説明

ブレーキ制御装置

【課題】回生制動中における変速に起因するブレーキフィーリングへの影響を軽減する。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、変速機構を介して車輪に接続されているモータを含み、該モータの回生により該車輪に回生制動力を付与する回生ブレーキユニットと、車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキユニットと、回生制動力と摩擦制動力とを併用して要求制動力を発生させるよう回生ブレーキユニット及び摩擦ブレーキユニットを制御する制御部と、を備える。制御部は、変速が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与される制動力を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者によりシフトレバー操作がなされた場合に回生制動力をゼロとした後にシフトダウンをする電気自動車の制動制御装置が記載されている。この装置では、車両に要求される要求制動力と回生制動力の差に相当する摩擦制動力が車両に与えられる。特許文献2には、車両の運転状況や前方の道路状況に応じて回生制動力を制御する電気自動車の回生制動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−27802号公報
【特許文献2】特開平10−201008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回生制動中にシフトチェンジがされた場合には回生制動力が一瞬低下し得る。この場合、回生制動力の低下分を摩擦制動力で補填することが考えられるが、摩擦制動力は一般に液圧で作動され応答性に劣るため、要求制動力に対する回生制動力の瞬間的低下を液圧制動力で動的に完全に補填することは必ずしも容易ではない。極端な場合には、瞬間的低下からもとの状態に向けての回生制動力の増加と、その瞬間的低下を補填するはずであった液圧制動力の増加とが重なり合って、ブレーキフィーリングに影響が生じることも考えられる。
【0005】
そこで、本発明は、回生制動中における変速に起因するブレーキフィーリングへの影響を軽減することを可能とするブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のブレーキ制御装置は、変速機構を介して車輪に接続されている電動機を含み、該電動機の回生により該車輪に回生制動力を付与する回生ブレーキユニットと、前記車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキユニットと、回生制動力と摩擦制動力とを併用して要求制動力を発生させるよう回生ブレーキユニット及び摩擦ブレーキユニットを制御する制御部と、を備える。前記制御部は、変速が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動を抑制する。
【0007】
この態様によると、変速が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動が抑制されるので、ブレーキフィーリングへの影響を軽減することができる。
【0008】
前記制御部は、運転者によるシフト操作が検出または予測されたときに、摩擦制動力を一定に保つようにしてもよい。ここで、制御部は摩擦制動力の実際の値を一定に保つようにしてもよいし、摩擦制動力の目標値を一定に保つことにより摩擦制動力を保持してもよい。
【0009】
前記制御部は、運転者によるシフト操作が検出または予測されたときに、少なくともシフト操作時間にわたり摩擦制動力を一定に保つようにしてもよい。
【0010】
前記制御部は、発生可能な回生制動力のうち要求制動力への充当分が車両の駆動系からの要求により制限されたときに摩擦制動力の変動を抑制してもよい。
【0011】
本発明の別の態様もまた、ブレーキ制御装置である。この装置は、車輪を駆動するためのモータの回生により該車輪に回生制動力を付与する回生ブレーキユニットと、前記車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキユニットと、回生制動力と摩擦制動力とを併用して要求制動力を発生させるよう回生ブレーキユニット及び摩擦ブレーキユニットを制御する制御部と、を備える。前記制御部は、要求制動力への回生制動力の充当可能分が基準を超える減少速度で減少することを検出または予測したときに摩擦制動力の変動を抑制する。
【0012】
この態様によると、回生制動力と摩擦制動力との応答性の違いによるブレーキフィーリングへの影響を軽減することができる。例えば変速に起因する回生制動力の急変が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動が抑制されるので、ブレーキフィーリングへの影響を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、変速時のブレーキフィーリングが向上される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置が適用された車両を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る液圧ブレーキユニットを示す系統図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る回生協調制御処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御モードの切替処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る回生制動力及び液圧制動力の時間変化の一例を示す図である。
【図6】回生制動力及び液圧制動力の時間変化の一例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る回生制動力及び液圧制動力の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置は、回生制動力に瞬間的に大きな変動(言い換えれば高周波の変動)が生じることが想定される場合に好適である。例えば、シフト位置がニュートラルであるときに回生制動を制限または停止するブレーキ制御システムがある。通常はシフトチェンジの際に一瞬ニュートラルを経由する。よって、運転者がシフト操作をしたときに回生制動力に瞬間的に大きな変動が生じることになる。ブレーキ制御装置は、変速が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動を例えば一時的に抑制する。このようにすれば、回生制動力と摩擦制動力との応答性の違いによるブレーキフィーリングへの影響を軽減することができる。特に、回生制動力の瞬間的減少からの復帰と摩擦制動力による補填とが重なり合うことによる違和感を軽減し、ブレーキフィーリングを向上させることができる。
【0016】
また、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置は、車両内の別の制御システムからの要求によって回生制動力に高周波の変動が生じることが想定される場合にも好適である。例えば、車両の駆動制御系からの要求により回生制動力が制限される場合である。一実施例においては、車両の駆動制御系は、変速が検出されたときにブレーキ制御装置に回生制動力を制限する要求を与える。駆動制御系は、この制限を課すことによって得られた回生制動力の余裕分を、変速に伴うエンジンブレーキの瞬間的低下を補うために用いることができる。ブレーキ制御装置は、変速が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動を例えば一時的に抑制する。
【0017】
このようにすれば、エンジンブレーキによる減速度の変速に伴う減少分が回生制動力で補填されるので、ブレーキフィーリングへの影響を小さくすることができる。さらに、変速動作の終了に伴う回生制動力の制限解除と、回生制動力に対する摩擦制動力の応答遅れとが重なり合うことによるブレーキフィーリングへの影響を小さくすることができる。よって、変速に起因するブレーキフィーリングへの影響は軽減される。
【0018】
また、摩擦制動力の変動抑制により、摩擦制動力を発生させるための摩擦ブレーキユニットの作動頻度を少なくすることができる。このため、摩擦ブレーキユニットの耐用期間も長くすることができる。例えば、摩擦部材を液圧によって動作させるための液圧制御弁の開閉頻度を少なくすることができるので、その制御弁のシール性能の劣化を抑えることができる。シール性の劣化によるホイールシリンダ圧の引きずりを抑えることができるので、長期的に見て実用燃費を向上させることができる。シール性の劣化を抑えることにより、液圧制御系における異常の誤検出も抑制することができる。
【0019】
一実施例においては、ブレーキ制御装置は、運転者のシフト操作が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動を一時的に抑制してもよい。運転者の操作によるシフトダウン操作及びシフトアップ操作が許容されているいわゆるシーケンシャルシフトマチックが知られている。シーケンシャルシフトマチックモードにおいては通常のオートマチックモードよりも変速の頻度が増加すると見込まれる。よって、好ましい一実施例においては、ブレーキ制御装置は、シーケンシャルシフトマチックモードにおいてブレーキ回生協調制御を実行している場合に、シフト操作が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動を一時的に抑制してもよい。
【0020】
また、ブレーキ制御装置は、いわゆるDレンジとBレンジとのシフト切替操作が検出されたたときに摩擦制動力の変動を一時的に抑制してもよい。Dレンジとは通常走行において推奨されるシフト位置であり、Bレンジとはドライバが通常走行よりも強いエンジンブレーキ(回生ブレーキも含む)を必要とするときに選択するためのシフト位置である。また、ブレーキ制御装置は、シフト切替操作が行われる可能性が高い運転状況にあるか否かを判定し、肯定判定の場合に摩擦制動力の変動を一時的に抑制してもよい。例えば、ブレーキ制御装置は、前方の走行路についての情報に基づいてDレンジからBレンジへのシフトダウン操作が行われる可能性が高い運転状況にあるか否かを判定してもよい。ブレーキ制御装置は、前方の走行路に下り坂、上り坂、またはカーブがあるか否かを車両のナビゲーションシステムからの情報に基づいて判定してもよい。ナビゲーションシステムからの情報に代えて、またはこれとともに、車両の向きを示す情報を出力するための角度センサからの情報を用いてもよい。
【0021】
一実施例においては、ブレーキ制御装置は、ブレーキ回生協調制御の実行中に運転者によるシフト操作が検出されたときに、少なくともシフト操作時間にわたり摩擦制動力の変動抑制制御を実行してもよい。シフト操作時間は例えば、運転者による操作入力の検出からシフトチェンジが完了するまでの所要時間である。シフト操作時間は、車両の駆動源から車輪への動力伝達が変速動作により遮断される時間を少なくとも含むことが好ましい。摩擦制動力の変動抑制制御は、摩擦制動力を一定に保持する制御であってもよい。ここで、摩擦制動力を一定に保持するとは、摩擦制動力の目標値を一定に保つことも含む概念である。
【0022】
ブレーキ制御装置は、車輪を駆動するためのモータの回生により該車輪に回生制動力を付与する回生ブレーキユニットを備えてもよい。モータは、一定の減速比をもつ減速機構を介して車輪に接続されていてもよい。回生ブレーキユニットは、モータを制御するためのモータ制御部、及び/または、車両の駆動系を制御するための駆動制御部を備えてもよい。回生ブレーキユニットの制御部とブレーキ制御装置の制御部とは互いに通信可能に接続されていてもよい。例えば車載ネットワークを通じて通信可能に接続されていてもよいし、上位のコントローラを介して通信可能に接続されていてもよい。
【0023】
ブレーキ制御装置は、車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキユニットを備えてもよい。摩擦ブレーキユニットは、各車輪に摩擦制動力を付与する摩擦部材と、液圧の作用により摩擦部材を車輪に押し付けるためのホイールシリンダと、各ホイールシリンダに与える液圧を制御するアクチュエータと、を備えてもよい。液圧制御容積が大きいほど摩擦制動力の応答遅れは大きくなる。よって、好ましい一実施例においては、アクチュエータは、各ホイールシリンダに与える液圧を制御するための共通の制御弁を備えてもよい。このような液圧回路を備えるブレーキシステムに摩擦制動力変動抑制制御を適用すると、ブレーキフィーリング向上の効果をより大きく得ることができる。
【0024】
ブレーキ制御装置による摩擦制動力の変動抑制は、変速の検出または予測を契機としていなくてもよい。一実施形態においては、ブレーキ制御装置は、要求制動力への回生制動力の充当可能分が基準を超える減少速度で減少することを検出または予測したときに摩擦制動力の変動を一時的に抑制するようにしてもよい。減少速度の基準値は、摩擦ブレーキユニットの応答性に基づいて設定されることが好ましい。あるいはブレーキ制御装置は、発生可能な回生制動力のうち要求制動力への充当分が車両の駆動系からの要求により制限されたときに摩擦制動力の変動を一時的に抑制するようにしてもよい。このようにして回生制動力に基準を超える高周波の変動が生じ得るときに摩擦制動力の変動を抑制することにより、回生制動力と摩擦制動力との応答性の違いによるブレーキフィーリングへの影響を小さくすることができる。また、摩擦ブレーキユニットの耐用期間を長くすることができる。
【0025】
逆に、一実施例においては、ブレーキ制御装置は、回生制動力の高周波の変動が検出または予測された場合であっても摩擦制動力の変動抑制を適用しないようにしてもよい。例えば、ブレーキフィーリングの向上よりも十分な制動力の確保が重視される状況においては摩擦制動力の変動を許容してもよい。ブレーキ制御装置は、例えばABS制御等の車両の挙動を安定化させるための制御の実行中や、制御系の通信異常などの異常時には、摩擦制動力の変動を通常と同様に許容してもよい。
【0026】
一実施形態においては、モータのトルクが変速機を介して車輪に伝達される車両の制御装置が提供される。この制御装置は、モータによる回生制動力の目標値と、摩擦部材を加圧することによる摩擦制動力の目標値とを、運転者による制動操作部材の操作量に基づいて設定する目標値設定手段と、設定された各目標値に応じて回生制動力及び摩擦制動力を車両に付与する制動手段と、を備えてもよい。この制御装置は、シフトチェンジの有無を検出するシフトチェンジ検出手段をさらに備え、シフトチェンジが検出された場合に摩擦制動力の目標値の変化を抑制してもよい。目標値の代わりに、当該目標値を実現するための指令値(例えば制御弁の制御電流など)の変化を抑制してもよい。このようにすれば、シフトチェンジによる制動力の一時的増加を抑制することができる。
【0027】
シフトチェンジ検出手段またはブレーキ制御部は、運転者によるシフト操作部材への操作を直接的に検出してもよいし、シフト操作に起因する駆動源の動作状態の変化を検出することによりシフト操作を間接的に検出してもよい。シフトチェンジ検出手段またはブレーキ制御部は、シフト操作が行われる可能性が高いか否かを判定するようにしてもよい。シフトチェンジ検出手段またはブレーキ制御部は、シフト操作が行われる可能性が高いと判定されたときにシフトチェンジありと検出してもよい。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置が適用された車両を示す概略構成図である。同図に示される車両1は、いわゆるハイブリッド車両として構成されている。車両1は、エンジン及びモータを駆動源として有し、該駆動源から変速機構を介して動力が車輪に伝達される。車両1は、エンジン2と、エンジン2の出力軸であるクランクシャフトに接続された3軸式の動力分割機構3と、動力分割機構3に接続された発電可能なモータジェネレータ4と、変速機5を介して動力分割機構3に接続された電動モータ6と、車両1の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」といい、電子制御ユニットは、すべて「ECU」と称する。)7とを備える。変速機5には、ドライブシャフト8を介して車両1の駆動輪たる右前輪9FRおよび左前輪9FLが連結される。
【0029】
エンジン2は、例えばガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を用いて運転される内燃機関であり、エンジンECU13により制御される。エンジンECU13は、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、エンジン2の作動状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン2の燃料噴射制御や点火制御、吸気制御等を実行する。また、エンジンECU13は、必要に応じてエンジン2の作動状態に関する情報をハイブリッドECU7に与える。
【0030】
動力分割機構3は、変速機5を介して電動モータ6の出力を左右の前輪9FR,9FLに伝達する役割と、エンジン2の出力をモータジェネレータ4と変速機5とに振り分ける役割と、電動モータ6やエンジン2の回転速度を減速あるいは増速する役割とを果たす。エンジン2の回転数及びモータジェネレータ4の回転数をそれぞれ変化させることにより、動力分割機構3は無段変速機としても機能する。
【0031】
モータジェネレータ4と電動モータ6とは、それぞれインバータを含む電力変換装置11を介してバッテリ12に接続されており、電力変換装置11には、モータECU14が接続されている。バッテリ12としては、例えばニッケル水素蓄電池などの蓄電池を用いることができる。モータECU14も、ハイブリッドECU7と通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号等に基づいて電力変換装置11を介してモータジェネレータ4および電動モータ6を制御する。なお、上述のハイブリッドECU7やエンジンECU13、モータECU14は、何れもCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。
【0032】
ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、電力変換装置11を介してバッテリ12から電力を電動モータ6に供給することにより、電動モータ6の出力により左右の前輪9FR,9FLを駆動することができる。また、エンジン効率のよい運転領域では、車両1はエンジン2によって駆動される。この際、動力分割機構3を介してエンジン2の出力の一部をモータジェネレータ4に伝えることにより、モータジェネレータ4が発生する電力を用いて、電動モータ6を駆動したり、電力変換装置11を介してバッテリ12を充電したりすることが可能となる。
【0033】
また、車両1を制動する際には、ハイブリッドECU7やモータECU14による制御のもと、前輪9FR,9FLから伝わる動力によって電動モータ6が回転させられ、電動モータ6が発電機として作動させられる。すなわち、電動モータ6、電力変換装置11、ハイブリッドECU7およびモータECU14等は、車両1の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって左右の前輪9FR,9FLに制動力を付与する回生ブレーキユニット10として機能する。一実施例において回生ブレーキユニット10は、モータ6の回生により車輪に回生制動力を付与し、変速に伴うエンジンブレーキの低下を回生制動力により補うよう構成されている。
【0034】
車両1はこのような回生ブレーキユニット10に加えて、図2に示されるように、動力液圧源30等からの作動液の供給により制動力を発生させる液圧ブレーキユニット20を備える。本実施形態の車両制動装置は、回生ブレーキユニット10と液圧ブレーキユニット20とを協調させるブレーキ回生協調制御を実行することにより車両1を制動可能なものである。本実施形態における車両1は、ブレーキ回生協調制御を実行することにより回生制動力と液圧制動力とを併用して所望の制動力を発生させることができる。
【0035】
図2は、本実施形態に係る液圧ブレーキユニット20を示す系統図である。液圧ブレーキユニット20は、図2に示されるように、各車輪に対応して設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLと、マスタシリンダユニット27と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
【0036】
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。本実施形態におけるマニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット27は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動流体としてのブレーキフルードを、ディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対してブレーキペダル操作から独立して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30またはマスタシリンダユニット27から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
【0037】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット27、動力液圧源30、および液圧アクチュエータ40のそれぞれについて以下で更に詳しく説明する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
【0038】
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
【0039】
マスタシリンダユニット27は、本実施形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、およびリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
【0040】
マスタシリンダ32とレギュレータ33との上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。なお、マスタシリンダ圧とレギュレータ圧とは厳密に同一圧にされる必要はなく、例えばレギュレータ圧のほうが若干高圧となるようにマスタシリンダユニット27を設計することも可能である。
【0041】
動力液圧源30は、アキュムレータ35およびポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット27に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
【0042】
上述のように、液圧ブレーキユニット20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33およびアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38およびアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
【0043】
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43および44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
【0044】
また、個別流路41,42,43および44の中途には、ABS保持弁51,52,53および54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0045】
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48および49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48および49の中途には、ABS減圧弁56,57,58および59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49およびリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット27のリザーバ34に接続されている。
【0046】
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41および42と接続される第1流路45aと、個別流路43および44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41および42を介して前輪用のホイールシリンダ23FRおよび23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43および44を介して後輪用のホイールシリンダ23RRおよび23RLに接続される。
【0047】
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0048】
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61およびレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
【0049】
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、マスタシリンダ32から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0050】
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により開弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
【0051】
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
【0052】
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65は、レギュレータ33から各ホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路上に設けられている。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
【0053】
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61およびレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
【0054】
アキュムレータ流路63は、中途に増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63および主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
【0055】
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧制御弁として設けられている。つまり、本実施形態においては、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動流体を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
【0056】
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の出入口間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。従って、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電力を連続的に制御することにより、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の出入口間の差圧を制御することができる。
【0057】
液圧ブレーキユニット20において、動力液圧源30および液圧アクチュエータ40は、本実施形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU7などと通信可能であり、ハイブリッドECU7からの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御する。
【0058】
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、および制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。アキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。
【0059】
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示すので、この出力値を増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67の制御に利用することができる。また、増圧リニア制御弁66および減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動流体圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
【0060】
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
【0061】
なおブレーキECU70には、運転者によるシフト操作の有無を示すシフト情報、及び変速の有無を示す変速情報が所定時間おきに与えられ記憶されるようにしてもよい。また、シフトレバーのシフトノブに取り付けられているシフト操作感知システム(図示せず)からの感知情報がブレーキECU70に所定時間おきに与えられ記憶されるようにしてもよい。シフト操作感知システムは例えば、シフトノブの温度を測定する温度センサまたはシフトノブ表面の圧力を測定する圧力センサを備え、これらセンサの出力をブレーキECU70に出力するよう構成されていてもよい。
【0062】
上述のように構成された液圧ブレーキユニット20を備える本実施形態に係るブレーキ制御装置は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。一実施形態においては、ブレーキECU70は、運転者のブレーキ操作に基づいて要求制動力を演算し、この要求制動力に基づいて要求回生制動力を演算する。ブレーキECU70は、要求回生制動力をハイブリッドECU7に送信する。ハイブリッドECU7は、受信した要求回生制動力に従って回生ブレーキユニット10を制御して回生制動力を発生させ、実際に発生した回生制動力実効値をブレーキECU70に送信する。ブレーキECU70は要求制動力と回生制動力実効値とに基づいて要求摩擦制動力を演算し、この要求摩擦制動力に従って摩擦ブレーキユニットすなわち液圧ブレーキユニット20を制御する。
【0063】
図3は、回生協調制御処理の一例を説明するためのフローチャートである。制動要求を受けて、ブレーキECU70は処理を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル24を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。ブレーキECU70は、例えばブレーキペダル24の操作が解除されるまで所定の制御周期で反復して実行する。ブレーキECU70は、回生協調制御の許可条件が成立していることを前提として、図3に示される処理を実行する。例えば、シフト位置がニュートラルであるとき、停車中、または停車直前と想定される所定の低速時には、回生協調制御の許可条件は成立していないと判定され、摩擦制動力により車両は制動される。
【0064】
図3に示されるように、制動要求を受けてブレーキECU70は目標減速度すなわち要求制動力を演算する(S10)。ブレーキECU70は例えば、マスタシリンダ圧及びストロークの測定値に基づいて目標減速度を演算する。ここでブレーキECU70は、所望の制動力配分に従って目標減速度を各輪に分配して各輪の目標制動力を演算し、以降の処理ではその目標制動力に基づいて回生制動力及び液圧制動力を制御してもよい。
【0065】
ブレーキECU70は、目標減速度に基づいて要求回生制動力を演算する(S12)。ブレーキECU70は例えば、発生可能な最大回生制動力よりも目標減速度が小さい場合には目標減速度を要求回生制動力とし、目標減速度が最大回生制動力以上である場合には最大回生制動力を要求回生制動力とする。また、ブレーキECU70は、目標減速度をそのまま要求回生制動力とするのではなく、目標減速度を補正して要求回生制動力を演算してもよい。目標減速度に対して要求回生制動力を高めに補正してもよいし、逆に低く補正してもよい。例えば回生低下予告信号を受信している場合には、ブレーキECU70は要求回生制動力を制限するよう補正してもよい。ブレーキECU70は、演算された要求回生制動力をハイブリッドECU7に送信する(S14)。ブレーキECU70及びハイブリッドECU7は車載ネットワークに接続されている。ブレーキECU70は、その車載ネットワークへ要求回生制動力を送信する。
【0066】
ハイブリッドECU7は、車載ネットワークから要求回生制動力を受信する。ハイブリッドECU7は、受信した要求回生制動力を回生制動力目標値として回生ブレーキユニット10を制御する。その結果として実際に発生した回生制動力の実効値をハイブリッドECU7は車載ネットワークを通じてブレーキECU70へと送信する。ハイブリッドECU7は、回生制動力の一部がエンジンブレーキを模擬するために用いられているときは、実際に発生した回生制動力からエンジンブレーキへの割り当て分を控除した残りを実効値としてブレーキECU70に送信する。また、ハイブリッドECU7はバッテリ12の充電状態に基づいて回生低下予告信号をブレーキECU70に送信してもよい。
【0067】
ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7から回生制動力実効値を受信する(S16)。ブレーキECU70は、目標減速度から回生制動力実効値を減じることにより液圧ブレーキユニット20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する(S18)。ブレーキECU70は、要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、要求液圧制動力または目標液圧を補正してもよい。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように液圧アクチュエータ40を制御する(S20)。ブレーキECU70は例えば、フィードバック制御により増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
【0068】
その結果、液圧ブレーキユニット20においては、ブレーキフルードが動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介して各ホイールシリンダ23に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施形態においては、動力液圧源30、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67等を含んでホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統によりいわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。ホイールシリンダ圧制御系統は、マスタシリンダユニット27からホイールシリンダ23へのブレーキフルードの供給経路に並列に設けられている。
【0069】
ブレーキバイワイヤ方式の制動力制御を行う場合には、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがホイールシリンダ23ではなくストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。ブレーキ回生協調制御中は、レギュレータカット弁65及びマスタカット弁64の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。
【0070】
なお、上述のブレーキ回生協調制御においては、回生制動力を優先的に発生させ、要求制動力に対する回生制動力の不足を摩擦制動力で補填している。本発明はこのような回生優先モードには限られない。例えば、制御部は、回生制動力を補助的に使用する回生補助モードにより制動力を制御してもよいし、予め設定された回生目標値及び摩擦目標値の配分に目標減速度を分配し、回生制動力及び摩擦制動力を発生する回生併用モードで制動力を制御してもよい。
【0071】
図4は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御モードの切替処理を説明するためのフローチャートである。本実施形態においては、回生制動力変動を摩擦制動力により完全に補填しようとするいわば完全な回生協調制御から、ブレーキフィーリングを重視して摩擦制動力の変動を抑制するいわば不完全な協調制御へと、回生制動力に高周波数の変動が生じたときに切り替わる。
【0072】
一実施例においてはブレーキECU70は、回生協調制御の実行中に摩擦制動力の変動抑制開始条件が成立した場合に、摩擦制動力の変動抑制を開始する。ブレーキECU70は、変動抑制中止条件が成立した場合を除き、摩擦制動力の変動の抑制を所定時間継続する。当該所定時間の経過後に、ブレーキECU70は、摩擦制動力の変動抑制を解除して(例えば図3に示す)通常の回生協調制御に復帰する。ブレーキECU70は、当該所定時間内に変動抑制中止条件が成立した場合にも摩擦制動力の変動抑制を解除する。
【0073】
ブレーキECU70は図4に示される処理を、回生協調制御の許可条件が成立していることを前提として制動中に所定の制御周期(例えば数msec)で繰り返し実行する。ブレーキECU70はまず、ABS制御が実行されているか否かを判定する(S22)。ABS制御が実行されていないと判定された場合には(S22のN)、ブレーキECU70は、ハイブリッドECU7との通信異常が生じているか否かを判定する(S24)。
【0074】
ABS制御が実行されていると判定された場合(S22のY)、及び通信異常が生じていると判定された場合には(S24のY)、ブレーキECU70は、通常の回生協調制御を継続する。これらの場合には回生制動力の急変に対し液圧制動力を速やかに追従させることにより制動力を確保することが重要であるからである。すなわち、ここでは変動抑制中止条件の例として、ABS制御の実行及び通信異常の発生を挙げている。ブレーキECU70は、目標減速度及び回生制動力実効値に基づき液圧制動力の目標値を算出し、液圧制動力目標値を前回の処理で求めた値から更新する(S32)。そして、ブレーキECU70は、その更新値を用いて液圧アクチュエータ40を制御する(S34)。
【0075】
ハイブリッドECU7との通信が正常であると判定された場合には(S24のN)、ブレーキECU70は、液圧制動力の目標値の変動抑制条件が成立しているか否かをさらに判定する(S26)。変動抑制条件は、回生制動力の変化速度が基準値を超えたことを含む。通常の制動時には車両が減速するにつれて回生制動力は緩やかに増加する。よって、これとは異なり短時間に大きな回生制動力の変動が検出または予測されたときに液圧制動力の変化を抑制することにより、ブレーキフィーリングの乱れを抑制しうる。
【0076】
本実施形態においては、発生可能な回生制動力の一部がエンジンブレーキの低下を補うために割り当てられている場合がある。回生制動中にシフトチェンジがされた場合にはモータジェネレータ4が一瞬空転状態とされエンジン2と駆動輪9との機械的接続が途切れる。つまりシフト切替時に瞬間的にNレンジのシフト位置にあたる状態となり、このときエンジンブレーキによる減速度が減少または消失する。一方電動モータ6は減速機構を介して継続して駆動輪9に連結されている。そこで、ハイブリッドECU7はエンジンブレーキを模擬するために、要求制動力を実現するための回生制動力の一部を振り向ける。よって、要求制動力に充当されるべき回生制動力の減少速度が基準値を超えたことを検出したときに、シフトチェンジが行われたものとみなすことができる。
【0077】
ブレーキECU70は例えば、回生制動力の現在値と前回値との差がしきい値Aを超えたか否かを判定する。ブレーキECU70は、エンジンブレーキへの割当分を控除して得られる正味の回生制動力を用いて、上述の変動抑制条件の成立判定を行う。この正味の回生制動力は言い換えれば、要求制動力に対する回生制動力の充当可能分ということである。なお現在値との比較対象は前回値には限られず、所定時間t1前の値であってもよい。所定時間t1は例えば複数回の演算周期に相当する。
【0078】
しきい値Aは、増圧リニア制御弁66によるホイールシリンダ圧増圧能力に基づいて設定される。つまり、しきい値Aは、ホイールシリンダ圧の調圧応答により補うことが可能である回生制動力の変化量に設定される。増圧リニア制御弁66は4輪のホイールシリンダ23に共通の増圧制御弁として設けられている。この場合、増圧リニア制御弁66によるホイールシリンダ23の増圧応答性に基づき設定されるしきい値Aは相当に小さい値となる。
【0079】
変動抑制条件が成立していると判定された場合には(S26のY)、ブレーキECU70は、液圧制動力の変動を抑制すべき所定の抑制時間Tが経過したか否かを判定する(S28)。この判定は、変動抑制制御が既に開始されている場合に行われる。抑制時間Tは例えばシフト操作時間に設定される。このようにすれば、シフト操作が完了するまでの間、液圧制動力の変動を抑えることができる。抑制時間Tが経過していないと判定された場合には(S28のN)、ブレーキECU70は、液圧制動力目標値を前回値に保持し(S30)、その目標値に基づいて液圧アクチュエータ40を制御する(S34)。ブレーキECU70は、図3のS20と同様に、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるよう増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67に供給する制御電流の値を決定する。
【0080】
変動抑制条件が成立していないと判定された場合には(S26のN)、ブレーキECU70は、通常の回生協調制御と同様に液圧制動力目標値を更新し(S32)、液圧アクチュエータ40を制御する(S34)。また、抑制時間Tが経過したと判定された場合には(S28のY)、ブレーキECU70は液圧制動力の変動抑制を終了し、通常の回生協調制御と同様に液圧制動力目標値を更新し(S32)、液圧アクチュエータ40を制御する(S34)。
【0081】
上述の変動抑制制御により、図5に示されるように、回生制動力に短時間の増減が生じたときに液圧制動力の目標値は一定に保持される。よって、ブレーキフィーリングへの影響が軽減される。これに対し、比較例として図6に示すように、回生制動力の短時間の増減に液圧制動力を追従させようとする場合には、回生制動力の減少分(または増加分)と液圧制動力目標値の増加分(減少分)とが等しくなる。実際の液圧制動力は、制動要求を満たすレベルではあるものの、目標値に対していくらか遅れて発生する。図6に示す例においては回生制動力の増加と液圧制動力の増加とが同時に重なり、減速度の変化が増幅される。この場合、ブレーキフィーリングに影響が生じ得る。
【0082】
回生制動力は車両が減速するにつれて増加する。このため制動時には通常、要求制動力に占める液圧制動力の割合は制動当初に大きく、減速につれて低下する。ホイールシリンダ圧も同様に当初大きく徐々に低下する。よって、1回の制動開始から停車までの間に典型的には増圧リニア制御弁66は制動当初に一度作動すれば十分である。その後は減速につれて減圧リニア制御弁67によってホイールシリンダ圧は調圧される。
【0083】
上述の変動抑制制御は例えば、回生協調制御が実行されている制動中に運転者がシフトアップ操作またはシフトダウン操作をした場合に実行される。シフト操作が検出または予測された場合に、その時点からシフト操作時間は液圧制動力(すなわちホイールシリンダ圧)は一定に保たれる。これらのシフト操作により回生制動力は変動しうるが、その変動への液圧制動力の追従は制限されている。よって、回生制動力の変動が液圧制動力により増幅されることはなく、ブレーキフィーリングへの影響は軽減される。また、回生制動力の変動に合わせてホイールシリンダ圧が増減圧されることもなく、リニア制御弁の作動頻度も低減される。このため、リニア制御弁の耐用期間を長めに見込むことができる。
【0084】
本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を各実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。以下、そうした例をあげる。
【0085】
変動抑制条件には、シフト操作があったことを示す他の条件が含まれてもよい。ブレーキECU70は、シフト操作があったか否かを例えばシフト情報に基づいて直接検出してもよい。また、変動抑制条件には、シフト操作が直近に生じる可能性が高いこと、つまり変速が直近に予測されることを示す条件が含まれてもよい。変動抑制条件は、シフト操作部材(例えばシフトノブ)への運転者の接触を感知したことを含んでもよい。
【0086】
ブレーキECU70は、シフト操作部材の感知システムからの情報に基づいて運転者の接触の有無を判定してもよい。感知システムは、操作部材に取り付けられている感圧センサを含んでもよい。感圧センサは温度センサまたは圧電センサであってもよい。また、変動抑制条件は、エンジンまたはモータの回転数が基準を超えて上昇したことを含んでもよい。ブレーキECU70は、複数の変動抑制条件のうちいずれかが成立したときに上述の変動抑制制御を実行してもよい。
【0087】
また、液圧制動力目標値を一定に保持する代わりに、ブレーキECU70は、回生制動力の変動に対して液圧制動力目標値を通常よりも緩やかに変化させるようにしてもよい。ブレーキフルード流量を減らすことができるので、リニア制御弁のシール性の劣化を抑えることができる。
【0088】
例えば図7に示されるように、ブレーキECU70は、要求制動力に対する回生制動力の不足分として求まる通常の液圧制動力目標値の変化勾配よりも制限された勾配で液圧制動力目標値を変化させてもよい。図7では、通常の液圧制動力目標値を破線で示し、勾配が制限された液圧制動力目標値を実線で示している。このようにしても液圧制動力の変動を抑制することができるので、液圧ブレーキユニットの耐久性とブレーキフィーリングとの両立が可能である。
【0089】
上述の実施例においてはハイブリッド車両に摩擦制動力の変動抑制を適用した例を説明しているが、本発明はこれに限られない。本発明に係る摩擦制動力の変動抑制制御は、モータのトルクが変速機を介して車輪に伝達される車両に適用可能である。例えばモータを駆動源とする電気自動車に適用可能である。シフトチェンジの際に一瞬ニュートラルを経由することにより、回生制動力に瞬間的に大きな変動が生じることになる。よって、ブレーキ制御装置は、変速が検出または予測されたとき、または回生制動力が基準を超える減少速度で減少することを検出または予測したときに、摩擦制動力の変動を例えば一時的に抑制する。このようにして、上述の実施例と同様に、回生制動力と摩擦制動力との応答性の違いによるブレーキフィーリングへの影響を軽減することができる。
【符号の説明】
【0090】
7 ハイブリッドECU、 10 回生ブレーキユニット、 20 液圧ブレーキユニット、 23 ホイールシリンダ、 27 マスタシリンダユニット、 32 マスタシリンダ、 33 レギュレータ、 34 リザーバ、 60 分離弁、 65 レギュレータカット弁、 66 増圧リニア制御弁、 67 減圧リニア制御弁、 70 ブレーキECU、 73 制御圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構を介して車輪に接続されているモータを含み、該モータの回生により該車輪に回生制動力を付与する回生ブレーキユニットと、
前記車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキユニットと、
回生制動力と摩擦制動力とを併用して要求制動力を発生させるよう回生ブレーキユニット及び摩擦ブレーキユニットを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、変速が検出または予測されたときに摩擦制動力の変動を抑制することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、運転者によるシフト操作が検出または予測されたときに、摩擦制動力を一定に保つことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、運転者によるシフト操作が検出または予測されたときに、少なくともシフト操作時間にわたり摩擦制動力を一定に保つことを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、発生可能な回生制動力のうち要求制動力への充当分が車両の駆動系からの要求により制限されたときに摩擦制動力の変動を抑制することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
車輪を駆動するためのモータの回生により該車輪に回生制動力を付与する回生ブレーキユニットと、
前記車輪に摩擦制動力を付与する摩擦ブレーキユニットと、
回生制動力と摩擦制動力とを併用して要求制動力を発生させるよう回生ブレーキユニット及び摩擦ブレーキユニットを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、要求制動力への回生制動力の充当可能分が基準を超える減少速度で減少することを検出または予測したときに摩擦制動力の変動を抑制することを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−183822(P2011−183822A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47764(P2010−47764)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】