説明

ブロックポリイソシアネート組成物

【課題】低温硬化性を有し、密着性、耐酸性及び塗膜伸度を有する塗膜を与えることができるブロックポリイソシアネート組成物、並びにこれを含む塗料組成物の提供。
【解決手段】脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマー、数平均分子量300〜2000のポリカーボネートジオール、並びにブロック剤から得られる、下記条件をすべて満足する、ブロックポリイソシアネート組成物。
1)ブロックされたジイソシアネートモノマー3量体成分濃度:5〜50質量%
2)ポリカーボネートジオール成分濃度:3〜30質量%
3)ジオール1分子、ジイソシアネートモノマー3量体2分子及びブロック剤4分子から誘導されたブロックポリイソシアネート濃度:3〜30質量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温硬化性を有し、良好な耐酸性、塗膜伸度及び密着性を有する塗膜を与えることができるブロックポリイソシアネート組成物、並びにこれを含む塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソシアネートを硬化剤としたウレタン系塗料組成物から得られる塗膜は、耐薬品性、かとう性等の点で優れている。特に、脂肪族、脂環族ジイソシアネートから得られるポリイソシアネートを使用した場合、更に耐候性が優れた塗膜を得ることができる。それ故、その使用は、常温硬化性の2液ウレタン塗料、熱硬化性の1液ウレタン塗料の形態で、建築、重防、自動車、工業用及びその補修など多岐にわたっている。
【0003】
熱硬化性の1液ウレタン塗料は、常温で反応することなく、貯蔵安定性に優れているため、2液ウレタン塗料のようにポリオールとポリイソシアネートを直前に混合する必要性がなく、作業性に優れている。このような1液ウレタン塗料としては、例えば、特定のブロック剤を使用したブロックポリイソシアネート組成物が提案されている(特許文献1)。
【0004】
プラスチック、薄板など被塗物が変形する場合は、この変形に追従するため、その塗膜は伸度が必要である。対処法として、ポリオールの設計が挙げられるが、その適用には制限があった。また、塗膜伸度を付与できる特定のポリイソシアネートが開示されている(特許文献2)。しかし、これを使用して得られる塗膜の伸度は大きいものの、これを使用したブロックポリイソシアネート組成物の硬化温度は高く、これから得られる塗膜の耐酸性は充分でなく、その使用が制限されていた。また、基材への更なる密着性は、塗膜に必要とされる重要な機能となっている。
【0005】
従来の伸度の大きな塗膜は、架橋密度が低く、耐酸性が劣っていた。従って、伸度が大きく、かつ耐酸性のある塗膜を形成するブロックポリイソシアネートが切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州公開第0159117号公報
【特許文献2】特開昭61−28518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低温硬化性を有し、良好な耐酸性、塗膜伸度及び密着性を有する塗膜を与えることができるブロックポリイソシアネート組成物、並びにこれを含む塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリカーボネートジオールとジイソシアネートモノマー3量体が反応した骨格を有するブロックポリイソシアネート成分などを含む、特定のブロックポリイソシアネート組成物を使用することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
[1].脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマー、数平均分子量300〜2000のポリカーボネートジオール、並びにブロック剤から得られる、下記条件をすべて満足する、ブロックポリイソシアネート組成物。
1)ブロックされたジイソシアネートモノマー3量体成分濃度:5〜50質量%
2)ポリカーボネートジオール成分濃度:3〜30質量%
3)ポリカーボネートジオール1分子、ジイソシアネートモノマー3量体2分子及びブロック剤4分子から誘導されたブロックポリイソシアネート濃度:3〜30質量%
[2].ブロック剤がアミン系化合物またはピラゾール系化合物である、上記[1]に記載のブロックポリイソシアネート組成物。
[3].上記[1]または[2]に記載のブロックポリイソシアネート組成物を含む、塗料組成物。
[4].下記工程を全て含む、上記[1]または[2]に記載のブロックポリイソシアネート組成物の製造方法:
(A).脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマーを反応させて、ポリイソシアネートを製造する工程、
(B).工程(A)によって得られるポリイソシアネートから、未反応の脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は未反応の脂環族ジイソシアネートモノマーを除去する工程、並びに
(C).前記ポリイソシアネート、分子量300〜2000のポリカーボネートジオール、及びブロック剤を反応させて、ブロックポリイソシアネートを製造する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物は、低温硬化性を有し、当該組成物から得られた塗膜は、良好な耐酸性、塗膜伸度及び密着性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に述べる。
本発明のブロックポリイソシアネート組成物を形成するために用いることのできる脂肪族、脂環族ジイソシアネートモノマーは、その構造の中にベンゼン環を含まない化合物である。脂肪族ジイソシアネートモノマーとしては、炭素数4〜30のものが好ましく、具体的には、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ペンタメチレン−1,5−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと言う)、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等を挙げることができる。脂環族ジイソシアネートとしては、炭素数8〜30のものが好ましく、具体的には、イソホロンジイソシアネート(以下IPDIと言う)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)−シクロヘキサン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを挙げることができる。なかでも、得られる塗膜の耐候性、工業的入手の容易さの点から、HDIが好ましい。なお、上記化合物を2種以上併用することもできる。
【0012】
また、本発明のブロックポリイソシアネート組成物に用いるポリイソシアネートの原料として、前記ジイソシアネートモノマー以外に、2〜6価のアルコールを用いることができる。このような2〜6価のアルコール(ポリオール)としては、例えば、非重合ポリオールと重合ポリオールが挙げられる。非重合ポリオールは重合を履歴しないポリオールであり、重合ポリオールはモノマーを重合して得られるポリオールである。
【0013】
非重合ポリオールとしては、ジオール類、トリオール類、テトラオール類などが挙げられる。ジオール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、2−エチル−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。トリオール類としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。テトラオール類としては、例えば、ペンタエリトリトールなどが挙げられる。
【0014】
重合ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。
【0015】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のカルボン酸の群から選ばれた二塩基酸の単独又は混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの群から選ばれた多価アルコールの単独又は混合物との縮合反応によって得られるポリエステルポリオール、及び、例えばε−カプロラクトンを多価アルコールを用いて開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類等が挙げられる。
【0016】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの水酸化物、アルコラート、アルキルアミンなどの強塩基性触媒や、金属ポルフィリン、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛錯体などの複合金属シアン化合物錯体などを使用して、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドの単独又は混合物を、多価ヒドロキシ化合物の単独又は混合物にランダムあるいはブロック付加して得られるポリエーテルポリオール類、更にエチレンジアミン類等のポリアミン化合物にアルキレンオキサイドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類、及び、これらポリエーテル類を媒体としてアクリルアミド等を重合して得られるいわゆるポリマーポリオール類等が含まれる。
【0017】
前記のジイソシアネートモノマー、及び場合により前記の2〜6価のアルコール(ポリオール)を使用して、本発明のブロックポリイソシアネート組成物に用いるポリイソシアネートが誘導される。ポリイソシアネートは、イソシアヌレート基を含むことが好ましい。イソシアヌレート基を有するポリイソシアネートを硬化した塗膜は、耐侯性が良好であり、高い塗膜硬度を達成することができる。
【0018】
このポリイソシアネートは、イソシアヌレート基以外に、例えば、ウレトジオン基、アロファネート基、オキサジアジントリオン基、イミノオキサジアジンジオン基等を同時に含むことができる。
【0019】
イソシアヌレート基を有するポリイソシアネートの製造は、例えば、好ましくは触媒を用いて、ジイソシアネートモノマーのイソシアヌレート化反応(3量化反応)を行い、所定の転化率になった時に反応を停止し、ジイソシアネートモノマーを除去することによって行われる。
【0020】
この際に使用するイソシアヌレート化反応触媒としては、一般に塩基性を有するものが好ましい。具体的には、(1)例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや、酢酸、カプリン酸等の有機弱酸塩、(2)例えば、トリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、トリエチルヒドロキシプロピルアンモニウム、トリエチルヒドロキシエチルアンモニウム等のヒドロキシアルキルアンモニウムのハイドロオキサイドや、酢酸、カプリン酸等の有機弱酸塩、(3)酢酸、カプロン酸、オクチル酸、ミリスチン酸等のアルキルカルボン酸の錫、亜鉛、鉛等の金属塩、(4)例えば、ナトリウム、カリウム等の金属アルコラート、(5)例えば、ヘキサメチルジシラザン等のアミノシリル基含有化合物、(6)マンニッヒ塩基類、(7)第3級アミン類とエポキシ化合物との併用、(8)例えば、トリブチルホスフィン等の燐系化合物等が挙げられる。これら触媒の使用量は、原料であるジイソシアネート、ポリオールの合計質量に対して、10ppm〜1%の範囲から選択される。これらの触媒は、反応終了させるために、例えば触媒を中和するリン酸、酸性リン酸エステルなどの酸性物質の添加、熱分解、化学分解等により不活性化される。
【0021】
このようなイソシアヌレート化反応によるポリイソシアネートの収率は、通常10〜70質量%である。高い収率で得られるポリイソシアネートは、粘度が高くなる傾向にある。
【0022】
イソシアヌレート化反応の反応温度は、通常50〜200℃、好ましくは50〜150℃である。50℃以上の反応温度により、反応が進み易くなる。一方、200℃以下の反応温度により、製品の着色など好ましくない副反応を抑制することができる。
【0023】
反応終了後、ジイソシアネートモノマーは、薄膜蒸発缶、抽出などにより除去される。得られたポリイソシアネート中に残留する未反応ジイソシアネート濃度は、3質量%以下、好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下であってよい。未反応のジイソシアネートモノマー濃度が3質量%以下であれば、これを使用して得られるブロックポリイソシアネート組成物の硬化性が低下するのを防止できる。
【0024】
この様にして得られたポリイソシアネート、特定の数平均分子量のポリカーボネートジオール及びブロック剤を反応させることによって、本発明のブロックポリイソシアネート組成物を得ることができる。ポリイソシアネート、ポリカーボネートジオール及びブロック剤の反応は、三成分の反応を同時に行うこともできるし、ポリイソシアネートとポリカーボネートジオールとの反応後、ブロック剤と更に反応させる方法、ポリイソシアネートとブロック剤との反応後、ポリカーボネートジオールと更に反応させる方法のいずれも可能である。
【0025】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物に用いるポリカーボネートジオールの数平均分子量は、通常300〜2000であり、好ましくは300〜1500である。ポリカーボネートジオールの数平均分子量を300以上とすることによって、これを使用して得られるブロックポリイソシアネート組成物から得られた塗膜の破断伸度が良好となる。また、この数平均分子量を2000以下とすることによって、その塗膜の硬度の低下を防止できる。
【0026】
本発明に用いるポリカーボネートジオールは、下記式(1)で表すことができ、式中、Rは2価である直鎖、分岐または環状アルキレン基であり、これらの中でも、炭素数が2から12のアルキレン基が好ましい。より好ましい式中のRは、下記式(2)、(3)、(4)もしくは(5)で表される基、またはシクロヘキセニル基である。これらの2種以上が含まれてもよい。さらに好ましいRは、下記式(2)においてmが5また6で表される基である。
【0027】
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


【化5】

【0028】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物に用いることができるブロック剤としては、特に限定されないが、アミン系化合物またはピラゾール系化合物が挙げられる。具体的なアミン系化合物としては、ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルエチルアミンなどが挙げられる。また、具体的なピラゾール系化合物としては、ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾールなどが挙げられる。好ましいブロック剤には、3,5−ジメチルピラゾールが包含される。
【0029】
状況に応じて、上記のブロック剤以外に、他のブロック剤を併用することができる。併用できるブロック剤を以下に列挙する。
(1)メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどのアルコール類
(2)アルキルフェノール系:炭素原子数4以上のアルキル基を置換基として有するモノ及びジアルキルフェノール類であって、例えば、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、n−ヘキシルフェノール、2−エチルヘキシルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ノニルフェノール等のモノアルキルフェノール類、ジ−n−プロピルフェノール、ジイソプロピルフェノール、イソプロピルクレゾール、ジ−n−ブチルフェノール、ジ−t−ブチルフェノール、ジ−sec−ブチルフェノール、ジ−n−オクチルフェノール、ジ−2−エチルヘキシルフェノール、ジ−n−ノニルフェノール等のジアルキルフェノール類
(3)フェノール系:フェノール、クレゾール、エチルフェノール、スチレン化フェノール、ヒドロキシ安息香酸エステル等
(4)活性メチレン系:マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等
(5)メルカプタン系:ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等
(6)酸アミド系:アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等
(7)酸イミド系:コハク酸イミド、マレイン酸イミド等
(8)イミダゾール系:イミダゾール、2−メチルイミダゾール等
(9)尿素系:尿素、チオ尿素、エチレン尿素等
(10)オキシム系:ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等
【0030】
ポリイソシアネート、ポリカーボネートジオール及びブロック剤の反応は、溶剤の有無に関わらず行うことができる。溶剤を用いる場合、イソシアネート基に対して不活性な溶剤を用いる必要がある。その溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤などが挙げられる。
【0031】
必要に応じて、錫、亜鉛、鉛等の有機金属塩、あるいは3級アミン系化合物、ナトリウムなどのアルカリ金属のアルコラート等を触媒として用いてもよい。
【0032】
ポリイソシアネート、ポリカーボネートジオール及びブロック剤の反応は、一般に−20〜150℃で行うことが出来るが、好ましくは30〜100℃である。150℃以下の反応温度であれば副反応を起こす可能性が低くなり、他方、−20℃以上の反応温度であれば反応速度が小さくなりすぎることがない。
【0033】
この様にして得られた本発明のブロックポリイソシアネート組成物中のブロックされたジイソシアネートモノマー3量体成分濃度は、通常5〜50質量%であり、好ましくは10〜45質量%であり、さらに好ましくは10〜30質量%である。この濃度が5質量%以上の場合は、得られる塗膜の硬度、耐侯性に優れ、50質量%以下であれば、得られる塗膜の伸度が良好である。ここで言う、ブロックされたジイソシアネートモノマー3量体成分とは、ジイソシアネートモノマー3分子から得られる、1分子当たりのイソシアネート基数が3のポリイソシアネートと、ブロック剤3分子とから誘導されるブロックポリイソシアネートである。
【0034】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物中のポリカーボネートジオール成分濃度とは、ブロックポリイソシアネート組成物中に反応して存在するポリカーボネートジオールの濃度である。ポリカーボネートジオールは、反応性が高いため、原料として用いたポリカーボネートジオールの全てが反応に関与していると考えられる。この濃度は、通常3〜30質量%、好ましくは5〜30質量%であり、さらに好ましくは10〜30質量%である。当該濃度が3質量%以上で、得られる塗膜の伸度の低下が防止され、密着性、耐酸性が良好となり、30質量%以下であると、得られる塗膜の硬度の低下が防止される。
【0035】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物中のポリカーボネートジオール1分子、ジイソシアネートモノマー3量体2分子及びブロック剤4分子から誘導されるブロックポリイソシアネート濃度は、通常3〜30質量%であり、好ましくは5〜30質量%であり、さらに好ましくは5〜25質量%である。この濃度が3質量%以上であれば、得られた塗膜の伸度が良好となり、30質量%以下であれば、優れた塗膜硬度が得られる。前記のジイソシアネートモノマー3量体が有するイソシアネート基数は3である。ジイソシアネートモノマー3量体は、イソシアヌレート基を含むことが好ましい。
【0036】
この様にして得られたブロックポリイソシアネート組成物で硬化した塗膜は、伸度が高く、かつ、耐酸性が向上したことは驚くべきことであった。ポリイソシアネートとジオールから得られるブロックポリイソシアネート組成物で硬化した塗膜は、塗膜伸度は向上するものの、架橋密度が低下し、その結果、塗膜の耐酸性が低下すると考えられていた。更に驚くべきことに、本発明のブロックポリイソシアネートは、基材への密着性に優れている。
【0037】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物は、好ましくは、イソシアネート基と反応性を有する活性水素を分子内に2個以上有する化合物と混合され、塗料組成物となる。ブロックポリイソシアネートは、この活性水素含有化合物の活性水素と反応して、架橋塗膜を形成することができる。前記の活性水素を分子内に2個以上有する化合物としては、例えば、ポリオール、ポリアミン、ポリチオールなどが挙げられ、通常、ポリオールが使用される。このポリオールの例としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、フッ素ポリオール、エポキシポリオールなどが挙げられる。好ましいポリオールは、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、フッ素ポリオールである。これらポリオールは、通常水酸基価30〜200mgKOH/g、酸価0〜30mgKOH/gのポリオールの中から選択される。
【0038】
塗料組成物におけるイソシアネート基/ポリオールの水酸基の当量比は0.3〜1.5であり、この比は塗膜の必要物性に応じて、適宜選択される。
【0039】
塗料組成物には、必要に応じて、完全アルキル型、メチロール基型アルキル、イミノ基型アルキル等のメラミン系硬化剤を添加することができる。
【0040】
また、用途、目的に応じて、各種溶剤、添加剤を用いることができる。溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸セロソルブなどのエステル類、ブタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類などが挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
また、必要に応じて、酸化防止剤、例えば、ヒンダードフェノール等;紫外線吸収剤、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等;顔料、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、インジゴ、キナクリドン、パールマイカ等;金属粉顔料、例えば、アルミ等;レオロジーコントロール剤、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、尿素化合物、マイクロゲル等;硬化促進剤、例えば、錫化合物、亜鉛化合物、アミン化合物等を添加してもよい。
【0042】
この様に調製された塗料組成物は、ディップ塗装、ロール塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装、静電塗装、ベル塗装、電着塗装などにより、鋼板、表面処理鋼板などの金属またはプラスチック、繊維などの有機・無機高分子、無機材料などの素材に、プライマーまたは上中塗りとして、あるいは、防錆鋼板を含むプレコートメタル、自動車塗装などに美粧性、耐候性、耐酸性、防錆性、耐チッピング性などを付与するために好適に用いられる。また、接着剤、粘着剤、エラストマー、フォーム、表面処理剤などのウレタン原料としても有用である。
【実施例】
【0043】
次に、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。各種物性の測定方法は、以下のとおりである。
・ブロックされたジイソシアネートモノマー3量体成分濃度:
下記の装置を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下GPCという)測定で得られる相当分子量ピークの面積%を、その濃度として表した。
装置:東ソー(株)HLC−802A
カラム:東ソー(株)G1000HXL×1本
G2000HXL×1本
G3000HXL×1本
キャリアー:テトラハイドロフラン
検出方法:示差屈折計
【0044】
・ジオール1分子、ジイソシアネートモノマー3量体2分子及びブロック剤4分子から誘導されるブロックポリイソシアネート濃度:
上記の装置を用いたGPC測定で得られる相当分子量ピークの面積%を、その濃度として表した。
【0045】
・ジオール成分濃度:
ブロックポリイソシアネート組成物の製造に使用したジオールの質量を、ブロックポリイソシアネート組成物の質量で除した値を、ジオール成分濃度とした。
【0046】
・密着性試験:
軟鋼板上に作製した硬化塗膜を、JIS K5600−5−6(塗膜の付着性:クロスカット法)に従って試験する。塗膜の硬化は、140℃、30分で行った。このとき、残ったマスの数が、100個を○、50個以上99個以下を△、49個以下を×として評価した。
【0047】
・耐酸性試験:
ガラス板上に作製した硬化塗膜に、80%硫酸水溶液を0.3g滴下し、80℃×30分加熱後、流水で硫酸を洗い流し、室温にて乾燥させる。その後、表面状態を、下記の装置を用いて50倍で観察した。塗膜の硬化は、140℃、30分で行った。試験表面の0.6mm四方の視野上で、直径100μm以上の塗膜損傷箇所が、20箇所未満を○、20箇所以上を×として評価した。
装置 :HIROX(ハイロックス)社のDIGITAL MICROSCOPE KH−7700
レンズ:HIROX(ハイロックス)社のMXG−5040RZ
【0048】
・塗膜破断伸度:
A&D(エー・アンド・デー)社製の商品名TENSILON(テンシロン)RTE−1210を用いて、下記条件で塗膜の破断伸度を測定した。塗膜の硬化は、140℃、30分で行った。このとき、塗膜の破断伸度が、50%以上を○、10%以上50%未満を△、10%未満を×として評価した。
引張スピード:20mm/min
試料寸法 :縦20mm×横10mm×厚さ30〜50μm
温度23℃/湿度50%
【0049】
製造例1(ポリイソシアネートの製造)
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素吹き込み管、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコ内を窒素雰囲気にし、HDI600質量部を仕込み、撹拌下で反応器内温度を70℃に保持した。イソシアヌレート化触媒のテトラメチルアンモニウムカプリエートを加え、収率が40%になった時点で燐酸を添加し、反応を停止した。反応液をろ過した後、薄膜蒸発缶を用いて未反応のHDIを除去した。得られたポリイソシアネートの25℃における粘度は2700mPa・s、イソシアネート含有量は21.7%、数平均分子量は660、イソシアネート平均数は3.4であった。
【0050】
実施例1
製造例1と同様な反応器に、製造例1で得られたポリイソシアネート100質量部、ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ株式会社社の商品名「Duranol T5651」、数平均分子量1000、下記式6)13質量部、溶剤として酢酸ブチルを最終ブロックポリイソシアネート成分濃度が80質量%になるように仕込み、窒素雰囲気下、100℃、3時間保持した。その後、ブロック剤として3,5−ジメチルピラゾール47質量部を添加し、赤外スペクトルでイソシアネート基の特性吸収がなくなったことを確認した。得られたブロックポリイソシアネート組成物の特性値は、固形分80質量%、有効イソシアネート基濃度(NCO基濃度)13.0質量%、ブロックされたジイソシアネートモノマー3量体成分濃度39質量%、ポリカーボネートジオール成分濃度8.1質量%、ポリカーボネートジオール成分1分子、ジイソシアネートモノマー3量体2分子及びブロック剤4分子から誘導されたブロックポリイソシアネート濃度は26質量%であった。
【0051】
【化6】

【0052】
実施例2〜5、比較例1〜6
ブロックポリイソシアネート組成物に使用する原料を表1に記載するように変更した以外は、実施例1と同様に行った。各々のブロックポリイソシアネート組成物の特性値の結果を、表1に記載した。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例6(塗料作成と塗膜性能)
アクリルポリオール(NUPLEX社の商品名Setalux1767、水酸基濃度4.5質量%(樹脂基準)、樹脂固形分65質量%)100質量部と、実施例1で得られたブロックポリイソシアネート組成物69.5質量部(イソシアネート基/水酸基=1.0(当量比))、ジブチル錫ジラウレート0.6質量部(対樹脂濃度0.5質量%)、酢酸ブチル71質量部を混合し、固形分50質量%の塗料組成物を調製した。この塗料組成物を、軟鋼板、ガラス板に、樹脂膜厚40μmになるようにアプリケーター塗装した。室温で10分セッテングした後、所定温度で塗膜を硬化し、各種物性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0055】
実施例7〜10、比較例7〜12
用いるブロックポリイソシアネート組成物を表2に記載するように変更した以外は、実施例6と同様に実施した。各種物性の評価結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のブロックポリイソシアネート組成物及びこれを含む塗料組成物は、低温硬化性を有すると共に、耐酸性、塗膜伸度及び密着性に優れた塗膜を与えることができるため、塗料などの分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマー、数平均分子量300〜2000のポリカーボネートジオール、並びにブロック剤から得られる、下記条件をすべて満足する、ブロックポリイソシアネート組成物。
1)ブロックされたジイソシアネートモノマー3量体成分濃度:5〜50質量%
2)ポリカーボネートジオール成分濃度:3〜30質量%
3)ポリカーボネートジオール1分子、ジイソシアネートモノマー3量体2分子及びブロック剤4分子から誘導されたブロックポリイソシアネート濃度:3〜30質量%
【請求項2】
ブロック剤がアミン系化合物又はピラゾール系化合物である、請求項1に記載のブロックポリイソシアネート組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブロックポリイソシアネート組成物を含む、塗料組成物。
【請求項4】
下記工程を全て含む、請求項1または2に記載のブロックポリイソシアネート組成物の製造方法:
(A).脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は脂環族ジイソシアネートモノマーを反応させて、ポリイソシアネートを製造する工程、
(B).工程(A)によって得られるポリイソシアネートから、未反応の脂肪族ジイソシアネートモノマー及び/又は未反応の脂環族ジイソシアネートモノマーを除去する工程、並びに
(C).前記ポリイソシアネート、分子量300〜2000のポリカーボネートジオール、及びブロック剤を反応させて、ブロックポリイソシアネートを製造する工程。

【公開番号】特開2012−107091(P2012−107091A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255622(P2010−255622)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】