説明

ブレーキ制御装置

【課題】ABS保持弁の下流側のブレーキキャリパやブレーキホースの交換の際にブレーキフルードが流出すると、増圧リニア制御弁に空気が混入するおそれがある。
【解決手段】ブレーキ制御装置20において、リニア制御弁は、作動液を貯留するリザーバタンク34の下流側に設けられ、通電制御により開度が調整される。開閉弁は、リニア制御弁の下流側に設けられ、通電制御により開閉される。ブレーキキャリパ84は、開閉弁の下流側に設けられ、リザーバタンク34からの作動液の供給により車輪に制動力を付与する。制御手段は、開閉弁の下流側のブレーキキャリパ84を取り外す際に、開閉弁を閉状態に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、いわゆるブレーキバイワイヤによるブレーキ制御装置が記載されている。この装置においては、制御部は、ABS(Antilock Brake System)保持弁を制御することにより、ホイールシリンダへの作動液の供給を個別に制御する。
【特許文献1】特開2008−162562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のブレーキ制御装置は、リザーバタンクと、リザーバタンクの下流側に設けられた増圧リニア制御弁と、増圧リニア制御弁の下流側に設けられるABS保持弁と、ABS保持弁の下流側に設けられ、各ブレーキキャリパに含まれるホイールシリンダとを備える。ABS保持弁の下流側のブレーキキャリパやブレーキホースの交換の際にブレーキフルードが流出すると、流出したブレーキフルードに応じて空気が混入し、その空気が増圧リニア制御弁に混入するおそれがある。増圧リニア制御弁に空気が混入すれば、増圧リニア制御弁の作動時に異音が発生する可能性がある。
【0004】
そこで、本発明は、ブレーキキャリパやブレーキホースの交換の際に、ブレーキフルードの流出を抑制することを可能とするブレーキ制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、作動液を貯留するリザーバタンクの下流側に設けられ、通電制御により開度が調整されるリニア制御弁と、リニア制御弁の下流側に設けられ、通電制御により開閉される開閉弁と、開閉弁の下流側に設けられ、リザーバタンクから作動液が供給されるブレーキ部材と、開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外す際に、開閉弁を閉状態に維持する制御手段と、を備える。この態様によると、開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外す際に、開閉弁より上流側であるリニア制御弁への空気の混入を回避することができる。
【0006】
制御手段は、開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外すことを示す制御信号を検出する信号検出手段をさらに備えてもよい。制御手段は、信号検出手段による制御信号の検出を契機として開閉弁を閉状態にしてもよい。これにより、開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外すことを示す制御信号の検出を契機として開閉弁を閉状態にすることができる。
【0007】
開閉弁の下流側のブレーキ部材に含まれ、リザーバタンクからの作動液の供給により車輪に制動力を付与するブレーキキャリパを備えてもよい。制御手段は、ブレーキキャリパを取り外す際に、開閉弁を閉状態に維持してもよい。これにより、ブレーキキャリパを取り外す場合に、開閉弁より上流側への空気の混入を回避することができる。
【0008】
ブレーキキャリパは、複数設けられ、開閉弁は、複数のブレーキキャリパの上流側に個別に設けられ、制御手段は、個別に設けられた開閉弁のうちいずれかの開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外す場合に、開閉弁の全てを閉状態に維持してもよい。これにより、いずれのブレーキ部材を取り外す場合においても、開閉弁より上流側への空気の混入を回避することができる。
【0009】
開閉弁の下流側のブレーキ部材に含まれ、開閉弁から開閉弁の下流側のブレーキキャリパに作動液を供給する経路として設けられるブレーキホースを備えてもよい。制御手段は、ブレーキホースを取り外す際に、開閉弁を閉状態に維持してもよい。これにより、ブレーキホースを取り外す場合に、開閉弁より上流側への空気の混入を回避することができる。
【0010】
本発明の別の態様もまた、ブレーキ制御装置である。この装置は、作動液を貯留する上流側のリザーバタンクからの作動液の供給により車輪に制動力を付与する下流側のブレーキキャリパと、ブレーキキャリパの上流側に設けられ、通電制御により開閉される開閉弁と、開閉弁の下流側の作動液の供給経路を大気に開放する際に、開閉弁を閉状態に維持する制御手段と、を備える。この態様によれば、開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外す場合に、開閉弁より上流側への空気の混入を回避することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブレーキキャリパやブレーキホースの交換の際に、ブレーキフルードの流出を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置20を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。本実施形態に係るブレーキ制御装置20は、たとえば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0013】
ブレーキ制御装置20は、図1に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40と、それらをつなぐ作動液の経路とを含む。ブレーキホース80FR、80FL、80RRおよび80RL(以下、総称する場合は「ブレーキホース80」という。)は、作動液の経路として、車輪側のディスクブレーキユニット21FR、21FL、21RRおよび21RLのそれぞれと、車体側の液圧アクチュエータ40とをつなぐ。なお、ブレーキホース80およびブレーキキャリパは、車輪側のブレーキ部材として機能する。
【0014】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RL(以下、総称する場合は「ディスクブレーキユニット21」という。)に対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動液としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21に対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21に送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0015】
ディスクブレーキユニット21、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RL(以下、総称する場合は「ホイールシリンダ23」という。)を含む。
【0016】
ディスクブレーキユニット21においては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、実施形態においてはディスクブレーキユニット21を用いているが、たとえばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0017】
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバタンク34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25は、ブレーキECU70に接続される。
【0018】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバタンク34が配置されている。リザーバタンク34は、上部に通気孔が形成されており、リザーバタンク34に貯留されるブレーキフルードは、大気圧に開放されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバタンク34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバタンク34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバタンク34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。
【0019】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、たとえば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバタンク34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まってたとえば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバタンク34へと戻される。
【0020】
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0021】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0022】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。各ABS保持弁51〜54は、開閉弁として機能し、通電制御により開閉が制御される。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。各ABS保持弁51〜54は、複数のブレーキキャリパに対して個別に設けられる。各ABS保持弁51〜54の下流側のブレーキ部材とは、車輪側のブレーキホース80およびブレーキキャリパ、各ABS保持弁51〜54とブレーキホース80をそれぞれつなぐブレーキチューブを含む。
【0023】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバタンク34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバタンク34に接続されている。
【0024】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0025】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0026】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0027】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0028】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0029】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。
【0030】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0031】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0032】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0033】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動液を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0034】
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
【0035】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に検出時間とともに格納保持されてよい。
【0036】
本実施形態において、ブレーキフルードが、リザーバタンク34から増圧リニア制御弁66を介してブレーキキャリパに供給される経路をリニア経路とする。また、ブレーキフルードが、リザーバタンク34からマスタカット弁64を介してブレーキキャリパに供給される経路をマスタ経路とする。ブレーキフルードが、リザーバタンク34からレギュレータカット弁65を介してブレーキキャリパに供給される経路をレギュレータ経路とする。なお、マスタ経路およびレギュレータ経路を総称した経路をマニュアル経路という。一般に、全ての電磁制御弁が非通電状態であれば、リザーバタンク34からブレーキキャリパまでのブレーキフルードの経路は、マニュアル経路を介して連通している。具体的には、全ての電磁制御弁が非通電状態であれば、マスタカット弁64、レギュレータカット弁65、およびABS保持弁51〜54が開状態であることから、リザーバタンク34からホイールシリンダ23のブレーキフルードの供給経路は連通している。このとき、ホイールシリンダ23のブレーキフルードは、リザーバタンク34と同様に大気圧に保たれている。
【0037】
ところで、車輪側のブレーキ部材を交換するために、車輪側のブレーキ部材を取り外すことがある。車輪側のブレーキ部材を取り外せば、ブレーキフルードが流出するおそれがある。具体的には、車輪側のブレーキ部材を取り外す際、一般に、各電磁制御弁は通電されておらず、リザーバタンク34から車輪側のブレーキ部材のブレーキフルードの供給経路は連通している。このとき、たとえばブレーキホース80RLを取り外せば、個別流路44は大気に開放される。リザーバタンク34と連通した状態で、個別流路44が大気に開放されると、上流側のリザーバタンク34が大気に開放されているため、ブレーキフルードの自重により個別流路44からブレーキフルードが流出しうる。そして、流出するブレーキフルードに応じて個別流路44から空気が混入し、増圧リニア制御弁66内に空気が入り込む可能性がある。増圧リニア制御弁66に混入した空気を取り除くことは容易でなく、増圧リニア制御弁66内に空気が入った状態で、弁の開度を調整する制御を実行すれば、増圧リニア制御弁66から異音や振動が生じうる。
【0038】
そこで、本実施形態では、各ABS保持弁51〜54より下流側のブレーキ部材を取り外す際、各ABS保持弁51〜54を閉状態に維持する。各ABS保持弁51〜54により経路を遮断することで、大気に開放されうる個別流路41〜44が、大気に開放されたリザーバタンク34と連通しないようにする。これにより、車輪側のブレーキ部材を取り外す際の個別流路41〜44からのブレーキフルードの流出を抑制し、各ABS保持弁51〜54より上流側の増圧リニア制御弁66内への空気の混入をより確実に回避する。
【0039】
図2は、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置20において、ブレーキホース80FRおよびブレーキキャリパ84FRを取り外した状態を示す。本図では、図1に示したブレーキ制御装置20の構成を一部省略して記載している。なお、リザーバタンク34が最も上流側に位置し、リザーバタンク34から増圧リニア制御弁66、ABS保持弁51、およびブレーキキャリパ84の順に下流側に位置する。
【0040】
リザーバタンク34の上面には、通気孔82が形成されている。リザーバタンク34内のブレーキフルード86の圧力は、通気孔82により、大気圧に保たれる。ブレーキ部材を取り外す際、非通電状態にある常閉型の増圧リニア制御弁66は閉状態である。また、非通電状態にある常開型のマスタカット弁64およびレギュレータカット弁65は、開状態である。なお、本図に記載されていない各電磁制御弁は非通電状態にあってよい。
【0041】
本実施形態において、各ABS保持弁51〜54は、ブレーキECU70により通電されており、閉状態に維持されている。この各ABS保持弁51〜54が閉状態に維持された状態を、ブレーキ部材交換モードという。ブレーキECU70は、各ABS保持弁51〜54の下流側のブレーキ部材を取り外すことを示す制御信号を検出する信号検出部88を備えてよい。ブレーキECU70は、信号検出部88が外部端末90からの制御信号を検出した場合に、各ABS保持弁51〜54を閉状態に維持する保持弁制御部92を備えてよい。
【0042】
外部端末90は、各ABS保持弁51〜54の下流側のブレーキ部材を取り外すことを示す制御信号を信号検出部88に発してよい。外部端末90は、ブレーキECU70に有線または無線で電気的に接続される。外部端末90は、たとえば車両の点検に用いる診断機であってよい。外部端末90は、ブレーキ部材交換モードの始終の契機となる指示スイッチを備えてよい。以下に外部端末90を用いた制御手順を説明する。
【0043】
たとえば、外部端末90は、ユーザからブレーキ部材の交換を開始する指示を受けると、信号検出部88に各ABS保持弁51〜54の下流側のブレーキ部材を取り外すことを示す制御信号を発する。保持弁制御部92は、信号検出部88による外部端末90からの制御信号の検出を契機として、各ABS保持弁51〜54を閉状態に維持する。外部端末90は、ユーザからブレーキ部材の交換を終了した指示を受けると、信号検出部88に制御信号を発する。保持弁制御部92は、信号検出部88による外部端末90からの制御信号の検出を契機として、各ABS保持弁51〜54を開状態にする。これにより、ブレーキECU70は、外部端末90から発せられる制御信号にもとづいてブレーキ部材交換モードを実行することができる。なお、ブレーキ制御装置20は、ブレーキ部材の交換契機検出手段として機能する交換契機検出スイッチを備えてよい。信号検出部88は、ユーザによる交換契機検出スイッチの操作を検出し、保持弁制御部92は、この交換契機検出スイッチの操作に応じてブレーキ部材交換モードを開始または終了してよい。これにより、スイッチの操作という簡便な操作でブレーキ部材交換モードを開始することができ、利便性を高めることができる。
【0044】
ブレーキ制御装置20は、ブレーキホース80FRおよびブレーキキャリパ84FRを取り外された状態であるため、個別流路41のブレーキフルードが大気開放状態にある。本実施形態においては、ABS保持弁51が閉じられているため、大気開放状態にあるリザーバタンク34と個別流路41の連通は遮断されている。これにより、ブレーキホース80FRおよびブレーキキャリパ84FRを取り外す際、大気開放状態にあるブレーキフルードが流出することを抑制することができる。また、各ABS保持弁51〜54の全てが閉状態に維持されているため、いずれのブレーキホース80およびブレーキキャリパ84を取り外しても、ブレーキフルードの流出が抑制されており、ユーザにとって簡便である。さらに、ABS保持弁51より上流側には空気が混入せず、増圧リニア制御弁66への空気の混入を回避することができる。これにより、増圧リニア制御弁66の作動時に、増圧リニア制御弁66から空気の混入による異音や振動が発生することを回避することができる。なお、ABS保持弁51より下流側の個別流路41に混入した空気は、ブレーキキャリパ84FRの取り付け後、ブレーキキャリパ84FRから空気抜きをすることで、取り除くことができる。また、仮にABS保持弁51に空気が混入したとしても、開閉の二位置動作しか実行しないABS保持弁51において、作動時に異音や振動は発生し難い。
【0045】
なお、ブレーキECU70は、ブレーキキャリパ84FRの取り付け後、ブレーキキャリパ84FRから空気抜きを完了するまで、各ABS保持弁51〜54を閉状態に維持してよい。また、図2には、ブレーキホース80FRおよびブレーキキャリパ84FRを取り外した状態を示すが、本発明は、ブレーキホース80またはブレーキキャリパ84を個別に取り外す際、すなわち、各ABS保持弁51〜54の下流側のブレーキフルード86の供給経路を大気に開放する際にも適用可能である。
【0046】
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0047】
たとえば、ブレーキECU70は、各ABS保持弁51〜54より下流側のブレーキ部材を取り外す際、レギュレータカット弁65およびマスタカット弁64を閉状態に維持してよい。これにより、マニュアル経路の連通を遮断することができ、ブレーキフルードの流出を抑制することができる。
【0048】
また、本発明は、ブレーキキャリパおよびブレーキホースと取り外す際に、ブレーキECUが、ブレーキキャリパの上流側の直近に設けられる開閉弁を閉状態に維持することで他の構成のブレーキ装置に適用可能である。これにより、開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外す場合に、開閉弁より上流側への空気の混入を回避することができる。ブレーキキャリパの上流側の直近に設けられる開閉弁とは、ブレーキキャリパと開閉弁の間に他の電磁制御弁が介在せず、ブレーキフルードの供給経路を介してブレーキキャリパと直接つながっている開閉弁をいう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置において、ブレーキホースおよびブレーキキャリパを取り外した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
20 ブレーキ制御装置、 21 ディスクブレーキユニット、 22 ブレーキディスク、 23 ホイールシリンダ、 24 ブレーキペダル、 27 マスタシリンダユニット、 30 動力液圧源、 31 液圧ブースタ、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバタンク、 35 アキュムレータ、 35a リリーフバルブ、 36 ポンプ、 36a モータ、 40 液圧アクチュエータ、 41 個別流路、 51 ABS保持弁、 56 ABS減圧弁、 60 分離弁、 64 マスタカット弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 68 シミュレータカット弁、 69 ストロークシミュレータ、 70 ブレーキECU、 71 レギュレータ圧センサ、 72 アキュムレータ圧センサ、 73 制御圧センサ、 80 ブレーキホース、 82 通気孔、 84 ブレーキキャリパ、 86 ブレーキフルード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液を貯留するリザーバタンクの下流側に設けられ、通電制御により開度が調整されるリニア制御弁と、
前記リニア制御弁の下流側に設けられ、通電制御により開閉される開閉弁と、
前記開閉弁の下流側に設けられ、前記リザーバタンクから作動液が供給されるブレーキ部材と、
前記開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外す際に、前記開閉弁を閉状態に維持する制御手段と、を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外すことを示す制御信号を検出する信号検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記信号検出手段による前記制御信号の検出を契機として前記開閉弁を閉状態にすることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記開閉弁の下流側のブレーキ部材に含まれ、前記リザーバタンクからの作動液の供給により車輪に制動力を付与するブレーキキャリパを備え、
前記制御手段は、前記ブレーキキャリパを取り外す際に、前記開閉弁を閉状態に維持することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記ブレーキキャリパは、複数設けられ、
前記開閉弁は、前記複数のブレーキキャリパの上流側に個別に設けられ、
前記制御手段は、個別に設けられた前記開閉弁のうちいずれかの前記開閉弁の下流側のブレーキ部材を取り外す場合に、前記開閉弁の全てを閉状態に維持することを特徴とする請求項3に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記開閉弁の下流側のブレーキ部材に含まれ、前記開閉弁から前記開閉弁の下流側のブレーキキャリパに作動液を供給する経路として設けられるブレーキホースを備え、
前記制御手段は、前記ブレーキホースを取り外す際に、前記開閉弁を閉状態に維持することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
作動液を貯留する上流側のリザーバタンクからの作動液の供給により車輪に制動力を付与する下流側のブレーキキャリパと、
前記ブレーキキャリパの上流側に設けられ、通電制御により開閉される開閉弁と、
前記開閉弁の下流側の作動液の供給経路を大気に開放する際に、前記開閉弁を閉状態に維持する制御手段と、を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132048(P2010−132048A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307945(P2008−307945)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】