説明

プライマー用水性分散組成物

【課題】フッ素樹脂を含むトップコート層との層間密着性に優れ、塗膜全体としての硬度と耐磨耗性を向上させることができるプライマー層を形成し得る水性分散組成物とそれを用いた塗膜構造を提供する。
【解決手段】(A)水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー、(B)セラミック球状粒子、(C)変性PTFE粒子および(D)水性媒体を含むフッ素樹脂塗膜層のプライマー用水性分散組成物において、該変性PTFE粒子(C)が、380℃での溶融クリープ粘度が2×109〜1×1011Pa・sの範囲であり、かつ標準比重が2.170以下の変性PTFE粒子であることを特徴とするプライマー用水性分散組成物でプライマー層を形成し、フッ素樹脂を含むトップコート層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー用水性分散組成物、特にトップコート層をフッ素樹脂を含む層とするプライマー用水性分散組成物に関し、トップコート層との層間密着性に優れ、塗膜全体としての硬度と耐磨耗性を向上させることができるプライマー層を形成し得る水性分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂がもつ優れた非粘着性、防汚性、耐熱性を利用し、調理機器や家電製品の金属基材のコーティング材料としてフッ素樹脂が広く用いられてきている。
【0003】
しかし、フッ素樹脂は金属との密着性に劣るため、多くの場合、フッ素樹脂のトップコートの下塗り層として金属基材への密着性に優れたプライマー層を金属基材の表面に設けている。そうしたプライマー用の組成物には、塗膜硬度を高めるため、有機溶剤可溶型の熱硬化性の耐熱バインダーが使用されており、そのうちの1つのバインダーポリマーとして、水溶性で熱硬化性のポリアミドイミドやポリイミドが用いられている。ところが水溶性のバインダーポリマーを使用して得られるプライマーは塗膜硬度が上がりにくく、水溶性のバインダーポリマーに塗膜硬度を向上させるに充分な量のセラミック球状粒子を配合することが知られている。しかし、塗膜硬度を向上させるに充分な量のセラミック球状粒子を配合すると、今度はプライマー層とその上のトップコート層との層間密着性が低下してしまう。
【0004】
そこで特許文献1では、水溶性で硬化性のポリアミドイミドに、酸化アルミニウムおよびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、さらにテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)およびテトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)から選ばれる共重合体を特定の比率で混合してプライマー層とし、これに上記と同じ酸化アルミニウムおよびPTFE、さらにFEPおよびPFAから選ばれる共重合体を特定の比率で混合した中間層をトップコートとの間に介在させている。しかし、3層構造とすることは、当然、塗膜形成工程を増やし、またコストアップや中間層の膜厚に起因する層間密着不良という新たな課題も現れてくる。
【0005】
この点を改善するべく、添加するPTFE粒子または変性PTFE粒子として特定の溶融粘度のものを使用することで、FEPやPFAを使用せずにプライマー層とフッ素樹脂塗膜層(トップコート)との層間密着性を改良することが提案されている(特許文献2)。しかし使用されるテトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体のPTFE粒子としては、溶融クリープ粘度が3×108〜3×109Pa・sで標準比重(分子量の目安になるファクターであり、大きくなるほど分子量が小さくなる)が2.250以上のPTFE粒子であり、この程度の標準比重(分子量)のPTFE粒子ではまだ分子量が不足しており、プライマーとトップコートとの間に充分な層間密着性を得ることは困難である。また、変性PTFE(少量の変性用モノマーが共重合されているPTFE)粒子としては、標準比重が2.165以上と高分子量側に振れてはいるが溶融クリープ粘度が1×107〜1×109Pa・sと低く、高温環境下での剥離強度の点で不充分である。
【0006】
【特許文献1】特表平7−506514号公報
【特許文献2】特表2001−519830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フッ素樹脂を含むトップコート層との層間密着性に優れ、塗膜全体としての硬度と耐磨耗性を向上させることができるプライマー層を形成し得る水性分散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、(A)水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー、(B)セラミック球状粒子、(C)変性ポリテトラフルオロエチレン粒子および(D)水性媒体を含むフッ素樹脂塗膜層のプライマー用水性分散組成物において、該変性ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)が、380℃での溶融クリープ粘度が2×109〜1×1011Pa・sの範囲であり、かつ標準比重が2.170以下の変性ポリテトラフルオロエチレン粒子であることを特徴とするプライマー用水性分散組成物に関する。
【0009】
また本発明は、このプライマー用水性分散組成物を基材に塗布して得られるプライマー層、および該プライマー層の直上に設けられているフッ素樹脂トップコート層からなる層構造を含む塗膜構造、さらには、この塗膜構造を表面に有する塗装物品にも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フッ素樹脂を含むトップコート層との層間密着性に優れ、塗膜全体としての硬度と耐磨耗性を向上させることができるプライマー層を形成でき、高強度のフッ素樹脂塗膜構造を2層構造でも形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプライマー用水性分散組成物は、(A)水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー、(B)セラミック球状粒子、(C)変性ポリテトラフルオロエチレン粒子および(D)水性媒体を含むフッ素樹脂塗膜層のプライマー用水性分散組成物において、該変性ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)として特定の変性PTFE粒子(C)を用いることで上記課題を解決したものである。したがって、特定の変性PTFE粒子(C)以外の成分としては、従来公知のものが使用できる。しかし、特定の変性PTFE粒子(C)との関係において好ましい組合せがあり、それらについては後述する。
【0012】
以下、各成分について説明する。
【0013】
(A)水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー
水溶性であることでポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー(以下、単に「バインダーポリマー」ということもある)を水溶液にでき、セラミック球状粒子(B)およびPTFE粒子(C)を固液分散として均一に分散することができる。
【0014】
具体的なポリアミドイミド系ポリマーとしては、たとえば日立化成工業(株)製HPC−1000−28(酸価42mgKOH/g)のほか、特表平7−506514号公報、特表2001−519830号公報などに記載されたものがあげられる。ポリアミドイミド系バインダーポリマーの酸価は40〜90mgKOH/gの範囲とすることが好ましく、さらには42〜80mgKOH/gが好ましい。
【0015】
これらのうちポリアミドイミド系ポリマーが、価格の点から特に好ましい。
【0016】
(B)セラミック球状粒子
セラミック球状粒子としては従来公知のものが使用できる。たとえば酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子のほか、窒化ケイ素、コバルトアルミネート、ホウ酸アルミニウム、シリコンカーバイト、酸価チタン、シリカ、アパタイト、水酸化アルミニウム、タルク、群青、メタケイ酸カルシウム、チタン酸カリウムなどの粒子ほか、特表平7−506514号公報、特表2001−519830号公報などに記載された高硬度のセラミック球状粒子が例示できる。これらのうち高硬度のわりに安価で容易に入手できる点、食品容器等に使用する場合は安全性が良好な点から酸化アルミニウム粒子、群青粒子、ガラス粒子、酸化チタン粒子が特に好ましい。セラミック球状粒子の硬度は、モース硬度で6以上、特に8以上のものが好ましい。
【0017】
形状は球形に近い方が均一に分散できる点から球状のものが採用される。したがって繊維状物は適さない。平均粒子径は特に限定しないが、10μmを超えるものは塗膜表面が粗くなるので好ましくない。
【0018】
(C)変性PTFE粒子
本発明は、PTFE粒子として、(i)380℃での溶融クリープ粘度が2×109〜1×1011Pa・sの範囲であり、かつ(ii)標準比重が2.170以下の変性PTFE粒子を用いる点に特徴がある。
【0019】
溶融クリープ粘度(i)がこの範囲にあることにより、変性PTFE粒子は高分子量のわりに溶融クリープ粘度が低く、変性PTFE粒子の融着がよくなるので、層間密着性が向上される。好ましい溶融クリープ粘度は、5×109Pa・s以上、8×109Pa・s以上である。溶融クリープ粘度が低くなるとトップコート層の塗膜表面に傷が付きやすくなる傾向があり、一方、高いと溶融接着性が低下してトップコート層とプライマー層との層間密着、特に高温時の層間密着性を損なう方向に働く。好ましい上限は、5.0×1010Pa・s、さらには1.0×1010Pa・sである。
【0020】
また、変性PTFE粒子(C)の標準比重は2.170以下でなければならない。PTFEの分子量の測定はPTFEの溶融粘度が著しく高いので直接測定することが困難であり、分子量を評価する1つの手段として標準比重が用いられている。標準比重と分子量との関係は、標準比重が大きくなると分子量は小さくなるという1次相関の関係にある。
【0021】
標準比重が2.170を超える(分子量が小さくなる)と層間密着性が低下する。標準比重の下限(分子量の上限)は、通常2.146程度であるが、融着性と耐久性とのバランスから、2.146、好ましくは2.165である。
【0022】
本発明においては、溶融クリープ粘度と標準比重がいずれも上記の範囲にあることが重要であり、いずれか一方が範囲を外れると層間密着性の向上効果が不充分となり、耐磨耗性や耐スクラッチ性などが目的とするレベルにならない。
【0023】
変性PTFE粒子(C)はPTFEが他の単量体で変性された変性PTFEであってもよい。TFEの単独重合体であるPTFE粒子では溶融クリープ粘度と標準比重のバランスをとることが難しいが、変性することにより、溶融クリープ粘度(i)と標準比重(ii)のバランス調整が容易になる。
【0024】
変性に用いる単量体としては、たとえばクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、アルキル基の炭素数が1〜3のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)などがあげられ、耐熱性が良好な点から特にHFP、PAVEが好ましい。変性量は目的とする溶融クリープ粘度および標準比重に応じて、変性に用いる単量体に合わせて適宜選定すればよく、通常0.01質量%以上、好ましくは0.10質量%以上の範囲で調整すればよい。上限も同様な観点から0.22質量%、好ましくは0.20質量%である。
【0025】
変性PTFE粒子(C)の平均粒子径は、0.20μm以上であることが、造膜性と基材密着性およびトップコートとの溶融接着性が良好な点から好ましく、さらには0.25μm以上のものが好ましい。上限は、塗膜表面を粗くしない点から10μmが好ましい。こうした粒径の変性PTFE粒子は、TFEと変性用単量体の乳化重合法によりディスパージョンの形態として得られる。
【0026】
(D)水性媒体
水で充分であり、また好ましい。この水性媒体には後述する界面活性剤を添加してもよいし、必要に応じて水溶性の有機溶剤などを併用してもよい。
【0027】
つぎに(A)成分〜(C)成分の配合割合について説明する。
【0028】
まず、水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー(A)と変性PTFE粒子(C)との質量比(C)/(A)は、60/40〜80/20の範囲であることが、基材との接着およびトップコート層との接着が良好な点から好ましい。さらに(C)/(A)が70/30〜80/20、特に70/30〜75/25であることが好ましい。
【0029】
セラミック球状粒子(B)は、セラミック球状粒子の種類や硬度などによって配合量を調整することができるが、通常、バインダーポリマー(A)の30〜250容量%の範囲で使用することが、高硬度を維持できる点から好ましい。特に酸化アルミニウム粒子の場合、この範囲にあるときはデュポン式衝撃試験でクラックが発生することはなく、また耐食性も良好である。特に好ましい範囲は50〜200容量%、さらには100〜175容量%である。
【0030】
水性媒体(D)は、塗工性を考慮して任意量を添加する。通常、プライマー用水性分散組成物の粘度を100〜350Pa・sの範囲とする量が好ましい。
【0031】
本発明のプライマー用水性分散組成物には、適宜必要に応じて他の成分を配合してもよい。それらの代表例を以下に説明する。
【0032】
(E)非イオン性界面活性剤
変性PTFE粒子の分散安定性を改善する目的で添加する。他の界面活性剤であるアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤は熱分解しにくく、また、金属イオンが含有されていると耐食性を低下させる傾向にある。
【0033】
好ましい非イオン性界面活性剤としては、たとえば環境に配慮する点からアルキルフェノール単位を含まないか放出しないものが好ましい。具体的には国際公開第03/106556号パンフレットなどに記載されている非イオン性界面活性剤などがあげられ、これらのうち特に熱分解しやすい点からポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、さらにはポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルが好ましい。
【0034】
添加量は、変性PTFE粒子の添加量などによって異なるが、通常変性PTFE粒子100質量部に対して5.0〜7.0質量部、特に5.5〜6.5質量部の範囲で選択することが好ましい。
【0035】
(F)他のフッ素樹脂系粒子
変性PTFE粒子(C)に加えて、他のフッ素樹脂粒子またはTFEの単独重合体(PTFE)粒子を耐腐食性の向上の目的で添加してもよい。
【0036】
他のフッ素樹脂粒子としては、PFA粒子、FEP粒子、または前記変性PTFE粒子(C)以外のPTFE粒子の1種または2種以上があげられる。
【0037】
他のフッ素樹脂系粒子(F)の平均粒子径は、0.15〜0.60μmの範囲であることが、造膜性を下げず、かつ加工した塗膜表面が肌荒れしない点から好ましく、さらには0.16〜0.55μmのものが好ましい。添加量は上記の添加の目的を達成する範囲で選択すればよいが、多くなりすぎると層間密着性が損なわれるので、変性PTFE粒子(C)100質量部に対して0〜30質量部、さらには20質量部以下であることが好ましい。
【0038】
(G)顔料(ただし、セラミック球状粒子(B)は除く)
カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラなど通常の無機系顔料、酸化チタンやベンガラ等をコーティングしたマイカなどの無機系顔料を添加してもよい。
【0039】
(H)その他の添加剤
増粘剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、消泡剤などを添加してもよい。
【0040】
本発明のプライマー用水性分散組成物は、各成分を通常の方法で混合することによって製造することができる。ただ、バインダーポリマー(A)は水性媒体(D)に予め溶解して水溶液の状態にし、これに適宜、固形成分を添加し撹拌混合することが、均一な分散状態が得られる点で好ましい。
【0041】
本発明のプライマー用水性分散組成物は、通常の方法で基材に塗布し乾燥硬化させてプライマー層が形成される。塗布方法は特に限定されるものではなく、ロールコート法、スプレー法、スピンコート法などが採用される。乾燥硬化条件も赤外乾燥、熱風乾燥などでよく、通常80〜200℃で3〜20時間の範囲で必要な硬度のプライマー層が得られる。
【0042】
基材としては、特に限定されないが、例えば各種金属、ホーロー、ガラス、各種セラミックスが採用でき、また密着性を高めるために表面をサンドブラスト法などで粗面化することが好ましいが、各種金属を基材表面に溶射してもよい。
【0043】
プライマー層の直上に設けるフッ素樹脂塗膜層(トップコート)を構成するフッ素樹脂としては、フルオロオレフィンを構成単位に含むフッ素樹脂が、非粘着性が良好な点で好ましい。
【0044】
フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのパーハロオレフィン;フッ化ビニリデン(VdF)などがあげられ、優れた非粘着性を有する点からパーハロオレフィン、特にパーフルオロオレフィンの単独重合体または共重合体が特に好ましい。
【0045】
具体的には、変性PTFE、PFA、FEPなどがあげられる。これらのうち高分子量で溶融クリープ粘度が低い点から変性PTFEが好ましく、溶融クリープ粘度が比較的低いことからPFAも好ましい。トップコート用の変性PTFEはプライマー用の変性PTFEと特性や変性用単量体、変性量において同じでも異なっていてもよい。たとえば変性用の共単量体は変性PTFE粒子(C)で述べたものが使用でき、変性量は通常0.18〜0.22質量%の範囲である。
【0046】
また、トップコート層に本発明のプライマー用組成物に配合する特定の変性PTFE粒子を添加してもよい。変性PTFE粒子をトップコート層中にも存在させることにより、プライマー層との層間密着性がさらに向上する。配合する場合の量は、トップコート層の全量の50質量%以上が好ましい。トップコート層全体を変性PTFEで構成してもよく、必要に応じてPFAを混合使用してもよい。
【0047】
このように本発明においては、本発明のプライマー層とフッ素樹脂を含むトップコート層の2層塗膜構造が形成できる。もちろん、必要に応じて、さらに3層構造以上の多層構造としてもよい。たとえば、プライマー層+中間層+トップコート層(フッ素樹脂)などが例示できる。ただし、形成工程が増える点や層界面の数が増える(中間層に顔料が多いと剥離の危険が増える)点から、中間層は、着色された通常のトップコートを塗布し仕上げに顔料の含まないクリヤー層或いはメタリック層を塗布する場合など、特定の用途や使用環境からの要請があったときに設けることが望ましい。
【0048】
中間層は、たとえばプライマー用組成物とトップコート用組成物を任意に混合した組成物か着色されたトップコート用組成物で形成すればよい。
【0049】
2層塗膜構造の場合、プライマー層の膜厚は5〜15μmが好ましく、トップコート層の膜厚は20〜30μmが好ましい。
【0050】
3層以上の塗膜構造の場合、プライマー層の膜厚は5〜15μmが好ましく、中間層の膜厚は5〜15μm、その他の層については、塗膜を形成する物品の要求特性に応じて適宜選定すればよい。
【0051】
本発明のプライマー層は高硬度でありかつフッ素樹脂への密着性も高い。したがって、上記のように2層構造の塗膜であっても、3層構造と同程度に硬度と密着性のバランスがとれるという優れた効果が発揮できる。また、塗膜全体としてもトップコート層の材質によらず耐磨耗性が向上する。これは、プライマー層とフッ素樹脂トップコート層との層間密着性が向上したことにより、層間剥離による磨耗(磨耗剥離)が減少するからと考えられる。高分子量で低溶融クリープ粘度のフッ素樹脂をトップコートにも使用する場合、トップコートの耐磨耗性が良好であることはもちろん、層間密着性も優れるので、塗膜構造全体の硬度と耐熱性もさらに向上させることができる。そのほか、低薬品透過性のフッ素樹脂(たとえばFEPやPFA)を併用すると、薬品(溶剤)の浸透による層間剥離や変色も、さらに抑えることができる。
【0052】
以上の特性と効果を有する本発明の塗膜構造は、たとえば、金属調理器具、特にフライパンの塗装として有利であるが、この組成物は耐腐食性を必要とするその他の物品の塗装にも使用され得る。他の物品とは、たとえば、ベアリング、バルブ、電線、金属箔、ボイラー、パイプ、船底、オーブン内張り、アイロン底板、パン焼き型、炊飯器、グリル鍋、電気ポット、OA装置の各種ロール、製氷トレー、雪かきシャベル、すき、シュート、コンベア、ロール、金型、各種工具(ダイス、のこぎり、やすり、きりなど)、包丁、はさみ、ホッパー、その他工業用コンテナ(特に半導体工業用)および鋳型などがあげられる。
【0053】
つぎに、塗装物品(用途、適用)との関係で、特に好ましい各成分の組合せの実施形態を例示するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0054】
(実施形態)
(A)バインダーポリマー:
酸価40〜90mgKOH/gのポリアミドイミド。水性分散液の形態で使用。
(B)セラミック球状粒子:
モース硬度が6以上の酸化アルミニウム球状粒子、複合酸化物球状粒子、ホウ酸アルミニウム球状粒子など。平均粒径0.4〜2.5μm
(C)変性PTFE粒子:
溶融クリープ粘度2×109〜1×1011Pa・sで標準比重2.170以下の変性PTFE粒子。水性分散液の形態で使用。
(D)水性媒体:

(E)非イオン性界面活性剤:
フェノール構造を含まない非イオン性界面活性剤
(F)他のフッ素樹脂粒子:
FEP粒子
(配合割合)(「質量部」、以下同様)
(A)成分100部に対し、(B)170〜352部、(C)198〜299部、(E)7〜11部、(F)35〜53部、(D)適量
【0055】
(塗装物品)
フライパン、ホットプレート、焼肉プレート、レンジ台、パン焼き型、炊飯器、グリル鍋などの調理器具;アイロン台など。
【実施例】
【0056】
つぎに本発明を実施例、比較例などを示して具体的に説明するが、本発明はかかる例に限定されるものではない。
【0057】
まず、本明細書で採用した各物性や効果の測定方法をまとめて記載する。
【0058】
(1)380℃での溶融クリープ粘度
測定法:特開昭64−1711記載の方法
【0059】
(2)標準比重
測定法:特開昭64−1711記載の方法
【0060】
(3)酸価
測定法:TTM6540
【0061】
(4)平均粒子径
測定装置:レーザー回折散乱法
【0062】
(5)密着性(碁盤目試験)
測定法:JIS K5600
【0063】
(6)基材剥離試験(室温、200℃)
測定法:JIS K5600に準じて行う。200℃の場合は装置にヒーターを設置する。
測定装置:ホットステージ付き鉛筆硬度試験機((株)安田精機製作所製の鉛筆硬度試験機に温度調節できるステージを設置)
評価方法:基材から塗膜が剥離するときの使用鉛筆硬度で示す。鉛筆硬度が高くなるほど基材密着性が強い。
【0064】
(7)層間剥離試験(室温、200℃)
測定法:基材剥離試験(6)と同じ。
測定装置:ヒーター付き鉛筆硬度試験機((株)安田精機製作所製の鉛筆硬度試験機に温度調節できるステージを設置)
評価方法:プライマーからトップコートが剥離するときの使用鉛筆硬度で示す。鉛筆硬度が高くなるほど基材密着性が強い。
【0065】
(8)耐衝撃性(デュポン衝撃)
測定法:JIS K5600、荷重0.5kgを1mの高さから落下させる。
測定装置:デュポン式落下衝撃試験機
【0066】
また、実施例および比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
【0067】
(A)水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー
A1:米国ソルベイ社のトーロンAI−10(酸価80mgKOH/g)をアミンで中和した水溶液(10%)
A2:日立化成工業(株)製のHPC−1000−28(酸価42mgKOH/g、28%水溶液)
A3:ポリアミドイミドの水性分散液(酸価20mgKOH/g、20%水溶液)
【0068】
(B)セラミック球状粒子
B1:酸化アルミニウム粒子((株)アドマテックス製のアドマファインAO502。モース硬度9、平均粒子径0.4μm)
B2:酸化アルミニウム粒子((株)アドマテックス製のアドマファインAO502。モース硬度9、平均粒子径0.4μm)と群青粒子(第一化成工業(株)製の群青No.2200。モース硬度5、平均粒子径1.4μm)の24/76(質量比)を併用
B3:複合酸化物球状粒子(旭産業(株)製のBlue 1024。モース硬度7〜8、平均粒子径0.6μm)
B4:ホウ酸アルミニウム粒子(四国化成工業(株)製のアルボライトPF03。モース硬度7、平均粒子径2.5μm)
【0069】
(C)PTFE粒子
C1:変性PTFE分散液(平均粒子径0.25μm、溶融クリープ粘度8.7×109Pa・s、標準比重2.165、60質量%分散液)
【0070】
(D)水性媒体
D1:純水
【0071】
(E)非イオン性界面活性剤
E1:エアープロダクト社製のサーフィノール440
【0072】
(F)他のフッ素樹脂系粒子
F1:FEP粒子(平均粒子径0.23μm、63質量%分散液)
【0073】
実施例1〜6
表1に示す成分と量を用いて、つぎのようにしてプライマー用水性分散組成物を調製した。
【0074】
まずポリアミドイミド水性分散液(A)にセラミック球状粒子(B)を添加し、サンドミルにより分散させてフィラー分散液を調製した。
【0075】
別途、カーボンミルベース(カーボンブラックを界面活性剤で分散させた水性分散液)に変性PTFE粒子(C)の水性分散液、FEP粒子(F)の水性分散液および非イオン性界面活性剤(E)を添加した後、攪拌しながら上記のフィラー分散液を少しずつ加えていった。また、必要に応じ、純水(D)を追加的に加えて粘度を調整した。
【0076】
表面がブラスト処理された純アルミ板(JIS H4000に記載されているA1050材)に実施例1〜6でそれぞれ調製したプライマー用水性分散組成物を乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装し、約150℃で15分間乾燥してプライマー層を形成した。
【0077】
このプライマー層の上に、つぎの処方のトップコート用水性分散組成物を乾燥膜厚が20μmとなるようにスプレー塗装し、約80℃で15分間乾燥させた後、380℃で20分間焼付けてトップコート層を形成した。
【0078】
得られた2層構造の塗膜について、碁盤目試験、基材剥離試験(室温、200℃)、層間剥離試験(室温、200℃)およびデュポン衝撃試験を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(トップコート用水性分散組成物)
(成分) (質量部)
変性PTFE(60質量%濃度) 78.1部
グリセリン 4.7部
解重合性アクリル樹脂エマルジョン(40質量%濃度) 11.8部
ディスパノールTOC 4.7部
増粘剤 1.9部
【0080】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー、(B)セラミック球状粒子、(C)変性ポリテトラフルオロエチレン粒子および(D)水性媒体を含むフッ素樹脂塗膜層のプライマー用水性分散組成物において、該変性ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)が、380℃での溶融クリープ粘度が2×109〜1×1011Pa・sの範囲であり、かつ標準比重が2.170以下の変性ポリテトラフルオロエチレン粒子であることを特徴とするプライマー用水性分散組成物。
【請求項2】
前記変性ポリテトラフルオロエチレン粒子の変性量が0.01質量%以上である請求項1記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項3】
前記水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー(A)とポリテトラフルオロエチレン粒子(C)との質量比(C)/(A)が、60/40〜80/20の範囲である請求項1または2記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項4】
前記水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー(A)の酸価が40〜90mgKOH/gである請求項1〜3のいずれかに記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項5】
前記セラミック球状粒子(B)が、前記水溶性で硬化性のポリアミドイミド系および/またはポリイミド系バインダーポリマー(A)の50〜250容量%の範囲で含まれる請求項1〜4のいずれかに記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項6】
さらに非イオン性界面活性剤(E)を含む請求項1〜5のいずれかに記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤(E)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤である請求項6記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項8】
さらにフッ素樹脂系粒子(F)として、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体粒子、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体粒子、および/または前記変性ポリテトラフルオロエチレン粒子(C)以外のポリテトラフルオロエチレン粒子を含む請求項1〜7のいずれかに記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項9】
パーハロオレフィン単位を含むフッ素樹脂を含むトップコート層のプライマー層に用いる請求項1〜8のいずれかに記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項10】
トップコート層のフッ素樹脂が変性ポリテトラフルオロエチレン粒子を含む請求項9記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項11】
トップコート層のフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体を塗膜形成成分とする請求項9または10記載のプライマー用水性分散組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のプライマー用水性分散組成物を基材に塗布して得られるフッ素樹脂塗膜層用のプライマー層。
【請求項13】
請求項12記載のプライマー層と該プライマー層の直上に設けられているフッ素樹脂トップコート層からなる層構造を含む塗膜構造。
【請求項14】
請求項13記載の塗膜構造を表面に有する塗装物品。

【公開番号】特開2007−269878(P2007−269878A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94597(P2006−94597)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】