説明

ブレーキパッド

【課題】摩耗を抑えながら、制動性能が乾燥状態と湿潤状態の両方で向上した自転車用ブレーキパッド。
【解決手段】本発明のブレーキパッド5は、制動時に自転車の車輪2のリム3の側部8に圧接する制動面を有しており、a)水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)10〜40重量部と、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体90〜60重量部とを含む高分子基材と、b)この高分子基材100重量部につき合計5〜15重量部の繊維と、を含む混合物をペルオキシド架橋系で架橋する事により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用のブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
競走用自転車の分野では、複合材料からなる部品、例えば、カーボン繊維をポリマー・マトリックスに包埋させた材料からなる部品が広く使用されている。このような材料で作られた部品のなかでも、自転車の車輪のリムが、強度、弾性および軽量性の優れた組合せにより、極めて重宝されている。
【0003】
しかしながら、本発明の発明者は、このように作られたリムには乾燥状態と湿潤状態の両方で高性能を発揮するブレーキパッドが欠かせないことに気付いた。
【0004】
また、本発明の発明者は、複合材料からなるリム、特に、カーボン繊維からなるリムは、強い制動動作の後で、主に2つの要因により問題が生じることに気付いた。まず、ブレーキパッドがリムに擦り付くと、リムが摩耗する。次に、そのような摩耗によって最大で200℃の熱が発生し、カーボン繊維を包埋するポリマー・マトリックスの機械特性が変化してしまう。そのため、リムに層間剥離(デラミネーション)が生じる恐れがある。
【0005】
さらに、本発明の発明者は、例えば本願と同じ出願人による特許文献1に記載されているような、アクリロニトリル−ブタジエン(NBR)、水添アクリロニトリル−ブタジエン(HNBR)、スチレン−ブタジエン(SBR)、エチレン−プロピレン(EPR、EPDM)、クロロプレン(CR)から選ばれるポリマーまたはこれらポリマーの組合せから構成されるゴムと、コルクと、高い熱伝導率を有する膨張性天然グラファイトとを含む混合物を架橋させることによって得られる既知のパッドが、特に、複合材料からなる前述のリムに対して使用された場合に、制動性能および耐摩耗性を十分に発揮できないことに気付いた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2030806号明細書 (=特開2009−058127号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底をなす課題は、ブレーキパッドについて、摩耗を確実に抑えながら同時に制動性能を乾燥状態と湿潤状態の両方で向上させることにより、前述した課題を解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上を踏まえて、本発明の第1の構成は、請求項1に記載のブレーキパッドに関し、本発明の第2の構成は、請求項14に記載の車輪−ブレーキのアセンブリに関し、本発明の第3の構成は、請求項16に記載のブレーキパッドを製造するための混合物に関する。
【0009】
詳細には、本発明にかかるブレーキパッドは、制動時に自転車の車輪のリムの側部に圧接する制動面を有するブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドは、
a)水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)10〜40重量部と、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体90〜60重量部と、を含む高分子基材と、
b)前記高分子基材100重量部につき合計5〜15重量部の繊維と、を含む混合物を、ペルオキシド架橋系で架橋させることによって得られる。
【0010】
特記しない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載された量、パラメータ、百分率などを表す全ての数字については、それらの数字の前に「約」という文言が付いているものと理解されたい。また、全ての数値範囲には、明記されている数値に加えて、最大値および最小値、ならびにそれらの間に存在する全数値の組合せが含まれるものとする。
【0011】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)という用語は、完全にまたは部分的に飽和したニトリルゴムを指すものとする。
【0012】
HNBRゴムは、アクリロニトリルとブタジエンとの高分子化合物に基づく、不飽和タイプのゴムに属する、ニトリルゴム(NBR)を水素化処理することによって得られる(例えば、K. Nagdiによる著書“Manuale della gomma”(1981年)の第167〜173頁を参照されたい)。
【0013】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体という用語は、ペルオキシド系で架橋可能な、フッ素を64〜72重量%含有するフルオロエラストマーを指すものとする。
【0014】
本発明の発明者は、混合物中にHNBRゴムが存在すると、当該ゴムの高い摩擦係数により、特に湿潤状態でブレーキパッドの制動性能が大幅に向上する一方、制動が強力になり過ぎて、騒音が発生することに気付いた。
【0015】
これに対し、本発明の発明者は、驚くべきことに、HBNRゴムに前記フルオロエラストマーを加えたものを高分子基材として使用することにより、最適な制動性能を発揮し、特に、長期にわたって制動性能が一定のブレーキパッドが得られることを見出した。特定の理論に基づいてこの効果を説明するわけではないが、発明者は、HNBRゴムと前記フルオロエラストマーとを組み合わせることにより、従来のブレーキパッドに比べて、耐熱性および耐摩耗性の向上と、制動特性との間で、最適なバランスが得られると考えている。
【0016】
具体的に述べると、本発明にかかるブレーキパッドは、後で詳述するように、制動性能が、乾燥状態と湿潤状態の両方で従来のブレーキパッドに比べて大幅に向上している。
【0017】
好ましくは、前記高分子基材は、当該高分子基材100重量部あたり15〜30重量部の前記HNBRゴムを有する。
【0018】
本発明で使用可能であり、市販されているHNBRゴムの好適な例は、Therban(登録商標)(Lanxess社製)であり、なかでも、Therban(登録商標) AT3443 VPがより好ましい。
【0019】
好ましくは、前記高分子基材は、当該高分子基材100重量部あたり85〜70重量部の、前述したフッ素化ターポリマーを備える。
【0020】
本発明で使用可能であり、市販されている三元共重合体の好適な例は、Viton(登録商標)GBL、Viton(登録商標)GB、およびViton(登録商標)GF(いずれもDupont(商標)社製)であり、なかでも、Viton(登録商標)GBL 600およびViton(登録商標)GF 600がより好ましい。
【0021】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、ペルオキシド架橋系という用語は、ペルオキシド類および活性化剤(例えばイソシアヌル酸トリアリルなど)を含む架橋系を指すものとする。
【0022】
好ましくは、前記ペルオキシド架橋系は、前記高分子基材100重量部につき、1〜4重量部のペルオキシド類と、1〜5重量部の活性化剤とを含む。
【0023】
本発明で使用可能であり、市販されているペルオキシド架橋系の好適な例は、Norperox DBPH−45[2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン]と活性化剤、TAIC(登録商標) KS(イソシアヌル酸トリアリル)である[Nordmann,Rassman社製]。他のペルオキシド架橋系として、R.T. Vanderbilt Company社から市販されて、有利に使用可能な、Varox(登録商標) 130 XL(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ジエチルアセチレン)、Varox(登録商標) 802−40KE(α−α−ジ(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン)、およびVarox(登録商標) DCP−40KE(ジクミルペルオキシド)が挙げられ、有利に使用可能である、市販されている活性化剤として、シアヌル酸トリアリル(TAC(登録商標))およびイソシアヌル酸トリメチルアリル(TMAIC(登録商標))が挙げられる。
【0024】
ペルオキシド架橋により、フルオロエラストマーとHNBRゴムとについて同時架橋を実現することができる。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、繊維という用語は、セルロース、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(zylon(登録商標))、およびアラミド繊維からなる群から選択される繊維のことを指す。アラミド繊維が特に好ましく、パラアラミド繊維および/またはメタアラミド繊維がなお一層好ましい。
【0026】
好ましくは、前記ブレーキパッドを構成する混合物に含まれる前記アラミド繊維(より好ましくは、パラアラミド繊維および/またはメタアラミド繊維)は、平均長が1mmであり、平均径が5〜20μmであり、前記ブレーキパッドの本体の長手方向の伸長に対して、平均して長手方向に配向している。
【0027】
有利なことに、前記アラミド繊維は、補強機能を有するだけでなく、前記高分子基材によって得られる制動性能のバランスを取る機能も有する。
【0028】
好ましくは、前記高分子基材100重量部につき合計5〜10重量部の前記繊維が、前記混合物に含まれる。
【0029】
本発明で使用可能であり、市場で入手可能であるパラアラミド繊維およびメタアラミド繊維の好適な例は、Nomex(登録商標)(DuPont(商標)社製)、Kevlar、Twaron(登録商標)(Teijin社製)およびTeijinconex(登録商標)(Teijin社製)である。
【0030】
好ましい一実施形態において、前記ブレーキパッドは、前述した成分のほかに前記高分子基材100重量部につき合計1〜4重量部の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含む混合物によって構成される。
【0031】
カーボンナノチューブ(MWCNT)を使用することにより、ブレーキパッドの熱伝導率を増やすことができ、これにより、カーボン繊維を包埋するポリマー・マトリックスの剛性低下や機械強度減少の原因となる熱について、その分散性を有利に向上させられることが見出された。また、MWCNTを使用することにより、高い補強効果が付与されるので、混合物中の繊維の量を減らすことができて、リムの摩耗の抑制につながるという利点がある。
【0032】
本発明で使用可能であり、市場で入手可能なMWCNTの好適な例は、Baytubes(登録商標) C150P(Bayer社製)およびGraphistrength(登録商標) C100(Arkema社製)である。
【0033】
他の好ましい実施形態において、前記ブレーキパッドは、前述した成分のほかに、MgO、ZnO、Ca(OH)およびこれらの混合物からなる群から選択されるフィラーを、前記高分子基材100重量部につき合計1〜5重量部含む混合物によって構成される。有利なことに、MgO、ZnO、およびCa(OH)を使用することにより、ペルオキシド架橋が促進される。
【0034】
さらなる他の好ましい実施形態において、前記ブレーキパッドは、前述した成分のほかに前記高分子基材100重量部につき合計3〜8重量部のタルクを含む混合物によって構成される。有利なことに、タルクは潤滑効果を有するので、最適な制動のバランス(braking balancing)を取るのに役立つ。
【0035】
さらなる他の好ましい実施形態において、前記ブレーキパッドは、前述した成分のほかに前記高分子基材100重量部につき合計3〜7重量部のCaOを含む混合物によって構成される。酸化カルシウムは弱補強性のフィラーであり、かつ、有利なことに、ペルオキシド架橋時に発生する湿気の受容体として機能する。
【0036】
さらなる他の好ましい実施形態において、前記ブレーキパッドは、前述した成分のほかに前記高分子基材100重量部につき合計1〜4重量部の膨張グラファイトを含む混合物によって構成される。
【0037】
有利なことに、膨張グラファイトを使用することにより、ブレーキパッドの熱伝導率が増加するとともに、制動時の潤滑作用が向上する。
【0038】
さらなる他の好ましい実施形態において、前記ブレーキパッドは、前述した成分のほかに前記高分子基材100重量部につき合計0.5〜2重量部のカルナウバロウと前記高分子基材100重量部につき合計0.5〜2重量部のオルガノシリコーンとを含む混合物によって構成される。有利なことに、これらの成分は、加工助剤および離型剤(moulding detachers)として機能する。
【0039】
本発明で使用可能であり、市販されているオルガノシリコーン類の好適な例は、Struktol(登録商標)であり、なかでも、Struktol(登録商標)WS 280(脂肪酸誘導体とシリコーンとの縮合物(75%)を無機の担体(25%)に担持させた製品)(Shill−Seilacher社製)がより好ましい。
【0040】
さらなる他の好ましい実施形態において、前記ブレーキパッドは:
a)水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)15〜25重量部と、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体85〜75重量部とを含む高分子基材と、
b)前記高分子基材100重量部につき、8〜10重量部のパラアラミドおよびメタアラミド繊維と、2〜4重量部のイソシアヌル酸トリアリルと、2〜3重量部のペルオキシド類と、1〜3重量部のカーボンナノチューブ(MWCNT)と、を含む、混合物によって構成される。
【0041】
このような混合物は、ブレーキパッドの制動性能を、乾いたグランドコンディションと濡れたグランドコンディションの両方で従来のブレーキパッドに比べて向上させるのに特に適した材料である。
【0042】
本発明にかかるブレーキパッドは、当業者にとって既知の技術によって製造可能である。特に、本発明にかかるブレーキパッドの混合物は、当業者にとって周知の技術に従い、各種成分を、2シリンダー・ミキサー(two-cylinder mixer)を用いて機械的に混合することによって製造可能である。
【0043】
好ましくは、このようにして得られた混合物は、当業者にとって周知の技術に従って圧縮下で成形・架橋され、本発明にかかるブレーキパッドを形成する。あるいは、前記混合物は、当業者にとって周知の技術に従い、射出圧縮成形によって成形・架橋されてもよい。
【0044】
前記混合物を175℃の高温の型に挿入すると、ペルオキシド類の約90%が開裂してフリーラジカルを生じる。このフリーラジカルによって前記フッ素系エラストマーと前記HNBRゴムのポリマー間にC−C結合が形成されることにより、架橋が形成される。その後で、ブレーキパッドは、150℃で24時間の後架橋処理(post-cross-linking)を受けることによって残りのペルオキシドが消費され、プロセスが完了する。
【0045】
本発明の第2の構成は、自転車用の車輪−ブレーキのアセンブリに関し、この自転車用の車輪−ブレーキのアセンブリは:
−2つの対向する側部を有するリムを含む車輪と、
−制動時に前記リムの前記側部に圧接する制動面を有するブレーキパッドを2つ含む、ブレーキと、を備え、それぞれのブレーキパッドは、前述のブレーキパッドである。
【0046】
好ましくは、前記リムは、複合材料、より好ましくはカーボン繊維を含む複合材料からなる。本発明の利点は、このような種類のリムを用いた場合に最も顕著に現れる。
【0047】
好ましくは、各ブレーキパッドは、ブレーキパッドを保持する支持体を介してブレーキに装着される。
【0048】
本発明の第3の構成は、前述したような、自転車のブレーキ用のブレーキパッドを製造するための架橋性混合物に関する。
【0049】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照しながら行う、好ましい実施形態についての以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】前輪−ブレーキのアセンブリおよび後輪−ブレーキのアセンブリを備える自転車を示す図である。
【図2】図1の自転車のブレーキを示す斜視図である。
【図3】図1の自転車の車輪−ブレーキのアセンブリの休止形態を示す図である。
【図4】本発明にかかるブレーキパッドと従来のブレーキパッドとの、乾燥状態での制動性能を比較したグラフである。
【図5】本発明にかかるブレーキパッドと従来のブレーキパッドとの、湿潤状態での制動性能を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1に自転車1を示す。自転車1は一対の車輪2を備え、各車輪2はリム3を含む。さらに、各車輪2にはブレーキ4が設けられている。ブレーキ4は、少なくとも1つのブレーキパッド5、好ましくは一対のブレーキパッド5を含む。ブレーキパッド5が制動制御系(周知なので図示せず)の駆動運動に起因してリム3の側部8(図3を参照)に摩擦することにより、車輪の制動が実行される。
【0052】
リム3は、複合材料、例えば、構造繊維を高分子材中に包埋させるタイプの複合材料からなる。典型的に、前記構造繊維は、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、ボロン繊維、およびこれらの組合せからなる群から選択される。カーボン繊維が特に好ましい。
【0053】
高分子材中の前記構造繊維の配置形態は、構造繊維の小片または小さいシート状体のランダム配置、繊維の実質上一方向の規則的配置、繊維の実質上二方向の規則的配置、またはこれらの組合せとしてもよい。
【0054】
好ましくは、前記高分子材は熱硬化性高分子材であり、より好ましくはエポキシ樹脂を含む。ただし、熱可塑性高分子材の使用を排除するものではない。
【0055】
一般的に、リム3は、複合材料からなる複数のシートを、共通の樹脂で互いに接着させて重ね合わせたものである。
【0056】
リム3とブレーキパッド5は、自転車1の車輪−ブレーキのアセンブリ6における必要不可欠な構成要素である。
【0057】
図2にブレーキ4の詳細を示す。ブレーキ4は、ブレーキパッドを保持する支持体7を含む。ブレーキパッド5は、この支持体7を介してブレーキ4に装着される。
【0058】
図3に、自転車1におけるブレーキ4と車輪2の相対的な組付位置を概略的に示す。同図においてブレーキ4と車輪2は休止状態にあり、すなわち、ブレーキパッド5はリム3の側部8に機能していない。
【0059】
図4および図5に、本発明にかかるブレーキパッドと従来のブレーキパッドについて、乾燥状態および湿潤状態での制動性能の試験結果を示す。これらの試験は、以下の実験プロトコルに従って実施した。
【実施例】
【0060】
[ブレーキパッドの乾燥状態および湿潤状態での制動性能と摩耗]
【0061】
本発明にかかるブレーキパッドを、当業者にとって既知の技術に基づき、以下の混合物を用いて作製した。当該混合物は:
a)水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)20重量部と、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体80重量部とを含む高分子基材と、
b)前記高分子基材100重量部につき、9重量部のパラおよびメタアラミド繊維と、5重量部のタルクと、4重量部の酸化カルシウムと、3重量部のイソシアヌル酸トリアリルと、2.5重量部のペルオキシド類と、2重量部のカーボンナノチューブ(MWCNT)と、1重量部の酸化マグネシウムと、1重量部の水酸化カルシウムと、1重量部の酸化亜鉛と、0.5重量部のカルナウバロウの粉末と、0.5重量部のオルガノシリコーン類と、を含むものとした。
【0062】
本実施例の制動試験は、通常生産のカーボン繊維製の後輪(BoraTM UltraTM TwoTM チューブラーホイール、およびHyperonTM UltraTM クリンチャーホイール;カンパニョーロ社製)と、同じく通常生産のブレーキとを用いて実施した。後輪には(運転者の体重をシミュレートするために)フライホイールマスを接続し、当該後輪を約280回転/分(rpm)で水平方向に回転させた。ブレーキに可変の荷重(乾燥状態の試験で2−3−4kg、湿潤状態の試験で3−4−5kg)を印加し、後輪の回転が280rpmから90rpmに減少するまでに要した時間を測定した。湿潤の影響をシミュレートするために、ブレーキ近傍に位置するリムの表面に対して水を吹き付けた。
【0063】
さらに、ブレーキパッドの摩耗量を、乾燥の試験条件および湿潤の試験条件の両方で、一連(約300回)の制動サイクル後の重量損失(g)として評価した。まず、摩耗過程にかける前のブレーキパッドの重量を測定した。上記サイクルの完了後にブレーキパッドの重量を再び測定し、その重量損失(g)を摩耗量の測定値として評価した。
【0064】
本発明にかかるブレーキパッド(本発明)の制動試験および摩耗試験の結果を、以下の混合物からなる従来のブレーキパッド(比較例)の性能と比較した。比較例の混合物は、ゴム30重量%〜40重量%、コルク40重量%〜60重量%、および高い熱伝導率を有する天然グラファイト由来の膨張グラファイト4重量%〜20重量%を含むものであった。また、上記比較例の性能は、本発明にかかるブレーキパッドと同一の車輪および同一の方法で試験して得られた。
【0065】
以下の表1および表2に試験結果を示す。表1は、カーボン繊維製のBora Ultra Twoチューブラーホイールのリムを用いて試験したブレーキパッドの制動性能を表し、表2は、カーボン繊維製のHyperon Ultraクリンチャーホイールのリムでの制動性能を表す。
【0066】
【表1】

【0067】
本発明にかかるブレーキパッドと従来の比較例のブレーキパッドとを比較すると、本発明にかかるブレーキパッドは乾燥状態における制動性能が5〜8%優れていた。さらに、湿潤状態では、本発明にかかるブレーキパッドは比較例のブレーキパッドに比べて遥かに良好な結果を示し、湿潤状態における制動性能が最大で70%優れており、これはブレーキパッドの摩耗量が少なくて済むことを意味する。
【0068】
【表2】

【0069】
本発明にかかるブレーキパッドと従来の比較例のブレーキパッドとを比較すると、本発明にかかるブレーキパッドは乾燥状態における制動性能が10〜12%優れていた。また、本発明にかかるブレーキパッドは比較例のブレーキパッドに比べて湿潤状態における制動性能が30〜60%優れており、これはブレーキパッドの摩耗量が少なくて済むことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動時に自転車(1)の車輪(2)のリム(3)の側部(8)に圧接する制動面(9)を有する自転車(1)のブレーキ(4)用のブレーキパッド(5)であって、
前記ブレーキパッド(5)は、
a)水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)10〜40重量部、およびフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体90〜60重量部と、を含む高分子基材と、
b)前記高分子基材100重量部につき合計5〜15重量部の繊維と、を含む、混合物を、ペルオキシド架橋系で架橋させることによって得られる、
自転車のブレーキ用のブレーキパッド。
【請求項2】
請求項1において、前記繊維が、セルロース、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)、およびアラミド繊維からなる群から選択される、ブレーキパッド。
【請求項3】
請求項2において、前記繊維が、アラミド繊維、好ましくはパラアラミド繊維および/またはメタアラミド繊維である、ブレーキパッド。
【請求項4】
請求項3において、前記繊維の平均長が1mmである、ブレーキ用のブレーキパッド。
【請求項5】
請求項3または4において、前記繊維の平均径が5〜20μmである、ブレーキパッド。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか一項において、前記繊維が、当該ブレーキパッドに対して、
平均して長手方向に配向している、ブレーキパッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、前記ペルオキシド架橋系が、前記高分子基材100重量部につき1〜4重量部のペルオキシド類と、前記高分子基材100重量部につき1〜5重量部の活性化剤とを含む、ブレーキパッド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、前記混合物が、さらに、前記高分子基材100重量部につき合計1〜4重量部のカーボンナノチューブ(MWCNT)を含む、ブレーキパッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、前記混合物が、さらにMgO、ZnO、Ca(OH)およびこれらの混合物からなる群から選択されるフィラーを、前記高分子基材100重量部につき合計1〜5重量部を含む、ブレーキパッド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、前記混合物が、さらに、前記高分子基材100重量部につき合計3〜8重量部のタルクを含む、ブレーキパッド。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、前記混合物が、さらに、前記高分子基材100重量部につき合計3〜7重量部のCaOを含む、ブレーキパッド。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項において、前記混合物が、さらに、前記高分子基材100重量部につき合計1〜4重量部の膨張グラファイトを含む、ブレーキパッド。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項において、前記混合物が:
a)水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)15〜25重量部と、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体85〜75重量部と、を含む高分子基材と、
b)前記高分子基材100重量部につき、8〜10重量部のパラアラミドおよびメタアラミド繊維と、2〜4重量部のイソシアヌル酸トリアリルと、2〜3重量部のペルオキシド類と、および1〜3重量部のカーボンナノチューブ(MWCNT)と、を含む、ブレーキパッド。
【請求項14】
自転車(1)用の車輪−ブレーキのアセンブリ(6)であって、
−2つの対向する側部(8)を有するリム(3)を含む車輪(2)と、
−制動時に前記リム(3)の前記側部(8)に圧接する制動面(9)を有するブレーキパッド(5)を2つ含む、ブレーキ(4)と、を備え、
前記ブレーキパッド(5)のそれぞれは、請求項1から13のいずれか一項に記載されたブレーキパッドである、自転車用の車輪−ブレーキのアセンブリ。
【請求項15】
請求項14において、前記リム(3)が複合材料、好ましくはカーボン繊維からなる、自転車用の車輪−ブレーキのアセンブリ。
【請求項16】
自転車(1)のブレーキ(4)用のブレーキパッド(5)を製造するための架橋性混合物であって、
a)水添アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)10〜40重量部と、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体90〜60重量部と、を含む高分子基材と、
b)前記高分子基材100重量部につき合計5〜15重量部の繊維と、を含む、ブレーキパッド製造用の架橋性混合物。
【請求項17】
請求項16において、請求項2から13のいずれか一項に記載された混合物である、ブレーキパッド製造用の架橋性混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233578(P2012−233578A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−104544(P2012−104544)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【出願人】(592072182)カンパニョーロ・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (94)
【氏名又は名称原語表記】CAMPAGNOLO SOCIETA A RESPONSABILITA LIMITATA
【Fターム(参考)】