説明

ブロック共重合体の製造方法

【課題】簡便な方法で様々なカチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体を得ることができ、かつ、安定性に優れたブロック共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】次の式(1)


(Aは酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜12の2価の有機基、Xは酸素原子又は硫黄原子、Qはラジカルとして脱離しビニル炭素を遊離基付加に向けて活性化が可能な官能基を表す)の化合物を開始種とし、ルイス酸の存在下カチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合する工程と、前記工程により得られたリビングポリマーをマクロ連鎖移動剤として、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングラジカル重合する工程とを含む、ブロック共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体の製造方法に関し、更に詳しくは、可逆的付加開裂連鎖移動剤をリビングカチオン重合の開始種として用い、カチオン重合性モノマーのリビングポリマーを得た後、リビングラジカル重合の一種である可逆的付加開裂連鎖移動重合により、ラジカル重合性モノマーを重合してブロック共重合体を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルエーテルは、電子供与性の置換基を有するビニルモノマーであり、その重合体は、接着剤、塗料、潤滑剤、エラストマー、グリースなどに用いられるため、有用なモノマーの一つである。また、そのビニルエーテルの重合体と異なる種類の重合体が繋ぎ合わさったブロック共重合体は、該ビニルエーテルの性質にもう一方の高分子の異なる性質を付与できるため、高分子界面活性剤、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤、リソグラフィーのテンプレート剤等として利用可能である。特に、カチオン重合可能なビニル系モノマーから製造される高分子の機能と、ラジカル重合系モノマーから製造される重合体の機能を合わせることで、より多種類のブロック共重合体を提供できるようになるため、そのような共重合体を得るための技術が求められている。
【0003】
カチオン重合可能なビニルエーテルとラジカル重合可能なビニルモノマーとのブロック共重合体は、従来技術において、リビングカチオン重合法およびリビングラジカル重合法の組み合わせによって合成されている。非特許文献1では、リビングラジカル重合の後、四塩化スズおよび酢酸エチルを用いたリビングカチオン重合を行うことを提案している。
【0004】
しかし、この方法では、完全なブロック共重合は得られなかった。また、非特許文献2や3では、まずリビングカチオン重合法によってリビングポリマーを得た後、臭化銅または遷移金属触媒を用いた原子移動ラジカル重合法の組み合わせによる方法が提案されている。しかし、多種の金属を用いた方法であるため、微量金属の残留が懸念され、電子材料には適さない。
【0005】
そこで、特許文献1に記載されている金属を使用しない可逆的付加開裂連鎖移動剤を用いた方法が開発され、簡便にカチオン重合可能なビニルエーテルとラジカル重合可能なビニルモノマーとのブロック共重合体が得られるようになった。その方法は、カルボキシル基を有する可逆的付加開裂連鎖移動剤をリビングカチオン重合の開始種として用い、ビニルエーテルのリビングポリマーを得た後、リビングラジカル重合の一種である可逆的付加開裂連鎖移動重合すなわちRAFT重合により、ラジカル重合性モノマーを重合し、ブロック共重合体を得る方法である。この方法は、非常に簡便な方法で優れているが、得られるブロック共重合体にヘミアセタールエステル結合有するため、酸性条件下での加熱によって分解する可能性がある。
【0006】
ところで、非特許文献4によると、ラジカル重合可能なビニルモノマーは2種類に分類することが可能とされている。ひとつは共役モノマーであり、もう一方は非共役モノマーである。共役モノマーには、ジチオエステルまたはトリチオエステル基を有する可逆的付加開裂連鎖移動剤が適しており、非共役モノマーには、ザンテート基を有する可逆的付加開裂連鎖移動剤が適している。ジチオエステルまたはトリチオエステル基を有する可逆的付加開裂連鎖移動剤としては、例えば、特許文献2および3記載のジチオエステル又はトリチオカーボナート等が知られている。また、ザンテート基を有する可逆的付加開裂連鎖移動剤としては、特許文献2および3記載のジチオカーボナート等が知られている。しかしながら、ビニルエーテル等のリビングカチオン重合において開始種として使用可能なジチオカーボナートあるいはトリチオカーボナートは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−059231号
【特許文献2】国際公開WO98/01478号
【特許文献3】国際公開WO98/58974号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Macromolecules、 43、 7523-7531 (2010)
【非特許文献2】Polymer、 46、 8469-8482(2005)
【非特許文献3】Macromolecules、 31、 5559-5562 (1998)
【非特許文献4】J.Jpn. Soc. Colour Mater.、 81、523-530 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便な方法で様々なカチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体を得る方法の提供、特に、安定性に優れた上記ブロック共重合体を得る方法の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、本発明者は、ビニルエーテル等のリビングカチオン重合において開始種として使用可能な化合物について、種々検討を行ない、ザンテートまたはトリチオカーボネート基を含むビニルエーテルを開発した。そして、このビニルエーテルを使用することで、リビングカチオン重合とリビングラジカル重合の両方を実施できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、次の工程(A)および(B)
(A)式(1)
【0012】
【化1】

(式中、Aは酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜12の2価の有機基を、Xは酸素
原子又は硫黄原子を示し、Qはビニル炭素を遊離基付加に向けて活性化できる官能基
を示す)
で表わされるビニルエーテルを開始種とし、ルイス酸の存在下、カチオン重合可能なビ
ニル系モノマーをリビングカチオン重合する工程、
(B)前記工程により得られたリビングポリマーをマクロ連鎖移動剤として、ラジカル
重合開始剤の存在下、ラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングラジカル重合す
る工程
を含む、ブロック共重合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブロック共重合体の製造方法によれば、簡便な方法で様々なカチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体を提供することができる。得られたブロック共重合体は、ヘミアセタールエステル結合を有しないため安定性に優れ、高分子界面活性剤、インキ、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤、高分子樹脂への添加剤(改質剤)、リソグラフィーのテンプレート剤等の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたS−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートの1H NMR分析結果を示す図である。
【図2】実施例2で7分間重合して得られた末端に可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するポリイソブチルビニルエーテルの1H NMR測定結果を示す図である。
【図3】実施例4で得られたベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートの1H NMR分析結果を示す図である。
【図4】実施例5で7分間重合して得られた末端に可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するポリイソブチルビニルエーテルの1H NMR測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)リビングカチオン重合工程
本発明方法においては、まず、前記式(1)のビニルエーテルを開始種とし、ルイス酸の存在下、カチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合する(工程(A))。
【0016】
このリビングカチオン重合において開始種として使用されるビニルエーテルは、上記式(1)で示される構造を有しており、可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を有するものである。この式(1)においてQで示される官能基は、後記工程(B)においてラジカルとして脱離し、ビニル炭素を遊離基付加に向けて活性化することが可能な官能基であって、具体的には、−CRCN、−C(CHAr、−CH(COOR)Ar、−C(CHCOOR、−C(CHCONHR、−C(CHCONR、−C(CHR、−CH(CH)Ar、−CHAr、−CRCOOH、−CRCN−(CH−COOH、及び−CRCN−(CH−OH(ここで、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表し、Arは非置換又は置換フェニル、ナフチル、アントラセニル、ピレニル又はピリジル基を表し、aは1〜8の整数を表す)等の官能基が挙げられる。これらのなかでもベンジル基又はターシャリーアルキル基が好ましく、ベンジル基が特に好ましい。
【0017】
式(1)において、Aで示される酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜12の2価の有機基としては、具体的には、炭素数1〜12の2価のアルキル基又は−CHCH−(OCHCH−(ここで、bは1〜4の整数を表す)等が挙げられる。
【0018】
このようなビニルエーテルの好適な例として、下記式(2)で表される化合物を挙げることができる。
【0019】
【化2】

(式中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を示す)
【0020】
前記式(1)で示されるビニルエーテルはカチオン重合性を有しており、ハロゲン化水素やカルボン酸等と反応させて、下記式(3)で表される酸付加物とすることにより、リビングカチオン重合の開始種に用いることができる。
【0021】
【化3】

[式中、A、X、Qは式(1)と同義であり、Zはハロゲン原子又はRCOO−(ここ
で、Rはフッ素で置換されていてもよい炭化水素基を示す)で示されるカルボン酸残
基を示す]
【0022】
ここで、ハロゲン原子としては、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子を挙げることができ、Rで示されるフッ素で置換されていてもよい炭化水素基としては、メチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基などを挙げることができる。このような酸付加物の中でも、塩酸付加物又はトリフルオロ酢酸付加物等が好ましい。該酸付加物の使用量は、必ずカチオン重合可能なビニル系モノマーよりも少なく、カチオン重合可能なビニル系モノマー1モルに対して0.001モル以上1モル未満であるのが好ましい。
【0023】
リビングカチオン重合において使用されるカチオン重合可能なビニル系モノマーは特に限定されないが、具体的には、アルケニルエーテル、インデン、N−ビニルカルバゾール、スチレン類が挙げられる。好適には、スチレン、メトキシスチレン(o、m、p体)、メチルスチレン(o、m、p体)、クロロスチレン(o、m、p体)等のスチレン類及び下記一般式(4)で示されるアルケニルエーテルが好ましく使用される。
【0024】
【化4】

(式中、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、Rは、ケイ素原子又は15
族から17族の元素のうち少なくとも一つの原子を含んでいてもよい1価の有機基を
示す)
【0025】
上記一般式(4)中、Rで示される1価の有機基の基本骨格としては、炭素数1〜24の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基が挙げられる。また、15族から17族の元素としては、酸素、窒素、リン、イオウ、ハロゲン等が挙げられ、さらに酸素、窒素、イオウ、ハロゲンが好ましく、特に酸素、ハロゲンが好ましい。酸素を含む置換基としては、炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。ケイ素を含む置換基としては、アルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基が挙げられる。ハロゲンとしてはフッ素が特に好ましい。
【0026】
また、Rの好ましい例としては、フッ素原子又はアルコキシ基が置換していてもよい、炭素数1〜24の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基が好ましい。ここで、炭化水素基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜14のアリールアルキル基が挙げられる。
【0027】
更に、Rのより好ましい例としては、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基であって全部又は一部の水素がフッ素に置換されたフルオロアルキル基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は次の式(5)で表されるアリール基又はアリールアルキル基を挙げることができる。
【0028】
【化5】

(ここで、pは0、1、2又は3であり、Rは未置換のフェニル基又は、一つ又はそれ
以上の炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基
であって全部又は一部の水素がフッ素に置換されたフルオロアルキル基、炭素数1〜4
のアルコキシ基又はハロゲン原子によって置換されたフェニル基である)
【0029】
炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基、イソアミル基等が挙げられ、炭素数1〜6のフルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基などが挙げられ、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基としてはメトキシ基メチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−テトラヒドロピラニル基、2−テトラヒドロフラニル基等が挙げられ、炭素数5〜10のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基などが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられ、アリールアルキル基としてはベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、エトキシベンジル基、フルオロベンジル基、トリフルオロメチルベンジル基等が挙げられる。
【0030】
上述した一般式(4)で示されるアルケニルエーテルの具体例として、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;トリフルオロメチルビニルエーテル、ペンタフルオロエチルビニルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル類;2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル、2−テトラヒドロピラニルビニルエーテル、2−テトラヒドロフラニルビニルエーテル等のアルコキシアルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘプチルビニルエーテル、シクロオクチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.1]ヘプチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.2]オクチルビニルエーテル、8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルビニルエーテル、1−アダマンチルビニルエーテル、2−アダマンチルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル類;フェニルビニルエーテル、4−メチルフェニルビニルエーテル、4−トリフルオロメチルフェニルビニルエーテル、4−フルオロフェニルビニルエーテル等のアリールビニルエーテル類;ベンジルビニルエーテル、4−フルオロベンジルビニルエーテル等のアリールアルキルビニルエーテル類等が挙げられる。この中でも特に、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等の低級アルキルビニルエーテル類を好ましく用いることができる。
【0031】
カチオン重合性可能なビニル系モノマーは、上記モノマーの中から1種類を選んで使用してもよいし、2種以上を混合して用いても良い。
【0032】
リビングカチオン重合は、ルイス酸の存在下に行うのが好ましく、さらにルイス酸及びルイス塩基の存在下に行うのが好ましい。本発明に用いられるルイス酸としては、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、シリコン、リンさらには第4周期以降の元素のハロゲン化物、又はこれら元素の有機金属化合物を挙げることができる。特に好ましくは、SnCl及びZnClが挙げられる。これらの触媒はリビングカチオン重合条件において、比較的早い重合速度を有しているためである。上述のルイス酸の使用量としては、可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するビニルエーテル酸付加物1モルに対して0.001〜1モルであるのが好ましい。
【0033】
本発明に用いられるルイス塩基としては、エーテル化合物類、カルボニル基含有化合物類が代表的であり、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸フェニル、酪酸エチル、クロル酢酸エチル、ステアリン酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、フタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル等のエステル;無水酢酸等の酸無水物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチルフタルイミド等のイミド及び2,6−ジ−tert−ブチルピリジン等が挙げられる。
【0034】
これらのなかでも、ジオキサン、2,6−ジ−tert−ブチルピリジン、酢酸エチルが特に好ましく使用される。ルイス塩基の使用量としては、カチオン重合可能なビニル系モノマー1モルに対して0.01〜100モルであるのが好ましい。
【0035】
また、リビングカチオン重合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、反応に不活性なものであれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、塩化メチル、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化合物、へキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の飽和炭化水素等、又はこれらの混合溶媒が挙げられるが、中でも、ヘキサン及びトルエンが好ましく使用される。
【0036】
リビングカチオン重合の温度は、通常、−120〜100℃の間、好ましくは−80〜30℃の間である。重合時間は特に限定されず、カチオン重合可能なビニル系モノマーや可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するビニルエーテル酸付加物の種類や使量等により調製できる。リビングカチオン重合により目的のカチオン重合可能なビニル系モノマーのリビングポリマーが得られた後に、反応液にアルコールや水を加え、重合を停止することができる。
【0037】
重合停止に用いるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等であり、中でもメタールが好んで使用される。重合停止剤の使用量はルイス酸1モルに対して、1モル〜100モル使用するのが好ましい。
【0038】
このようなリビングカチオン重合は、可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するビニルエーテル(1)から、その酸付加物(3)を経て進行し、カチオン重合可能なビニル系モノマーのリビングポリマーが得られる。例えば、開始種として一般式(2)で示されるビニルエーテルを使用し、カチオン重合可能なビニル系モノマーとして一般式(4)で示されるアルケニルエーテルを利用した場合、得られる重合体は下記式(6)の構造を有する。
【0039】
【化6】

(式中、Xは式(2)と同義であり、RおよびRは式(4)と同義であり、nは繰り返し数を示す)
【0040】
(B)リビングラジカル重合工程
本発明方法では、次に前記工程(A)により得られたリビングポリマーをマクロ連鎖移動剤として、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングラジカル重合する(工程(B))。
【0041】
工程(A)で得られたリビングポリマーは、高分子鎖末端に可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有しているので、リビングラジカル重合の一つである可逆的付加開裂連鎖移動重合のマクロ連鎖移動剤として用いることができる。可逆的付加開裂連鎖移動重合によるリビングラジカル重合は、工程(A)で得られたリビングポリマーの存在下に、ラジカル重合可能なビニル系モノマー及びラジカル重合開始剤を加え、加温することで達成される。
【0042】
ラジカル重合可能なビニル系モノマーは、ラジカル重合可能なものであれば特に限定されないが、下記一般式(7)で表されるものが好ましい。
【0043】
【化7】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子又はハロゲン置換もしくは非
置換の低級アルキルを示し、Rは有機基を示す)
【0044】
具体的には、スチレン及びスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル、イソプレン、1,3−ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、N−ビニルインドール、N−ビニルフタルイミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0045】
なかでも、一般式(2)において、Xが酸素原子である可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有する重合体を用いる場合には、酢酸ビニル、N−ビニルインドール、N−ビニルフタルイミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルカプロラクタム等のラジカル重合可能な非共役モノマーが好ましく、一般式(2)において、Xが硫黄原子である可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有する重合体を用いる場合には、スチレン及びスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体等のラジカル重合可能な共役モノマーが好ましい。
【0046】
スチレン及びその誘導体としては、具体的には、スチレン、tert−ブチルスチレン(o、m、p体)、tert−ブトキシスチレン(o、m、p体)、アセトキシスチレン(o、m、p体)、ヒドロキシスチレン(o、m、p体)、イソプロペニルフェノール(o、m、p体)、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン(o、m、p体)、スチレンスルホン酸(o、m、p体)及びその塩等が挙げられる。これらの中でも、スチレン、tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレンがより好ましく使用される。
【0047】
(メタ)アクリル酸及びその誘導体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等がより好ましく使用される。
【0048】
(メタ)アクリルアミド及びその誘導体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;N、N−ジメチルアクリルアミド等のN、N−ジアルキルアクリルアミド等が挙げられ、なかでもN−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等がより好ましく使用される。
【0049】
ラジカル重合可能なビニル系モノマーは、上記モノマーの中から1種類を選んで使用してもよいし、2種以上を混合して用いても良い。
【0050】
ラジカル重合開始剤としては、任意の適切なラジカル重合開始剤を採用し得る。好ましくは、熱によりラジカルを発生する開始剤である。このようなラジカル重合開始剤として代表的なものとして、種々のアゾ化合物及び有機過酸化物を挙げることができる。
【0051】
アゾ化合物としては、具体的には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などの2,2’−アゾビスブチロニトリル類;2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの2,2’−アゾビスバレロニトリル類;2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などの2,2’−アゾビスプロピオニトリル類;1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などの1,1’−アゾビス−1−アルカンニトリル類;2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等を挙げることができる。
【0052】
有機過酸化物としては、具体的には、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類;シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;2,2−ビス(4、4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレートなどのパーオキシケタール類;クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルシクロヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;ビス(tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類等を挙げることができる。
【0053】
これらの中でも、入手と取り扱いが容易なのはAIBNである。
【0054】
可逆的付加開裂連鎖移動重合を行うに当たっては、溶媒を使用しても、また使用しなくても良い。使用できる溶媒としては、重合反応を阻害しないものでなければ何れでも良いが、例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン及びデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びデカヒドロナフタレンのような脂環族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素及びテトラクロルエチレン等の塩素化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール及びtert−ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル及びジメチルフタレート等のエステル系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ−n−アミルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキシアニソールのようなエーテル系溶媒等をあげることができる。また、水を溶媒とすることもできる。これらの溶媒は、単独もしくは2種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
可逆的付加開裂連鎖移動重合反応の反応温度は、好ましくは20〜120℃であり、より好ましくは40〜100℃である。上記反応の反応時間は、試薬量、反応温度によって異なるが、好ましくは2〜50時間であり、より好ましくは2〜24時間である。
【0056】
反応混合物からのブロック共重合体の回収は、重合の反応温度を下げること等で重合を停止させた後、反応混合物から揮発分を留去する方法、又は大量の貧溶媒を添加し、ポリマーを沈殿させ分離する方法、又は水溶性ポリマーの場合は、水中での透析等にて行われる。
【0057】
本発明の製造方法により製造されるブロック共重合体の数平均分子量は、可逆的付加開裂連鎖移動剤と加えたモノマーの比率にもよるが、1,000〜5,000,000であるのが好ましく、さらには2,000〜3,000,000であるのが好ましい。
【0058】
以上説明した本発明の製造方法により得られるブロック共重合体は、ヘミアセタールエステル結合を有しないため安定性に優れ、高分子界面活性剤、インキ、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤、高分子樹脂への添加剤(改質剤)、リソグラフィーのテンプレート等の用途にも有用である。また、本発明の製造方法を用いることで、様々なカチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体を提供できる。
【実施例】
【0059】
次に実施例および合成例により本発明を一層詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例における測定は、次の測定方法に従った。
【0060】
(1)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn及び重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は、ポリスチレンゲル換算のゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)で測定した[RI検出器、カラム(東ソー(株)製TSKgelカラムGHR−M×3)、溶離液はテトラヒドロフラン]。
【0061】
(2)1H NMRは、JEOL社製JMN AL-300を用い、サンプルを重クロロホルムに溶解して測定した。
【0062】
合 成 例 1
S−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートの合成
以下の反応式に従い、下記の手順で合成した。
【0063】
【化8】

【0064】
1Lの丸底フラスコに、1,1’−チオカルボニルジイミダゾール3.6g(20.2mmol)、 2−ヒドロキシエチルビニルエーテル(純度95%)1.9 mL(20.2mmol)およびトルエン60mL加え、60℃にて6時間還流した。その後室温まで放冷し、水酸化カリウム0.05g(0.89mmol)およびベンジルメルカプタン2.4mL(20.5mmol)を加え、再度60℃にて6時間還流した。
【0065】
得られた溶液をろ過した後、ろ液をエバポレートし、シリカゲルカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:10(体積比))にて分離精製して、S−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートを得た(収量2.57g、原料2−ヒドロキシエチルビニルエーテルに対し収率50%)。
【0066】
得られたS−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートの構造は、1H NMR測定により同定した。図1に、得られたS−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートの1H NMR測定結果を示す。
【0067】
実 施 例 1
ポリイソブチルビニルエーテルとポリ酢酸ビニルのブロック共重合体の合成
(A)リビングカチオン重合工程
合成例1で得られたS−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートを用い、イソブチルビニルエーテルのリビングカチオン重合を実施した。まず、S−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートをヘキサンに溶解し、40mmol/L溶液に調整した。その溶液に乾燥HClガスを吹き込み、S−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートの塩酸付加体ヘキサン溶液(40mmol/L)を調整した。
【0068】
トルエン7.8mL、 酢酸エチル3.0mL、イソブチルビニルエーテル1.2mLおよびS−ベンジル−O−(2−ビニロキシエチル)ジチオカーボナートの塩酸付加体ヘキサン溶液(40mmol/L)4.0mLをトルエン12.0mLで薄めた溶液(つまり10mmol/L)2.5mLを、この順で三方活栓付フラスコに窒素下で加え、そこから三方活栓付試験管6本に其々4.5mLずつ小分けし、0℃に冷却した(これをAとする)。
【0069】
三方活栓付試験管に1.0mol/Lの四塩化スズ0.1mLをトルエン9.9mLで希釈した溶液(10mmol/L)を入れ、0℃に冷却した(これをBとする)。
【0070】
AにBを各々0.5mLずつ加え、激しく攪拌し、0℃のまま、それぞれ1分、2分、3分、7分後にアンモニア水を0.1重量%含むメタノールを加えて重合を停止した。得られた反応混合物をジクロロメタンに溶解し、0.6N塩酸水で洗浄し、触媒残査を除去した。全ての溶媒をエバポレートした後、減圧下で乾燥し、重合体を得た。
【0071】
各重合時間におけるイソブチルビニルエーテルの重合率(即ち、モノマーの転化率)及びGPCより測定したるMn、Mw/Mnは表1に示す通りであった。なお、重合率は重量法により求めた。
【0072】
【表1】

【0073】
また、得られた重合体の構造は、1H NMRより下記式(8)のように推定され、末端に可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するポリイソブチルビニルエーテルが得られたことが確認された。図2に、得られたポリイソブチルビニルエーテル(重合時間7分間)の1H NMR測定結果を示す。
【0074】
【化9】

(式中、nは各構造単位の繰り返し数を表わす)
【0075】
(B)リビングラジカル工程
工程(A)で7分間重合して得られた末端に可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するポリイソブチルビニルエーテル0.397g、酢酸ビニル1.087g、アゾビスイソブチロニトリル2.0mgおよびトルエン1.612gを三方活栓付き試験管に加え、その試験管を脱気した後、窒素下、70℃に加温して重合した。50時間後に試験管を空気下にし、氷水で冷却することで重合を停止した。
【0076】
重合は約50時間で30%進行し、Mnが10000まで上昇した。このときMw/Mnは1.15であった。1H NMRの分析結果から、下記式(9)で示されるポリイソブチルビニルエーテルとポリ酢酸ビニルのブロック共重合体が得られたことが確認された。
【0077】
【化10】

(式中、n及びmは各構造単位の繰り返し数を表わす)
【0078】
合 成 例 2
ベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートの合成
以下の反応式に従い、下記の手順で合成した。
【0079】
【化11】

【0080】
ジムロートを取り付けた1L丸底フラスコに、リン酸カリウム46g(0.22mol)、アセトン760 mLを加え、室温で1.5時間攪拌した。そこへベンジルメルカプタン25.4mL(0.22mol)および二硫化炭素39.2mL(0.65mol)を加え、2時間攪拌した。その後、2−クロロエチルビニルエーテルを44mL(0.43mol)加え、43時間攪拌した。
【0081】
得られた溶液をろ過し、ろ液中のアセトンを含む低沸点物をエバポレートし、残液をヘキサンに溶解させ、水で洗浄した。洗浄したヘキサン溶液に水酸化カリウムを加え一晩予備乾燥した。ヘキサンをエバポレートした後、シリカゲルカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:15(体積比))にて分離精製し、ベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートを得た。(収量17.6g、原料ベンジルメルカプトンに対し収率30%)。
【0082】
得られたベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートの構造は、1H NMR測定により同定した。図3に得られたベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートの1H NMR測定結果を示す。
【0083】
実 施 例 2
ポリイソブチルビニルエーテルとポリアクリル酸エチルのブロック共重合体
の合成
(A)リビングカチオン重合工程
合成例2で得られたベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートを用い、イソブチルビニルエーテルのリビングカチオン重合を実施した。まず、ベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートをヘキサンに溶解し、20mmol/L溶液に調整した。その溶液に乾燥HClガスを吹き込み、ベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートの塩酸付加体ヘキサン溶液(20mmol/L)を調整した。
【0084】
トルエン5.8mL、イソブチルビニルエーテル0.6mLおよびベンジル(2−ビニロキシエチル)トリチオカーボナートの塩酸付加体ヘキサン溶液(20mmol/L)をトルエンで薄めて10mmol/Lとしたもの8.0mLを、この順で三方活栓付フラスコに窒素下で加え、そこから三方活栓付試験管7本に其々1.8 mLずつ小分けし、0℃に冷却した(これをAとする)。
【0085】
三方活栓付試験管に0.1mmol/Lの塩化亜鉛トルエン溶液を入れ、0℃に冷却した(これをBとする)。
【0086】
AにBを0.2mLずつ加え、激しく攪拌し、0 ℃のまま、それぞれ0.5分、1分、5分、7分、10分、13分、15分後にアンモニア水を0.1重量%含むメタノールを加え重合を停止した。得られた反応混合物をジクロロメタンに溶解し、0.6N塩酸水で洗浄し、触媒残査を除去した。全ての溶媒をエバポレートした後、減圧下で乾燥し、重合体を得た。
【0087】
各重合時間におけるイソブチルビニルエーテルの重合率(即ち、モノマーの転化率)及びGPCより測定したMn、Mw/Mnは表2に示す通りであった。なお、重合率は重量法により求めた。
【0088】
【表2】

【0089】
また、得られた重合体の構造は、1H NMRより下記式(10)のように推定され、末端に可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するポリイソブチルビニルエーテルが得られたことを確認した。図4に、得られたポリイソブチルビニルエーテル(重合時間7分間)の1H NMR測定結果を示す。
【0090】
【化12】

(式中、nは各構造単位の繰り返し数を表わす)
【0091】
(B)リビングラジカル重合工程
工程(A)で7分間重合して得られた、末端に可逆的付加開裂連鎖移動重合可能な部位を含有するポリイソブチルビニルエーテル0.094g、アクリル酸エチル0.33mL、アゾビスイソブチロニトリル0.5mgおよびトルエン1.845mLを三方活栓付き試験管に加え、その試験管を脱気した後、窒素下70℃に加温して重合した。50時間後試験管を空気下にし、氷水で冷却することで重合を停止した。
【0092】
重合は約24時間でほぼ100%進行し、Mnが8300まで上昇した。このときMw/Mnは1.42であった。1H NMRの分析結果から、下記式(11)で示されるポリイソブチルビニルエーテルとポリアクリル酸エチルのブロック共重合体が得られたことが確認された。
【0093】
【化13】

(式中、nおよびmは各構造単位の繰り返し数を表わす)
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のブロック共重合体の製造方法は、簡便な方法で様々なカチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体を提供することができる方法である。
【0095】
そして、得られたブロック共重合体は、ヘミアセタールエステル結合を有しないため安定性に優れ、高分子界面活性剤、インキ、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤、高分子樹脂への添加剤(改質剤)、リソグラフィーのテンプレート剤等の用途に好適に用いることができるものである。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(A)および(B)
(A)式(1)
【化1】

(式中、Aは酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜12の2価の有機基を、Xは酸素
原子又は硫黄原子を示し、Qはラジカルとして脱離して、ビニル炭素を遊離基付加に
向けて活性化することが可能な官能基を示す)
で表わされるビニルエーテルを開始種とし、ルイス酸の存在下、カチオン重合可能なビ
ニル系モノマーをリビングカチオン重合する工程、
(B)前記工程により得られたリビングポリマーをマクロ連鎖移動剤として、ラジカル 重合開始剤の存在下、ラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングラジカル重合す る工程
を含む、ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
Qで示される官能基が、−CRCN、−C(CHAr、−CH(COOR)Ar、−C(CHCOOR、−C(CHCONHR、−C(CHCONR、−C(CHR、−CH(CH)Ar、−CHAr、−CRCOOH、−CRCN−(CH−COOH、及び−CRCN−(CH−OH(ここで、Rは炭素数1〜12のアルキル基を表し、Arは非置換又は置換フェニル、ナフチル、アントラセニル、ピレニル又はピリジル基を表し、aは1〜8の整数を示す)からなる群から選ばれる官能基である請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
Aで示される2価の有機基が、炭素数1〜12の2価のアルキル基又は−CHCH−(OCHCH−(ここで、bは1〜5の整数を示す)等である請求項1又は2に記載に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
Qで示される官能基がベンジル基である請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
カチオン重合可能なビニル系モノマーが、アルケニルエーテルである請求項1〜4の何れかに記載のブロック重合体の製造方法。
【請求項6】
アルケニルエーテルが、次の式(4)
【化2】

(式中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示し、Rはケイ素原子又は15族か
ら17族の元素のうち少なくとも一つの原子を含んでいてもよい1価の有機基を示す)
で表されるアルケニルエーテルである請求項5記載のブロック重合体の製造方法。
【請求項7】
ラジカル重合可能なビニル系モノマーが、酢酸ビニル、スチレン、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体及びN−ビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜6の何れかに記載のブロック重合体の製造方法。
【請求項8】
次の式(1)
【化3】

(式中、Aは酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜12の2価の有機基を、Xは酸素原
子又は硫黄原子を示し、Qはラジカルとして脱離して、ビニル炭素を遊離基付加に向け
て活性化することが可能な官能基を示す)
で表わされるビニルエーテルを開始種とし、ルイス酸の存在下、カチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合することを特徴とする、可逆的付加開裂連鎖移動重合可能なマクロ連鎖移動剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−40245(P2013−40245A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176638(P2011−176638)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】