説明

ブロックサンプリング方法およびそれを使用したトレーサー試験方法

【課題】広い範囲の試験対象領域を撹乱することなく採取することができるブロックサンプリング方法およびトレーサー試験方法を提供する。
【解決手段】試験対象の原位置で孔間透水によるトレーサー試験を行う原位置トレーサー試験工程と、原位置トレーサー試験を行った試験対象領域5を原位置から切り出すブロックサンプリング工程と、切り出された試験対象領域5を用いて別途の試験場で室内透水によるトレーサー試験を行う室内トレーサー試験工程と、を備えてなるトレーサー試験方法であって、ブロックサンプリング工程は、試験対象領域5の周囲に沿って溝10を環状に形成するラインドリリング工程と、溝10に固化剤(モルタル12)を注入して固化させる固化工程と、溝10の周囲に切断面13を形成するブロック切断工程と、試験対象領域5をその外側部分14と一体のブロック15として搬出するブロック搬出工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑道掘削時や地下施設での調査研究段階において、特徴的な地質構造を対象に行うブロックサンプリング方法およびそれを使用したトレーサー試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
坑道掘削時や地下施設での調査研究段階においては、特徴的な地質構造を対象にトレーサー試験を実施し、その水理物質移行特性を取得して評価する。通常、トレーサー試験は、試験対象の原位置でのみ実施されることが多い。原位置トレーサー試験は、トレーサー溶液の注入孔と排出孔を、試験対象領域の端部あるいは中間部に形成して、トレーサー溶液を試験対象領域に流すことで行われる。しかし、原位置トレーサー試験では、試験対象の境界条件が不明確であることや、試験条件の制御が困難であることなどから、試験結果に不確実要素を含む場合があるという問題があった。
【0003】
そこで、近年では、原位置より試験対象領域を切り出して、室内トレーサー試験が行われている(例えば、特許文献1参照)。このように室内トレーサー試験を行えば、試験対象の境界条件が明確になり、且つ試験条件の制御を比較的簡単に行えるので、試験結果の信頼性が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−58136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来行われていた室内トレーサー試験は、数cm規模のコアスケールの試料(試験対象領域)を試験対象としており、試験結果の信頼性をさらに高めるための次のステップとして、採取する試料を1m規模程度にアップスケールすることが求められている。
【0006】
1m規模の試験対象領域を原位置から切り出すには、大口径の円筒形カッタビットを用いることが考えられる。しかし、試験対象が軟質な岩盤や亀裂を含むような岩盤の場合、試験対象領域を原位置から切り出す際に、カッタビットの摩擦等により岩盤が撹乱されて損傷し、岩盤の形状や亀裂の性状が維持できない可能性が考えられる。こうなると、正確な試験結果を得られない。さらに、試験対象領域の底面や奥側面を切断するには、周囲を掘削して掘り出す必要があり、多くの手間と時間を要する。
【0007】
以上のような観点から、本発明は、広い範囲の試験対象領域を撹乱することなく採取することができるブロックサンプリング方法およびトレーサー試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために創案された本発明は、試験対象の原位置で孔間透水によるトレーサー試験を行う原位置トレーサー試験工程と、原位置トレーサー試験を行った試験対象領域を原位置から切り出すブロックサンプリング工程と、切り出された前記試験対象領域を用いて別途の試験場で室内透水によるトレーサー試験を行う室内トレーサー試験工程と、を備えてなるトレーサー試験方法であって、前記ブロックサンプリング工程は、前記試験対象領域の周囲に沿って溝を環状に形成するラインドリリング工程と、前記溝に固化剤を注入して固化させる固化工程と、前記溝の周囲に切断面を形成するブロック切断工程と、前記試験対象領域をその外側部分と一体のブロックとして搬出するブロック搬出工程と、を備えていることを特徴とするトレーサー試験方法である。
【0009】
このような試験方法によれば、ブロックサンプリング工程において、試験対象領域の周囲を固化剤で保護しているので、ブロックの切断および搬出時に試験対象領域の撹乱を防止できその損傷を抑制できるので、室内トレーサー試験の精度向上を達成できる。また、原位置トレーサー試験と室内トレーサー試験の試験データを相互補完することで、試験結果の精度向上を達成できる。
【0010】
また、本発明は、前記原位置トレーサー試験工程では、トレーサー溶液を前記試験対象領域に注入する注入孔および前記トレーサー溶液を前記試験対象領域から排出する排出孔を、前記ブロックサンプリング工程において形成される環状の前記溝の形成予定位置にそれぞれ形成することを特徴とする。
【0011】
このような試験方法によれば、トレーサー溶液の注入孔および排出口を、溝の一部として利用できるので、溝の形成工程を低減できる。
【0012】
さらに、本発明は、試験対象領域を原位置から切り出すブロックサンプリング方法であって、前記試験対象領域の周囲に沿って溝を環状に形成するラインドリリング工程と、前記溝に固化剤を注入して固化させる固化工程と、前記溝の周囲に切断面を形成するブロック切断工程と、前記試験対象領域をその外側部分と一体のブロックとして搬出するブロック搬出工程と、を備えていることを特徴とするブロックサンプリング方法である。
【0013】
このようなブロックサンプリング方法によれば、試験対象領域の周囲を固化剤で保護しているので、ブロックの切断および搬出時に試験対象領域の撹乱を防止できその損傷を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブロックサンプリング方法およびトレーサー試験方法によれば、広い範囲の試験対象領域を撹乱することなく採取することができるとともに、次のような優れた効果を発揮することができる。
(1)試験対象領域の外周を固化し、ブロックサンプリングすることで、1m規模程度の大きなブロックとして切り出す(サンプリング)ことができる。
(2)また、固化のためのドリリングの位置(注入孔および排出口の位置)を工夫することにより、ドリリングの工数を低減できる。
(3)これらの効果あるサンプリングによって切り出したブロックを使用することにより、試験対象領域の原位置トレーサ試験と、室内トレーサ試験との相互補完を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法が行われる原位置を示した図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法の原位置トレーサー試験工程での原位置を示した平面図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第一状態を示した図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第二状態を示した図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第三状態を示した図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第四状態を示した図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図7】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第五状態を示した図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図8】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第六状態を示した図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図9】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程でのブロック切断工程を示した図であって、(a)〜(d)は、第一状態から第四状態を示した概略斜視図である。
【図10】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程でのブロック切断工程を示した図であって、(a)〜(d)は、第五状態から第八状態を示した概略斜視図である。
【図11】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程でのブロック切断工程を示した図であって、(a)〜(d)は、第九状態から第十二状態を示した概略斜視図である。
【図12】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程でのブロック切断工程に用いるプーリを示した斜視図である。
【図13】本発明の第一実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程でのブロックの吊上げ状態を示した斜視図である。
【図14】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法が行われる原位置を示した図であって、(a)は断面図、(b)は正面図である。
【図15】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法の原位置トレーサー試験工程での原位置を示した正面図である。
【図16】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第一状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図17】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第二状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図18】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第三状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図19】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第四状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図20】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第五状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図21】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第六状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図22】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第七状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【図23】本発明の第二実施形態に係るトレーサー試験方法のブロックサンプリング工程での原位置の第八状態を示した図であって、(a)は正面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための実施形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、第一実施形態では、試験対象領域を平面位置(床面)から切り出す場合を例に挙げて説明する。
【0017】
本実施形態に係るトレーサー試験方法は、原位置トレーサー試験工程と、ブロックサンプリング工程と、室内トレーサー試験工程と、を備えてなる。
【0018】
(原位置トレーサー試験工程)
原位置トレーサー試験工程は、試験対象の原位置で孔間透水によるトレーサー試験を行う工程である。原位置トレーサー試験工程では、まず、試錐調査や壁面観察調査などの結果から、亀裂の分類および水理特性との関連についてのデータ整理を行い、試験対象となる亀裂の条件を決定する。
【0019】
そして、図1に示すように、坑道1の床面2aや壁面2bなどの試料採取候補箇所から、決定された亀裂条件を満たす亀裂3を抽出し、試料(試験対象領域5)の採取が可能なことを確認した上で、試料採取位置4を決定する。試料採取位置4は、亀裂3の方位から出現深度を推定し、試験対象領域5の中央付近を亀裂3が通過するように決定する。その後、選定された亀裂3が実際に条件を満たしているか否かを、確認ボーリングを行って確認する。本実施形態では、試料採取位置4は床面2aに決定されている。本実施形態では、試験対象領域5は、1m四方の立方体に設定されている。なお、試験対象領域5の形状および大きさは、本実施形態のものに限定する趣旨ではない。
【0020】
次に、図1および図2に示すように、試験対象領域5の端部において、ボーリング調査を行う。ここで、掘削されるボーリング孔6,7は、試験対象領域5の端部にそれぞれ形成され、孔壁間距離が1m程度とされる。ボーリング孔6,7は、例えば、孔径76mmである。ボーリング孔6,7は、後述するブロックサンプリング工程によって形成される溝10(図4参照)の一部を兼ねる。つまり、ボーリング孔6,7は、溝10の形成予定位置10’(図2参照)に形成される。そして、掘削したボーリング孔6,7を利用して、想定した深度に対象の亀裂3が位置しているかの確認を行うとともに、想定した性状を有する亀裂3が試験対象領域5を貫通しているかの確認を行う。
【0021】
その後、図1に示すように、ボーリング孔6,7の内部で、亀裂3の上下位置にパッカー8を挿入して設置する。そして、亀裂3が床面2aから遠いボーリング孔6からトレーサー溶液を注入して、亀裂3が床面2aから近いボーリング孔7からトレーサー溶液を排出して原位置トレーサー試験を実施する。原位置トレーサー試験は、通常の試験方法と同等である。なお、トレーサー溶液に代えて水を用いても良く、本発明においては、水もトレーサー溶液の一種に含む。ここで、ボーリング孔6が、トレーサー溶液を試験対象領域5に注入する注入孔を構成し、ボーリング孔7が、トレーサー溶液を試験対象領域5から排出する排出孔を構成している。以上で、原位置トレーサー試験工程が終了する。
【0022】
なお、前記原位置トレーサー試験によって、亀裂3が繋がっていない等の結果が出て、室内トレーサー試験に不適格であると判断された場合は、以下のブロックサンプリング工程は行わずに、原位置トレーサー試験工程を最初から行って、他の試験対象領域5を探す。これによって、無駄なブロックサンプリング工程および室内トレーサー試験工程を行わずに済むので、試験のコストアップを抑制できる。
【0023】
(ブロックサンプリング工程)
ブロックサンプリング工程(ブロックサンプリング方法)は、原位置トレーサー試験を行った試験対象領域5を床面2aの原位置(図3参照)から切り出す工程である。ブロックサンプリング工程は、ラインドリリング工程と、固化工程と、ブロック切断工程と、ブロック搬出工程と、を備えている。
【0024】
ラインドリリング工程は、試験対象領域5の周囲に沿って溝10を環状に形成する工程である。図4の(a)に示すように、既に掘削されているボーリング孔6,7から順次ボーリング孔11の一部同士が重なるように連続して掘削する。ボーリング孔11は、先に形成されたボーリング孔6,7と同径(φ76mm)に形成され、一辺1m当たり約30本ずつ形成される。ボーリング孔11は、試験対象領域5に沿ってボーリング孔6,7間を結ぶように連設される。つまり、複数のボーリング孔11を連ねることで、試験対象領域5の外周面全周に渡って矩形枠状の溝10が形成される。図4の(b)に示すように、溝10は、試験対象領域5の底部より若干深い位置まで余掘りして形成される。
【0025】
ラインドリリングが完了した後、試験対象領域5の側面の状況を、BTV(ボアホールテレビ)等による観察で確認する。特に、試験対象領域5の底部付近における割れ目の存在等について状況を細かく把握しておく。
【0026】
次の固化工程は、図5に示すように、環状の溝10に固化剤を注入して固化させる工程である。固化剤を注入打設する前に、まず、ビニールシート等の不透水性シート32を試験対象領域5の外周面に密着するように布設する(図4参照)。不透水性シート32を設けることで、試験対象領域5に固化剤の水分が浸入するのを防止している。なお、本実施形態では、図の煩雑化を防止するために、不透水性シート32は、図4および図5のみに図示して、図6乃至図8では図示を省略している。固化剤は、強度が十分で、水分の影響を試験対象領域5に及ぼさず、固化過程において膨張、収縮、過度の発熱を生じなく、不透水性シート32と反応しないものが採用される。本実施形態では、固化剤としてモルタル12が用いられる。モルタル12を溝10の上端まで打設して充填する。そして、所定時間養生してモルタル12が固化し、試験対象領域5の周囲を囲む固化壁が形成されて、固化工程が終了する。なお、必要に応じて、モルタル12の充填前に、溝10内に鉄筋金網等を設置する場合もある。
【0027】
その後、ブロック切断工程に入る。ブロック切断工程は、環状の溝10の周囲に切断面13(図7および図8参照)を形成する工程である。言い換えれば、試験対象領域5と、その周囲の外側部分(溝10に形成された固化壁(モルタル12)と、この固化壁の周囲の地盤からなる緩衝部14)を含むブロック15(図7および図8参照)を切り出し可能に切断する工程である。緩衝部14は、固化壁の周囲の一定幅の地盤にて構成されており、切断時や搬送時の衝撃から内部の試験対象領域5を保護する部分である。緩衝部14は、試験対象領域5の下側にも形成されている(図7の(b)参照)。なお、本実施形態では、試験対象領域5の外側部分は、固化壁と緩衝部14とで構成されているが、試験対象領域5の保護効果を確保できるのであれば、前記外側部分を固化壁のみで構成してもよい。
【0028】
本実施形態では、ワイヤーソー17(図9乃至図11参照)を用いて、ブロック15の外周面(切断面13)の切断を行う。ブロック15の切断面13は、後記する第一切断側面S1,第二切断側面S2,第三切断側面S3,第四切断側面S4および切断底面Bによって構成されている。
【0029】
ブロック切断工程では、まず、図6に示すように、試験対象領域5の四隅から対角線方向外側に均等に離れた位置(ブロック15(図7参照)の四隅)の4箇所に、切断ガイド孔16を掘削する。切断ガイド孔16は、ワイヤーソー17やプーリ20が挿入される孔で、ワイヤーソー切断の切り口となる。プーリ20は、図13に示すような角度可変プーリが使用されるが、この角度可変プーリは、200mm程度の幅であるので、切断ガイド孔16は、孔径300mm程度とする(図6の(a)参照)。切断ガイド孔16の深さは、角度可変プーリの設置を考慮してブロック15の底面よりも、300mmの余掘りを行う(図6の(b)参照)。
【0030】
図12に示すように、ブロック切断工程で用いるプーリ(角度可変プーリ)20は、プーリ本体21を回転可能に支持する支持部材22が、ベアリング23を介して、ブラケット24に回動可能に支持されている。このような構成によって、プーリ本体21は、ベアリング23の軸回りにスイング可能となっている。
【0031】
次に、図9乃至図11を参照しながら、ワイヤーソー17によるブロック切断の工程を説明する。図9の(a)に示すように、第一切断側面S1の両側の切断ガイド孔(図9乃至図11では図示せず)に、ワイヤーソー17を掛け回したプーリ20を挿入する。そうすると、ワイヤーソー17は、第一切断側面S1の両側辺と上辺に架け渡される。
【0032】
そして、図9の(b)に示すように、ワイヤーソー17の両端部をそれぞれ引っ張ってワイヤーソー17に張力をかける。そうすると、プーリ20,20間のワイヤーソー17が下方に徐々に引き寄せられ、最終的に図9の(c)に示すように、第一切断側面S1が切断される。
【0033】
その後、図9の(d)に示すように、上方に延びているワイヤーソー17を、第一切断側面S1に直交する第二切断側面S2および第三切断側面S3の他端側(第一切断側面S1の逆側)へとそれぞれ折り返す。そして、第二切断側面S2および第三切断側面S3の他端側(第四切断側面S4側)で、新たに別途のプーリ20’,20’をそれぞれワイヤーソー17に掛けて設ける。
【0034】
そして、図10の(a)に示すように、新たに設けられたプーリ20’,20’を、第一切断側面S1と対向する第四切断側面S4の両側の切断ガイド孔(図示せず)にワイヤーソー17とともに挿入する。そうすると、ワイヤーソー17は、第二切断側面S2の両側辺と上辺に架け渡されるとともに、第三切断側面S3の両側辺と上辺に架け渡される。
【0035】
その後、ワイヤーソー17の両端部をそれぞれ引っ張ってワイヤーソー17に張力をかける。そうすると、図10の(a)に示すように、ワイヤーソー17が第二切断側面S2および第三切断側面S3の上部両端の角部から上下方向に切断を開始する。そして、図10の(b)に示すように、第二切断側面S2および第三切断側面S3の各々の両端に位置するプーリ20,20’間のワイヤーソー17が下方に徐々に引き寄せられる。その後、最終的に、図10の(c)に示すように、第二切断側面S2および第三切断側面S3が切断される。このとき、第一切断側面S1側のプーリ20,20は、垂直な状態(図10の(b)参照)から徐々に回動して最終的に水平な状態(図10の(c)参照)となる。
【0036】
次に、図10の(d)に示すように、ワイヤーソー17を第一切断側面S1側のプーリ20,20から取り外すとともに、第四切断側面S4側のプーリ20’,20’の位置調整を行う。このようにすると、ワイヤーソー17は、切断底面Bの第一辺(第一切断側面S1の底辺に相当)、第二辺(第二切断側面S2の底辺に相当)および第三辺(第三切断側面S3の底辺に相当)に架け渡される。
【0037】
その後、ワイヤーソー17の両端部をそれぞれ引っ張ってワイヤーソー17に張力をかける。そうすると、図10の(d)に示すように、ワイヤーソー17が切断底面Bの第一辺側両端の角部から水平方向に切断を開始する。そして、図11の(a)に示すように、プーリ20’,20’間のワイヤーソー17が、切断底面Bの第四辺(第四切断側面S4の底辺に相当)側に徐々に引き寄せられる。その後、最終的に、図11の(b)に示すように、切断底面Bが切断される。このとき、第四切断側面S4側のプーリ20’,20’は、第二切断側面S2および第三切断側面S3に平行な状態(図11の(a)参照)から徐々に回動して最終的に第四切断側面S4に略平行な状態(図11の(b)参照)となる。
【0038】
次に、図11の(c)に示すように、ワイヤーソー17を第四切断側面S4側のプーリ20’,20’から取り外す。このようにすると、ワイヤーソー17は、第四切断側面S4の両側辺と下辺に下側から上方に向かって架け渡される。
【0039】
その後、ワイヤーソー17の両端部をそれぞれ引っ張ってワイヤーソー17に張力をかける。そうすると、図11の(c)に示すように、ワイヤーソー17が第四切断側面S4の下部両端の角部から切断を開始する。そして、図11の(d)に示すように、ワイヤーソー17が上方に徐々に引き上げられる。その後、最終的に、ワイヤーソー17が上方に引き出され、第四切断側面S4が切断される。
【0040】
以上の工程によって、図7に示すように、緩衝部14の側面および底面に切断面13が形成され、ブロック15が切断・形成される。なお、ブロックサンプリング工程(ブロックサンプリング方法)は、以上の説明に限られるものではなく、たとえば、特開平06−148393号、特開平09−127295号に記載の方法を参照して利用することもできる。
【0041】
次に、ブロック搬出工程を行う。ブロック搬出工程は、試験対象領域5をその外側部分(固化壁と緩衝部14)と一体のブロック15として搬出する工程である。ブロック15を搬出するに際しては、まず、図8に示すように、溝10の緩衝部14の四隅近傍に、搬出用アンカー18を設ける。搬出用アンカー18の設置位置は、図8に図示したものに限定されるものではない。例えば、溝10内に充填されたモルタル12に設けてもよい。また、試験対象領域5が、ブロック15の表面から所定深さ離れた下部に位置する場合(試験対象領域5の上側に緩衝部が形成されている場合)は、図13に示すように、試験対象領域5の上方にも搬出用アンカー18を設けるようにすればよい。このようにすれば、多数の搬出用アンカー18でブロック15を支持できるので、搬出用アンカー18が打ち込まれる地盤表面への負担を軽減できる。図13の複数の搬出用アンカー18は、ブロック15の上方に配置された鉄板25に一括的に支持されている。鉄板25の上面の四隅にはウインチのワイヤーのフック(図示せず)を係止するための係止部材26が設けられている。
【0042】
搬出用アンカー18を設置したら、ブロック15の上方の坑道1の天端にアンカーボルトを介して滑車を取り付ける。そして、滑車にウインチから延びるワイヤーを掛け回して、その先端を、搬出用アンカー18または係止部材26に固定する。その後、ウインチを巻き上げて、ブロック15を坑道1の床面2aよりも上に吊り上げる。そして、ブロック15の下部の開口部(ブロック15の引抜跡)に山留め材を架け渡して敷設し、その上にブロック15を吊り下ろして仮置きする。坑道1の天端に盛り替え用の滑車を設けて、ブロック15を吊り上げながら水平移動させて、台車等の移送手段上に吊り下ろす。そして、ブロック15を立坑まで移動させて、適宜搬出する。なお、搬出方法は前記の工程に限定されるものではなく、ブロック15に負担が掛かりにくい方法であれば他の方法であってもよい。以上で、ブロックサンプリング工程が終了する。
【0043】
(室内トレーサー試験工程)
室内トレーサー試験工程は、切り出された前記試験対象領域を用いて別途の試験場で室内トレーサー試験を行う工程である。
【0044】
まず、原位置から採取したブロック15から、試験対象領域5を取り出す。そして、試験対象領域5にトレーサー溶液を注入して、亀裂3内を通過させて、排出されるトレーサー溶液を採取する。採取されたトレーサー溶液の濃度の時間変化から、亀裂の水理物質移行特性等を取得する。本実施形態では、1m四方の試験対象領域5のトレーサー試験を行えるため、従来のコアスケールのトレーサー試験では不可能であった試験中の試験対象領域5内の水圧分布やトレーサー濃度分布のモニタリングも可能となる。そして、試験対象領域5マトリクス内のモニタリングデータは、試験結果の評価に用いる解析モデルの検証などに活用することができる。なお、トレーサー試験の詳細な方法については、特許文献1に記載されており、本発明においても、特許文献1に記載のトレーサー試験装置を利用して測定することができる。
【0045】
以上のようなトレーサー試験方法(ブロックサンプリング方法)によれば、ブロックサンプリング工程において、試験対象領域5の周囲を固化剤(モルタル12)で保護しているので、その後のブロック15の切断および搬出時に試験対象領域の撹乱を防止できその損傷を抑制できる。また、ワイヤーソー17を利用して、ブロック15の周囲を切断しているので、ブロック15の底面も容易に切断することができる。さらに、地盤が堆積岩などの軟質岩盤であっても、1m四方規模の大型ブロックの採取が可能であり、一方、硬質岩盤においても、亀裂を含むような領域での大型ブロックの採取が可能である。
【0046】
以上のように、広い範囲の試験対象領域5を採取することができるので、コアスケールの試料では取得できなかった、各種データを取得することができるので、室内トレーサー試験の精度向上を達成できる。また、原位置トレーサー試験と室内トレーサー試験の試験データを相互補完することで、試験結果の精度をより一層向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態では、原位置トレーサー試験工程において、トレーサー溶液を試験対象領域5に注入する注入孔(ボーリング孔6)およびトレーサー溶液を試験対象領域5から排出する排出孔(ボーリング孔7)を、ブロックサンプリング工程において形成される環状の溝10の形成予定位置10’にそれぞれ形成している。つまり、固化のためのドリリング位置の設定を工夫することで、トレーサー溶液の注入孔および排出口を、溝10の一部として利用できるので、溝10の形成工程(ドリリングの工数)を低減できる。
【0048】
また、本実施形態では、試験対象領域5の外周に固化領域を設け、さらにその外周に試験対象領域5と同等の性質を持った領域(緩衝部14)を設けることで、サンプリングするブロック15の内部に特別な悪影響を与えずにサンプリングすることができる。
【0049】
以下、本発明を実施するための第二実施形態を図14乃至図23を参照しながら詳細に説明する。なお、第二実施形態では、試験対象領域を側面位置(壁面)から切り出す場合を例に挙げて説明する。
【0050】
第二実施形態に係るトレーサー試験方法も第一実施形態と同様に、原位置トレーサー試験工程と、ブロックサンプリング工程と、室内トレーサー試験工程と、を備えている。第二実施形態に係るトレーサー試験方法は、前記工程のうち、原位置トレーサー試験工程と、ブロックサンプリング工程が、第一実施形態と異なる。
【0051】
原位置トレーサー試験工程では、図14に示すように、坑道1の壁面2bにボーリング孔36,37を掘削する。ボーリング孔36,37は、壁面2bから水平方向に沿って掘削される。ボーリング孔36,37の孔径や孔間距離は第一実施形態と同等である。ボーリング孔36,37の掘削深さは試験対象領域5の位置に応じて決定される。図15に示すように、ボーリング孔36,37の掘削位置は、後述するブロックサンプリング工程によって形成される溝30(図19参照)の一部を兼ねる。つまり、ボーリング孔36,37は、溝30の形成予定位置30’に形成される。その後、第一実施形態と同等の手順で原位置トレーサー試験を実施する。
【0052】
ブロックサンプリング工程は、原位置トレーサー試験を行った試験対象領域5を壁面2bの原位置(図16参照)から切り出す工程である。ブロックサンプリング工程は、ラインドリリング工程と、固化工程と、ブロック切断工程と、ブロック搬出工程と、を備えている。
【0053】
本実施形態のラインドリリング工程では、図17に示すように、まず、試験対象領域5の下面に溝30の一辺(下辺部)30aを形成する。溝30は、複数のボーリング孔31を、その一部同士が重なるように連続して掘削することで形成される。ボーリング孔31の孔径や単位距離辺りの掘削本数は第一実施形態と同等である。溝30の下辺部30aは、両端が試験対象領域5の端部から外側に突出するように形成されている。その後、下辺部30aを除く他の三辺部(上辺部および両側辺部)のラインドリリングを行う前に、下辺部30aの固化工程を行う。
【0054】
下辺部30aの固化工程では、図18に示すように、下辺部30aの下側にテフロン(登録商標)シート33を布設する。また、試験対象領域5の下面(下辺部30aの上側)に、ビニールシート等の不透水性シート32を密着させて布設する。不透水性シート32は、試験対象領域5の地盤にモルタル12の水分が浸入しないように設けられている。テフロン(登録商標)シート33は、壁面2b内の地盤との摩擦抵抗が小さいので、後の工程でブロック15を壁面2bから引き出し易くするという効果を発揮する。その後、溝30の下辺部30aに、モルタル(固化剤)12を注入打設して固化させる。
【0055】
次に、図19に示すように、他の三辺部(上辺部30dおよび両側辺部30b,30c)のラインドリリングを行う。既に掘削されているボーリング孔36,37から順次ボーリング孔31の一部同士が重なるように連続して掘削する。ボーリング孔31の孔径や単位距離辺りの掘削本数は第一実施形態と同等である。
【0056】
その後、図20に示すように、他の三辺部30b,30c,30dの固化工程を行う。他の三辺部30b,30c,30dの固化工程でも、試験対象領域5を囲むように、ビニールシート等の不透水性シート32を密着させて布設する。三辺部30b,30c,30dに、モルタル(固化剤)12を注入打設して固化させる。なお、本実施形態では、図の煩雑化を防止するために、不透水性シート32は、図17乃至図20のみに図示して、図21乃至図23では図示を省略している。
【0057】
その後、ブロック切断工程に入る。ブロック切断工程は、環状の溝10の周囲に切断面13(図22および図23参照)を形成する工程である。言い換えれば、試験対象領域5と、その周囲の外側部分(溝10に形成された固化壁(モルタル12)と、この固化壁の周囲の地盤からなる緩衝部14)を含むブロック15(図7および図8参照)を切り出し可能に切断する工程である。本実施形態では、緩衝部14は、固化壁の上部および両側部の一定幅の地盤にて構成されており、下部には設けられていない。つまり、下側の切断面13は、固化壁の下面に位置している。これは、緩衝部14を省略させて、固化壁の下面に切断面13を形成することで、摩擦抵抗が小さいテフロン(登録商標)シート33が壁面2b(図14参照)内の地盤に対して露出して、後の工程でブロック15を壁面2bから引き出し易くするためである。緩衝部14は、試験対象領域5の奥側にも形成されている(図22の(b)参照)。
【0058】
ブロック切断工程では、まず、図21に示すように、試験対象領域5の四隅から対角線方向外側に均等に離れた位置(ブロック15の四隅)の4箇所に、切断ガイド孔16を掘削する。切断ガイド孔16は、水平方向に掘削する。下側の切断ガイド孔16は、下辺部30aの両端部に形成される。切断ガイド孔16の孔径や孔間距離は第一実施形態と同等である。
【0059】
ワイヤーソーおよびプーリの作動は、第一実施形態の切断工程と同等である。なお、第一実施形態における、第一切断側面S1を切断底面(第二実施形態)、第二切断側面S2および第三切断側面S3を切断両側面(第二実施形態)、第四切断側面S4を切断上面(第二実施形態)、切断底面Bを切断先端面(第二実施形態)と置き換えて、ワイヤーソーおよびプーリが第一実施形態と同等の動作をすることで、図22に示すように、切断面13を形成してブロック15が切断・形成される。ブロック15の下側の切断面13は、テフロン(登録商標)シート33の下側に位置して、テフロン(登録商標)シート33の表面を地盤に対して露出させるようになっている。
【0060】
その後、図23に示すように、試験対象領域5の外側部分の四隅近傍に、搬出用アンカー18を設けて、ブロック搬出工程を行う。ブロック搬出工程では、まず、ウインチ、滑車を用いて、坑道1(図14参照)内に向かって横方向に引き出す。このとき、ブロック15の下部には、テフロン(登録商標)シート33が壁面2b(図14参照)内の地盤に対して露出して設けられているので、ブロック15と地盤との摩擦抵抗が小さく、ブロック15の引き出しを容易に行うことができる。その後、ウインチ、滑車および移送手段等を適宜用いてブロック15を搬出する。そして、搬出されたブロック15から試験対象領域5を取り出して、第一実施形態と同様の室内トレーサー試験を行う。
【0061】
以上のような工程によれば、壁面2bからでも試験対象領域5を含むブロック15を撹乱することなく切断して採取することができるので、第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、トレーサー試験におけるブロックサンプリング方法を説明しているが、このブロックサンプリング方法は、トレーサー試験以外のサンプル採取にも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
5 試験対象領域
6 ボーリング孔(注入孔)
7 ボーリング孔(排出孔)
10 溝
10’ (溝の)形成予定位置
12 モルタル(固化剤)
13 切断面
15 ブロック
30 溝
30’ (溝の)形成予定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象の原位置で孔間透水によるトレーサー試験を行う原位置トレーサー試験工程と、
原位置トレーサー試験を行った試験対象領域を原位置から切り出すブロックサンプリング工程と、
切り出された前記試験対象領域を用いて別途の試験場で室内透水によるトレーサー試験を行う室内トレーサー試験工程と、を備えてなるトレーサー試験方法であって、
前記ブロックサンプリング工程は、
前記試験対象領域の周囲に沿って溝を環状に形成するラインドリリング工程と、
前記溝に固化剤を注入して固化させる固化工程と、
前記溝の周囲に切断面を形成するブロック切断工程と、
前記試験対象領域をその外側部分と一体のブロックとして搬出するブロック搬出工程と、を備えている
ことを特徴とするトレーサー試験方法。
【請求項2】
前記原位置トレーサー試験工程では、
トレーサー溶液を前記試験対象領域に注入する注入孔および前記トレーサー溶液を前記試験対象領域から排出する排出孔を、前記ブロックサンプリング工程において形成される環状の前記溝の形成予定位置にそれぞれ形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のトレーサー試験方法。
【請求項3】
試験対象領域を原位置から切り出すブロックサンプリング方法であって、
前記試験対象領域の周囲に沿って溝を環状に形成するラインドリリング工程と、
前記溝に固化剤を注入して固化させる固化工程と、
前記溝の周囲に切断面を形成するブロック切断工程と、
前記試験対象領域をその外側部分と一体のブロックとして搬出するブロック搬出工程と、を備えている
ことを特徴とするブロックサンプリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−179168(P2011−179168A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41541(P2010−41541)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)