説明

ブレーキ液圧制御装置とそれを用いたブレーキ装置

【課題】前輪系と後輪系のうち一方のみの液圧を制御する小型化やコスト面で有利なブレーキ液圧制御装置の利点を活かしつつ、そのブレーキ液圧制御装置の減圧の応答性を向上させることを課題としている。
【解決手段】マスタシリンダ3とホイールシリンダ4との間に、増圧用電磁弁7と、その増圧用電磁弁と並列配置にして液圧経路6につなぐ還流経路8と、減圧用電磁弁9と、ホイールシリンダ4から排出されるブレーキ液を直接汲み上げて液圧経路6に還流させる複数のポンプ10と、各ポンプを一括して駆動するータ11と、電子制御装置12とを設け、各ポンプ10を、動作行程の位相を異ならせて還流経路に並列配置にして組み込み、このブレーキ液圧制御装置で自動2輪車又は自動3輪車の前輪系又は後輪系のブレーキ液圧のみを制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動2輪車や自動3輪車に搭載するアンチロック制御機能を備えたブレーキ液圧制御装置とそれを用いたブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動2輪車用のアンチロック制御機能を有するブレーキ液圧制御装置として、例えば、下記特許文献1,2に示されるものがある。
【0003】
特許文献1が開示しているブレーキ液圧制御装置は、ブレーキ液圧の制御を1輪のみを対象にして行なうものであって、ポンプハウジングの内部に、減圧制御時にホイールシリンダから排出されるブレーキ液を取り込むリザーバを設け、そのリザーバをポンプハウジングに内蔵された動力駆動のポンプに対するブレーキ液の供給源として働かせるようにしている。
【0004】
また、特許文献2が開示しているブレーキ液圧制御装置は、ブレーキ液圧の制御を前後の2輪を対象にして行なうものであって、ホイールシリンダから排出されたブレーキ液を直接ポンプで汲み上げる。
【0005】
ポンプは2つあり、その2つのポンプを単一のモータで駆動し、各ポンプが汲み上げたブレーキ液を前輪と後輪のホイールシリンダに再加圧用として個別に供給するようにしている。この装置は、マスタシリンダにはリザーバがあるが、ポンプハウジングにはリザーバが無く、そのためにリザーバレスタイプと称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−229870号公報
【特許文献2】特開2001−301597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のブレーキ液圧制御装置は、1輪のみを液圧制御の対象にしているので、前後輪を液圧制御の対象にしたブレーキ液圧制御装置に比べて電磁弁などの構成部品が少なくて済み、小型化やコスト低減が規定できる。しかしながら、その一方で、ポンプハウジングの内部に設けたリザーバが、ポンプハウジングの体格縮小の障害となるため、装置の小型化が制限される不具合がある。
【0008】
また、上記特許文献2のブレーキ液圧制御装置は、リザーバレスタイプであるため、小型化の規制を受け難いが、ABS(アンチロックブレーキシステム)用として一般的に採用されるピストンポンプは、吸入と吐出の行程を繰り返すため、ブレーキ液の汲み上げを常時継続することができない。
【0009】
そのために、特許文献2の構成では、ABSの減圧指令が発せられた段階で前輪系と後輪系のポンプの少なくとも一方が吐出行程となって急速な減圧ができず、良好な応答性が得られない。
【0010】
この発明は、前輪系と後輪系のどちらか一方のみの液圧を制御する小型化やコスト面で有利なブレーキ液圧制御装置の利点を活かしながら、そのブレーキ液圧制御装置の減圧の応答性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、マスタシリンダと、そのマスタシリンダから供給されるブレーキ液圧を受けて作動するホイールシリンダとの間の液圧経路に組み込まれるブレーキ液圧制御装置であって、単一の増圧用電磁弁と、前記増圧用電磁弁と並列配置にして前記液圧経路につなぐ還流経路と、その還流経路に挿入する単一の減圧用電磁弁と、前記還流経路の途中に組み込まれて前記減圧用電磁弁経由で前記ホイールシリンダから排出されるブレーキ液を直接汲み上げて前記液圧経路の前記マスタシリンダと前記減圧用電磁弁との間に還流させる複数のポンプと、各ポンプを一括して駆動する単一のモータと、前記ホイールシリンダの減圧、再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁と増圧用電磁弁に制御指令を出す電子制御装置を有し、
前記複数のポンプが動作行程の位相(吸入、吐出の位相)を異ならせて前記還流経路に並列配置にして組み込まれているブレーキ液圧制御装置を提供する。
このブレーキ液圧制御装置を用いて、自動2輪車又は自動3輪車の前輪系又は後輪系のブレーキ液圧を制御する。
【0012】
この発明のブレーキ液圧制御装置は、前記ポンプとして吸入と吐出が同時進行する歯車ポンプを採用することも考えられるが、吸入行程と吐出行程を交互に繰り返すピストンポンプを使用したものが、発明の有効性が特に顕著である。
【0013】
歯車ポンプを使用したものは、駆動用モータも大きくなりがちであるが、ピストンポンプはその問題も起こらない。そのピストンポンプは、前記モータによって回転させるピストン駆動用カムを中心にして放射状に配置すると好ましい。
【0014】
また、上記ピストン駆動用のカムは、中心から偏心した位置に駆動軸をもつ円形の偏心カムが好ましい。
【0015】
この発明は、前輪系、後輪系のうち、どちらか一方のブレーキ系に前記ブレーキ液圧制御装置を備えさせ、他方のブレーキ系には、マスタシリンダで発生させた液圧を制御せずにホイールシリンダに供給する一般的な液圧ブレーキ装置もしくは機械式ブレーキ装置を備えさせた自動2輪車又は自動3輪車用のブレーキ装置も併せて提供する。
【発明の効果】
【0016】
この発明のブレーキ液圧制御装置は、ホイールシリンダから排出されるブレーキ液を直接ポンプで汲み上げてマスタシリンダとホイールシリンダ間の液圧経路に還流させるので、排出ブレーキ液を一時的に取り込むリザーバをポンプハウジングに設ける必要がない。このために、装置の小型化が図れる。
【0017】
また、一つの系統に動作行程の位相を異ならせたポンプを並列配置にして複数組み込んでいるので、少なくとも1つのポンプが常時吸入態勢を維持することになる。そのために、ABSの減圧指令に迅速に応答して減圧が必要とされた系のホイールシリンダ圧を急速に低下させることができ、ABSの制御の信頼性が高まる。
【0018】
なお、モータで回転させるピストン駆動用カムの周囲に複数のピストンポンプを放射状に配置したブレーキ液圧制御装置は、その配置によって複数のポンプの動作行程の位相が自然にずれる。
【0019】
ピストン駆動用のカムが中心から偏心した位置に駆動軸をもつ円形の偏心カムを使用し、さらに、ピストンポンプの数をn個とし、そのn個のピストンポンプを周方向等分点に配置した場合、各ポンプの動作行程の位相のずれは、n/360°となる。これにより、ポンプの少なくとも1つが吸入態勢を、他の少なくとも1つが吐出態勢をとる状態が常時作り出され、急速な減圧と、急速な再加圧が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明のブレーキ液圧制御装置とそれを用いたブレーキ装置の一例を示す回路図
【図2】2つのピストンポンプをピストン駆動用の円形偏心カムを中心にして相反する姿勢に組み合わせた例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明のブレーキ液圧制御装置とそれを用いたブレーキ装置の実施の形態を、添付図面の図1及び図2に基づいて説明する。
【0022】
図1に示したブレーキ装置は、自動2輪車用であって、前輪系のブレーキ装置FBと後輪系のブレーキ装置RBを独立させ、前輪系のブレーキ装置FBにこの発明のブレーキ液圧制御装置1を備えさせている。
【0023】
そのブレーキ液圧制御装置1は、ブレーキレバー2を操作して作動させてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ3と、そのマスタシリンダ3から供給されるブレーキ液圧を受けてブレーキピストンなどを作動させるホイールシリンダ4との間に配置される。マスタシリンダ3は、ブレーキ液補給用のリザーバ5を伴っている。
【0024】
また、マスタシリンダ3からホイールシリンダ4に至る液圧経路6に組み込まれる増圧用電磁弁7と、還流経路8と、その還流経路8に挿入する減圧用電磁弁9と、還流経路8の途中に組み込まれる複数のポンプ10と、各ポンプを駆動するモータ11と、電子制御装置(ECU)12を有する。なお、ブレーキ制御機能向上のために、ホイールシリンダ4の圧力を検出する圧力センサをブレーキ液圧制御装置に設けてもよい。その場合、圧力センサは、装置の簡素化を考えるとポンプハウジング21の内部に組み込むのがよい。
【0025】
マスタシリンダ3は、単一の出力ポートを有しており、その出力ポートが液圧経路6を介してホイールシリンダ4につながれ、液圧経路6の途中に単一の増圧用電磁弁7が1個組み込まれている。
【0026】
還流経路8は、増圧用電磁弁7と並列配置にして液圧経路6につながれている。そして、その還流経路8に単一の減圧用電磁弁9が組み込まれ、さらに、その減圧用電磁弁9よりも還流経路8の終端(増圧用電磁弁7よりもマスタシリンダ3に近い上流側にある液圧経路6との合流点Cを終端と考える)側にポンプ10が複数組み込まれている。
【0027】
その複数のポンプ10は、動作行程の位相を異ならせたものが並列配置にして組み込まれている。また、モータ11は1つにし、そのひとつのモータで各ポンプ10を一括して駆動するようにしている。各ポンプの動作行程は、ポンプの設置数を2とした例示の装置では、180°位相がずれる。
【0028】
ホイールシリンダ4から排出されたブレーキ液は、各ポンプ10によって直接汲み上げられ、従って、ホイールシリンダ4からの排出液を一時的に蓄えるリザーバは存在しない。
【0029】
電子制御装置12は、圧力センサや、車輪速センサ(図示せず)などから入力される情報に基づいてホイールシリンダ4の減圧、再加圧の必要性を判断し、減圧用電磁弁9と増圧用電磁弁7に制御指令を出す。それは、ABS機能を有する通常のブレーキ液圧制御装置と同じである。
【0030】
ポンプ10は、ピストンポンプが好ましい。そのピストンポンプを還流経路8に2個設けた例を図2に示す。図示したように、ポンプハウジング21には、2個の段付内孔10aがカム室22を間に挟んで対向して設けられている。
【0031】
また、2つの吸入口23と2つの吐出口24がポンプハウジング21に設けられ、各段付内孔10aにピストン10bが組み込まれ、そのピストンを戻すピストンリターンスプリング10cがシリンダ孔27aの形成されたシリンダ部材27との間に組み込まれている。さらに、ポンプ室10dの上流側と下流側に吸入弁10eと吐出弁10fが各ピストン10bに対応させてそれぞれ設けられて2個のポンプ10,10が構成されている。
【0032】
10gは、各ピストン10bに固定したリテーナであり、このリテーナ10gとピストン10bとの間に吸入弁10eが設けられ、さらに、ポンプハウジング21に液密に装着したキャップ28とシリンダ部材27との間に吐出弁10fが設けられている。吸入弁10eと吐出弁10fは、どちらも弁体とそれを閉弁方向に付勢するスプリングとからなる周知の弁を示したが、これに限定されるものではない。
【0033】
2つの吸入口23は、1つに合流させて減圧用電磁弁9の排出ポートにつながれる。また、2つの吐出口24は、1つに合流させて増圧用電磁弁7の導入ポートにつながれる。
【0034】
カム室22内には、中心から偏心した位置に駆動軸(これはモータ11の出力軸又はその出力軸に連結された回転軸)25をもつ円形の偏心カム26が組み込まれており、その偏心カム26の外周のカム面によって2つのポンプのピストン10bが交互に押し込まれる。2つのポンプ10,10は、動作の位相が180°ずれており、これにより、どちらか一方のポンプが吸入態勢を、他方のポンプが吐出態勢を常に維持することになる。
【0035】
その2個のポンプ10,10が並列配置にして還流経路8に組み込まれているので、ホイールシリンダからの排出液を取り込むリザーバがなくても、減圧指令に迅速に応答してホイールシリンダ圧を降下させることができ、アンチロック制御の信頼性を確保することができる。
【0036】
また、ポンプハウジングにリザーバを内蔵させる必要がないため、装置の小型化が図れる。2個のピストンポンプを対向配置した例示の装置は、例えば、図2の上下方向についてポンプハウジングの小型化も図れる。
【0037】
また、ブレーキ液圧制御装置に採用するピストンポンプの中には、自吸入機能を備えたもの(例えば、特開2011−64166号公報)もあり、この発明の装置は、そのようなピストンポンプを採用することもできる。
【0038】
図1の後輪系のブレーキ装置RBは、ブレーキレバー13を操作して作動させてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ14と、そのマスタシリンダ14から供給されるブレーキ液圧を受けてブレーキピストンなどを作動させるホイールシリンダ15とで構成される液圧制御機能の無い一般的な液圧式のブレーキ装置である。マスタシリンダ14にはリザーバ16が付属している。この系のブレーキ装置は、機械式のもので代替することも考えられる。
【0039】
この発明のブレーキ液圧制御装置は、自動2輪車のほかに、自動3輪車にも利用することができる。自動3輪車には、前輪が1輪のものと前輪が2輪のものの2タイプがある。適用対象が後者の自動3輪車の場合には、液圧経路6の下流側を2つに分岐して各分岐路をホイールシリンダにつなぐことになる。
【符号の説明】
【0040】
1 ブレーキ液圧制御装置
2,13 ブレーキレバー
3,14 マスタシリンダ
4,15 ホイールシリンダ
5,16 リザーバ
6 液圧経路
7 増圧用電磁弁
8 還流経路
9 減圧用電磁弁
10 ポンプ
10a 段付内孔
10b ピストン
10c ピストンリターンスプリング
10d ポンプ室
10e 吸入弁
10f 吐出弁
10g リテーナ
11 モータ
12 電子制御装置
21 ポンプハウジング
22 カム室
23 吸入口
24 吐出口
25 駆動軸
26 偏心カム
27 シリンダ部材
27a シリンダ孔
28 キャップ
FB 前輪系のブレーキ装置
RB 後輪系のブレーキ装置
C 合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(3)と、そのマスタシリンダ(3)から供給される液圧を受けて作動するホイールシリンダ(4)との間の液圧経路(6)に組み込まれるブレーキ液圧制御装置(1)であって、単一の増圧用電磁弁(7)と、前記液圧経路(6)に前記増圧用電磁弁(7)と並列配置にして設ける還流経路(8)と、その還流経路(8)に挿入する単一の減圧用電磁弁(9)と、前記還流経路(8)の途中に組み込まれて減圧用電磁弁(9)経由で前記ホイールシリンダ(4)から排出されるブレーキ液を直接汲み上げて前記液圧経路(6)の前記マスタシリンダ(3)と前記減圧用電磁弁(9)との間に還流させる複数のポンプ(10)と、各ポンプ(10)を一括して駆動する単一のモータ(11)と、前記ホイールシリンダ(4)の減圧、再加圧の必要性を判断して前記減圧用電磁弁(9)と増圧用電磁弁(7)に制御指令を出す電子制御装置(12)を有し、
前記複数のポンプ(10)が動作行程の位相を異ならせて前記還流経路(8)に並列配置にして組み込まれたブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記ポンプ(10)をピストンポンプとし、そのピストンポンプを前記モータ(11)によって回転させるピストン駆動用のカム(26)を中心にして放射状に配置した請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記ピストン駆動用のカム(26)が、中心から偏心した位置に駆動軸をもつ円形の偏心カムである請求項2に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前輪系、後輪系のうち、どちらか一方のブレーキ系に請求項1〜3のいずれかに記載のブレーキ液圧制御装置を備えさせ、他方のブレーキ系に、マスタシリンダで発生させた液圧を制御せずにホイールシリンダに供給する液圧ブレーキ装置もしくは機械式ブレーキ装置を備えさせた自動2輪車又は自動3輪車用のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−245855(P2012−245855A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118159(P2011−118159)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】