説明

ブレーキ液圧制御装置

【課題】自動車ブレーキ用の液圧制御装置について、自動ブレーキでの加圧応答性を高めて吸入路の管路抵抗が大きい状況や低温環境下で使用する場合にも、制動の遅れを生じさせないようにすることを目的としている。
【解決手段】制御電磁弁1と、増圧電磁弁2、減圧電磁弁3と、モータ6に駆動されるポンプ5が単一のハウジング10に組み込まれ、電子制御装置ECUからの指令に基づいてポンプ5が主リザーバMRから供給されるブレーキ液、または、ホイールシリンダWCから排出されるブレーキ液を汲み上げてマスタシリンダからホイールシリンダWCに至る主流路Aに還流させる自動ブレーキ制御を実行可能なブレーキ液圧制御装置において、減圧路Bとポンプ吸入口の双方に連通した液溜め22を前記ハウジングの内部に設け、その液溜めを、当該液溜め内のブレーキ液が前記ポンプ吸入口に向けて重力で流れる位置に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ESC(横滑り防止制御)やTCS(トラクションコントロール)に代表される自動ブレーキ機能を備えたブレーキ液圧制御装置、詳しくは、低温環境やマスタシリンダからポンプ吸入口までの吸入路の管路抵抗が大きくなるような状況下であっても自動ブレーキの応答性を向上させることができるブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両用ブレーキ液圧制御装置は、ABS(アンチロック制御)だけでなく、自動ブレーキにも対応できるものが主流をなしている。そのようなブレーキ液圧制御装置が、例えば、下記特許文献1に開示されている。
【0003】
自動ブレーキを実行可能な液圧ブレーキ装置の回路構成の一例を、図8に示す。同図のMCは、大気圧状態でブレーキ液を貯留する主リザーバMRを伴ったマスタシリンダであって、いわゆるサービスブレーキでは、ブレーキペダルBPを操作することで、このマスタシリンダMCを作動させてブレーキ液圧を発生させる。
【0004】
マスタシリンダMCで発生させたブレーキ液圧(以下では、マスタシリンダ圧と言う)が主流路Aを通ってホイールシリンダWCに供給され、制動が行われる。主流路Aには、下流側(ホイールシリンダWC側を下流と考える)の液圧を上流側の液圧(マスタシリンダ圧)に応じて所定の比率で高くなるように調圧する流路遮断機能を備えた制御電磁弁1(図のそれは、リニア電磁弁。これに代えてON・OFF式カット弁を用いることもある)と、増圧電磁弁2が設置されている。
【0005】
また、ホイールシリンダWCから排出されたブレーキ液を通す減圧路Bが設けられ、その減圧路Bに減圧電磁弁3と、排出されたブレーキ液を一時的に溜める調圧リザーバ4が設置されている。
【0006】
図中5は、減圧路Bに吸入口がつながれたポンプであり、このポンプはモータ6によって駆動される。このポンプ5の吐出口につながった還流路Cは、主流路Aの、前記制御電磁弁1と増圧電磁弁2との間に合流させている(cpが合流点)。
【0007】
調圧リザーバ4は、ブレーキ液が導入されたときに閉弁する応圧タイプのカット弁7を伴っており、そのカット弁7経由でポンプ5の吸入口につながる吸入路Dが、主流路Aの制御電磁弁1よりも上流側と減圧路Bとの間に設けられている。なお、カット弁7を伴った調圧リザーバ4に代えて、吸入路Dに電磁開閉弁(図示せず)を組み込むこともなされている。
【0008】
制御電磁弁1と、増圧電磁弁2と、減圧電磁弁3のそれぞれの一部と、調圧リザーバ4と、ポンプ5及びカット弁7がハウジング(液圧ブロック)10に組み込まれて調圧ユニットが構成される。ハウジング10の一面は電磁弁装着面として形成されており、その電磁弁装着面に開口してハウジングに加工された電磁弁装着穴に各電磁弁を構成する部品の一部が組み込まれる。図中8は、ポンプ吐出圧の脈動を抑制するダンパ、9は圧力センサであり、これ等は、必要に応じて設置される。
【0009】
電磁弁を構成する部品の他の一部(電磁コイルなど)は、ハウジング10の外部に突出させている。調圧ユニットと電子制御ユニットを組み合わせて構成される一般的なブレーキ液圧制御装置は、その突出部を電子制御装置ECUの実装基板を収納したケースで覆い、電磁弁装着面とは反対側の面にポンプ駆動用のモータを取り付けている。
【0010】
図示のブレーキ装置は、電子制御装置ECUが、車両の挙動を監視する加速度センサや車輪速センサ(これ等は図示せず)等からの情報に基づいてホイールシリンダ圧の調圧の必要性を判断する。そして、調圧が必要と判断した場合には、そこから制御電磁弁1、増圧電磁弁2、減圧電磁弁3やモータ6に対して作動指令が流れ、ホイールシリンダ圧の調圧が実行される。
【0011】
自動ブレーキ制御では、ブレーキペダルBPの操作は行われておらず、制御電磁弁1は制御の開始に伴って閉じられる。この状態でポンプ5が駆動されると、そのポンプ5が吸入路DとマスタシリンダMCの圧力室(この部屋は、マスタシリンダが作動していないときには主リザーバMRに連通している)を経由して主リザーバMR内のブレーキ液を吸込み、それを圧縮して吐出する。その吐出液が主流路Aに還流されてホイールシリンダWCに供給され、その液圧でロータに対する摩擦材の押圧がなされて制動力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−143202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、自動ブレーキ制御では、モータ駆動のポンプに対して主リザーバからブレーキ液が供給されるが、トラックなどの大型車両では特に、液圧制御装置(ハイドロユニット)をマスタシリンダから離れたボディの長手途中などに配置することがあり、そのようなケースでは、主リザーバからポンプまでの吸入路の長さが長くなってポンプの吸入抵抗が大きくなる。
【0014】
そのために、ブレーキ液(油)の粘性が高まる低温環境下では特に、ポンプ吐出圧の急速な立ち上がりが望めず、自動ブレーキでの加圧応答性が不十分なものになると言う課題があった。なお、この課題は、環境温度が低くてブレーキ液の粘性増加が顕著な場合には、吸入路の長さが短くても発生する。
【0015】
そこで、この発明は、自動ブレーキでの加圧応答性を高めて吸入路の管路抵抗が大きい状況や低温環境下で使用する場合にも、制動の遅れを生じさせないようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明においては、マスタシリンダからホイールシリンダに至る主流路に設けられてその主流路を開閉する増圧電磁弁と、この増圧電磁弁よりもマスタシリンダ側で前記主流路に設けられる流路遮断機能を備えた制御電磁弁と、前記ホイールシリンダにつながる減圧路に設けられる減圧電磁弁と、吸入口が、主リザーバに通じた吸入路に接続され、さらに、前記減圧電磁弁経由で前記ホイールシリンダに接続されたモータ駆動のポンプと、前記制御電磁弁、増圧電磁弁、減圧電磁弁及びポンプの動作を制御する電子制御装置を有し、前記制御電磁弁と、増圧電磁弁と、減圧電磁弁と、ポンプが単一のハウジングに組み込まれ、前記電子制御装置からの指令に基づいて前記ポンプが前記主リザーバから供給されるブレーキ液、または、前記ホイールシリンダから排出されるブレーキ液を汲み上げて前記主流路の前記制御電磁弁から前記増圧電磁弁に至る領域に還流させるブレーキ液圧制御装置において、
前記減圧路と前記ポンプ吸入口の双方に連通した液溜めを前記ハウジングの内部に設け、その液溜めを、当該液溜め内のブレーキ液が前記ポンプ吸入口に向けて重力で流れる位置に配置した。なお、前記主リザーバは、マスタシリンダにブレーキ液を供給するリザーバである。
【0017】
上記液溜めは、全域がポンプ吸入口よりも上にあると好ましいが、その液溜めの天面がポンプ吸入口よりも上にあれば、吸入口よりも上側に位置する部分の貯留液に対して重力による送り込み力が働く。
【0018】
液溜めの一部のみをポンプ吸入口よりも上に置く場合には、この液溜めはハウジングの内部に設けられてポンプ吸入口までの距離が極めて短くなっているので、液溜めの無い態様と比較した場合、ポンプによる汲み上げが迅速化される。
【0019】
以下に、この発明のブレーキ液圧制御装置の好ましい態様を列挙する。
a)前記ハウジングに設けられた減圧電磁弁装着穴の奥端に延長部を形成し、その延長部で前記液溜めを構成したもの。
b)上記a)の構成において、前記減圧電磁弁装着穴の奥端の延長部の内径を、当該減圧電磁弁装着穴の前記延長部よりも入口側領域の奥端の内径(減圧電磁弁を構成する部品の最奥端が嵌合する部分の内径)よりも大きくしたもの。
c)前記ハウジングの内蔵機器組み付け箇所を避けた位置に追加穴を設け、その追加穴を前記ポンプ吸入口に連通させてその追加穴で前記液溜めを構成したもの。
d)前記ハウジングに、電磁弁装着面とは反対側の面から追加穴を加工し、その追加穴の解放口を栓で閉じて当該追加穴を前記減圧電磁弁装着穴の奥端に連通させ、この追加穴で前記液溜めを構成したもの。この形態での追加穴は、前記減圧電磁弁装着穴と同軸である必要はない。
e)前記液溜めを、下記i)〜iii)の中の任意の2つ、又は3つを組み合わせて構成したもの。
i)前記減圧電磁弁装着穴の奥端の延長部の内径を、前記延長部を除いた領域の奥端の内径よりも大きくして作り出した液溜め。
ii)前記ハウジングの内蔵機器組み付け箇所を避けた位置に、垂直軸に対して交差する向きに配向される追加穴を設け、その追加穴をポンプ吸入口に連通させてその追加穴で構成した液溜め。
iii)前記ハウジングに、前記電磁弁装着面とは反対側の面から穴を加工し、その穴の解放口を栓で閉じ、この穴を前記減圧電磁弁装着穴の奥端に連通させてこの穴で構成した液溜め。
【発明の効果】
【0020】
この発明のブレーキ液圧制御装置は、ポンプを組み付けた調圧ユニットのハウジングに、貯留液が重力で流れ出す液溜めを設けたので、自動ブレーキ作動初期のポンプに対してその液溜めからブレーキ液がスムーズに供給される。
【0021】
液溜めはポンプの内蔵されたハウジングに設けられており、液溜めからポンプまでの距離が近い。そのために、液溜め内のブレーキ液を吸い込んでいる間はポンプの吸入抵抗が小さく保たれる。これに加えて、液溜め内のブレーキ液に対して重力による移動力が働く。
【0022】
これにより、液溜めからブレーキ液が供給されている間は、ブレーキ液の粘性増加の影響やマスタシリンダから液圧制御装置までの距離の影響が排除され、低温環境下、或いは、マスタシリンダから液圧制御装置までの間の吸入抵抗が大きくなる環境下で使用したときにも、ポンプ吐出圧が急速に立ち上がって自動ブレーキでの加圧応答性が高まる。
【0023】
なお、減圧電磁弁は、通常、ポンプ吸入口に最も接近した位置に設けられる。そのため、減圧電磁弁装着穴の奥端に延長部を形成してその延長部でこの発明を特徴づける液溜めを構成した上記a)の形態は、液溜めからポンプ吸入口までの管路抵抗が無視できるほど小さくなり、発明の効果が最大限に発揮される。
【0024】
また、減圧電磁弁装着穴の奥端からハウジングの電磁弁装着面とは反対側の面までの間には比較的大きなデッドスペースが生じており、その部分を有効活用して液溜めを作れるため、液溜め設置によるハジングの体格増加を回避することもできる。
【0025】
減圧電磁弁装着穴の延長部の内径を、その延長部よりも穴の入口側領域の奥端の内径よりも大きくした上記b)の形態は、ハジングの体格増加を避けながら液溜めの容積を増加させることができる。
【0026】
また、ハウジングの内蔵機器組み付け箇所を避けた位置に追加穴を設けてその追加穴で液溜めを構成した上記c)の形態は、ハウジングの内部の電磁弁装着穴の形成部から外れた位置のデッドスペースを有効に活用することができ、ハウジングに電磁弁装着穴の奥端を延長できる余裕が無くても目的の液溜めを作ることができる。また、延長部の長さが規制されて延長部のみでは十分な容積の液溜めを作れないときに、延長部とは別箇所に補助液溜めを構成して延長部で構成される液溜めの容積不足を補うことができる。
【0027】
ハウジングの電磁弁装着面とは反対側の面から穴を加工し、その穴を前記追加穴にしてこの穴で液溜めを構成した上記d)の形態は、液溜めとなす穴の内径を、リセス加工を行わずに減圧電磁弁装着穴の奥端の内径よりも大きくして容積の大きい液溜めを作ることができる。
【0028】
このほか、上記b)〜d)の形態の組み合わせと言える上記e)の形態は、液溜めの設計(設置点の選定や大きさの選択)に自由度が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明のブレーキ液圧制御装置の調圧ユニットのハウジングの内部の一例を示す斜視図
【図2】図1ハウジングの内部の側面図
【図3】この発明を特徴づける液溜めの一形態を示す断面図
【図4】この発明を特徴づける液溜めの他の形態を示す断面図
【図5】この発明を特徴づける液溜めのさらに他の形態を示す断面図
【図6】この発明を特徴づける液溜めのさらに他の形態を示す断面図
【図7】昇圧試験結果の概要を示す図表
【図8】この発明を適用するブレーキ装置の一例の概要を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面の図1〜図7に基づいて、この発明のブレーキ液圧制御装置の実施の形態を説明する。図1〜図3に、第1の形態の要部を示す。図1及び図2は、調圧ユニットのハウジング10を示している。
【0031】
図示のハウジング10は、図8の回路構成を基本にしたブレーキ装置用であって、内部に、制御電磁弁装着穴11と、増圧電磁弁装着穴12と、減圧電磁弁装着穴13と、リザーバ穴14と、ポンプ組み付け穴15と、カム室16と、ダンパ構成穴17と、圧力センサ装着穴18と、図8で説明した主流路Aの一部と、減圧路B、還流路C及び吸入路Dをそれぞれ構成する流路孔19と、内部回路をマスタシリンダとホイールシリンダにつなぐ接続ポート20と、モータへの給電線を通す端子挿入孔21が設けられている。
【0032】
制御電磁弁装着穴11には、図8の制御電磁弁1を構成する部品が組み付けられる。また、増圧電磁弁装着穴12には、図8の増圧電磁弁2を構成する部品が、減圧電磁弁装着穴13には、図8の減圧電磁弁3を構成する部品がそれぞれ組み付けられ、リザーバ穴14には、図8の調圧リザーバ4を構成する部品(ピストンとそれを付勢するスプリング)が挿入される。
【0033】
また、対向配置のポンプ組み付け穴15にはプランジャポンプ(の構成部品)が組み付けられ、カム室16には、プランジャポンプのプランジャを押し動かす偏心カムが配置される。
【0034】
各電磁弁装着穴11〜13は、ハウジング10の電磁弁装着面f1に開口している。また、その電磁弁装着面f1とは反対側の面f2(図のそれはモータ取付面)にモータ(図8の6)が固定され、そのモータによってカム室16内の偏心カムが回転駆動される。プランジャポンプのプランジャにはスプリングで復帰力を加えており、偏心カムによる押し込みとスプリング力による復帰が繰り返されてポンプによるブレーキ液の汲み上げがなされる。
【0035】
ダンパ構成穴17は、ポンプの吐出経路(図8の還流路C)に必要に応じてダンパ8を組み込むときに用いられる。そのダンパを設ける装置には、このダンパ構成穴17が設置される。
【0036】
圧力センサ装着穴18には、マスタシリンダの出力圧を検知する圧力センサが組み込まれる。なお、図8の吸入路Dに電磁開閉弁を設置する装置は、図8のカット弁7を必要としない。従って、その装置には、カット弁7が組み付けられる穴(図1、図2のリザーバ穴14の奥端に形成される穴)14aが設置されないが、ここでの説明は、その穴14aとともにリザーバ穴14があり、そのリザーバ穴14が下(地の側)になる姿勢にして液圧制御装置が使用されるケースを例に挙げて以下の説明を行なう。
【0037】
図1、図2の減圧電磁弁装着穴13の好ましい形態の詳細を図3に示す。その減圧電磁弁装着穴13は、通常は、奥端が一点鎖線で示した位置近くにあるように構成される。その減圧電磁弁装着穴13の奥端に延長部Eを形成してその延長部Eで液溜め22を構成している。
この図3におけるXとYの長さ関係は、Y/X>3の関係を満たすのが望ましい(ここに、X:減圧電磁弁装着穴13のうち減圧電磁弁3の先端が圧入され、又は弁の上流側と下流側との間をシールしつつ挿入される部分の軸方向長さ、Y:減圧電磁弁装着穴13のうち長さXに対応する部分と同径の部分の軸方向長さ)。
【0038】
その液溜め22は、減圧路とポンプ吸入口の双方に連通しており、当該液溜め22内のブレーキ液がポンプ吸入口(これは例えばポンプ組み付け穴15の天面に設けられる)に向けて重力で流れる位置にある。図示のケースでは、その液溜め22の全体がポンプ吸入口よりも上方に置かれているが、液溜め22の一部がポンプ吸入口よりも上方に置かれている構造でも、液溜め内のブレーキ液に対して重力による移動力が働いて発明の目的が達成される。
【0039】
なお、本実施形態のように、カット弁7を設ける態様においては、液溜め22を有する経路がカット弁7を迂回する経路とならないようにするために、液溜め22は、カット弁7を介してマスタシリンダMCとポンプ5の吸入口とを連通させる液圧路(例えば吸入路D)におけるカット弁7よりもマスタシリンダMC側部分と、カット弁7よりもポンプ5の吸入口側部分のどちらか一方(図8に示した2箇所の連通路のどちらか一方)に連通させる。自動ブレーキが実行されるときには、カット弁7は開弁している(ドライバーによるブレーキ操作がなされてマスタシリンダMCに液圧が発生したときに閉弁する)ので、上記2箇所のどちらに連通させても構わない。
【0040】
図4は、減圧電磁弁装着穴13の好ましい形態の他の例を示している。この図4の形態は、図3の形態と同様に、減圧電磁弁装着穴13の奥端に延長部を形成してその延長部で液溜め22を構成したが、減圧電磁弁装着穴13の奥端の延長部Eは、リセス加工した穴にしており、その内径が、減圧電磁弁装着穴13の延長部Eよりも入口側領域の奥端の内径(減圧電磁弁3を構成する部品の最奥端が嵌合した部分の内径)よりも大きくなっている。これにより、図3の形態よりも容積の大きな液溜め22をハウジング10内のデッドスペースを活用して作り出すことができる。
【0041】
図5、図6は、減圧電磁弁装着穴13の好ましい形態の他の例を示している。この図5の形態は、ハウジング10の内蔵機器組み付け箇所を避けた位置に追加穴Hを設け、その追加穴Hをポンプ吸入口に連通させてその追加穴Hで液溜め22を構成している。
【0042】
追加穴Hは、垂直軸に対して交差する向きの穴にしている。その追加穴の向きは、減圧電磁弁装着穴13と平行な方向、直交する方向を問わない。この形態は、ハウジング10の内部の電磁弁装着穴の形成部から外れた位置のデッドスペースを有効に活用して目的の液溜めを作ることができる。
【0043】
ここでの追加穴Hは、ハウジング10の電磁弁装着面とは反対側の面f2から加工してその穴の開放端を栓23で塞ぐ方法で形成している。この構造であれば、リセス加工を行わずに減圧電磁弁装着穴13の奥端の内径よりも大きな追加穴を加工して容積の大きい液溜めを作ることができる。
【0044】
図6の形態も、ハウジング10の内蔵機器組み付け箇所を避けた位置に追加穴Hを設け、その追加穴Hをポンプ吸入口に連通させてその追加穴Hで液溜め22を構成している。ここでの追加穴Hは、減圧電磁弁装着穴13の奥端に形成した延長部Eと、その延長部にクロスさせて設けたクロス穴CHとからなる複合穴にしている。クロス穴CHを形成可能なスペースがハウジング10の内部に存在すれば、このような追加穴を加工して液溜め22を構成することもできる。
【0045】
追加穴を利用する形態は、減圧電磁弁装着穴に形成する延長部の長さが規制されて延長部のみでは十分な容積の液溜めを作れないときに、ハウジング10の内部の電磁弁装着穴の形成部から外れた位置のデッドスペースを有効に活用して延長部とは別箇所に補助液溜めを構成することができ、その補助液溜めの設置によって延長部で構成される液溜めの容積不足を補うことができる。
【0046】
なお、上述した液溜めは、例示の異形態の液溜めを2種類或いはそれ以上複数組み合わせて構成してもよく、その組み合わせにより液溜めの設計に自由度が生じる。
【0047】
この発明のブレーキ液圧制御装置の試作品(図4の液溜め22を設けたもの)について、性能評価試験を行った。その試作装置と、本発明を特徴づける液溜めが設けられていないブレーキ液圧制御装置(従来品)を用いて環境温度−20℃の条件で自動ブレーキを実行させたところ、従来品は、図7に点線で示すように、ホイールシリンダの液圧がほぼ一定の速度で緩やかに立ち上がった。
【0048】
これに対し、発明品は、ホイールシリンダの液圧が実線で示すように液圧Px(MPa)まで急速に立ち上がり(この間のブレーキ液供給は液溜めからなされている)、目標圧力Pa(MPa)まで到達するときは、従来品はT(ms)であったのに対して、発明品はT(ms)と早く到達できている。このように、ポンプ吸入口に対してブレーキ液が重力で流れる液溜めをポンプが組み込まれたハウジングの内部に設けることの有効性が確認された。
【符号の説明】
【0049】
1 制御電磁弁
2 増圧電磁弁
3 減圧電磁弁
4 調圧リザーバ
5 ポンプ
6 モータ
7 カット弁
8 ダンパ
9 圧力センサ
10 調圧ユニットのハウジング
11 制御電磁弁装着穴
12 増圧電磁弁装着穴
13 減圧電磁弁装着穴
14 リザーバ穴
15 ポンプ組み付け穴
16 カム室
17 ダンパ構成穴
18 圧力センサ装着穴
19 流路孔
20 接続ポート
21 端子挿入孔
22 液溜め
23 栓
f1 電磁弁装着面
f2 電磁弁装着面とは反対側の面
E 減圧電磁弁装着穴の奥端の延長部
H ハウジングの内部に設けた追加穴
CH クロス穴
A 主流路
B 減圧路
C 還流路
D 吸入路
MC マスタシリンダ
MR 主リザーバ(大気圧状態でブレーキ液を貯留するリザーバ)
WC ホイールシリンダ
BP ブレーキペダル
ECU 電子制御装置
cp 合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(MC)からホイールシリンダ(WC)に至る主流路(A)に設けられてその主流路を開閉する増圧電磁弁(2)と、
この増圧電磁弁(2)よりもマスタシリンダ側で前記主流路(A)に設けられる流路遮断機能を備えた制御電磁弁(1)と、
前記ホイールシリンダ(WC)につながる減圧路(B)に設けられる減圧電磁弁(3)と、
吸入口が、主リザーバ(MR)に通じた吸入路(D)に接続され、さらに前記減圧電磁弁(3)経由で前記ホイールシリンダ(WC)に接続されたモータ駆動のポンプ(5)と、
制御電磁弁(1)、前記増圧電磁弁(2)、減圧電磁弁(3)及びポンプ(5)の動作を制御する電子制御装置(ECU)を有し、
制御電磁弁(1)と、前記増圧電磁弁(2)と、減圧電磁弁(3)と、ポンプ(5)が単一のハウジング(10)に組み込まれ、
前記電子制御装置(ECU)からの指令に基づいて前記ポンプ(5)が前記主リザーバ(MR)から供給されるブレーキ液、または、前記ホイールシリンダ(WC)から排出されるブレーキ液を汲み上げて前記主流路(A)の前記制御電磁弁(1)から前記増圧電磁弁(2)に至る領域に還流させるブレーキ液圧制御装置において、
前記減圧路(B)と前記ポンプ(5)の吸入口の双方に連通した液溜め(22)を前記ハウジング(10)の内部に設け、その液溜め(22)を、当該液溜め(22)内のブレーキ液が前記ポンプ(5)の吸入口に向けて重力で流れる位置に配置したことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記ハウジング(10)に設けられた減圧電磁弁装着穴(13)の奥端に延長部(E)を形成し、その延長部で前記液溜め(22)を構成した請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記減圧電磁弁装着穴(13)の奥端の延長部(E)の内径を、当該減圧電磁弁装着穴(13)の前記延長部(E)よりも入口側領域の奥端の内径よりも大きくした請求項2に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記ハウジング(10)の内蔵機器組み付け箇所を避けた位置に、垂直軸に対して交差する向きに配向される追加穴(H)を設け、その追加穴を前記ポンプ(5)の吸入口に連通させてその追加穴(H)で前記液溜め(22)を構成した請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記ハウジング(10)に、電磁弁装着面(f1)とは反対側の面(f2)から穴を加工し、その穴の解放口を栓(23)で閉じて当該穴を前記追加穴(H)とし、その追加穴(H)を前記減圧電磁弁装着穴(13)の奥端に連通させてこの穴で前記液溜め(22)を構成した請求項4に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
前記液溜め(22)を、下記i)〜iii)の中の任意の2つ、又は3つを組み合わせて構成した請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。
i)前記減圧電磁弁装着穴(13)の奥端側の延長部(E)の内径を、前記延長部を除いた領域の奥端の内径よりも大きくして作り出した液溜め。
ii)前記ハウジング(10)の内蔵機器組み付け箇所を避けた位置に、垂直軸に対して交差する向きに配向される追加穴(H)を設け、その追加穴(H)を前記ポンプ(5)の吸入口に連通させてその追加穴(H)で構成した液溜め。
iii)前記ハウジング(10)に、前記電磁弁装着面(f1)とは反対側の面から追加穴(H)を加工し、その追加穴(H)の解放口を栓(23)で閉じ、この追加穴(H)を前記減圧電磁弁装着穴(13)の奥端に連通させてこの穴で構成した液溜め。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−6534(P2013−6534A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140955(P2011−140955)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】