説明

ブロック覆工の目地補修方法

【課題】目地に目地空洞が発生するのを防止して補修後のブロック覆工の耐力低下を防止することと、漏水を排水するための構造の施工をブロック覆工の耐力を低下させることなく容易にできるようにすることである。
【解決手段】ブロック覆工12の目地14に生じた目地やせ部分を掃除し、掃除した目地やせ部分に一層目の目地材16aを詰め込む。次に、クリップ状に形成されたステンレス製の金具24をその一部が一層目の目地材16aに埋設されるように当該目地やせ部分に弾性変形させた状態で設置し、金具24が設置された目地やせ部分に二層目の目地材16bを詰め込む。ブロック覆工12に漏水が生じている場合には、当該漏水を生じている範囲の目地やせ部分に排水用ホースを設置してから、一層目の目地材16a、金具24及び二層目の目地材16bを目地やせ部分に詰め込んで、目地14の内部に排水用ホースを埋設した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネルの内面等に設けられるブロック覆工の目地に生じる目地やせを補修するブロック覆工の目地補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの内面に設けられるトンネル覆工としては、石、レンガ、コンクリートブロック等のブロック材を積み重ねて形成されるブロック覆工が知られている。例えば、レンガトンネルでは、掘削したトンネルの内面に多数のレンガをモルタル等の目地材を用いて積み重ねてブロック覆工を形成している。
【0003】
このようなブロック覆工では、その目地が漏水や経年変化により目地やせを生じると、覆工全体の耐力が低下することになる。そのため、目地やせを生じた部分を、適宜、目地詰めにより補修して、ブロック覆工の耐力低下が生じないようにしている。
【0004】
目地の補修作業は、例えば、非特許文献1に示されるように、目地やせ部分をブラシやブロワー等を用いて掃除し、次いで、モルタルガンや目地コテ等を用いて目地材を目地やせ部分に詰め込むことにより行われる。目地やせは、通常、トンネル天井付近の目地が下向に開口する部分で多く生じるので、その補修作業は狭小区間での上向作業となる場合が多い。また、目地やせは、覆工の深部からの漏水が多い場所で多く生じる傾向がある。そのため、目地やせの補修作業では、目地材として急結セメントや硬化促進剤、高分子材料等を混入した固練りのモルタルが多く使用される。
【0005】
一方、漏水が多く生じている部分の目地やせを補修する場合には、目地詰め作業とは別に、漏れ出した水を排水溝にまで導くための構造が施工される。漏水量が比較的多く、漏水が覆工のひび割れ等に沿って直線状に発生している場合であって、トンネル覆工の内側部分つまり内空断面にスペース的に余裕がある場合には、覆工の表面に平形の樋を取り付ける導水樋工法が用いられる。導水樋工法は、覆工表面に発生した漏水を樋により排水溝にまで導くものであり、線状の漏水防止工法として最も多く用いられている。この導水樋工法としては、アンカーボルトにより樋材を覆工に固定するもの、止め金具により樋材を覆工に固定されたアンカーボルトに取り付けるもの、樋材に断熱材を用いるもの、樋材にジッパーを設けて樋材の内部の掃除を可能とするもの、樋を並列配置して面状に導水するもの等、種々のタイプがある。これに対して、トンネル覆工の内空断面にスペース的な余裕がない場合には、溝切り工が用いられる。溝切り工は、漏水が生じた箇所の覆工の表面にV字またはU字の切り込みを形成し、この切り込みにパイプや合成ゴム等の整形材料を取り付けて内部に導水路を形成する工法である。切り込みをV字に形成するVカット工法には、半割パイプを溝開口に充填材で固定するもの、樋を溝開口にアンカーで固定するもの等がある。一方、切り込みをU字に形成するUカット工法には、半割パイプを溝開口に充填材で固定するもの、弾性定型材料を弾性変形させた状態で溝開口に保持させるとともにコーキング材で密閉するもの、弾性非定型材料を溝開口に接着剤で固定するもの等がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】鉄道総合技術研究所編、「トンネル補強・補修マニュアル」、(財)研友社、1990年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、目地やせの補修作業では、目地材として固練りのモルタルが多く使用されるが、固練りのモルタルを手作業で目地詰め作業するのは困難であり、場合によっては目地の内部に目地空洞等の弱部が生じるおそれがある。
【0008】
これに対して、減衰剤を添加して目地材の粘度を下げるとともに圧搾空気を用いて目地材を目地やせ部分に吹き込むようにした工法が知られている。しかしながら、この工法では、目地材の粘性が低いので、特に上向施工部分において、目地やせ部分に詰め込まれた目地材の一部が自重により下方にずれ落ち、目地内部に目地空洞等の弱部が生じるおそれがある。また、減衰剤を添加する場合には、これに対応して硬化促進剤等の添加量を増加させる必要があるので、漏水箇所での適用が困難となり、また、そのコストも増加することになる。さらに、レンガ等のブロック材は目地材であるモルタルの水分を吸収するので、補修のために目地やせ部分に詰め込まれた目地材のブロック材に対する付着力は、その水分が減少するに従い低下することになる。これによっても、目地材が自重によりずれ落ち易くなり、目地内部に目地空洞を生じる原因となる。
【0009】
このように、目地内部に目地空洞等の弱部が生じると、補修後のブロック覆工の耐力が十分に高められないことになる。
【0010】
一方、漏水がある場合に行われる導水樋工法は、その施工が大がかりであるので、補修工費が高くなる。これに対して、溝切り工を用いて漏水に対処する方法は、覆工の表面に切り込みを入れることになるので、かえって覆工の耐力が低下することになる。また、V字に溝を切る方法では、充填材である防水モルタル等が溝から剥離し易いという欠点がある。さらに、U字に溝を切る方法には、Vカットに比べて通水断面が大きく、また、充填材が剥離するおそれは少ないという長所はあるが、通水断面が大きい分、その切り欠き加工に手間がかかるという欠点がある。このような欠点を有する方法は、営業運転が終了した夜間にしか補修作業ができない鉄道トンネルには適用が困難である。
【0011】
本発明の目的は、目地補修後に目地内に目地空洞が発生することを防止して、補修後のブロック覆工の耐力低下を防止することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、漏水を排水するための構造をブロック覆工の耐力を低下させることなく容易に形成することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のブロック覆工の目地補修方法は、ブロック材を積み重ねて形成されるブロック覆工の目地に生じる目地やせを補修するブロック覆工の目地補修方法であって、前記ブロック材の間の目地やせ部分に金具を設置する金具設置工程と、前記ブロック材の間の目地やせ部分に目地材を詰める目地詰め工程とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のブロック覆工の目地補修方法は、前記金具は、ステンレス製の線材によりくの字に曲がるクリップ状に形成され、前記ブロック材の間にくの字方向に弾性変形した状態で設置されることを特徴とする。
【0015】
本発明のブロック覆工の目地補修方法は、前記金具設置工程の前に、前記ブロック材の間の目地やせ部分を掃除する掃除工程が行われることを特徴とする。
【0016】
本発明のブロック覆工の目地補修方法は、前記目地詰め工程は、前記金具設置工程前の第1の目地詰め工程と、前記金具設置工程後の第2の目地詰め工程とに分けて行われることを特徴とする。
【0017】
本発明のブロック覆工の目地補修方法は、前記金具設置工程の前に、前記ブロック材の間の目地やせ部分に排水用ホースを設置するホース設置工程が行われ、前記目地詰め工程において前記ブロック材の間の目地やせ部分に詰められる目地材により前記排水用ホースが前記目地内に埋設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、各ブロック材の間の目地やせを生じた部分に金具を設置し、この金具を埋設するように目地やせ部分に目地材を詰め込むようにしたので、目地やせ部分に詰め込まれる目地材の目地内への付着性(保持性)を高めることができる。これにより、目地材がブロック材の間で自重により分離しながら下方にずれ落ちて目地に空洞が生じることを防止して、目地補修後のブロック覆工の耐力低下を防止することができる。
【0019】
本発明によれば、くの字に曲がるクリップ状の金具を各ブロック材の間にくの字方向に弾性変形した状態で設置するようにしたので、金具により補修前のブロック材のガタつきを防止することができる。これにより、目地詰め作業を容易にし、また、ブロック材のガタつきにより目地空洞が生じることを防止することができる。
【0020】
本発明によれば、金具設置工程の前後の2回に分けて目地詰め工程を行うようにしたので、目地やせ部分の金具よりも奥側と開口側の両側に目地材を容易且つ確実に詰め込むことができる。これにより、目地の内部に空洞が生じることをさらに確実に防止することができる。
【0021】
本発明によれば、目地やせ部分に設置した排水用ホースを目地材により目地内に埋設して漏水を排水するための導水路を形成するようにしたので、ブロック材表面への溝の加工を不要として、漏水を排水するための構造をブロック覆工の耐力を低下させることなく容易に形成することができる。また、大がかりな樋の設置が不要となるので、内空断面に余裕がないトンネルに対して適用可能となる。さらに、ブロック覆工からの漏水を目地に触れさせずに排水することができるので、漏水により目地のセメント分が流失するのを防いで、目地の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ブロック覆工が設けられたトンネルの概略を示す図である。
【図2】図1に示すトンネルのブロック覆工の一部を拡大して示す図である。
【図3】図2に示すブロック覆工の目地やせを生じた状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるブロック覆工の目地補修方法の工程図である。
【図5】図4に示すブロック覆工の目地補修方法により補修されたブロック覆工の一部を拡大して示す図である。
【図6】(a)は図4に示す掃除工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図7】(a)は図4に示す第1の目地詰め工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図8】(a)は図4に示す金具設置工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図9】(a)は図4に示す第2の目地詰め工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図10】(a)は図8に示すクリップの詳細を示す斜視図であり、(b)は同側面図、(c)は同平面図である。
【図11】ブロック覆工から漏水を生じているトンネルの概略を示す図である。
【図12】ブロック覆工から漏水を生じている場合に適用される本発明の他の実施の形態であるブロック覆工の目地補修方法の工程図である。
【図13】図12に示すブロック覆工の目地補修方法により補修されたブロック覆工の概略を示す図である。
【図14】(a)は図12に示す掃除工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図15】(a)は図12に示すホース設置工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図16】(a)は図12に示す第1の目地詰め工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図17】(a)は図12に示す金具設置工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図18】(a)は図12に示す第2の目地詰め工程の作業状態を示す平面図であり、(b)は同断面図である。
【図19】(a)は図15に示す排水用ホースの断面図であり、(b)は同斜視図である。
【図20】(a)は図15に示すホース接続用のT型のチーズを示す図であり、(b)は図15に示すホース接続用のL型のチーズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1に示すトンネル11は、地山を掘削して形成され、その内面にトンネル覆工としてブロック覆工12を設けたものである。図2に示すように、このブロック覆工12は、ブロック材としてのレンガ13を、モルタルを目地材としてトンネル11の内面に沿って3層に積み重ねるとともにトンネル11の奥行き方向に向けて連続して積んだ断面馬蹄形のアーチ状に形成されている。つまり、このトンネル11は、多数のレンガ13が目地14を介して積まれた、いわゆるレンガトンネルとなっている。
【0025】
このようなトンネル11のブロック覆工では、地山深部からの漏水や経年変化等により、目地14として詰め込まれていたモルタル等の目地材が外部にこぼれ落ち、図3に示すように、目地やせを生じる場合がある。目地やせが生じると、ブロック覆工全体の耐力が低下することになるので、トンネル11の安全性を確保するためには、目地やせが生じた部分つまり目地やせ部分15を、適宜、目地詰めにより補修する必要がある。本発明は、このようなブロック覆工12の目地14に生じる目地やせを補修するブロック覆工の目地補修方法である。
【0026】
図4は本発明の一実施の形態であるブロック覆工の目地補修方法の工程図であり、図5は図4に示すブロック覆工の目地補修方法により補修されたブロック覆工の一部を拡大して示す図である。
【0027】
図4に示す本発明のブロック覆工の目地補修方法は、ブロック覆工12から漏水が生じていない場合に適用されるものであり、掃除工程、第1の目地詰め工程、金具設置工程及び第2の目地詰め工程の4つの工程からなっている。目地やせを生じたブロック覆工12は、この目地補修方法により、図5に示すように、その目地やせした部分15に新たな目地材16a,16bが詰め込まれて補修される。
【0028】
図6(a)は図4に示す掃除工程の作業状態を示す平面図、図6(b)は同断面図であり、図7(a)は図4に示す第1の目地詰め工程の作業状態を示す平面図、図7(b)は同断面図である。また、図8(a)は図4に示す金具設置工程の作業状態を示す平面図、図8(b)は同断面図であり、図9(a)は図4に示す第2の目地詰め工程の作業状態を示す平面図、図9(b)は同断面図である。さらに、図10(a)は図8に示すクリップの詳細を示す斜視図であり、図10(b)は同側面図、図10(c)は同平面図である。
【0029】
次に、図6〜図10に基づいて、本発明のブロック覆工の目地補修方法の詳細について説明する。
【0030】
この目地補修方法では、最初に、掃除工程が行われる。掃除工程では、図6に示すように、ブロック覆工12の目地やせが生じたレンガ13の間の隙間部分つまり目地やせ部分15がブラシ21やブロワー22等を用いて掃除され、既存目地14aを残して当該目地やせ部分15から余分な目地材や異物等が取り除かれる。
【0031】
次に、図7に示すように、ブロック覆工12の掃除された目地やせ部分15に、第1の目地詰め工程として、既存目地14aに重ねるように、一層目の目地材16aが詰め込まれる。この目地材16aとしては、例えば、急結セメントや硬化促進剤、高分子材料等を混入した固練りのモルタルが用いられる。この目地材16aは目地コテ23等を用いた手作業やモルタルガン等を用いた作業により、目地やせ部分15に詰め込まれる。
【0032】
ここで、本実施の形態においては、目地やせ部分15に目地材を詰める目地詰め工程を、第1の目地詰め工程と第2の目地詰め工程の2回に分けて行うようにしている。そのため、第1の目地詰め工程では、目地やせ部分15の内部全体には目地材16aは詰め込まれず、概ね目地やせ部分15の底部側から半分程度の範囲にのみ目地材16aが詰め込まれる。つまり、第1の目地詰め工程では、目地やせ部分15に一層目の目地材16aが詰め込まれる。
【0033】
目地やせ部分15に一層目の目地材16aが詰め込まれると、次に、金具設置工程が行われる。この金具設置工程では、一層目の目地材16aが詰め込まれた目地やせ部分15つまり隣り合うレンガ13の間に金具(金物)24が設置される。
【0034】
この金具24はステンレス製の線材から形成されており、図10に示すように、その線材は両端が接続されて環状となっており、側面から見て「くの字」に曲がるとともに、正面から見て「Uの字」に曲げられている。これにより、金具24は「くの字」の方向に弾性変形自在のクリップ状となっている。また、金具24の「くの字」の開口側の幅寸法W1は、ブロック覆工12の目地やせ部分15の幅寸法つまり隣り合うレンガ13の間隔よりも広く設定されている。なお、金具24の「くの字」の開口側の幅寸法W1は20mm、Uの字方向の幅寸法W2は15mm〜20mm程度、長さ寸法Lは50mm〜60mm程度に設定され、また、線材としては直径が0.3mmから0.5mm程度のものが用いられている。
【0035】
図8に示すように、金具24は、その「くの字」の根本側から目地やせ部分15の内部に手作業により挿入され、次いで、当該根本部分に当てられた工具25がハンマー26で叩かれることにより、その一部が一層目の目地材16aに埋め込まれる位置にまで押し込まれて当該位置に設置される。目地やせ部分15に設置された金具24は、その「くの字」の開口側の幅寸法W1が狭くなる方向に弾性変形した状態となり、当該弾性力により隣り合うレンガ13の外面に密着して当該レンガ13の間に固定される。
【0036】
なお、各レンガ13はそれぞれ6つのレンガ13と隣り合うので、図8(a)に示すように、金具24はこれら隣り合うレンガ13の間の目地やせ部分15のそれぞれの部分に設置される。
【0037】
ブロック覆工12の目地やせ部分15に金具24が設置されると、次いで、第2の目地詰め工程により、二層目の目地材16bが目地やせ部分15に詰め込まれる。二層目の目地材16bとしても、一層目の目地材16aと同様に固練りのモルタル等が用いられ、その詰め込み作業には目地コテ23が用いられる。二層目の目地材16bは、一層目の目地材16aに重ねられるとともに金具24を埋没させるように目地やせ部分15の残り全体の範囲に詰め込まれ、その目地表面は引き込み目地に形成される。
【0038】
なお、二層目の目地材16bの目地表面は引き込み目地にかぎらず、平目地や出目地、斜め目地等であってもよい。
【0039】
このような目地補修方法により、目地14は、既存目地14aに一層目の目地材16aによる目地と二層目の目地材16bによる目地とが層状に一体に重ねられた形で補修される。そして、その目地14の内部には、図5に示すように、金具24が埋設された状態となる。
【0040】
補修のために新たに目地やせ部分15に詰め込まれた目地材16a,16bの内部に埋設されるようにレンガの間に金具24が設置されることにより、目地材16a,16bはこの金具24に絡まり、その目地内部への付着性や保持性が高められることになる。これにより、目地14が下方に向く上向施工部分においても、補修のために新たに目地やせ部分15に詰め込まれた目地材16a,16bが、それが乾燥して硬化する前に、自重により下方へずり落ちて内部に分離部分を生じることが抑制される。つまり、目地やせ部分15に金具24が設置されることにより、目地やせ部分15に新たに詰め込まれる目地材16a,16bの目地内への付着性や保持性が高められて、目地材16a,16bの乾燥後に当該目地材16a,16bで新たに形成される目地14の内部に目地空洞が発生することが防止される。
【0041】
このように、本発明のブロック覆工の目地補修方法では、ブロック覆工12を形成するレンガ13の間の目地やせ部分15に金具24を設置し、この金具24を埋設するように目地やせ部分15に新たな目地材16a,16bを詰め込むようにしたので、目地材16a,16bの目地内部への付着性を高めて目地空洞の発生を防止することができる。そして、これにより、補修後の目地14の強度を高めて、ブロック覆工12の耐力低下を防止することができる。
【0042】
また、本発明のブロック覆工の目地補修方法では、金具24として「くの字」に曲がるクリップ状のものを用い、これを各レンガ13の間に「くの字」の方向に弾性変形させた状態で設置するようにしたので、目地やせにより生じるレンガ13のガタつきを金具24の弾性力により抑制することができる。これにより、補修のための目地詰め作業時にレンガ13がガタつくことを防止して、その補修作業を容易にすることができる。また、目地詰め作業時にレンガ13が動かないので、レンガ13が動くことにより目地14内に目地空洞が発生することを防止することができる。
【0043】
さらに、本発明のブロック覆工の目地補修方法では、金具24を目地やせ部分15に設置する前後の2回に分けて目地やせ部分15に目地材16a,16bを詰め込むようにしたので、目地やせ部分15の金具24よりも底部側と金具24よりも開口側の両側に目地材16a,16bを容易且つ確実に詰め込むことができる。これにより、補修後の目地14に目地空洞が生じることを、さらに確実に防止することができる。
【0044】
図11はブロック覆工から漏水を生じているトンネルの概略を示す図である。
【0045】
次に、図11に示すようにトンネル11のブロック覆工12から漏水(図中を生じている場合に適用される本発明のブロック覆工の目地補修方法について説明する。
【0046】
図12はブロック覆工から漏水を生じている場合に適用される本発明の他の実施の形態であるブロック覆工の目地補修方法の工程図であり、図13は図12に示すブロック覆工の目地補修方法により補修されたブロック覆工の概略を示す図である。
【0047】
図12に示すように、漏水を生じている場合に適用される本発明のブロック覆工の目地補修方法は、掃除工程、ホース設置工程、第1の目地詰め工程、金具設置工程及び第2の目地詰め工程の5つの工程からなっている。この目地補修方法により、ブロック覆工12は、図4に示す補修方法と同様に、その目地14の目地やせした部分に新たな目地材が詰め込まれて当該目地やせが補修されるとともに、図13に示すように、その目地14の内部に漏水を排水溝にまで導く導水路を構成するための排水用ホース31が埋設されることになる。すなわち、この目地補修方法は、図4に示す目地補修方法に対して、ホース設置工程が追加された構成となっている。
【0048】
図14(a)は図12に示す掃除工程の作業状態を示す平面図、図14(b)は同断面図であり、図15(a)は図12に示すホース設置工程の作業状態を示す平面図、図15(b)は同断面図である。また、図16(a)は図12に示す第1の目地詰め工程の作業状態を示す平面図、図16(b)は同断面図であり、図17(a)は図12に示す金具設置工程の作業状態を示す平面図、図17(b)は同断面図であり、図18(a)は図12に示す第2の目地詰め工程の作業状態を示す平面図、図18(b)は同断面図である。さらに、図19(a)は図15に示す排水用ホースの断面図、図19(b)は同斜視図であり、図20(a)は図15に示すホース接続用のT型のチーズを示す図、図20(b)は図15に示すホース接続用のL型のチーズを示す図である。
【0049】
次に、図14〜図20に基づいて、図12に示す本発明のブロック覆工の目地補修方法の詳細について説明する。
【0050】
ブロック覆工12に漏水がある場合に適用される本発明の他の実施の形態であるブロック覆工の目地補修方法においても、図6に示す漏水がない場合の補修方法と同様に、まず掃除工程が行われ、図14に示すように、目地やせが生じたレンガ13の間の隙間部分つまり目地やせ部分15がブラシやブロワー等を用いて掃除される。
【0051】
ブロック覆工12の目地やせ部分15が掃除されると、次に、ホース設置工程が行われる。図13,15に示すように、このホース設置工程では、ブロック覆工12の漏水を生じている範囲にある目地やせ部分15と、そこから排水溝に向かう範囲にある目地やせ部分15とに排水用ホース31が設置される。なお、図13の左側の平面図においては、目地14に設置された排水用ホース31を着色して示してある。この図13に示すように、排水用ホース31は、ブロック覆工12の下り勾配に沿う方向に延びる目地やせ部分15と、これに直交する方向に延びる目地やせ部分とにそれぞれ配置され、漏水を排水溝にまで導くように網目状に接続される。これらの排水用ホース31の接続には、図20(a)に示すT型のチーズ32(管継手)や図20(b)に示すL型のチーズ33(管継手)が用いられる。また、図15(b)に示すように、排水用ホース31は、目地やせ部分15の底部に既存目地14aに接するように配置される。
【0052】
排水用ホース31が目地やせ部分15に設置されると、目地やせ部分15に、ホース固定用の金具34が挿入され、この金具34と既存目地14aとの間に挟み込まれて排水用ホース31は目地やせ部分15の底部に固定される。
【0053】
なお、図示する場合では、ホース固定用の金具34として、図10に示す金具24と同一のものを用いているが、これに限らず、他の形状や材質の金具を用いるようにしてもよい。
【0054】
図19に示すように、排水用ホース31は長手方向に一列に並ぶ多数の取水孔31aを備えており、ブロック覆工12に染み出た漏水を、これらの取水孔31aから当該ホース31の内部に取り入れることができるようになっている。また、排水用ホース31の外面には不織布35が接着剤により貼り付けられており、この不織布35により、取水孔31aから排水用ホース31の内部にモルタルや異物等が侵入するのが防止されるようになっている。
【0055】
なお、本実施の形態においては、排水用ホース31としては外径が8mm〜10mm程度の樹脂ホースが用いられ、取水孔31aはその長手方向のピッチが100mmに設定されるとともに孔径は2mm〜3mm程度に設定されている。
【0056】
このように、ホース設置工程は、ブロック覆工12の漏水を生じている範囲と、そこから排水溝に向かう範囲とにある目地やせ部分15に対してのみ行われ、ブロック覆工12の漏水を生じていない範囲にある目地やせ部分15は、図4に示す漏水が生じていない場合に適用される目地補修方法により補修される。
【0057】
ブロック覆工12の目地やせ部分15に排水用ホース31が設置されると、次いで、第1の目地詰め工程が行われ、図16に示すように、排水用ホース31とこれを固定する金具34とを覆うように、目地やせ部分15に一層目の目地材16aが詰め込まれる。
【0058】
本実施の形態においても、目地やせ部分15に目地材を詰める目地詰め工程を、第1の目地詰め工程と第2の目地詰め工程の2回に分けて行うようにしており、第1の目地詰め工程では、図16(b)に示すように、概ね目地やせ部分15の底部側の半分程度の範囲にのみ目地材16aが詰め込まれる。
【0059】
目地やせ部分15に一層目の目地材16aが詰め込まれると、図17に示すように、金具設置工程において、図8に示す場合と同様に、目地やせ部分15の内部に金具24が設置される。そして、目地やせ部分15に金具24が設置されると、図18に示すように、第2の目地詰め工程により、二層目の目地材16bが目地やせ部分15に詰め込まれ、目地やせ部分15の補修が完了する。
【0060】
このような補修により、図13に示すように、ブロック覆工12の目地14が補修されるとともに、ブロック覆工12の目地14の内部に排水用ホース31が埋設され、当該排水用ホース31により漏水の導水路が形成される。目地14の内部に設置された一番下方の排水用ホース31の先端は目地14の外部に連通する排出口36となっており、各排水用ホース31により集められた水は、この排出口36からブロック覆工12の外側つまりトンネル11の内部に向けて排出されるようになっている。
【0061】
トンネル11の内部には、排出口36から排出される水を排水溝にまで導くために、樋材37が配置される。この樋材37はブロック覆工12の内面に沿って配置され、その上側部分が排水用ホース31の排出口36に対向し、下方側はトンネル11の床部分両脇に形成される排水溝(不図示)に向けて延びている。排水用ホース31の排出口36から排出された水は、この樋材37を伝い、排水溝にまで案内される。
【0062】
このように、漏水が生じた部分に適用される本発明のブロック覆工の目地補修方法においても、漏水がない場合に適用される図4に示す補修方法と同様に、目地やせ部分15に設置した金具24により目地材16a,16bの目地14の内部への付着性を高めて目地空洞の発生を防止し、これにより、補修後の目地14の強度を確保してブロック覆工12の耐力低下を防止することができる。また、「くの字」に曲がるクリップ状の金具24を各レンガ13の間に「くの字」の方向に弾性変形させた状態で設置することにより、レンガ13のガタつきを防止して目地詰め作業を容易にするとともに目地空洞の発生を防止することができる。さらに、目地材16a,16bを金具設置工程の前後2回に分けて目地やせ部分15に詰め込むことにより、補修後の目地14に目地空洞が生じることを、さらに確実に防止することができる。
【0063】
さらに、本発明のブロック覆工の目地補修方法では、ホース設置工程において目地やせ部分15に排水用ホース31を設置してから、目地詰め工程において目地やせ部分15に目地材16a,16bを詰め込むことにより目地14の内部に排水用ホース31を埋設し、当該ホース31により漏水を排水するための導水路を形成するようにしたので、ブロック覆工12つまりレンガ13の表面に溝を加工するなどしてブロック覆工12の耐力を低下させることなく、漏水の導水路を容易に形成することができる。また、ブロック覆工12の内側に大がかりな樋を設置することなく漏水を排水溝にまで導くことができるので、内空断面に余裕がないトンネル11に容易に導水路を設けることができる。さらに、ブロック覆工12に染み出た漏水は取水孔31aから排水用ホース31に取り込まれ、当該ホース31により目地14に触れることなく排水溝にまで案内されるので、漏水により目地14のセメント分が流失することを防止して、目地14の劣化を防止することができる。さらに、漏水対策用の導水路を、目地14の補修と同時に施工することができるので、その施工作業を容易にすることができる。
【0064】
なお、図11及び図13〜図18においては、前述した部材に対応する部材には同一の符号が付してある。
【0065】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前記実施の形態においては、目地材16a,16bとして各種添加剤を添加した固練りのモルタルを用いるようにしているが、これに限らず、減衰剤を添加したモルタルなど、他の目地材を用いるようにしてもよい。また、減衰材を添加したモルタルを用いる場合には、目地コテ23を用いた手作業に限らず、圧搾空気を用いて目地材16a,16bを目地やせ部分15に吹き込む工法を用いるようにしてもよい。
【0066】
また、前記実施の形態においては、目地詰め工程を第1の目地詰め工程と第2の目地詰め工程の2回に分けて行うようにしているが、これに限らず、1度の目地詰め工程のみで目地やせ部分15の全体に目地材16a,16bを詰め込むようにしてもよい。この場合、目地詰め工程を金具設置工程の前後のいずれに行うようにしてもよい。
【0067】
さらに、前記実施の形態においては、排水用ホース31を固定するための金具34を、金具設置工程により設置される金具24とは別に設置するようにしているが、これに限らず、これらの金具24,34を共用として1つの金具34のみを設置するようにしてもよい。この場合、排水用ホース31を固定する金具34を設置する作業が金具設置工程に該当し、当該金具34が設置された後に目地詰め工程が行われることになる。
【符号の説明】
【0068】
11 トンネル
12 ブロック覆工
13 レンガ(ブロック材)
14 目地
14a 既存目地
15 目地やせ部分
16a,16b 目地材
21 ブラシ
22 ブロワー
23 目地コテ
24 金具
25 工具
26 ハンマー
31 排水用ホース
31a 取水孔
32 T型のチーズ
33 L型のチーズ
34 金具
35 不織布
36 排出口
37 樋材
W1,W2 幅寸法
L 長さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック材を積み重ねて形成されるブロック覆工の目地に生じる目地やせを補修するブロック覆工の目地補修方法であって、
前記ブロック材の間の目地やせ部分に金具を設置する金具設置工程と、
前記ブロック材の間の目地やせ部分に目地材を詰める目地詰め工程とを有することを特徴とするブロック覆工の目地補修方法。
【請求項2】
請求項1記載のブロック覆工の目地補修方法において、前記金具は、ステンレス製の線材によりくの字に曲がるクリップ状に形成され、前記ブロック材の間にくの字方向に弾性変形した状態で設置されることを特徴とするブロック覆工の目地補修方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のブロック覆工の目地補修方法において、前記金具設置工程の前に、前記ブロック材の間の目地やせ部分を掃除する掃除工程が行われることを特徴とするブロック覆工の目地補修方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブロック覆工の目地補修方法において、前記目地詰め工程は、前記金具設置工程前の第1の目地詰め工程と、前記金具設置工程後の第2の目地詰め工程とに分けて行われることを特徴とするブロック覆工の目地補修方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のブロック覆工の目地補修方法において、前記金具設置工程の前に、前記ブロック材の間の目地やせ部分に排水用ホースを設置するホース設置工程が行われ、前記目地詰め工程において前記ブロック材の間の目地やせ部分に詰められる目地材により前記排水用ホースが前記目地内に埋設されることを特徴とするブロック覆工の目地補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−127398(P2011−127398A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289429(P2009−289429)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】