説明

ブローバイガス還流装置

【課題】脈動の大きいブローバイガスに適応したブローバイガス還流装置を実現する。
【解決手段】流通するブローバイガスに含まれる潤滑油をブローバイガスから分離させるラビリンス構造601の上流側に、開閉特性の異なる複数個のリードバルブを、ブローバイガスの流れの方向に沿って直列に配列した。リードバルブの弁体603は、ラビリンス構造601の如く作用し、潤滑油をブローバイガスから除去する。加えて、複数段のリードバルブが、ラビリンス構造601に流入するブローバイガスの脈動を鎮圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のブローバイガス還流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関のクランク室は、気筒及びピストンにより燃焼室から隔絶されている。しかし、この隔絶は完全なものではなく、内燃機関の圧縮行程では未燃焼ガスが、また膨張行程では燃焼ガスが、気筒とピストンとの隙間からクランク室内に漏洩する。漏洩したブローバイガスは、クランク室内に蓄えている潤滑油の劣化や、内燃機関本体の腐食を招くおそれがある。
【0003】
そのために、従来より、クランク室に溜まるブローバイガスを換気する機構を実装することが通例となっている。現状では、クランク室とサージタンクとをPCV通路を介して連通するとともに、カム室とコンプレッサの上流とをブローバイ通路を介して連通し、ブローバイ通路経由で新気をカム室及びクランク室に取り入れ、PCV通路経由でブローバイガスをサージタンクに向けて送り出している(例えば、下記特許文献1を参照)。
【0004】
ブローバイガス中には潤滑油が微小粒子即ちオイルミストとなって存在しており、これをそのままサージタンクに送り出すと潤滑油が徐々に減少してしまう。そこで、ラビリンス構造を有するオイルセパレータを用い、ブローバイガスに含まれる潤滑油をブローバイガスから分離させてクランク室に戻すようにしている(例えば、下記特許文献2を参照)。
【0005】
二気筒エンジンのような、クランク室の容積が大きく拡縮する内燃機関では、ブローバイガスの脈動も大きくなる。ブローバイガスの流速が大きく変動するため、低速の流れだけでなく高速の流れにも適合したオイルセパレータのラビリンス構造を設計しなければならないが、これは困難であった。また、流速の速いガスから潤滑油を除去しようとする都合上、オイルセパレータの容積も大形化せざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−202591号公報
【特許文献2】特開2011−174406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題に初めて着目してなされたものであって、脈動の大きいブローバイガスに適応したブローバイガス還流装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、内燃機関に適用されるブローバイガス還流装置において、流通するブローバイガスに含まれる潤滑油を当該ブローバイガスから分離させるオイルセパレータに、開閉特性の異なる複数個のリードバルブを、ブローバイガスの流れの方向に沿って直列に配列した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脈動の大きいブローバイガスに適応したブローバイガス還流装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態における内燃機関及びブローバイガス還流装置の構成を示す図。
【図2】同実施形態におけるブローバイガス還流装置のオイルセパレータを示す要部平断面図。
【図3】ブローバイガスの気体部分の脈動、オイルミストまたは油滴の脈動の模様を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態のブローバイガス還流装置6が適用される車両用内燃機関0の概要を示す。本実施形態における内燃機関0は、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)と、各気筒1内に燃料を噴射するインジェクタ11と、各気筒1に吸気を供給するための吸気通路3と、各気筒1から排気を排出するための排気通路4と、吸気通路3を流通する吸気を過給する排気ターボ過給機5と、排気通路4から吸気通路3に向けてEGRガスを還流させる外部EGR通路2とを備えている。
【0012】
本実施形態における内燃機関0は、二気筒の4サイクルエンジンであり、第一気筒1の行程と第二気筒1の行程との間には360°CA(クランク角度)の位相差が存在する。換言すれば、第一気筒1のピストン12と第二気筒1のピストン12とは同時に上昇し、また同時に下降する。よって、内燃機関0のクランクケース内のクランク室7の容積は、多気筒エンジンと比べて大きく拡大/縮小する。
【0013】
吸気通路3は、外部から空気を取り入れて気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、吸気絞り弁35、過給機5のコンプレッサ51、インタクーラ32、スロットルバルブ33、サージタンク34を、上流からこの順序に配置している。
【0014】
排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、過給機5の駆動タービン52及び三元触媒41を配置している。
【0015】
排気ターボ過給機5は、駆動タービン52とコンプレッサ51とを同軸で連結し連動するように構成したものである。そして、駆動タービン52を排気のエネルギを利用して回転駆動し、その回転力を以てコンプレッサ51にポンプ作用を営ませることにより、吸入空気を加圧圧縮(過給)して気筒1に送り込む。
【0016】
外部EGR通路2は、いわゆる低圧ループEGRを実現するものである。低圧ループEGR通路2の圧力損失は、数百Pa程度と非常に小さい。外部EGR通路2の入口は、排気通路4における三元触媒41の下流の所定箇所に接続している。外部EGR通路2の出口は、吸気通路3における吸気絞り弁35の下流、かつコンプレッサ51の上流の所定箇所に接続している。外部EGR通路2上には、EGRクーラ21及びEGRバルブ22を設けてある。
【0017】
低圧ループEGRでは、大気圧に近い低圧の排気ガスをEGR通路2を通じて吸気通路3に還流する。そのために、EGR通路2の出口の上流にある吸気絞り弁35を絞ることで、EGR通路2の出口の周囲を負圧化する。
【0018】
内燃機関0の運転制御を司るECU9は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。入力インタフェースには、車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、エンジン回転数を検出する回転数センサから出力される回転数信号b、スロットルバルブ33の開度を検出するスロットルポジションセンサから出力されるスロットル開度信号c、サージタンク34内の吸気圧(過給圧)を検出する圧力センサから出力される吸気圧信号d、冷却水温を検出する水温センサから出力される水温信号e等が入力される。出力インタフェースからは、インジェクタ11に対して燃料噴射信号f、点火プラグ(のイグニッションコイル)に対して点火信号g、EGRバルブ22に対して開度操作信号h、吸気絞り弁35に対して開度操作信号i等を出力する。
【0019】
ECU9のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行して、内燃機関0の運転を制御する。ECU9は、内燃機関0の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、eを入力インタフェースを介して取得し、それらに基づいて吸入空気量や要求燃料噴射量、点火時期、目標EGR率等を演算する。そして、演算結果に対応した各種制御信号f、g、h、iを出力インタフェースを介して印加する。
【0020】
ブローバイガス還流装置6は、内燃機関0の内室7、8で発生するブローバイガスを吸気通路3に送り出し、ブローバイガスを換気するためのものである。なお、カム室8は、クランク室7に連通している。ブローバイガス還流装置6は、PCV通路63と、PCVバルブ64と、ブローバイ通路65と、オイルセパレータ61、62とを具備してなる。
【0021】
PCV通路63は、その一端がクランク室7の外周壁に接続し、他端が吸気通路3のサージタンク34に接続しており、クランク室7を吸気通路3に連通せしめる。
【0022】
PCVバルブ64は、PCV通路63を流通するブローバイガスの流量を増減させる。PCVバルブ64は、弾性付勢されて弁座に押し付けられている弁体が、ブローバイガスの圧力により(弾性付勢力に抗して)弁座から離反する方向に変位する態様の、機械式(差圧作動形)のバルブである。PCVバルブ64は、サージタンク34内の吸気圧が大気圧以上であるときには閉じており、サージタンク34内の吸気圧が低くなるほど(大気圧に対して負圧になるほど)開度が大きく開く。但し、サージタンク34内の吸気圧が顕著に低下した場合には、その開度が逆に小さくなる。
【0023】
クランク室7とPCVバルブ64との間には、オイルセパレータ61を介設する。オイルセパレータ61、62は、ラビリンス構造を有し、流通するガスに含まれる潤滑油を当該ガスから分離させる気液分離作用を営むもので、クランク室7から潤滑油が失われることを抑止する。
【0024】
ブローバイ通路65は、その一端が内燃機関0のシリンダヘッドカバー内のカム室8に接続し、他端が吸気通路3におけるコンプレッサ51の上流側に接続しており、カム室8を吸気通路3に連通せしめる。このブローバイ通路65のカム室8への接続箇所にも、オイルセパレータ62を設けてある。
【0025】
以降、オイルセパレータ61、62に関して詳述する。図2に示すように、本実施形態におけるオイルセパレータ61、62では、ラビリンス構造の上流(図中下方)に、複数個のリードバルブを、オイルミストを含むガスの流れの方向(図中下方から上方)に沿って直列に配置してなる。
【0026】
ラビリンス構造は、ブローバイガスの流れの方向に対し交差する方向に拡張した複数の壁601を要素とする。ラビリンス構造の壁の具体的な形状や配置は、一意に限定されない。壁601は、ガスの流れにとって障害となるものであり、ガスが壁601にぶつかることでガスに含まれる潤滑油のミストが壁601に付着し、ガスから分離される。ガスから分離された潤滑油は、オイルセパレータ61、62の底壁等に穿ったオイル落とし穴602に集められ、そこからクランク室7へと流下する。
【0027】
リードバルブは、ワンウェイバルブの一種であり、ブローバイガスが下流側即ち吸気通路3側から上流側即ちクランク室7側に向けて逆流することを阻止する。
【0028】
リードバルブの弁体603は、カーボンまたは金属等を素材とする弾性変形可能な薄板体であり、その一端部603bが固定された固定端、他端部603aが弾性変形を通じてフラップ動作可能な可動端となっている。弁体603は、弁座604に当接してガスの通り抜ける流路を閉鎖する(図中実線で示す)。
【0029】
クランク室7側から吸気通路3側に向かって流れるEGRガスは、弁体603に当たり、この弁体603を押圧して弾性変形させ弁座604から離反させる(図中鎖線で示す)。結果、EGR通路20と吸気通路3とが連通し、EGRガスが吸気通路3に流入する。弁体603は、ちょうど板ばねのような作用を営む。弁体603上流の圧力と下流の圧力との差圧が小さい、または後者が前者を上回る場合には、弁体603は弁座604に着座する。
【0030】
リードバルブの開閉特性、即ち弁体603上流の圧力と下流の圧力との差圧がどれくらい大きければ弁体603が弁座604から離れるのか(前後差圧とバルブ開度との関係)は、弁体603の材質、寸法、形状等に応じて異なる。本実施形態では、開閉特性が互いに異なる複数のリードバルブをラビリンス構造の上流に設けている。好ましくは、下流側に位置するリードバルブを、上流側に位置するリードバルブよりも開きにくい(前後差圧がより大きくないと開かない)特性のものとする。
【0031】
また、隣接するリードバルブについて、弁体603の固定端603bと可動端603aとの位置関係を互い違いにしている。
【0032】
本実施形態のオイルセパレータ61、62では、各リードバルブの弁体603自体がラビリンス構造の壁601の如く作用する。これにより、ブローバイガスに含まれる潤滑油をブローバイガスから分離除去できる。
【0033】
また、図3に示しているように、ブローバイガスの気体部分の流速(図中実線で示す)の変動と、ブローバイガスに含まれるオイルミストや油滴の流速(図中鎖線で示す)の変動との間には、時間差が存在している。ブローバイガスの気流の流速が速い時期にリードバルブが開弁し、ブローバイガスの気流の流速が遅い時期にリードバルブが閉弁することにより、速い流速で流れようとするオイルミストや油滴をリードバルブにて遮ることができる。
【0034】
複数個のリードバルブの開閉特性が互いに異なっていることは、各リードバルブが同時に開く可能性が減少することを意味し、リードバルブ間の空間領域にブローバイガスを一時的に貯留して、ラビリンス構造に流入するガスの脈動を小さくし、当該ガスの流速を低下させることにつながる。つまり、ラビリンス構造における潤滑油トラップ効果が向上する。
【0035】
本実施形態では、内燃機関に適用されるブローバイガス還流装置6において、流通するブローバイガスに含まれる潤滑油を当該ブローバイガスから分離させるオイルセパレータ61、62の上流側に、開閉特性の異なる複数個のリードバルブを、ブローバイガスの流れの方向に沿って直列に配列した。
【0036】
本実施形態によれば、複数段のリードバルブによって潤滑油を除去できる上、ラビリンス構造に流れ込むブローバイガスの脈動を鎮圧することができる。従って、ラビリンス構造の要素となる壁601の数を減らすことが可能で、ラビリンス構造の設計も容易となり、オイルセパレータ61、62の小形軽量化、オイルセパレータ61、62の作製コストの低減に資する。
【0037】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、複数個のリード弁をおしなべてラビリンス構造よりも上流に配置していたが、リード弁の一部または全部を、ラビリンス構造の中やラビリンス構造よりも下流に配置することを妨げない。要するに、複数個のリード弁を常にオイルセパレータ61、62の上流側に設けなければいけないわけではない。
【0038】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
0…内燃機関
6…ブローバイガス還流装置
61、62…オイルセパレータ
601…ラビリンス構造の壁
603…リードバルブの弁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に適用されるブローバイガス還流装置において、
流通するブローバイガスに含まれる潤滑油を当該ブローバイガスから分離させるオイルセパレータに、開閉特性の異なる複数個のリードバルブを、ブローバイガスの流れの方向に沿って直列に配列している
ことを特徴とするブローバイガス還流装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96229(P2013−96229A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236392(P2011−236392)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】