説明

ブロック剤低温解離用触媒及びそれを含有する水性一液熱硬化性組成物

【課題】 水系においてブロック剤を低温で解離させることができる水溶性触媒及びその用途を提供する。
【解決手段】 β−ジケトン及び親水性付与基を配位子として含む金属化合物を含有するブロック剤低温解離用触媒、当該ブロック剤低温解離用触媒及びブロックイソシアネートを含有する水性エマルション溶液、並びに、当該ブロック剤低温解離用触媒、ブロックイソシアネート及びイソシアネート反応性基を有する化合物を含有する水性一液熱硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック剤低温解離用触媒、及びそれを用いた水性一液熱硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂塗料は非常に優れた耐摩耗性、耐薬品性、耐汚染性を有している。一般的なポリウレタン樹脂塗料はポリオール成分とポリイソシアネート成分からなる二液型であり、それぞれを別々に貯蔵し塗装時に混合して使用する。しかし、一旦混合した塗料は短時間で硬化してしまうため可使時間が短く、塗装時の作業性の点で問題がある。また、ポリイソシアネートと水が容易に反応するため、電着塗料の様な水性塗料での使用は不可能であった。このように、二液のポリウレタン樹脂塗料はその使用に際して多くの制限を有していた。
【0003】
この問題点を改善するために、ポリイソシアネートを活性水素基含有化合物(ブロック剤)と反応させて不活性したブロックイソシアネートを用いる方法が知られている。このブロックイソシアネートは、常温ではポリオールと反応しないが、加熱されることでブロック剤が解離してイソシアネート基を再生し、ポリオールとの架橋反応が進むものである。このため、可使時間が制限されることがなく、塗料にあらかじめ両者を配合して一液とすることや、水性塗料への適用も可能となる。
【0004】
ポリイソシアネートのブロック剤として使用される化合物としては、一般的にε−カプロラクタム、メチルエチルケトンオキシム、フェノールなどが知られている。しかし、これらはブロック剤を解離させるのに140℃以上の高い焼付け温度を必要とするため、エネルギー的に不利であり、耐熱性の低いプラスチック基材には適用できないという問題があった。このため、触媒の使用によって焼付け温度を低くする試みが従来から行われており、溶剤系では、有機錫、ビスマス、亜鉛の塩が触媒として有効であることが報告されている。
【0005】
しかし、これら溶剤系で使用される触媒は、水に対して不安定であり、均一に分散させることができないことから、環境面で有利な水系には一般的に使用することができない。
【0006】
これまでのところ、水系で有効な水溶性のブロック剤解離用触媒はわずかしか開示されていない。例えば、特許文献1では4価のモリブデン、タングステン化合物、特許文献2では4価バナジウム化合物が開示されているが解離温度の低下は十分とは言えず、未だ効果の高い水系で有効な水溶性のブロック剤解離用触媒は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−519278号公報
【特許文献2】特表2006−519890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水系においてブロック剤を低温で解離させることができる水性触媒及びその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、β−ジケトン及び親水性付与基を配位子として含む金属化合物が水系においてブロック剤を低温で解離させることができる水性触媒となることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、β−ジケトン及び親水性付与基を配位子として含む金属化合物を含有するブロック剤低温解離用触媒、上記ブロック剤低温解離用触媒及びブロックイソシアネートを含有する水性エマルション溶液、さらに、上記ブロック剤低温解離用触媒、ブロックイソシアネート及びイソシアネート反応性基を有する化合物を含有する水性一液熱硬化性組成物である。
【0010】
以下、本発明をさらに詳しく述べる。
【0011】
本発明のブロック剤低温解離用触媒は、β−ジケトン及び親水性付与基を配位子として含む金属化合物を含有する。
【0012】
金属化合物の金属としては、特に限定はしないものであり、例えば、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、ガリウム、インジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等が挙げられるが、これらの中で、一液熱硬化性組成物への着色がないという理由から、亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、ガリウム、インジウムが好ましい。
【0013】
β−ジケトンとしては、特に限定はしないものであり、例えば、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、2,4−オクタンジオン、2,4−デカンジオン、2,4−トリデカンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオン、5−メチル−2,4−ヘキサンジオン、5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2−ジメチル−3,5−ノナンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,3−シクロペンタンジオン、1,3−シクロヘキサンジオン、1−シクロヘキシル−1,3−ブタンジオン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン(1−ベンゾイルアセトン)、1−フェニル−1,3−ペンタンジオン、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、1−フェニル−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、1−(4−ビフェニル)−1,3−ブタンジオン、1−フェニル−3−(2−メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオン、1−(4−ニトロフェニル)−1,3−ブタンジオン、1−(2−フリル)−1,3−ブタンジオンおよび1−(テトラヒドロ−2−フリル)−1,3−ブタンジオン等が挙げられる。これらの中で好ましいものは、アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンであり、特に好ましいものは、アセチルアセトンである。
【0014】
親水性付与基としては、極性を持ち水との親和性が高い配位子であれば特に限定はしないものであり、例えば、α−ヒドロキシカルボン酸、β−ヒドロキシカルボン酸、グリコール等が挙げられる。α−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、マンデル酸等が挙げられる。β−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、β−ヒドロキシ酪酸、β−ヒドロキシ吉草酸等が挙げられる。グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。これらの親水性付与基の中で好ましいものは、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、エチレングリコールであり、特に好ましいものは乳酸である。
【0015】
β−ジケトン及び親水性付与基を配位子として含む金属化合物の代表例としては、例えば、亜鉛アセチルアセトナートラクテート、亜鉛アセチルアセトナートグリコレート、ジルコニウムアセチルアセトナートラクテート、ジルコニウムアセチルアセトナートグリコレート、ジルコニウムアセチルアセトナートマレート、アルミニウムアセチルアセトナートラクテート、チタンアセチルアセトナートラクテート、チタンアセチルアセトナートグリコレート、ガリウムアセチルアセトナートラクテート、インジウムアセチルアセトナートラクテート等を挙げることができる。これらの中で好ましいのは、アセチルアセトナートラクテートである。これらは単独で使用しても、2種以上の併用でもよい。
【0016】
本発明のブロック剤低温解離用触媒は、助触媒としてジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、N−メチルモルホリン等の三級アミン、またはその塩等を含有してもよい。
【0017】
本発明のブロック剤低温解離用触媒は、例えば、金属β−ジケトン化合物と親水性化合物を配位子交換することで製造することができる。
【0018】
金属β−ジケトン化合物としては、特に限定はしないものであり、例えば、亜鉛ビスアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、チタンテトラキスアセチルアセトナート、ガリウムトリスアセチルアセトナート、インジウムトリスアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0019】
親水性化合物としては、特に限定はしないものであり、例えば、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、マンデル酸、β−ヒドロキシ酪酸、β−ヒドロキシ吉草酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等を挙げることができる。
【0020】
配位子交換は金属β−ジケトン化合物及び親水性化合物を溶剤中で室温または加熱下で攪拌することで行われる。溶剤としては、特に限定はしないものであり、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ジクロロメタン、アセトン等を挙げることができる。
【0021】
本発明の水性エマルション溶液は、上記のブロック剤低温解離用触媒及びブロックイソシアネートを含有するものである。
【0022】
ブロックイソシアネートとは、ポリイソシアネートを活性水素化合物と反応させて常温で不活性としたものをいい、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネートのメチルエチルケトンオキシム、ε−カプロラクタム又はマロン酸ジエチルブロック体、イソホロンジイソシアネート系ポリイソシアネートのメチルエチルケトンオキシム、ε−カプロラクタム又はマロン酸ジエチルブロック体等が挙げられる。
【0023】
ブロックイソシアネ−トはポリイソシアネートにイソシアネート基と反応しうる活性水素基を少なくとも1個以上有する親水性基を反応させ、公知のブロック剤でブロックすることにより得ることができる。
【0024】
ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられ、脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3−イソシアナトメチル−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられ、芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製MDI、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート等が挙げられ、芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、ポリイソシアネートと活性水素基含有化合物との反応によるイソシアネート基末端化合物、またはこれら化合物の反応、例えばアダクト型ポリイソシアネートやウレトジオン化反応、イソシアヌレート化反応、カルボジイミド化反応、ウレトンイミン化反応、ビウレット化反応などによるイソシアネート変性体、およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
親水性基としては、カチオン、アニオン等のイオン性基、ノニオン性基等が挙げられる。ポリイソシアネートにノニオン性基を導入するためのノニオン性化合物としては、ポリアルキレンエーテルアルコール、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0026】
公知のブロック剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール等のアルコール類、フェノール、クレゾール、ニトロフェノール、クロロフェノール、レゾルシノール等のフェノール類、ベンゼンチオール等のチオール類、ε−カプロラクタム等のカプロラクタム類、エチルカーバメイト等のカーバメイト類、アセチルアセトン等のケトエノール類、メチルエチルケトンオキシム等のケトオキシム類、重亜硫酸曹達等を挙げることができる。
【0027】
本発明の水性エマルション溶液におけるブロック解離用触媒の含有量は、特に限定はしないが、低温硬化性をより発揮させるため、ブロックイソシアネートに対して、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%、特に好ましくは1〜5重量%の範囲である。
【0028】
本発明の水性エマルション溶液は、ブロック剤低温解離用触媒とブロックイソシアネートを混合することで得ることができる。
【0029】
本発明の水性一液熱硬化性組成物は、上記のブロック剤低温解離用触媒、上記のブロックイソシアネート及びイソシアネート反応性基を有する化合物を含有するものである。
【0030】
イソシアネート反応性基を有する化合物としては、例えば、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリイソシアネート、ポリウレタン等が挙げられる。
【0031】
ポリオールは、イソシアネート基に対して反応性を有する水酸基を2個以上含む化合物であり、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオール等、これらを水に乳化、分散または溶解させたもの等が挙げられる。アクリルポリオール等を水に乳化、分散または溶解させる方法としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基等を導入し中和させる方法等がある。中和剤としては、例えば、アンモニア、水溶性アミノ化合物であるモノエタノールアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等から選択される1種以上を用いることができる。
【0032】
アクリルポリオールとしては、例えば、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルとアクリル酸エステル類の共重合物、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルとメタクリル酸エステル類の共重合物等が挙げられ、例えば、一分子中に1個以上の活性水素を持つ重合性モノマーと、これに共重合可能なモノマーの共重合等により得ることができる。
【0033】
一分子中に1個以上の活性水素を持つ重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−2−ヒドロキシブチル等のアクリル酸ヒドロキシエステル類、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシブチル等のメタクリル酸ヒドロキシエステル類、グリセリンのアクリル酸モノエステルあるいはメタクリル酸モノエステル、トリメチロールプロパンのアクリル酸モノエステルあるいはメタクリル酸モノエステル、あるいはこれらの活性水素にε−カプロラクトンを開環重合させる事により得られるモノマーが挙げられる。
【0034】
上記重合性モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド類、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0035】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、縮合ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール等が挙げられる。
【0036】
縮合ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオール等が挙げられ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のジオール類とコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸との反応等により得ることができる。
【0037】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ3−メチルペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等が挙げられ、例えば、上記ジオール類とジメチルカーボネート等によって代表されるようなジアルキルカーボネートの反応等により得ることができる。
【0038】
ポリラクトンポリオールとしては、例えば、ポリカプロラクトンジオール等が挙げられ、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンおよびこれらの2種以上の混合物の開環重合等により得ることができる。
【0039】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物の1種または2種以上を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーの1種または2種以上を付加重合させて得ることができる。モノマーを2種以上付加重合させた反応物の場合は、ブロック付加、ランダム付加または両者の混合系でも良い。
【0040】
エポキシポリオールとしては、例えば、ノボラック型、β−メチルエピクロ型、環状オキシラン型、グリシジルエーテル型、グリコールエーテル型、脂肪族不飽和化合物のエポキシ型、エポキシ化脂肪酸エステル型、多価カルボン酸エステル型、アミノグリシジル型、ハロゲン化型、レゾルシン型等のエポキシポリオールを挙げることができる。
【0041】
ポリオールの水酸基価としては、固形分あたり10〜300mgKOH/gが好ましく、より好ましくは20〜250mgKOH/gである。水酸基価は、JIS−K0070に規定された方法、すなわち、試料に無水酢酸およびピリジンを加えて溶解させ、放冷後、水、トルエンを加えて調製した滴定試料液を、水酸化カリウムのエタノール溶液で中和滴定することで測定できる。水酸基価は、1gの試料に含まれる水酸基をアセチル化するために消費された酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表される。
【0042】
本発明の水性一液熱硬化組成物におけるポリオールの水酸基とイソシアネート基との当量比は、特に制限はなく、必要とする塗膜物性により決定されるが、通常0.2〜2.0である。
【0043】
本発明の水性一液熱硬化性組成物におけるブロック解離用触媒の含有量は、特に限定はしないが、低温硬化性をより発揮させるため、ブロックイソシアネートに対して、好ましくは0.1〜15重量%、より好ましくは0.5〜10重量%、特に好ましくは1〜5重量%の範囲である。
【0044】
本発明の水性一液熱硬化性組成物は、水性エマルション溶液にイソシアネート反応性基を有する化合物を加えることで得ることができる。また、本発明の水性一液熱硬化性組成物は、ブロック剤低温解離用触媒とブロックイソシアネートとイソシアネート反応性基を有する化合物を混合することで得ることができる。
【0045】
本発明の水性エマルション溶液,水性一液熱硬化性組成物は、必要に応じて以下に示すような当該技術分野で常用される紫外線吸収剤、酸化防止剤、ウレタン化触媒、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤等の添加剤、顔料、溶剤等を含有してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等が挙げられ、酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系、ヒドラジド系等が挙げられ、ウレタン化触媒としては、例えば、錫系、亜鉛系、アミン系等が挙げられる。顔料としては、例えば、キナクリドン系、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ等の無機顔料、炭素系顔料、金属箔状顔料、防錆顔料等が挙げられる。溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、ナフサ等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル類などの群から目的及び用途に応じて適宜選択して使用することができる。これらの溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の水性一液熱硬化性組成物は、自動車の上中塗り塗料、耐チッピング塗料、電着塗料、自動車部品用塗料、自動車補修用塗料、家電・事務機器等の金属製品等のプレコートメタル・防錆鋼板、建築資材用塗料、プラスチック用塗料、接着剤、接着性付与剤、シーリング剤等として使用することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明のブロック剤低温解離用触媒を用いることにより、水系においてブロック剤を低温で解離させることが可能となった。
【実施例】
【0048】
以下の実施例において、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等制限をうけるものではない。
【0049】
<水性一液熱硬化性組成物の焼付け>
水性一液熱硬化性組成物をポリプロピレン板に塗布し、50℃のオーブンで30分間予備乾燥した後、120℃、130℃、140℃のオーブンに入れ、30分間焼付けを行った。
【0050】
<耐溶剤性の評価>
焼付けを行った塗膜をポリプロピレン板から剥離し、メチルエチルケトンに12時間浸漬した。メチルエチルケトン浸漬後の塗膜の重量残存率よりゲル分率を求め、耐溶剤性を評価した。
【0051】
製造例1
(ブロックイソシアネートの調製)
窒素吹き込み管を取り付けた4ツ口フラスコに攪拌羽根、還流冷却管を取り付け、容器内を窒素雰囲気にした後、イソシアヌレート変性ヘキサメチレンジイソシアネート(コロネートHX、日本ポリウレタン製、HDI三量体、NCO21.3%)49.0g、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(Aldrich製、平均分子量550)13.7gを仕込み、80℃で9時間反応させた。その後、メチルエチルケトンオキシム18.6g、メチルエチルケトン20.0gを加え、80℃で3時間反応させ、イソシアネートが検出されなくなったところで室温に冷却し反応を停止した。
【0052】
得られた組成物100gに水150gを攪拌しながら徐々に添加し、水中に乳化分散し、得られた乳化分散液からエバポレーターにて残留するメチルエチルケトンを除去し、ブロックイソシアネートを得た。得られたブロックイソシアネートは固形分濃度39.0%、有効NCO1.19mmol/gの安定な分散液であった。
【0053】
製造例2
(ポリオールの調製)
窒素吹き込み管を取り付けた4ツ口フラスコ内にポリテトラメチレングリコール(PTG−2000SN、保土谷化学工業製、数平均分子量1993)500gを仕込み、130℃で1時間減圧乾燥した。反応器内温度を下げ反応器内を窒素雰囲気にした後、攪拌羽根、還流冷却管を取り付け、ジメチロールプロピオン酸16.9g、ヘキサメチレンジイソシアネート79.3g、メチルエチルケトン149gを加え、80℃で3時間反応させた。その後、メチルエチルケトン106gを加え、80℃で3時間反応を継続し、イソシアネート残留量が1.06重量%に達したところで室温に冷却し反応を停止した。攪拌しながら、アセトン341g、ジエタノールアミン22.6gを加え、プレポリマー溶液を得た。
【0054】
得られたプレポリマー溶液200gに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGANOX1010、チバ・ジャパン製)0.200g、トリエチルアミン2.00g、水233gを攪拌しながら徐々に添加し、水中に乳化分散した。得られた乳化分散液よりエバポレーターにて残留するメチルエチルケトン、アセトンを除去し、ポリオールを得た。得られたポリオールは水溶性であり、固形分濃度30.0%、固形分に対する水酸基価35.0mgKOH/gの安定な分散液であった。
【0055】
実施例1
(ブロック剤低温解離用触媒の調製)
表1に示すように、100mLシュレンク管に亜鉛ビスアセチルアセトナート一水和物0.920g、メタノール10.0gを仕込み、室温で5分間攪拌した。その後、乳酸(88.5%水溶液)0.350gを加え、室温で12時間攪拌した。50℃で減圧にし、徐々にメタノールを除去し、ブロック剤低温解離用触媒である白色粉末の亜鉛アセチルアセトナートラクテート(Zn(C)(CHCH(OH)COO))を得た。得られた化合物は水溶性であった(この中で、(C)がアセチルアセトン配位子でβ−ジケトン配位子に相当し、(CHCH(OH)COO)は乳酸配位子で親水性付与基の配位子に相当する。)。
【0056】
【表1】

【0057】
(水性エマルション溶液の調製)
表2に示した組成で、製造例1で得られたブロックイソシアネートに上記で得られたブロック剤低温解離用触媒の5%水溶液を攪拌しながら加え、水性エマルション溶液を調製した。
【0058】
【表2】

【0059】
(水性一液熱硬化性組成物の調製及び耐溶剤性評価)
表2に示した組成で、上記で得られた水性エマルション溶液に、製造例2で得られたポリオールを攪拌しながら加え、水性一液熱硬化性組成物を調製した。これを120℃、130℃、140℃で焼付けた後、耐溶剤性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0060】
実施例2〜6
表1に示した組成で金属β−ジケトン化合物、メタノール、乳酸を用い、実施例1と同様の方法でブロック剤低温解離用触媒を調製した。得られた化合物は水溶性であった。
【0061】
実施例1と同様の方法で、表2に示した組成で、水性エマルション溶液を調製し、さらに、水性一液熱硬化性組成物を調製して、耐溶剤性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0062】
実施例7〜8
表3に示した組成で、製造例1で得られたブロックイソシアネートに実施例1〜6で得られたブロック剤低温解離用触媒の中から2種類を選んでその5%水溶液を攪拌しながら加え、水性エマルション溶液を調製した。
【0063】
実施例1と同様の方法で、表3に示した組成で、水性一液熱硬化性組成物を調製して、耐溶剤性の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例9〜10
表4に示した組成で、実施例1,実施例2で得られたブロック剤低温解離用触媒の5%水溶液、製造例1で得られたブロックイソシアネート、製造例2で得られたポリオールを同時に混合し、水性一液熱硬化性組成物を得た。これを120℃、130℃、140℃で焼付けた後、耐溶剤性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
比較例1〜6
(親水性付与基を含まない金属化合物)
実施例1〜6に対して、親水性付与基を含まない金属化合物の水溶性を調べた結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
比較例7
(ブロック剤低温解離用触媒を含有しない水性一液熱硬化性組成物の調製及び耐溶剤性評価)
表2に示した組成で、製造例1で得られたブロックイソシアネートと製造例2で得られたポリオールを混合してブロック剤低温解離用触媒を含有しない水性一液熱硬化性組成物を得た。これを120℃、130℃、140℃で焼付けた後、耐溶剤性の評価を行った。その結果を表2に示す。実施例1〜8と比較して、ゲル分率が各温度で低く、本発明のブロック剤低温解離用触媒の添加により、ブロック剤の解離温度が低下することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のブロック剤低温解離用触媒は種々のブロック剤の解離用触媒として広範に利用される。そして、ブロック剤低温解離用触媒、ブロックイソシアネート及びイソシアネート反応性基を有する化合物を含有する水性一液熱硬化性組成物は、自動車の上中塗り塗料、耐チッピング塗料、電着塗料、自動車部品用塗料、自動車補修用塗料、家電・事務機器等の金属製品等のプレコートメタル・防錆鋼板、建築資材用塗料、プラスチック用塗料、接着剤、接着性付与剤、シーリング剤等として広範な分野で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−ジケトン及び親水性付与基を配位子として含む金属化合物を含有することを特徴とするブロック剤低温解離用触媒。
【請求項2】
金属化合物の金属が亜鉛、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、ガリウム及びインジウムから選ばれる少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項1記載のブロック剤低温解離用触媒。
【請求項3】
親水性付与基がカルボキシル基、カルボン酸塩及び水酸基から選ばれる少なくとも1つを含む原子団であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のブロック剤低温解離用触媒。
【請求項4】
水溶性であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項記載のブロック剤低温解離用触媒。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかの項記載のブロック剤低温解離用触媒及びブロックイソシアネートを含有することを特徴とする水性エマルション溶液。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかの項記載のブロック剤低温解離用触媒、ブロックイソシアネート及びイソシアネート反応性基を有する化合物を含有することを特徴とする水性一液熱硬化性組成物。

【公開番号】特開2011−137090(P2011−137090A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298063(P2009−298063)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】