説明

ブレースの被害状況確認方法

【課題】この発明は、地震後の住宅において軸組に架設されたブレースの損傷の程度を確認することができるブレースの被害状況確認方法に関する。
【解決手段】本発明のブレースの被害状況確認方法は、住宅1の施工において軸組2を補強するために当該軸組2に架設された鉄筋3から構成されて成るブレース4のうち、少なくとも1つの前記ブレース4を、その前記鉄筋3の一部が他の部分よりも細く形成された検査部5を該鉄筋3の中間部分に有する検査用ブレース6とし、前記住宅1の所在地域に所定震度以上の地震が発生した後に、前記検査用ブレース6の検査部5の損傷を確認するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地震発生後において、軸組を補強するために使用されるブレースの損傷の程度を容易に確認することのできるブレースの被害状況確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、住宅等の構築物の耐震性の向上を目的として、骨組みに対して、鉄筋やアングルで形成されたブレースを設置することがよく知られている。このブレースにより構築物の水平応力を高めることができ、地震等による建物の倒壊を防ぐことができる。
【0003】
ところで、大きな地震があった場合等には、ブレースに過度の負担がかかり、ブレースが塑性変形する場合がある。このように塑性変形したブレースは、元の長さ寸法よりも伸長し、又は座屈を起こし強度が低下しているため、新たな地震が発生すると、その地震規模が大きくない場合であっても、建物を大きく変形させる虞がある。そのため、最初の大地震で、建物に外観上の大きな損傷が認められない場合であっても、ブレースが許容限度を超えて大きく塑性変形している場合は、ブレースを交換しておく必要がある。
【0004】
しかし、ブレースは壁や床等の内部に入れられているので、ブレースの損傷の有無や程度を把握しブレースの交換の必要性を判断するために、壁パネルや床パネル等を取り外して直接ブレースを検査するのでは費用がかかりすぎる。そこで、以下のような建物診断方法が検査方法が知られている。
【0005】
前記建物診断方法としては、例えば、図7に示すように、四角形状の軸組101内で交差するように対角状に架設され鉄筋102から構成されて成るブレース103にセンサとして無線ICタグ104を取付けておくことで、当該ブレース103の損傷の程度を建物外部から読み出すことができるもの(例えば特許文献1)が挙げられる。
【特許文献1】特開2006−250585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のようなブレースにセンサとしてICタグを取付けた場合でも、地震等の際にブレースのICタグを取付けた部分が伸張するか否かということがわからないため、該センサによる測定には斑が生じ、正確な評価が困難であるという問題があった。
【0007】
この発明は上記のような種々の課題を解決することを目的としてなされたものであって、地震後の住宅において軸組に架設されたブレースの損傷の程度を正確に確認することができるブレースの被害状況確認方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載のブレースの被害状況確認方法は、住宅の施工において軸組を補強するために当該軸組に架設された鉄筋から構成されて成るブレースのうち、少なくとも1つの前記ブレースを、その前記鉄筋の一部が他の部分よりも細く形成された検査部を該鉄筋の中間部分に有する検査用ブレースとし、前記住宅の所在地域に所定震度以上の地震が発生した後に、前記検査用ブレースの検査部の損傷を確認することを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載のブレースの被害状況確認方法は、前記検査部の両端部から延設される鉄筋の径を他のブレースを構成する鉄筋の径よりも大きくすることにより、該検査部が形成されることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載のブレースの被害状況確認方法は、前記検査部の損傷の確認が、予め当該検査部に取付けられた歪ゲージによって行われることを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載のブレースの被害状況確認方法は、前記検査部の損傷の確認が、当該検査部と所定間隔あけて予めその周囲に設けられた検知装置によって行われることを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載のブレースの被害状況確認方法は、前記検査部の損傷の確認が、電磁誘導式の鉄筋探査装置によって行われることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載のブレースの被害状況確認方法によれば、住宅に使用されるブレースのうち少なくとも1つの前記ブレースを、その前記鉄筋の一部が他の部分よりも細く形成された検査部を該鉄筋の中間部分に有する検査用ブレースとしている。これにより、地震によって住宅が揺れた場合に、鉄筋に作用する引張力や圧縮力を意図的に検査用ブレースの検査部に集中させることができる。従って、前記住宅の所在地域に所定震度以上の地震が発生した後に前記検査用ブレースの検査部の損傷を確認することで、その他のブレースの損傷程度を間接的に把握することができる。
【0014】
請求項2に記載のブレースの被害状況確認方法によれば、前記検査部が、該検査部の両端部から延設される鉄筋の径を他のブレースを構成する鉄筋の径よりも大きくすることにより形成されている。これにより、検査用ブレースを設けることによって住宅の耐震性に影響を与えることなくブレースの被害状況を正確に把握することができる。
【0015】
請求項3に記載のブレースの被害状況確認方法によれば、前記検査部の損傷の確認が、予め当該検査部に取付けられた歪ゲージによって行われている。これにより、外壁を取外すことなく検査部の損傷の確認を容易、且つ簡便に行い、その他のブレースの損傷程度を間接的に把握することができる。
【0016】
請求項4に記載のブレースの被害状況確認方法によれば、前記検査部の損傷の確認が、当該検査部と所定間隔あけて予めその周囲に設けられた検知装置によって行われている。これにより、外壁を取外すことなく検査部の損傷の確認を容易、且つ簡便に行い、その他のブレースの損傷程度を間接的に把握することができる。
【0017】
請求項5に記載のブレースの被害状況確認方法によれば、前記検査部の損傷の確認が、電磁誘導式の鉄筋探査装置によって行われる。これにより、外壁を取外すことなく検査部の損傷の確認を容易、且つ簡便に行い、その他のブレースの損傷程度を間接的に把握することができる。さらに、必要な場合にのみ鉄筋探査装置を使用すればよいので住宅建設時の初期費用を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明におけるブレースの被害状況確認方法の最良の実施形態について、以下に説明する。本発明のブレースの被害状況確認方法は、図1、図2、図4に示すように、住宅1の施工において軸組2を補強するために当該軸組2に架設された鉄筋3から構成されて成るブレース4のうち、少なくとも1つの前記ブレース4を、その前記鉄筋3の一部が他の部分よりも細く形成された検査部5を該鉄筋3の中間部分に有する検査用ブレース6とし、前記住宅1の所在地域に所定震度以上の地震が発生した後に、前記検査用ブレース6の検査部5の損傷を確認するものである。
【0019】
住宅1を構成する軸組2には、図1に示すように、住宅1の耐震性を向上させるために多くのブレース4を用いる場合がある。ブレース4は、例えば、軸組2の4隅に設けられた接合用プレート7に固定される長尺の断面略円形の鉄筋3により形成された部材であって、例えば軸組2の対角線上に架設される。ブレース4の中間位置には、両端にそれぞれ雌螺子が形成され中央にシノ等の工具を挿入できる穴を備えたターンバックル8が設けられている。このターンバックル8の雌螺子は一方側が右螺子に他方側が左螺子に形成されており、締結方向又は弛緩方向に回転させることで、ブレース4の鉄筋3の緊張程度を調整することができる。
【0020】
なお、ブレース4は、図1に示すような住宅1の外壁9の内部の他にも、図示しないが、住宅1の間仕切壁や住宅1の床の内部にも設置される。また、本発明の対象となるブレース4は、図1に示すように、軸組2の対角線上に架設されるX字状のブレース4に限定されるものではなく、例えば図6に示すように、軸組2の一辺の両端隅部と、該一辺と相対向する他辺の中点とを結ぶ形状でもよく、その他の種々の形状のブレース4に適用することができる。
【0021】
そして、本実施形態においては、図2に示すように、軸組2に設けられた複数のブレース4のうち少なくとも1つを検査用ブレース6としている。該検査用ブレース6は、ターンバックル8を介してブレース4を構成する鉄筋3の一部が他の部分よりも細く形成された検査部5を該鉄筋3の中間部分に有するものである。尚、図2に示す軸組2において、交差する2本のブレースの両方の鉄筋3にそれぞれ検査部5を設けてもよいのは勿論である。さらに、検査用ブレース6は、住宅1のそれぞれの側面を構成する軸組2のうちの少なくとも1つに設けられていることが好ましく、これにより地震の揺れ方向がどの方向であってもブレース4の損傷程度を把握することができる。
【0022】
ここで、一般的に、材料の形状が不連続である場合にはその不連続部分に集中的に応力が作用することが知られている。そのため、前述のように鉄筋3の中間部分に検査部5を形成することにより、地震の際にブレース4の鉄筋3に作用する引張力や圧縮力を該検査部5に集中させることで、図5に示すように、意図的に該検査部5を伸張、座屈等させることができる。また、本実施形態においては、検査部5の鉄筋3の径を、検査用ブレース6以外の他のブレース4の鉄筋3の径と同様にしており、該検査部5の両端から延設される部分の鉄筋3の径を、他のブレース4の鉄筋3の径より大きくすることで当該検査部5を形成しているので、当該検査用ブレース6が設置された箇所が、他よりも強度が弱くなることがない。
【0023】
また、検査部5の形成方法としては、図2、図4(a)に示すように、鉄筋3の径を不連続に変化させるようにして当該検査部5を形成してもよいが、これに限定されず、図4(b)に示すように、検査部5の両端から延設される鉄筋3から当該検査部5にかけて鉄筋3の径を徐々に連続的に細くなるように変化させて当該検査部5を形成してもよいのは勿論である。尚、図4(b)に示すように、検査部5を形成する際にも、当該検査部5に使用される鉄筋3の径は、その他のブレース4に使用される鉄筋3の径と同様であることが好ましいのは勿論である。
【0024】
そして、検査部5の損傷の確認は、前記住宅1の所在地域に所定震度以上の地震が発生した後に測定することが好ましい。また、地震の震度は特に限定されるものではないが、住宅1の所在地域に例えば震度4以上の地震が発生した場合には検査用ブレース6の検査部5の歪の測定等を行いブレース4の損傷の程度を確認しておくことが好ましい。以下に検査部5の確認方法の例を示す。
【0025】
第1の検査部5の損傷の確認方法としては、住宅1の外壁9の外側から、既知の電磁誘導方式の小型鉄筋探査装置等を用いて当該検査部5の伸張、座屈の程度を確認することができる。この小型鉄筋探査装置としては、電磁誘導を使用するものを好適に使用することができ、コードレス式のスキャナー内部のフィールドコイルから放射される1次磁界によって検査用ブレース6の検査部5に生じた2次磁界を、該スキャナー内部のセンサーコイルで検知して、その情報を無線により付属のモニターに送信することにより当該モニターに検査部5の形状を表示できるものである。
【0026】
また、第2の検査部5の損傷の確認方法としては、例えば図2に示すように、周知の歪ゲージ10を好適に使用することができる。歪ゲージ10とは、金属製のブレース4の鉄筋3の伸縮に伴う当該鉄筋3の抵抗変化を測定するものである。すなわち、金属(抵抗体)は外力を加えて伸縮させると、ある範囲でその抵抗値が増減するので、歪が生じる測定対象物に電気絶縁物を介して接着しておけば、測定対象物の伸縮に伴う金属(抵抗体)の抵抗値の変化を測定することができる。また、検査部5への歪ゲージ10の取付けは接着剤等を用いてこれを取付けることができる。
【0027】
この際には、例えばリード線13を室内に予め設置された分電盤(不図示)まで延長し、当該歪ゲージ10からの信号を増幅するためのアンプ等を介した後、当該分電盤に設置された出力装置を用いて、図2に示す歪ゲージ10により測定された検査部5の歪の測定結果を表示させることができる。この出力装置としては、継続的に検査部5の歪の測定結果を観測可能な周知のデータロガー等を好適に使用することができるが、これに限定されず周知の出力装置を使用することができる。
【0028】
そして、第3の検査部5の損傷の確認方法としては、図3に示すように、検査用ブレース6の検査部5を中心として、該検査部5から所定間隔あけてその周囲に略円形の検知装置11を設けることである。この検知装置11は、地震の揺れによって鉄筋3に作用する引張力や圧縮力により伸張、座屈等した検査部5が、その周囲の検知装置11に接触した際に、これを検知可能な周知の接触式センサを好適に使用することができる。検知装置11は、図3に示すように、その外周に設けられた支持部材12によって適宜軸組2等に支持固定されている。
【0029】
この際にも、前述の歪ゲージ10を使用した場合と同様にして配電盤等に出力装置を設置することにより、検査部5が検知装置11に接触したか否かを確認することができる。この出力装置としては、例えば検査部5が検知装置11に接触した場合にのみ点灯するランプ等を使用することができる。尚、これらの出力装置の設置場所は、本実施形態のように配電盤等に限定されず必要に応じて床下等その他の場所に設置することができるのは勿論である。
【0030】
さらに、既述の歪ゲージ10、及び検知装置11に、電源を有さず、また、自らは電波を発信しない既知のパッシブ型RFIDタグを設けておくこともできる。これにより、当該パッシブ型RFIDタグを読取るためのリーダから発信される電波によって電源が供給され、検査部5の歪の測定結果や、検査部5が検知装置11に接触しているか否かを、地震発生後等の必要な時にのみ当該リーダによって、住宅1外部からでも無線方式により当該パッシブ型RFIDタグから読出すことができる。尚、検査部5の損傷の確認方法は上述のものに限定されずその他の方法であってもよいのは勿論である。
【0031】
以上のように、住宅1に使用されるブレース4のうち少なくとも1つを検査用ブレース6とし、該検査用ブレース6の検査部5の歪を地震の発生後に測定することにより、当該地震により損傷を受けた他のブレース4の損傷の程度を容易、且つ確実に測定することができる。そして、地震後の検査用ブレース6の検査部5の損傷が激しいと判断した場合には、その他のブレース6の鉄筋3も激しく損傷していることが考えられるので、この場合には必要に応じて当該ブレース4を交換する等して補強を行うことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るブレース4の被害状況確認方法は、地震発生後でなくとも、住宅1の老朽化による耐震性の診断や、ブレース4以外の他の構造にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】住宅に用いられるブレースを説明する斜視図
【図2】検査用ブレースに歪ゲージが取付けられた状態を示す斜視図
【図3】検査用ブレースに検知装置が取付けられた状態を示す斜視図
【図4】検査用ブレースの検査部の側面図
【図5】地震によってブレースの鉄筋が伸張し座屈した状態を示す斜視図
【図6】他のブレース形状を示す図
【図7】従来技術を示す図
【符号の説明】
【0034】
1 住宅
2 軸組
3 鉄筋
4 ブレース
5 検査部
6(4) 検査用ブレース
10 歪ゲージ
11 検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅の施工において軸組を補強するために当該軸組に架設された鉄筋から構成されて成るブレースのうち、
少なくとも1つの前記ブレースを、その前記鉄筋の一部が他の部分よりも細く形成された検査部を該鉄筋の中間部分に有する検査用ブレースとし、
前記住宅の所在地域に所定震度以上の地震が発生した後に、前記検査用ブレースの検査部の損傷を確認することを特徴とするブレースの被害状況確認方法。
【請求項2】
前記検査部の両端部から延設される鉄筋の径を他のブレースを構成する鉄筋の径よりも大きくすることにより、該検査部が形成されることを特徴とする請求項1記載のブレースの被害状況確認方法。
【請求項3】
前記検査部の損傷の確認が、予め当該検査部に取付けられた歪ゲージによって行われることを特徴とする請求項1又は2記載のブレースの被害状況確認方法。
【請求項4】
前記検査部の損傷の確認が、当該検査部と所定間隔あけて予めその周囲に設けられた検知装置によって行われることを特徴とする請求項1又は2記載のブレースの被害状況確認方法。
【請求項5】
前記検査部の損傷の確認が、電磁誘導式の鉄筋探査装置によって行われることを特徴とする請求項1又は2記載のブレースの被害状況確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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