説明

プライマー組成物、電気絶縁用注型品およびその製造方法

【課題】塗布作業においては、低粘度で且つ粘度変化がほとんどないため作業性に優れ、気泡の混入がなく均一な厚さのプライマー層を形成することができ、また、成形後のプライマー層は、柔軟性に富むために発生応力を緩和し、基材との接着性に優れたプライマー組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、柔軟性骨格を有しないビスフェノール型エポキシ樹脂、および、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を含むプライマー組成物であって、前記変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して5〜80重量%含まれることを特徴とするプライマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー組成物、電気絶縁用注型品およびその製造方法に関するものであり、特に、SF6ガスを絶縁媒体として用いるガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス複合開閉器(GCB)およびガス絶縁変圧器の水分測定装置において使用されるプライマー組成物、電気絶縁用注型品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用される電気機器は、季節および昼夜等による気温の変化(温度サイクル)に長期間さらされる。中でも、金属部品をエポキシ樹脂中に埋め込んだ電気絶縁用注型品では、この温度サイクルによって、金属部品とエポキシ樹脂との境界面に、それらの線膨張係数の違いに起因する応力が発生する。また一般に、電気絶縁用注型品では、少なくとも20年〜30年の耐久性が要求されるので、使用年数に相当する温度サイクルによって金属部品とエポキシ樹脂との境界面に繰返し応力が発生する。従って、これらの応力により、金属部品とエポキシ樹脂との密着力が徐々に低下し、それらが剥離してしまうことがある。そして、この剥離により形成されたギャップ部では、部分放電が発生してエポキシ樹脂内に放電ツリーが進展し、最終的には、絶縁物の内部破壊に至ることがある。
【0003】
一方、金属部品とエポキシ樹脂との境界面にプライマー層を形成することによって、金属部品とエポキシ樹脂との密着力を強固にし、それらの剥離を抑制した電気絶縁用注型品がある。このような電気絶縁用注型品は、特定のプライマー組成物を金属部品の表面に塗布し、硬化または半硬化させてプライマー層を形成し、該プライマー層が形成された金属部品を型内に配置した後、エポキシ樹脂を該型内に注入し、硬化させることによって製造される。その際、プライマー層に気泡や残留溶媒などが混入するとそこで部分放電が発生し、絶縁破壊を引き起こす原因となる。
【0004】
したがって、このようなプライマー層に対しては、成形時や使用環境における温度サイクルで金属部品とエポキシ樹脂との境界面に発生する応力を緩和でき、金属部品やエポキシ樹脂材料に強固に接着するだけでなく、気泡などの混入のないものが求められる。そして、そのプライマー層を形成するためのプライマー組成物には、発生する応力を緩和させる柔軟性と、強固な接着性、さらには気泡が抜け易い流動性(低粘度)が求められる。
【0005】
ここで用いられるプライマー組成物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、フェノール樹脂、および、アセトンとアルコールとの混合溶媒を含むもの(例えば、特許第3074032号公報(特許文献1)および特許第3388812号公報(特許文献2)参照)や、液状のオルソクレゾールノボラック変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、フェノール樹脂、および、アセトンとアルコールとの混合溶媒を含むもの(例えば、特許第3432245号公報(特許文献3)参照)やノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、イミダゾール、および、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を含むもの(例えば、特開2007−77358号公報(特許文献4)参照)が知られている。
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に開示されたビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いたプライマー組成物では、プライマー組成物に求められる柔軟性と流動性の両方を担保することが困難である。ビスフェノール型エポキシ樹脂の分子量を小さくすると粘度は低く流動性の良好なプライマー組成物が得られるが、反面、成形物は硬くて脆くなる。これに対して、分子量の高いビスフェノール型エポキシ樹脂を用いると成形物の柔軟性は向上するが、粘度は高くなり、流動性が低下する。また、特許文献3および4に開示されたノボラック型エポキシ樹脂を用いたプライマー組成物では、組成物の流動性は高いものの、成形後の硬化物が硬くなり発生応力を十分には緩和することが出来ず、接着強度も十分であるとは言えなかった。
【0007】
さらには、特許文献1〜3のプライマー組成物では、揮発性の高いアセトンを含む混合溶媒を使用しているため、塗布作業中にアセトンが容易に揮発してプライマー組成物の粘度が変化する。そのためアセトンの揮発によって粘度が高くなったプライマー組成物を金属部品の表面に塗布すると、プライマー層が厚くなり、金属部品とエポキシ樹脂との接着性の低下や気泡の混入などの問題が発生する。
【特許文献1】特許第3074032号公報
【特許文献2】特許第3388812号公報
【特許文献3】特許第3432245号公報
【特許文献4】特開2007−77358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、塗布作業においては、低粘度で且つ粘度変化がほとんどないため作業性に優れ、気泡の混入がなく均一な厚さのプライマー層を形成することができ、また、成形後のプライマー層は、柔軟性に富むために発生応力を緩和し、基材との接着性に優れたプライマー組成物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、金属部品とエポキシ樹脂との密着力に優れた電気絶縁用注型品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、柔軟性骨格を有しないビスフェノール型エポキシ樹脂、および、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を含むプライマー組成物であって、
前記変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して5〜80重量%含まれることを特徴とするプライマー組成物である。
【0011】
前記柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、一般式(1)で示されるビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
ここで、一般式(1)中のYは、脂肪族炭化水素であり、Zは、CH2やC(CH3)を表す。また、nは0から10の範囲であり、好ましくは1〜8である。
【0014】
また、前記柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は、ポリアルキレンオキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0015】
前記柔軟性骨格を有しないビスフェノール型エポキシ樹脂は、前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して20〜95重量%含まれることが好ましい。
【0016】
前記混合溶媒は、前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して50重量%を超え99.5重量%未満含まれることが好ましい。
【0017】
本発明のプライマー組成物には、さらに、低応力化剤が、前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して5〜25重量%含まれることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、金属部品とエポキシ樹脂とがプライマー層を介して接合された電気絶縁用注型品であって、前記プライマー層が上記のプライマー組成物を硬化させたものである、電気絶縁用注型品にも関する。
【0019】
さらに、本発明は、上記のプライマー組成物を金属部品の表面に塗布し、半硬化させてプライマー層を形成する工程、および、前記プライマー層が形成された金属部品を型内に配置した後、エポキシ樹脂を前記型内に注入し硬化させる工程を含む電気絶縁用注型品の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプライマー組成物は低粘度で且つ粘度変化がほとんどないために、気泡の混入がなく均一な厚さのプライマー層を形成することができ、成形後のプライマー層は、柔軟性に富むために発生応力を緩和し、基材との接着性に優れたプライマー組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のプライマー組成物は、柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、および、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を含む組成物である。
【0022】
本発明に用いられる柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂とは、プライマー層に柔軟性を付与しうる骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂であれば、特に限定されないが、具体的には、下記一般式(1)で示される変性ビスフェノール型エポキシ樹脂やポリアルキレンオキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることができる。
【0023】
(実施の形態1)
本発明に用いられる柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂とは、プライマー層に柔軟性を付与しうる骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂であれば、特に限定されないが、具体的には一般式(1)によって表される変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いることができる。
【0024】
【化2】

【0025】
ここで、一般式(1)中のYは、脂肪族炭化水素であり、Zは、CH2またはC(CH3)を表す。また、nは0から10の範囲であり、好ましくは1〜8である。
【0026】
また、本発明の第一のプライマー組成物における柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、一般に広く市販されているYL7175-500やYL7175-1000(いずれもジャパンエポキシレジン(株)製)などを用いることが可能である。
【0027】
本発明の第一のプライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して、柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂は5〜80重量%含まれ、好ましくは10〜60重量%である。5重量%未満であると、プライマー組成物から形成されるプライマー層の柔軟性が低下し、該プライマー層が硬くなりすぎるので好ましくない。また、80重量%を超えると、プライマー組成物が柔らかくなり過ぎてプライマー自体の凝集力が低下するために接着力が大きく低下する。
【0028】
また、本発明の第一のプライマー組成物におけるビスフェノール型エポキシ樹脂としては、特に制限されることはなく、例えば、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとエポクロヒドリンとを直接反応させることにより得られる樹脂や、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンとエポクロヒドリンとを直接反応させることにより得られる樹脂などを用いることができる。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、以下の一般式(2)によって表されるものを用いることができる。
【0029】
【化3】

【0030】
ここで、一般式(2)中、lは、エポキシ当量が150〜5000(g/eqiv.)となる値の範囲である。この一般式(2)を有するビスフェノール型エポキシ樹脂の中でも、150〜2200(g/eqiv.)のエポキシ当量を有するものは、低粘度で接着強度および混合溶媒に対する溶解性に優れるのでより好ましい。
【0031】
また、本発明の第一のプライマー組成物におけるビスフェノール型エポキシ樹脂としては、一般に広く市販されているエピコート828、1001およびエピコート1004(いずれもジャパンエポキシレジン(株)製)などを用いることも可能である。
【0032】
本発明のプライマー組成物は、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を含む。トルエンおよびメチルエチルケトンは、アセトンに比べて、蒸気圧がはるかに低く〔20℃の場合:トルエン(0.0032MPa)、メチルエチルケトン(0.0095MPa)、アセトン(0.024MPa)〕、揮発性が低い。本発明では、このような揮発性の低いトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を、該混合溶媒に対する溶解性に優れた所定の成分と組み合わせることによって、塗布作業中の粘度変化がほとんどなく、粘度管理が容易で作業性に優れ、且つ均一な厚さのプライマー層を形成することのできるプライマー組成物を提供することができる。
【0033】
本発明の第一のプライマー組成物の総量に対して、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒の割合は、通常、50重量%を超え99.5重量%未満であり、好ましくは70〜99重量%の範囲で含まれる。50重量%以下および99.5重量%以上になると、金属部品とエポキシ樹脂との間の十分な接着強度が得られないので好ましくない。また、トルエン1に対するメチルエチルケトンの重量割合は、0.25〜1.5が好ましく、1がより好ましい。前記メチルエチルケトンの重量割合が、1.5を超えると、プライマー組成物中の溶媒が蒸発し易くなるので、塗布作業中にプライマー組成物の粘度変化が大きくなり、金属部品とエポキシ樹脂との間の接着強度が低下する傾向にある。一方、前記メチルエチルケトンの重量割合が、0.25未満であると、プライマー組成物を金属部品の表面に塗布して半硬化させる際に、溶媒が十分に揮発しなかったり、乾燥時間が長くなったりして作業性が低下する傾向にある。
【0034】
なお、第一のプライマー組成物には、必要に応じてエポキシ樹脂組成物の硬化剤を含有させても良い。硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、およびその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−メチル−4−フェニルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールおよび1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(シアノエトキシメチル)イミダゾールなどのイミダゾール類を用いることができる。これらエポキシ樹脂組成物の硬化剤を2種以上混合して用いても良い。
【0035】
第一のプライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂100重量部に対する硬化剤の割合は、通常、0.1〜200重量%である。
【0036】
(実施の形態2)
本発明の第二のプライマー組成物は、柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂として、ポリアルキレンオキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂を用いる以外は第一のプライマー組成物と同様の組成物である。ポリアルキレンオキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂とは、当該エポキシ含有物質を構成する芳香族炭化水素基の芳香環に直接結合した酸素に、エーテル結合を含む炭化水素基(用語「エーテル結合を含む炭化水素基」におけるエーテル結合を構成する酸素原子としては芳香族炭化水素基の芳香環に直接結合する酸素を含まない。)が結合している化合物をいう。また、当該化合物において、エーテル結合を含む炭化水素基は、エーテル結合を1つ有していても良いし、複数有していても良い。例えば、ポリアルキレンオキシ化エポキシ含有物質は、複数の芳香族炭化水素基をアルキレンオキシ基の繰り返し単位を有する炭化水素基が結合するものを含む。エーテル結合を含む炭化水素基は、1分子中に少なくとも1つあればよく、このましくは、芳香族炭化水素基を結合する構造が全てエーテル結合を含む炭化水素基により結合される。具体的には、グリシジル基を有するフェノール性樹脂の芳香環の環炭素とエーテル結合を含む炭化水素基とがアセタール結合を介して結合するエポキシ樹脂が含まれる。好ましいエーテル結合を含む炭化水素基として、−R−O−R’−(RおよびR’は、同じでも異なってもよい炭化水素基を示す)の構造を持つ基またはアルキレンオキシ基の繰り返し単位を有する炭化水素基が挙げられ、好ましくはアルキレンオキシ基が2個以上繰り返される炭化水素基が挙げられる。例えば、アルキレンオキサイドの付加重合反応により形成される、エチレンオキシエチル基、プロピレンオキシプロピル基、ポリ(エチレンオキシ)エチル基、ポリ(プロピレンオキシ)プロピル基またはエチレンオキドとプロピレンオキシドの付加重合により得られる基が挙げられる。
【0037】
例えば、DIC(株)より入手可能なポリアルキレンオキシ化したビスフェノールA型エポキシ樹脂(EPICLON EXA4850、4816、4822)等の柔軟強靭性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0038】
本発明において好ましいポリアルキレンオキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂は、ビスフェノール型樹脂をエーテル結合を有する炭化水素基によりポリアルキレンオキシ化したフェノール性樹脂とクロロヒドリンとを反応させたエポキシ樹脂であり、より好ましくはアルキレンオキシ基の繰り返し単位によりビスフェノール型樹脂が結合された構造を有するエポキシ樹脂であり、より好ましくは式(3)で示される構造をもつものである。
【0039】
【化4】

【0040】
(式中m=0〜20であり、好ましくは、m=2〜5である。Xは、エチレンオキシエチル基、ジ(エチレンオキシ)エチル基、トリ(エチレンオキシ)エチル基、テトラ(エチレンオキシ)エチル基、プロピレンオキシプロピル基、ジ(プロピレンオキシ)プロピル基、トリ(プロピレンオキシ)プロピル基、テトラ(プロピレンオキシ)プロピル基、ブチレンオキシブチル基、ジ(ブチレンオキシ)ブチル基、トリ(ブチレンオキシ)ブチル基、テトラ(ブチレンオキシ)ブチル基、または炭素原子数2〜15のアルキレン基、またはシクロアルカン骨格を有する炭素原子数6〜17の脂肪族炭化水素基を表す)。
【0041】
(実施の形態3)
本発明の第三のプライマー組成物は、本発明の第一または第二のプライマー組成物に低応力化剤として微細なゴム粒子をさらに含有する組成物である。低応力化剤としては、メタクリレート−ブタジエン−スチレンゴム、アクリルゴム、フェノキシ樹脂などが挙げられる。ゴム粒子の平均粒径は、0.05μm〜20μmであり、好ましくは、0.1μm〜10μmである。0.05μmより小さいと混合時の組成物の粘度が急増して気泡の混入などによる接着強度や絶縁耐圧の低下を引き起こす原因となる。20μmより大きいとゴムの界面で剥離が起こり、接着強度が低下する。
【0042】
本発明の第一、第二または第三のプライマー組成物は、前記所定の成分を所定の配合割合で混合することにより得ることができる。混合方法は、特に制限されず、公知の方法により混合すればよい。
【0043】
本発明の電気絶縁用注型品は、本発明の第一、第二または第三のプライマー組成物を用いて製造することができる。本発明の電気絶縁用注型品の構成および製造方法について、図1を基にして説明する。
【0044】
図1は、本発明の電気絶縁用注型品の断面図である。図1において、電気絶縁用注型品は、金属部品1とエポキシ樹脂2とがプライマー層3を介して接合されている。
【0045】
本発明の電気絶縁用注型品の製造方法に関し、まず、金属部品1の表面に、本発明の第一、第二および第三のプライマー組成物を、刷毛、スプレーおよびディッピング等によって塗布し、室温にて自然乾燥させた後、50〜150℃の温度で0.1〜5時間加熱することにより半硬化させてプライマー層3を形成する。50℃未満または0.1時間未満で加熱すると、プライマー組成物が硬化せずに、エポキシ樹脂中に拡散してしまう傾向にあるので好ましくない。また、150℃または5時間を超えて加熱すると、エポキシ樹脂の注型前に硬化が完結し、金属部品とエポキシ樹脂との十分な接着ができなくなる傾向にあるので好ましくない。ここで、金属部品1は、密着性を向上させる観点から、プライマー組成物の塗布前に、予めサンドブラスト処理を施してもよい。
【0046】
次に、前記プライマー層3が形成された金属部品1を型内に配置した後、エポキシ樹脂3を前記型内に注入し、80〜190℃の温度で10分〜36時間加熱することにより硬化させる。80℃未満または10分未満で加熱すると、エポキシ樹脂が十分に硬化せず、また190℃または36時間を超えて加熱すると、エポキシ樹脂が加熱劣化してしまう傾向にあるので好ましくない。
【0047】
このようにして得られた本発明の電気絶縁用注型品は、金属部品とエポキシ樹脂との密着力に優れたものとなる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0049】
表1には実施例1〜14の組成比と比較例1〜6の組成比と接着強度の相対値(比較例1の引張りせん断強度を1としたときの引張りせん断強度の相対値)、成膜性の評価結果を示した。なお、後述するように、各実施例および比較例のプライマー組成物を用いたプライマー層の特性として引張りせん断強度を測定したが、引張りせん断強度の測定方法としては、3mmの厚さを有するアルミ板に、調製したプライマー組成物を塗布して挟み込み、150℃で3時間加熱して硬化させたものを試験サンプルとし、オートグラフ装置(島津製作所(株)製、AD-5000G)を用いて、25℃、1mm/分の引張速度で測定した。
【0050】
また、成膜性については、3mm厚のアルミ板に硬化後の塗膜厚が100μmになるようにプライマーを塗布硬化させて硬化塗膜を得、得られた塗膜を目視観察し、下記基準に従って評価した。
○:ボイドがほとんど混入していない塗膜が得られた。
△:ボイドの混入が比較的少ない塗膜が得られた。
×:ボイドが多数混入した塗膜が得られた。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例1〜5)
実施例1〜5では、柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂として、ポリアルキレンオキシ化したビスフェノールA型エポキシ樹脂(EPICLON EXA4850-150、DIC(株)製)を5、15、30、50、75重量部、低分子量ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828)を95、85、70、50、25重量部、硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール5重量部を含むものを用いた。溶剤としては、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒(トルエンとメチルエチルケトンとの重量比は1:1である)の濃度を、80重量%とした。これらを混合攪拌することにより、実施例1〜5のプライマー組成物を調製した。
【0053】
(実施例6〜10)
低応力化剤として平均粒径0.5μmのアクリルゴム(PARAROID EXL2314、ローム・アンド・ハース・ジャパン製)をエポキシ樹脂の総量に対して10重量%になるようにさらに配合した以外は、実施例1〜5と同様にして実施例6〜10のプライマー組成物を調製した。
【0054】
(比較例1)
エポキシ樹脂に低分子量ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、ジャパンエポキシレジン(株)製)だけを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例1のプライマー組成物を調製した。
【0055】
(比較例2)
柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂にポリアルキレンオキシ化したビスフェノールA型エポキシ樹脂(EPICLON EXA4850-150、DIC(株)製)を90重量部、低分子量ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、ジャパンエポキシレジン(株)製)を10重量部にした以外は、実施例1と同様にして比較例2のプライマー組成物を調製した。
【0056】
(比較例3〜4)
低応力化剤として平均粒径0.5μmのアクリルゴム(PARAROID EXL2314、ローム・アンド・ハース・ジャパン製)をエポキシ樹脂に対して10重量%になるようにさらに配合した以外は、比較例1〜2と同様にして比較例3〜4のプライマー組成物を調製した。
【0057】
以上の実施例1〜10および比較例1〜4のプライマー組成物を用いて、上述のようにして作製した試験サンプルの引張りせん断強度を測定した。測定結果を図2に示す。図2に示されるように、エポキシ樹脂に低分子量ビスフェノールA型エポキシ樹脂だけを用いた場合の引張りせん断強度は、低い値を示している。これに柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を添加するとせん断強度は大きく向上した。しかし、変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の割合が90%になると強度は大きく低下する。
【0058】
このように柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を5〜80重量%添加すると接着性が改善されることが確認された。
【0059】
さらに、これら柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を5〜80重量%添加したプライマー組成に低応力化剤として微細なアクリルゴムを添加するとさらに強度は向上する。これに対して、柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を添加していないプライマーおよびその配合割合が90%になるとせん断強度の改善効果はほとんど得られなかった。
【0060】
(実施例11)
柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂に耐熱性を有する変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EPICLON EXA4816、DIC(株)製)を用いた以外は、実施例7と同様にして実施例11のプライマー組成物を調製した。
【0061】
(実施例12〜14)
低応力化剤として平均粒径0.5μmのアクリルゴムPARAROID EXL2314をエポキシ樹脂に対して5、15、25重量%になるようにさらに配合した以外は、実施例6〜10と同様にして実施例12〜14のプライマー組成物を調製した。
【0062】
(比較例5)
低応力化剤として平均粒径0.5μmのアクリルゴムPARAROID EXL2314をエポキシ樹脂に対して30重量%になるようにさらに配合した以外は、比較例3〜4と同様にして比較例5のプライマー組成物を調製した。
【0063】
(比較例6)
エポキシ樹脂に高分子量ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート1007、ジャパンエポキシレジン(株)製)だけを用いた以外は、比較例3と同様にして比較例6のプライマー組成物を調製した。
【0064】
以上の実施例12〜14および比較例5のプライマー組成物を用いて、上述のようにして作製した試験サンプルの引張りせん断強度を測定した。測定結果を実施例3、8の引張りせん断強度の測定結果と合わせて図3に示す。図3に示されるように、柔軟骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂を30重量%添加したプライマー組成に低応力化剤として微細なアクリルゴムを添加するとさらに強度は向上した。配合量が10〜15重量%のときに接着強度は最大で、更なるゴムの添加は接着強度の低下を招く。
【0065】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の電気絶縁用注型品の断面図である。
【図2】プライマー組成物における柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂の配合割合と引張りせん断強度との関係を示す図である。
【図3】プライマー組成物におけるアクリルゴムの配合割合と引張りせん断強度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 金属部品、2 エポキシ樹脂、3 プライマー層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、柔軟性骨格を有しないビスフェノール型エポキシ樹脂、および、トルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を含むプライマー組成物であって、
前記変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して5〜80重量%含まれることを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
前記柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が、一般式(1)で示されるビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項1に記載のプライマー組成物。
【化1】

ここで、一般式(1)中のYは、脂肪族炭化水素であり、Zは、CH2またはC(CH3)を表す。また、nは0から10の範囲であり、好ましくは1〜8である。
【請求項3】
前記柔軟性骨格を有する変性ビスフェノール型エポキシ樹脂が、ポリアルキレンオキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂である、請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項4】
前記柔軟性骨格を有しないビスフェノール型エポキシ樹脂が、前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して20〜95重量%含まれる、請求項1〜3にいずれかに記載のプライマー組成物。
【請求項5】
前記混合溶媒が、前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して50重量%を超え99.5重量%未満含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載のプライマー組成物。
【請求項6】
さらに、低応力化剤が、前記プライマー組成物中に含まれるエポキシ樹脂の総量に対して5〜25重量%含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載のプライマー組成物。
【請求項7】
金属部品とエポキシ樹脂とがプライマー層を介して接合された電気絶縁用注型品であって、前記プライマー層が請求項1〜6のいずれかに記載のプライマー組成物を硬化させたものである、電気絶縁用注型品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のプライマー組成物を金属部品の表面に塗布し、半硬化させてプライマー層を形成する工程、および、
前記プライマー層が形成された金属部品を型内に配置した後、エポキシ樹脂を前記型内に注入し硬化させる工程を含む電気絶縁用注型品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138280(P2010−138280A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315774(P2008−315774)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】