説明

ブロッキング防止剤

【課題】耐ブロッキング性、筆記性、糊付け性に優れた塗膜を形成できるブロッキング防止剤の提供。
【解決手段】炭素数15以上の直鎖アルキル基を有する重合性単量体単位30〜70質量%と、極性基を有する重合性単量体単位30〜70質量%とからなる共重合体を含有することを特徴とするブロッキング防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば昇華型プリンタ用の印画紙等の被熱転写シートの裏面に使用されるブロッキング防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、昇華性染料や熱溶融染料を用いて画像情報などを印画紙等の被熱転写シート上に現像する方法が用いられている。
被熱転写シートの表面には染料受容層が形成されており、インクリボン等の熱転写シートから熱によって昇華または溶融した染料が染料受容層に移行して画像が形成される。
【0003】
被熱転写シートは、通常、基材と、該基材上に形成された染料受容層とを備える。
染料受容層は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などから形成される。特にガラス転移温度の低い樹脂を用いれば、印画濃度が向上したり、染料成分が染料受容層の内部まで移行しやすくなり、形成された画像の耐光性が向上したりすることが知られている。
【0004】
しかし、染料受容層に画像を形成した後、ロール状に巻き取ったり、複数の被熱転写シートを重ね合わせたりすると、染料受容層の樹脂成分が被熱転写シートの裏面(すなわち、基材の染料受容層が形成されていない側の面)に付着してブロッキングが起こることがあった。特に、染料受容層用の樹脂成分としてガラス転移温度の低い樹脂を用いると、ブロッキングが起こりやすかった。
【0005】
そこで、被熱転写シートの裏面にブロッキング防止剤を塗工して、耐ブロッキング性を付与する場合がある。
例えば、特許文献1には、裏面(熱転写層が設けられている面とは反対側の面)に、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル樹脂、ポリウレタン系樹脂等の構成材料からなる耐熱滑性層が設けられた熱転写記録媒体が開示されている。
また、特許文献2には、受容層が塗布される面、受容層が塗布される他方の面、あるいはその両方の面に、ブロッキング防止、離型性付与、滑り性付与のために、微粒子状のマット剤を添加した感熱転写受像シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−68079号公報
【特許文献2】特開2010−149464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、被熱転写シートは、その裏面に水性ペンなどで日付や文字等を記載したり、PVA(ポリビニルアルコール)やでんぷんを主成分とする糊を塗布して台紙などに貼着したりすることがある。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の熱転写記録媒体の場合、滑性を向上させるためにはシリコーンオイル等の滑剤を耐熱滑性層に添加しなければならない。シリコーンを含むブロッキング防止剤より形成される塗膜は筆記性や糊付け性が悪く、特許文献1に記載の熱転写記録媒体では、その裏面に(すなわち、耐熱滑性層に)日付や文字等を記載したり、糊を用いて台紙などに貼着したりしにくく、銀塩写真代替としての機能を十分に果たせなかった。
また、特許文献2に記載のように微粒子状のマット剤を添加する場合、該マット剤を含む塗工液を塗工するとマット剤が沈降して、十分なブロッキング防止機能が発揮されにくかった。特に、マット剤の沈降は塗工液の粘度が低かったり、塗工液を連続的に塗工したりする場合に顕著であった。
【0009】
また、ブロッキングを防止する方法としては、染料受容層に画像を形成した後に、その表面をコーティング剤でコートする方法も考えられるが、この方法では被熱転写シートの製造時や保管時のブロッキングを防止することはできない。
【0010】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、耐ブロッキング性、筆記性、糊付け性に優れた塗膜を形成できるブロッキング防止剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のブロッキング防止剤は、炭素数15以上の直鎖アルキル基を有する重合性単量体単位30〜70質量%と、極性基を有する重合性単量体単位30〜70質量%とからなる共重合体を含有することを特徴とする。
また、本発明のブロッキング防止剤は、一方の面に染料受容層が形成される被熱転写シートの他方の面に塗工されるものとして好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のブロッキング防止剤によれば、耐ブロッキング性、筆記性、糊付け性に優れた塗膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明により得られる被熱転写シートの一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明により得られる被熱転写シートの他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ブロッキング防止剤]
本発明のブロッキング防止剤は、炭素数15以上の直鎖アルキル基を有する重合性単量体単位と、極性基を有する重合性単量体単位とからなる共重合体(以下、「共重合体(A)」という。)を含有する。
なお、本発明において(メタ)アクリレートとは、メタクリレートとアクリレートとの両方を意味し、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸とアクリル酸の両方を意味する。
【0015】
炭素数15以上の直鎖アルキル基を有する重合性単量体(以下、「単量体(a1)」という。)は、重合すると結晶化して疎水性のワックス状を呈し、本発明のブロッキング防止剤より形成される塗膜に耐ブロッキング性を付与する。
直鎖アルキル基の炭素数が15未満であったり、アルキル基が分岐していたりすると、塗膜に十分な耐ブロッキング性を付与できない。直鎖アルキル基の炭素数の上限値については特に制限されないが、入手性や成膜性の観点から30以下が好ましく、22以下がより好ましい。
【0016】
単量体(a1)としては、炭素数15以上の直鎖アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートやアルキル酸ビニル誘導体が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばペンタデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート(ヘキサデシル(メタ)アクリレート)、ステアリル(メタ)アクリレート(オクタデシル(メタ)アクリレート)、イコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート(ドコシル(メタ)アクリレート)などが挙げられる。
アルキル酸ビニル誘導体としては、例えばパルチミン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ドコサン酸エテニルなどが挙げられる。
【0017】
上述したように、単量体(a1)は重合すると結晶化して疎水性のワックス状を呈し、塗膜に耐ブロッキング性を付与する。
ところで、疎水性のワックスは、それ自体で成膜することは困難である。また、例えば塗膜形成用の樹脂成分を含む塗工液に単量体(a1)の単独重合体を添加し、該塗工液を被熱転写シートの裏面に塗工してブロッキング防止層を形成する場合、十分な耐ブロッキング性を発現するだけの量の単量体(a1)の単独重合体を添加すると、塗膜にひび割れが生じ、成膜が困難であった。
【0018】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、単量体(a1)と以下に示す極性基を有する重合性単量体とを共重合させることで、結晶化して疎水性のワックス状を呈する性質を残しつつ、成膜が可能となることを見出した。
【0019】
極性基を有する重合性単量体(以下、「単量体(a2)」という。)は、筆記性、糊付け性に優れる単量体である。従って、単量体(a1)と併用することで、耐ブロッキング性、筆記性、糊付け性に優れた塗膜を成膜性よく形成できる。
極性基としては、水酸基、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、アミノ基、およびこれらの塩などが挙げられる。塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、アンモニウム、トリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0020】
単量体(a2)としては、以下の化合物が挙げられる。
水酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体や、アリルアルコールなどが挙げられる。
カルボキシ基を有する重合性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸などが挙げられる。
リン酸基を有する重合性単量体としては、例えばアシッドホスホキシ(メタ)アクリレート、3−クロロ−アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えばビニルスルホン酸、2−(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
アミノ基を有する重合性単量体としては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチル−3−ジメチルアミノアクリレートなどが挙げられる。
【0021】
また、単量体(a2)としては、上述した以外にも、例えば(メタ)アクリロニトリルまたはその誘導体、アクリルアミドまたはその誘導体、ジエチルアクリルアミドまたはその誘導体、2−ヒドロキシエチルアクリルアミドまたはその誘導体などを用いることもできる。
単量体(a2)としては、上述した中でも、塗膜の筆記性および糊付け性がより向上する点で、水酸基を有する重合性単量体が好ましく、特に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
また、カルボキシ基の塩を有する重合性単量体は水酸基を有する重合性単量体と同等の効果が得られる傾向にある。カルボキシ基の塩を有する重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩、トリエタノールアミン塩が好ましい。
【0022】
共重合体(A)は、単量体(a1)単位30〜70質量%と、単量体(a2)単位30〜70質量とからなる。
単量体(a1)単位の割合が30質量%以上、単量体(a2)単位の割合が70質量%以下であれば、耐ブロッキング性や滑り性に優れた塗膜が得られる。一方、単量体(a1)単位の割合が70質量%以下、単量体(a2)単位の割合が30質量%以上であれば、筆記性や糊付け性に優れた塗膜を成膜性よく形成できる。
単量体(a1)単位の割合は40〜60質量%が好ましく、単量体(a2)単位の割合は40〜60質量%が好ましい。
【0023】
共重合体(A)は、上述した単量体(a1)と単量体(a2)とを公知の方法で共重合することで得られる。
このようにして得られた共重合体(A)の質量平均分子量は、2万以上であることが望ましい。質量平均分子量が2万を下回ると、結晶化した共重合体(A)の凝集力が低くなり、得られる塗膜の、後述する基材に対する付着性が低下することがある。
なお、共重合体(A)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定し、ポリスチレン換算した値である。
【0024】
本発明のブロッキング防止剤は、共重合体(A)のみからなるものでもよいが、本発明の効果を損なわない範囲内で、共重合体(A)以外の他の樹脂や、添加剤、硬化剤などを含有してもよい。
他の樹脂としては、例えば塩素化ポリオレフィン、アクリル樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
添加剤としては、例えばシリカ、樹脂粒子、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の有機系あるいは無機系体質顔料、シリコーンオイル等の表面調整剤、消泡剤などが挙げられる。
硬化剤としては、例えばシランカップリング剤、金属キレート剤、イソシアネート、ポリアミン、フェノール樹脂などが挙げられる。
なお、共重合体(A)の含有量は、ブロッキング防止剤の固形分100体積%中、60体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましく、実質100体積%が特に好ましい。
【0025】
以上説明した本発明のブロッキング防止剤は、上述した共重合体(A)を含有するので、耐ブロッキング性、筆記性、糊付け性に優れた塗膜を成膜性よく形成できる。
【0026】
本発明のブロッキング防止剤は、紙やプラスチック製のシートの表面および/または裏面に塗工して用いられるが、特に昇華型プリンタ用の印画紙などの被熱転写シートの裏面に塗工して用いられる場合に好適である。
以下、本発明のブロッキング防止剤の用途の一例として被熱転写シートを例に取り、具体的に説明する。
【0027】
[被熱転写シート]
図1に本発明により得られる被熱転写シートの一例を示す。この例の被熱転写シート10は、基材11と、該基材11の一方の面に形成された染料受容層12とを備え、基材11の他方の面に、本発明のブロッキング防止剤を用いて形成されたブロッキング防止層13が設けられている。
なお、本発明において、染料受容層12が形成される側を「被熱転写シートの表面」といい、ブロッキング防止層13が形成される側を「被熱転写シートの裏面」という場合がある。
【0028】
基材11としては、印画紙などの被熱転写シートの基材として使用できるものであれば特に制限されないが、例えば合成紙、ラミネート紙等の紙類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、発泡PET、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のプラスチックフィルムなどが挙げられる。
基材11は単層であってもよいし、多層であってもよい。
【0029】
染料受容層12は、インクリボンなどの熱転写シートに形成された染料層が選択的に転写され、転写された染料の画像を受容し、この受容により形成された画像を維持する層である。
染料受容層12は、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などから形成される。特に、染料受容層12は、ガラス転移温度(Tg)が30〜60℃であるアクリル系共重合体を含むことが好ましい。アクリル系共重合体のTgが30℃以上であれば、被熱転写シート10の製造時や染料受容層12への画像形成時における、ローラー等による被熱転写シート10の紙送り性が向上する。また、被熱転写シート10をロール状に巻き取ったり、複数の被熱転写シート10を重ね合わせたりする際にブロッキングの発生をより効果的に抑制できる。一方、アクリル系共重合体のTgが60℃以下であれば、印画濃度が向上したり、染料受容層12に形成された画像の耐光性が向上したりする。
【0030】
アクリル系共重合体のTgは、JIS K7121に準拠して測定される値である。具体的には、まず測定する試料を、示差走査熱量計を用い、予測される試料のTg(予測温度)より約50℃高い温度で10分加熱した後、予測温度より50℃低い温度まで冷却して前処理する。その後、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分にて昇温して吸熱開始温度を測定し、これをTgとする。
【0031】
染料受容層12の膜厚は、1〜20μmが好ましく、2〜10μmがより好ましい。膜厚が1μm以上であれば、高印画濃度および耐光性を維持できる。一方、膜厚が20μm以下であれば、耐クラック性の低下を抑制できる。
【0032】
ブロッキング防止層13は、本発明のブロッキング防止剤を用いて形成される塗膜である。よって、ブロッキング防止層13は、耐ブロッキング性、筆記性、糊付け性に優れる。
ブロッキング防止層13の膜厚は、0.1〜5μmが好ましく、0.3〜3μmがより好ましい。膜厚が0.1m以上であれば、十分なブロッキング防止効果が得られる。一方、5μmを超える膜厚を形成しても、それ以上のブロッキング防止効果の向上は望めない。
【0033】
被熱転写シート10は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、基材11上(他方の面)にブロッキング防止層13を形成する。具体的には、本発明のブロッキング防止剤を溶剤に溶解または分散させてブロッキング防止剤組成物を調製し、該ブロッキング防止剤組成物を乾燥後の膜厚が0.1〜5μmになるように、スプレー法、刷毛塗り法、ローラ法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法等で塗工する。その後、基材11上に塗工されたブロッキング防止剤組成物を乾燥させて塗膜(ブロッキング防止層13)を形成する。
【0034】
ついで、基材11のブロッキング防止層13が形成された側とは反対側の面(一方の面)に染料受容層12を形成する。具体的には、染料受容層を形成する樹脂(例えばアクリル系共重合体など)を溶剤に溶解または分散させて染料受容層用塗工液を調製し、該染料受容層用塗工液を乾燥後の膜厚が1〜20μmになるように、スプレー法、刷毛塗り法、ローラ法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法等で塗工する。その後、基材11上に塗工された染料受容層用塗工液を乾燥させて塗膜(染料受容層12)を形成する。
【0035】
ブロッキング防止剤組成物に用いる溶剤としては、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、水、およびこれらの混合溶剤などが挙げられる。
なお、単量体(a1)と単量体(a2)を公知の方法により共重合させた共重合体(A)は、通常、共重合に使用した溶剤に溶解または分散したポリマー溶液の状態で得られる。従って、このポリマー溶液をそのままブロッキング防止剤組成物として用いてもよいし、得られたポリマー溶液を溶剤でさらに希釈した希釈液をブロッキング防止剤組成物として用いてもよい。
また、必要に応じて、上述した他の樹脂や添加剤を本発明の効果が損なわれない範囲内で、ポリマー溶液に添加してもよい。
【0036】
染料受容層用塗工液に用いる溶剤としては、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、水、およびこれらの混合溶剤などが挙げられる。
染料受容層用塗工液には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤など、通常の染料受容層に含まれる公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0037】
なお、上述した方法では染料受容層を形成する前にブロッキング防止層を形成しているが、染料受容層を形成した後でブロッキング防止層を形成してもよいし、各層を同時に形成してもよい。ただし、染料受容層を形成する前にブロッキング防止層を形成しておけば、ブロッキング防止層を形成した段階でロール状に巻き取るなどして保管しておくことができる。
【0038】
また、本発明により得られる被熱転写シートは、図1に示す被熱転写シート10に限定されない。例えば、図1に示す被熱転写シート10は、基材11の一方の面に染料受容層12が形成されているが、例えば図2に示す被熱転写シート20のように、基材11と染料受容層12との間に、断熱層14が設けられていてもよい。
【0039】
断熱層14は、サーマルヘッドから供給される熱の拡散を防いで、インクリボン等の熱転写シートから染料受容層12への染料の移行を促進させるための層であり、バインダーと中空ポリマー粒子とを含む。
バインダーとしては、ゼラチン、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーが挙げられる。
一方、中空ポリマー粒子は、粒子内に空隙を有するポリマー粒子であり、空隙中の空気が断熱材としての役割を果たす。中空ポリマー粒子としては、断熱層14を形成する前は水中に分散した水分散物であり、分散状態では粒子内に水を含有しているが、塗工後の乾燥により粒子内の水が蒸発して空気相を形成するポリマー粒子などが挙げられる。
【0040】
以上説明した被熱転写シートは、受容層が塗布される反対の面などにマット剤を添加する特許文献2に記載の感熱転写受像シートとは異なり、裏面に本発明のブロッキング防止剤を用いて形成されるブロッキング防止層を備える。そのため、本発明により得られる被熱転写シートはブロッキング防止層が十分なブロッキング防止機能を発揮するので、耐ブロッキング性に優れる。よって、被熱転写シートの製造時または画像形成時に被熱転写シートをロール状に巻き取ったり、複数の被熱転写シートを重ね合わせたりしてもブロッキングしにくい。
ところで、上述したように、染料受容層がTgの低い樹脂より形成される場合は、印画濃度や耐光性が向上する一方で、ブロッキングが起こりやすい傾向にあった。
しかし、本発明であれば、染料受容層がTgの低い樹脂より形成される場合でも、ブロッキング防止層が十分なブロッキング防止機能を発揮できるので、被熱転写シートがブロッキングしにくい。
【0041】
また、本発明のブロッキング防止剤を用いて形成されるブロッキング防止層は筆記性、糊付け性にも優れる。よって、被熱転写シートの裏面(すなわち、ブロッキング防止層)に水性ペンなどで日付や文字等を容易に記載できる。さらに、被熱転写シートの裏面に糊を塗布して台紙などに貼付することもできる。
従って、本発明のブロッキング防止剤を用いて形成されたブロッキング防止層を備えた被熱転写シートは、銀塩写真代替としての機能を十分に有する。該被熱転写シートは、例えば昇華型プリンタ用の印画紙などとして好適である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
ここで、各例で用いた共重合体について以下に示す。
【0043】
<共重合体(A)>
(共重合体(A−1)の調製)
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた2Lの反応容器に、表1に示す質量比率のステアリルアクリレート(単量体(a1))と、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(単量体(a2))とを合計で300質量部と、酢酸エチル300質量部と、過酸化ベンゾイル0.3質量部とを仕込み、反応容器内の空気を窒素で置換した後、窒素雰囲気中、攪拌下で反応容器内の反応溶液を75℃まで昇温し、75℃×12時間の条件で重合反応を行い、ステアリルアクリレート単位と、2−ヒドロキシエチルメタクリレート単位とからなる共重合体(A−1)が酢酸エチルに溶解したポリマー溶液を得た。該ポリマー溶液の固形分濃度が25質量%になるまで酢酸エチルで希釈し、これをブロッキング防止剤組成物とした。
【0044】
(共重合体(A−2)〜(A−9)、(A−11)〜(A−19)の調製)
単量体(a1)と単量体(a2)の種類および質量比率を表1、2に示すように変更した以外は、共重合体(A−1)と同様にして共重合体(A−2)〜(A−9)、(A−11)〜(A−19)のポリマー溶液を調製し、これを希釈してブロッキング防止剤組成物を得た。
【0045】
(共重合体(A−10)の調製)
表1に示す質量比率のステアリルアクリレート(単量体(a1))と、メタクリル酸(単量体(a2))とを用いた以外は、共重合体(A−1)と同様にして重合反応を行った。ついで、得られた共重合体の不揮発分100質量部に対して、該共重合体に含まれるメタクリル酸単位と等モルになるように、52質量部のトリエタノールアミンを加えて均一に混合した後、攪拌下で反応容器内を60℃で8時間保持し、ステアリルアクリレート単位とメタクリル酸のトリエタノールアミン塩単位からなる共重合体(A−10)のポリマー溶液を調製し、これを固形分濃度が25質量%になるまで酢酸エチルで希釈してブロッキング防止剤組成物を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
なお、表1、2中の単量体(a1)若しくはその代替品、並びに単量体(a2)若しくはその代替品の量は、これらの合計を100質量%としたときの量(質量%)である。
また、表1、2中の略号は以下の通りである。
・SA:ステアリルアクリレート(直鎖アルキル基の炭素数:18)。
・CMA:セチルメタクリレート(日油株式会社製、「ブレンマーCMA」、直鎖アルキル基の炭素数:16)。
・VA:ベヘニルアクリレート(日油株式会社製、「ブレンマーVA」、直鎖アルキル基の炭素数:22)。
・SV:ステアリン酸ビニル(直鎖アルキル基の炭素数:17)。
・PV:パルミチン酸ビニル(直鎖アルキル基の炭素数:15)。
・LMA:ラウリルメタクリレート(直鎖アルキル基の炭素数:12)。
・TDA:トリデシルメタクリレート(直鎖アルキル基の炭素数:13)。
・MV:ミリスチン酸ビニル(直鎖アルキル基の炭素数:13)。
・HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート。
・4−HBA:4−ヒドロキブチルアクリレート。
・MAA:メタクリル酸。
・DMAEMA:ジメチルアミノエチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製、「ライトエステルDM」)。
・DEAA:ジエチルアクリルアミド(株式会社興人製)。
・St:スチレン
【0049】
<アクリル系共重合体(B)>
(アクリル系共重合体(B−1)の調製)
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた2Lの反応容器に、表3に示す質量比率のスチレン(St)とブチルアクリレート(BA)とを合計で300質量部と、酢酸エチル300質量部と、過酸化ベンゾイル0.3質量部とを仕込み、反応容器内の空気を窒素で置換した後、窒素雰囲気中、攪拌下で反応容器内の反応溶液を75℃まで昇温し、75℃×12時間の条件で重合反応を行い、スチレン単位と、ブチルアクリレート単位とからなるアクリル系共重合体(B−1)が酢酸エチルに溶解したポリマー溶液を得た。該ポリマー溶液の固形分濃度が10質量%になるまで酢酸エチルで希釈し、これを染料受容層用塗工液とした。
【0050】
得られたアクリル系共重合体(B−1)のTgを、JIS K7121に準拠して測定した。具体的には、まずアクリル系共重合体(B−1)を、示差走査熱量計(島津製作所社製、「DSC−60」)を用い、予測される試料のTg(予測温度)より約50℃高い温度で10分加熱した後、予測温度より50℃低い温度まで冷却して前処理した。その後、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分にて昇温して吸熱開始温度を測定し、これをTgとした。結果を表3に示す。
また、アクリル系共重合体(B−1)の質量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定し、ポリスチレン換算して求めた。結果を表3に示す。
【0051】
(アクリル系共重合体(B−2)〜(B−3)の調製)
スチレンとブチルアクリレートの質量比率を表3に示すように変更した以外は、アクリル系共重合体(B−1)と同様にしてアクリル系共重合体(B−2)〜(B−3)のポリマー溶液を調製し、これを希釈して染料受容層用塗工液を得た。各共重合体のTgおよび質量平均分子量を表3に示す。
なお、表3中のスチレンとブチルアクリレートの量は、これらの合計を100質量%としたときの量(質量%)である。
【0052】
【表3】

【0053】
[実施例1]
厚さ100μmの発泡PET上に、共重合体(A−1)のポリマー溶液を希釈したブロッキング防止剤組成物を乾燥後の膜厚が3〜5μmになるようにワイヤーバーで塗工した後、100℃で3分間乾燥させて、ブロッキング防止層を形成した。
ついで、発泡PETのブロッキング防止層が形成された側とは反対側の面に、アクリル系共重合体(B−1)のポリマー溶液を希釈した染料受容層用塗工液を乾燥後の膜厚が5〜10μmになるようにワイヤーバーで塗工した後、100℃で3分間乾燥させて、染料受容層を形成し、被熱転写シートを作製した。
得られた被熱転写シートについて以下の評価を行った。結果を表4に示す。
【0054】
<評価>
(耐ブロッキング性の評価)
被熱転写シートを幅4.9cm、長さ10cmの短冊状に2枚切り出し、これらを試験片とした。
一方の試験片のブロッキング防止層と、もう一方の試験片の染料受容層とが、幅4.9cm、長さ4.9cmで接するように2枚の試験片を重ね合わせた。重ね合わせた面に2.0kg/cm2の荷重を掛けた状態で、60℃で24時間放置した後、2枚の試験片を手で引き剥がしてブロッキング試験を行い、以下の評価基準に基づき耐ブロッキング性を評価した。
◎:2枚の試験片が容易に剥がれる。
○:2枚の試験片を剥がすときにわずかに抵抗を感じる。
△:2枚の試験片を剥がすときに抵抗を感じるが、円滑に剥がれる。
×:2枚の試験片を剥がすときに抵抗を強く感じ、剥離音が聞こえる。
【0055】
(筆記性の評価)
被熱転写シートのブロッキング防止層に、水性ペン(三菱鉛筆株式会社製、「ユニボールシグノ スタンダード(黒)」)で線を5cm書き、以下の評価基準に基づき筆記性を評価した。
○:線の太さが均一である。
△:線が細くなる部分が一部ある。
×:線が途切れる部分がある。
【0056】
(糊付け性の評価)
被熱転写シートを幅2cm、長さ5cmの短冊状に切り出し、これを試験片とした。
切り出した試験片のブロッキング防止層に、短辺側から3cmの部分まで糊(不易糊工業株式会社製、「フエキ糊」)を0.05g塗布し、市販のコピー用紙(幅2cm、長さ5cm)を貼り合わせた後、1kgのゴムローラを1秒間かけ1往復させ、20℃で24時間放置した。その後、糊が塗布されていない側から試験片とコピー用紙とを手で引き剥がし、糊付けした部分においてブロッキング防止層が露出している割合を確認し、以下の評価基準に基づき糊付け性を評価した。
○:コピー用紙が破壊され、糊付けした部分においてブロッキング防止層が露出していない。
△:ブロッキング防止層が露出している割合が、糊付けした部分全体の20%以下。
×:ブロッキング防止層が露出している割合が、糊付けした部分全体の20%を超える。
【0057】
[実施例2〜14、比較例1〜6]
表4、5に示す種類の共重合体(A)およびアクリル系共重合体(B)を用いてブロッキング防止層および染料受容層を形成した以外は、実施例1と同様にして被熱転写シートを作製し、各評価を行った。結果を表4、5に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
表4、5から明らかなように、各実施例で得られた被熱転写シートは、耐ブロッキング性、筆記性、糊付け性に優れていた。
なお、実施例9、10を比較すると、ステアリルアクリレート単位とメタクリル酸単位からなる共重合体(A−9)を用いた実施例9よりも、ステアリルアクリレート単位とメタクリル酸のトリエタノールアミン塩単位からなる共重合体(A−10)を用いた実施例10の方が、筆記性および糊付け性に優れていた。
また、Tgが30〜60℃であるアクリル系共重合体(B−1)、(B−2)を染料受容層に用いた実施例1〜13は、Tgが3℃であるアクリル系共重合体(B−3)を染料受容層に用いた実施例14に比べて、耐ブロッキング性に優れていた。
【0061】
一方、単量体(a1)とスチレンを共重合させた共重合体(A−14)をブロッキング防止層に用いた比較例1は、筆記性に劣っていた。
単量体(a1)単位20質量%と、単量体(a2)単位80質量%とからなる共重合体(A−15)をブロッキング防止層に用いた比較例2は、耐ブロッキング性に劣っていた。
単量体(a1)単位80質量%と、単量体(a2)単位20質量%とからなる共重合体(A−16)をブロッキング防止層に用いた比較例3は、筆記性、糊付け性に劣っていた。
炭素数15未満の直鎖アルキル基を有する重合性単量体と、単量体(a2)を共重合させた共重合体(A−17)〜(A−19)をブロッキング防止層に用いた比較例4〜6は、耐ブロッキング性に劣っていた。
【符号の説明】
【0062】
10:被熱転写シート、11:基材、12:染料受容層、13:ブロッキング防止層、14:断熱層、20:被熱転写シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数15以上の直鎖アルキル基を有する重合性単量体単位30〜70質量%と、極性基を有する重合性単量体単位30〜70質量%とからなる共重合体を含有することを特徴とするブロッキング防止剤。
【請求項2】
一方の面に染料受容層が形成される被熱転写シートの他方の面に塗工される、請求項1に記載のブロッキング防止剤。

【図1】
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【図2】
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