ブレーキ用グリース組成物
【課題】ブレーキ装置の摩擦部位に用いるブレーキ用グリースを改良する。
【課題手段】鉱油および/または合成油から選ばれる基油に、第三リン酸カルシウムを含有させて、ブレーキ装置の摩擦部位に用いられるグリースとする。
また、上記第三リン酸カルシウムとベントナイトを組合わせて用いるようにする。
このブレーキ用グリース組成物として、好ましくは、バウデン式摩擦試験における150℃・100時間加熱後の摩擦係数が0.140〜0.170であり、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%であり、また、高温薄膜蒸発試験における150℃・100時間加熱後の蒸発量が25%質量以下であるようにする。このブレーキ用グリース組成物は、耐熱性、耐摩耗性、長寿命性に優れている。
【課題手段】鉱油および/または合成油から選ばれる基油に、第三リン酸カルシウムを含有させて、ブレーキ装置の摩擦部位に用いられるグリースとする。
また、上記第三リン酸カルシウムとベントナイトを組合わせて用いるようにする。
このブレーキ用グリース組成物として、好ましくは、バウデン式摩擦試験における150℃・100時間加熱後の摩擦係数が0.140〜0.170であり、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%であり、また、高温薄膜蒸発試験における150℃・100時間加熱後の蒸発量が25%質量以下であるようにする。このブレーキ用グリース組成物は、耐熱性、耐摩耗性、長寿命性に優れている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などのブレーキ(制動装置)に使用されるブレーキ用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの車輪を有するものでは、ブレーキとしてディスクブレーキやドラムブレーキなどの機械的ブレーキが一般的に使用されている。
これらのブレーキは、車軸または車輪内に回転盤または円筒型ドラムを取付け、これらに摩擦抵抗を与えることで制動作用を得るものである。ドラムブレーキは制動力が強く、軽くて、経済的に製造できるのに対して、ディスクブレーキは制動力が安定しているといった長所がある。
【0003】
近年、車両の高性能化や高速化に伴い、ブレーキ装置もより高いレベルで、安定した作動性と耐久性に優れた制動機能が求められている。従来、ブレーキの性能を確保する為に、ブレーキ装置において潤滑すべき箇所に応じて、それぞれに適したグリースが使用されており、その使用される箇所により大別すると2種類に分類される。
すなわち、ゴム部品やブレーキ液と接触する箇所にはブレーキラバーグリースが、ブレーキ液や直接ゴムと接触しない箇所でより高温となる箇所にはブレーキグリースが使用されている。
【0004】
上記ゴム部品やブレーキ液と接触する箇所は、例えば、ブレーキピストンシール部、ブレーキマスターシリンダープライマリーカップ部、ディスクブレーキオペレーティングレバー部などがある。
また、ブレーキ液や直接ゴムと接触しない箇所は、たとえばドラムブレーキアンカー部およびオペレーティングレバー部やウェッジブレーキエキスパンダー、ディスクブレーキピン摺動部などがある。
【0005】
ブレーキラバーグリースとしては、例えばリチウム石けんと植物油、リチウム石けんとポリアルキレングリコール系合成油、リチウム石けんとシリコーン系合成油などで構成されたグリースがある。
また、ブレーキグリースとしては、例えばリチウム石けんと鉱物油、ベントナイトと鉱物油、シリコンコンパウンド、ウレアと鉱物油などで構成されたグリースがある。
【0006】
しかしながら、ブレーキ用のグリースの使用箇所の選択を誤って使用した場合には、例えば、ブレーキグリースをブレーキラバーグリースの代わりに用いるとSBR(スチレン・ブタジエンゴム)やEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)等のゴムの劣化が大きくなるという問題を生じ、逆に、ブレーキラバーグリースをブレーキグレースに用いると潤滑性や耐熱性で問題となることがある。
こうしたことから、安全性の向上と保守の容易化を求めて、1種のグリースでブレーキの全ての箇所に使用できるグリースの開発が行なわれてきた。
【0007】
従来のブレーキ用グリースとしては、例えば、基油にポリオキシプロピレングリコールモノエーテルを用い、増ちょう剤としてシクロヘキシル基またはその誘導体基を含有するジウレア化合物を用いたもの(特許文献1)、基油にポリオキシプロピレングリコールモノエーテルとネオペンチルポリオールエステルを配合し、増ちょう剤として、ナトリウム金属塩などの金属テレフタラメート化合物を用いたもの(特許文献2)がある。
【0008】
また、シリコーン系オイルと、アミンで処理されたベントナイト、ポリテトラフルオロエチレン、アリル尿素及び化学処理されたシリカからなる群から選ばれた増ちょう剤を使用するもの(特許文献3)、基油にホルムアルデヒドジ(ポリプロピレンエーテル)アセタールを用いたウレア系グリース(特許文献4)などが知られている。
【0009】
こうしたグリースにおいて、ポリオキシプロピレングリコールモノエーテルなどのエーテル系やポリエチレングリコール系の基油や、シリコーンオイル系の基油を使用したものでは、SBRやEPDM等のゴムとの適合性において好ましい性能が得られることが既知であるが、その一方でシリコーン系オイルでは、金属との摺動面における摩擦や摩耗が多くなる事が知られている。
また、増ちょう剤としてウレア化合物を用いた場合、ブレーキの発する熱を長時間に亘って受けた場合は、ウレア化合物特有の熱硬化現象がグリース全体の潤滑性を損ない、安定なブレーキの作動性を阻害することが考えられ、また、金属テレフタラメートを用いた場合には、この化合物の特質としてグリースにした場合の油分離が多くなる事が考えられることから、同じくブレーキの発する熱を長時間に亘って受けた場合には、増ちょう剤の網目構造が弱くなり、多量に油分を放出する可能性がある。そして、シリカ等の増ちょう剤も潤滑性の点でやや難点があることは良く知られている。
このように、ブレーキ用グリースとして充分な性能を得ることは難しく、未だ満足の行くものが少ないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭52−156274号公報
【特許文献2】特開昭60−210697号公報
【特許文献3】特開平02−215895号公報
【特許文献4】特開平08−176580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
グリースは潤滑基油に増ちょう剤を配合した半固体状の潤滑剤であり、必要に応じて各種添加剤が添加されている。上記したように、ブレーキ用グリースには、制動から発生する摩擦熱のため耐熱性が求められるが、こうした耐熱性を持たせるため、増ちょう剤としてウレア化合物、ベントナイトやナトリウムテレフタラメート等の耐熱増ちょう剤が検討され、また使用されている。更に、基油としては高度精製鉱油やより耐熱性を考慮して合成油が使用されたり、また、ゴムとの接触を考慮してシリコーン系オイルやポリオキシプロピレングリコールモノエーテルなども提案され使用されてきた。
【0012】
従来、上記したようなブレーキ用のグリースによって一定の効果を得ることができたが、耐熱性や長寿命の観点からは、必ずしも十分な性能を有しているとは言えず、更に優れたブレーキ用グリースが求められている。
特にドラムブレーキのウェッジブレーキエキスパンダーには鉱油にクレイ系の増ちょう剤を使用した耐熱グリースが使用されているが、メンテナンスの効率化や更なる作動信頼性の向上等の観点から摩擦特性や潤滑寿命が改善されたグリースが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ブレーキ用グリースとして要求される耐熱性を高温薄膜試験により評価し、また、熱劣化による摩擦特性の変化についてバウデン試験により鋭意検討を行なった結果、従来ブレーキ用グリースに使用されていなかった第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として使用することと、更に、第三リン酸カルシウムにベントナイトを組合わせて増ちょう剤として使用することにより、上記の如き課題を解決することに有効であることを見出したものである。
本発明は、上記の如き発見に基づいて完成されたもので、鉱油および/または合成油から選ばれる基油に、第三リン酸カルシウムを含有させてブレーキ装置の摩擦部位に用いられるグリースとする。
また、上記第三リン酸カルシウムとベントナイトを組合わせて用いるようにする。
このグリースとして、バウデン式摩擦試験における150℃・100時間加熱後の摩擦係数が0.140〜0.170、好ましくは0.150〜0.160であり、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%、好ましくは−3.5〜+2.5%であり、また、高温薄膜蒸発試験における150℃・100時間加熱後の蒸発量が25質量%以下、好ましくは20質量%以下であるようにして、ブレーキ用グリース組成物としたものである。
【発明の効果】
【0014】
鉱油および/または合成油に第三リン酸カルシウムを配合し、または、第三リン酸カルシウムとベントナイトを組み合わせて配合したものは、耐熱性や摩擦特性において優れており、また、グリースの長寿命化を果たすことができる。
また、基油としてポリアルキレングリコールモノエーテル、シリコーン油を使用したものにおいても上記第三リン酸カルシウムは有効であり、こうして得られるグリースは、ブレーキ部品として多く使用されているSBR(スチレン・ブタジエンゴム)やEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)その他のゴム類に対する影響も少なくて耐ゴム性も良好で、ブレーキラバーグリースとして有効であると共に、ブレーキグリースとしても有効であり、両者に共用できるブレーキ用のグリースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のブレーキ用グリース組成物に用いられる基油には、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油、これらの混合油を適宜使用することができる。こうした基油の動粘度は、40℃において約20〜200mm2/s程度のものが好ましく、約40〜150mm2/s程度のものがより好ましい。
上記基油として、特に、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4やグループ5に属するものを、単独でまたは混合物として使用することができる。
【0016】
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、水素化処理精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全イオウ分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明において好適に用いることができる。
【0017】
グループ3基油およびグループ2プラス基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製、高度水素化分解により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。
また、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)もグループ3基油であり、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適に用いることができる。
【0018】
グループ4基油としては、ポリアルファーオレフィン(PAO)と呼ばれているものが使用可能であり、例えば、炭素数6〜18の直鎖状のα-オレフィンを数分子だけ限定的に重合させ、次に水素化処理して得られるものがあり、その中でα-デセンあるはα-ドデセンを重合したものが好ましい。
こうしたPAOは不飽和結合を含まず、耐熱性や酸化安定性に優れており、本発明の基油として好適なものの一つである。
【0019】
グループ5基油にはグループ1〜4に属しないエステル系、エーテル系、シリコーン系やフッ素系の合成油や、植物油等があるが、本発明において特に好ましいものとしては、ブレーキ装置に使用されているCR(クロロプレンゴム)、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)や、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)などのゴム材料との適合性と耐熱性の観点から、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、その中でも、ポリオキシプロピレングリコールモノエーテルがある。
また、グループ5基油であるナフテン系鉱油は、ゴムとの接触が無い部分のブレーキグリースに使用することができる。
【0020】
上記基油には、第三リン酸カルシウムが配合される。この第三リン酸カルシウムを配合することによって、基油のちょう度を上昇させることができるものであり、一般的には〔Ca3(PO4)2〕3・Ca(OH)2で表わされるヒドロキシアパタイト組成の化学構造を有しているものであるが、Ca3(PO4)2で表されるものを使用することもできる。
本発明において下記する実施例などにおいては、〔Ca3(PO4)2〕3・Ca(OH)2を用いており、含有量もこれに基づく質量で表示している。
【0021】
上記第三リン酸カルシウムは、平均粒径100μm以下のものであれば問題なく使用することができるが、平均粒径5μm以下のものがグリースのちょう度収率を高めるために好ましい。
この第三リン酸カルシウムは、ブレーキ用グリース組成物の全組成物に対して約0.1〜50質量%、好ましくは約2〜30質量%を配合すると良い。
【0022】
本発明のブレーキ用グリース組成物を製造する場合、常法により、上記基油に第三リン酸カルシウムを加え、適宜に加熱しながら攪拌し、その後に三本ロールやホモジナイザーにて均質化処理をすることによって、所望のブレーキ用グリース組成物を得ることができる。
【0023】
このブレーキ用グリース組成物は、高温薄膜加熱試験において150℃・100時間加熱後の蒸発量が25質量%以下、好ましくは20質量%以下となっており、また、高温離油度における150℃・24時間加熱後の離油度が6.0質量%以下になっている。更に、バウデン式摩擦試験において、150℃・100時間加熱後の摩擦係数が0.140〜0.170、好ましくは0.150〜0.160を示しており、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%、好ましくは−3.5〜+2.5%の範囲内にあるものがよい。
【0024】
上記の高温薄膜加熱試験は次の要領にて行う。
(1)高温薄膜加熱試験の内容
縦60mm、横80mmで、表面粗度(Rz)が100μであるJIS冷間圧延鋼板上に、試料グリースを縦50mm、横70mm、厚さ0.5mmに均一に塗布し、これを秤量してから、150℃・100時間の条件にて加熱試験を行う。試験後に再び秤量して、蒸発量の割合を求める。
また、加熱前の試料グリースの状態と、加熱後の試料グリースの状態を目視及び触手により観察する。
上記蒸発量の少ないもの程、高温においてもグリース状態が安定で、熱分解等の化学変化が少ないものである。
【0025】
上記バウデン式摩擦試験は、以下の要領で行う。
(1)試料の調製
試料は、上記高温薄膜加熱試験の加熱前の試料、及び高温薄膜加熱試験(150℃・100時間)の加熱後の試料を用いる。
(2)試験条件
上記加熱前の試料と、加熱後の試料について、下記のピンと鋼板の間に試料を塗布し、ピンに荷重を掛けた状態にて鋼板を往復動する事により、摺動面にて生ずる摩擦係数を求める。
ピンの材質:SUJ-2
ピンの形状:外径5.0mm、長さ24mmの棒状で、ピンの先端は半径2.5mm
の半球状となっている。
鋼板材質:S45C
鋼板:長さ110mm×幅40mm
上記ピンの鋼板に対する面圧を1,060MPaとし、すべり速度を5mm/secで摺動させて摩擦係数を求める。
(3)加熱試験後の試料の摩擦係数と、加熱前の試料の摩擦係数の差(%)を次の式によって求める。
摩擦係数の差(%)={(加熱試験後−加熱試験前)/加熱試験前}×100
加熱後の試料の摩擦係数が小さいと共に、加熱前の試料の摩擦係数との差が少ないものが、高温の熱履歴を受けた場合においても安定した摩擦特性を保持することができる。
【0026】
このブレーキ用グリース組成物には、更にベントナイトを配合することができる。このベントナイトはグリースの増ちょう剤として作用するものである。こうしたベントナイトとして有効なものは有機処理したものであって、例えば、Elementis社がベントンの商標で販売している製品がある。好ましいベントン製品としてベントン34がある。
【0027】
本発明のブレーキ用グリース組成物には、更に、その用途に応じて防錆剤、防食剤、酸化防止剤、極圧剤、固体潤滑剤、分散剤、界面活性剤、付着性向上剤(ポリマーなど)、油性剤、摩擦低減剤、従来の耐摩耗剤その他の添加剤を適宜に併用することができる。
【0028】
上記防錆剤、防食剤としては潤滑油組成物に一般的に使用されるものが挙げられる。例えば、有機酸誘導体を用いることができ、中でも特に、コハク酸エステル誘導体、アスパラギン酸誘導体、ザルコシン酸誘導体、フェノキシ酢酸誘導体(4-ノニルフェノキシ酢酸等)が好ましいものとして挙げられる。
また、有機アミン誘導体や有機アミド誘導体があり、中でも、ジエタノールアミン、モノアルキル一級アミン、ジアミン・ジ脂肪酸塩、ジアミン、イソステアリン酸のアミド、オレイン酸のアミド等が好ましいものとして挙げられる。
【0029】
その他のものとして、スルフォン酸塩(Caスルフォネート、Naスルフォネート、Baスルフォネート等)、硫化脂肪酸(硫化オレイン酸等)、界面活性剤(ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノラウレート、ステアリン酸・オレイン酸のモノ・ジグリセライド等)なども好ましいものとして挙げられる。
他にも、ナフテン酸塩(ナフテン酸カリウム等)、二塩基酸のアルカリ金属塩(セバシン酸ナトリウム等)、二塩基酸のアルカリ土類金属塩若しくはベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、チオカーバメートから選ばれるものも良く、好ましいものとして、セバシン酸ナトリウム及びベンゾトリアゾール、或いはそれらを併用したものも挙げられる。
【0030】
上記酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系、ホスファイト系、硫黄系、ジアルキルジチオリン酸塩等の酸化防止剤を使用することができる。特に、高温で酸化安定性に優れるフェノール系、アミン系が好ましいことが多い。
極圧剤、耐摩耗剤および摩擦低減剤としては、硫化油脂,硫化オレフィン,ジチオカルバミン酸亜鉛やジチオカルバミン酸モリブデン等のジチオカルバミン酸塩等の硫黄化合物や、リン酸エステル,酸性リン酸エステル,亜リン酸エステル,酸性亜リン酸エステル,リン酸エステルのアミン塩,亜リン酸エステルのアミン塩,酸性リン酸エステルのアミン塩,酸性亜リン酸エステルのアミン塩等のリン化合物や、チオリン酸エステル,ジチオリン酸亜鉛,ジチオリン酸モリブデン等のジチオリン酸塩等の硫黄リン化合物、モリブデンアミン化合物その他のモリブデン化合物等々の使用が可能である。
【0031】
固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイト、メラミンシアヌレート、窒化ホウ素、雲母、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などがあげられる。
上記した各種の添加剤は、市販の液状潤滑油または半固体状潤滑剤中に予め添加されている状態のものを使用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
実施例及び比較例の調製にあたり、下記の組成材料を用意した。
(1)基油A: パラフィン系鉱油で、40℃の動粘度が99.8mm2/sで粘度指数が97のもの。
(2)基油B: 40℃の動粘度が31.2mm2/sのポリα−オレフィン油50%
と40℃の動粘度が434.0mm2/sのポリα−オレフィン油50%を混合した基油で、40℃の動粘度が118.8mm2/sであるもの。
(3)基油C: 40℃の動粘度が47.9mm2/s、粘度指数が144、%CAがほぼ0であり、%CNが15.5、%CPが84.5の高度精製油であるGTL。
(4)基油D: 40℃の動粘度が118.2mm2/sのポリオキシプロピレングリコールモノエーテル。
【0033】
(5)増ちょう剤A: 工業用市販品の第三リン酸カルシウム:〔Ca3(PO4)2〕3・Ca(OH)2、平均粒径は約5μm。
(6)増ちょう剤B: 工業用市販品の有機ベントナイト(ベントン34)、平均粒径15μm。
(7)増ちょう剤C: オクチルアミン(C8H17NH2)2モルとMDI(4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート)1モルとを反応させたジウレア化合物。
(8)増ちょう剤D: 工業用市販品のリチウム-12-ヒドロキシステアレート。
【0034】
(実施例1〜15)
表1〜表2に示す配合割合で組成材料をグリース専用の製造釜にて適宜に加熱しながら充分に混合し、三本ロールミルで処理し、均一状態に仕上げて実施例1〜15のブレーキ用グリース組成物を得た。
尚、実施例1〜15のグリース組成物にはそれぞれ、酸化防止剤として、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン(Vanderbilt Co.;商品名Vanlube81)を外枠で1.0質量%添加した。
【0035】
(比較例1〜7)
比較例1は表3に示す組成と配合割合にて、基油A中に増ちょう剤Cを加えて反応させたものであるが、具体的には、グリース専用の製造釜内に基油とMDI(4,4’-−ジフェニルメタンジイソシアネート)1モルを張込み加熱攪拌しながら60℃まで昇温させ、あらかじめ基油に混合溶解させたオクチルアミン2モルを張り込み激しく反応させ、更に180℃まで昇温後、一定の速度にて冷却し、三本ロール処理にて得たウレアグリースである。
比較例2は、表3に示す組成と配合割合にて、基油Aと増ちょう剤Dのリチウム-12-ヒドロキシステアレートをグリース専用の製造釜内に張込み215℃まで加熱して内容物を溶解させる。その後、一定の速度にて冷却し石けん繊維を成長させた後、三本ロール処理によって得たリチウム石けんグリースである。
比較例3は、表3に記載の組成と配合割合にて、基油Aと増ちょう剤Bの有機ベントナイトおよびゲル化を促進させるべく有機溶媒をグリース専用の製造釜内に張込み、加熱攪拌しながら徐々に150℃まで昇温させ、十分に有機溶媒を気化させると共に均質に分散膨潤させる、その後、一定の速度にて冷却し、三本ロール処理にて得たベントナイトグリースである。
尚、比較例1〜3のブレーキ用グリース組成物にもそれぞれ、酸化防止剤として、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン(Vanderbilt Co.;商品名Vanlube81)を外枠で1.0質量%添加した。
【0036】
比較例4は、鉱油を使用した極圧リチウムグリースの市販品である。
比較例5は、鉱油を使用した有機ベントナイトグリースの市販品である。
比較例6は、鉱油を使用した汎用ウレアグリースの市販品である。
比較例7は、合成油を使用した極圧ウレアグリースの市販品である。
【0037】
(試験)
実施例1〜15及び比較例1〜7について、その特性を比較するために下記の試験を行った。
(1)ちょう度:JIS K2220(ASTM D1403)に規定するグリースの性状のちょう度について、混和ちょう度(25℃、60W)を測定した。
このちょう度は、数値の小さいものが、グリースの硬さが硬いことを示している。
(2)滴点:JIS K2220(ASTM D1403)に規定するグリースの性状の滴点(℃)を測定した。
この滴点は、数値の高いものの方が熱的に安定であることを示している。
(3)高温離油度試験:JIS K2220(ASTM D1403)に規定するグリースの性状の離油度試験方法に準じて、試料を金網円すいろ過器に測りとり、150℃で24時間、恒温空気浴内に保持した後、試料から分離した油の質量を測定し、離油度(質量%)を求めた。
(4)高温薄膜加熱試験:上記したとおりである。
(5)バウデン式摩擦試験:上記したとおりである。
【0038】
(試験結果)
各試験の結果を、表1、表2及び表3に記載した。
【0039】
(考察)
ちょう度は、実施例1〜実施例15において実施例6の325を除き242〜282であり、比較例1〜比較例7に示すものは267〜288であり、ほぼ同程度のグリースの硬さを示している。
滴点は、実施例1〜実施例15において何れも260℃以上で良好であり、また、比較例1は258℃、比較例3、5、6、7は260℃以上で良好であるが、比較例2が183℃、比較例4が181℃と低くなっている。
高温離油度は、実施例1〜15において1.2〜5.4質量%の範囲で小さいが、比較例1、3、5、6、7では1.2〜4.9質量%と小さいものの、比較例2では15.9質量%、比較例4では30.9質量%と高温における離油度が大きく、グリースの構造安定性が低い。
高温薄膜蒸発試験における蒸発量及びグリースの状態について、実施例1〜15においては、蒸発量が13.5〜18.2質量%で少なく、グリースの状態も良好であった。一方、比較例1では蒸発量が38.8質量%でグリース状態も硬化しており、比較例2では蒸発量が74.9質量%と多くグリース状態もタール状になっており、比較例3では蒸発量が43.7質量%でグリース状態も鱗片状に変化しており、比較例4では蒸発量が81.2質量%でタール状となっており、比較例5では蒸発量が39.8質量%で鱗片状に変化しており、比較例6では蒸発量が21.1質量%と低いがグリース状態は硬化しており、比較例7では蒸発量が24.6質量%であるがグリース状態が粘ちょう状であり、比較例のものは何れも好ましくないことが判る。
バウデン試験において、実施例1〜実施例15のものは、加熱前の摩擦係数が0.151〜0.159であり、加熱試験後の摩擦係数が0.152〜0.158であり、加熱前と加熱後の摩擦係数の差が−3.1〜2.0%の範囲にあって、加熱前及び加熱後の摩擦係数が低いと共に、前後の変化の割合も少なくて良好である。一方、比較例1〜6のものは、加熱前の摩擦係数が0.141〜0.166であり、加熱試験後の摩擦係数が0.178〜0.197であり、加熱前と加熱後の差が11.4〜33.1%に大きく上昇しており、比較例7では加熱前の摩擦係数が0.146であり、加熱試験後の摩擦係数が0.131で加熱前と加熱後の差が10.3%も大きく低下し、摩擦変化が大きく安定した摩擦状態を提供できないことから、いずれも好ましくないことが判る。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などのブレーキ(制動装置)に使用されるブレーキ用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの車輪を有するものでは、ブレーキとしてディスクブレーキやドラムブレーキなどの機械的ブレーキが一般的に使用されている。
これらのブレーキは、車軸または車輪内に回転盤または円筒型ドラムを取付け、これらに摩擦抵抗を与えることで制動作用を得るものである。ドラムブレーキは制動力が強く、軽くて、経済的に製造できるのに対して、ディスクブレーキは制動力が安定しているといった長所がある。
【0003】
近年、車両の高性能化や高速化に伴い、ブレーキ装置もより高いレベルで、安定した作動性と耐久性に優れた制動機能が求められている。従来、ブレーキの性能を確保する為に、ブレーキ装置において潤滑すべき箇所に応じて、それぞれに適したグリースが使用されており、その使用される箇所により大別すると2種類に分類される。
すなわち、ゴム部品やブレーキ液と接触する箇所にはブレーキラバーグリースが、ブレーキ液や直接ゴムと接触しない箇所でより高温となる箇所にはブレーキグリースが使用されている。
【0004】
上記ゴム部品やブレーキ液と接触する箇所は、例えば、ブレーキピストンシール部、ブレーキマスターシリンダープライマリーカップ部、ディスクブレーキオペレーティングレバー部などがある。
また、ブレーキ液や直接ゴムと接触しない箇所は、たとえばドラムブレーキアンカー部およびオペレーティングレバー部やウェッジブレーキエキスパンダー、ディスクブレーキピン摺動部などがある。
【0005】
ブレーキラバーグリースとしては、例えばリチウム石けんと植物油、リチウム石けんとポリアルキレングリコール系合成油、リチウム石けんとシリコーン系合成油などで構成されたグリースがある。
また、ブレーキグリースとしては、例えばリチウム石けんと鉱物油、ベントナイトと鉱物油、シリコンコンパウンド、ウレアと鉱物油などで構成されたグリースがある。
【0006】
しかしながら、ブレーキ用のグリースの使用箇所の選択を誤って使用した場合には、例えば、ブレーキグリースをブレーキラバーグリースの代わりに用いるとSBR(スチレン・ブタジエンゴム)やEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)等のゴムの劣化が大きくなるという問題を生じ、逆に、ブレーキラバーグリースをブレーキグレースに用いると潤滑性や耐熱性で問題となることがある。
こうしたことから、安全性の向上と保守の容易化を求めて、1種のグリースでブレーキの全ての箇所に使用できるグリースの開発が行なわれてきた。
【0007】
従来のブレーキ用グリースとしては、例えば、基油にポリオキシプロピレングリコールモノエーテルを用い、増ちょう剤としてシクロヘキシル基またはその誘導体基を含有するジウレア化合物を用いたもの(特許文献1)、基油にポリオキシプロピレングリコールモノエーテルとネオペンチルポリオールエステルを配合し、増ちょう剤として、ナトリウム金属塩などの金属テレフタラメート化合物を用いたもの(特許文献2)がある。
【0008】
また、シリコーン系オイルと、アミンで処理されたベントナイト、ポリテトラフルオロエチレン、アリル尿素及び化学処理されたシリカからなる群から選ばれた増ちょう剤を使用するもの(特許文献3)、基油にホルムアルデヒドジ(ポリプロピレンエーテル)アセタールを用いたウレア系グリース(特許文献4)などが知られている。
【0009】
こうしたグリースにおいて、ポリオキシプロピレングリコールモノエーテルなどのエーテル系やポリエチレングリコール系の基油や、シリコーンオイル系の基油を使用したものでは、SBRやEPDM等のゴムとの適合性において好ましい性能が得られることが既知であるが、その一方でシリコーン系オイルでは、金属との摺動面における摩擦や摩耗が多くなる事が知られている。
また、増ちょう剤としてウレア化合物を用いた場合、ブレーキの発する熱を長時間に亘って受けた場合は、ウレア化合物特有の熱硬化現象がグリース全体の潤滑性を損ない、安定なブレーキの作動性を阻害することが考えられ、また、金属テレフタラメートを用いた場合には、この化合物の特質としてグリースにした場合の油分離が多くなる事が考えられることから、同じくブレーキの発する熱を長時間に亘って受けた場合には、増ちょう剤の網目構造が弱くなり、多量に油分を放出する可能性がある。そして、シリカ等の増ちょう剤も潤滑性の点でやや難点があることは良く知られている。
このように、ブレーキ用グリースとして充分な性能を得ることは難しく、未だ満足の行くものが少ないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭52−156274号公報
【特許文献2】特開昭60−210697号公報
【特許文献3】特開平02−215895号公報
【特許文献4】特開平08−176580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
グリースは潤滑基油に増ちょう剤を配合した半固体状の潤滑剤であり、必要に応じて各種添加剤が添加されている。上記したように、ブレーキ用グリースには、制動から発生する摩擦熱のため耐熱性が求められるが、こうした耐熱性を持たせるため、増ちょう剤としてウレア化合物、ベントナイトやナトリウムテレフタラメート等の耐熱増ちょう剤が検討され、また使用されている。更に、基油としては高度精製鉱油やより耐熱性を考慮して合成油が使用されたり、また、ゴムとの接触を考慮してシリコーン系オイルやポリオキシプロピレングリコールモノエーテルなども提案され使用されてきた。
【0012】
従来、上記したようなブレーキ用のグリースによって一定の効果を得ることができたが、耐熱性や長寿命の観点からは、必ずしも十分な性能を有しているとは言えず、更に優れたブレーキ用グリースが求められている。
特にドラムブレーキのウェッジブレーキエキスパンダーには鉱油にクレイ系の増ちょう剤を使用した耐熱グリースが使用されているが、メンテナンスの効率化や更なる作動信頼性の向上等の観点から摩擦特性や潤滑寿命が改善されたグリースが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ブレーキ用グリースとして要求される耐熱性を高温薄膜試験により評価し、また、熱劣化による摩擦特性の変化についてバウデン試験により鋭意検討を行なった結果、従来ブレーキ用グリースに使用されていなかった第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として使用することと、更に、第三リン酸カルシウムにベントナイトを組合わせて増ちょう剤として使用することにより、上記の如き課題を解決することに有効であることを見出したものである。
本発明は、上記の如き発見に基づいて完成されたもので、鉱油および/または合成油から選ばれる基油に、第三リン酸カルシウムを含有させてブレーキ装置の摩擦部位に用いられるグリースとする。
また、上記第三リン酸カルシウムとベントナイトを組合わせて用いるようにする。
このグリースとして、バウデン式摩擦試験における150℃・100時間加熱後の摩擦係数が0.140〜0.170、好ましくは0.150〜0.160であり、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%、好ましくは−3.5〜+2.5%であり、また、高温薄膜蒸発試験における150℃・100時間加熱後の蒸発量が25質量%以下、好ましくは20質量%以下であるようにして、ブレーキ用グリース組成物としたものである。
【発明の効果】
【0014】
鉱油および/または合成油に第三リン酸カルシウムを配合し、または、第三リン酸カルシウムとベントナイトを組み合わせて配合したものは、耐熱性や摩擦特性において優れており、また、グリースの長寿命化を果たすことができる。
また、基油としてポリアルキレングリコールモノエーテル、シリコーン油を使用したものにおいても上記第三リン酸カルシウムは有効であり、こうして得られるグリースは、ブレーキ部品として多く使用されているSBR(スチレン・ブタジエンゴム)やEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)その他のゴム類に対する影響も少なくて耐ゴム性も良好で、ブレーキラバーグリースとして有効であると共に、ブレーキグリースとしても有効であり、両者に共用できるブレーキ用のグリースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のブレーキ用グリース組成物に用いられる基油には、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油、これらの混合油を適宜使用することができる。こうした基油の動粘度は、40℃において約20〜200mm2/s程度のものが好ましく、約40〜150mm2/s程度のものがより好ましい。
上記基油として、特に、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4やグループ5に属するものを、単独でまたは混合物として使用することができる。
【0016】
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、水素化処理精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全イオウ分が10ppm未満、アロマ分が5%以下であり、本発明において好適に用いることができる。
【0017】
グループ3基油およびグループ2プラス基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製、高度水素化分解により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。
また、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)もグループ3基油であり、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適に用いることができる。
【0018】
グループ4基油としては、ポリアルファーオレフィン(PAO)と呼ばれているものが使用可能であり、例えば、炭素数6〜18の直鎖状のα-オレフィンを数分子だけ限定的に重合させ、次に水素化処理して得られるものがあり、その中でα-デセンあるはα-ドデセンを重合したものが好ましい。
こうしたPAOは不飽和結合を含まず、耐熱性や酸化安定性に優れており、本発明の基油として好適なものの一つである。
【0019】
グループ5基油にはグループ1〜4に属しないエステル系、エーテル系、シリコーン系やフッ素系の合成油や、植物油等があるが、本発明において特に好ましいものとしては、ブレーキ装置に使用されているCR(クロロプレンゴム)、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)や、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)などのゴム材料との適合性と耐熱性の観点から、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、その中でも、ポリオキシプロピレングリコールモノエーテルがある。
また、グループ5基油であるナフテン系鉱油は、ゴムとの接触が無い部分のブレーキグリースに使用することができる。
【0020】
上記基油には、第三リン酸カルシウムが配合される。この第三リン酸カルシウムを配合することによって、基油のちょう度を上昇させることができるものであり、一般的には〔Ca3(PO4)2〕3・Ca(OH)2で表わされるヒドロキシアパタイト組成の化学構造を有しているものであるが、Ca3(PO4)2で表されるものを使用することもできる。
本発明において下記する実施例などにおいては、〔Ca3(PO4)2〕3・Ca(OH)2を用いており、含有量もこれに基づく質量で表示している。
【0021】
上記第三リン酸カルシウムは、平均粒径100μm以下のものであれば問題なく使用することができるが、平均粒径5μm以下のものがグリースのちょう度収率を高めるために好ましい。
この第三リン酸カルシウムは、ブレーキ用グリース組成物の全組成物に対して約0.1〜50質量%、好ましくは約2〜30質量%を配合すると良い。
【0022】
本発明のブレーキ用グリース組成物を製造する場合、常法により、上記基油に第三リン酸カルシウムを加え、適宜に加熱しながら攪拌し、その後に三本ロールやホモジナイザーにて均質化処理をすることによって、所望のブレーキ用グリース組成物を得ることができる。
【0023】
このブレーキ用グリース組成物は、高温薄膜加熱試験において150℃・100時間加熱後の蒸発量が25質量%以下、好ましくは20質量%以下となっており、また、高温離油度における150℃・24時間加熱後の離油度が6.0質量%以下になっている。更に、バウデン式摩擦試験において、150℃・100時間加熱後の摩擦係数が0.140〜0.170、好ましくは0.150〜0.160を示しており、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%、好ましくは−3.5〜+2.5%の範囲内にあるものがよい。
【0024】
上記の高温薄膜加熱試験は次の要領にて行う。
(1)高温薄膜加熱試験の内容
縦60mm、横80mmで、表面粗度(Rz)が100μであるJIS冷間圧延鋼板上に、試料グリースを縦50mm、横70mm、厚さ0.5mmに均一に塗布し、これを秤量してから、150℃・100時間の条件にて加熱試験を行う。試験後に再び秤量して、蒸発量の割合を求める。
また、加熱前の試料グリースの状態と、加熱後の試料グリースの状態を目視及び触手により観察する。
上記蒸発量の少ないもの程、高温においてもグリース状態が安定で、熱分解等の化学変化が少ないものである。
【0025】
上記バウデン式摩擦試験は、以下の要領で行う。
(1)試料の調製
試料は、上記高温薄膜加熱試験の加熱前の試料、及び高温薄膜加熱試験(150℃・100時間)の加熱後の試料を用いる。
(2)試験条件
上記加熱前の試料と、加熱後の試料について、下記のピンと鋼板の間に試料を塗布し、ピンに荷重を掛けた状態にて鋼板を往復動する事により、摺動面にて生ずる摩擦係数を求める。
ピンの材質:SUJ-2
ピンの形状:外径5.0mm、長さ24mmの棒状で、ピンの先端は半径2.5mm
の半球状となっている。
鋼板材質:S45C
鋼板:長さ110mm×幅40mm
上記ピンの鋼板に対する面圧を1,060MPaとし、すべり速度を5mm/secで摺動させて摩擦係数を求める。
(3)加熱試験後の試料の摩擦係数と、加熱前の試料の摩擦係数の差(%)を次の式によって求める。
摩擦係数の差(%)={(加熱試験後−加熱試験前)/加熱試験前}×100
加熱後の試料の摩擦係数が小さいと共に、加熱前の試料の摩擦係数との差が少ないものが、高温の熱履歴を受けた場合においても安定した摩擦特性を保持することができる。
【0026】
このブレーキ用グリース組成物には、更にベントナイトを配合することができる。このベントナイトはグリースの増ちょう剤として作用するものである。こうしたベントナイトとして有効なものは有機処理したものであって、例えば、Elementis社がベントンの商標で販売している製品がある。好ましいベントン製品としてベントン34がある。
【0027】
本発明のブレーキ用グリース組成物には、更に、その用途に応じて防錆剤、防食剤、酸化防止剤、極圧剤、固体潤滑剤、分散剤、界面活性剤、付着性向上剤(ポリマーなど)、油性剤、摩擦低減剤、従来の耐摩耗剤その他の添加剤を適宜に併用することができる。
【0028】
上記防錆剤、防食剤としては潤滑油組成物に一般的に使用されるものが挙げられる。例えば、有機酸誘導体を用いることができ、中でも特に、コハク酸エステル誘導体、アスパラギン酸誘導体、ザルコシン酸誘導体、フェノキシ酢酸誘導体(4-ノニルフェノキシ酢酸等)が好ましいものとして挙げられる。
また、有機アミン誘導体や有機アミド誘導体があり、中でも、ジエタノールアミン、モノアルキル一級アミン、ジアミン・ジ脂肪酸塩、ジアミン、イソステアリン酸のアミド、オレイン酸のアミド等が好ましいものとして挙げられる。
【0029】
その他のものとして、スルフォン酸塩(Caスルフォネート、Naスルフォネート、Baスルフォネート等)、硫化脂肪酸(硫化オレイン酸等)、界面活性剤(ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノラウレート、ステアリン酸・オレイン酸のモノ・ジグリセライド等)なども好ましいものとして挙げられる。
他にも、ナフテン酸塩(ナフテン酸カリウム等)、二塩基酸のアルカリ金属塩(セバシン酸ナトリウム等)、二塩基酸のアルカリ土類金属塩若しくはベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、チオカーバメートから選ばれるものも良く、好ましいものとして、セバシン酸ナトリウム及びベンゾトリアゾール、或いはそれらを併用したものも挙げられる。
【0030】
上記酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系、ホスファイト系、硫黄系、ジアルキルジチオリン酸塩等の酸化防止剤を使用することができる。特に、高温で酸化安定性に優れるフェノール系、アミン系が好ましいことが多い。
極圧剤、耐摩耗剤および摩擦低減剤としては、硫化油脂,硫化オレフィン,ジチオカルバミン酸亜鉛やジチオカルバミン酸モリブデン等のジチオカルバミン酸塩等の硫黄化合物や、リン酸エステル,酸性リン酸エステル,亜リン酸エステル,酸性亜リン酸エステル,リン酸エステルのアミン塩,亜リン酸エステルのアミン塩,酸性リン酸エステルのアミン塩,酸性亜リン酸エステルのアミン塩等のリン化合物や、チオリン酸エステル,ジチオリン酸亜鉛,ジチオリン酸モリブデン等のジチオリン酸塩等の硫黄リン化合物、モリブデンアミン化合物その他のモリブデン化合物等々の使用が可能である。
【0031】
固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイト、メラミンシアヌレート、窒化ホウ素、雲母、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などがあげられる。
上記した各種の添加剤は、市販の液状潤滑油または半固体状潤滑剤中に予め添加されている状態のものを使用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
実施例及び比較例の調製にあたり、下記の組成材料を用意した。
(1)基油A: パラフィン系鉱油で、40℃の動粘度が99.8mm2/sで粘度指数が97のもの。
(2)基油B: 40℃の動粘度が31.2mm2/sのポリα−オレフィン油50%
と40℃の動粘度が434.0mm2/sのポリα−オレフィン油50%を混合した基油で、40℃の動粘度が118.8mm2/sであるもの。
(3)基油C: 40℃の動粘度が47.9mm2/s、粘度指数が144、%CAがほぼ0であり、%CNが15.5、%CPが84.5の高度精製油であるGTL。
(4)基油D: 40℃の動粘度が118.2mm2/sのポリオキシプロピレングリコールモノエーテル。
【0033】
(5)増ちょう剤A: 工業用市販品の第三リン酸カルシウム:〔Ca3(PO4)2〕3・Ca(OH)2、平均粒径は約5μm。
(6)増ちょう剤B: 工業用市販品の有機ベントナイト(ベントン34)、平均粒径15μm。
(7)増ちょう剤C: オクチルアミン(C8H17NH2)2モルとMDI(4,4’‐ジフェニルメタンジイソシアネート)1モルとを反応させたジウレア化合物。
(8)増ちょう剤D: 工業用市販品のリチウム-12-ヒドロキシステアレート。
【0034】
(実施例1〜15)
表1〜表2に示す配合割合で組成材料をグリース専用の製造釜にて適宜に加熱しながら充分に混合し、三本ロールミルで処理し、均一状態に仕上げて実施例1〜15のブレーキ用グリース組成物を得た。
尚、実施例1〜15のグリース組成物にはそれぞれ、酸化防止剤として、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン(Vanderbilt Co.;商品名Vanlube81)を外枠で1.0質量%添加した。
【0035】
(比較例1〜7)
比較例1は表3に示す組成と配合割合にて、基油A中に増ちょう剤Cを加えて反応させたものであるが、具体的には、グリース専用の製造釜内に基油とMDI(4,4’-−ジフェニルメタンジイソシアネート)1モルを張込み加熱攪拌しながら60℃まで昇温させ、あらかじめ基油に混合溶解させたオクチルアミン2モルを張り込み激しく反応させ、更に180℃まで昇温後、一定の速度にて冷却し、三本ロール処理にて得たウレアグリースである。
比較例2は、表3に示す組成と配合割合にて、基油Aと増ちょう剤Dのリチウム-12-ヒドロキシステアレートをグリース専用の製造釜内に張込み215℃まで加熱して内容物を溶解させる。その後、一定の速度にて冷却し石けん繊維を成長させた後、三本ロール処理によって得たリチウム石けんグリースである。
比較例3は、表3に記載の組成と配合割合にて、基油Aと増ちょう剤Bの有機ベントナイトおよびゲル化を促進させるべく有機溶媒をグリース専用の製造釜内に張込み、加熱攪拌しながら徐々に150℃まで昇温させ、十分に有機溶媒を気化させると共に均質に分散膨潤させる、その後、一定の速度にて冷却し、三本ロール処理にて得たベントナイトグリースである。
尚、比較例1〜3のブレーキ用グリース組成物にもそれぞれ、酸化防止剤として、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン(Vanderbilt Co.;商品名Vanlube81)を外枠で1.0質量%添加した。
【0036】
比較例4は、鉱油を使用した極圧リチウムグリースの市販品である。
比較例5は、鉱油を使用した有機ベントナイトグリースの市販品である。
比較例6は、鉱油を使用した汎用ウレアグリースの市販品である。
比較例7は、合成油を使用した極圧ウレアグリースの市販品である。
【0037】
(試験)
実施例1〜15及び比較例1〜7について、その特性を比較するために下記の試験を行った。
(1)ちょう度:JIS K2220(ASTM D1403)に規定するグリースの性状のちょう度について、混和ちょう度(25℃、60W)を測定した。
このちょう度は、数値の小さいものが、グリースの硬さが硬いことを示している。
(2)滴点:JIS K2220(ASTM D1403)に規定するグリースの性状の滴点(℃)を測定した。
この滴点は、数値の高いものの方が熱的に安定であることを示している。
(3)高温離油度試験:JIS K2220(ASTM D1403)に規定するグリースの性状の離油度試験方法に準じて、試料を金網円すいろ過器に測りとり、150℃で24時間、恒温空気浴内に保持した後、試料から分離した油の質量を測定し、離油度(質量%)を求めた。
(4)高温薄膜加熱試験:上記したとおりである。
(5)バウデン式摩擦試験:上記したとおりである。
【0038】
(試験結果)
各試験の結果を、表1、表2及び表3に記載した。
【0039】
(考察)
ちょう度は、実施例1〜実施例15において実施例6の325を除き242〜282であり、比較例1〜比較例7に示すものは267〜288であり、ほぼ同程度のグリースの硬さを示している。
滴点は、実施例1〜実施例15において何れも260℃以上で良好であり、また、比較例1は258℃、比較例3、5、6、7は260℃以上で良好であるが、比較例2が183℃、比較例4が181℃と低くなっている。
高温離油度は、実施例1〜15において1.2〜5.4質量%の範囲で小さいが、比較例1、3、5、6、7では1.2〜4.9質量%と小さいものの、比較例2では15.9質量%、比較例4では30.9質量%と高温における離油度が大きく、グリースの構造安定性が低い。
高温薄膜蒸発試験における蒸発量及びグリースの状態について、実施例1〜15においては、蒸発量が13.5〜18.2質量%で少なく、グリースの状態も良好であった。一方、比較例1では蒸発量が38.8質量%でグリース状態も硬化しており、比較例2では蒸発量が74.9質量%と多くグリース状態もタール状になっており、比較例3では蒸発量が43.7質量%でグリース状態も鱗片状に変化しており、比較例4では蒸発量が81.2質量%でタール状となっており、比較例5では蒸発量が39.8質量%で鱗片状に変化しており、比較例6では蒸発量が21.1質量%と低いがグリース状態は硬化しており、比較例7では蒸発量が24.6質量%であるがグリース状態が粘ちょう状であり、比較例のものは何れも好ましくないことが判る。
バウデン試験において、実施例1〜実施例15のものは、加熱前の摩擦係数が0.151〜0.159であり、加熱試験後の摩擦係数が0.152〜0.158であり、加熱前と加熱後の摩擦係数の差が−3.1〜2.0%の範囲にあって、加熱前及び加熱後の摩擦係数が低いと共に、前後の変化の割合も少なくて良好である。一方、比較例1〜6のものは、加熱前の摩擦係数が0.141〜0.166であり、加熱試験後の摩擦係数が0.178〜0.197であり、加熱前と加熱後の差が11.4〜33.1%に大きく上昇しており、比較例7では加熱前の摩擦係数が0.146であり、加熱試験後の摩擦係数が0.131で加熱前と加熱後の差が10.3%も大きく低下し、摩擦変化が大きく安定した摩擦状態を提供できないことから、いずれも好ましくないことが判る。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ装置の摩擦部位に用いられるグリースであって、鉱油および/または合成油から選ばれる基油と、第三リン酸カルシウムを含有するブレーキ用グリース組成物。
【請求項2】
更にベントナイトを含有する請求項1に記載のブレーキ用グリース組成物。
【請求項3】
上記鉱油が、グループ1、グループ2、グループ3及びグループ5から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載にブレーキ用グリース組成物。
【請求項4】
上記合成油がグループ4のポリ−α−オレフィンまたはグループ5のポリオキシアルキレングリコールモノエーテルあることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ用グリース組成物。
【請求項5】
上記グリース組成物において150℃・100時間加熱後のバウデン式摩擦試験おける摩擦係数が0.140〜0.170であり、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%であり、高温薄膜蒸発試験おける150℃・100時間加熱後の蒸発量が25質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のブレーキ用グリース組成物。
【請求項1】
ブレーキ装置の摩擦部位に用いられるグリースであって、鉱油および/または合成油から選ばれる基油と、第三リン酸カルシウムを含有するブレーキ用グリース組成物。
【請求項2】
更にベントナイトを含有する請求項1に記載のブレーキ用グリース組成物。
【請求項3】
上記鉱油が、グループ1、グループ2、グループ3及びグループ5から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載にブレーキ用グリース組成物。
【請求項4】
上記合成油がグループ4のポリ−α−オレフィンまたはグループ5のポリオキシアルキレングリコールモノエーテルあることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ用グリース組成物。
【請求項5】
上記グリース組成物において150℃・100時間加熱後のバウデン式摩擦試験おける摩擦係数が0.140〜0.170であり、加熱前に対する加熱後の摩擦係数の差が−5〜+5%であり、高温薄膜蒸発試験おける150℃・100時間加熱後の蒸発量が25質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のブレーキ用グリース組成物。
【公開番号】特開2012−72300(P2012−72300A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218805(P2010−218805)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】
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