説明

ブロモアニリン誘導体の製造方法

【課題】ブロモアニリン誘導体を簡便に高収率で製造することができる製造方法。
【解決手段】一般式(2)で表されるブロモアニリン誘導体を、一般式(1)で表されるアニリン誘導体と、臭素化剤とを反応させる工程を含む製造方法。


{式中、R及びRはそれぞれ、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基等を示す。Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Y、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は炭素数1〜6のハロアルキル基等を示す。但し、Y、Y及びYから選ばれる少なくとも1つは水素原子である。水素原子であるY、Y及びYに対応するY1a、Y3a及びY5aは臭素原子であり、それ以外は、Y、Y及びYとそれぞれ同一である}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロモアニリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害生物防除作用を有するアミド誘導体として種々の化合物が開示され、また該アミド誘導体を製造する上でブロモアニリン誘導体が有用であることが開示されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
芳香族化合物の臭素化においては、通常、臭素化剤として臭素が用いられる。フェノール類などの活性基を有する芳香族化合物の臭素化は、臭素を単独で用いることにより容易に進行するが、不活性基を有する芳香族化合物の臭素化は、臭素単独では一般には困難である。
臭素を用いるブロモアニリン誘導体の合成法としては、臭素と過硫酸テトラブチルアンモニウム塩を用い、塩化メチレン或いはアセトニトリル中、メトキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基で活性化された芳香族化合物のブロム化反応が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、当該文献には、試薬の使用量や不活性基を有するアニリン誘導体の実験例については具体的には記載されていない。他方、プロトン酸を添加して1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインやN−ブロモスクシンイミドの臭素化能を上げる報告があるが(特許文献1、非特許文献2)、アニリン誘導体の場合、プロトン酸を添加した時に塩を形成し、満足すべき収率は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/21488号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/73165号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/137376号パンフレット
【特許文献4】特開平7−48297号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters 45,4887, 2004
【非特許文献2】J. Org. Chem., 30, 304, 1965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ブロモアニリン誘導体を簡便に高収率で製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特許文献1〜3等に記載されたアミド誘導体を製造する上での有用な中間体であるブロモアニリン誘導体の新規な製造方法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1> 下記一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
{一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はC(=O)−Rで表わされる基(Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示す。)を示し、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Y、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は炭素数1〜6のハロアルキル基を示す。但し、Y、Y及びYから選ばれる少なくとも1つは水素原子である。}で表されるアニリン誘導体と、臭素化剤とを反応させる臭素化工程を含む、下記一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
{一般式(2)中、R、R、Y、及びYは、一般式(1)におけるR、R、Y及びYとそれぞれ同一であり、Y1a、Y3a及びY5aにおいて、前記一般式(1)において水素原子であるY、Y及びYから選ばれる少なくとも1つに対応するY1a、Y3a及びY5aは臭素原子であり、それ以外のY1a、Y3a及びY5aは、前記一般式(1)におけるY、Y及びYとそれぞれ同一である。}で表されるブロモアニリン誘導体の製造方法。
【0011】
<2> 前記臭素化剤が1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、並びに、臭素及び過硫酸塩の組み合わせの少なくとも1種である前記<1>に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。
【0012】
<3> 前記過硫酸塩は、下記一般式(3)
【0013】
【化3】

【0014】
(一般式(3)中、Mは1価のカチオンを示す。)で表される化合物である前記<2>に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。
【0015】
<4> 前記一般式(3)におけるMは、アンモニウムイオン、カリウムイオン又はナトリウムイオンであることを特徴とする前記<3>に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。
【0016】
<5> 前記有機溶媒が極性溶媒であることを特徴とする<1>から<4>のいずれか1項に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便かつ収率に優れるブロモアニリン誘導体の製造方法を提供することができる。
本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法は、芳香族化合物の臭素化に適応される。特に不活性基を有する芳香族化合物の臭素化に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の下記一般式(2)で表されるブロモアニリン誘導体の製造方法は、下記一般式(1)で表されるアニリン誘導体と、臭素化剤とを反応させる臭素化工程を含むことを特徴とする。本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法は、前記臭素化工程に加えて、必要に応じてその他の工程をさらに含んでいてもよい。
【0019】
【化4】


一般式(1)及び(2)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はC(=O)−Rで表わされる基(Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示す。)を示す。Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Y、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜6のハロアルキル基を示す。但し、Y、Y及びYから選ばれる少なくとも1つは水素原子である。
1a、Y3a及びY5aにおいて、前記一般式(1)において水素原子であるY、Y及びYから選ばれる少なくとも1つに対応するY1a、Y3a及びY5aは臭素原子であり、それ以外のY1a、Y3a、及びY5aは、前記一般式(1)におけるY、Y及びYとそれぞれ同一である。
【0020】
本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法は、プロトン酸を添加せずに不活性なアニリンを直接臭素化することができ、臭素化剤を定量的に使用できるために原料の効率がよい。また、本発明の製造方法は、プロトン酸を使用しないため、中和処理がない点で従来法に比べて操作法が有利である。
さらに本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法は、有害生物防除作用に卓効を示すアミド誘導体を効率的に製造することを可能にする中間体であるブロモアニリン誘導体を工業的に製造できる有利な方法である。
【0021】
本明細書の各一般式において使用される文言は、その定義においてそれぞれ以下に説明されるような意味を有する。なお、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
「n−」とはノルマルを意味し、「i−」はイソを意味し、「s−」はセカンダリーを意味し、「t−」はターシャリーを意味する。
「Ca−Cb(a、bは1以上の整数を表す)」との表記、例えば、「C1−C6」とは炭素原子数が1〜6個であることを意味し、「C2−C6」とは炭素原子数が2〜6個であることを意味する。
【0022】
「炭素数1〜6のアルキル基」とは、直鎖状又は分岐状の炭素原子数が1〜6のアルキル基を指す。そのようなものとして、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、ネオペンチル、4−メチル−2−ペンチル、n−ヘキシル、3−メチル−n−ペンチル等を例示することが出来る。「炭素数1〜6のアルキル基」は、それぞれ置換基を有していてもよく、該置換基としては、無置換の直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素原子数が1〜6個のアルキル基、無置換の環状の炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、無置換の直鎖状もしくは分岐鎖状もしくは環状の炭素原子数が2〜6個のアルケニル基、無置換の直鎖状もしくは分岐鎖状もしくは環状の炭素原子数が2〜6個のアルキニル基、ハロゲン原子、フェニル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基、ベンジルオキシ基、アルキルチオ基、カルボキシ基、ベンジル基、複素環基、フェニルスルホニル基、フェニルカルボニル基、およびフェニルアミノ基から選択される1以上の置換基を挙げることができる。置換基が2以上ある場合には、それぞれの置換基は同一であっても異なっていても良い。また、これらの置換基は、可能であればさらに置換基を有していても良く、その置換基の具体例は上記と同様である。
【0023】
「炭素数1〜6のハロアルキル基」とは、同一又は異なっていてもよい1以上のハロゲン原子によって置換された直鎖状又は分岐鎖状の炭素原子数1〜6個のアルキル基を指す。そのようなものとしては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロ−n−プロピル、ヘプタフルオロ−i−プロピル、2,2−ジフルオロエチル、2,2−ジクロロエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2−フルオロエチル、2−クロロエチル、2−ブロモエチル、2−ヨードエチル、2,2,2−トリクロロエチル、2,2,2−トリブロモエチル、1,3−ジフルオロ−2−プロピル、1,3−ジクロロ−2−プロピル、1−クロロ−3−フルオロ−2−プロピル、1,1,1−トリフルオロ−2−プロピル、2,3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル、4,4,4−トリフルオロ−n−ブチル、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−クロロ−2−プロピル、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ブロモ−2−プロピル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−クロロ−n−プロピル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ブロモ−n−プロピル、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−ブロモ−2−プロピル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル、3−フルオロ−n−プロピル、3−クロロ−n−プロピル、3−ブロモ−n−プロピル、3,3,4,4,4−ペンタフルオロ−2−ブチル、ノナフルオロ−n−ブチル、ノナフルオロ−2−ブチル、5,5,5−トリフルオロ−n−ペンチル、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−2−ペンチル、3−クロロ−n−ペンチル、4−ブロモ−2−ペンチル等を例示することが出来る。
【0024】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。
「置換されていてもよいフェニル基」とは、1以上の置換基を有するフェニル基であり、置換基が2以上ある場合には、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよい。このフェニル基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、C1−C6アルキル基、C1−C6ハロアルキル基、C3−C9シクロアルキル基、C3−C9ハロシクロアルキル基、C2−C6アルケニル基、C2−C6ハロアルケニル基、C2−C6アルキニル基、C2−C6ハロアルキニル基、C1−C6アルコキシ基、C1−C6ハロアルコキシ基、C1−C6アルキルチオ基、C1−C6ハロアルキルチオ基、C1−C6アルキルスルフィニル基、C1−C6ハロアルキルスルフィニル基、C1−C6アルキルスルホニル基、C1−C6ハロアルキルスルホニル基、C2−C7アルキルカルボニル基、C2−C7ハロアルキルカルボニル基、C2−C7アルキルカルボニルオキシ基、C2−C7ハロアルキルカルボニルオキシ基、C1−C6アルキルスルホニルオキシ基、C1−C6ハロアルキルスルホニルオキシ基、C2−C7アルコキシカルボニル基、C2−C7ハロアルコキシカルボニル基、C2−C7アルキルカルボニルアミノ基、C2−C7ハロアルキルカルボニルアミノ基、C2−C7アルコキシカルボニルアミノ基、C2−C7ハロアルコキシカルボニルアミノ基、C2−C7アルキルアミノカルボニル基、C2−C7ハロアルキルアミノカルボニル基、C1−C6アルキルアミノ基、C1−C6ハロアルキルアミノ基、C2−C6アルケニルアミノ基、C2−C6ハロアルケニルアミノ基、C2−C6アルキニルアミノ基、C2−C6ハロアルキニルアミノ基、C3−C9シクロアルキルアミノ基、C3−C9ハロシクロアルキルアミノ基、C3−C7アルケニルアミノカルボニル基、C3−C7ハロアルケニルアミノカルボニル基、C3−C7アルキニルアミノカルボニル基、C3−C7ハロアルキニルアミノカルボニル基、C4−C10シクロアルキルアミノカルボニル基、C4−C10ハロシクロアルキルアミノカルボニル基、アミノ基、カルバモイル基、スルファモイル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ペンタフルオロスルファニル基、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいベンジル基、置換基を有していてもよいフェニルカルボニル基、置換基を有していてもよいフェニルアミノ基、及び置換基を有していてもよいフェニルカルボニルアミノ基を挙げることが出来る。
尚、前記フェニル基の各置換基は、可能な場合にはさらに置換基を有していてもよく、その置換基の例としては、置換されていてもよいフェニル基の置換基と同じである。
【0025】
本発明における一般式(1)及び一般式(2)等で表される化合物は、その構造式中に1個又は複数個の不斉炭素原子又は不斉中心を含む場合があり、2種以上の光学異性体が存在する場合もあるが、本発明は各々の光学異性体及びそれらが任意の割合で含まれる混合物をも全て包含するものである。
以下に本発明の代表的な製造方法につき説明するが、本発明はこれに限定されるものはない。
【0026】
前記一般式(1)で表されるアニリン誘導体中の置換基等の好ましい置換基又は原子の組合せは以下のとおりである。
及びRとして好ましくは水素原子又はC(=O)−Rで表される基であり、R及びRの両方が水素原子又はR及びRの一方が水素原子であるとともに他方がC(=O)−Rで表される基であることがより好ましい。Y及びYとして好ましくは水素原子である。
一般式(1)においてY、Y及びYから選ばれる少なくとも1つはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は炭素数1〜6のハロアルキル基であることが好ましく、Y、Y及びYから選ばれる1つが水素原子であって、残りはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は炭素数1〜6のハロアルキル基であることがより好ましい。
【0027】
前記一般式(1)で表されるアニリン誘導体として具体的には例えば、2−トリフルオロメチルアニリン、2−アミノ−3−フルオロベンゾトリフルオリド、2−アミノ−3−クロロベンズトリフルオリド、2−アミノ−3−ブロモベンズトリフルオリド、2−アミノ−3−ヨードベンズトリフルオリド、4−フルオロ−2−トリフルオロメチルアニリン、4−クロロ−2−トリフルオロメチルアニリン、4−ブロモ−2−トリフルオロメチルアニリン、4−ヨード−2−トリフルオロメチルアニリン、2−アミノ−5−ニトロベンズトリフルオリド、2−ニトロアニリン、4−フルオロ−2−ニトロアニリン、4−クロロ−2−ニトロアニリン、4−ブロモ−2−ニトロアニリン、4−ヨード−2−ニトロアニリン、2−フルオロ−6−ニトロアニリン、2−クロロ−6−ニトロアニリン、2−ブロモ−6−ニトロアニリン、2−ヨード−6−ニトロアニリン、2,6−ジニトロアニリン、2−アミノベンゾニトリル、2−アミノ−3−フルオロベンゾニトリル、2−アミノ−3−クロロベンゾニトリル、2−アミノ−3−ブロモベンゾニトリル、2−アミノ−3−ヨードベンゾニトリル、2−アミノ−3−トリフルオロメチルベンゾニトリル、2,6−ビス(トリフルオロメチル)アニリン、2−アミノ−5−フルオロベンゾニトリル、2−アミノ−5−クロロベンゾニトリル、2−アミノ−5−ブロモベンゾニトリル、2−アミノ−5−ヨードベンゾニトリル、4−ヘプタフルオロイソプロピル−2−トリフルオロメチルアニリン、2−ニトロ−4−(ヘプタフルオロイソプロピル)アニリン、2−アミノ−5−(ヘプタフルオロイソプロピル)ベンゾニトリル、2−ヘプタフルオロイソプロピル−6−(トリフルオロメチル)アニリン、2−ニトロ−6−(ヘプタフルオロプロイソプロピル)アニリン、2−アミノ−3−(ヘプタフルオロシオプロピル)ベンゾニトリル、2、4−ビス(トリフルオロメチル)アニリン、4−(ヘプタフルオロイソプロピル)−2−(トルフルオロメチル)アニリン、2−アミノ−5−(ヘプタフルオロイソプロピル)ベンゾニトリル、2−ニトロ−4−(オクタフルオロ−sec−ブチル)アニリン、4−ペンタフルオロエチル−2−(トリフルオロメチル)アニリン、2−ニトロ−4−(ペンタフルオロエチル)アニリン、2−ニトロ−4−(トリフルオロメチル)アニリン、2−アミノ−5−(トリフルオロメチル)ベンゾニトリル、N−ベンジル−2−(トリフルオロメチル)アニリン、N−ベンジル−2−ニトロアニリン、2−(ベンジルアミノ)ベンゾニトリル等を挙げることができる。
【0028】
前記臭素化剤としては特に制限されない。中でも反応効率の観点から臭素化剤は、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、並びに、臭素分子及び過硫酸塩の組み合わせの少なくとも1種であることが好ましく、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、又は、臭素分子及び過硫酸塩の組み合わせであることがより好ましい。
本発明で使用される臭素分子又は1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインは、市販で容易に入手可能なものを特に制限なく用いることができる。
さらに臭素と組み合わせて用いられる前記過硫酸塩としては、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0029】
【化5】

【0030】
一般式(3)中、Mは1価のカチオンを示す。Mで表される1価のカチオンは特に制限されない。中でも反応効率の観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また一般式(3)における2つのMは同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
臭素化剤の使用量は特に限定されない。例えば臭素分子又は1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインの使用量として、一般式(1)で表されるアニリン誘導体に対して以下の当量数であることが好ましい。
一般式(1)におけるY、Y及びYのうち、臭素化される水素原子が1つの場合には、臭素分子の使用当量数は0.5当量以上2.0当量未満であることが好ましく、より好ましくは0.5当量以上1.5当量未満である。また1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインの場合、使用当量数は0.5当量以上2.0当量未満であることが好ましく、より好ましくは0.5当量以上1.5当量未満である。
【0032】
一般式(1)におけるY、Y及びYのうち、臭素化される水素原子が2つの場合には、臭素分子の使用当量数は1.0当量以上4.0当量未満であることが好ましく、より好ましくは1.0当量以上2.0当量未満である。また1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインの場合、使用当量数は1.0当量以上4.0当量未満であることが好ましく、より好ましくは1.0当量以上2.0当量未満である。
【0033】
一般式(1)におけるY、Y及びYの全てが臭素化される場合には、臭素分子の使用当量数は1.5当量以上6.0当量未満であることが好ましく、より好ましくは1.5当量以上3.0当量未満である。また1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインの場合、使用当量数は1.5当量以上6.0当量未満であることが好ましく、より好ましくは1.5当量以上3.0当量未満である。上記の範囲内であれば、ハロゲン化が効率良く進行し、かつ位置選択性を向上させることができる。
【0034】
前記臭素化工程は、有機溶媒中で、又は無溶媒で実施されることが好ましい。
前記臭素化工程が有機溶媒中で実施される場合、使用される有機溶媒は本反応の進行を特に阻害しないものがよい。具体的には例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;アセトン、シクロヘキサノン、ブタノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、t−ブチルメチルエーテル等の鎖状または環状エーテル類;n−ヘプタン、n−テトラデカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の極性非プロトン性溶媒などを挙げることができる。
これらの中でも、極性有機溶媒を用いることが好ましく、アルコール類、エステル類、極性非プロトン性溶媒等の極性有機溶媒を用いることがより好ましい。またこれらの溶媒は単独もしくは2種以上の溶媒を混合して使用できる。
【0035】
有機溶媒の使用量は特に限定されない。通常、原料に対して1〜10重量倍である。
尚、臭素化工程は、原料のアニリン誘導体が液体の場合、無溶媒で実施されることもまた好ましい。
【0036】
本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法における反応温度は特に制限されない。例えば、有機溶媒を用いる場合、0℃から用いるその有機溶媒の沸点の範囲で反応を行うことができる。
好ましくは0℃から60℃程度で実施することが工業生産上有利である。
【0037】
本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法の反応時間は、反応条件等により適宜選択できる。例えば、通常は数分から数十時間程度であり、好ましくは1時間から24時間程度である。
【0038】
本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法においては、反応終了後、反応系から常法により目的物を単離し、必要に応じて精製等を行うことにより、目的物を製造することができる。精製方法としては、再結晶、カラムクロマトグラフィー、蒸留などを挙げることができる。また、反応混合物から目的物を単離せずに次の反応工程に供することも可能である。
本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法により得られる一般式(2)で表されるブロモアニリン誘導体は、有害生物防除作用に卓効を示すアミド誘導体の製造方法において極めて有用な製造中間体である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例を参照しつつより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、H−NMRの化学シフト値は、特に記載がない限り、テトラメチルシランを内部基準物質として使用した値である。また、特記しない限り「%」は質量基準である。
【0040】
<実施例1>
4−ブロモ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルアニリンの合成
【0041】
【化6】



【0042】
2−クロロ−6−(トリフルオロメチル)アニリン2.84g(14.5mmol)をメタノール8gに溶解し、40℃に昇温した。臭素1.30g(7.97mmol)、過硫酸アンモニウム2.03g(8.72mmol)を加えて2時間攪拌した。反応液を5℃まで冷却した後、10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加え攪拌した。液性が中性となり、反応液中の過酸が失活したことを確認した後、n−ヘキサンと水を加え攪拌し、分液操作を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過した後、濾液を減圧下に濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)により精製することにより、表題化合物3.81g(収率96.0%)を得た。
H−NMR(CDCl,ppm) δ4.66(2H, broad−s),7.55(1H, s),7.48(1H,s).
【0043】
<実施例2>
2−ブロモ−4−ヘプタフルオロイソプロピル−6−トリフルオロメチルアニリンの合成
【0044】
【化7】



【0045】
4−ヘプタフルオロイソプロピル−2−トリフルオロメチルアニリン10.0g(30.4mmol)をメタノール30gに溶解し、40℃に昇温した。臭素2.72g(16.7mmol)、過硫酸アンモニウム4.24g(18.2mmol)を加えて1.5時間攪拌した。反応液を5℃まで冷却した後、10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加え攪拌した。液性が中性となり、反応液中の過酸が失活したことを確認した後、n−ヘキサンと水を加え攪拌し、分液操作を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過した後、溶媒を減圧下に濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)により精製することにより表題化合物11.9g(収率96.3%)を得た。
H−NMR(CDCl,ppm) δ5.03(2H, broad−s),7.61(1H, s),7.79(1H,s).
【0046】
<実施例3>
4−ブロモ−2−ニトロアニリンの合成
【0047】
【化8】



【0048】
2−ニトロアニリン2.00g(14.5mmol)をメタノール8gに溶解し、40℃に昇温した。臭素1.30g(7.97mmol)、過硫酸アンモニウム2.03g(8.72mmol)を加えて2時間攪拌した。反応液を5℃まで冷却した後、10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加え攪拌した。液性が中性となり、反応液中の過酸が失活したことを確認した後、酢酸エチルと水を加え攪拌し、分液操作を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過した後、濾液を減圧下に濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:酢酸エチル/n−ヘキサン=3/7)により精製することにより、表題化合物2.33g(収率74.0%)を得た。
H−NMR(CDCl,ppm) δ6.10(2H, broad−s),6.73(1H, d,J=8.8Hz),7.43(1H,d,J=8.8,2.2Hz),8.27(1H,J=2.2Hz).
【0049】
<比較例1>
Tetrahedron Letters, 45, 4887, 2004に記載の試薬と溶媒を用い、試薬量や手順は実施例2の方法に準じて以下のようにして実施した。
4−ヘプタフルオロイソプロピル−2−トリフルオロメチルアニリン2.00g(6.08mmol)をジクロロメタン8.0gに溶かし攪拌した。臭素0.55g(3.34mmol)を加えたところ、反応液全体が凝固し、攪拌が不可能になった。ジクロロメタンを追加したが、反応が進行しなかったため、10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加え、反応液を溶解させ、反応液中の過酸化物が失活した事を確認した後、n−ヘキサンと水を加え攪拌した。反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、目的とする2−ブロモ−4−ヘプタフルオロイソプロピル−6−トリフルオロメチルアニリンが、収率44.3%で生成していた。
【0050】
<実施例4A>
2−ブロモ−4−ヘプタフルオロイソプロピル−6−トリフルオロメチルアニリンの合成
4−ヘプタフルオロイソプロピル−2−トリフルオロメチルアニリン1.65g(5mmol)をメタノール5mlに溶解し、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン0.75g(2.6mmol)を分割して加え室温で2時間攪拌した。反応液に酢酸エチルと10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加えて分液操作を行った。酢酸エチル層を減圧下濃縮した後、濃縮残渣にn-ヘキサン15mlを加え、析出した固体を濾去した。濾液を減圧下濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)にて精製することにより、表題化合物1.75g(収率86%)を淡黄色油状物として得た。

【0051】
<実施例4B>
4−ヘプタフルオロイソプロピル−2−トリフルオロメチルアニリン1.65g(5mmol)をエチレングリコール5mlに溶解し、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン0.75g(2.6mmol)を分割して加え室温で2時間攪拌した。反応液に酢酸エチルと10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加えて分液操作を行った。酢酸エチル層を減圧下濃縮し、濃縮残渣にn-ヘキサン15mlを加え、析出した固体を濾去した。濾液を減圧下濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)にて精製することにより、表題化合物1.92g(収率94.1%)を淡黄色油状物として得た。
【0052】
<実施例5>
4−ブロモ−2−クロロ−6−トリフルオロメチルアニリンの合成
2−クロロ−6−(トリフルオロメチル)アニリン3.91g(20.0mmol)に1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン3.00g(10.5mmol)を分割して加え室温で2時間攪拌した。反応液に酢酸エチルと10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加えで分液操作を行った。酢酸エチル層を減圧下濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)にて精製することにより、表題化合物4.71g(収率86.0%)を淡黄色油状物として得た。
【0053】
<実施例6>
4−ブロモ−2−ニトロアニリンの合成
2−ニトロアニリン1.38g(10.0mmol)をメタノール8gに溶解し、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン1.50g(5.2mmol)を分割して加え室温で2時間攪拌した。反応液に酢酸エチルと10%亜硫酸ナトリウム水溶液を加えて分液操作を行った。酢酸エチル層を減圧下濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:酢酸エチル/n−ヘキサン=7/3)にて精製することにより、表題化合物1.92g(収率94.1%)を淡黄色油状物として得た。
【0054】
<実施例7>
2,4−ジブロモ−6−トリフルオロメチルアニリンの製造
2−トリフルオロメチルアニリン8.05g(50.0mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド25gに溶解し、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン15.0g(52.5mmol)を分割添加し、室温で2時間攪拌した。反応液に水を加え、n−ヘキサンで抽出を行った後、10%亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。n−ヘキサンを濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘキサン)で精製することにより、表題化合物15.4g(収率97.0%)を得た。
H−NMR(CDCl,ppm) δ4.71(2H, broad−s),7.52(1H, d,J=2.0Hz),7.71(1H,d,J=2.0Hz)
【0055】
<実施例8>
特開平7−48297号公報に記載の方法に準じて以下のようにして実施した。
4−ヘプタフルオロイソプロピル−2−トリフルオロメチルアニリン1.65g(5mmol)をジクロロメタン5mlに溶かし、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン0.75g(2.6mmol)を分割添加した。その反応液に濃硫酸0.25g(5mmol)を加えたが、反応途中で固体が析出し攪拌が不能となったため、ジクロロメタンと水を加えて分液操作を行った。ジクロロメタン層を減圧下濃縮し、濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)により精製することにより表題化合物1.08g(収率:53.0%)を得た。
【0056】
以上から、本発明のブロモアニリン誘導体の製造方法によれば、一般式(2)で表されるブロモアニリン誘導体を簡便に優れた収率で製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の一般式(2)で示されるブロモアニリン誘導体は、有害生物防除作用に卓効を示すアミド誘導体の有用中間体として産業上の有用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】


{一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はC(=O)−Rで表わされる基(Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基を示す。)を示し、
及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、
、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は炭素数1〜6のハロアルキル基を示す。但し、Y、Y及びYから選ばれる少なくとも1つは水素原子である。}で表されるアニリン誘導体と、臭素化剤とを、反応させる臭素化工程を含む、下記一般式(2)
【化2】


{一般式(2)中、R、R、Y及びYは、一般式(1)におけるR、R、Y及びYとそれぞれ同一であり、
1a、Y3a及びY5aにおいて、前記一般式(1)において水素原子であるY、Y及びYから選ばれる少なくとも1つに対応するY1a、Y3a及びY5aは臭素原子であり、それ以外のY1a、Y3a及びY5aは、前記一般式(1)におけるY、Y及びYとそれぞれ同一である。}で表されるブロモアニリン誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記臭素化剤は、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、並びに、臭素及び過硫酸塩の組み合わせの少なくとも1種である請求項1に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記過硫酸塩は、下記一般式(3)
【化3】


(一般式(3)中、Mは1価のカチオンを示す。)で表される化合物である請求項2に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(3)におけるMは、アンモニウムイオン、カリウムイオン又はナトリウムイオンである請求項3に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記臭素化工程は、極性有機溶媒中又は無溶媒で行われる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のブロモアニリン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2013−28547(P2013−28547A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164517(P2011−164517)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(303020956)三井化学アグロ株式会社 (70)
【Fターム(参考)】