説明

プライマー兼用水系塗装下地処理剤、表面処理金属材料及びプレコート金属材料

【課題】優れた塗膜加工密着性、耐食性、耐薬品性及び耐コインスクラッチ性を有するプレコート金属材料用プライマー兼用塗装下地処理剤及び1コート型プレコート金属材料等の提供。
【解決手段】ウレタン基濃度1.0〜4.0mmol/g、酸価10〜60mgKOH/gで、カルボキシル基を有する水性ポリウレタン樹脂(A)、重量平均分子量が1,000〜30,000である水性エポキシ樹脂(B)、グリシジル基を有する有機化合物(C)、TiもしくはZr含有架橋剤(D)を含有し、固形分質量比として、(B)/(A)が1/50〜10/1、(C)/[(A)+(B)]が1/300〜1/1、(D)/[(A)+(B)]が1/300〜1/1、全固形分に対する[(A)+(B)]の固形分割合が45〜95質量%であるプレコート金属材料用プライマー兼用水系塗装下地処理剤、及びプレコート金属材料等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材や家電製品、自動車部品などに使用されるプレコート金属材料の分野において、金属材料に、プライマーを介さずとも優れた塗膜の加工密着性、耐食性、耐薬品性、耐コインスクラッチ性を付与することができるプレコート金属材料用プライマー兼用水系塗装下地処理剤、並びにそれを用いて得られる表面処理金属材料及びその処理表面に上層皮膜を形成させて得られるプレコート金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プレコート金属材料としては、塗膜の加工密着性、耐食性、耐薬品性、耐コインスクラッチ性、意匠性など多くの性能が要求されるために、下地処理を施した金属板上に、プライマーと呼ばれる下塗り塗膜を施し、さらに着色した上塗り塗膜を施した2コート型のものが幅広く使用されている。この種のプレコート金属材料では、下地処理を施すことで金属板との密着性を確保し、樹脂及び防錆顔料などを含有するプライマーを上塗り塗膜との間に存在させることで加工密着性、耐食性、耐コインスクラッチ性などを付与している。
【0003】
プレコート金属材料における下地処理としては、従来、金属材料表面との密着性に優れ、金属材料表面に優れた耐食性を付与するクロム酸、重クロム酸もしくはそれらの塩とを主成分として含有する処理液によるクロメート処理が用いられ、プライマーにも、優れた耐食性が得られるクロム系の防錆顔料を含有した塗料が幅広く使用されてきた。しかし、近年の環境への配慮から、現在はクロムを他の架橋性金属へ代替したクロムフリーの技術が実用に供されている。
【0004】
また、従来の溶剤型塗料を用いた2コートでは、塗料の焼付け工程において揮発性成分が多く発生する上、塗装や焼付けの際の工程数も多くかかるなど、環境への負荷が大きい。このため、有機溶剤使用量の低減、塗料の水系化が望まれているほか、省資源化、低コスト化を目的に塗膜の薄膜化や工程短縮(1コート化)なども望まれている。
【0005】
特許文献1には、化成処理を施した亜鉛めっき鋼板上に、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂硬化剤、防錆顔料、有機高分子微粒子などを配合した塗料組成物を塗装することにより、優れた加工性、耐食性、密着性、耐衝撃性、耐スクラッチ性を有する1コート型プレコート鋼板の製造方法が開示されている。しかし、この塗料組成物に含まれる防錆顔料が塗膜の見栄えを低下させ、かつプレコート鋼板に多種多様の意匠を施すことができなくなるという問題がある。また、この塗料組成物はクロメート処理した鋼板に塗布するものであり、時代の要請から外れている。
【0006】
特許文献2には、化成処理が施された亜鉛系めっき鋼板の表面に、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂硬化剤などを特定の割合で配合した溶剤型塗料組成物を塗装することによって、成形加工性に優れた1コートプレコート鋼板の製造方法が開示されている。しかし、この塗料組成物もクロメート処理した鋼板に塗布するものであり、時代の要請から外れていると共に、クロメート処理を含む従来の化成処理を施した鋼板に上記塗料組成物を塗装した場合、形成される有機皮膜が防錆剤を含有しないものであるため、耐食性が不十分となる。
【0007】
特許文献3には、樹脂、シランカップリング剤、平均粒径が1μm以下の微粒子などを特定の割合で配合した水系塗装下地処理剤が開示されている。しかし、この下地処理剤は2コート型プレコート鋼板のためのものであり、プライマーを省略すると、皮膜量が少ない場合は耐食性が不十分となり、皮膜量が多い場合は塗膜の加工密着性が得られなくなる。
【0008】
特許文献4には、シランカップリング剤、水分散性シリカ、並びにジルコニム化合物及び/又はチタン化合物を必須成分として含み、更にチオカルボニル基含有化合物及び/又は水溶性アクリル樹脂を含んでいてもよい金属表面処理剤が開示されている。しかし、この表面処理剤は1コートで耐食性が得られるように皮膜設計されておらず、このため1コートでは十分な耐食性が得られない。
【0009】
特許文献5には、水性樹脂、架橋剤、無機防錆剤、有機防錆剤などを含む金属表面処理剤により形成された、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性、耐傷付性、密着性の全てを満足させる皮膜を有する有機被覆処理金属板が開示されている。しかし、この表面処理剤はプレコート鋼板用下地処理剤としては設計されておらず、仮にプレコート鋼板用塗装下地処理として転用してもプレコート鋼板に要求されるレベルの塗膜の加工密着性を達成できない。
【0010】
特許文献6には、水系有機樹脂成分、縮合リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、金属酸素酸塩、並びにリン酸もしくは水溶性リン酸塩を含有するプレコート金属材料用水系プライマー兼下地処理剤が開示されており、クロメート系防錆顔料を使用しなくとも耐食性、加工性に優れた塗膜が得られる旨記載されている。しかし、この処理剤からの皮膜は緻密さ、強靭性が足りないために耐コインスクラッチ性、耐薬品性が不十分である。
【0011】
特許文献7には、化成処理を施さない金属基材に、アクリル化エポキシ樹脂、防錆顔料を含有する水性塗料組成物を塗装することを特徴とする、化成処理皮膜を有する塗膜と同等の優れた密着性を有する塗膜を形成することができる塗装方法が開示されている。しかし、この塗料組成物ではプレコート鋼板に要求されるレベルの塗膜の加工密着性を達成できず、また、耐薬品性も不十分である。
【0012】
特許文献8には、ウレタン樹脂、特定の有機化合物、ジルコニウム化合物を含有する金属表面処理剤及びそれにより形成された、優れた耐食性、成形加工性、耐薬品性、耐湿性を有する金属材料が開示されている。しかし、この表面処理剤は無塗装で用いられる金属材料の防錆目的で用いられるものであり、塗装下地皮膜に転用してもプレコート鋼板に要求されるレベルの塗膜の加工密着性、耐コインスクラッチ性を達成できない。
【0013】
プレコート鋼板には、曲げ加工、絞り加工のような厳しい後加工に耐え得る塗膜の加工密着性が求められるため、通常、鋼板上に下地処理が施される。下地処理皮膜は、十分な密着性が得られ難い金属表面と上層(プライマーおよび上塗り塗膜)とを結びつけることで、優れた塗膜の加工密着性を付与する役割を担っている。なお、プレコート鋼板の加工密着性の評価には、極めて厳しい試験として折り曲げ試験が行われている。
【0014】
また、プレコート鋼板には、長期間の暴露に耐え得る耐食性が求められる。プレコート鋼板での腐食は主に、傷部や端面部でのアノード溶解、及び傷部からやや離れた塗膜下で生じるカソード反応に起因するブリスターの発生である。2コート型プレコート鋼板の場合、下地処理に起因する耐食性は、皮膜の耐酸性、耐アルカリ性が強いことによって発揮され、プライマーに起因する耐食性は、塗膜の低い透水性などの環境遮断能と、皮膜中に豊富に含まれる防錆顔料によるインヒビター効果によって発揮される。また、プライマー層の硬質な皮膜による良好な耐傷付き性(耐コインスクラッチ性)も、腐食の起点を作り難くするという点で重要な特性である。上塗り塗膜に起因する耐食性は、耐汚染性に強い樹脂を用いた皮膜、厚い膜厚による環境遮断能によって発揮される。
【0015】
さらに、プレコート鋼板には多種多様な意匠性が要求される。光沢のある美しい外観、光沢の低いつや消しなど、目的に応じた上塗り塗装が施される。
【0016】
このように、プレコート鋼板における塗膜の各層には役割分担がされており、従来の技術において1コートを検討する場合、プライマーだけでは意匠性、耐汚染性が不十分となり、上塗り塗膜だけでは加工密着性、耐食性が不十分となる。従って、プレコート鋼板に求められる特性を全て満足し、前記した環境上の課題をも同時に改善するプレコート鋼板における1コート化を達成するには、加工密着性、耐食性、耐コインスクラッチ性などのプライマーの機能をも兼ね備えた下地処理皮膜が必要となるが、そのような皮膜を形成できる水系塗装下地処理剤は開発されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平9−111183公報
【特許文献2】特開2001−9368公報
【特許文献3】特開2001−81392公報
【特許文献4】特開2001−316845公報
【特許文献5】特開2005−281863公報
【特許文献6】特開2006−77077公報
【特許文献7】特開2006−239622公報
【特許文献8】特開2007−51323公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、従来技術の有する前記課題点を解決して、プライマーを介さずとも優れた塗膜の加工密着性、耐食性、耐薬品性、耐コインスクラッチ性を付与することができるプレコート金属材料用プライマー兼用水系塗装下地処理剤、並びにそれからの皮膜を表面に有する金属材料及びプレコート金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、水性ポリウレタン樹脂と水性エポキシ樹脂とグリシジル基を有する有機化合物とチタン元素もしくはジルコニウム元素を含有する架橋剤とを含有する水系塗装下地処理剤を用いることで、優れた塗膜の加工密着性、意匠性、耐食性、耐薬品性、耐コインスクラッチ性を有する1コート型プレコート金属材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明は、ウレタン基濃度が1.0〜4.0mmol/gで、酸価が10〜60mgKOH/gであって、カルボキシル基を含有する水性ポリウレタン樹脂(A)、重量平均分子量が1,000〜30,000である水性エポキシ樹脂(B)、グリシジル基を有する有機化合物(C)、及びチタン元素もしくはジルコニウム元素を含有する架橋剤(D)を含有し、各成分間の固形分質量比として、(B)/(A)が1/50〜10/1、(C)/[(A)+(B)]が1/300〜1/1、(D)/[(A)+(B)]が1/300〜1/1であるプレコート金属材料用プライマー兼用水系塗装下地処理剤であって、該処理剤の全固形分に対する[(A)+(B)]の固形分割合が45〜95質量%である該処理剤に関する。
【0020】
水性ポリウレタン樹脂(A)は、上記物性に加え、ガラス転移温度が30〜180℃であることが好ましく、また、その皮膜物性としての抗張力が30〜80MPaであることが好ましい。
有機化合物(C)は、重量平均分子量が800以下である水性エポキシ樹脂、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエステル化合物及びグリシジル基含有シラン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の処理剤は、コロイダルシリカ、気相シリカ、アルミナゾル、リン酸系防錆顔料、モリブデン酸系防錆顔料及びバナジウム系防錆顔料よりなる群から選ばれる少なくとも1種の平均粒径が0.01〜5μmである微粒子(E)を、固形分質量比として、(E)/[(A)+(B)]が1/100〜1/1となるように含有することができ、含有する方が好ましい。
【0021】
本発明は、また、上記処理剤からの乾燥皮膜であって、0.5〜5g/mの乾燥皮膜を表面に有する金属材料、及び該金属材料の乾燥皮膜を有する表面に、さらに、クロムを含まない上層皮膜を形成させて得られるプレコート金属材料に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のプレコート金属材料用プライマー兼用水系塗装下地処理剤は、プライマーを介さずとも、プライマーを有する場合の皮膜と同程度の塗膜の加工密着性、耐食性、耐薬品性及び耐コインスクラッチ性を有する皮膜を形成することができ、換言すれば、塗膜物性を低下させることなく塗装工程を削減した1コート型プレコート金属材料の製造を行うことができる。すなわち、本発明の下地処理剤を用いる1コートでは、従来の2コートに比べ、環境への負荷を軽減しつつ、省資源化、低コスト化を達成できる。したがって、本発明は極めて大きな工業的価値を有する。
なお、本発明の水系塗装下地処理剤はノンクロム処理剤であり、本発明のプレコート金属材料上に形成された皮膜(下地皮膜及び上層皮膜)もクロムフリーである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のプレコート金属材料用プライマー兼用塗装下地処理剤は、水性ポリウレタン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、グリシジル基を有する有機化合物(C)及びチタン元素もしくはジルコニウム元素を含有する架橋剤(D)を含有する必要がある。上記(A)や(B)に言う「水性」は水溶性又は水分散性を意味する。
本発明の水系塗装下地処理剤の必須成分である水性ポリウレタン樹脂(A)は主として密着性向上に寄与するが、下記に記載する如くそれだけに止まるものではない。密着性は金属材料表面との密着性及び上塗り塗膜との密着性の両方を含む。
水性ポリウレタン樹脂(A)は、カルボキシル基を含有し、かつ、特定のウレタン基濃度、酸価及びガラス転移温度を有することが必要である。水性ポリウレタン樹脂(A)
の骨格中に含まれるカルボキシル基は、その極性により金属表面に配向するため、皮膜と基材との密着性向上に効果的に作用する。さらに、架橋性官能基としての役割も持っており、皮膜形成時に水性エポキシ樹脂(B)、有機化合物(C)及び/又は架橋剤(D)と反応して結合を作るために、強靭で緻密な皮膜の形成に寄与する。その結果、密着性、耐食性、耐薬品性などが向上する。また、未反応のカルボキシル基が存在する場合、上層(上塗り塗膜)形成時に、上層に含まれる架橋性官能基との反応により強固な結合を作るため、塗膜の加工密着性の向上にも効果的に作用する。水性ポリウレタン樹脂(A)中のカルボキシル基の量は下記に述べる酸価によって調節する。
【0024】
水性ポリウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度は、1.0〜4.0mmol/gである必要があり、2.0〜3.0mmol/gであることが好ましく、2.3〜2.8mmol/gであることがより好ましい。ウレタン基は極性基であるため、金属基材との密着性向上に寄与する。また、ウレタン基同士の水素結合による分子間の相互作用が、皮膜に高い強靭性を付与することから、ウレタン基濃度は形成皮膜の物性に著しく影響する。水性ポリウレタン樹脂(A)のウレタン基濃度が上記範囲内である場合、ウレタン分子の凝集力が好適となり、良好な加工密着性、耐食性、耐薬品性を併せ持った皮膜を形成できる。ウレタン基濃度が1.0mmol/g未満であると、皮膜に高い強靭性を付与できないため、十分な加工密着性、耐食性、耐薬品性が得られ難くなる。一方、ウレタン基濃度が4.0 mmol/gを超えると高い皮膜硬度、抗張力は得られるものの、伸びや弾性が低下するため、加工密着性が著しく低下する傾向となる。
上記ウレタン基濃度の算出方法については後述する。
【0025】
水性ポリウレタン樹脂(A)の酸価は、10〜60mgKOH/gであることが必要であり、15〜40mgKOH/gであることが好ましい。酸価が上記範囲である場合には、樹脂の水溶性もしくは水分散性が良好になるほか、加工密着性、耐食性及び耐薬品性に優れた皮膜を形成できる。酸価が10mgKOH/g未満であると十分な下降密着性が得られにくくなり、また樹脂の水溶性、水分散性が低下するために薬剤の安定性が低下する傾向になる。酸価が60mgKOH/gを超えると皮膜の耐水性及び耐アルカリ性が低下する傾向になる。
【0026】
水性ポリウレタン樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は30〜180℃であることが好ましく、40〜160℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲である場合には、得られる皮膜が強靭性を有し、耐食性及び耐薬品性がより向上する。
【0027】
水性ポリウレタン樹脂(A)の皮膜物性としては、抗張力が30〜80MPaであることが好ましく、40〜70MPaであることがより好ましい。抗張力が上記範囲である場合には、加工密着性がより向上する。
【0028】
水性ポリウレタン樹脂(A)の分子量としては特に制限はないが、重量平均分子量として5,000〜1,000,000であることが好ましく、10,000〜500,000であることがより好ましい。
【0029】
水性ポリウレタン樹脂(A)は従来公知の製造方法により得ることができ、例えば、限定的に解釈されるべきではないが、いずれもポリウレタン樹脂の製造に通常用いられるポリオール、ポリイソシアネート、及び2個以上のヒドロキシル基もしくはアミノ基と1個以上のカルボキシル基を有する化合物を、従来公知の方法により重合させて得られたウレタンポリマーに、アンモニア、ポリアミンなどの塩基性化合物を加えて水中に分散させることによって得ることができる。製造されるポリウレタン樹脂は単独でもしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
前記ポリオールとしては、 ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを単独でもしくは2種以上組み合わせてすることができる。
【0031】
ポリエステルポリオールとしては、低分子量のポリオールと多価カルボン酸又はそのエステル、無水物、ハライドなどのエステル形成性誘導体との直接エステル化反応及び/又はエステル交換反応により得られるもの;ラクトン類もしくはその加水分解開環して得られるヒドロキシカルボン酸化合物の縮重合によって得られるものなどが挙げられる。
【0032】
ポリエステルポリオールの製造に用いる低分子量のポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパンなどの3価以上の脂肪族又は脂環式アルコールなどが挙げられる。
【0033】
ポリエステルポリオールの製造に用いる多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の3量体などのトリカルボン酸類;ピロメリット酸などのテトラカルボン酸以上のポリカルボン酸が挙げられる。多価カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらの多価カルボン酸の酸無水物、ハライド(クロライド、ブロマイドなど)、低級脂肪族アルコールとのエステル(メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステルなど)などが挙げられる。
【0034】
ポリエステルポリオールの製造に用いるラクトン類としては、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンなどが挙げられる。
【0035】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコールなどのエチレンオキサイド付加物、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレンオキサイド付加物、上記のポリオールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
【0036】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコールと、シフェニルカルボネート、ホスゲンなどとを反応させることにより得られるものが挙げられる。
【0037】
前記ポリイソシアネートとしては、例えばテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートエステル、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらの中で、より好ましいものとして、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートエステル、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0038】
前記2個以上のヒドロキシル基もしくはアミノ基と1個以上のカルボキシル基を有する化合物としては、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸などのジヒドロキシカルボン酸や、リジン、アルギニンなどのジアミノカルボン酸が挙げられる。また、上記ジヒドロキシカルボン酸と多価カルボン酸とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエステルポリオールも使用することができる。
【0039】
前記ウレタン基濃度は、ポリウレタン樹脂を合成する際の原料成分の仕込み量から算出する樹脂固形分中のイソシアナト基の量で示すことができる。以下に計算式を示す。
[(a2の質量)/〔(a1の質量)+(a2の質量)+(a3の質量)〕]/(a2の分子量)×n×10= ウレタン基濃度(mmol/g)
(式中、a1はポリオール、a2はポリイソシアネート、a3は2個以上のヒドロキシル基もしくはアミノ基と1個以上のカルボキシル基を有する化合物を表し、nは1分子のa2に含まれるイソシアナト基の数を表す)。
【0040】
本発明の水系塗装下地処理剤の必須成分である水性エポキシ樹脂(B)は主として耐コインスクラッチ性の向上に寄与するが、それだけに止まるものではない。
水性エポキシ樹脂(B)の重量平均分子量は、1,000〜30,000である必要があり、1,500〜20,000であることが好ましく、1,500〜10,000であることがより好ましい。重量平均分子量が上記範囲を満足する場合、耐コインスクラッチ性に極めて優れた皮膜を形成できる。重量平均分子量が1,000未満であると強靭な皮膜を形成できず、耐薬品性及び耐コインスクラッチ性が低下する傾向になる。一方、重量平均分子量が30,000を超えると、当該エポキシ樹脂を安定に水溶化もしくは水分散化することが困難になるため、多量の乳化剤及び親水基が必要となり、耐薬品性が低下する傾向になる。
尚、水性エポキシ樹脂(B)の場合に限らず、本発明における重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)によって測定される値(ポリスチレン換算)である。
【0041】
本発明で使用する水性エポキシ樹脂(B)は従来公知の製造方法により得ることができ、例えば、限定的に解釈されるべきではないが、いずれも水性エポキシ樹脂の製造に通常用いられるビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラック樹脂などと、エピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリン類又はグリシジル基を2個以上有するエポキシ化合物との付加反応及び縮合反応の繰返し又は付加反応の繰返しにより得られるエポキシ樹脂を水分散化することにより得ることができる。上記エポキシ化合物としては、例えば後述の有機化合物(C)に包含されるポリグリシジルエーテル化合物と同様のものを用いることができる。本発明では、特に、水性エポキシ樹脂がビスフェノールA由来の構造を有する場合、耐薬品性に優れた皮膜が形成できるため好ましい。
【0042】
水性エポキシ樹脂(B)は、樹脂中のエポキシ基又は水酸基に変性剤を反応させて得られるものであってもよく、例えば、不飽和脂肪酸を反応させたエポキシエステル樹脂、(メタ)アクリル酸又はそのエステルを反応させたアクリル変性エポキシ樹脂、イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂、シランカップリング剤を反応させたシラン変性エポキシ樹脂、リン酸類もしくはそのエステルを反応させたリン酸変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
上記の如き変性エポキシ樹脂を包含する水性エポキシ樹脂(B)は各単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
水性ポリウレタン樹脂(A)及び水性エポキシ樹脂(B)は、本発明の処理剤の安定性の観点から、水溶性又は水分散性であることを要する。水溶性又は水分散性の付与は、樹脂の分子構造中にカルボキシル基、水酸基などの親水基を導入したり、界面活性剤を用いて水に可溶化又は強制分散させることにより達成できる。しかしながら、界面活性剤を使用すると、金属材料への密着性や耐水性に悪影響を及ぼす可能性があるため、界面活性剤を使用しないか、その使用量を極力抑えることが好ましい。
【0044】
水性ポリウレタン樹脂(A)と水性エポキシ樹脂(B)の配合割合については、樹脂(A)と樹脂(B)との固形分質量比(B)/(A)が1/50〜10/1であることが必要であり、1/10〜5/1であることが好ましく、1/5〜5/1であることがより好ましい。前記固形分質量比(B)/(A)が1/50未満であるとエポキシ樹脂の添加効果が発現されず、十分な耐コインスクラッチ性が得られ難くなり、逆に10を超えるとポリウレタン樹脂の添加効果が発現されず、十分な塗膜の加工密着性が得られ難くなる。
また、水性ポリウレタン樹脂(A)と水性エポキシ樹脂(B)の固形分の合計〔(A)+(B)〕が本発明の処理剤の全固形分に対して45〜95質量%であることが必要であり、60〜90質量%であることが好ましい。前記固形分の合計〔(A)+(B)〕が全固形分に対して45質量%未満であると、樹脂(A)及び樹脂(B)の特性が発現されず、塗膜の加工密着性、耐薬品性及び耐コインスクラッチ性が低下する傾向となり、逆に95%を超えると有機化合物(C)及び架橋剤(D)の含有率が小さくなるため、本発明の目的に適う塗膜の加工密着性及び耐食性が得られ難くなる。
【0045】
本発明の水系塗装下地処理剤の必須成分であるグリシジル基を有する有機化合物(C)は主として密着性の向上に寄与するが、後述する如く、それだけに止まるものではない。
有機化合物(C)としては、重量平均分子量が800以下のエポキシ樹脂、ポリグリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジル基含有シラン化合物などを用いることができる。これらは各単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。
有機化合物(C)である重量平均分子量が800以下のエポキシ樹脂としては、分子量を異にする以外は、水性エポキシ樹脂(B)と同様のものを用いることができる。有機化合物(C)であるエポキシ樹脂の重量平均分子量を800以下とするのはグリシジル基の反応容易性を確保するためであり、同じ観点から、該重量平均分子量は200〜800であるのが好ましく、200〜500であるのがより好ましい。
ポリグリシジルエーテル化合物としては、特に限定するものではないが、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチルプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル、ビスフェノールAグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0046】
グリシジルエステル化合物としては、特に限定するものではないが、アジピン酸グリシジルエステル、フタル酸グリシジルエステル、テレフタル酸グリシジルエステルなどが挙げられる。
グリシジル基含有シラン化合物としては、特に限定するものではないが、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどのグリシジル基含有シラン化合物などが挙げられる。
【0047】
有機化合物(C)の配合割合については、樹脂(A)と樹脂(B)の固形分の合計〔(A)+(B)〕と有機化合物(C)の固形分質量比(C)/〔(A)+(B)〕が1/300〜1/1であることが必要であり、1/200〜1/2であることが好ましく、1/100〜1/3であることがより好ましい。(C)/〔(A)+(B)〕が1/300未満の場合は、有機化合物(C)の効果が発現されず、十分な塗膜の加工密着性が得られにくくなり、1を超える場合は、形成される皮膜の強靭性が低下し、塗膜の加工密着性が低下する傾向となる。
【0048】
本発明の水系塗装下地処理剤の必須成分であるチタン元素もしくはジルコニウム元素を含有する架橋剤(D)は主として耐薬品性及び耐食性の向上に寄与する。架橋剤(D)は、チタン化合物及びジルコニウム化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
チタン化合物としては、特に限定するものではないが、チタンアルコキシド、チタン原子を含むキレート錯体などの有機チタン化合物が好ましく、具体的には、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、テトラオクチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネートなどが挙げられる。
ジルコニウム化合物としては、特に限定するものではないが、ジルコニウムの炭酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩;ジルコニウム酸化物;及びジルコニウムの有機酸塩、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウム原子を含むキレート錯体などの有機ジルコニウム化合物を使用できる。具体的には、炭酸ジルコニウムアンモニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートなどが挙げられる。
【0049】
架橋剤(D)の配合割合については、前記樹脂(A)と樹脂(B)の固形分の合計〔(A)+(B)〕と架橋剤(D)の固形分質量比(D)/〔(A)+(B)〕が1/300〜1/1であることが必要であり、1/200〜1/2であることが好ましく、1/100〜1/3であることがより好ましい。(D)/〔(A)+(B)〕が1/300未満の場合は、十分な耐食性、耐薬品性が得られ難くなり、1を超える場合は、形成される皮膜が硬く脆くなり、塗膜の加工密着性が低下する傾向になる。
【0050】
本発明の水系塗装下地処理剤は、さらに特定の微粒子(E)を含有することが好ましい。微粒子(E)は耐食性及び耐コインスクラッチ性の向上に寄与する。微粒子(E)はコロイダルシリカ、気相シリカ、アルミナゾル、リン酸系防錆顔料、モリブデン酸系防錆顔料及びバナジウム系防錆顔料よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
より具体的には、コロイダルシリカとしては日産化学工業(株)製のスノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスC、スノーテックスUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスXL、スノーテックスZLなど;気相シリカとしては日本アエロジル(株)製のアエロジル200など;アルミナゾルとしては日産化学工業(株)製のアルミナゾル−200、アルミナゾル−520、など;リン酸系防錆顔料としてはリン酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム亜鉛、リン酸カルシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸鉄、トリポリリン酸2水素アルミニウム、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸カルシウムなど;モリブデン酸系防錆顔料としてはモリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウムなど;及びバナジウム系防錆顔料としては酸化バナジウムなどが挙げられる。これらは各単独で又は2種以上組み合わせてを使用することができる。
【0051】
微粒子(E)の平均粒径は、0.01〜5μmであることが好ましく、0.01〜3μmであることがより好ましく、0.01〜2μmであることがより一層好ましい。平均粒径が0.01μmより小さい場合には、粒子同士の凝集力が強すぎるため水中に安定に分散させることが困難になる。一方、平均粒径が5μmより大きい場合には、粒子が皮膜表面より突き出した状態となり皮膜の連続性が阻害されるため、塗膜の加工密着性及び耐食性が低下する傾向となる。
【0052】
微粒子(E)の配合割合については、樹脂(A)と樹脂(B)の固形分の合計〔(A)+(B)〕と前記微粒子(E)の固形分質量比(E)/〔(A)+(B)〕が1/100〜1/1であることが好ましく、1/50〜3/4であることがより好ましく、1/20〜1/2であることがより一層好ましい。前記固形分質量比(E)/〔(A)+(B)〕が1/100未満である場合には、微粒子(E)による耐食性及び耐コインスクラッチ性の向上効果が発現し難くなる。一方、(E)/〔(A)+(B)〕が1を超える場合には、微粒子(E)よる耐食性改善効果が飽和するだけでなく、皮膜の連続性が阻害され皮膜自体が脆くなり、塗膜の加工密着性が低下する傾向になる。
【0053】
本発明の水系塗装下地処理剤中には、さらに任意成分として、より均一な塗膜を形成するために、造膜性の向上や皮膜の乾燥性を改善する有機溶剤、濡れ性を向上させる界面活性剤、皮膜量調整のための増粘剤、発泡を抑える消泡剤、溶接性向上のための導電性物質、意匠性向上のため着色顔料などを、処理剤の液安定性や本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。特に限定するものではないが、上記有機溶剤としては、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系などの親水性溶剤;界面活性剤としてはアルキルアリルエーテル系、アルキルエーテル系、アルキルエステル系、アルキルアミン系などのノニオン系界面活性剤、及び脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、脂肪族アミンの硫酸塩、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン酸塩などのアニオン系界面活性剤;導電性物質としては導電性金属微粉末、炭素微粉末など;着色顔料としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料及びフタロシアニンなどの有機顔料が挙げられる。
【0054】
本発明の水系塗装下地処理剤のpHについては、本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、pH5〜11の範囲にあるのが好適である。
本発明の水系塗装下地処理剤の固形分濃度については、本発明の効果が達成し得る限り特に制限はないが、1〜40質量%の範囲であることが好ましい。固形分濃度が1%未満の場合は目標とする皮膜量を得ることが難しくなり、一方、40%を超える場合は当該プレコート金属材料用プライマー兼用塗装下地処理剤の安定性が保てなくなる傾向となる。
【0055】
本発明の水系塗装下地処理剤は、水性ポリウレタン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、有機化合物(C)及び架橋剤(D)、並びに、必要に応じてかつ好ましくは微粒子(D)、及び必要に応じてさらにその他の任意成分を、分散媒である水に添加し、撹拌することによって製造することができる。各成分の添加順序に特に制限はない。
【0056】
次に、本発明の水系塗装下地処理剤からの乾燥皮膜を表面に有する金属材料について述べる。
被処理物である金属材料としては、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム含有亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛ニッケルめっき鋼板、亜鉛コバルトめっき鋼板、蒸着亜鉛めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、スズめっき鋼板、ステンレス鋼板等の炭素鋼板、合金鋼板及びめっき鋼板;アルミニウム板、銅板、チタン板、マグネシウム板等の鋼板以外の金属板などの一般に公知の金属材料を用いることができる。特に好適な金属材料は溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム含有亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、亜鉛ニッケルめっき鋼板、亜鉛コバルトめっき鋼板、蒸着亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板である。
【0057】
本発明の水系塗装下地処理剤による処理に先立って、必須ではないが通常、被処理金属材料に付着した油分、汚れを取り除くために、脱脂剤による洗浄、湯洗、酸洗、アルカリ洗、溶剤洗浄などを適宜組み合わせて行なう。また、通常不要であるが、本発明の処理剤による処理を行なう前に、金属材料の耐食性及び下地処理皮膜と金属材料との密着性をさらに向上させる目的で、表面調整を施すことができる。表面調整の方法については特に限定するものではないが、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mn、Zr、Ti、V、などの金属を付着させる化成処理、リン酸塩化成処理などが挙げられる。金属材料表面の洗浄においては洗浄剤が金属材料表面に残留しないように洗浄後水洗することが好ましい。
【0058】
本発明の処理剤は金属材料へ塗布後乾燥させる。
金属材料への本発明の処理剤の塗布方法に関しては、特に制限はなく、例えば、ロールコーター法、浸漬法、スプレー法、バーコート法などが挙げられる。また、塗布時の処理剤温度については、特に制限はないが、10〜60℃が好ましく、15〜40℃がより好ましい。また、乾燥方法としては、特に制限はなく、風乾;エアーブローによる乾燥;熱風炉、誘導加熱炉、電気炉などを用いた加熱乾燥が挙げられるが、水性ポリウレタン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、有機化合物(C)及び架橋剤(D)の硬化及び架橋の促進による被覆効果を高めるためには、熱風炉、誘導加熱炉、電気炉などによる加熱乾燥が好ましい。また、乾燥時の到達金属材料温度については、特に制限はないが、50〜250℃が好ましく、70〜220℃がより好ましい。
【0059】
本発明の処理剤からの乾燥皮膜の皮膜質量は、0.5〜5g/mである必要があり、0.5〜4g/mであることが好ましく、0.5〜3g/mであることがより好ましい。皮膜質量が0.5g/m未満であると十分な耐食性が得られ難くなり、5g/mを超えると形成皮膜が凝集破壊を起こし易くなり、塗膜の加工密着性が低下する傾向になる。
【0060】
次に、1コート型プレコート金属材料である本発明のプレコート金属材料について述べる。本発明のプレコート金属材料は本発明の水系塗装下地処理剤からの乾燥皮膜を表面に有する金属材料の該乾燥皮膜上に上塗り塗料からの乾燥皮膜を形成させた金属材料である。上塗り塗料からの乾燥皮膜は主としてプレコート金属材料に意匠性を付与すること及び耐食性向上を目的として設ける。
【0061】
上塗り塗料としては特に制限されず、下地処理した金属材料、例えば炭素鋼板、合金鋼板、めっき鋼板、鋼板以外の金属板等、特に亜鉛系めっき鋼板に対して通常使用される上塗り塗料(トップコート)のいずれをも使用することができ、例えばポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、メラミン樹脂系、フッ素樹脂系上塗り塗料などが挙げられ、これらの上塗り塗料は必要に応じて着色顔料や防錆顔料などを含有することができる。上塗り塗装の方法は特に制限されず、一般に使用されるロールコーター法、浸漬法、スプレー法、バーコート法などを使用することができる。焼き付け乾燥条件については、特に制限はなく、例えば、130〜250℃で10秒〜5分とすることができる。上塗り塗膜の乾燥膜厚は、3〜50μmであることが好ましく、5〜30μmであるのがより好ましい。3μm未満では均一な着色外観を得ることが難しくなる上、耐食性が低下する傾向となる。また50μmを超えると皮膜自体が凝集破壊を起こしやすくなるため塗装密着性が低下する恐れがある。
通常使用される上塗り塗料は、通常、クロムを含まないが、含む場合には、かかる上塗り塗料の使用は差し控える。
【0062】
本発明のプライマー兼用水系塗装下地処理剤を用いることで、優れた塗膜の加工密着性、耐薬品性、耐食性、耐コインスクラッチ性及び意匠性を有する1コート型プレコート金属材料が得られる理由について以下に推定するが、かかる推定によって本発明及び本発明の効果が限定的に解釈されるべきではない。本発明の水系塗装下地処理剤では、加工密着性に特に優れるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂(A)と、耐コインスクラッチ性に特に優れる高分子量のエポキシ樹脂(B)とを一定質量比で併用することで、塗膜の加工密着性、耐薬品性、耐食性及び耐コインスクラッチ性をバランス良く高水準で達成できる強靭なベース樹脂皮膜が得られる。一方、本発明の有機化合物(C)は、該有機化合物に含まれるグリシジル基及びその加水分解にて生じる水酸基が、金属表面に配向することで著しく基材との密着性を向上させるほか、上記ポリウレタン樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、及び上層の樹脂皮膜中に存在する極性基と反応し、樹脂粒子間を結び付けることで、形成される皮膜の緻密化及び造膜性の向上に寄与している。その結果、塗膜の加工密着性、耐食性及び耐コインスクラッチ性の向上に効果的に作用する。架橋剤(D)もまた、該架橋剤に含まれる架橋性官能基が上記ポリウレタン樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、及び有機化合物(C)中の水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基と架橋反応することで、金属元素が皮膜骨格中に取り込まれ、形成される皮膜をさらに緻密化する。よって、耐薬品性及び耐食性の向上に効果的に作用する。以上のように、前記ポリウレタン樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、有機化合物(C)及び架橋剤(D)は、互いに独立に効果を有するとともに相乗効果を発揮して、本発明の優れた効果を発現するものと推定される。
【0063】
また、本発明の任意成分である微粒子(E)は、インヒビター(腐食抑制物質)として作用し、耐食性を向上させる効能を有する他、耐コインスクラッチ性の向上にも寄与する。ここで重要となるのは、微粒子(E)の粒径であり、微粒子の平均粒径が5μmを超える場合は、分散状態が不均一になり易く、また粒子が皮膜表面から突出した状態となるため、耐食性、塗膜の加工密着性及び意匠性が低下する恐れがある。このような推定理由により、前記ポリウレタン樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、有機化合物(C)、架橋剤(D)および必要に応じて微粒子(E)を含有するプライマー兼用水系塗装下地処理剤は、優れた塗膜の加工密着性、耐食性、耐薬品性、耐コインスクラッチ性を有する皮膜を形成し、さらに、該皮膜上には多種多様の意匠性の付与を目的とした上塗り塗装を行なうことが可能であるため、プライマーを介さない1コートであっても、求められる性能を全て満足できるプレコート金属材料を得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
1.水系塗装下地処理剤の調製
1.1 実施例1〜69及び比較例1〜15
表1〜3に示す組合せ及び割合にて、水性ポリウレタン樹脂(A)もしくは比較例用水性ポリウレタン樹脂、水性エポキシ樹脂(B)もしくは比較例用水性ウレタン樹脂、有機化合物(C)、架橋剤(D)及び微粒子(E)をこの順序で混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより、水系塗装下地処理剤を調製した。
【0065】
1.1.1 水性ポリウレタン樹脂(A)及び比較例用水性ポリウレタン樹脂
A1(実施例用):
テトラメチレングリコール及びアジピン酸から得られるポリエステルポリオール150質量部、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート25質量部及び2,2−ジメチロールプロピオン酸20質量部をN−メチル−2−ピロリドン100質量部中で反応させることにより得られるプレポリマーを、トリエチルアミンを用いて中和し、脱イオン水に分散させることにより、水性ポリウレタン樹脂を得た。
A2〜A10及びA15(実施例用)並びにA11〜A14(比較例用)も同様にして製造した。A1〜A15の水性ポリウレタン樹脂を表4に、下記の測定方法により測定したその物性を表5に示す。
【0066】
(ウレタン基濃度)
水性ポリウレタン樹脂(A)の説明のところで述べたウレタン基濃度の算出のための計算式にしたがって、算出した。
すなわち、ウレタン基濃度は、ポリウレタン樹脂を合成する際の原料成分の仕込み量から算出する樹脂固形分中のイソシアナト基の量で示すことができる。以下に計算式を示す。
[(a2の質量)/〔(a1の質量)+(a2の質量)+(a3の質量)〕]/(a2の分子量)×n×10= ウレタン基濃度(mmol/g)
(式中、a1はポリオール、a2はポリイソシアネート、a3は2個以上のヒドロキシル基もしくはアミノ基と1個以上のカルボキシル基を有する化合物を表し、nは1分子のa2に含まれるイソシアナト基の数を表す)。
(酸価の測定)
水性ポリウレタン樹脂(A)及び比較水性ポリウレタン樹脂に含まれるカルボン酸を中和するのに、ウレタン樹脂の固形分1g当たり必要となる水酸化カリウムの量(mg数)で表した。
【0067】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
水性ポリウレタン樹脂(A)及び比較水性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置(DMS6100 セイコーインスツルメント株式会社製)で測定したtanδのピーク温度より求めた。
(抗張力の測定)
水性ポリウレタン樹脂(A)及び比較水性ポリウレタン樹脂から樹脂フィルムを作製(製膜条件:常温乾燥23℃×12時間、ついで熱処理120℃×1時間、膜厚:150μm、膜サイズ:50mm×20mm)し、引張試験機(AUTOGRAPH AGS−1KNG 島津製作所製)にて最大点の抗張力(MPa)を測定した。
【0068】
1.1.2 水性エポキシ樹脂(B)及び比較水性エポキシ樹脂
B1〜3及びB6(実施例用):
ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを付加反応させることにより得られたエポキシ樹脂を、ポリオキシエチレン系乳化剤を含む水溶液中に攪拌機にて強制乳化させることで得た水性エポキシ樹脂。尚、ビスフェノールAに対するエピクロルヒドリンの配合割合を変化させることで、重量平均分子量を調整した。
B4及びB5(実施例用)並びにB7(比較例用):
ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを付加反応させることにより得られたエポキシ樹脂と、高酸価のアクリル樹脂とを反応させた後、トリエタノールアミンで中和して水分散化させることで得た水性エポキシ樹脂。
下記測定方法により測定した水性エポキシ樹脂B1〜B7の重量平均分子量を表6に示す。
〈重量平均分子量の測定〉
水性エポキシ樹脂(B)及び比較例用水性エポキシ樹脂の重量平均分子量は、GPCによる測定装置(HLC−8220 トーソー株式会社製)によりRI(屈折率の差)を測定することにより決定した。なお、分子量の計算は、ポリスチレン換算で行なった。
【0069】
1.1.3 グリシジル基を有する有機化合物(C)
C1:3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)
C2:グリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−313 ナガセケムテックス株式会社製)
C3:ビスフェノールFとエピクロルヒドリンとを付加反応させることにより得られたエポキシ樹脂を、ポリオキシエチレン系乳化剤を含む水溶液中に攪拌機にて強制乳化させることで得た水性エポキシ樹脂。上記測定方法により測定した該水性エポキシ樹脂の重量平均分子量は600であった。
【0070】
1.1.4 チタン元素もしくはジルコニウム元素を含有する架橋剤(D)
D1:炭酸ジルコニウムアンモニウム(ジルコゾールAC−7 第一稀元素化学工業株式会社製)
D2:チタントリエタノールアミネート(オルガチックスTC―400 松本ファインケミカル株式会社製)
【0071】
1.1.5 微粒子(E)
E1:気相シリカ(CAB−O−SIL M5 CABot社製)
E2:コロイダルシリカ(スノーテックスN 日産化学工業株式会社製)
E3:アルミナゾル(アルミナゾル200 日産化学工業株式会社製)
E4:リン酸系防錆顔料(LFボウセイD−1 キクチカラー株式会社製)
E5:モリブデン酸系防錆顔料(LFボウセイMC−400WR キクチカラー株式会社製)
【0072】
1.2 比較例16〜21
特許文献3〜8を参考に下記の水系塗装下地処理剤を調製した。
比較例16
水性ポリウレタン樹脂(アデカボンタイターHUX−290H 株式会社ADEKA製)100質量部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)35質量部及びコロイダルシリカ(スノーテックスN 日産化学工業株式会社製)150質量部を混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより処理液を調製した。
比較例17
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)25質量部、コロイダルシリカ(スノーテックスN 日産化学工業株式会社製)10質量部、炭酸ジルコニウムアンモニウム(ジルコゾールAC−7 第一稀元素化学工業株式会社製)150質量部、チオ尿素10質量部及びリン酸アンモニウム20質量部を混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより処理液を調製した。
比較例18
水性ポリウレタン樹脂(アデカボンタイターHUX−290H 株式会社ADEKA製)55.7質量部、メラミン樹脂(サイメル385 サイテック社製)15質量部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)2質量部、コロイダルシリカ(スノーテックスN 日産化学工業株式会社製)22質量部、リン酸0.3質量部及び酸化ニオブゾル(多木化学株式会社製)5質量部を混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより処理液を調製した。
【0073】
比較例19
水性ポリウレタン樹脂(アデカボンタイターHUX−290H 株式会社ADEKA製)60質量部、縮合リン酸カルシウム(炭酸カルシウムとリン酸とをCa/P=0.75となる量比にて80℃で3時間加熱後、200℃の乾燥機で30時間焼成して得たもの)10質量部、トリポリリン酸アルミニウム(K−ホワイト82 テイカ株式会社製)20質量部、モリブデン酸ナトリウム5質量部及びリン酸5質量部を混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより処理液を調製した。
比較例20
顔料分散剤(BYK190 ビックケミー株式会社製)2質量部、酸化チタン(チタンCR−97 石原産業株式会社製)45質量部、トリポリリン酸二水素アルミニウム(K−100P テイカ株式会社製)30質量部及び脱イオン水23質量部を混合して得たチタン分散ペースト100質量部、水性エポキシ樹脂(ディックファインEN−0274 大日本インキ化学工業社製)及び300質量部を混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより処理液を調製した。
比較例21
テトラメチレングリコール及びアジピン酸から得られるポリエステルポリオール170質量部、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート30質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸25質量部及びN−メチル−2−ピロリドン100質量部を反応させることにより得られるプレポリマーを、トリエチルアミンを用いて脱イオン水に分散させることにより得られたガラス転移温度が100℃、かつ最低造膜温度が0℃以下である水性ウレタン樹脂100質量部、メチロール化フェノール2質量部及び炭酸ジルコニウムアンモニウム(ジルコゾールAC−7 第一稀元素化学工業株式会社製)1質量部を混合し、脱イオン水により固形分濃度を20質量%に調整することにより処理液を調整した。なお、最低造膜温度の測定として、最低造膜測定装置(三洋貿易株式会社製)を使用した。
【0074】
2.試験板の作製
2.1 供試材
55%アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(GL)
板厚0.35mm、めっき付着量片面当たり50g/m(両面めっき)
2.2 前処理
供試材をアルカリ脱脂剤であるCL―N364S(日本パーカライジング(株)製)を濃度20g/Lとし、温度60℃の条件で30秒間スプレー処理した。続いて、水道水で洗浄した後に、水切りロールで絞り、50℃で30秒間加熱乾燥した。
【0075】
2.3 表面処理
2.3.1 実施例1〜69及び比較例1〜21
2.3.1.1 下地処理
前処理後の供試材の表面(片面)に、表1〜3に示した組成の水系塗装下地処理剤を、それぞれ表7に示す乾燥皮膜量が得られるようにロールコーターを用いて塗布した。続いて、熱風乾燥炉にてそれぞれ表7に示す到達板温度となるように加熱乾燥した。
2.3.1.2 上塗り塗装
ついで、上塗り塗料(ポリエステル樹脂60質量部、ブチル化メラミン樹脂15質量部、酸化チタン10質量部及び着色顔料15質量部)を塗布し、220℃の乾燥・焼付けを行い、乾燥膜厚15μmの上塗り塗膜を得た。
【0076】
2.3.2 比較例22
2.3.2.1 下地処理(クロメート処理)
脱イオン水600質量部に、三酸化クロム水溶液(濃度60質量%)200質量部及び気相シリカ(CAB−O−SIL M5 CABot社製)100質量部を混合して得た水系塗装下地処理剤を、0.1g/mの乾燥皮膜量が得られるようにロールコーターを用いて塗布した。続いて、熱風乾燥炉にて到達板温度が100℃となるように加熱乾燥した。
2.3.2.2 プライマー処理
プライマー(ポリエステル樹脂70質量部、メラミン樹脂10質量部、リン酸亜鉛系防錆顔料5質量部、リン酸マグネシウム系防錆顔料5質量部、トリポリリン酸2水素アルミニウム5質量部及び変性シリカ5質量部)を塗布し、210℃で乾燥及び焼付けを行い、乾燥膜厚5μmのプライマー皮膜を下地処理皮膜の上に形成させた。
2.3.2.3 上塗り塗装
上塗り塗料(ポリエステル樹脂60質量部、ブチル化メラミン樹脂15質量部、酸化チタン10質量部及び着色顔料15質量部)を塗布し、220℃で乾燥及び焼付けを行い、乾燥膜厚15μmの上塗り塗膜を形成させた。
【0077】
3.評価試験
上記で作製した各塗装鋼板から試験片を切り出して試験板とし、以下に示す試験に供した。
3.1耐食性
3.1.1 塩水噴霧試験
作製した各試験板の塗膜に、金属素地に達する傷をカッターで入れ、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を480時間実施した。評価はカット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定することにより行った。また、端面耐食性は、端面からの塗膜膨れ幅(最大値)を測定した。
<評価基準−カット部>
◎:1mm未満
○:1mm以上2mm未満
△:2mm以上4mm未満
▲:4mm以上6mm未満
×:6mm以上
<評価基準−端面>
◎:3mm未満
○:3mm以上6mm未満
△:6mm以上10mm未満
▲:10mm以上15mm未満
×:15mm以上
【0078】
3.1.1 複合サイクル試験
作製した各試験板の塗膜に、金属素地に達する傷をカッターで入れ、JIS−H8502(JASO M609−91)に規定された複合サイクル試験を200サイクル実施した。判定基準はカット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定した。また、端面耐食性は、端面からの塗膜膨れ幅(最大値)を測定した。
<評価基準−カット部>
◎:1mm未満
○:1mm以上2mm未満
△:2mm以上4mm未満
▲:4mm以上6mm未満
×:6mm以上
<評価基準−端面>
◎:3mm未満
○:3mm以上6mm未満
△:6mm以上10mm未満
▲:10mm以上15mm未満
×:15mm以上
【0079】
3.2 折曲げ塗装密着性試験
3.2.1 一次折曲げ密着性
JIS−G3312の試験法に準じて各試験板に対し、内側間隔板を挟まない0T折曲げ試験を20℃で行い、テープ剥離後の塗膜剥離状態を肉眼で観察し、下記の判定基準に準じて評価を行った。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離面積10%未満
△:剥離面積10%以上50%未満
▲:剥離面積50%以上80%未満
×:剥離面積80%以上
3.2.2 二次折曲げ密着性
試験板を沸水中に2時間浸漬した後、1日放置し一次折曲げ密着性試験と同様の試験を行った。判定基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離面積10%未満
△:剥離面積10%以上50%未満
▲:剥離面積50%以上80%未満
×:剥離面積80%以上
【0080】
3.3 耐コインスクラッチ性
10円硬貨を各試験板に対して45°の角度に設置し、塗膜を2kgの荷重、一定速度でこすり、塗膜の傷つき度を肉眼で観察し、下記判定基準に従って耐コインスクラッチ性の評価を行った。
<評価基準>
◎:剥離面積10%未満
○:剥離面積10%以上20%未満
△:剥離面積20%以上50%未満
▲:剥離面積50%以上80%未満
×:剥離面積80%以上
【0081】
3.4 耐薬品性
3.4.1 耐アルカリ性
試験板を5質量%の水酸化ナトリウム水溶液に室温で24時間浸漬した後、ブリスターの大きさと発生密度の評価を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って耐アルカリ性の評価を行った。
<評価基準>
◎:ブリスターなし。
○:1つのブリスターが1.5mm未満で、かつ発生密度がFである。
△:1つのブリスターが1.5mm以上〜2mm未満で、かつ発生密度がFである。もしくは、1つのブリスターの大きさが1.5mm未満で、かつ発生密度がMである。
▲:1つのブリスターの大きさが2mm以上で、かつ発生密度がFである。もしくは、1つのブリスターの大きさが1.5mm以上2mm未満で、かつ発生密度がMである。もしくは、1つのブリスターの大きさが1.5mm未満で、かつ発生密度がMDである。
×:1つのブリスターの大きさが2mm以上で、かつ発生密度がMである。もしくは、1つのブリスターの大きさが1.5mm以上2mm未満で、かつ発生密度がMDである。もしくは、ブリスターの大きさに関わらず発生密度がDである。
3.4.2 耐酸性
試験板を5質量%の硫酸水溶液に室温で24時間浸漬した後、ブリスターの発生数と発生密度の評価を行った。評価基準は3.4.1と同様である。
【0082】
4.評価結果
試験の評価結果を表8〜10に示す。表8〜10より、本発明の水系塗装下地処理剤を用いて形成された皮膜を有するGLプレコート鋼板である実施例1〜69は、一次塗装密着性、二次塗装密着性、耐食性(×カット部及び端面部)、耐薬品性(アルカリ及び酸)及び耐コインスクラッチ性のすべての性能において優れた結果を示した。中でも微粒子(E)を併用した実施例47〜64ではより優れた性能バランスが取れており、2コート型である比較例22と同程度であった。
一方、水性ポリウレタン樹脂(A)、水性エポキシ樹脂(B)、有機化合物(C)及び架橋剤(D)のうち何れかの成分を含まない比較例1〜4、水性ポリウレタン樹脂の物性が本発明で特定した範囲外となる比較例5〜8、水性エポキシ樹脂の分子量が本発明で特定した範囲外となる比較例9、これらの成分の含有割合が本発明で特定した範囲外となる比較例10〜15、並びに従来技術となる特許文献を参考にした比較例16〜21では、加工密着性、耐食性、耐薬品性及び耐コインスクラッチ性のうち少なくとも1つの性能が劣っていた。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

【0092】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン基濃度が1.0〜4.0mmol/gで、酸価が10〜60mgKOH/gであって、カルボキシル基を含有する水性ポリウレタン樹脂(A)、重量平均分子量が1,000〜30,000である水性エポキシ樹脂(B)、グリシジル基を有する有機化合物(C)、及びチタン元素もしくはジルコニウム元素を含有する架橋剤(D)を含有し、各成分間の固形分質量比として、(B)/(A)が1/50〜10/1、(C)/[(A)+(B)]が1/300〜1/1、(D)/[(A)+(B)]が1/300〜1/1であるプレコート金属材料用プライマー兼用水系塗装下地処理剤であって、該処理剤の全固形分に対する[(A)+(B)]の固形分割合が45〜95質量%である該処理剤。
【請求項2】
水性ポリウレタン樹脂(A)のガラス転移温度が30〜180℃である請求項1記載の処理剤。
【請求項3】
水性ポリウレタン樹脂(A)の皮膜物性としての抗張力が30〜80MPaである請求項1又は2記載の処理剤。
【請求項4】
有機化合物(C)が、重量平均分子量が800以下である水性エポキシ樹脂、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエステル化合物及びグリシジル基含有シラン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理剤。
【請求項5】
コロイダルシリカ、気相シリカ、アルミナゾル、リン酸系防錆顔料、モリブデン酸系防錆顔料及びバナジウム系防錆顔料よりなる群から選ばれる少なくとも1種の微粒子であって平均粒径が0.01〜5μmである微粒子(E)を、固形分質量比として、(E)/[(A)+(B)]が1/100〜1/1となるように含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の処理剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の処理剤からの乾燥皮膜であって、0.5〜5g/mの乾燥皮膜を表面に有する金属材料。
【請求項7】
請求項6記載の金属材料の乾燥皮膜を有する表面に、さらに、クロムを含まない上層皮膜を形成させて得られるプレコート金属材料。


【公開番号】特開2010−65211(P2010−65211A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162095(P2009−162095)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】