説明

プッシュスイッチ付き回転型電気部品

【課題】 特に、ラバースプリングにシリコーングリースが接触しても、従来に比べて膨潤を抑制することができるプッシュスイッチ付き回転型電気部品を提供することを目的としている。
【解決手段】 回転操作により出力を変化させるエンコーダと、押圧操作によりスイッチ入力が可能なプッシュスイッチ部とを一体に組み込んで構成されたプッシュスイッチ付きエンコーダであり、前記エンコーダには潤滑用のシリコーングリースが塗布されており、前記プッシュスイッチには、前記押圧操作により座屈可能なラバースプリング7が設けられており、前記ラバースプリング7は、フッ素ゴムで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダ等の接点摺動部と、プッシュスイッチ部とを一体に組み込んで構成されたプッシュスイッチ付き回転型電気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
プッシュスイッチ付きエンコーダは、プッシュスイッチの一構成部品として押圧により座屈可能なラバースプリングを備える。
従来、前記ラバースプリングはシリコーンゴムで形成されていた。
【0003】
またエンコーダは、摺動子と、前記摺動子が摺接する導電パターンが形成された接点基板とを備えて構成されている。そして、前記エンコーダには、潤滑用のシリコーングリースが塗布されていた。
【特許文献1】特開2000−74009号公報
【特許文献2】特開2004−239372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シリコーンゴムで形成されたラバースプリングに、前記シリコーングリースが接触すると、前記ラバースプリングが膨潤した。
【0005】
そして、ラバースプリングの膨潤によって、作動力の低下や、繰り返し変形によるゴム破断が発生した。
【0006】
上記の特許文献1及び特許文献2に記載の発明は、いずれも、押圧により座屈可能なラバースプリングを有するプッシュスイッチ付き回転型電気部品に関する発明でなく、当然に、上記した従来課題を備えていない。
【0007】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、ラバースプリングにシリコーングリースが接触しても、従来に比べて膨潤を防止することができるプッシュスイッチ付き回転型電気部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転操作により出力を変化させる接点摺動部と、押圧操作によりスイッチ入力が可能なプッシュスイッチ部とを一体に組み込んで構成されたプッシュスイッチ付き回転型電気部品において、
前記接点摺動部には潤滑用のシリコーングリースが塗布されており、
前記プッシュスイッチには、前記押圧操作により座屈可能なラバースプリングが設けられており、
前記ラバースプリングは、フッ素ゴムで形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
グリース特性の変更は、接点摺動部の出力特性に影響を及ぼすことがあるため、潤滑用のシリコーングリースはそのままで、ラバースプリングをフッ素ゴムで形成した。
【0010】
上記構成により、ラバースプリングにシリコーングリースが接触しても、従来に比べてラバースプリングの膨潤を防止することができる。したがって、作動力の低下を抑制できるとともに繰り返し変形によっても破断しにくくできる。
【0011】
本発明では、前記ラバースプリングは、前記ラバースプリングが押圧されて座屈動作したときにスイッチ入力されるスイッチ部が設けられた基板上に前記シリコーングリースを介して載置されていることが好ましい。これにより、組み立て時、ラバースプリングを前記基板上に適切に仮止めできる。また、このように仮止めのためにシリコーングリースを用いても、上記したように、ラバースプリングの膨潤を従来に比べて防止することが出来る。
【0012】
本発明では、第1基板と第2基板とが対向配置され、前記第1基板には貫通孔が設けられ、この貫通孔に回転操作可能且つ押圧操作可能な操作軸が挿通されており、
前記操作軸と前記第2基板の間には、前記第2基板の前記第1基板との対向面に載置された前記ラバースプリングと、前記ラバースプリングが押圧されて座屈動作したときにスイッチ入力されるスイッチ部とを備え、
前記第1基板は前記操作軸の回転操作により回転可能に支持されており、前記第1基板の前記貫通孔の周囲に位置する前記第2基板との対向面、あるいは前記第2の基板の前記ラバースプリング及び前記スイッチ部の周囲に位置する前記対向面の一方に摺動子が設けられ、他方に前記摺動子が摺接する導電パターンが形成されている構成に適している。
【0013】
上記構成により、摺動子及び導電パターンを備える接点摺動部と、ラバースプリングとが近接した配置になる。近接配置により、接点摺動部に塗布されたシリコーングリースがラバースプリングにより接触しやすくなるが、上記したように本発明の構成によれば、シリコーングリースがラバースプリングに接触しても、ラバースプリングの膨潤を従来に比べて効果的に防止することが出来る。
【0014】
また本発明では、前記ラバースプリングは、フッ素化ポリエーテル骨格と末端にシリコーン架橋反応基を有する構造の前記フッ素ゴムにより形成されていることが好ましい。上記構造を備えるフッ素ゴムは、シロキサンガスの発生を効果的に抑制でき、さらに、シリコーンゴムに比べて耐溶剤性(特にシリコーングリースに対する耐溶剤性)、耐熱性、引き裂き強度等に優れる利点がある。
【0015】
また本発明では、前記ラバースプリングは、架橋前のフッ素ゴムを熱プレスして形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ラバースプリングにシリコーングリースが接触しても、従来に比べて、ラバースプリングの膨潤を防止することができる。したがって、作動力の低下を抑制できるとともに繰り返し変形によっても破断しにくくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本実施形態におけるプッシュスイッチ付きエンコーダの分解斜視図、図2は、図1に示すプッシュスイッチ付きエンコーダの一部を示す部分各第断面図、である。
【0018】
図1に示すプッシュスイッチ付きエンコーダ1は、スペーサ2と、固定接点3(図2参照)及び摺動子4を表面5aに備える絶縁基板5と、可動接点6と、ラバースプリング7と、駆動体8と、コード板9と、軸止めバネ10と、板バネ11と、軸受12と、取付板13と、操作軸14とを有して構成される。
【0019】
絶縁基板(第2基板)5は成型材料で形成される。前記絶縁基板5の側面からは複数本のエンコーダ用あるいはプッシュスイッチ用の接続端子部15が延出している。これら接続端子部15は金属板を折り曲げ形成したものであり、前記金属板の一部は前記絶縁基板5の内部に埋設されている。
【0020】
この実施形態では、絶縁基板5の表面5aに、凹部5bが形成されており(図2も参照)、この凹部5bの表面に、固定接点3が露出して設けられている。また図2に示すように凹部5bには可動接点6が設置される。
【0021】
ラバースプリング7は、押圧部16と前記押圧部16と一体に形成された脚部17とを備える。押圧部16の上面16aは平坦面で形成された押圧面である。押圧部16の下面には下方向に突出する突出部16bが形成されている。
【0022】
例えば、脚部17は押圧部16の外周から斜め下方向に延びて形成されたスカート形状で形成され、突出部16bの下側は空洞になっている。脚部17の下縁部17bは支持部として絶縁基板5上に設置される。この実施形態では、前記ラバースプリング7が絶縁基板5の表面5aに形成された凹部5b内に配置されている。図1,図2に示すように、操作軸14と、絶縁基板5との間に、固定接点3、可動接点6及びラバースプリング7が設けられ、図2に示すようにラバースプリング7の突出部16b、可動接点6の可動部6a及び固定接点3が高さ方向にて一致している。
【0023】
駆動体8は、操作軸14と接続されるとともに、コード板9の中央に形成された貫通孔9a内に組み込まれて、前記操作軸14を回転操作させたときに前記コード板9も一緒に回転動作させる役割を担っている。また駆動体8の下面8aは、操作軸14を押圧操作したときに、ラバースプリング7の押圧部16の上面(押圧面)16aを下方向に押圧する面である(図2参照)。
【0024】
コード板(第1基板)9は例えば成型材料で形成される。また、コード板9には上記したように貫通孔9aが形成されている。この貫通孔9aには、駆動体8及び操作軸14が挿通される。
【0025】
コード板9の表面9b(貫通孔9aの周囲に位置する絶縁基板5との対向面)には、導電パターン18が形成されている。例えば導電パターン18は、コモン領域、A相領域及びB相領域にて構成され、前記導電パターン18が形成されていない前記コード板9の表面9bは絶縁表面となっている。
【0026】
操作軸14を回転操作すると、駆動体8を介して一緒にコード板9も回転し、各摺動子4が前記コード板9の表面9bに形成された導電性のコモン領域、A相領域及びB相領域上を摺動する。これにより、A相用の接続端子部15及びB相用の接続端子部15から位相がずれたパルス波形の信号を得ることが出来る。
【0027】
また操作軸14を押圧操作すると、駆動体8を介してラバースプリング7が押圧され、ラバースプリング7の脚部17が座屈する。このとき、ラバースプリング7の突出部16bにより、可動接点6の可動部6aが押圧されて、可動接点6が固定接点3に接触し、これにより、スイッチ入力を行うことが出来る。
【0028】
この実施形態では、上記したコード板9及び摺動子4等によりエンコーダを構成し、ラバースプリング7、固定接点3及び可動接点6等によりプッシュスイッチ部を構成している。
【0029】
ところで、前記エンコーダには潤滑用のシリコーングリースが塗布されている。シリコーングリースは、コード板9の表面9b等に塗布され、摺動子4との間での摺動性を向上させている。
【0030】
図1,図2に示すように、操作軸14はエンコーダ及びプッシュスイッチ部の共通の操作部材として用いられ、前記操作軸14と絶縁基板5との間に、固定接点3及び可動接点6のスイッチ部、及びラバースプリング7が設置される。そしてエンコーダを構成するコード板9及び摺動子4が、ラバースプリング7に近接した位置に配置されており(図2参照)、前記エンコーダに塗布されたシリコーングリースがラバースプリング7に接触しやすい構造となっている。
【0031】
従来、ラバースプリングはシリコーンゴムで形成されていたが、シリコーングリースとの接触により膨潤して、作動力の低下や繰り返し変形したときの破断等が問題となった。
【0032】
そこで本実施形態では、摺動子4とコード板9に形成された導電パターン18間の導電性等を適切に保ち、エンコーダの出力特性が変わらないように、エンコーダに塗布されるシリコーングリースはそのままとし、押圧により座屈変形するラバースプリング7をフッ素ゴムで形成した点に特徴的構成がある。
【0033】
このようにラバースプリング7をフッ素ゴムで形成したことで、ラバースプリング7にシリコーングリースが接触しても、従来に比べて、前記ラバースプリング7の膨潤を防止できる。後述する実験によれば膨潤率が大きくなるほど、機械的物性(硬度、引張強さ、破断までの伸び率)が低下することがわかった。本実施形態では、ラバースプリング7の膨潤を防止できるため、前記機械的物性の低下を抑制でき、これにより、ラバースプリング7の作動力の低下を抑制できるとともに、ラバースプリング7を繰り返し変形させても破断しにくくできる。
【0034】
上記のように、フッ素ゴムは、シリコーンゴムに比べて、シリコーングリースと接触しても膨潤しにくく、さらに、フッ素ゴムを用いることで、シリコーンゴムを用いる場合に比べて、シロキサンガスの発生を抑制できるし、また、傷による破断にも強い高荷重対応のラバースプリング7を実現できる。これにより、操作者が押圧したときに適切なクリック感を出すことが出来る。
【0035】
また、図2に示すようにラバースプリング7は、固定接点3及び可動接点6のスイッチ部が搭載された絶縁基板5上にシリコーングリース20を介して載置されることが好適である。これにより、プッシュスイッチ付きエンコーダ1の組み立て時、前記ラバースプリング7を前記絶縁基板5上に適切に仮止めして散けるのを防止できる。ここで、ラバースプリング7の仮止め用としてエンコーダの潤滑用と同じシリコーングリース20を用いたことで、グリース塗布作業を容易化できる。そして、ラバースプリング7の仮止め用としてシリコーングリース20を用いたことで、必ず、ラバースプリング7とシリコーングリース20とが接触した状態になるが、本実施形態では、上記のようにラバースプリング7の膨潤を防止できるため、従来に比べて膨潤による特性劣化(作動力低下や繰り返し変形時の破断)を効果的に抑制することが可能である。
【0036】
フッ素ゴムで形成されるラバースプリング7は、例えば、架橋前のフッ素ゴムをロールで引き延ばし、熱プレス成形しやすい形状に引き出し、この引き出したフッ素ゴムを加熱した金型に設置した後、熱プレスして成形される。
【0037】
また、ラバースプリング7に用いられるフッ素ゴムは、フッ素化ポリエーテル骨格と末端にシリコーン架橋反応基を有する、いわゆるシリコーンエラストマーとフッ素エラストマーを複合化した構造で形成されていることがより好適である。構造式を下記に示す。
【0038】
【化1】

【0039】
上記構造式を備えるフッ素ゴムは、例えば信越化学工業製のフッ素ゴムSIFEL9700を提示できる。
【0040】
上記構造式を備えるフッ素ゴムは、ポリマーの構造上、シロキサンガスをほとんど発生しないので、シロキサンによる接点障害等を防止でき、入力特性の安定性及び長寿命化を得ることが出来る。しかもシリコーンゴムに比べて耐溶剤性(特にシリコーングリースに対する耐溶剤性)、耐熱性、引き裂き強度等に優れる利点がある。
【0041】
次に、フッ素ゴムのゴム硬度は、60°〜90°であることが好適である。基本的にシリコーンゴムの硬度はデュロメーター(スプリング式ゴム硬度計:高分子計測株式会社CL-150LW型)を用いて測定できる。スプリング式ゴム硬度計は、押し針をスプリングの力で試料の表面に押し付けて変形を与え、そのときの「押し込み深さ」から硬さを数値化する測定器である。
【実施例】
【0042】
(フッ素ゴムによるラバースプリングシート(実施例)の作製)
架橋前のフッ素ゴムSIFEL9700(信越化学工業製)を熱プレスしやすい厚さにロールで引き延ばした。引き延ばしたフッ素ゴムを熱プレスしやすい形状に切り出し、約175℃に加熱した金型に設置して、200kg/cm2の圧力で4分間熱プレスした。次に200℃で4時間、ポストキュアを行ってラバースプリングシートを完成させた。フッ素ゴムのゴム硬度は70°であった。
【0043】
(シリコーンゴムによるラバースプリングシート(従来例)の作製)
東レダウコーニング製のシリコーンゴムで、ラバースプリングを作製した。なお、ラバースプリングの作製条件は、フッ素ゴムの場合と同じとした。また、シリコーンゴムのゴム硬度は70°であった。
【0044】
(ラバースプリングの作動力等の実験)
種々の形態にシリコーングリースを塗布したラバースプリングを30℃の恒温槽に1週間放置した。その後、表面粗さ±5μmの曇りガラス上に置いたラバースプリングを作動力測定機で押し、ラバースプリングの座屈が始まるときの荷重(作動力)とボトム点、及び荷重を取り除いたときの復帰力を測定した(図8参照)。
【0045】
作動力、ボトム点、及び復帰力の各測定は、ラバースプリングに対する予備押ししない場合、及び、予備押しを20回行った後のそれぞれにおいて行った。
【0046】
また、シリコーングリースをラバースプリングに塗布しない形態、シリコーングリースをラバースプリングの底面のみ塗布した形態、及び、シリコーングリースをラバースプリングの底面及び内壁に塗布した形態の夫々に対して作動力、ボトム点、及び復帰力の各測定を行った。
その実験結果を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、予備押し無しで、フッ素ゴムで形成したラバースプリングに対して行った実験結果では、シリコーングリースをラバースプリングの底面、あるいは底面及び内壁に塗布したときの各作動力が、シリコーングリースを塗布しないときの作動力に対して、約4%しか低下しないことがわかった。
【0049】
一方、20回の予備押しした後、フッ素ゴムで形成したラバースプリングに対して行った実験結果では、シリコーングリースをラバースプリングの底面、あるいは底面及び内壁に塗布したときの各作動力が、シリコーングリースを塗布しないときの作動力と比較して、ほとんど変化しないことがわかった。
【0050】
これに対して、シリコーンゴムで形成したラバースプリングに対して行った実験結果では、予備押し回数に関わらず、シリコーングリースをラバースプリングの底面、あるいは底面及び内壁に塗布したときの各作動力が、シリコーングリースを塗布しないときの作動力に対して、大きく低下することがわかった。
【0051】
特に、ラバースプリングの底面及び内壁にシリコーングリースを塗布した形態に対して行った実験結果では、底面のみシリコーングリースを塗布した形態に比べて、グリース塗布量が多いためか、作動力の低下が激しかった。シリコーンゴムで形成されたラバースプリングの底面にのみシリコーングリースを塗布した場合での作動力の低下は約20%であり、シリコーンゴムから成るラバースプリングの底面及び内壁にシリコーングリースを塗布した場合での作動力の低下は約35%にも達した。
【0052】
いずれにしても、シリコーンゴムで形成したラバースプリングの場合、フッ素ゴムでラバースプリングを形成した場合に比べて作動力が大きく低下することがわかった。
【0053】
(膨潤率の試験)
東レダウコーニング製のシリコーンゴム(硬度70°)について、幅及び長さが12cmで厚さが約2mmのテストピースを作製した。このテストピースから約3cm×3cmのゴム試験片を切り出し、30℃のシリコーングリースに浸漬させた後、浸漬時間に対するゴムの体積変化率、重量変化率、外形寸法(幅及び長さ)の変化率、厚さの変化率、シリコーングリース吸収量を夫々測定した。その実験結果を図3ないし図7に示す。
【0054】
図3ないし図7に示すいずれの実験結果においても、シリコーンゴムに対する各変化率やグリース吸収量は、浸漬時間が24時間までは急激に増加していることがわかった。そして浸漬時間が144時間を越えると一定になった。
【0055】
一方、図3ないし図7に示すいずれの実験結果においても、フッ素ゴムに対する各変化率やグリース吸収量は変化しないことがわかった。
【0056】
上記の実験結果により、シリコーンゴムはシリコーングリースに接触することで膨潤するが、フッ素ゴムはシリコーングリースに接触しても膨潤しないことがわかった。
【0057】
(シリコーンゴムに対する機械的物性試験)
東レダウコーニング製のシリコーンゴムにて、硬度60°、70°及び72°の各テストピースを作製した。テストピースの大きさは、幅及び長さが12cmで厚さが約2mmであった。
【0058】
各テストピースは、熱プレス温度を175℃とし、熱プレス時間を6分に設定して圧力200kg/cm2で加圧成型して作製した。続いて、熱プレスしたこれらのテストピースを2次架橋(200℃で4時間)した。
【0059】
実験では、上記のテストピースをシリコーングリース(GE東芝シリコーン製)に浸漬させ、浸漬時間に対するゴムの硬度、引張強さ及び破断までの伸び率の夫々について測定した。
【0060】
硬度は、RUBBER HARDNESS TESTER(手動式:KORI SEIKI MFG製)を用いて測定した。
【0061】
また、引張試験片作製用の打ち抜きカッター(ダンベル3号)で前記テストピースを加工してダンベル形状のゴム試験片を作製した。これらゴム試験片の中央位置(幅が細くなっている箇所)を引張試験破断ポイントとして、そのポイントにシリコーングリースを塗布・浸透した後、30℃の恒温槽内に所定時間放置した。その後、ゴム試験片の表面に付着しているシリコーングリースを軽くふき取った後、引張試験を行った。測定機には、テンシロン万能試験機((株)オリエンテック RTC−1150A)を用いた。この万能試験機を用いて引張試験を行い、各試験片が破断したときの引張強さと破断したときの伸び率を測定した。なお引張速度を500mm/minとした。
【0062】
各実験結果を図9ないし図11に示す。
図9に示すように硬度、図10に示すように引張強さ及び図11に示すように破断時の伸び率は、いずれも24時間のシリコーングリースの浸漬にて急激に低下した。なお浸漬時間が144時間を越えると、各機械的物性は一定になった。
【0063】
既に説明した図3ないし図7の実験結果と図9ないし図11の実験結果とを照らし合わせて見ると、シリコーンゴムの膨潤に伴って、硬度、引張強さ及び破断までの伸び率が低下することがわかった。したがってゴムの膨潤が、機械的物性(硬度、引張強さ及び破断までの伸び率)の低下を招き、作動力の低下や繰り返し変形による破断といった特性劣化を引き起こすものと断定できる。
【0064】
換言すれば、ラバースプリングをフッ素ゴムで形成することで、シリコーングリースとの接触においても膨潤を効果的に防止できるため、ゴムの機械的物性の低下を抑制でき、したがって、作動力の低下や繰り返し変形による破断といった特性劣化を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態におけるプッシュスイッチ付きエンコーダの分解斜視図、
【図2】図1に示すプッシュスイッチ付きエンコーダの一部を示す部分各第断面図、
【図3】フッ素ゴム及びシリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間と体積変化率との関係を示すグラフ、
【図4】フッ素ゴム及びシリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間と重量変化率との関係を示すグラフ、
【図5】フッ素ゴム及びシリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間と外形寸法の変化率との関係を示すグラフ、
【図6】フッ素ゴム及びシリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間と厚さの変化率との関係を示すグラフ、
【図7】フッ素ゴム及びシリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間とシリコーングリース吸収量との関係を示すグラフ、
【図8】ラバースプリングの感触曲線の概念図、
【図9】シリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間と硬度との関係を示すグラフ、
【図10】シリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間と引張強さとの関係を示すグラフ、
【図11】シリコーンゴムにおけるシリコーングリース浸漬時間と破断時の伸び率との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
【0066】
1 プッシュスイッチ付きエンコーダ
3 固定接点
4 摺動子
5 絶縁基板
6 可動接点
7 ラバースプリング
9 コード板
14 操作軸
16 押圧部
17 脚部
18 導電パターン
20 シリコーングリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転操作により出力を変化させる接点摺動部と、押圧操作によりスイッチ入力が可能なプッシュスイッチ部とを一体に組み込んで構成されたプッシュスイッチ付き回転型電気部品において、
前記接点摺動部には潤滑用のシリコーングリースが塗布されており、
前記プッシュスイッチには、前記押圧操作により座屈可能なラバースプリングが設けられており、
前記ラバースプリングは、フッ素ゴムで形成されていることを特徴とするプッシュスイッチ付き回転型電気部品。
【請求項2】
前記ラバースプリングは、前記ラバースプリングが押圧されて座屈動作したときにスイッチ入力されるスイッチ部が設けられた基板上に前記シリコーングリースを介して載置されている請求項1記載のプッシュスイッチ付き回転型電気部品。
【請求項3】
第1基板と第2基板とが対向配置され、前記第1基板には貫通孔が設けられ、この貫通孔に回転操作可能且つ押圧操作可能な操作軸が挿通されており、
前記操作軸と前記第2基板の間には、前記第2基板の前記第1基板との対向面に載置された前記ラバースプリングと、前記ラバースプリングが押圧されて座屈動作したときにスイッチ入力されるスイッチ部とを備え、
前記第1基板は前記操作軸の回転操作により回転可能に支持されており、前記第1基板の前記貫通孔の周囲に位置する前記第2基板との対向面、あるいは前記第2の基板の前記ラバースプリング及び前記スイッチ部の周囲に位置する前記対向面の一方に摺動子が設けられ、他方に前記摺動子が摺接する導電パターンが形成されている請求項1又は2に記載のプッシュスイッチ付き回転型電気部品。
【請求項4】
前記ラバースプリングは、フッ素化ポリエーテル骨格と末端にシリコーン架橋反応基を有する構造の前記フッ素ゴムにより形成されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載のプッシュスイッチ付き回転型電気部品。
【請求項5】
前記ラバースプリングは、架橋前のフッ素ゴムを熱プレスして形成されたものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプッシュスイッチ付き回転型電気部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−140850(P2010−140850A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318275(P2008−318275)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】