説明

ブロー成形品の製造装置および製造方法

【課題】成形型にパリソンの回り込みが困難となりやすい凹部や凸部等があっても、これらに容易にパリソンを回り込ませることができるブロー成形品の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】センター型2と、センター型2の両側をパリソンPを挟んで閉じる一対の成形型3と、を有するブロー成形品の製造装置1において、センター型2に取り付けられ、成形型3に向けて開口するブロー受け空間10を有し、成形型3が閉じた際にブロー受け空間10の開口部周りが成形型3との間でパリソンPを挟むようにしてパリソンPの一部を囲うブロー受け部材9と、パリソンPの一部を囲った状態のブロー受け空間10に臨むブローピン12と、を備え、ブローピン12によりエアがブロー受け空間10にブローされ、そのブロー受け空間10内の圧力によりパリソンPの一部が成形型3に転写される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載される燃料タンク等のブロー成形品を製造する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5はブロー成形によって成形される自動車搭載用の燃料タンクTの外観図である。燃料タンクTの本体部Tbの表面には外方に突出する雄ねじ円筒部Taが形成されている。この雄ねじ円筒部Taは、燃料ポンプ(図示せず)を燃料タンクTの内部に装着するための接続口として形成されるものであって、その先端面Tcは成形直後においては有蓋として成形されるものの、成形後の別工程において、燃料ポンプを挿通させるべく先端面Tcの所定の内円部(点線にて示す)が削除される。符号Tdはブローピン孔である。燃料ポンプを装着後、雌ねじが形成されたキャップ(図示せず)を雄ねじ円筒部Taに螺合することで燃料ポンプが燃料タンクTに固定される。
【0003】
雄ねじ円筒部Ta周りを成形する成形型の構造断面を図6に示す。符号21は本体部Tbを成形する成形型、符号22は雄ねじ円筒部Taを成形するための回転式のねじ入れ子である。複数の真空孔23による真空引きおよびブローピン24からのエアのブローにより、パリソンPは本体部Tbが成形型21の成形面に転写され、雄ねじ円筒部Taがねじ入れ子22の凹状の成形面に転写される。成形後、成形型21が開き、これと同期してねじ入れ子22が回転することで雄ねじ円筒部Taがねじ入れ子22から離型する。
【0004】
さて近年、燃料タンクの製造装置として、一対の成形型の間にセンター型を配したものが提案されている。例えば特許文献1には、成形型としての一対のダイ間にセンター型としてのコアを配し、コアに装着した内蔵部品を、ダイに転写したパリソンに取り付ける技術が記載されている。内蔵部品がパリソンに取り付けられた後、ダイが開いてコアがダイ間から外れ、今度はダイ同士が閉じることで燃料タンクが成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−525204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように一対の成形型の間にセンター型を配した構造の製造装置を用いて、図5に示した燃料タンクTを成形しようとした場合、次のような課題がある。
一対の成形型の間にセンター型を配した構造の場合には、パリソンを成形型に転写させるべくセンター型を成形型で閉じる工程と、その後に成形型同士を閉じて最終的なブロー成形を行う工程とを有することになる。
【0007】
したがって、これらの工程を有する分、成形サイクルタイムが長くなり、つまりパリソン押出し機から絶えず押し出されているパリソンが両型によって閉じられるまでの外気に触れる時間が長くなり、その分、パリソンが冷えて流動性が低下しやすくなる。パリソンの流動性が低下すると、真空引きおよびエアブローによる成形型全体の空間内の圧力だけでは、パリソンをねじ入れ子の凹部まで回り込ませることが困難になりやすい。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために創作されたものであり、成形型にパリソンの回り込みが困難となりやすい凹部や凸部等があっても、これらに容易にパリソンを回り込ませることができるブロー成形品の製造装置および製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、センター型と、このセンター型の両側をパリソンを挟んで閉じる一対の成形型と、を有するブロー成形品の製造装置であって、前記センター型に取り付けられ、前記成形型に向けて開口するブロー受け空間を有し、前記成形型が閉じた際に前記ブロー受け空間の開口部周りが前記成形型との間でパリソンを挟むようにしてパリソンの一部を囲うブロー受け部材と、パリソンの一部を囲った状態の前記ブロー受け空間にエアをブローする局所ブロー手段と、を備え、前記局所ブロー手段によりエアが前記ブロー受け空間にブローされ、そのブロー受け空間内の圧力により前記パリソンの一部が前記成形型に転写されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、センター型と、このセンター型の両側をパリソンを挟んで閉じる一対の成形型と、を有する製造装置によるブロー成形品の製造方法であって、前記成形型を閉じて、前記センター型に取り付けたブロー受け部材によりパリソンの一部を囲い、この囲んだ空間内にエアをブローすることによりその空間内の圧力により前記パリソンの一部を前記成形型に転写することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るブロー成形品の製造装置または製造方法によれば、ブロー受け部材の空間(ブロー受け空間)にエアがブローされると、その空間内の圧力によりパリソンの一部が成形型の成形面に転写される。ブロー受け部材の空間は小さな密閉空間として形成されるため、その空間内の圧力を成形型全体の内部空間の圧力よりも容易に高くすることができる。したがって、たとえパリソンの流動性が低下している場合であっても、パリソンを成形型の複雑な形状部に効果的に回り込ませることができる。
【0012】
また、本発明は、前記局所ブロー手段は、前記パリソンの一部を貫通して前記ブロー受け空間に臨むブローピンであることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、局所ブロー手段として、成形型に備えられたブローピンを利用できるため、局所ブロー手段を簡単な構造で済ませることができる。
【0014】
また、本発明は、ブロー成形品の製造装置において、前記ブロー受け空間の開口部に対向する前記成形型の成形面に凹部が形成され、前記パリソンの一部が前記凹部に転写されることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、たとえパリソンの流動性が低下している場合であっても、パリソンを成形型の凹部に効果的に回り込ませることができる。
【0016】
また、本発明は、ブロー成形品の製造装置において、前記ブロー成形品は、表面に雄ねじ円筒部が突設された自動車搭載用の燃料タンクであって、前記成形型の凹部は、前記雄ねじ円筒部を成形するねじ入れ子の成形空間であることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、雄ねじ円筒部を有する自動車搭載用の燃料タンクの製造装置において、たとえパリソンの流動性が低下している場合であっても、パリソンをねじ入れ子の成形空間に効果的に回り込ませることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、センター型と、このセンター型の両側をパリソンを挟んで閉じる一対の成形型と、を有するブロー成形品の製造装置において、パリソンの回り込みが困難となりやすい成形型の凹凸部等にパリソンを効果的に回り込ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るブロー成形品の製造装置の要部を示す構造断面図であり、(a)はブロー受け部材にエアをブローする前の状態、(b)はブロー受け部材にエアをブローした状態を示す。
【図2】本発明に係るブロー成形品の製造装置の動作説明図である。
【図3】本発明に係るブロー成形品の製造装置の要部を示す構造断面図であり、成形型の成形面が凸状に形成されている場合を示す。
【図4】局所ブロー手段の変形例を示す説明図である。
【図5】自動車搭載用の燃料タンクの外観斜視図である。
【図6】従来の成形型の構造断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ブロー成形品を図5に示した自動車搭載用の樹脂製の燃料タンクTとした形態について説明する。本発明に係るブロー成形品の製造装置(以降単に製造装置という)1は、センター型2と、このセンター型2の両側をパリソンPを挟んで閉じる一対の成形型3とを有する。
【0021】
各パリソンPは矩形のシート状を呈している。パリソンPは、例えば燃料の不透過性に優れた材質からなるバリア層を、少なくとも、タンク内面を形成する内側熱可塑性樹脂層とタンク外面を形成する外側熱可塑性樹脂層とで挟んだ多層断面構造からなる。内側熱可塑性樹脂層および外側熱可塑性樹脂層の材質は、例えば熱溶融性や成形性に優れるPE(高密度ポリエチレン)である。
【0022】
センター型2は、図2に示すように左右に合わせ面2Aが形成されている。本実施形態の製造装置1は内蔵部品4をパリソンPの内面に取り付ける機能を備えており、センター型2には、パリソンPに内蔵部品4を取り付けるアクチュエータとしてのシリンダ5が備えられる。図2では、両側のパリソンPのそれぞれに内蔵部品4を取り付ける例を示している。シリンダ5によって移動するブラケットの先端にはクランプ機構6が備えられ、このクランプ機構6により内蔵部品4が保持される。
【0023】
図1に示すように、センター型2にはブラケット8を介してブロー受け部材9が取り付けられている。ブロー受け部材9は、一方の成形型3に向けて開口するブロー受け空間10を有した円筒カップ形状を呈している。ブロー受け部材9の開口端側は、センター型2の合わせ面2Aよりも一方の成形型3側に突出するように位置している。具体的にはブロー受け部材9は、センター型2と成形型3とが閉じた際にブロー受け空間10の開口部周りがパリソンPの内面に略接する位置となるようにセンター型2に取り付けられている。
【0024】
一方の成形型3における前記ブロー受け空間10の開口部に対向する部位には、雄ねじ円筒部Ta(図5)を成形する回転式のねじ入れ子11が位置しており、このねじ入れ子11の底面部を挿通する態様でブローピン12が設けられている。このブローピン12は、パリソンPの一部を囲った状態のブロー受け空間10にエアをブローする局所ブロー手段を構成する。本体部Tb(図5)を成形する成形面には真空孔13が複数穿設されている。
【0025】
「作用」
以上の製造装置1を用いた燃料タンクTの製造方法について説明する。
図2(a)は、一対のシート状のパリソンPが搬送装置14によりセンター型2と左右の成形型3との間まで搬送された状態を示している。図2(b)に示すように左右の成形型3がパリソンPを間に挟んでセンター型2を両側から閉じると、成形型3の合わせ面3Aとセンター型2の合わせ面2AとによりパリソンPの縁部全周が挟まれ、成形型3の成形面とパリソンPの外面側とで囲まれた空間が密閉される。この状態で成形型3の真空孔13(図1)から真空引きし、かつパリソンPの内面側から図示しないブローピン(例えば前記ブローピン12とは別のもの)によりエアをブローすることにより、パリソンPが成形型3の成形面に転写される。
【0026】
一方、ブロー受け部材9においては、図1(a)に拡大して示すように、ブロー受け空間10の開口部周りが成形型3(本実施形態ではねじ入れ子11の開口部周り)との間でパリソンPを挟むようにしてパリソンPの一部を囲うように位置する。これによりブロー受け空間10は開口部がパリソンPの一部によって塞がれた局所的な密閉空間となり、この密閉空間にブローピン12の先端がパリソンPの一部を貫通したうえで臨む。
【0027】
そして、図1(b)に示すように、ブローピン12の先端周りからエアがブローされると、そのブロー受け空間10内の圧力によりブロー受け空間10を塞いでいたパリソンPの一部がねじ入れ子11の成形面に転写される。ブロー受け空間10は小さな密閉空間として形成されるため、ブローピン12からのエアのブローにより、ブロー受け空間10内の圧力は成形型3全体の内部空間の圧力よりも高いものとなる。したがって、パリソンPの一部はスムースにねじ入れ子11の凹状の成形面に転写され、細かいねじの山谷部まで効果的に回り込む。
【0028】
図2に戻り、図2(c)に示すように、シリンダ5の駆動により内蔵部品4が成形型3に向けて前進し、その基端がパリソンPに押し付けられて所定の深さだけ埋設される。内蔵部品4の取り付け後、クランプ機構6のクランプが外れたうえで図2(d)に示すように成形型3が開く。次いで、例えば左右の成形型3が紙面奥−手前方向に移動し、センター型2から外れた位置で図2(e)に示すように成形型3同士が閉じ、ブローピン12および他のブローピンからのエアのブローにより、パリソンPが内蔵部品4を有した燃料タンクTとしてブロー成形される。
【0029】
以上のように、センター型2に取り付けられ、成形型3に向けて開口するブロー受け空間10を有し、成形型3が閉じた際にブロー受け空間10の開口部周りが成形型3との間でパリソンPを挟むようにしてパリソンPの一部を囲うブロー受け部材9と、パリソンPの一部を囲った状態のブロー受け空間10にエアをブローする局所ブロー手段(ブローピン12)と、を備え、局所ブロー手段によりエアがブロー受け空間10にブローされ、そのブロー受け空間10内の圧力によりパリソンPの一部が成形型3に転写される構成とすれば、たとえパリソンPの流動性が低下している場合であっても、ブロー受け空間10内の圧力により、パリソンPの回り込みが困難な箇所、例えばねじ入れ子11の成形面等の凹部にパリソンPを効果的に回り込ませることができる。また、局所ブロー手段として、成形型3に備えられたブローピン12を利用すれば、局所ブロー手段を簡単な構造で済ませることができる。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、ブロー受け空間10内の圧力を利用してパリソンPを転写させる成形型3の部位は、ねじ入れ子11等の凹状部に限られない。図3は成形型3の成形面に凸状部15が形成された態様を示しており、この場合も例えばパリソンPの流動性が低下しているときには、成形型3全体の空間内の圧力だけでは図3(a)に示すように凸状部15の基端のコーナー部16までパリソンPが回り込みにくい事象が生じ得る。したがって、この場合も、ブロー受け空間10の開口部周りと凸状部15周りの成形型3の成形面とでパリソンPを挟むようにして、エアをブロー受け空間10にブローすれば、ブロー受け空間10内の高い圧力によりパリソンPを図3(b)に示すようにコーナー部16まで回り込ませることができる。このように、本発明によれば、ブロー受け空間10内の圧力を利用することにより、パリソンPの回り込みが困難となりやすい複雑な形状の成型面にも容易に対処可能である。
【0031】
また、ブロー受け空間10内の圧力を規制する手段として、例えばブロー受け部材9に安全弁(図示せず)を設けることもできる。
【0032】
さらに、パリソンPの一部を囲った状態のブロー受け空間10にエアをブローする局所ブロー手段としては、ブローピン12に限定されるものではない。たとえば、図4に示すように、局所ブロー手段として、センター型2に形成したエア流路17と、このエア流路17に連通する管路等からなるエア流路18と、ブロー受け部材9に形成したエア流路19とを設け、これらのエア流路経由でブロー受け空間10にエアをブローするようにしてもよい。勿論、ブラケット8内にエア流路を形成することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 ブロー成形品の製造装置
2 センター型
3 成形型
4 内蔵部品
9 ブロー受け部材
10 ブロー受け空間
11 ねじ入れ子
12 ブローピン
13 真空孔
P パリソン
T 燃料タンク
Ta 雄ねじ円筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センター型と、このセンター型の両側をパリソンを挟んで閉じる一対の成形型と、を有するブロー成形品の製造装置であって、
前記センター型に取り付けられ、前記成形型に向けて開口するブロー受け空間を有し、前記成形型が閉じた際に前記ブロー受け空間の開口部周りが前記成形型との間でパリソンを挟むようにしてパリソンの一部を囲うブロー受け部材と、
パリソンの一部を囲った状態の前記ブロー受け空間にエアをブローする局所ブロー手段と、
を備え、
前記局所ブロー手段によりエアが前記ブロー受け空間にブローされ、そのブロー受け空間内の圧力により前記パリソンの一部が前記成形型に転写されることを特徴とするブロー成形品の製造装置。
【請求項2】
前記局所ブロー手段は、前記パリソンの一部を貫通して前記ブロー受け空間に臨むブローピンであることを特徴とする請求項1に記載のブロー成形品の製造装置。
【請求項3】
前記ブロー受け空間の開口部に対向する前記成形型の成形面に凹部が形成され、
前記パリソンの一部が前記凹部に転写されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブロー成形品の製造装置。
【請求項4】
前記ブロー成形品は、表面に雄ねじ円筒部が突設された自動車搭載用の燃料タンクであって、
前記成形型の凹部は、前記雄ねじ円筒部を成形するねじ入れ子の成形空間であることを特徴とする請求項3に記載のブロー成形品の製造装置。
【請求項5】
センター型と、このセンター型の両側をパリソンを挟んで閉じる一対の成形型と、を有する製造装置によるブロー成形品の製造方法であって、
前記成形型を閉じて、前記センター型に取り付けたブロー受け部材によりパリソンの一部を囲い、この囲んだ空間内にエアをブローすることによりその空間内の圧力により前記パリソンの一部を前記成形型に転写することを特徴とするブロー成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−111959(P2013−111959A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263168(P2011−263168)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(390023917)八千代工業株式会社 (186)
【Fターム(参考)】