説明

ブースター、RFIDシステム、及び無線通信機

【課題】近傍の金属体による周波数ずれや通信距離の低下を抑制できるブースターを提供する。
【解決手段】RFIDとRFIDリーダとの間に設けられるブースターであって、RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有し、かつRFIDリーダ及びカップリングコイルと磁気結合するコイル(ブースターコイル30,31)と、コイルを挟んでRFIDと反対側の、平面的に見てカップリングコイルと重複する位置に配置される磁性材66と、コイルを挟んでRFIDリーダと反対側の、平面的に見てコイルと重複する位置に配置される磁性材67とを備え、磁性材67は、平面的に見てカップリングコイルと重複する位置に切り抜き部67aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブースター、RFIDシステム、及び無線通信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの小型無線機器の高性能化は目覚ましく、非接触型ICカード(例えば、NFC(Near Field Communication)規格準拠のICカード。具体的には、MIFARE(登録商標)やFelica(登録商標)など。)に対応するものも登場している。そのような小型無線機器には、ICチップとカップリングコイルとからなるRFID(Radio Frequency Identification)が搭載される(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−306689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、RFIDの通信距離を十分に確保するためには、カップリングコイルのインダクタンスをある程度大きくすることが必要である。しかし、そのようなインダクタンスを有するカップリングコイルは比較的大きなものとなるため、近年の小型無線機器では十分な設置スペースを確保できない場合が多い。そこで近年、比較的大きなインダクタンスを有するブースターコイルを用いる方法が考えられている。特許文献1には、このブースターコイルの例が開示されている。
【0005】
ブースターコイルを用いる場合、ブースターコイルとカップリングコイルとは、直接接続ではなく磁気結合させる。そして、小型無線機器の筐体内にはカップリングコイルを含むRFIDのみを搭載し、ブースターコイルは、筐体の外にあって筐体に付属している部品、例えば電池の蓋などに搭載する。これにより、筐体内にインダクタンスの大きなアンテナを搭載することなく、RFIDの通信距離を十分に確保することが可能になる。
【0006】
しかしながら、ブースターコイルを電池の蓋に搭載すると、電池パックがブースターコイルの近傍に存在することとなる。金属からなる電池パックはブースターコイル近傍の磁界をかく乱するため、ブースターコイルの周波数ずれや通信距離の低下が発生してしまう。また、ブースターコイルとカップリングコイルとが磁気結合することから、ブースターコイルとカップリングコイルとを効率よく磁気結合させる方法が課題になる。
【0007】
したがって、本発明の目的のひとつは、近傍の金属体による周波数ずれや通信距離の低下を抑制できるブースター、RFIDシステム、及び無線通信機を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的の他のひとつは、カップリングコイルと効率よく磁気結合できるブースター、RFIDシステム、及び無線通信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一側面によるブースターは、RFIDとRFIDリーダとの間に設けられるブースターであって、前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有し、かつ前記RFIDリーダ及び前記カップリングコイルと磁気結合するコイルと、前記コイルを挟んで前記RFIDと反対側の、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置に配置される第1の磁性体と、前記コイルを挟んで前記RFIDリーダと反対側の、平面的に見て前記コイルと重複する位置に配置される第2の磁性体とを備え、前記第2の磁性体は少なくとも、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置には配置されないことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、第2の磁性体を設けたことにより、近傍の金属体による周波数ずれや通信距離の低下を抑制できる。また、第1の磁性体を設け、かつ第2の磁性体は平面的に見てカップリングコイルと重複する位置には配置されないこととしたので、ブースターとカップリングコイルとが効率よく磁気結合できる。
【0011】
上記ブースターにおいて、前記コイルは中央部に空間を有する平面コイルを含み、前記第2の磁性体は、平面的に見て前記中央部と重複する位置にも配置されないこととしてもよい。これによれば、近傍の金属体による周波数ずれや通信距離の低下の抑制効果をそれほど損なわずに、平面コイル中央の空間部分に、他の電子部品を配置することが可能になる。
【0012】
また、上記ブースターにおいて、前記コイルは中央部に空間を有する平面コイルを含み、前記第2の磁性体は、平面的に見て前記中央部と重複する位置にも配置されることとしてもよい。これによれば、より効果的に、近傍の金属体による周波数ずれや通信距離の低下を抑制できる。
【0013】
また、上記ブースターにおいて、前記コイルは、前記RFIDリーダと磁気結合する第1のコイルと、前記カップリングコイルと磁気結合する第2のコイルとを含み、前記第1のコイルと前記第2のコイルとは、電気的に接続していることとしてもよいし、前記コイルは、前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有する平面コイルを含み、該平面コイルの一部分によって前記前記カップリングコイルと磁気結合することとしてもよい。
【0014】
また、本発明の他の一側面によるブースターは、前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有し、かつ前記RFIDリーダ及び前記カップリングコイルと磁気結合するコイルと、前記コイルを挟んで前記RFIDと反対側の、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置に配置される第1の磁性体とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、ブースターとカップリングコイルとが効率よく磁気結合できる。
【0016】
また、本発明のさらに他の一側面によるブースターは、前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有し、かつ前記RFIDリーダ及び前記カップリングコイルと磁気結合するコイルと、前記コイルを挟んで前記RFIDリーダと反対側の、平面的に見て前記コイルと重複する位置に配置される第2の磁性体とを備え、前記第2の磁性体は少なくとも、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置には配置されないことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、第2の磁性体を設けたことにより、近傍の金属体による周波数ずれや通信距離の低下を抑制できる。また、第2の磁性体は平面的に見てカップリングコイルと重複する部分には配置されないこととしたので、第2の磁性体がブースターとカップリングコイルとの結合の妨げになることが防止されている。
【0018】
また、本発明によるRFIDシステムは、上記各ブースターのうちのいずれかと、該ブースターと磁気結合するRFIDとを備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明による無線通信機は、上記RFIDシステムを搭載することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ブースター近傍の金属体による周波数ずれや通信距離の低下を抑制できる。また、ブースターとRFID内のカップリングコイルとが効率よく磁気結合できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好ましい実施の形態によるRFIDシステムのシステム構成を示す図である。
【図2】本発明の好ましい実施の形態によるRFID及びブースターを携帯電話に搭載する際の搭載位置の例を示す模式図である。(a)は携帯電話の筐体の裏側(電池の蓋を取り外し、電池パックが露出した状態)を示し、(b)は電池の蓋の裏面(電池パック側)を示している。
【図3】(a)は、本発明の好ましい実施の形態によるRFIDの上面図である。(b)は、本発明の好ましい実施の形態によるコイル部品の上面図であり、(c)は、(b)のB−B’線断面図である。
【図4】(a)は、本発明の好ましい実施の形態によるブースターの上面図である。(b)は、(a)から下層導体パターンのみを取り出して示した図である。
【図5】(a)は図4(a)のC−C’線に対応するブースターの断面図であり、(b)は図4(a)のD−D’線に対応するブースターの断面図である。
【図6】(a)は、図4(a)に示したブースターの上面図に、磁性材の平面的な設置領域を図示したものである。(b)は、本発明の好ましい実施の形態によるブースターの下面図に、磁性材の平面的な設置領域を図示したものである。
【図7】(a)は、本発明の好ましい実施の形態の変形例によるブースターの上面図に、磁性材の平面的な設置領域を図示したものである。(b)は、本発明の好ましい実施の形態の変形例によるブースターの下面図に、磁性材の平面的な設置領域を図示したものである。
【図8】図5に示したブースターから第1の磁性体を省いた構成(実施例1)を示す図である。
【図9】図7に示したブースターから第1の磁性体を省いた構成(実施例1)を示す図である。
【図10】図5に示したブースターから第1及び第2の磁性体を省いた構成(比較例1)を示す図である。
【図11】図7に示したブースターから第1及び第2の磁性体を省いた構成(比較例1)を示す図である。
【図12】(a)は、実施例1での電磁界シミュレーション結果において、図8(b)に示した断面での磁場分布を示す図である。(b)は、比較例1での電磁界シミュレーション結果において、図10(b)に示した断面での磁場分布を示す図である。
【図13】図5に示したブースターから第2の磁性体を省いた構成(実施例2)を示す図である。
【図14】図7に示したブースターから第2の磁性体を省いた構成(実施例2)を示す図である。
【図15】図8に示したブースター(実施例1)から切り抜き部を省いた構成(比較例2)を示している。
【図16】図9に示したブースター(実施例1)から切り抜き部を省いた構成(比較例2)を示している。
【図17】(a)は、実施例1での電磁界シミュレーション結果において、図8(b)に示した断面での磁場分布を示す図であり、図12(a)の再掲である。(b)は、(a)をRFID近傍で拡大した拡大図である。(c)は、比較例2での電磁界シミュレーション結果において、図16(b)に示した断面での磁場分布を示す図である。(d)は、(c)をRFID近傍で拡大した拡大図である。
【図18】(a)は、本発明の好ましい実施の形態の変形例によるブースターの上面図に、磁性材の平面的な設置領域を図示したものである。(b)は、本発明の好ましい実施の形態の変形例によるブースターの下面図に、磁性材の平面的な設置領域を図示したものである。
【図19】本発明の好ましい実施の形態の変形例によるブースターの上面図である。
【図20】本発明の好ましい実施の形態の変形例によるブースターの上面図に、磁性材の平面的な設置領域を図示したものである。
【図21】図20に示したブースターから第2の磁性体を省いた構成を前提とし、磁性材及び電池パックの有無ごとに通信距離をシミュレーションした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態によるRFIDシステム1のシステム構成を示す図である。同図に示すように、RFIDシステム1は、RFID2、ブースター3、及びRFIDリーダ4を備えている。
【0024】
RFID2はICチップ20及びカップリングコイル21を有し、携帯電話などの無線通信機に搭載される。カップリングコイル21としては、無線通信機の筐体に搭載可能な小型のものを用いる。したがって、カップリングコイル21のインダクタンスはそれほど大きくなく、RFID2のみでは十分な通信距離が得られない。そこで、RFIDシステム1ではブースター3を用いる。
【0025】
ブースター3はRFID2の通信距離を延ばすために用いられるもので、ブースターコイル30,31からなるコイルを有し、このコイルにより、RFID2及びRFIDリーダ4の双方と磁気結合する。つまり、ブースターコイル30がRFID2のカップリングコイル21と磁気結合し、ブースターコイル31がRFIDリーダ4のコイル41と磁気結合する。また、ブースター3はキャパシタ32も有しており、キャパシタ32とブースターコイル30,31とでLC共振回路を構成する。ブースターコイル30,31のインダクタンスと、キャパシタ32の容量とは、ブースター3の共振周波数がRFIDシステム1の動作周波数となるよう決定される。
【0026】
図2は、RFID2及びブースター3を携帯電話に搭載する際の搭載位置の例を示す模式図である。同図(a)は携帯電話の筐体50の裏側(電池の蓋51を取り外し、電池パック52が露出した状態)を示し、同図(b)は電池の蓋51の裏面(電池パック52側)を示している。
【0027】
図2(a)に示すように、RFID2は、筐体50裏側の電池パック52近傍に取り付けられる。なお、同図ではICチップ20は表示していない。一方、ブースター3は、図2(b)に示すように、電池の蓋51の裏面に取り付けられる。ブースター3は、電池の蓋51を筐体50に取り付けた際、ブースターコイル30がRFID2内のカップリングコイル21と重なるように配置される。こうすることで、ブースターコイル30とカップリングコイル21とが磁気結合できるようになる。
【0028】
図1に戻る。RFIDリーダ4は、RFID2内のICチップ20に記憶される情報の読み出しを行う。読み出しを行う際には、図2に示した携帯電話の電池の蓋51を筐体50に取り付けた状態で、RFIDリーダ4を携帯電話の裏側に近づける。そして、RFIDリーダ4において、読み出し命令を含むデータによって変調した信号を、CPU40からコイル41に送出する。また、変調した信号の送出後には、無変調の信号を所定時間にわたって送出する。これらの信号は、コイル間の磁気結合を介してICチップ20に受信される。
【0029】
ICチップ20は、整流回路、通信回路、及びメモリを含む。整流回路は、カップリングコイル21を介して上記各信号を受信し、整流して直流化する。通信回路は、この直流を電源として動作するものであり、まず変調信号を解釈し、解釈結果に応じてメモリ内からデータを読み出す。そして、読み出したデータによって無変調信号の反射信号を変調する。RFIDリーダ4はこの反射信号を受信することで、ICチップ20内のメモリに記憶されているデータを取得する。
【0030】
次に、図3〜図7を参照しながら、RFID2とブースター3の構造について、詳しく説明する。
【0031】
まず、図3(a)は、RFID2の上面図である。同図には、カップリングコイル21を搭載するための基板22及び基板22上に形成された配線パターン23−1,2のみを示している。カップリングコイル21には磁性体基板を用いて磁心を構成したコイル部品を用いており、図3(a)に示した領域Aには、このコイル部品が搭載される。また、図示していないが、ICチップ20は、配線パターン23−1,2を介してカップリングコイル21に接続される。
【0032】
図3(b)はカップリングコイル21を含むコイル部品24の上面図であり、図3(c)は図3(b)のB−B’線断面図である。これらの図に示すように、コイル部品24は、フェライトなどの磁性体により構成される磁性体基板26の上面に樹脂層25を有し、その中にカップリングコイル21が埋め込まれた構成を有している。
【0033】
カップリングコイル21は、図3(b)に示すように、平面スパイラル構造を有している。磁性体基板26は、カップリングコイル21中央の空間部分にも設けられている。カップリングコイル21の内周端21−1及び外周端21−2はそれぞれ、引出導体21a,21bを介して、基板22上の配線パターン23−1,2に接続される。
【0034】
次に、図4(a)はブースター3の上面図である。同図には、ブースター3の構成要素のうち、導体パターン(後述する上層導体パターン60及び下層導体パターン61)のみを示している。図4(b)は、図4(a)から下層導体パターン61のみを取り出して示した図である。また、図5(a)は図4(a)のC−C’線に対応するブースター3の断面図であり、図5(b)は図4(a)のD−D’線に対応するブースター3の断面図である。
【0035】
図4(a)及び図5(a)(b)に示した領域Eは、携帯電話の電池の蓋51を筐体50に取り付けたときに、RFID2が来る位置を示している。なお、電池パック52は、ブースター3の下方(図5(a)(b)では、ブースター3の下側に相当する。)に位置する。また、RFIDリーダ4(図1)は、ブースター3の上方(図5(a)(b)では、ブースター3の上側に相当する。)に配置される。
【0036】
図5(a)(b)などに示すように、ブースター3は、上層導体パターン60、下層導体パターン61、スルーホール導体62,63、磁性材66,67、及び樹脂基板68を有している。
【0037】
上層導体パターン60は、図5(a)(b)に示すように樹脂基板68の上面に形成された導体パターンであり、図4(a)に示すように平面スパイラル構造を有している。この平面スパイラル構造により、上層導体パターン60は、RFIDリーダ4内のコイル41(図1)と磁気結合するブースターコイル31(第1のコイル)を構成する。ブースターコイル31は、カップリングコイル21に比べて大きな面積を有する。
【0038】
下層導体パターン61は、図5(a)(b)に示すように、樹脂基板68の下面に形成された導体パターンである。下層導体パターン61は、図4(b)に示すように、一方端部61aにブースターコイル30(第2のコイル)を構成する小型の平面スパイラル構造を有し、他方端部61b付近にキャパシタ32を構成するギャップを有している。ブースターコイル30は、図4(a)に示すように、平面的に見てブースターコイル31の一部分と重複する位置に設けられる。より具体的には、略長方形の外形を有するブースターコイル31の一角の真下に設けられる。また、ブースターコイル30は、平面的に見てRFID2(領域E)内のカップリングコイル21と重複する位置に配置される。
【0039】
上層導体パターン60の内周端60aは、図5(b)に示すように、樹脂基板68に設けられたスルーホール導体62を介して、下層導体パターン61の一方端部61a(ブースターコイル30の内周端)と電気的に接続される。同様に、上層導体パターン60の外周端60bは、図5(a)に示すように、樹脂基板68に設けられたスルーホール導体63を介して、下層導体パターン61の他方端部61bと電気的に接続される。
【0040】
磁性材66(第1の磁性体)は、図5(a)(b)に示すように、ブースターコイル30を挟んでRFID2(領域E)と反対側(樹脂基板68の上面)に貼り付けられる。また、磁性材67(第2の磁性体)は、図5(a)(b)に示すように、ブースターコイル31を挟んでRFIDリーダ4と反対側(樹脂基板68の下面)に貼り付けられる。磁性材66,67の具体的な材料としては、フェライトが好適である。
【0041】
図6(a)は、図4(a)に示したブースター3の上面図に、磁性材66の平面的な設置領域を図示したものである。同様に、図6(b)は、ブースター3の下面図に、磁性材67の平面的な設置領域を図示したものである。
【0042】
図6(a)に示すように、平面的に見ると、磁性材66はブースターコイル30を覆うように配置される。つまり、磁性材66は、平面的に見てカップリングコイル21と重複する位置に配置される。一方、磁性材67は、図6(b)に示すように、平面的に見てブースターコイル31と重複する位置に配置される。ただし、磁性材67は、平面的に見てカップリングコイル21(ブースターコイル30)と重複する部分、及び平面的に見てブースターコイル31中央部(導体パターンが存在しない空間領域)と重複する部分に切り抜き部67aを有している。つまり、磁性材67は、これらの部分には配置されていない。
【0043】
磁性材66,67を以上のように配置したことにより、RFIDシステム1では、次のような効果が得られる。まず、磁性材67を設けたことで、電池パック52(図2)がブースターコイル31の近傍に存在することにより生じ得る周波数ずれや通信距離の低下を抑制できる。また、磁性材66を設け、かつ磁性材67には平面的に見てブースターコイル30と重複する部分に切り抜き部67aを設けたので、ブースターコイル30とカップリングコイル21とが効率よく磁気結合できる。
【0044】
また、ブースターコイル31中央部と重複する部分にも切り抜き部67aを設けたことにより、電池パック52による周波数ずれや通信距離の低下の抑制効果をそれほど損なわずに、ブースターコイル31中央部に、他の電子部品を配置することが可能になる。ただし、磁性材67の切り抜き部67aが、平面的に見てブースターコイル31中央部と重複する部分にも存在することは必須ではない。つまり、図7に示すように、切り抜き部67aを、ブースターコイル30と重複する部分にのみ設けることとしてもよい。こうすれば、より効果的に、電池パック52による周波数ずれや通信距離の低下を抑制できる。
【0045】
以下、比較例を示しながら、ブースター3を用いることによる上記効果について、より詳しく説明する。
【0046】
まず初めに、磁性材67を設けたことによる効果について説明する。
【0047】
図8及び図9は、磁性材67による効果の確認のため、図5及び図7に示したブースター3から磁性材66を省いた構成を有するブースター3a(実施例1)を示している。また、図10及び図11は、比較例として、図5及び図7に示したブースター3から磁性材66,67を省いた構成を有するブースター3x(比較例1)を示している。
【0048】
なお、ブースター3内のブースターコイル30とRFID2内のカップリングコイル21との距離は1mmとした。また、コイル30,31,21の大きさはそれぞれ5mm角,41mm×36mm角,2mm×1.2mm角とし、ブースターコイル30,31のインダクタンスは1.5μH、カップリングコイル21のインダクタンスは0.35μHとした。また、磁性材66には厚さ0.1mmのフェライトを用いた。
【0049】
図12(a)は、実施例1での電磁界シミュレーション結果において、図8(b)に示した断面のブースター3a近傍の磁場分布を示す図である。また、図12(b)は、比較例1での電磁界シミュレーション結果において、図10(b)に示した断面のブースター3x近傍の磁場分布を示す図である。
【0050】
図12(a)と図12(b)とを比較すると明らかなように、ブースター3a(実施例1)では、ブースター3x(比較例1)に比べて磁場の広がりが大きくなっている。つまり、磁性材67を設けたことで、ブースター3aの下面側(RFID2側)に存在する電池パック52(図2)の影響による磁場の乱れが抑制されている。この結果から、磁性材67を設けたことにより、電池パック52の存在により生じ得る周波数ずれや通信距離の低下を抑制できていることが理解される。
【0051】
次に、磁性材66を設けたことによる効果について説明する。
【0052】
図13及び図14は、磁性材66による効果の確認のため、図5及び図7に示したブースター3から磁性材67を省いた構成を有するブースター3b(実施例2)を示している。
【0053】
ブースター3b(実施例2)について読み出し時のブースターコイル31の出力パワーを測定したところ、−20.59dBであった。また、RFIDリーダ4との通信距離は最大で40mmであった。一方、ブースター3x(比較例1)についても同様に測定したところ、それぞれ−24.03dB、27mmであった。以上の結果から、磁性材66を用いることにより、ブースターコイル30とカップリングコイル21とが効率よく磁気結合できるようになったことが理解される。
【0054】
次に、磁性材67に切り抜き部67aを設けたことによる効果について説明する。ここでは、図13及び図14に示した実施例2によるブースター3bを用い、ブースターコイル30と重複する部分に切り抜き部67aを有することの効果について説明する。
【0055】
図15及び図16は、比較例として、図8及び図9に示したブースター3a(実施例1)から切り抜き部67aを省いた構成を有するブースター3y(比較例2)を示している。つまり、ブースター3y(比較例2)では、ブースターコイル30と重複する部分にも磁性材67が設けられている。
【0056】
図17(a)は、実施例1での電磁界シミュレーション結果において、図8(b)に示した断面のブースター3a近傍の磁場分布を示す図であり、図12(a)の再掲である。図17(b)は、図17(a)をRFID2近傍で拡大した拡大図である。図17(c)は、比較例2での電磁界シミュレーション結果において、図16(b)に示した断面のブースター3y近傍の磁場分布を示す図である。図17(d)は、図17(c)をRFID2近傍で拡大した拡大図である。
【0057】
図17(b)と図17(d)とを比較すると明らかなように、ブースター3b(実施例2)ではブースター3y(比較例2)に比べてカップリングコイル21とブースター3との間の磁場が強くなっている。このことは、ブースター3b(実施例2)では、ブースター3y(比較例2)に比べてブースターコイル30とカップリングコイル21とが強く磁気結合していることを示している。この結果から、磁性材67に切り抜き部67aを設けたことにより、ブースターコイル30とカップリングコイル21とが効率よく磁気結合できるようになったことが理解される。
【0058】
磁性材67に切り抜き部67aを設けたことで、ブースターコイル30とカップリングコイル21の結合を改善しつつ、金属の影響緩和効果を保つことができる。さらに、磁性材66を設けたことで、より一層ブースターコイル30とカップリングコイル21との結合を強めることができる。その結果、通信距離が大幅に向上できるだけでなく、カップリングコイル21とブースターコイル30のギャップも広げることができ、使用できる自由度を増すことが可能となっている。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0060】
例えば、上記実施の形態ではRFID内のカップリングコイルとブースター3とを磁気結合させるために、平面スパイラル構造を有する小型のブースターコイル30を設けたが、RFIDシステム1に求められる条件によっては、このようなブースターコイル30を設けなくてもよい場合もある。
【0061】
図18は、この場合のブースター3の例を示している。図18に示すように、本変形例によるブースター3では、ブースターコイル31の一部分(角部付近)が、RFID2と結合するブースターコイル30としての役割を果たす。なお、ブースターコイル30としての役割を果たすブースターコイル31の部分をメアンダ構造としてもよい。磁性材66及び磁性材67の切り抜き部67aの配置は、このブースターコイル30に基づいて、上記実施の形態と同様に決定される。
【0062】
また、上記実施の形態では、平面的に見てブースターコイル31の一部分と重複する位置にブースターコイル30を設けたが、平面的に見てブースターコイル31と重複しない位置にブースターコイル30を設けてもよい。前者では後者に比べて省スペース化が可能であるのに対し、後者によれば、ブースターコイル30,31間での磁界の干渉を防げるため、より効率よく磁気結合することが可能になる。
【0063】
図19は、平面的に見てブースターコイル31と重複しない位置にブースターコイル30を設けた変形例によるブースター3の上面図である。また、図20は、図19に示したブースター3の上面図に、磁性材66,67の平面的な設置領域を図示したものである。図19及び図20において各構成に付した符号は、図4及び図6に付したものと同様である。
【0064】
図19に示すように、本変形例によるブースターコイル30及びキャパシタ32は、ブースターコイル31の外側に設けられる。また、磁性材66は、上記実施の形態と同様に、ブースターコイル31を挟んでRFID2(図1及び図3参照)と反対側(図20では図面手前側)に貼り付けられる。一方、磁性材67は、ブースターコイル31を挟んでRFIDリーダ4(図1参照)と反対側(図20では図面奥側)に貼り付けられる。
【0065】
本変形例では、磁性材67に、図7に示したような切り抜き部67aは設けられていない。しかしながら、ブースターコイル30がブースターコイル31の外側に設けられるため、磁性材67は、平面的に見てブースターコイル30と重複する部分には配置されていない。したがって、ブースターコイル30とRFID2のカップリングコイル21とは効率よく磁気結合できるようになっている。
【0066】
図21は、本変形例において磁性材66を設けたことによる効果の説明図である。同図は、磁性材66及び電池パック52(図2参照)の有無ごとに通信距離を実測した結果を示す図である。なお、図21の測定では、図13に示した例と同様に、磁性材67を省いた構成を前提とした。また、ブースター3内のブースターコイル30とRFID2内のカップリングコイル21との距離は1mmとした。また、コイル30及びコイル31を含むブースター3の大きさは60mm×36mm角とした。カップリングコイル21及び磁性材66には、上記実施の形態と同様のものを用いた。
【0067】
図21に示すように、電池パック52が存在しなければ磁性材66を設けなくてもある程度の通信距離が得られるが、電池パック52が存在すると、磁性材66を設けた場合にはある程度(約30mm)の通信距離が得られるが、磁性材66を設けない場合にはほとんど通信距離が得られない。この結果から、本変形例においても、磁性材66を設けることにより、ブースターコイル30とカップリングコイル21とが効率よく磁気結合できるようになったことが理解される。
【符号の説明】
【0068】
1 RFIDシステム
2 RFID
3 ブースター
4 RFIDリーダ
20 ICチップ
21 カップリングコイル
21a,21b 引出導体
22 基板
23 配線パターン
24 コイル部品
25 樹脂層
26 磁性体基板
30 ブースターコイル(第2のコイル)
31 ブースターコイル(第1のコイル)
32 キャパシタ
41 コイル
50 筐体
51 電池の蓋
52 電池パック
60 上層導体パターン
61 下層導体パターン
62,63 スルーホール導体
66 磁性材(第1の磁性体)
67 磁性材(第2の磁性体)
67a 磁性材67の切り抜き部
68 樹脂基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFIDとRFIDリーダとの間に設けられるブースターであって、
前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有し、かつ前記RFIDリーダ及び前記カップリングコイルと磁気結合するコイルと、
前記コイルを挟んで前記RFIDと反対側の、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置に配置される第1の磁性体と、
前記コイルを挟んで前記RFIDリーダと反対側の、平面的に見て前記コイルと重複する位置に配置される第2の磁性体とを備え、
前記第2の磁性体は少なくとも、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置には配置されないことを特徴とするブースター。
【請求項2】
前記コイルは中央部に空間を有する平面コイルを含み、
前記第2の磁性体は、平面的に見て前記中央部と重複する位置にも配置されないことを特徴とする請求項1に記載のブースター。
【請求項3】
前記コイルは中央部に空間を有する平面コイルを含み、
前記第2の磁性体は、平面的に見て前記中央部と重複する位置にも配置されることを特徴とする請求項1に記載のブースター。
【請求項4】
前記コイルは、
前記RFIDリーダと磁気結合する第1のコイルと、
前記カップリングコイルと磁気結合する第2のコイルとを含み、
前記第1のコイルと前記第2のコイルとは、電気的に接続していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のブースター。
【請求項5】
前記コイルは、前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有する平面コイルを含み、該平面コイルの一部分によって前記前記カップリングコイルと磁気結合することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のブースター。
【請求項6】
RFIDとRFIDリーダとの間に設けられるブースターであって、
前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有し、かつ前記RFIDリーダ及び前記カップリングコイルと磁気結合するコイルと、
前記コイルを挟んで前記RFIDと反対側の、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置に配置される第1の磁性体とを備えることを特徴とするブースター。
【請求項7】
RFIDとRFIDリーダとの間に設けられるブースターであって、
前記RFID内のカップリングコイルに比べて大きな面積を有し、かつ前記RFIDリーダ及び前記カップリングコイルと磁気結合するコイルと、
前記コイルを挟んで前記RFIDリーダと反対側の、平面的に見て前記コイルと重複する位置に配置される第2の磁性体とを備え、
前記第2の磁性体は少なくとも、平面的に見て前記カップリングコイルと重複する位置には配置されないことを特徴とするブースター。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のブースターと、
前記ブースターと磁気結合するRFIDとを備えることを特徴とするRFIDシステム。
【請求項9】
請求項8に記載のRFIDシステムを搭載することを特徴とする無線通信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−103533(P2011−103533A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257063(P2009−257063)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】