ81aが設けられている。ブレーキ液通路500bにおけるカットバルブ52bよりもマスタシリンダ3側(液圧ユニット5内)には、マスタシリンダ3のセカンダリ室33bの液圧を検出する液圧検出手段としての液圧センサ81bが設けられている。制御装置7(液圧ユニットECU7b)は、液圧センサ81の検出信号から把握される圧力室33の液圧、車輪速センサ82からの信号、ブースタECU7aからの信号、及びCAN情報に基づき、ABS制御や自動ブレーキ制御等を実行するか否かを判断すると共に、カットバルブ52、増圧弁53、サクションバルブ55、減圧弁54の開閉、及びモータ50の回転を制御することで、各ホイールシリンダ6に所望の制動力を発生する。
【0034】
図4及び図5はマスタシリンダ3のシリンダ本体30の部分断面図であり、図4は図3のA−A視断面を示し、図5は図3のB−B視断面を示す。シリンダ本体30のボス部301aよりも若干前方側の外側側面には、図3〜図5に示すように、逆止弁(弁機構)9aを収容する弁収容ブロック305aが一体に形成されている。弁収容ブロック305aはシリンダ本体30の側方から膨出し、(車体組付け状態における)鉛直下方に向かって略円柱状に延出している。弁収容ブロック305aには、図4に示すように、下方に開口する断面略円形状の凹部306aが形成され、凹部306aの開口端が蓋部材90aによって閉塞され、凹部306aと蓋部材90aの間に弁室91aが形成されている。この弁室91a内には後述する逆止弁9aが配置される。また、弁室91aは、シリンダ本体30の側部から鉛直下方に延出するように設けられ、全体がリザーバ4よりも下方側に位置されている。
【0035】
図4に示すように、弁室91aの上部(凹部306aの底面)には、弁室91aから斜め上方側に延出して弁室91aと接続凹部302a(リザーバ4)とを接続するリザーバ通路307aが形成されている。図5に示すように、弁室91aの側壁には、弁室91aとシリンダ本体30内の液圧室33aとを接続する液圧室通路308aが形成されている。リザーバ通路307a,弁室91a,液圧室通路308aは、前述した補給通路(連通孔35a,環状溝303a及び戻し孔312)をバイパスしてリザーバ4と液圧室33aを連通するバイパス通路を構成している。なお、液圧室通路308aを直接液圧室33aと接続する代わりに、液圧室33aの一部をなす給排孔34aに液圧室通路308aを接続してもよい。
【0036】
逆止弁9aは、一端が開口した有底円筒状のバルブケース92aと、バルブケース92aの開口側を閉塞する蓋部材(蓋体)90aとによってカートリッジ93aが形成され、そのカートリッジ93aの内部に、弁座94aに離着座する弁体95aと、弁体95aを弁座94aの方向に付勢するスプリング96aとが収容されている。なお、カートリッジ93aを構成する蓋部材90aは、カートリッジ93aが凹部306aに装着された状態において、凹部306aの開口を閉塞する蓋としても機能する。
【0037】
バルブケース92aは、軸心部に上下に貫通する弁孔(軸方向孔)920を備えた頭部壁921と、頭部壁921から下方に延出する筒状壁922とを備え、筒状壁922内に臨む頭部壁921の裏面が弁座94aとされている。頭部壁921の上面側の中央には略円形状の凹部923が形成され、その凹部923には、有底円筒状のリザーバ側フィルタ部材97aが嵌合固定される。また、筒状壁922の上端側には、筒状壁922を径方向に貫通する複数の径方向孔924が形成されている。筒状壁922の外周面には、径方向孔924の開口を覆うように略円筒状の液圧室側フィルタ部材98aが取り付けられる。頭部壁921の径方向孔924よりも上方側の外周面には、弁室91aの内周面に密接してカートリッジ93aと弁室91aの間をシールする環状シール部材としてOリング925が取り付けられる。このOリング925は、カートリッジ93aを弁室91aに装着したときにリザーバ通路307aと液圧室通路308aの間に位置され、弁室91a内をリザーバ側空間と液圧室側空間とに画成する。
【0038】
リザーバ側フィルタ部材97aは、有底円筒状のフレーム材970の周壁と頂部壁に複数の窓が形成され、その各窓がフィルタ本体部であるメッシュ材971によって覆われている。また、フレーム材970の下端には、肉厚の環状部972が設けられ、その環状部972がバルブケース92a側の凹部923に密着状態で嵌合されるようになっている。また、液圧室側フィルタ部材98aは、円筒状のフレーム材980の周壁に複数の窓が形成され、その各窓がメッシュ材981によって覆われている。液圧室側フィルタ部材98aは、カートリッジ93aが弁室91a内に嵌合された状態において、上方側の環状リップ982が弁室91a内の液圧室通路308aよりも上方側の環状段部に当接するとともに、下方側の環状リップ983が蓋部材90aの端面に当接するようになっている。カートリッジ93aを構成する蓋部材90aは、全体がほぼ有底円筒状に形成され、底壁900から延出する周壁901がバルブケース92aの筒状壁922の下端側外周に嵌合される。周壁901の外周面には、弁室91aとの間をシールするOリング902が装着される。なお、バルブケース92aの筒状壁922の下端側外周には、蓋部材90aとバルブケース92aとの仮固定用に、断面の小さいOリング926が装着される。
【0039】
また、カートリッジ93aに収容される弁体95aは、バルブケース92aの筒状壁922の内側で昇降作動するリフト弁であり、バルブケース92aの弁座94aに離着座する弁部950と、弁部950の下方に延設された略円筒状の脚部(摺動部)951と、を有し、脚部951の外周面が筒状壁922の内周面(ガイド部)に摺動自在に案内されるようになっている。弁部950は、脚部951と一体に形成される金属製の弁部本体952と、弁部本体952に取り付けられるゴム製の弁シート955とからなり、弁部本体952は、弁部950の軸心に沿って突出する支軸953の先端にフランジ部954が形成され、支軸953とフランジ部954に円環状の弁シート955が嵌着固定されている。弁シート955の端部は、フランジ部954よりも上方側に円環状に突出し、弁部950が上方変位したときに弁孔920の周域の弁座94aに弾接する。ただし、弁シート955が所定以上の荷重で弁座94aに圧接されると、弁シート955の弾性変形に伴って金属製のフランジ部954が弁座94aに直接当接するようになる。脚部951は、その上下端の外周に夫々フランジ部956,957が形成され、これらのフランジ部956,957が主に筒状壁922にガイドされるが、両フランジ部956,957を含む脚部951の摺動方向の長さは、脚部951の最大直径よりも長く設定されている。また、筒状壁922の摺動方向の長さは、脚部951の摺動方向長さよりも長く設定されている。脚部951の上下のフランジ部956,957にはブレーキ液の流通を許容するための複数の溝958が形成されている。
【0040】
スプリング96aは、脚部951に囲まれる弁部本体952の裏面と蓋部材90aの底壁900の間に介装されている。スプリング96aは、弁体95aとともにバルブケース92aの筒状壁922内に挿入され、その状態でバルブケース92aに蓋部材90aが嵌合されることにより、弁部本体952の裏面と蓋部材90aの底壁900の間に圧縮状態で介装される。また、凹部306a のうちの開口寄りの内周面には雌ねじ309aが設けられ、凹部306a内にカートリッジ93aを嵌入した後に、雌ねじ309aにナット99aが螺合されることによってカートリッジ93aの蓋部材90aが弁収容ブロック305aに締め付け固定される。セカンダリ室33b側の弁収容ブロック305b及び逆止弁9bも上記と同様に構成されている。
【0041】
以上の構成において、車両の走行中に車両姿勢安定化制御のために自動ブレーキ制御が作動すると、液圧ユニット5のポンプ51a,51bが必要とするブレーキ液は、リザーバ4から逆止弁9a,9bを介してマスタシリンダ3の液圧室33から供給される。すなわち、ポンプ51a,51bがマスタシリンダ3側からブレーキ液を吸引すると、逆止弁9a,9bは、ポンプ51a,51bの吸込力で開弁する。具体的には、マスタシリンダ3の液圧室33(例えばプライマリ室33a)の圧力がリザーバ4内の圧力よりも設定圧以上に低下すると、弁収容ブロック305a内の逆止弁9aの弁体95aがスプリング96aの力に抗して鉛直下方に変位し、このとき弁部950が弁座94aから離間することによってバイパス通路(液圧室通路308aとリザーバ通路307a)を連通させる。よって、リザーバ4内のブレーキ液がリザーバ通路307a、弁孔920、径方向孔924、液圧室通路308aを順次通ってプライマリ室33a内に補給されるようになる。これにより充分な量のブレーキ液がプライマリ室33aからポンプ51aに迅速に供給されるようになり、車両姿勢安定化制御のための所望の制動力が安定して得られるようになるとともに、マスタシリンダ3内での過度な負圧の発生も抑制される。
【0042】
また、実施例1のブレーキシステムは、ホイールシリンダ6の摩擦パッドが発熱することで摩擦係数が低下し、ブレーキ力(車両の減速度)が低下するフェード現象の対策として、液圧ユニット5により逆止弁9を介して吸引されるブレーキ液によってホイールシリンダ6を増圧することで、摩擦パッドの押し付け力を増大し、これによりブレーキ力の低下を抑制する。すなわち、液圧ユニット5を作動させることでフェードによる制動力不足分を補うブレーキアシスト制御(フェードアシスト制御)を実行する。運転者のブレーキ操作中、フェードアシスト制御を行う際、液圧ユニット5のポンプ51a,51bは、マスタシリンダ3の液圧室33からブレーキ液を吸引し、ホイールシリンダ6に供給する。仮にマスタシリンダ3のピストン31,32がシリンダ本体30内でそれ以上ストロークできなくなることが起こったとしても(「底付き」ないし「床付き」しても)、ブレーキ液はリザーバ4から逆止弁9を介してマスタシリンダ3の液圧室33を経由し、ポンプ51a,51bに吸引されるため、フェードアシスト制御を継続可能である。
【0043】
図6は、制御装置7の構成を示すブロック線図である。制御装置7は、システム状態検出部71と、ABS制御検出部72と、車速検出部73と、ブレーキ操作状態検出部74と、液圧供給状態検出部75と、減速状態検出部76と、フェード状態判定部77と、ブレーキ制御部78と、フェードアシスト制御部79とを備える。
【0044】
システム状態検出部71は、ブレーキシステムが正常であるか否かを、別フローで実行している自己診断の結果により検出する。例えば、液圧ユニット5が失陥していないか、液圧ユニット5の過熱保護中でないか等により、システムが正常であるか否かを判断する。ABS制御検出部72は、ブレーキシステムにおいてABS作動中であるか否か、すなわち液圧ユニット5によってホイールシリンダ6の液圧を減圧するABS作動が行なわれているか否かを検出する。車速検出部73は、車速がどの程度発生しているかを検出する。具体的には、車輪速センサ82により検出された車輪速から車速を算出し、その車速が所定の第1の閾値以上であるか否かを判断する。第1の閾値は、車輪の回転速度が比較的高く、ブレーキ操作によりホイールシリンダ6の摩擦パッドが発熱してフェード現象が発生する可能性が比較的高い、ないし車両を減速させる必要性が比較的高い、と判断できる車速(例えば30km/h)に設定する。また、車速が所定の第2の閾値以上であるか否かを判断する。第2の閾値は、車両が実質的に停止状態であると判断できる車速(例えば5km/h)に設定する。
【0045】
ブレーキ操作状態検出部74は、運転者のブレーキ操作状態、すなわちブレーキペダル1の操作状態を検出する。ブレーキランプスイッチ83からの信号がオンであればブレーキ操作が有ると判断し、オフであればブレーキ操作が無いと判断する。また、ブレーキ操作状態検出部74は、液圧センサ81により検出される液圧(マスタ圧)が所定の第1の閾値以上であるか否かにより、ブレーキペダル1の操作量が所定以上である状態か否かを判断する。マスタ圧の上記第1の閾値は、ホイールシリンダ6の液圧が比較的高く、ブレーキ操作によりホイールシリンダ6の摩擦パッドが発熱してフェード現象が発生する可能性が比較的高い、ないし車両を減速させる必要性が比較的高い、と判断できる液圧(例えば5MPa)に設定する。また、ブレーキ操作状態検出部74は、マスタ圧と共に、ストロークセンサ84により検出されるプライマリピストン31(入力ピストン310)の変位量(マスタストローク)が所定の第1の閾値以上であるか否かにより、ブレーキペダル1の操作量が所定以上である状態か否かを判断する。マスタストロークの上記第1の閾値は、マスタ圧の上記第1の閾値相当のストロークに設定する。なお、入力ピストン310とブースタピストン311の相対変位量が不変(例えばゼロ)であるとの前提では、レゾルバ85により検出されるブースタピストン311の変位量が上記第1の閾値以上であるか否かにより、マスタシリンダ3の作動状態を判断することとしてもよい。また、ブレーキ操作状態検出部74は、ストロークセンサ84により検出されるマスタストロークの(所定時間当たりの)後退量が所定の第2の閾値未満であるか否かにより、ブレーキペダル1の操作状態が戻り方向であるか否かを判断する。マスタストロークの上記第2の閾値は、運転者がブレーキペダル1を戻り方向に操作しているか否かを判断できるストローク量に設定する。
【0046】
液圧供給状態検出部75は、液圧センサ81の検出値(マスタ圧)に基づき、ブレーキシステムにおけるマスタシリンダ3側の液圧供給状態を判断する。減速状態検出部76は、車輪速センサ82により検出された車輪速から車両の減速度を算出することで、車両の減速状態を検出する。
【0047】
フェード状態判定部77は、液圧供給状態検出部75及び減速状態検出部76からの入力に基づき、ホイールシリンダ6の摩擦パッドが発熱してブレーキが効きにくくなった状態(フェード状態)であるか否かを判定する。液圧供給状態検出部75から入力される値(マスタ圧)と、減速状態検出部76から入力される値(車両減速度)との関係が正常な所定の関係にあるか否かを判断し、上記所定関係にない場合にホイールシリンダ6がフェード状態にあると判定する。具体的には、検出されるマスタシリンダ3側の液圧供給状態(マスタ圧)に対して、検出される車両の減速状態(減速度)が不足するときに、フェード状態であると判定する。すなわち、検出される液圧供給状態(マスタ圧)に対して、(フェード状態でない正常なときに)予定される車両の減速状態(減速度)よりも、実際に検出される車両の減速状態(減速度)が不足していれば、ホイールシリンダ6における制動力(摩擦力)が低下したフェード状態であると判断する。ここで、フェードアシスト制御の作動前は、液圧ユニット5は非作動状態であるため、ホイールシリンダ6の液圧はマスタ圧と実質的に等しいとみなすことができる(ホイールシリンダ圧=マスタ圧)。
【0048】
本実施例1では、上記「正常な所定関係」を、マスタ圧(=ホイールシリンダ圧)Pと車両の減速度Gとの関係特性(閾値)として、図7に示すようなマップにより記憶しておく。検出されるマスタ圧(=ホイールシリンダ圧)Pと検出される減速度Gによりに特定される点が図7の斜線領域内にある(言換えると、検出されるマスタ圧Pが、検出される減速度Gに対応する上記関係特性上のマスタ圧P*以上である)ときは「正常な所定関係」にないと判断する。そして、この状態が所定時間(例えば300ms)継続したときに、フェード状態であると判断する。上記関係特性(閾値)は、マスタ圧PがP1からP2までの領域では、マスタ圧Pの増加に応じて減速度Gが増大するように設定する。P1は、上記第1の閾値(例えば5MPa)である。マスタ圧PがP1未満の領域では、フェード現象が発生する可能性が比較的低いため、減速度Gが小さくても上記「正常な所定関係」であると判断する。また、P2は、それ以上マスタ圧Pが増加しても、タイヤの性能限界により、減速度Gがそれ以上増大できないような値である。
【0049】
ブレーキ制御部78は、ブレーキ操作状態検出部74からの入力に基づき、電動倍力装置2や液圧ユニット5へ指令を出力することでブレーキ制御を実行する。通常ブレーキでは、マスタシリンダ3のブースタピストン311の位置が、ブレーキ操作(入力ピストン310の変位)に応じた一定の比率の位置となるように、電動倍力装置2を制御する。また、液圧ユニット5を非作動状態とし、マスタシリンダ3に発生したマスタ圧をホイールシリンダ6に直接供給する。ブレーキアシスト制御(電動倍力装置2のBA作動)では、マスタシリンダ3のブースタピストン311が、ブレーキ操作(入力ピストン310の変位)の速度に応じて、入力ピストン310よりも大きく変位するように、電動倍力装置2を制御する。また、液圧ユニット5を非作動状態とし、マスタシリンダ3に発生したマスタ圧をホイールシリンダ6に直接供給する。回生協調制御時のブレーキ制御(電動倍力装置2の回生作動)では、マスタシリンダ3のブースタピストン311の位置が、ブレーキ操作(入力ピストン310の変位)に応じた制動力から回生制動分の制動力を差し引いた制動力を発生する位置になるように、電動倍力装置2を制御する。また、液圧ユニット5を非作動状態とし、マスタシリンダ3に発生したマスタ圧をホイールシリンダ6に直接供給する。車両姿勢安定化制御のための自動ブレーキ制御やABS制御では、液圧ユニット5を作動状態とし、各車輪のホイールシリンダ6の液圧を個別に制御する。例えばESC作動では、液圧ユニット5のカットバルブ52を閉じてサクションバルブ55を開き、モータ50の作動をオンとしてポンプ51を回転駆動すると共に、各車輪に対応する増圧弁53及び減圧弁54の開弁量(例えばオン・オフ制御におけるデューティ比=単位時間当たりの開弁量)を制御する。
【0050】
フェードアシスト制御部79は、フェード状態判定部77等からの入力に基づき、所定条件下で、液圧ユニット5を作動させてマスタシリンダ3(リザーバ4)からホイールシリンダ6にブレーキ液を供給し、フェードアシスト制御を行う。フェードアシスト制御部79は、フェードアシスト制御判定部790と、フェードアシスト制御実行部791とを備える。フェードアシスト制御判定部790は、フェードアシスト制御の作動と終了を判断する。そして、以下の条件が全て成立したときに、フェードアシスト制御の作動と判定する。
(A1)ブレーキシステムが正常であることを確認した。
(A2)ABS作動中でないことを確認した。
(A3)車速が所定値[第1の閾値:例えば30km/h]以上であることを検出した。
(A4)ブレーキペダル1が操作されていることを確認した。
(A5)ブレーキ操作量が所定値[第1の閾値:例えばマスタ圧5MPa相当のストローク]以上であることを検出した。
(A6)マスタシリンダ3側の液圧供給状態と車両の減速状態との関係に基づきフェード状態であることを検出した。
【0051】
また、以下の条件のいずれか1つが成立したときに、フェードアシスト制御の作動終了と判定する。
(B1)ブレーキシステムが正常でないことを確認した。
(B2)ABS作動中であることを確認した。
(B3)車速が所定値[第2の閾値:例えば5km/h]未満であることを検出した。
(B4)ブレーキペダル1が操作されていないことを確認した。
(B5)ブレーキペダル1が戻り方向に操作されている(マスタストロークの戻り量が所定値[第2の閾値:例えばマスタ圧1MPa相当のストローク]以上である)ことを検出した。
【0052】
フェードアシスト制御実行部791は、液圧ユニット5へ指令を出力することでフェードアシスト制御の作動と解除(終了)を行う。フェードアシスト制御の作動時には、液圧ユニット5へ増圧指令を出力する。具体的には、液圧ユニット5のカットバルブ52を閉じてサクションバルブ55を開き、モータ50の作動をオンとしてポンプ51を回転駆動すると共に、各車輪に対応する減圧弁54を閉じ、増圧弁53の開弁量(例えばオン・オフ制御におけるデューティ比)を最大に制御する。すなわち、ホイールシリンダ6の増圧勾配(単位時間当たりの液圧増加量)が最大(ポンプ51の性能上限)となるように制御する。このとき、ホイールシリンダ6の最終的な液圧は、例えばABSが作動する(タイヤの性能を使い切る)液圧、又はホイールシリンダ6の保護圧以下とする。なお、増圧弁53の開弁量を適宜制御することで、フェードアシスト制御中のホイールシリンダ6の増圧勾配を最大未満に制御することとしてもよい。また、フェードアシスト制御によるホイールシリンダ6の最終的な液圧を所定値に制御することとしてもよい。
【0053】
フェードアシスト制御を終了する際には、液圧ユニット5への増圧指令を解除する。具体的には、液圧ユニット5のポンプ51を停止してサクションバルブ55を閉じると共に、カットバルブ52を開く。ここで、カットバルブ52等の開弁量を制御することで、終了する際のホイールシリンダ6の減圧勾配(単位時間当たりの液圧減少量)を制御してもよい。例えば、フェードアシスト制御終了間際のホイールシリンダ6の液圧が所定値(例えば1Mpa)以上であれば大きな減圧勾配α1で減少し、上記所定値未満であれば小さな減圧勾配α2(<α1)で減少するようにしてもよい。なお、フェードアシスト制御終了間際のホイールシリンダ圧は、フェードアシスト制御中のポンプ51の回転時間や増圧弁53の開弁量からホイールシリンダ6に供給されたブレーキ液量を算出することで、推定することができる。また、フェードアシスト作動終了の判断条件に応じて減圧勾配を制御してもよい。例えば、車速が第2の閾値(例えば5km/h)以下であることを検出したときは、中程度の減少勾配α3(例えばα2<α3<α1)とし、ブレーキランプスイッチ83がオフであることを検出したときは減少勾配を最大(フェードアシスト制御を即終了)としてもよい。
【0054】
なお、制御装置7の各部71〜79は、ブースタECU7aと液圧ユニットECU7bのどちらか一方に設けてもよいし、両方に分けて設けてもよい。例えば、ブースタECU7aでフェードアシスト制御の開始と終了を判断し、液圧ユニットECU7bでフェードアシスト制御を実行することとしてもよい。
【0055】
図8は、ブレーキ操作中にフェードアシスト制御が介入する際の制御の遷移を示すメインフローチャートである。この制御フローは、制御装置7にて所定の制御周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、ブレーキ操作状態検出部74がブレーキ操作の有無を検出する。ブレーキランプスイッチ83がオンであればブレーキ操作有りと判断してステップS2に進み、オフであればブレーキ操作無しと判断して今回の制御フローを終了する。
ステップS2では、ブレーキ制御部78が電動倍力装置2を作動させ、例えば通常ブレーキを実行する。その後、ステップS3に進む。
ステップS3では、フェードアシスト制御判定部790が、図9のフローによりフェードアシスト制御を作動させるか否かを判定する。フェードアシスト制御を作動させると判定すればステップS4に進み、作動させると判定しなければステップS1に戻る。
ステップS4では、フェードアシスト制御実行部791が、フェード状態判定部77の判定結果に基づきフェードアシスト制御を作動させ、ステップS5に進む。
ステップS5では、フェードアシスト制御判定部790が、図10のフローによりフェードアシスト制御を解除(終了)するか否かを判定する。フェードアシスト制御を解除しないと判定すればステップS1に戻り、解除すると判定すればステップS6に進む。
ステップS6では、フェードアシスト制御実行部791が、フェード状態判定部77の判定結果に基づきフェードアシスト制御を解除し、ステップS1に戻る。
【0056】
図9は、フェードアシスト制御を作動させるか否かの判断の流れを示す判定フローチャートである。
ステップS11では、システム状態検出部71が、ブレーキシステムが正常であるか否かを判定する。正常と判断すればステップS12に進み、正常でないと判断すれば今回の制御フローを終了する。
ステップS12では、ABS制御検出部72が、液圧ユニット5の作動状態がABS中か否かを判断する。ABS作動中でなければステップS13に進み、ABS作動中であれば今回の制御フローを終了する。
ステップS13では、車速検出部73が、車速が第1の閾値(例えば30km/h)以上であるか否かを判断する。第1の閾値以上であればステップS14に進み、第1の閾値未満であれば今回の制御フローを終了する。
ステップS14では、ブレーキ操作状態検出部74が、ブレーキ操作の有無を判定する。ブレーキ操作が有ると判定すればステップS15に進み、ブレーキ操作が無いと判定すれば今回の制御フローを終了する。
ステップS15では、ブレーキ操作状態検出部74が、ブレーキ操作状態を判定する。マスタ圧又はマスタストロークが第1の閾値(例えば5MPa又は5MPa相当のストローク)以上であればステップS16に進み、第1の閾値未満であれば今回の制御フローを終了する。
ステップS16では、フェード状態判定部77が、フェード状態であるか否かを判定する。フェード状態であると判断すればステップS17に進み、フェード状態でないと判断すれば今回の制御フローを終了する。
ステップS17では、フェードアシスト制御判定部790が、フェードアシストフラグをセットする。これにより、図6のメインフロー(ステップS4)においてフェードアシスト制御を作動させる。
【0057】
図10は、フェードアシスト制御の作動を終了させるか否かの判断の流れを示す判定フローチャートである。
ステップS21では、システム状態検出部71が、ステップS11と同様、システムが正常であるか否かを判定する。正常と判断すればステップS22に進み、正常でないと判断すればステップS27に進む。
ステップS22では、ABS制御検出部72が、ステップS12と同様、ABS作動中であるか否かを判定する。ABS作動中でなければステップS23に進み、ABS作動中であればステップS27に進む。
ステップS23では、車速検出部73が、車速が第2の閾値(例えば5km/h)以上であるか否かを判定する。第2の閾値以上であればステップS24に進み、第2の閾値未満であればステップS27に進む。
ステップS24では、ブレーキ操作状態検出部74が、ステップS14と同様、ブレーキ操作の有無を判定する。ブレーキ操作中であればステップS25に進み、ブレーキ操作中でなければステップS27に進む。
ステップS25では、ブレーキ操作状態検出部74が、ブレーキ操作状態を判定する。マスタストロークの後退量が第2の閾値(例えば1MPa相当のストローク)未満であればステップS26に進み、第2の閾値以上であればステップS27に進む。
ステップS26では、フェードアシスト制御判定部790が、S21〜S25の条件を全て満たす場合に、フェードアシストフラグをクリアせずに今回の制御フローを終了する。すなわち図6のメインフロー(ステップS6)においてフェードアシスト制御の作動を解除しない。
ステップS27では、フェードアシスト制御判定部790が、フェードアシストフラグをクリアして今回の制御フローを終了する。すなわち図6のメインフロー(ステップS6)においてフェードアシスト制御の作動を解除して終了させる。
【0058】
[実施例1の作用]
次に、実施例1のブレーキシステムの作用を説明する。
ブレーキの摩擦部材が発熱することで摩擦係数が低下し、ブレーキ力(車両の減速度)が低下するフェード現象の対策として、ホイールシリンダの液圧を増圧して摩擦部材の押し付け力を増大することが考えられる。従来、液圧ユニットを備えたブレーキシステムにおいて、液圧ユニットによりホイールシリンダを増圧することで、フェード現象によるブレーキ力の低下を抑制する技術が知られている。しかし、一般にマスタシリンダは、ピストンの前進に応じてリザーバから遮断される液圧室にて液圧を発生する構造であるため、液圧ユニットがマスタシリンダ(上記リザーバ)からブレーキ液の供給を受ける構成である場合には、マスタシリンダのピストンが底付き(床付き)してそれ以上ストロークできなくなった状態では、液圧ユニットとリザーバとの連通が遮断され、液圧ユニットがマスタシリンダ(上記リザーバ)からブレーキ液の供給を受ける(液圧ユニットのポンプがブレーキ液を吸引する)ことができない。よって、それ以上ホイールシリンダの増圧ができなくなってしまうため、それ以上ホイールシリンダを増圧可能とするためには、マスタシリンダを大型化(具体的には、マスタシリンダのサイズ増大やピストンストロークの増加)せざるを得ず、ブレーキシステムが大型化してしまう。
【0059】
これに対し、本実施例1のブレーキシステムでは、リザーバ4からマスタシリンダ3の液圧室33へのブレーキ液の流れを許容する逆止弁9を設けた。液圧ユニット5を作動させることでホイールシリンダ6の圧力不足分を補うフェードアシスト制御を実行する際、液圧ユニット5のポンプ51は、まずマスタシリンダ3の液圧室33からブレーキ液を吸引する。その後、仮にマスタシリンダ3のピストン31,32が底付きしても、ブレーキ液はリザーバ4から逆止弁9を介してマスタシリンダ3の液圧室33を経由し、液圧ユニット5のポンプ51に吸引される。よって、マスタシリンダ3を大型化することなく、液圧ユニット5によりホイールシリンダ6を増圧することが可能となるため、ブレーキシステムの大型化を抑制しつつ、フェードアシスト制御を実行することができる。マスタシリンダ3を大型化する必要がないため、車両のボンネット内のレイアウト性を向上することができる。また、ピストンストロークを増加させるが必要ないため、マスタシリンダ3の全長を増加する必要が無く、これにより車両の衝突安全性を向上することができる。また、ブレーキペダル1の変更等も必要なくなるため、コスト増大を抑制することができる。
【0060】
なお、電動倍力装置2を省略しても上記作用効果を得ることができる。本実施例1のように電動倍力装置2を備えたブレーキシステムの場合、電動倍力装置2によるブレーキアシスト制御を用いてホイールシリンダ6を増圧することも考えられる。しかし、上記のように、ホイールシリンダ6の増圧量はマスタシリンダ3の容量による制限があり、ピストン31,32が底付きしてそれ以上ストロークできなくなると、マスタシリンダ3からホイールシリンダ6にブレーキ液を供給することができない。マスタシリンダ3のサイズやストローク量の増大により対処しようとすると、電動倍力装置2内の大幅な部品変更が必要になる等、コストが増大するおそれがある。これに対し、本実施例1では、電動倍力装置2の内機部品を変更することなく、液圧ユニット5によりホイールシリンダ6を増圧することが可能となるため、コストを抑制しつつ、フェードアシスト制御を実行することができる。
【0061】
なお、逆止弁9をマスタシリンダ3と一体に設けるのではなく、マスタシリンダ3とは別体(例えばリザーバ4と一体)に設けることとしてもよい。また、ホイールシリンダ6の形式はディスクブレーキに限らず例えばドラムブレーキであってもよい。また、X字型のブレーキ配管だけでなく、例えば前後配管のブレーキシステムに本発明を適用してもよい。本実施例1では逆止弁9をプライマリ系統Pとセカンダリ系統Sの両方に設けたが、どちらか一方の系統のみに設けることとしてもよい。本実施例1のように両方のブレーキ系統P,Sに逆止弁9a,9bを設ければ、より多くの車輪に対してフェードアシスト制御を実行できるため、フェード現象による車両の減速度低下をより効果的に抑制することができる。なお、逆止弁9をどちらか一方の系統に設ける構成は、特にブレーキ配管が前後配管構造である場合(更に前輪側の系統に逆止弁9を設ける場合)に有効である。また、本実施例1では四輪自動車のブレーキシステムとしたが、二輪自動車のブレーキシステムにも本発明を適用可能である。
【0062】
液圧ユニット5の失陥時や過熱保護中にはフェードアシスト制御を作動させない(上記判定条件(A1)(B1):ステップS11,S21)。よって、ブレーキシステムにおける制御性を向上することができる。液圧ユニット5のABS作動中はフェードアシスト制御を介入させない(上記判定条件(A2):ステップS12)。すなわち、ABSが作動しているということは、タイヤの性能が限界まで使われており、車輪の制動力が十分であることを意味する。よって、このような状況ではフェードアシスト制御を介入させないことで、不要な制御を回避できると共に、ABSによる車輪ロック抑制の効果をより確実に実現することができる。なお、液圧ユニット5のESC作動中等にもフェードアシスト制御を介入させないようにすることで、車両姿勢の安定化制御をより確実に実現することとしてもよい。一方、フェードアシスト制御中にABSを介入可能とする(上記判定条件(B1):ステップS22)。このようにフェードアシスト制御よりもABS制御を優先させることで、上記のように不要な制御を回避しつつ、両制御の干渉を抑制し、ABSの効果をより確実に実現することができる。なお、フェードアシスト制御中に、ABS以外にも、ESCやEBD等の他の制御を介入可能とし、これらの制御の目的(車両姿勢の安定化等)をより確実に実現することとしてもよい。また、車両の旋回中も、フェードアシスト制御を継続することとしてもよい。但し、ABSや上記他の制御をフェードアシスト制御に優先させることが好ましい。また、ブレーキペダル1とアクセルペダルが同時に踏み込まれた場合も、上記条件(A1)〜(A6)が成立する限り、フェードアシスト制御を作動させることとしてもよい。
【0063】
車速が所定値(第1の閾値)以上であることを検出した場合に、フェードアシスト制御を作動させる(上記判定条件(A3):ステップS13)。また、車速が所定値(第2の閾値)未満であることを検出した場合に、フェードアシスト制御を解除させる(上記判定条件(B3):ステップS23)。このように、フェード状態が発生する可能性があり、また車両の減速度がある程度要求されることが明らかな場合に限りフェードアシストを行うことで、運転者の意図に反して液圧ユニット5を不必要に作動させることを回避することができる。なお、本実施例1では、車輪速センサ82により検出された車輪速から車速を算出することとしたが、車輪速センサ82の代わりに、例えば駆動系の出力軸に車速センサを設け、この車速センサからの信号により車速を判断することとしてもよい。本実施例1のように、車輪速センサ82の検出値に基づき車速を算出すれば、車速センサを用いた場合に比べ、フェード現象が発生する可能性をより正確に把握することができる。よって、車速を用いてフェードアシスト制御の作動・終了を判定する際(上記判定条件(A3)(B3):ステップS13、S23)、フェードアシスト制御をより適切に作動・終了させることができる。
【0064】
ブレーキ操作状態検出部74により所定量(第1の閾値)以上のブレーキ操作が検出された場合に、フェードアシスト制御を作動させる(上記判定条件(A5):ステップS15)。このように、フェード状態が発生する可能性があり(さらにはマスタシリンダ3のピストン31,32が底付きする可能性があり)、かつ運転者により車両の減速度がある程度要求されていることが明らかな場合に限りフェードアシストを行うことで、運転者の意図に反して液圧ユニット5を不必要に作動させることを回避することができる。ここで、本実施例1では、マスタ圧とマスタストロークのいずれかが第1の閾値以上であればブレーキペダル1の操作量が所定値以上の状態であると判断する。よって、どちらか一方のみにより判断した場合に比べ、判断をより確実なものとすることができる。また、ストロークセンサ84により検出されるマスタストロークが第1の閾値以上であれば、ブレーキ操作量が所定値以上の状態であると判断する。よって、仮にマスタシリンダ3のピストン31,32が底付きし、マスタ圧がそれ以上増大する(第1の閾値以上となる)ことが困難な場合であっても、マスタストロークに基づき、フェードアシスト制御を作動させる必要があることを判定することができるため、フェードアシスト制御をより確実に実行することができる。上記判定条件(A5)では、ブレーキ操作量が所定値以上であればよいため、運転者がブレーキペダル1を踏み込んだ場合に限らず、ブレーキペダル1の踏力を保持した状態でも、フェードアシスト制御が作動可能であるように設けられている。
【0065】
なお、上記判定条件(A1)〜(A6)に加え、
(A7)ブレーキペダル1が戻り方向に操作されていない(ブレーキ操作の戻り量が所定値[第2の閾値]未満である)ことを確認した、
という条件が成立したときに、フェードアシスト制御を作動させると判定することとしてもよい。
このように、運転者により車両の減速度が要求されないことが明らかな場合にはフェードアシストを作動させないことで、運転者の意図に反して液圧ユニット5を不必要に作動させることを回避することができる。
【0066】
本実施例1では、マスタシリンダ3側の液圧供給状態と車両の減速状態との関係に基づきフェード状態を判定する(上記判定条件(A6):ステップS16)。よって、ABSが作動するような値や底付きするような値までブレーキ操作量が増大する前に(下記判定条件(A8)(A9)参照)、すなわちブレーキ操作の比較的初期の段階で、フェード状態の発生を検出することができる。言換えると、ブレーキ操作量に関わりなくフェード状態を判定できるため、より迅速にフェードアシスト制御を作動させることができる。なお、マスタシリンダ3側の液圧供給状態を検出する手段として、ホイールシリンダ6の液圧を検出するセンサを設けたり、マスタストロークからマスタ圧を推定したりすることとしてもよい。本実施例1では、従来から備えられた、マスタ圧を検出する液圧センサ81を用いるため、部品点数を削減してコストを低減しつつ、より正確にマスタシリンダ3側の液圧供給状態を検出してフェード状態を判定することができる。
【0067】
また、本実施例1では、ブレーキ操作状態検出部74により所定量(第1の閾値)以上のブレーキ操作が検出された場合であって、ABS作動が行なわれないときに、フェード状態を判定する(上記判定条件(A2)(A5):ステップS12→・・・→S15→S16)。よって、フェード状態を判定する際、路面状態等による誤判断を抑制することができる。すなわち、フェード状態発生の有無は、マスタシリンダ3側の液圧供給状態(マスタ圧)と車両の減速状態(減速度)との間の所定の関係に基づいて判断することができる(上記判定条件(A6))。しかし、上記関係はタイヤのスリップ状態(路面摩擦係数の大小)によって変化しうる。よって、タイヤのスリップ状態を考慮せずに上記関係のみに基づきフェード状態を判定すれば、誤った判定を行う可能性がある。これに対し、ブレーキ操作量(ホイルシリンダ6へのブレーキ液供給量)が所定以上であり、かつABSが作動しないのであれば、タイヤのスリップ状態が安定している(ある程度の路面摩擦係数がある)と判断できる。よって、このような場合に限り、上記関係に基づいてフェード状態を判断することで、誤判断の発生を抑制することができる。これにより、フェードアシスト制御をより実効的に行うことができる。
【0068】
なお、本実施例1では、車輪速センサ82により検出された車輪速から車両の減速度を算出することとしたが、車輪速センサ82の代わりに、例えば前後加速度センサを設け、この前後加速度センサからの信号により車両の減速状態を検出することとしてもよい。本実施例1のように、車輪速センサ82の検出値に基づき車両の減速度を検出すれば、加速度センサを用いた場合に比べ、車両が走行する路面の勾配や車両の姿勢による影響を抑制することができる。よって、車両の減速度を用いてフェードアシスト作動を判定する際(上記判定条件(A6):ステップS16でフェード状態を判定する際)、判定精度を向上し、フェードアシスト制御をより適切に作動させることができる。
【0069】
なお、上記判定条件(A5)(A6)に代えて、
(A8)ブレーキ操作量が所定値[第3の閾値]以上である、
という条件が成立したときに、フェードアシスト制御を作動させると判定することとしてもよい。
上記第3の閾値は、フェード状態が発生していない通常時にブレーキ操作量が第3の閾値以上になるとABSが作動するような値に設定する。すなわち、ブレーキ操作量が第3の閾値以上であるにも関わらず、車輪がロックせずABSが作動しないのであれば、車輪の制動力が不足したフェード状態であると判断することができる。例えば、ブレーキ操作状態検出部74は、ストロークセンサ84により検出されるマスタストロークが所定の第3の閾値(>第1の閾値)以上であるか否かにより、ブレーキペダル1の操作量が所定以上である状態か否かを判断する。フェードアシスト制御判定部790は、上記判定条件(A1)〜(A4)(A8)が全て成立したときに、フェードアシスト制御の作動と判定する。
【0070】
さらに、上記判定条件(A5)(A6)に代えて、
(A9)ブレーキ操作量が最大値である、
という条件が成立したときに、フェードアシスト制御を作動させると判定することとしてもよい。
すなわち、ブレーキ操作量が所定の限界値まで増大したときにはマスタシリンダ3のピストン31,32が底付きしていると判断することができる。底付きしているにも関わらず、車輪がロックせずABSが作動しないのであれば、車輪の制動力が不足したフェード状態であると判断することができる。それ以上液圧室33の容積を縮小してマスタ圧を発生することができないため、液圧ユニット5を作動状態としてリザーバ4から逆止弁9を介してホイールシリンダ6にブレーキ液を供給する。例えば、ブレーキ操作状態検出部74は、ストロークセンサ84により検出されるマスタストロークが所定の上限値に達したか否かにより、ブレーキペダル1の操作量が最大値であるか否かを判断する。フェードアシスト制御判定部790は、上記判定条件(A1)〜(A4)(A9)が全て成立したときに、フェードアシスト制御の作動と判定する。この場合、液圧ユニット5を作動状態としてフェードアシスト制御を行っても、運転者がそのブレーキ操作状態を継続する限り、マスタシリンダ3のピストン31,32のストロークが(底付きしたまま)変動しない。よって、ブレーキペダル1を踏んでいる運転者に違和感を与えることを抑制できる。
【0071】
ブレーキ操作状態検出部74によりブレーキ操作状態が戻り方向であることが検出された場合に、フェードアシスト制御を終了させる(上記判定条件(B5):ステップS25→S27→S6)。このように、運転者により車両の減速度が要求されなくなったことが明らかな場合にはフェードアシストを解除することで、運転者の意図に反して液圧ユニット5を不必要に作動させることを回避することができる。
【0072】
なお、上記判定条件(B1)〜(B5)以外に、
(B6)ブレーキ操作量が所定値[第4の閾値:例えばマスタ圧1MPa相当のストローク]未満である)ことを確認した、
という条件が成立したときにも、フェードアシスト制御の作動終了と判定することとしてもよい。
この場合、マスタストロークに基づきブレーキ操作量が第4の閾値未満であることを検出するようにすれば、フェードアシスト制御中のポンプ51の作動によりマスタ圧が低下しても、誤ってフェードアシスト制御の作動終了と判断することを抑制できる。よって、制御終了をより適切に判定することができる。なお、マスタ圧を用いる場合の第4の閾値は、ポンプアップによりマスタ圧が低下しても第4の閾値を下回らないような値に設定することが好ましい。
【0073】
[実施例1の効果]
以下、実施例1のブレーキシステムが奏する効果を列挙する。
(1)車両に設けられるブレーキペダル1の操作によるピストン31,32の前進に応じてリザーバ4から遮断されて液圧室33にて液圧を発生するマスタシリンダ3と、マスタシリンダ3に設けられ、リザーバ4から液圧室33へのブレーキ液の流れを許容する逆止弁9と、マスタシリンダ3の液圧室33とホイールシリンダ6との間に設けられ、制御装置7からの指令に応じて液圧室33のブレーキ液を増圧してホイールシリンダ6へ供給、又はホイールシリンダ6の液圧を減圧して液圧室33にブレーキ液を還流する車両姿勢安定装置(液圧ユニット5)とを有し、制御装置7は、ホイールシリンダ6がフェード状態にあると判定したときに車両姿勢安定装置へ増圧指令を出力し、増圧指令に応じて、車両姿勢安定装置が、逆止弁9を介してリザーバ4のブレーキ液を吸引し、該ブレーキ液をホイールシリンダ6へ供給する。
よって、ブレーキシステムの大型化を抑制しつつ、フェード時にホイールシリンダ6を増圧するフェードアシスト制御を実行することができる。
【0074】
(2)マスタシリンダ3側の液圧供給状態を検出する液圧供給状態検出手段(液圧センサ81、液圧供給状態検出部75)と、車両の減速状態を検出する減速状態検出手段(車輪速センサ82、減速状態検出部76)とを有し、制御装置7(フェード状態判定部77)は、液圧供給状態検出手段により検出される値(マスタ圧)と、減速状態検出手段により検出される値(減速度)との関係が正常な所定関係であるか否かを判定し、正常な所定関係でない場合にホイールシリンダ6がフェード状態にあると判定する(ステップS16)。
よって、ブレーキ操作量に関わりなくより迅速にフェード状態を判定することができる。
【0075】
(3)具体的には、制御装置7は、液圧供給状態検出手段によって検出される液圧供給状態(マスタ圧)に対して、減速状態検出手段によって検出される車両の減速状態(減速度)が不足するときに、ホイールシリンダ6がフェード状態にあると判定する。
このように不足状態を検出することで適切にフェード状態を判定することができる。
【0076】
(4)液圧供給状態検出手段はマスタシリンダ3の液圧(マスタ圧)を検出する液圧検出手段(液圧センサ81)からなり、制御装置7(フェード状態判定部77)は、液圧検出手段により検出される液圧と車両の減速状態との関係が前記正常な所定関係であるか否かを判定する。
よって、コストを低減しつつ、より正確にフェード状態を判定することができる。
【0077】
(5)減速状態検出手段は、車両の減速度を検出する減速度検出手段(車輪速センサ82、減速状態検出部76)からなり、制御装置7(フェード状態判定部77)は、減速度検出手段により検出される減速度と液圧供給状態との関係が前記正常な所定関係であるか否かを判定する。
このように車両の減速状態として車両の減速度を検出することで、より直截に車両の減速状態を検出し、より正確にフェード状態を判定することができる。
【0078】
(6)ブレーキペダル1の操作ストロークを検出するストローク検出手段(ストロークセンサ84、ブレーキ操作状態検出部74)を有し、制御装置7(フェードアシスト制御部79)は、ストローク検出手段によりブレーキペダル1が戻り方向に操作されていることを検出したときに車両姿勢安定装置(液圧ユニット5)への増圧指令を解除する(ステップS25→S27→S6)。
よって、運転者の意図に反して液圧ユニット5を不必要に作動させることを回避することができる。
【0079】
(7)ブレーキペダル1の操作ストロークを検出するストローク検出手段(ストロークセンサ84、ブレーキ操作状態検出部74)を有し、制御装置7(フェードアシスト制御部79)は、ストローク検出手段によりブレーキペダル1が戻り方向に操作されていないことを確認してから車両姿勢安定装置(液圧ユニット5)へ増圧指令を出力することとしてもよい。
この場合も、運転者の意図に反して液圧ユニット5を不必要に作動させることを回避することができる。
【0080】
(8)ブレーキペダル1の操作量を検出するブレーキ操作量検出手段(液圧センサ81、ストロークセンサ84、ブレーキ操作状態検出部74)を有し、制御装置7(フェードアシスト制御部79)は、ブレーキ操作量検出手段により所定値(第1の閾値)以上のブレーキ操作が検出された場合であって、車両姿勢安定装置(液圧ユニット5)によってホイールシリンダ6の液圧を減圧するABS作動が行なわれないときに、ホイールシリンダ6のフェード状態を判定する(ステップS12→・・・→S15→S16)。
よって、運転者の意図に反して液圧ユニット5を不必要に作動させることを回避することができると共に、フェード状態の誤判断を抑制することが可能である。
【0081】
(9)ブレーキペダル1の操作ストロークを検出するストローク検出手段(ストロークセンサ84、ブレーキ操作状態検出部74)を有し、制御装置7(フェードアシスト制御部79)は、ストローク検出手段により所定ストローク(所定の限界値)が検出された場合であって、車両姿勢安定装置(液圧ユニット5)によってホイールシリンダ6の液圧を減圧するABS作動が行なわれないときに、ホイールシリンダ6がフェード状態にあると判定することとしてもよい。
この場合、ブレーキペダル1を踏んでいる運転者に違和感を与えることを抑制できる。
【0082】
(10)制御装置7(フェードアシスト制御部79)は、車両姿勢安定装置(液圧ユニット5)によってホイールシリンダ6の液圧を減圧するABS作動が行なわれないことを確認してから車両姿勢安定装置へ増圧指令を出力する(ステップS12→・・・→S17→S4)。
よって、不要な制御を回避できると共に、ABSによる車輪ロック抑制の効果をより確実に実現することができる。
【0083】
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、実施例1では、ブレーキ操作中にフェードアシスト制御を作動させる場合として、通常ブレーキ中にフェードアシスト制御を作動させる例を説明したが、電動倍力装置によるブレーキアシスト中や回生協調制御中にフェードアシスト制御を作動させることとしてもよい。電動倍力装置によるブレーキアシスト中にフェードアシスト制御を作動させる場合、サクションバルブ55の開度を制御してポンプの吸入側の液圧が過剰にならないようにすることとしてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ブレーキペダル
2 電動倍力装置
3 マスタシリンダ
4 リザーバ
5 液圧ユニット(車両姿勢安定装置)
6 ホイールシリンダ
7 制御装置
9 逆止弁
31 プライマリピストン
32 セカンダリピストン
33 液圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられるブレーキペダルの操作によるピストンの前進に応じてリザーバから遮断されて液圧室にて液圧を発生するマスタシリンダと、
該マスタシリンダに設けられ、前記リザーバから前記液圧室へのブレーキ液の流れを許容する逆止弁と、
前記マスタシリンダの液圧室とホイールシリンダとの間に設けられ、制御装置からの指令に応じて前記液圧室のブレーキ液を増圧して前記ホイールシリンダへ供給、又は前記ホイールシリンダの液圧を減圧して前記液圧室にブレーキ液を還流する車両姿勢安定装置とを有し、
前記制御装置は、前記ホイールシリンダがフェード状態にあると判定したときに前記車両姿勢安定装置へ増圧指令を出力し、
該増圧指令に応じて、前記車両姿勢安定装置が、前記逆止弁を介して前記リザーバのブレーキ液を吸引し、該ブレーキ液を前記ホイールシリンダへ供給することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキシステムにおいて、
前記マスタシリンダ側の液圧供給状態を検出する液圧供給状態検出手段と、
前記車両の減速状態を検出する減速状態検出手段とを有し、
前記制御装置は、前記液圧供給状態検出手段により検出される値と、前記減速状態検出手段により検出される値との関係が正常な所定関係であるか否かを判定し、前記正常な所定関係でない場合に前記ホイールシリンダがフェード状態にあると判定することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキシステムにおいて、
前記制御装置は、前記液圧供給状態検出手段によって検出される液圧供給状態に対して、前記減速状態検出手段によって検出される車両の減速状態が不足するときに、前記ホイールシリンダがフェード状態にあると判定することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のブレーキシステムにおいて、
前記液圧供給状態検出手段は前記マスタシリンダの液圧を検出する液圧検出手段からなり、
前記制御装置は、前記液圧検出手段により検出される液圧と前記車両の減速状態との関係が前記正常な所定関係であるか否かを判定することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかに記載のブレーキシステムにおいて、
前記減速状態検出手段は、車両の減速度を検出する減速度検出手段からなり、
前記制御装置は、前記減速度検出手段により検出される減速度と前記液圧供給状態との関係が前記正常な所定関係であるか否かを判定することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキペダルの操作ストロークを検出するストローク検出手段を有し、
前記制御装置は、前記ストローク検出手段により前記ブレーキペダルが戻り方向に操作されていることを検出したときに前記車両姿勢安定装置への増圧指令を解除することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキペダルの操作ストロークを検出するストローク検出手段を有し、
前記制御装置は、前記ストローク検出手段により前記ブレーキペダルが戻り方向に操作されていないことを確認してから前記車両姿勢安定装置へ増圧指令を出力することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項8】
請求項1に記載のブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキペダルの操作ストロークを検出するストローク検出手段を有し、
前記制御装置は、前記ストローク検出手段により所定ストロークが検出された場合であって、前記車両姿勢安定装置によって前記ホイールシリンダの液圧を減圧するABS作動が行なわれないときに、前記ホイールシリンダのフェード状態を判定することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項9】
請求項8に記載のブレーキシステムにおいて、
前記制御装置は、前記ストローク検出手段により前記ブレーキペダルが戻り方向に操作されていることを検出したときに前記車両姿勢安定装置への増圧指令を解除することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載のブレーキシステムにおいて、
前記制御装置は、前記車両姿勢安定装置によって前記ホイールシリンダの液圧を減圧するABS作動が行なわれないことを確認してから前記車両姿勢安定装置へ増圧指令を出力することを特徴とするブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−71714(P2013−71714A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214401(P2011−214401)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】