説明

ブロックトメルカプトシランカップリング剤

【課題】新規メルカプトシランカップリング剤、例えば、タイヤの製造を意図するゴム組成物において補強用無機充填剤とジエンエラストマーをカップリングさせるのに特に使用し得るメルカプトシランカップリング剤を提供する。
【解決手段】本発明は、下記の一般式Iを有するブロックトメルカプトシランに関する:
(HO) R − Si − Z − S − C (= O) − A
(式中、Rは、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Aは、水素;または、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Zは、1〜18個の炭素原子を含む二価の結合基を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、タイヤの製造を意図するゴム組成物において補強用無機充填剤とジエンエラストマーをカップリングさせるのに特に使用し得るメルカプトシランカップリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
充填剤がもたらす最適の補強特性を得るためには、この充填剤が、エラストマーマトリックス内で、できる限り微細に分割され且つできる限り均一に分布する双方の最終形で存在しなければならないことは一般に知られている。しかしながら、そのような状態は、充填剤が、一方ではエラストマーとの混合中にエラストマーマトリックス中に取込まれ且つ解凝集し、さらに、他方ではこのマトリックス中で均一に分散する極めて良好な能力を有する場合にのみ達成され得る。
【0003】
周知のとおり、カーボンブラックはそのような能力を示すが、無機充填剤における場合は一般的ではない。事実、相互親和性のために、無機充填剤粒子は、エラストマーマトリックス内で一緒に凝集するという厄介な性向を有する。これらの相互作用は、充填剤の分散を制限し、ひいては、補強特性を、配合操作中に生じ得る全ての結合(無機充填剤/エラストマー)が実際に得られた場合に理論的に達成可能であるレベルよりも実質的に低いレベルに制限するという有害な結果を有する。さらにまた、これらの相互作用は、生状態のエラストマー組成物のコンシステンシーを増大させ、従って、エラストマー組成物の加工(“加工性”)をカーボンブラックの存在におけるよりも困難にする傾向を有する。
【0004】
しかしながら、燃料の節減および環境保護の必要性が優先事項となってきている以降でさえも、耐摩耗性に有害な効果を与えることなく低下した転がり抵抗性を有するタイヤを生産することの必要性が判明している。このことは、特に、補強の点で通常のタイヤ級カーボンブラックと拮抗し得ると共にこれらの組成物に低ヒステリシス(これらの組成物を含むタイヤにおける低転がり抵抗性と同義である)を付与することのできる補強用として特に説明されている無機充填剤によって補強された新規なゴム組成物の発見によって可能になってきている。
【0005】
シリカ質またはアルミナ質タイプの補強用無機充填剤を含むそのようなゴム組成物は、例えば、特許または特許出願EP‐A‐0501227号(またはUS‐A‐5227425号)、EP‐A‐0735088号(またはUS‐A‐5852099号)、EP‐A‐0810258号(またはUS‐A‐5900449号)、EP‐A‐0881252号、WO99/02590号、WO99/02601号、WO99/02602号、WO99/28376号、WO00/05300号およびWO00/05301号に記載されている。
【0006】
特に、高分散性沈降シリカによって補強したジエンゴム組成物を開示している文献EP‐A‐0501227号、EP‐A‐0735088号またはEP‐A‐0881252号が挙げられ、そのような組成物は、実質的に改良された転がり抵抗性を有するトレッドを、他の特性、特に、グリップ性、耐久性および耐摩耗性に悪影響を及ぼすことなく製造することを可能にしている。また、相反する特性のそのような妥協点を示すそのような組成物は、補強用無機充填剤として、特定の高分散性アルミナ質充填剤(アルミナまたは水酸化(酸化)アルミニウム)による出願EP‐A‐0810258号およびWO99/28376号において或いは補強用タイプの特定の酸化チタンを記載している出願WO00/73372号およびWO00/73373号においても記載されている。
【0007】
これらの特定の高分散性無機充填剤の使用は、主要補強用充填剤であれ或いはそうでないにしろ、これらの充填剤を含有するゴム組成物の加工の困難性は確かに減じてきているが、この加工性は、にもかかわらず、カーボンブラックを通常に充填したゴム組成物におけるよりも依然として困難なままである。
【0008】
特に、結合剤とも称するカップリング剤の使用を必要とする;このカップリングの役割は、無機充填剤粒子の表面とエラストマー間に結合をもたらすと共にこの無機充填剤のエラストマーマトリックス内での分散を容易にすることである。
【0009】
ここで、“カップリング剤”(無機充填剤/エラストマーカップリング剤)なる表現は、知られている通り、上記無機充填剤と上記ジエンエラストマー間に化学的および/または物理的性質を有する十分な結合を確立することのできる薬剤を意味するものとして理解すべきであることを再認識されたい;そのようなカップリング剤は、少なくとも二官能性であり、例えば、簡略化された一般式“Y‐W‐X”を有し、式中、
Yは、上記無機充填剤に物理的および/または化学的に結合させることのできる官能基(“Y”官能基)を示し、そのような結合は、例えば、上記カップリング剤のケイ素原子と上記無機充填剤の表面ヒドロキシル(OH)基(例えば、無機充填剤がシリカである場合の表面シラノール)間に確立され得;
Xは、例えば、イオウ原子によって、上記ジエンエラストマーに物理的および/または化学的に結合させことのできる官能基(“X”官能基)を示し;
Wは、YとXの連結を可能にする二価の基を示す。
【0010】
上記カップリング剤は、特に、上記無機充填剤に対しては活性なY官能基を知られているとおりに含み得るが、上記ジエンエラストマーに対しては活性なX官能基を欠いている上記無機充填剤を被覆するための単純な薬剤と混同すべきではない。
【0011】
カップリング剤、特に、シリカ/ジエンエラストマーカップリング剤は、多くの文献において記載されており、最も良く知られているのは、Y官能基としての少なくとも1個のアルコキシル官能基と、X官能基としての、例えば、硫化(即ち、イオウ含有)官能基のようなジエンエラストマーと反応し得る少なくとも1個の官能基とを担持する二官能性オルガノシランである。
【0012】
そのように、特許出願FR‐A‐2094859号またはGB‐A‐1310379号においては、メルカプトアルコキシシランカップリング剤をタイヤトレッドの製造において使用することが提案された。メルカプトアルコキシシランは優れたシリカ/エラストマーカップリング特性をもたらし得るが、これらのカップリング剤の工業的利用は、密閉ミキサー内でのゴム組成物の製造中に、生状態において極めて高粘度の“スコーチ化(scorching)”とも称する早期の加硫を極めて急速に生じ、最終的には、工業的に処理し加工するのはほぼ不可能であるゴム組成物を生じるチオール(‐SH)タイプの硫化官能基(X官能基)の極めて高い反応性のために可能でないことが直ぐに実証され、現在では周知のことである。この問題を説明するには、例えば、文献FR‐A‐2206330号、US‐A‐3873489号およびUS‐A‐4002594号を挙げることができる。
【0013】
この欠点を克服するために、これらのメルカプトアルコキシシランを、極めて多くの文献に記載されているように、アルコキシシランポリスルフィド、特に、ビス(アルコキシルシリルプロピル)ポリスルフィドと置き換えることが提案された(例えば、FR‐A‐2149339号、FR‐A‐2206330号、US‐A‐3842111号、US‐A‐3873489号、US‐A‐3997581号、EP‐A‐680997号またはUS‐A‐5650457号、EP‐A‐791622号またはUS‐A‐5733963号、DE‐A‐19951281号またはEP‐A‐1043357号およびWO00/53671号を参照されたい)。これらのポリスルフィドのうちでは、特に、ビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPTと略記する)およびビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPDと略記する)を挙げなければならない。
【0014】
これらのアルコキシシランポリスルフィド、特に、TESPTは、一般的に、補強用無機充填剤、特に、シリカを含む加硫物においては、スコーチ安全性、加工の容易性および補強力の点で最良の妥協点をもたらす製品であるとみなされている。これらのアルコキシシランポリスルフィドは、これらが比較的高価であり、さらにまた、通常比較的大量に使用しなければならないとしても、この点において、タイヤ用のゴム組成物において現在最も広く使用されているカップリング剤ではある。
【0015】
ジエンエラストマーのイオウによる加硫は、ゴム工業、特に、タイヤ工業において広く使用されている。ジエンエラストマーを加硫するためには、イオウ以外に、種々の加硫促進剤を、さらにまた、1種以上の加硫活性化剤、特に、亜鉛の誘導体、例えば、酸化亜鉛(ZnO)または脂肪酸の亜鉛塩(ステアリン酸亜鉛のような)を含む比較的複雑な加硫系を使用する。
【0016】
タイヤ製造業の中期的目的は、亜鉛またはその誘導体を、これらの化合物の、特に水および水生生物に対する既知の相対的な毒性故に、ゴム配合物から排除することである (1996年12月9日のEuropean Directive 67/548/EECに従う区分R50)。
【0017】
しかしながら、特にシリカのような無機充填剤で補強したゴム組成物における酸化亜鉛の排除は、生状態のゴム組成物の加工特性を、工業的見地からは許容し得ないスコーチ時間の短縮でもって、極めて大きく悪化させることが判明している。“スコーチ化”現象は、密閉ミキサー内でのゴム組成物の製造中に、生状態において極めて高粘度の早期加硫(“スコーチ”)を、最終的には、工業的に処理し加工するのがほぼ不可能であるゴム組成物を極めて急速に生じることを思い起こされたい。
現在のところ、TESPTカップリング剤は、亜鉛を含まないまたは亜鉛をほぼ含まない組成物に対しては適していない。
【発明の概要】
【0018】
これに対して、本出願人等は、研究中に、予期に反して、これらの欠点の全てを克服することを可能にする新規で且つ特定のブロックトメルカプトシランを見出し、従って、特に、これらのブロックトメルカプトシランを、シリカのような無機充填剤で補強するゴム組成物用のカップリング剤として、亜鉛の不存在下または極めて少量の亜鉛の存在下に、亜鉛を他の金属と置き換えることなく、また、ゴム組成物をその工業的加工中の早期スコーチの問題から保護しながら使用することを可能とした。
【0019】
ここで、ブロックトメルカプトシランは、当業者にとっては周知であるように、ゴム組成物の製造中にメルカプトシランを形成することができるシランプレカーサーであることを想い起こされたい (例えば、US 2002/0115767 A1号または国際出願WO 02/48256号を参照されたい)。以下ブロックトメルカプトシランと称するこれらのシランプレカーサーの分子は、相応するメルカプトシランの水素原子の代りに保護基を有する。上記ブロックトメルカプトシランは、配合および硬化中に上記保護基を水素原子で置換することによって離脱させて、炭素原子に結合させた少なくとも1個のチオール(‐SH) (メルカプト‐)基と少なくとも1個のケイ素原子を含有する分子構造を有するシランとして定義するより反応性のメルカプトシランの形成をもたらすことができる。これらのブロックトメルカプトシランカップリング剤は、単独またはブロックトメルカプトシラン活性化剤の存在下に使用し得る;ブロックトメルカプトシラン活性化剤の役割は、ブロックトメルカプトシランの活性を開始させ、促進しまたは増強させることである。
【0020】
従って、本発明の第1の主題は、下記の一般式(I)を有するブロックトメルカプトシランに関する:
(HO)2 R1 − Si − Z − S − C (= O) − A
(式中、R1は、同一または異なるものであり、各々、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Aは、水素;または、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Zは、1〜18個の炭素原子を含む二価の結合基を示す)。
【0021】
本発明のさらなる主題は、下記の工程を含むことを特徴とする、上記一般式(I)のメルカプトシランの製造方法である:
下記の式(B)のブロックトメルカプトシラン(以下、生成物B)から出発する工程:
(R2O)2 R1 − Si − Z − S − C (= O) − A
(式中、R1、AおよびZは、式(I)におけるのと同じ意味を有し;
R2は、同一または異なるものであって、1〜6個、好ましくは1〜3個の炭素原子を有するアルキルから選ばれる一価の炭化水素系基を示す);
加水分解を、目的とする式(I)のブロックトメルカプトシランを生じさせるのを可能にする酸媒質中で実施する工程。
【0022】
本発明のもう1つの主題は、本発明に従うブロックトメルカプトシランの、カップリング剤としての、特に、ゴム組成物における(無機充填剤/ジエンエラストマー)カップリング剤としての使用である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
I. 使用する測定および試験法
上記カップリング剤を試験するゴム組成物は、以下で示すように、硬化の前後において特性決定する。
I‐1. ムーニー可塑度
フランス規格NF T 43‐005(1991年)に記載されているような振動(oscillating)稠度計を使用する。ムーニー可塑度測定は、次の原理に従って実施する:生状態(即ち、硬化前)の組成物を100℃に加熱した円筒状の室内で成形する。1分間の予熱後、ローターが試験標本内で2rpmにて回転し、この運動を維持するための仕事トルクを4分間の回転後に測定する。ムーニー可塑度(ML 1 + 4)は、“ムーニー単位”(MU、1MU = 0.83ニュートン.メートル)で表す。
【0024】
I‐2. スコーチ時間
測定は、フランス規格NF T 43‐005に従い130℃で実施する。時間の関数としての稠度測定指数(consistometric index)の変化は、分で表すパラメーターT5 (大ローターの場合)によって上記規格に従って評価し、且つこの指数について測定した最低値よりも5単位高い稠度測定指数の増加(MUで示す)を得るのに必要な時間として定義したゴム組成物のスコーチ時間を判定するのを可能にする。
【0025】
I‐3. 動的特性
動的特性ΔG*およびtan(δ)maxは、規格ASTM D 5992‐96に従って、粘度アナライザー(Metravib VA4000)において測定する。単純な交互正弦剪断応力に10Hzの周波数で23℃または40℃で供した加硫組成物のサンプル(厚さ4mmおよび400mm2の断面積を有する円筒状試験片)の応答を記録する。0.1%から50%まで(前進サイクル)、次いで、50%から1%まで(戻りサイクル)の範囲の歪み振幅による走査を実施する。使用する結果は、複素動的剪断モジュラス(G*)および損失係数tan(δ)である。戻りサイクルにおいて、観察されたtanδの最高値(tan(δ)max)、さらにまた、0.15%歪みでの値と50%歪みでの値の間における複素モジュラスの差(ΔG*) (パイネ効果)が示される。
【0026】
II. 発明を実施するための条件
II‐1. 本発明のブロックトメルカプトシラン
本発明の第1の主題は、下記の一般式(I)のメルカプトシランである:
(HO)2 R1 − Si − Z − S − C (= O) − A
(式中、R1は、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Aは、水素;または、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Zは、1〜18個の炭素原子を含む二価の結合基を示す)。
【0027】
Zは、O、SおよびNから選ばれる1個以上のヘテロ原子を含有し得る。
有利には、
R1は、メチル、エチル、n‐プロピルおよびイソプロピルから、好ましくはメチルおよびエチルから選ばれ;
Aは、1〜18個の炭素原子を有するアルキルおよびフェニル基から選ばれ;
Zは、C1〜C18アルキレンおよびC6〜C12アリーレンから選ばれる。
【0028】
1つの実施態様によれば、ZはC1〜C10アルキレンから選ばれ、より好ましくは、ZはC1〜C4アルキレンから選ばれる。
もう1つの実施態様によれば、R1はメチルである。
好ましくは、Aは、1〜7個の炭素原子を有するアルキルおよびフェニル基から選ばれる。
特に、S‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランが挙げられ、その式(I)では、R1がメチルであり、Zがプロピレンであり、Aがヘプチルである。
【0029】
II‐2. 合成方法
上記式(I)のブロックトメルカプトシランを調製するための本発明に従う方法は、下記の工程を含む:
下記の式(B)のブロックトメルカプトシラン(以下、生成物B)から出発する工程:
(R2O)2 R1 − Si − Z − S − C (= O) − A
(式中、R1は、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
R2は、同一または異なるものであって、1〜6個、好ましくは1〜3個の炭素原子を有するアルキルから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Aは、水素;または、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Zは、1〜18個の炭素原子を含む二価の結合基を示す)。
【0030】
生成物Bは、特に、チオエステル化を受けさせることによって、“保護されていない”メルカプトシランから取得し得ることに留意されたい。
加水分解は、目的とする式(I)のブロックトメルカプトシランを生じさせるのを可能にする酸媒質中で実施する。
【0031】
II‐3. カップリング剤としての使用
上述したように、本発明の化合物は、その二重官能性により、例えば、反応性ポリマーマトリックス(特に、ゴムマトリックス)とヒドロキシル化表面、特に、鉱質(例えば、ガラス繊維)または金属(例えば、炭素鋼またはステンレス鋼ワイヤー)表面を有する任意の物質との間に結合または接着をもたらすことを意図するカップリング剤としての有利な工業的応用を見出している。
【0032】
制限するものではないが、本発明の化合物は、例えば、タイヤの製造を意図するゴム組成物において補強用無機または白色充填剤とジエンエラストマーとをカップリングさせるのに使用し得る。“補強用無機充填剤”なる表現は、知られている通り、カーボンブラックに対比して“白色充填剤”または“透明充填剤”としも知られている、その色合およびその起原(天然または合成)の如何にかかわらない無機または鉱質充填剤を意味するものと理解されたい;この無機充填剤は、それ自体単独で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、タイヤ製造を意図するゴム組成物を補強し得、換言すれば、通常のタイヤ級カーボンブラックとその補強役割において置換わり得る。
【0033】
そのような使用においては、上記ジエンエラストマーは、その場合、好ましくは、ポリブタジエン(BR)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエン‐スチレンコポリマー(SBR)、ブタジエン‐イソプレンコポリマー(BIR)、ブタジエン‐アクリロニトリルコポリマー(NBR)、イソプレン‐スチレンコポリマー(SIR)、ブタジエン‐スチレン‐イソプレンコポリマー(SBIR)およびこれらのエラストマーのブレンドからなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択する。
【0034】
本発明のモノヒドロキシシランを、例えば、乗用車タイヤトレッドの全てまたは一部を構成するゴム組成物における(無機充填剤/ジエンエラストマー)カップリングを意図する場合、ジエンエラストマーは、好ましくは、SBR、またはSBRと他のジエンエラストマー、例えば、BR、NRまたはIRとのブレンド(混合物)である。SBRエラストマーの場合は、特に、20質量%と30質量%の間の量のスチレン含有量、15%と65%との間の量のブタジエン成分ビニル結合含有量、15%と75%の間の量のトランス‐1,4‐結合含有量および−20℃と−55℃の間のガラス転移温度(Tg、規格ASTM D3418‐82に従って測定)を有するSBRを使用する;このSBRコポリマーは、好ましくは、溶液中で調製し(SSBR)、必要に応じて、好ましくは90%よりも多いシス‐1,4‐結合を有するポリブタジエン (BR)との混合物として使用する。
【0035】
上記トレッドを、重量車両タイヤのような実用車両タイヤに意図する場合、ジエンエラストマーは、好ましくは、イソプレンエラストマー、換言すれば、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、各種イソプレンコポリマーおよびこれらエラストマーの混合物からなる群から選ばれるジエンエラストマーである;その場合、ジエンエラストマーは、さらに好ましくは、天然ゴム、または90%よりも多い、さらにより好ましくは98%よりも多いシス‐1,4‐結合含有量(モル%)を有するシス‐1,4‐タイプの合成ポリイソプレンである。
【0036】
本発明のブロックトメルカプトシランは、それ自体、1phr (エラストマーの100質量部当りの質量部)よりも多い、より好ましくは2phrと20phrとの間の好ましい含有量で使用したジエンエラストマーとシリカのような補強用無機充填剤とのカップリングにおいて十分に有効であることが判明している。本発明のブロックトメルカプトシランは、有利なことに、無機充填剤で補強しタイヤの製造を意図するゴム組成物中に存在する単独のカップリング剤を構成し得る。
【0037】
補強用無機充填剤としては、特に、上述の特許または特許出願において記載されているような、シリカ質タイプ、特に、シリカ(SiO2)、またはアルミナ質タイプ、特に、アルミナ(Al2O3)または水酸化(酸化)アルミニウム、或いは補強用酸化チタンの鉱質充填剤を挙げられる。
【0038】
III. 本発明の典型的な実施態様
下記の試験においては、本発明を、本発明に従う特定のブロックトメルカプトシラン、即ち、S‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランによって実施した。
【0039】
III‐1. S‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランの合成
【化1】

【0040】
a) CAS番号 [828241‐23‐2]を有するS‐オクタノイルメルカプトプロピルジメトキシメチルシランの調製
中間体生成物Gを、出願WO 2005/007660号に記載された手順に従って2相媒質中で調製し得る。もう1つの可能性は、上記生成物を下記の手順に従い調製することからなる。
【化2】

【0041】
塩化オクタノイル (18.0g、0.111モル)を、不活性雰囲気下に5℃に保ったシクロヘキサン(200mL)中のCAS番号[31001‐77‐1]を有する3‐メルカプトプロピルジメトキシメチルシランF (20.0g、0.111モル)およびトリエチルアミン (11.2g、0.111モル)の溶液に30分に亘って滴下して添加する。反応媒質の温度は、5℃と8℃の間である。その後、反応媒質を室温で15時間撹拌する。トリエチルアミン塩酸塩Et3N・HClの沈降物をセライト上で濾過する。溶媒を減圧下に25℃で蒸発させた後、CAS番号[828241‐23‐2]を有するS‐オクタノイルメルカプトプロピルジメトキシメチルシランG (32.6g、0.106モル)が、無色油状物の形で96%の収率でもって得られる。
NMR分析によって、得られた生成物の構造を98%のモル純度でもって確認する。
【0042】
b) S‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランの調製
【化3】

【0043】
S‐オクタノイルメルカプトプロピルジメトキシメチルシランG (42.0g、0.137モル)を、0.5%の酢酸、水 (85mL)およびエタノール (250mL)の混合物に添加する。溶液を室温で4時間撹拌し、その後、混合物を、水(1600mL)中の塩化ナトリウム(70g)の溶液中に注ぎ込む。生成物をジエチルエーテル (2×250mL)で抽出する。溶媒を減圧下に15℃で蒸発させた後、得られた固形物を、−20℃のペンタン (400mL)中で4〜5時間再結晶させる。結晶を濾過し、フィルター上で30分間、次いで、減圧下に2〜3時間乾燥させる。得られた生成物(24.9g)は、63℃の融点を有する。濾液を減圧下に15℃で蒸発させた後、得られた残留物を、ペンタン(80mL)中で−20℃にて二回目の再結晶化を4〜5時間行う。この二回目の画分 (6.5g)は、63℃の融点を有する。
【0044】
上記2つの画分を混ぜ合せ、次いで、石油エーテル(600mL)とエタノール (10mL)の混合物中で12時間再結晶させる。濾過し、その後、残留溶媒を減圧下に2〜3時間蒸発させた後、65℃の融点を有する白色固形物(25.8g、0.093モル、68%の収率)を得る。
【0045】
NMR分析によって、得られたS‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランHの構造を93.5%よりも高いモル純度でもって確認する。
より高純度が必要であれば、石油エーテル(500mL)とエタノール(7mL)の混合物中での15時間の最終結晶化が、99%よりも高いモル純度を有する固形物(16.9g、44%の収率) (融点66℃)を得ることを可能にする。
【0046】
III‐2. ゴム組成物の製造
下記の試験を、以下の方法で実施する:ジエンエラストマー(SBRとBRとのブレンド)、少量のカーボンブラックを加えたシリカ、カップリング剤を、その後、1〜2分の混錬後、加硫系を除いた各種他の成分を、70%満たし且つ約90℃の初期容器温度を有する密閉ミキサーに導入する。その後、熱機械加工(非生産段階)を、1工程(およそ5分に等しい総混錬時間)で、約165℃の最高“落下”温度に達するまで実施する。そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、その後、被覆剤(存在する場合)および加硫系(イオウおよびスルフェンアミド促進剤)を、70℃の開放ミキサー(ホモ・フィニッシャー)に添加し、混ぜ合せた混合物をおよそ5〜6分間混合する(生産段階)。
【0047】
そのようにして得られた組成物を、その後、その物理的または機械的性質の測定のためのゴムのシート(2〜3mm厚)または薄フィルムの形に、或いは、所望寸法に切断および/または組立てた後に、例えば、タイヤ用の半製品として、特に、タイヤトレッドとして直接使用することができる形状要素の形にカレンダー加工する。
【0048】
III‐3. ゴム組成物の特性決定
この試験の目的は、亜鉛を含まないまたは亜鉛が存在し、本発明に従うブロックトメルカプトシランを含むゴム組成物の改良された性質を、亜鉛を含む“通常の”ゴム組成物および亜鉛は含まないが補強用充填剤としてシリカを含むタイヤトレッド用のゴム組成物において通常使用するカップリング剤を使用しているゴム組成物と比較して実証することである。
【0049】
このため、ジエンエラストマー(SBR/BRブレンド)をベースとし、高分散性シリカ (HDS)で補強した6通りの組成物を調製した。これらの組成物は、下記の技術的特性において本質的に異なる:
・組成物C1は、亜鉛 (1.5phrのZnO)およびカップリング剤としての化合物TESPT (品名:“Si69”)を含有する“通常の”対照組成物である;
・組成物C2は、組成物C1に相応するが亜鉛を含まない;
・組成物C3は、亜鉛を含まず、タイヤトレッドにおいて頻繁に使用されている化合物MESPT (品名“RP74”)をカップリング剤として含む;
・組成物C4は、亜鉛を含まず、本発明とは異なるブロックトメルカプトシラン (品名“Silane NXT”)をカップリング剤として含む;
・組成物C5は、カップリング剤として、本発明に従うブロックトメルカプトシラン、即ち、S‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランを含み、亜鉛は含まない;
・組成物C6は、カップリング剤として本発明に従うブロックトメルカプトシラン、即ちS‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランを含み、さらにまた、通常の組成物C1と同じ形で亜鉛(1.5phrのZnO)も含む。
組成物C1〜C6の性質を比較し得るためには、組成物C2〜C6のカップリング剤は、対照組成物C1と対比してケイ素において等モルである含有量で使用する。
【0050】
対照組成物C1において使用するカップリング剤はTESPTである。TESPTは、下記の構造式を有するビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドであることを思い起こされたい(Et = エチル):
【化4】

【0051】
組成物C3において使用するカップリング剤はMESPTである。MESPTは、下記の構造式を有するビス(3‐ジメチルエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドであることを思い起こされたい (Et = エチル):
【化5】

【0052】
組成物C4において使用するカップリング剤は、シランNXTである。NXTは、下記の構造式を有するS‐オクタノイルメルカプトプロピルトリエトキシシランであることを思い起こされたい (Et = エチル):
【化6】

【0053】
表1および2は、上記各種組成物の配合(表1;phr、即ち、エラストマー100質量部当りの質量部で表す各種成分の含有量)および硬化(150℃で約40分)前後のこれら組成物の諸性質を示している;加硫系は、イオウとスルフェンアミドからなる。
【0054】
硬化前の性質に関する表2からの結果を、先ずは、通常に使用する含有量の亜鉛を含有する対照組成物C1と比較して検証するに、本発明に従うメルカプトシランを使用する組成物、即ち、C5のみが、許容し得るスコーチ時間T5 (C1のスコーチ時間と実質的に同じ)を維持すると共に組成物の加工性を有意に改良する(組成物C1におけるよりもはるかに低いムーニー値)ことの双方を可能にしていることが明らかである。
【0055】
他の組成物C2、C3またはC4は、あまりにも短が過ぎるスコーチ時間、さらにまた、組成物C2およびC3においては、未硬化状態での極めて高い粘度(極めて高いムーニー値)を有するために、タイヤにおけるその使用について許容し得ない性質を有している。
【0056】
さらにまた、これらの組成物の硬化後の性質を観察すれば、本発明に従うブロックトメルカプトシランを使用している組成物C5においては、対照組成物C1と比較して、実質的に低下しているtan(δ)maxとΔG*の値によって裏付けられているように、実質的に低下したヒステリシスが全く顕著に示されている。このヒステリシスの低下は、タイヤの転がり抵抗性の低下、ひいては、そのようなタイヤを装着した自動車のエネルギー消費における節減の認識された指標である。
【0057】
また、本発明に従わない組成物C4も、組成物C1と比較して、低下したヒステリシスを有するに注目し得るが、この特性は、この場合、組成物C4をタイヤにおいて使用不可にしている組成物C4の極めて短いスコーチ時間を考慮すれば、使用することはできない。
【0058】
通常の組成物C1と本発明に従う組成物C6を比較すると、本発明に従う組成物C6における加工特性 (ムーニー)、スコーチ時間 (30よりも高いT5)およびヒステリシス(tan(δ)maxとΔG*の値の低下)の改良は明白である。
従って、亜鉛を含むより一般的な配合においてさえ、本発明に従うカップリング剤の存在は、このカップリング剤を含むゴム組成物の指標である諸性質の顕著な改良を可能にしていることは明白である。
【0059】
また、カップリング剤として式(I)のブロックトメルカプトシランの含む本発明に従う組成物は、ブロックされているが本発明の化学式と異なる化学式を有するメルカプトシランのような他のカップリング剤を含む組成物とは異なり、亜鉛を使用しなくても、通常の対照組成物と比較して同等または幾分改良されている性質(加工性、ヒステリシス)を得るのを可能にしていること明白に示しているようである。
【0060】
さらにまた、本発明に従うブロックトメルカプトシランの使用は、環境の点においても特に有益であることに注目し得る。本発明に従うブロックトメルカプトシランは、亜鉛の排除による問題を克服し且つVOC (揮発性有機化合物)類の放出問題を解決することの双方を可能にしている。事実、本発明に従うブロックトメルカプトシランは、ゴム組成物自体の製造中およびこれら組成物を取込んでいるゴム物品の硬化中の双方におけるアルコール(TESPTの場合はエタノール)の実際の放出源であるアルコキシ基(例えば、TESPTのエトキシ基)を有していない。
【0061】
表1

(1) 25%のスチレン、59%の1,2‐ポリブタジエン単位および20%のトランス‐1,4‐ポリブタジエン単位を含むSSBR (Tg = −24℃);乾燥SBRとして表した含有量 (9%のMESオイルで増量したSBR、即ち、76phrに等しいSSBR+オイルの合計量);
(2) 0.7%の1,2‐、1.7%のトランス‐1,4‐、98%のシス‐1,4‐を含むBR (Nd) (Tg = −105℃);
(3) 微小真珠形状のRhodia社からの“ZEOSIL 1165MP”シリカ (BETおよびCTAB:約150〜160m2/g);
(4) TESPT (Degussa社からの“SI69”);
(5) MESPT (Rhodia社からの“RP74”);
(6) S‐オクタノイルメルカプトプロピルトリエトキシシラン (GE Silicones社からの“シランNXTTM”);
(7) S‐オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシラン (合成生成物);
(8) N234 (Degussa社);
(9) MESオイル (Shell社からの“Catenex SNR”);
(10) ポリリモネン樹脂 (DRT 社からの“Dercolyte L120”);
(11) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からのPerkacit DPG);
(12) 粗結晶性と微結晶性のオゾン劣化防止ワックスの混合物;
(13) 酸化亜鉛 (工業級;Umicore社);
(14) N‐1,3‐ジメチルブチル‐N‐フェニル‐パラ‐フェニレンジアミン (Flexsys社からの“Santoflex 6‐PPD”);
(15) ステアリン (“Pristerene 4931”;Uniqema社);
(16) N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド (Flexsys社からの“Santocure CBS”)。
【0062】
表2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式Iを有するブロックトメルカプトシラン:
(HO)2 R1 − Si − Z − S − C (= O) − A
(式中、R1は、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Aは、水素;或いは、1〜18個の炭素原子を有する、線状または枝分れであるアルキル、シクロアルキルまたはアリールから選ばれる一価の炭化水素系基を示し;
Zは、1〜18個の炭素原子を含む二価の結合基を示す)。
【請求項2】
Zが、O、SおよびNから選ばれる1個以上のヘテロ原子を含有する、請求項1記載のメルカプトシラン。
【請求項3】
R1が、メチル、エチル、n‐プロピルおよびイソプロピルから、好ましくはメチルおよびエチルから選ばれ;
Aが、1〜18個の炭素原子を有するアルキルおよびフェニル基から選ばれ;
Zが、C1〜C18アルキレンおよびC6〜C12アリーレンから選ばれる、請求項1および2のいずれか1項記載のメルカプトシラン。
【請求項4】
Zが、C1〜C10アルキレンから選ばれる、請求項3記載のメルカプトシラン。
【請求項5】
Zが、C1〜C4アルキレンから選ばれる、請求項4記載のメルカプトシラン。
【請求項6】
R1が、メチルである、請求項3〜5のいずれか1項記載のメルカプトシラン。
【請求項7】
Aが、1〜7個の炭素原子を有するアルキルおよびフェニル基から選ばれる、請求項3〜6のいずれか1項記載のメルカプトシラン。
【請求項8】
R1がメチルであり、Zがプロピレンであり、Aがヘプチルである、請求項3〜7のいずれか1項記載のメルカプトシラン。
【請求項9】
下記の工程を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載のメルカプトシランの製造方法:
下記の式(B)を有するブロックトメルカプトシラン(以下、生成物B)から出発する工程:
(R2O)2 R1 − Si − Z − S − C (= O) − A
(式中、R1、AおよびZは、式(I)におけるのと同じ意味を有し;
R2は、同一または異なるものであって、1〜6個、好ましくは1〜3個の炭素原子を有するアルキルから選ばれる一価の炭化水素系基を示す);
加水分解を、目的とする式(I)のブロックトメルカプトシランを生じさせるのを可能にする酸媒質中で実施する工程。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載のメルカプトシランの、カップリング剤としての使用。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のメルカプトシランの、ゴム組成物におけるカップリング剤としての使用。

【公表番号】特表2012−513441(P2012−513441A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542791(P2011−542791)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067554
【国際公開番号】WO2010/072685
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】