説明

ブレーキ液の品質の低下を検出する方法および装置

ブレーキ液の品質の低下を検出するための方法および装置を開示する。ブレーキ液は発光染料を含み、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスが変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ液の品質の低下を検出する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ液は、ブレーキペダル上に作用した圧力を、油圧ラインを介して、ブレーキ機構のシリンダーに伝達するために使用される。最も一般的に使用されるブレーキ液は、グリコールエーテル系液体であり、ポリグリコール類と混合される場合もある。これらの液体は吸湿性であり、大気から水分を吸収し、それによってブレーキ液の沸点が徐々に低下する。ブレーキ液の沸点が低下すると、ブレーキをかけたときに摩擦によってブレーキ液の温度が上昇して、蒸気泡が発生し得る。蒸気泡は油圧機構の機能を低下させ、これによって重大な安全上の問題が発生する。さらに、ブレーキ液中の水の量が増加すると、低温粘度、防錆性能、およびブレーキ液のエラストマー適合性に悪影響が生じ得る。
【0003】
ブレーキ液の沸点が水の吸収によって低下しているかどうかを調べるために、数種類のシステムが使用されている。典型的には、平衡還流沸点(Equilibrium Reflux Boiling Point)(ERBP)法(例えば、米国連邦自動車安全基準(US Federal Motor Vehicle Safety Standard)(FMVSS 116)によって規定されている。)を沸点の測定に使用し、カール・フィッシャー(Karl Fischer)滴定(例えばASTM規格D1123に準拠)を含水率の測定に使用することができる。これらの方法は正確であるが労働集約的であり、研究所の熟練者が行う必要がある。さらに、EPBP法は多量のサンプルを必要とするため、自動車のブレーキ系内に存在するブレーキ液に使用するには実際的ではない。
【0004】
US 5,785,425およびUS 5,380,091の両方には、ガレージ内で自動車整備工が使用可能な、ブレーキ液の品質の低下を検出する手持ち式装置が開示されている。プローブをブレーキ液中に挿入すると、表示装置によってブレーキ液の沸点が使用者に示される。
【0005】
US 4,869,596には、ブレーキ液の沸点を測定し、ブレーキ液の温度を測定し、これらを標準値と比較する、乗り物中に入れられたブレーキ液の状態の検査方法が開示されている。ブレーキ液の品質の変化が、乗り物の運転者に示され、それによって運転者は危険な変化を知り、適切な行動をとることができる。
【0006】
DE 3143589には、変色指示薬をブレーキ液と接触させ、色の変化によってブレーキ液の含水率が示される装置が開示されている。DE 19838025には、ブレーキ液の含水率が変化するとブレーキ液の色が変化するような変色指示薬を含むブレーキ液が開示されている。FR 2664701には、変色指示薬がブレーキ液の含水率を示すために使用される別の方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,785,425号明細書
【特許文献2】米国特許第5,380,091号明細書
【特許文献3】米国特許第4,869,596号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第3143589号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第19838025号明細書
【特許文献6】仏国特許出願公開第2664701号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ブレーキ液の品質の低下を検出するための別の方法および装置を提供することを探求した。望ましくは、この方法および装置は、複数の複雑な測定を必要とすることなくブレーキ液中の水の存在を高い信頼性で示す。最も望ましくは、この方法および装置によって水の検出が可能であり、同時に、ブレーキ液はブレーキ系内に依然として存在し(即ち、試験できるようにブレーキ液のサンプルを系から取り出す必要がなく)、好ましくは、この方法および装置によって、ブレーキ液中の水の存在が最も重要となるホイールシリンダーの位置またこの付近の水の検出が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、ブレーキ液が発光染料を含み、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスに変化が生じる、ブレーキ液の品質の低下を検出する方法であって、染料が発したルミネセンスの変化を検出するステップを含む、方法を提供する。
【0010】
さらに別の一態様では、本発明は、発光染料を含むブレーキ液であって、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスに変化が生じる、ブレーキ液を提供する。
【0011】
さらに別の一態様では、本発明は、ブレーキ液の品質の低下を検出する装置であって、
発光染料を含むブレーキ液を保持する容器であって、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスに変化が生じる容器と;
染料が発したルミネセンスの変化を検出することができる検出器とを含む、装置を提供する。
【0012】
本発明者らは、発光染料をブレーキ液中に混入することができ、この染料が発するルミネセンスが、ブレーキ液の含水率の変化に応答した検出可能な変化を生じることを発見した。このルミネセンスの変化を検出することによって、ブレーキ液の含水率の変化を検出することが可能となり、従って、ブレーキ液の品質の低下を検出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のブレーキ液は、好ましくは、DOT3、DOT4、またはDOT5のグレード(FMVSS 116に準拠)に適合するブレーキ液などのグリコールエーテル系液である。ブレーキ液はポリグリコール類を含むことができる。
【0014】
ブレーキ液は発光染料を含み、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスの変化が生じる。好ましくは、このルミネセンスは、ブレーキ液の含水率の増加とともに増加する。発光染料は、リン光染料または蛍光染料であってよく、好ましくは本発明における指示物質は蛍光染料であり、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料の発する蛍光が変化する。WO 02/068926には、蛍光染料をブレーキ液中に混入することができ、それによってブレーキ液の漏れが検出できることが開示されている。しかし、ブレーキ液の含水率とともに蛍光が変化するように蛍光染料を選択できることは示唆されていない。
【0015】
蛍光染料は好ましくは、フルオレセインおよびクマリン類からなる群より選択される。当業者であれば、染料をブレーキ液に加え、水をブレーキ液に加え、ブレーキ液の含水率の変化に応答して蛍光の発光が変化するかどうかを観察することによって、この蛍光染料が本発明における使用に適しているかどうかを評価することができる。
【0016】
ブレーキ液中の蛍光染料の量は、好ましくは少なくとも1ppm、より好ましくは少なくとも5ppmである。含水率の変化に応答した蛍光の変化を検出できるのに十分な染料が必要となる。ブレーキ液中の蛍光染料の量は、好ましくは1000ppm未満、より好ましくは200ppm未満である。染料がブレーキ液中の比較的高価な成分となる場合があるので、染料の量を好ましくは最小限にする。
【0017】
染料の蛍光は、ブレーキ液の含水率の変化に応答して変化する。好ましくは、蛍光は、ブレーキ液の含水率の増加とともに増加する。本発明の好ましい一実施形態では、ブレーキ液が水を含まない場合には蛍光が検出できず、ブレーキ液の含水率が閾限界値を越えるまで増加した場合に蛍光が検出可能となる。閾限界値は、ブレーキ液の品質が低下したため、行動をとることができるように観察者に情報を提供するべき値である。閾限界値は、ブレーキ液の種類、およびこれが使用されるブレーキ系によって変化するが、ブレーキ液の重量を基準にして典型的には約3から5重量%の水であり、これは、個別のブレーキ液製品のグレードおよび配合に依存して約160から170℃の沸騰温度に対応し得る。
【0018】
蛍光は、フォトンが染料によって吸収され、より長い波長のフォトンが放出される場合に起こる。従って、蛍光を得るためには励起源が必要となる。吸光は典型的には紫外範囲で起こるため、蛍光の変化を検出するためにはブレーキ液を紫外光にさらすことが必要となり得る。レーザーを使用して蛍光を誘導することができる。本発明の装置は好ましくは、レーザーなどの励起源を含む。
【0019】
蛍光の変化は、当業者に公知のあらゆる検出手段を使用して検出することができる。蛍光が赤外スペクトルの可視部分にある場合、最も簡単な蛍光の検出手段は、肉眼による観察である。赤外スペクトルの可視領域および他の領域にある蛍光は、当分野において公知のあらゆる好適な検出器によって検出することができる。好ましくは検出器が、放出フォトンを記録し、記録可能な出力を、典型的には電気信号として発生する。検出器は、蛍光の存在を検出したり、ある閾限界値を超える蛍光を検出したり、または蛍光の強度を検出したりすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態では、本発明の方法は、ブレーキ液の品質の低下を検出するときに、ブレーキ液がブレーキ系内に存在し、本発明の装置中の容器がブレーキ系の一部、例えばブレーキ系のタンク、パイプ、ホース、およびホイールシリンダーである。この実施形態では、ブレーキ系内に存在するときには人の肉眼ではブレーキ液を見ることが困難となり得るため、人の肉眼以外の検出器を使用することが好ましい。レーザーなどの励起源が、好ましくは、ブレーキ系内のブレーキ液の蛍光を発生させるために存在する。好ましくは蛍光の変化の検出は、ホイールシリンダーの位置またはこの付近のブレーキ液を検出することによって行われる。ブレーキ系内でのブレーキ液の拡散は遅くなる場合があるので、ブレーキ系全体でのブレーキ液の品質は均一ではない場合がある。ブレーキ液の品質は、ブレーキ液が最も加熱されるホイールシリンダーの位置またはこの付近で最も低くなると思われる。
【0021】
ブレーキ系が自動車、オートバイ、またはトラックなどの乗り物の一部である場合、本発明の装置は好ましくはこの乗り物に組み込まれる。さらなる一態様では、本発明は、本発明による装置を含む乗り物を提供する。
【0022】
本発明の別の一実施形態では、本発明の方法は、ブレーキ液がブレーキ系内に存在しない場合、例えばブレーキ液がブレーキ系から取り出されている場合、またはブレーキ系内では既に使用されていない場合に、ブレーキ液の品質の低下を検出する。この実施形態では、本発明の装置中の容器は、ブレーキ液の保持に適したあらゆる容器、例えばびんであってよい。
【0023】
本発明の方法は、好ましくは、ブレーキ液の含水率の変化に応答した染料が発するルミネセンスの変化の情報を観察者に与えるステップをさらに含む。本発明の装置は、好ましくは、ルミネセンスの変化の情報を観察者に与える表示装置をさらに含む。観察者は、それによってブレーキ液の含水率の変化およびブレーキ液の品質の低下の情報を得て、ブレーキ系内のブレーキ液の交換や乗り物の使用の停止などの適切な行動をとることができる。好ましくは観察者には、適切な行動が直接通知され、例えば表示装置によって、観察者にブレーキ液の交換、または乗り物の運転の停止が通知される。
【0024】
実施例
これより、実施例を参照することによって本発明を説明するが、これらの実施例は本発明の限定を意図したものではない。
【0025】
蛍光染料を、DOT4規格に適合するShell Chemicalsのグリコールエーテル系ブレーキ液中に溶解させた。表1は、使用した染料の種類および量を示しており、染料とブレーキ液との混合物に加えた水の量を示している。これらの液を、254nmおよび366nmの二波長の2つの紫外ランプからなる照射キャビネット中に入れた。目視観察を使用して、液の蛍光を検出した。表1は、3つの蛍光染料(実施例1から3)で、ブレーキ液の含水率の変化に応答して染料が発する蛍光の変化が示されたことを示している。2つの別の染料(比較例1から2)では、蛍光の変化は観察されなかった。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液が発光染料を含み、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスが変化する、ブレーキ液の品質の低下を検出する方法であって、染料が発したルミネセンスの変化を検出するステップを含む、方法。
【請求項2】
発光染料を含むブレーキ液であって、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスが変化する、ブレーキ液。
【請求項3】
ブレーキ液の品質の低下を検出する装置であって、
発光染料を含むブレーキ液を保持する容器であって、ブレーキ液の含水率の変化に応答して、染料が発するルミネセンスが変化する容器と;
染料が発するルミネセンスの変化を検出することができる検出器とを含む、装置。
【請求項4】
発光染料が蛍光染料である、請求項1に記載の方法、請求項2に記載のブレーキ液、または請求項3に記載の装置。
【請求項5】
ブレーキ液が水を含まないときには染料の蛍光が検出できず、ブレーキ液の含水率が閾限界値を超えて上昇する場合に染料の蛍光が検出可能となる、請求項4に記載の方法、ブレーキ液、または装置。
【請求項6】
ブレーキ液がブレーキ系内に存在する、請求項1、4、および5のいずれか一項に記載の方法、または請求項3から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
指示物質の変化の情報を観察者に与えるステップをさらに含む、請求項1および4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
指示物質の変化の情報を観察者に与える表示装置を含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
発光染料のルミネセンスを発生させることが可能な励起源を含む、請求項3から6または8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
請求項3から6または8から9のいずれか一項に記載の装置を含む、乗り物。

【公表番号】特表2011−501115(P2011−501115A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528401(P2010−528401)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063564
【国際公開番号】WO2009/047307
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】