説明

プライマー組成物の製造方法及び被覆物品

【課題】長期間クラック、剥離、黄変がなく、耐候性に優れた保護被膜を形成し、これら性能の再現性があり、保存安定性が良く、増粘又はゲル化することがないプライマー組成物の製造方法及びこれを用いた被覆物品を提供する。
【解決手段】下記〔1〕又は〔2〕の工程を含むポリシロキサン硬質被膜形成用プライマー組成物の製造方法。
〔1〕(I)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)及び有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を含むプライマー前駆体を調製する工程、
(II)プライマー前駆体に水を加え加水分解を行う工程、
(III)加水分解物を含む組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
〔2〕(IV)前記(A)に水を加えて加水分解を行う工程、
(V)加水分解物に、前記(B)を添加する工程、
(VI)組成物に前記(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体、シリカ微粒子及び有機溶剤を用いてなるプライマー組成物の製造方法、及びこの方法により製造された組成物を基材に被覆、硬化したプライマー層の表面に、ポリシロキサン硬化膜を積層してなる被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明板ガラスの代替として、非破砕性又はガラスよりも耐破砕性の大きい透明材料を使用することが広く行われるようになってきた。例えばプラスチック基材、特にポリカーボネート樹脂などは、透明性、耐衝撃性、耐熱性等に優れていることから、ガラスに代わる構造部材として建物や車両等の窓用、計器カバー等、種々の用途に現在用いられている。
【0003】
しかし、ガラスに比べて耐擦傷性、耐候性などの表面特性に劣ることから、ポリカーボネート樹脂成形品の表面特性を改良することが切望されており、最近では、車両の窓、道路用遮音壁等に屋外暴露10年以上でも耐え得るものが要望されている。
【0004】
ポリカーボネート樹脂成形品の耐候性を改良する手段としては、ポリカーボネート樹脂基材の表面に耐候性に優れたアクリル系樹脂フィルムなどをラミネートする方法や、共押出等により樹脂表面に紫外線吸収剤を含有した樹脂層を設ける方法が提案されている。
【0005】
また、ポリカーボネート樹脂成形品の耐擦傷性を改良する方法としては、ポリオルガノシロキサン系、メラミン系などの熱硬化性樹脂をコーティングする方法や多官能性アクリル系の光硬化性樹脂をコーティングする方法が提案されている。
【0006】
一方、耐候性及び耐擦傷性を併せ持つ透明体を製造する方法としては、特開昭56−92059号公報及び特開平1−149878号公報(特許文献1,2)などに記載があり、多量の紫外線吸収剤を添加した下塗り層を介してコロイダルシリカ含有ポリシロキサン塗料の保護被膜を設けた紫外線吸収透明基板が知られている。
【0007】
しかしながら、下塗り層への多量の紫外線吸収剤の添加は、基材や下塗り層の上面に塗布されるコロイダルシリカ含有ポリシロキサン塗料による保護被膜との密着性を悪くしたり、加熱硬化工程中に、例えば揮発化することによって組成物中から除去されてしまったり、屋外で長期間にわたって使用した場合、徐々に紫外線吸収剤がブリードアウトしてクラックが生じたり、白化するあるいは黄変するといった悪影響があった。更に、その上面のコロイダルシリカ含有ポリシロキサンからなる保護被膜層には、耐擦傷性の面から紫外線吸収剤を多量に添加できないという問題もあった。
【0008】
また、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性ビニル系単量体あるいはベンゾフェノン系紫外線吸収性ビニル系単量体と、この単量体に共重合可能なビニル系単量体の混合物を塗料成分とし、これを用いて合成樹脂等の表面に保護塗膜を形成することが知られている(特開平8−151415号公報:特許文献3)。しかし、この保護被膜は、ビニル系重合体からなるため、耐擦傷性に限界がある。
【0009】
更に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性ビニル系単量体あるいはベンゾフェノン系紫外線吸収性ビニル系単量体、アルコキシシリル基含有ビニル系単量体、及びこれら単量体に共重合可能なビニル系単量体との共重合体を塗料成分とすることで、樹脂基材への密着性を保ちつつ耐候性を付与した多層積層樹脂物品を得られることが知られている[特開2001−114841号公報、特許第3102696号公報、特開2001−214122号公報、特開2001−47574号公報(特許文献4〜7)]。
【0010】
これらは共重合体含有塗料を下塗り剤とし、その被膜上にコロイダルシリカ含有ポリシロキサン樹脂被膜を形成することで耐擦傷性及び耐候性を付与した被覆物品を得ている。これらについてはポリシロキサン樹脂被膜との密着性及び耐候性はかなり改善されるものの、下塗り層のアルコキシシリル基の架橋ネットワーク化が十分に進行しないため、未硬化の残存アルコキシシリル基又はヒドロキシシリル基の経時での後架橋が生起し、被膜に歪みが生じ易いため、クラックや剥離といった不具合が発生し易く、長期の耐候性にはなお不十分であった。更に被膜が急激な環境温度変化、特に比較的高い温度での変化に曝されると、上記の後架橋によるクラックが発生し易いという欠点もあった。
【0011】
更に、特開2004−1393号公報(特許文献8)では、基材とプライマー層であるアクリル樹脂層との間の線膨張率の差及びプライマー層とポリシロキサン硬化層との間の線膨張率の差を規定することで、密着性、クラック性を改良している。しかしこのプライマー層には、紫外線吸収剤を多量に含むことができず、長期の耐候性にはなお不十分であった。
【0012】
本発明者は、紫外線吸収性ビニル系単量体、アルコキシシリル基含有ビニル系単量体、及びこれら単量体に共重合可能なビニル系単量体との共重合体及びシリカ微粒子からなるプライマー組成物を提案している[特開2008−120986号公報(特許文献9)]。
当該プライマー組成物を塗布、硬化した被膜は、前記ビニル系重合体の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基同士のシロキサン架橋、また前記ビニル系重合体の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と前記シリカ微粒子表面のSiOH基との間のシロキサン架橋により形成される緻密な3次元架橋ネットワーク、及びシリカ微粒子自身の低膨張性の作用とにより、線膨張係数が低くなり、温度差による膨張・収縮が従来のプライマーよりも小さくなる。従って、このプライマー被膜表面に被覆するポリシロキサン系硬質樹脂被膜には、長期にわたって、クラックや剥離が発生しない。
しかし、当該プライマー組成物は、塗布、硬化時の環境温度あるいは湿度によって、長期耐候性試験でクラック及び剥離といったプライマーとしての性能再現性が低下することが判明し、更なる改良が必要であった。
【0013】
【特許文献1】特開昭56−92059号公報
【特許文献2】特開平1−149878号公報
【特許文献3】特開平8−151415号公報
【特許文献4】特開2001−114841号公報
【特許文献5】特許第3102696号公報
【特許文献6】特開2001−214122号公報
【特許文献7】特開2001−47574号公報
【特許文献8】特開2004−1393号公報
【特許文献9】特開2008−120986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、長期にわたり、クラック、剥離、黄変といった欠点がなく、耐候性に優れた保護被膜を形成し、かつこれら性能の再現性があり、しかも保存安定性が良く、長期保存あるいは使用しても増粘又はゲル化することがないプライマー組成物の製造方法、及びこれを用いた被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)及び脱水剤(C)を用い、以下の工程〔1〕又は〔2〕を含む製造方法によって得られるプライマー組成物により、上記課題を解決し得ることを見出した。
〔1〕(I)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)及び有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を含むプライマー前駆体を調製する工程、
(II)(I)で得られたプライマー前駆体に水を加えて加水分解を行う工程、
(III)(II)で得られた加水分解物を含む組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
〔2〕(IV)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)に水を加えて加水分解を行う工程、
(V)(IV)で得られた加水分解物に、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を添加する工程、
(VI)(V)で得られた組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
【0016】
即ち、本発明者は、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂成形品に長期耐候性を付与する被膜を得ることができ、保存安定性が良好で、長期保存あるいは使用しても増粘又はゲル化することがないプライマー組成物について、種々検討した。
その結果、組成物構成成分として、加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)及び有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を含むプライマー前駆体に水を加えて加水分解したプライマー組成物、又は加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)に水を加えて加水分解した後、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を添加したプライマー組成物を塗布、硬化した被膜は、予めビニル系重合体(A)中の加水分解性基を加水分解してSiOH基に変換しているため、塗布、硬化時の環境温度あるいは湿度によらず、前記ビニル系重合体(A)の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基同士のシロキサン架橋、また前記ビニル系重合体(A)の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と前記シリカ微粒子(B)表面のSiOH基との間のシロキサン架橋が促進される。これにより形成される緻密な3次元架橋ネットワーク、及び前記シリカ微粒子(B)自身の低膨張性の作用により、線膨張係数が低くなり、温度差による膨張・収縮が従来のプライマーよりも小さくなる。従って、このプライマー被膜表面に被覆するポリシロキサン系硬質樹脂被膜には、長期にわたって、クラックや剥離が発生しないことを見出した。
【0017】
更に、前記ビニル系重合体(A)は、有機系紫外線吸収性基が側鎖に結合しており、かつ、該プライマー組成物からなる被膜内にて架橋するため、紫外線吸収性基が被膜中で固定されることにより、紫外線吸収性基の被膜表面への移行が極めて起こり難くなり、外観の白化現象や密着性の低下がなくなる点、水、溶剤等への溶出・流出がなく経時による紫外線吸収効果の低下が少ない点、高温で熱硬化処理を行っても被膜から紫外線吸収性基が揮散しない点から、大幅に耐候性が向上し、しかも長期にわたりその機能が維持されることを見出した。
【0018】
一方、前記ビニル系重合体(A)を加水分解することで、ビニル系重合体(A)の加水分解性シリル基はSiOH基に変換され、架橋が進行しやすくなるものの、プライマー組成物の保存安定性は著しく低下することがわかった。そこで、上記加水分解後に脱水剤(C)を添加し、系中の残存水分を除去することで、プライマー組成物が増粘、ゲル化することなく、長期保存が可能になることを見出した。
【0019】
また、本発明のプライマー組成物を被覆した表面に、オルガノポリシロキサン系硬質保護コーティング被覆層を設ける場合、上記ビニル系重合体(A)に含有される加水分解性シリル基及び/又はSiOH基、及び前記シリカ微粒子(B)表面に存在するSiOH基により、該オルガノポリシロキサン系保護コーティング被覆層との反応性が付与され密着性が向上すること、該加水分解性シリル基及び/又はSiOH基が架橋することにより、耐熱性が向上し、優れた耐擦傷性及び耐候性を付与できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0020】
従って、本発明は、下記プライマー組成物の製造方法及び被覆物品を提供する。
〔請求項1〕
下記の工程(I)〜(III)を含むことを特徴とするポリシロキサン硬質被膜形成用プライマー組成物の製造方法。
(I)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)及び有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を含むプライマー前駆体を調製する工程、
(II)(I)で得られたプライマー前駆体に水を加えて加水分解を行う工程、
(III)(II)で得られた加水分解物を含む組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
〔請求項2〕
下記の工程(IV)〜(VI)を含むことを特徴とするポリシロキサン硬質被膜形成用プライマー組成物の製造方法。
(IV)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)に水を加えて加水分解を行う工程、
(V)(IV)で得られた加水分解物に、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を添加する工程、
(VI)(V)で得られた組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
〔請求項3〕
脱水剤(C)が、オルトカルボン酸エステル、ジアルキルカルボジイミド及び固体吸着剤から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
〔請求項4〕
脱水剤(C)が、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル及びオルト酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の製造方法。
〔請求項5〕
加水分解に使用する水の量が、ビニル系重合体(A)中の加水分解性シリル基の加水分解性基1モルに対して、5モル未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
〔請求項6〕
更に、ビニル系重合体(A)に、加水分解性ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解縮合物(D)を配合して共加水分解することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
〔請求項7〕
加水分解性ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解縮合物(D)が、分子内に窒素原子及びアルコキシシリル基を含有する化合物であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
〔請求項8〕
加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)が、加水分解性シリル基がC−Si結合を介して結合したビニル系単量体(a−1)、有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(a−2)と、共重合可能な他の単量体(a−3)とからなる単量体成分を共重合して得られるビニル系重合体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
〔請求項9〕
有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)が、0.5〜100nmの範囲の一次粒子径を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
〔請求項10〕
基材に、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により製造されたプライマー組成物を被覆、硬化させてなる被膜の表面に、ポリシロキサン硬質被膜を積層してなることを特徴とする被覆物品。
〔請求項11〕
ポリシロキサン硬質被膜が、
(R7mSi(OR84-m (1)
(式中、R7は炭素数1〜10の有機基、R8は水素原子又は1価の有機基を示し、mは0,1又は2である。)
で示されるオルガノオキシシランの1種類以上の加水分解物又は共加水分解物と、シリカ微粒子とを含むハードコーティング組成物から形成されることを特徴とする請求項10に記載の被覆物品。
【発明の効果】
【0021】
本発明のプライマー組成物は、有機系紫外線吸収性基を被膜内に大量に保持できるため耐光性が大幅に向上し、更にシロキサン架橋することで被膜内に有機系紫外線吸収性基が固定化されるため紫外線吸収性基の経時流失が防がれる。また加水分解性シリル基を含有するビニル系重合体を予め加水分解するため、ビニル系重合体とシリカ微粒子とのシロキサン架橋が十分に進行することにより、得られるプライマー被膜は線膨張係数が低下し、かつ耐候性に富むバインダーとなり、耐水性、耐溶剤性、耐光性に優れた紫外線吸収性保護被膜を与える。本プライマー組成物を、耐候性に劣る物品に被覆・硬化させれば、物品の着色や劣化を抑制し、良好な耐候性を付与できる。また加水分解性シリル基を含有するビニル系重合体を予め加水分解すると、プライマー組成物は経時での増粘・ゲル化が顕著になるが、脱水剤を添加することで、増粘・ゲル化することなく長期の保存安定性を確保することができる。
本発明のプライマー組成物により被膜を施されたプラスチック物品、特にポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐候性を付与することができ、更に該被膜上にポリシロキサン系硬質被膜を積層することで、耐擦傷性、耐薬品性も併せて付与可能なため、車両、飛行機など運送機の窓、風防、建物の窓、道路の遮音壁等屋外で使用される用途に好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のプライマー組成物の製造方法は、下記〔1〕又は〔2〕の工程を含むものである。
〔1〕(I)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)及び有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を含むプライマー前駆体を調製する工程、
(II)(I)で得られたプライマー前駆体に水を加えて加水分解を行う工程、
(III)(II)で得られた加水分解物を含む組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
〔2〕(IV)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)に水を加えて加水分解を行う工程、
(V)(IV)で得られた加水分解物に、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を添加する工程、
(VI)(V)で得られた組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
【0023】
本発明に係るプライマー組成物を製造する際の必須成分は、加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)及び脱水剤(C)である。
【0024】
(A)成分の加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体としては、加水分解性シリル基がSi−C結合を介してビニル重合体主鎖と結合していることが好ましく、更に有機系紫外線吸収性基もビニル重合体主鎖と結合していることが好ましい。このような重合体は、加水分解性シリル基がC−Si結合を介して結合したビニル系単量体(a−1)と、有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(a−2)と、共重合可能な他の単量体(a−3)とからなる単量体成分を共重合して得ることができる。
【0025】
ここで、(a−1)の加水分解性シリル基がSi−C結合を介して結合したビニル系単量体は、一分子中に1個のビニル重合性官能基と、1個以上の加水分解性シリル基を含有するものであれば、如何なるものでも使用することができる。
【0026】
ビニル重合性官能基としては、ビニル基、ビニルオキシ基、(メタ)アクリルオキシ基、(α−メチル)スチリル基を含む炭素数2〜12の有機基を示すことができる。具体的には、ビニル基、5−ヘキセニル基、9−デセニル基、ビニルオキシメチル基、3−ビニルオキシプロピル基、(メタ)アクリルオキシメチル基、3−(メタ)アクリルオキシプロピル基、11−(メタ)アクリルオキシウンデシル基、ビニルフェニル基(スチリル基)、イソプロペニルフェニル基(α−メチルスチリル基)、ビニルフェニルメチル基(ビニルベンジル基)を具体例として示すことができる。反応性、入手し易さから、(メタ)アクリルオキシプロピル基を使用することが好ましい。
【0027】
加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、アセチルオキシ基などのアシルオキシ基、ブタノキシム基などのオキシム基、アミノ基、メチルアミノ基などのアミノ基、クロル基などのハロゲン基を具体例として示すことができる。加水分解性の制御のし易さ、及び入手のし易さから、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基が好適に使用できる。
【0028】
上記置換基以外の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、デシル基などのアルキル基、フェニル基などを例示できる。入手し易さから、メチル基を用いるのが好ましい。
【0029】
加水分解性シリル基がC−Si結合を介して結合したビニル系単量体(a−1)としては、例えば、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシウンデシルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシウンデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、スチリルメチルジメトキシシラン、スチリルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらの中でも、入手のし易さ、取り扱い性、架橋密度及び反応性などから、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0030】
(a−1)の加水分解性シリル基がC−Si結合を介して結合したビニル系単量体の量は、共重合組成で1〜50質量%、特に3〜40質量%の範囲が好ましい。1質量%未満ではシリカ微粒子や上記ビニル系共重合体同士の架橋によるシロキサンネットワークの形成が不十分となり塗膜の線膨張係数が十分に低くならず、耐熱性、耐久性が改良されない場合がある。また50質量%を超えると架橋密度が高くなりすぎて硬くなり接着性が低下したり、未反応加水分解性基又はSiOH基が残存し易くなり、経時での後架橋が生起し、クラックが発生し易くなる場合がある。
【0031】
次に、有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(a−2)について説明する。分子内に紫外線吸収性基とビニル重合性基を含有していれば、如何なるものでも使用することができる。
【0032】
このような有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体の具体例としては、分子内に紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル系単量体が示され、下記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール系化合物、及び一般式(3)で表されるベンゾフェノン系化合物を挙げることができる。
【0033】
【化1】

(式中、Xは水素原子又は塩素原子を示す。R1は水素原子、メチル基、又は炭素数4〜8の第3級アルキル基を示す。R2は直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R3は水素原子又はメチル基を示す。nは0又は1を示す。)
【0034】
【化2】

(式中、R3は上記と同じ意味を示す。R4は置換又は非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R5は水素原子又は水酸基を示す。R6は水素原子、水酸基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。)
【0035】
上記一般式(2)において、R1で示される炭素数4〜8の第3級アルキル基としては、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、tert−オクチル基、ジtert−オクチル基等を挙げることができる。
2で示される直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、ブチレン基、オクチレン基、デシレン基等を挙げることができる。
【0036】
また、上記一般式(3)において、R4で示される直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基としては、上記R2で例示したものと同様のもの、あるいはこれらの水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基等を挙げることができる。R6で示されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。
【0037】
上記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール系化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロキシメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(8−(メタ)アクリロキシオクチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。
【0038】
上記一般式(3)で表されるベンゾフェノン系化合物の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(4−(メタ)アクリロキシブトキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,2’,4−トリヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−1−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0039】
上記紫外線吸収性ビニル系単量体としては、式(2)で表されるベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、中でも2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールが好適に使用される。
更に、上記紫外線吸収性ビニル系単量体は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(a−2)の使用量は、共重合組成で1〜30質量%、特に3〜25質量%が好ましい。1質量%未満では良好な耐候性が得られず、また、30質量%を超えると塗膜の密着性が低下したり、白化などの塗膜外観不良を引き起こしたりする場合がある。
【0041】
次に、上記単量体(a−1)及び(a−2)と共重合可能な他の単量体(a−3)としては、共重合可能な単量体であれば特に制限されないが、環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステル、スチレン、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0042】
環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート等が挙げられ、これらの光安定剤は2種以上併用してもよい。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸イソヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n−ウンデシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の1価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は例えば2〜20)、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は例えば2〜20)等のアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は例えば2〜20)、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は例えば2〜20)等の多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレングリコール単位数は例えば2〜20)、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレングリコール単位数は例えば2〜20)等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリル酸エステル類;
コハク酸モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、コハク酸ジ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、アジピン酸モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、アジピン酸ジ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、フタル酸モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]、フタル酸ジ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]等の非重合性多塩基酸と(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとの(ポリ)エステル類;
(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(N−メチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(N−エチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸4−(N,N−ジメチルアミノ)ブチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0044】
また、(メタ)アクリロニトリルの誘導体の具体例としては、α−クロロアクリロニトリル、α−クロロメチルアクリロニトリル、α−トリフルオロメチルアクリロニトリル、α−メトキシアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができる。
(メタ)アクリルアミドの誘導体の具体例としては、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメトキシ(メタ)アクリルアミド、N−エトキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエトキシ(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0045】
アルキルビニルエーテルの具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル等を挙げることができる。
アルキルビニルエステルの具体例としては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリル酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等を挙げることができる。
スチレン及びその誘導体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
【0046】
これらの単量体のうち、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、特に(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等が好ましい。
共重合可能な他の単量体(a−3)は、前記単量体を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0047】
共重合可能な他の単量体(a−3)の使用量は、共重合組成で20〜98質量%、特に35〜94質量%の範囲が好ましい。単量体(a−3)が多すぎると得られるビニル系共重合体同士やシリカ微粒子との架橋が不十分となり、塗膜の線膨張係数が低くならず耐熱性、耐久性が改善されなかったり、良好な耐候性が得られない場合があり、少なすぎると架橋密度が高くなりすぎて接着性が低下したり、白化などの塗膜外観不良を引き起こしたりする場合がある。
【0048】
前記ビニル系重合体(A)において、加水分解性シリル基がC−Si結合を介して結合したビニル系単量体(a−1)と、有機系紫外線吸収性基を含有するビニル系単量体(a−2)と、前記共重合可能な他の単量体(a−3)との共重合反応は、公知の方法で行うことができ、例えば、これら単量体を含有する混合物にジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のパーオキサイド類又はアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物から選択されるラジカル重合用開始剤を加え、加熱下(50〜150℃、特に70〜120℃で1〜10時間、特に3〜8時間)に反応させることにより容易に得られる。この場合、反応は有機溶媒の存在下で行うことができ、この有機溶媒としては、例えば、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエンなどを用いることができる。
【0049】
なお、このビニル系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量は、1,000〜300,000、特に5,000〜250,000であることが好ましい。分子量が大きすぎると粘度が高くなりすぎて合成しにくかったり、取り扱いづらくなる場合があり、小さすぎると塗膜の白化などの外観不良を引き起こしたり、十分な接着性、耐久性、耐候性が得られない場合がある。
【0050】
本発明のプライマー組成物における他の必須成分である、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)について説明する。
シリカ微粒子(B)は、有機溶剤に分散していれば特に制限はない。ここで、シリカ微粒子(B)は、粒子表面にSiOH基を有するため、(A)成分のビニル系重合体の加水分解性シリル基及び/又は該加水分解性シリル基が加水分解されたSiOH基との間でシロキサン架橋することにより、前記ビニル系重合体(A)の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と前記シリカ微粒子(B)表面のSiOH基との間のシロキサン架橋による有機−無機複合体を生成する。その結果、線膨張係数は低下する。
【0051】
このような有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)の有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン/n−ブタノールの混合物を挙げることができる。中でも成分(A)のビニル系重合体の溶解性を考慮すると、エチレングリコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が好ましい。
【0052】
またプライマー硬化被膜中での分散性及び透明性を考慮すると、シリカ微粒子(B)の一次粒子径は0.5〜100nmであるのが好ましい。より好ましくは2〜50nmがよい。100nmを超えると、シリカ微粒子(B)の本組成物中での分散安定性が低下したり、硬化被膜の透明性が著しく低下したりする場合がある。
【0053】
このような有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)としては、オルガノシリカゾルと称される有機溶剤に分散したコロイダルシリカが好ましい。特にエチレングリコール分散シリカゾル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル分散シリカゾル、エチルセロソルブ分散シリカゾル、ブチルセロソルブ分散シリカゾル、プロピレングリコールモノメチルエーテル分散シリカゾル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散シリカゾル、メチルエチルケトン分散シリカゾル、メチルイソブチルケトン分散シリカゾルが例示できる。
更に、前記有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0054】
なお、これらの有機溶剤に分散したコロイダルシリカとしては、市販品が用いられる。例えばこのような市販品として、後述する実施例1〜4で用いたPMA−ST、MEK−ST、MIBK−ST(いずれも日産化学工業(株)製)のほか、IPA−ST−L、IPA−ST−MS、EG−ST−ZL、DMAC−ST−ZL、XBA−ST(いずれも日産化学工業(株)製)、OSCAL1132、1332、1532、1722、ELCOM ST−1003SIV(いずれも触媒化成工業(株)製)を挙げることができる。
【0055】
有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)の配合量は、ビニル系重合体(A)の樹脂分100質量部に対し、シリカ微粒子(B)の固形分を0.1〜100質量部含有するのが好ましく、より好ましくは1〜50質量部含有するのがよい。シリカ微粒子(B)を、100質量部を超えて添加すると、本発明のプライマー組成物被覆層における架橋密度が高くなりすぎて、得られる被膜の硬度が高くなり、基材や該被覆層表面に積層したポリシロキサン系被膜との密着性が不良となったり、増粘・ゲル化し易くなるおそれがある。また、0.1質量部未満では得られる被膜の架橋密度が十分低くならず、期待した密着性、耐クラック性が得られない場合がある。
【0056】
本発明においては、前記加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)を単独で加水分解し、ビニル系重合体(A)中の加水分解性シリル基をSiOH基に変換、又は前記加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)と有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)とを混合してプライマー前駆体を調製し、これを加水分解して該プライマー前駆体中の加水分解性シリル基をSiOH基に変換する。これにより、本発明のプライマー組成物を硬化させる際に架橋が進行し易くなり、プライマー層の線膨張係数がより低下する。
【0057】
また、本発明のプライマー組成物は、前記加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)と、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)とを反応させた上記有機−無機複合体を含んでいることが好ましく、上述したように、予めこれらを加水分解し、ビニル系重合体(A)の加水分解性シリル基をSiOH基に変換しておくと、有機−無機複合体の形成が容易となる。
【0058】
前記加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)の加水分解は、水を用いて行う。水は特に制限はないが、酸性ないし中性が好ましい。水を酸性にする物質としては、プライマー被膜にした際に塗膜中に残存しないものが好ましい。プライマー被膜中に残存すると、期待した密着性、耐クラック性が得られない場合がある。より好ましくは有機酸がよく、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、しゅう酸等の有機カルボン酸を挙げることができる。中でも被膜中に残存しないような揮発性を考慮すると、ギ酸、酢酸が好ましい。
水の使用量は、プライマー前駆体又はビニル系重合体(A)に相溶し、均一になれば、特に制限はない。具体的にはビニル系重合体(A)中における加水分解シリル基の加水分解性基1モルに対して、5モル未満の水量であることが好ましく、0.1モル以上5モル未満の水量がより好ましく、更に好ましくは0.3モル〜3モルの水量である。水の使用量が多すぎると保存安定性が低下することがあり、保存中又は使用中に増粘もしくはゲル化する場合がある。
【0059】
加水分解は、公知の方法で行えばよいが、好ましくは0〜120℃で0.5〜24時間、特に20〜80℃で1〜10時間で行えばよい。
上記加水分解による加水分解率としては、3〜100%であることが好ましく、より好ましくは5〜95%である。
また、その測定方法は、例えば13C−NMR分析において、50.0〜50.5ppmに観測されるメトキシシリル基由来のピークと49.0〜49.5ppmに観測される加水分解で生じるメタノールに由来するピークの積分値を用いて、下記式より算出することができる。
加水分解率(%)=〔メタノール由来ピークの積分値/(メタノール由来ピークの積分値
+メトキシシリル基由来ピークの積分値)〕×100
加水分解性基がメトキシ基でない場合もこれに準じて求めることができる。
【0060】
なお、加水分解は、ビニル系重合体(A)及び有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を含むプライマー前駆体を得た後に行っても、またビニル系重合体(A)を単独で加水分解してもよく、単独で加水分解した場合は、その加水分解物に、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を添加する。
【0061】
本発明のプライマー組成物におけるもうひとつの必須成分である脱水剤(C)について説明する。上記加水分解性シリル基を含有するビニル系重合体(A)を予め加水分解すると、プライマー組成物は経時で増粘・ゲル化が顕著になるが、脱水剤を添加することで、増粘・ゲル化することなく、長期の保存安定性を確保することができる。脱水剤は、加水分解したプライマー組成物中の残存水分を取り除くことができれば、特に制限はないが、オルトカルボン酸エステル、ジアルキルカルボジイミド及び固体吸着剤から選ばれる少なくとも1種が例示でき、好ましくは、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの有機系脱水剤、アルミノケイ酸塩、シリカ、アルミナなどの無機系固体吸着剤が挙げられる。無機系固体吸着剤を脱水剤として使用する場合には、脱水後濾別する必要がある。プライマー組成物を被膜とする際に被膜中に残存しないことを考慮すると、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチルが特に好ましい。
上記の無機系固体吸着剤としては、市販品が用いられる。例えばこのような市販品として、モレキュラーシーブ3A、4A(和光純薬工業(株)製)などを挙げることができる。
【0062】
脱水剤(C)は上記加水分解物に添加するが、この場合、加水分解後の反応混合物中に添加することができる。脱水剤(C)の添加量としては、プライマー組成物中に残存する水分が取り除かれるような量でよく、好ましくは、水1モルに対して、脱水剤1〜20モルであり、2〜10モルが特に好ましい。脱水剤(C)を水1モルに対して20モルを超えて添加すると、プライマー組成物を被膜にする際に、外観異常が生じやすくなる。また1モル未満ではプライマー組成物中の残存水分を十分脱水できず、経時で増粘・ゲル化するなど期待した保存安定性が得られない場合がある。
【0063】
次に、本発明のプライマー組成物は、上記成分に加えて更に、(D)加水分解性ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解縮合物を含有することができる。この加水分解性ケイ素化合物としては、特に、分子内に窒素原子及びアルコキシシリル基を含有する有機ケイ素化合物が好ましい。
【0064】
(D)成分として使用される分子内に窒素原子及びアルコキシシリル基を含有する有機ケイ素化合物について説明する。この分子内に窒素原子及びアルコキシシリル基を含有する有機ケイ素化合物を配合することにより、プライマー組成物被膜層に耐水性の良好な接着性が付与されること、更に、加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)中の加水分解性シリル基及び/又はSiOH基と架橋するため、被膜が緻密化され、しかも有機ケイ素化合物中の窒素原子により、それらの架橋反応が促進されることにより被膜中の残存アルコキシシリル基量を低減できるため、経時での後架橋によるクラックを抑制でき、また他の添加剤、例えば紫外線吸収剤や必要に応じて添加される光安定剤などをプライマー組成物塗膜層中に効率よく固定化できる。
【0065】
この分子内に窒素原子及びアルコキシシリル基を含有する有機ケイ素化合物として、好ましくは一分子内に窒素原子を1個以上及びアルコキシシリル基を1個以上含有する化合物、より好ましくは一分子内に窒素原子を1個以上及びアルコキシシリル基を2個以上含有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、アミノ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有ジ(アルコキシシラン)、アミド基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシラン及びシリル化剤との反応生成物をアミド化したもの、アミノ基含有アルコキシシランとジカルボン酸無水物との反応生成物、アミノ基含有アルコキシシランと(多)(メタ)アクリル化合物との反応生成物、アミノ基含有アルコキシシランと(メタ)アクリル基含有アルコキシシランとの反応生成物、ポリアミン化合物と(メタ)アクリル基含有アルコキシシランとの反応生成物、アミノ基含有アルコキシシランと多イソシアネート化合物との反応生成物をアミド化したもの、イソシアヌレート環を含む(多)シラン化合物などが好適に使用されるが、より好ましくはアミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシラン及びシリル化剤との反応生成物をアミド化したもの、アミノ基含有アルコキシシランとジカルボン酸無水物との反応生成物が望ましい。
【0066】
これらの成分として使用されるものの具体例を下記に例示すると、アミノ基含有アルコキシシランとしては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(トリメトキシシリルプロピル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(トリエトキシシリルプロピル)アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(トリメトキシシリルプロピル)アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−(トリエトキシシリルプロピル)アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びその塩酸塩などが例示される。
【0067】
アミノ基含有ジ(アルコキシシラン)としては、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンなどが例示される。
【0068】
アミド基含有アルコキシシランとしては、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルメチルジメトキシシラン、ウレイドプロピルメチルジエトキシシランなどが例示される。
【0069】
ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル置換テトラヒドロ無水フタル酸、メチル置換ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル置換−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸などが例示される。
【0070】
(多)(メタ)アクリル化合物としては、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレート類、アクリルアミド、アクリルニトリル、エチレングリコールジメタクリレートなどが例示される。
【0071】
ポリアミン化合物としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ピペラジンなどが例示される。
【0072】
多イソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、trans−1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェートなどが例示される。
【0073】
(メタ)アクリル基含有アルコキシシランとしては、上述のアルコキシシリル基を含有するアクリル系単量体の例示化合物が挙げられる。
【0074】
イソシアヌレート環含有シランとしては、トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アリルイソシアヌレート、トリス(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを例示できる。
【0075】
アミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシラン及びシリル化剤との反応生成物をアミド化したものは、下記の方法により製造することができる。この場合、アミノ基含有アルコキシシランとしては、上記に示されたものが挙げられるが、接着性、操作性の点からN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどが好ましい。また、ここで使用されるエポキシ基含有アルコキシシランは特に限定されないが、反応性、操作性の点からγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランとすることが好ましい。なお、ここで使用されるシリル化剤としては、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ホルムアミド、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレアなどが例示されるが、このものはアミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシランとの反応により生成するOH基を保護してOH基とアルコキシシリル基との反応を防止し、この反応生成物の経時変化を防止するためのものである。
【0076】
このアミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシラン及びシリル化剤との反応は、アミノ基含有アルコキシシランとシリル化剤との混合物にエポキシ基含有アルコキシシランを滴下し、加熱反応させればよく、あるいはアミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシランとを反応させ、この反応生成物にシリル化剤を添加して反応させるようにしてもよい。反応条件は、適宜選定されるが、50〜150℃、特に80〜140℃で、1〜12時間、特に3〜8時間とすることが好ましい。
【0077】
なお、この反応におけるアミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシランの配合比はエポキシ基/アミノ基(=N−H)のモル比が0.3未満では一分子中の架橋に関与するアルコキシ基の数が少なすぎて硬化性が弱くなるし、分子全体の広がりがなくなり、面接着性が弱くなって接着性が劣るようになり、これが1.2を超えると、後述するアミド化においてアミド化し得る=N−H基が殆どなくなって耐水接着性が悪くなるおそれがあるので、0.3〜1.2の範囲とすることが好ましい。
【0078】
更に、この成分は、この反応生成物をアミド化したものとされるが、このアミド化は酢酸クロリド、酢酸ブロミド、プロピオン酸クロリド、無水酢酸、酢酸イソプロペニル、ベンゾイルクロリドなどで例示されるカルボン酸の酸ハロゲン化物、酸無水物、酸イソプロペニルエステル化合物と反応させればよい。
【0079】
アミノ基含有アルコキシシランとジカルボン酸無水物との反応生成物は、下記の方法により製造することができる。この場合、アミノ基含有アルコキシシランとしては、上記に示したものが挙げられるが、接着性、安定性の点から、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシランなどが好ましい。
【0080】
また、ジカルボン酸無水物としては、上記に示したものが挙げられるが、接着性、安定性の点から、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル置換テトラヒドロ無水フタル酸、メチル置換ヘキサヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル置換−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸などが好ましい。
【0081】
このアミノ基含有アルコキシシランとジカルボン酸無水物との反応は、ジカルボン酸無水物にアミノ基含有アルコキシシランを滴下し、反応させればよく、また逆にアミノ基含有アルコキシシランへジカルボン酸無水物を滴下、反応させてもよい。この場合の反応条件も、適宜選定され、0〜150℃、特に20〜120℃で、1〜12時間、特に2〜8時間とすることが好ましい。
【0082】
なお、この反応におけるアミノ基含有アルコキシシランとジカルボン酸無水物の配合比は、アミノ基(−NH2)/ジカルボン酸無水物のモル比が0.3未満では反応生成物中の架橋に関与するアルコキシ基の数が少なすぎて硬化性が弱くなると共に、密着性も低下するようになるおそれがあり、これが1.8を超えると、未反応のアミノ基含有アルコキシシランのアミノ基により、下塗り剤組成物としての保存安定性が低下するおそれがあるので、0.3〜1.8の範囲とすることが好ましい。
【0083】
加水分解性ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解縮合物(D)を配合する場合、前記ビニル系重合体(A)に、加水分解性ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解縮合物(D)を配合して共加水分解するものであり、その配合量は、(A)成分と(B)成分の固形分合計量100質量部に対して0〜50質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜30質量部である。(D)成分の配合量が多すぎると得られるプライマー被膜が硬くなりすぎて、上層のポリシロキサン硬質被膜との密着性が低下することがある。
【0084】
次に、本発明のプライマー組成物に任意に添加できる構成成分について説明する。
本発明のプライマー組成物には、熱可塑性ビニル系樹脂を配合してもよい。配合することで、プライマー組成物を硬化させた被膜に可撓性を付与することができると共に、該プライマー被膜が受ける環境温度変化、特に比較的高温領域での相変化や軟化現象を抑えることができ、プライマー被膜内部、及び積層する場合の上層被膜との界面での歪みを抑制でき、結果として上層の、例えばオルガノポリシロキサン系保護被膜のクラックを防止できること、更にプライマー被膜自身に耐熱性、耐水性を付与できる。
【0085】
この熱可塑性樹脂の配合量は、プライマー組成物中の有効成分(固形分換算で(A)成分と(B)成分の合計量、以下同じ)100質量部に対して0〜50質量部がよく、配合する場合、1〜50質量部、特に3〜45質量部とすることが好ましい。50質量部を超えて添加すると塗膜の架橋密度が低下するため、耐クラック性や硬度が低下する場合がある。
【0086】
本発明のプライマー組成物には、分子内に1個以上の環状ヒンダードアミン構造、もしくはヒンダードフェノール構造を有する光安定剤を添加してもよい。添加することにより、耐候性を向上させることができる。使用される光安定剤としては、プライマー組成物に用いた溶剤によく溶解し、かつプライマー組成物との相溶性がよく、また低揮発性のものが好ましい。
【0087】
光安定剤の具体例としては、3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−メチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジノールとトリデカノールとの縮合物、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β,β’−テトラメチル−3,9−(2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、また、光安定剤を固定化させる目的で、特公昭61−56187号公報にあるようなシリル化変性の光安定剤、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルトリメトキシシラン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルメチルジメトキシシラン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルトリエトキシシラン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ−4−プロピルメチルジエトキシシラン、更にこれらの(部分)加水分解物等が挙げられ、これらの光安定剤は2種以上併用してもよい。
【0088】
光安定剤の添加量は、プライマー組成物中の有効成分100質量部に対して0〜10質量部がよく、配合する場合、1〜10質量部とすることが好ましい。10質量部を超えて添加すると塗膜の密着性が低下する場合がある。
【0089】
上記プライマー組成物には、弊害を及ぼさない範囲で、有機系紫外線吸収剤を加えてもよい。この場合、上記プライマー組成物と相溶性が良好な有機系紫外線吸収剤が好ましい。特に、主骨格がヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系である化合物誘導体が好ましい。更に、側鎖にこれら紫外線吸収剤を含有するビニルポリマーなどの重合体でもよい。具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジエトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジプロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジブトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−プロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−ブトキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−t−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジンなどが例示される。これらの紫外線吸収剤は2種以上併用してもよい。
【0090】
有機系紫外線吸収剤の添加量は、プライマー組成物中の有効成分100質量部に対して0〜30質量部がよく、配合する場合、0.5〜30質量部とすることが好ましい。添加量が多すぎるとプライマー被膜の外観が白化したり、上層であるポリシロキサン硬質被膜との密着性が低下することがある。
【0091】
また、上記プライマー組成物に弊害を及ぼさない範囲で、無機系紫外線吸収剤として、機能性の金属酸化物微粒子を加えてもよい。この場合、プライマー組成物と相溶性、分散性が良好であり、かつ被膜化した際に、被膜が白濁せずに一定の透明性を保てるものであればよい。具体的には、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、アンチモン含有酸化スズ、スズ含有酸化インジウム、酸化鉄、アルミナなどの単一もしくはこれらの複合金属酸化物微粒子、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0092】
上記金属酸化物微粒子の配合量は、プライマー組成物中の有効成分の合計100質量部に対して0〜30質量部がよく、配合する場合、1〜30質量部とすることが好ましい。30質量部を超えると、被膜の透明性が低下する場合がある。
【0093】
上記プライマー組成物は、溶剤により任意に希釈されて使用される。この溶剤としては、ジアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエンなどが挙げられる。このプライマー組成物は、通常、上記溶剤で希釈され、プライマー組成物の有効成分濃度が5〜20質量%の溶液として使用されることが好ましい。
【0094】
また、塗膜の平滑化をはかるため、フロラードFC−4430(住友スリーエム(株)製)、KP−341(信越化学工業(株)製)等のフッ素系あるいはシリコーン系の界面活性剤を効果量添加してもよい。また、この塗膜の硬化を促進させるためにネオスタンU−810(日東化成(株)製)、B−7(日本曹達(株)製)、オルガチックスZA−60、TC−200(松本製薬(株)製)等の架橋硬化触媒を触媒量添加してもよい。
【0095】
このプライマー組成物溶液は、予め清浄化したプラスチックフィルム等の基材の表面に塗布し、上記希釈溶剤を室温あるいは加熱下で蒸発させて、厚さ0.5〜20μm、好ましくは1〜15μmの塗膜を形成させるようにすればよい。0.5μm未満では所望の耐候性が得られなくなり、20μmを超えると塗工性が低下するだけでなく、樹脂基材が本来有している機械的及び光学的特性を低下させたりする場合がある。
上記溶剤を加熱により蒸発させる場合、常温〜基材の耐熱温度までの範囲、特に50〜140℃で1分〜3時間、特に5分〜2時間加熱することが好ましい。
また、塗布方法は特に限定されないが、ロールコート、ディップコート、フローコート、バーコート、スプレーコート、スピンコートなどにより行うことができる。
【0096】
上記のように本発明のプライマー組成物を硬化させることで、線膨張係数が150×10-6/℃以下、特に125×10-6/℃以下のプライマー層を形成することができる。線膨張係数が大きすぎると温度変化に対して、塗膜の膨張や収縮といった動きが大きくなり、積層するポリシロキサン硬質被膜にクラックが発生し易くなったり、界面での接着性が低下したりする場合がある。線膨張係数の下限値は特に限定されないが、0/℃以上、特に1×10-6/℃以上である。なお、線膨張係数の測定方法は後述する通りである。
【0097】
このようにして得られる本発明のプライマー組成物による硬化被膜を設けたプラスチックフィルム、基板などのプラスチック成形品は、初期接着性、耐熱性、耐温水性、耐候性の優れたものとなるが、更に該プライマー被膜の上に公知のオルガノポリシロキサン組成物、例えば、下記一般式(1)
(R7mSi(OR84-m (1)
(式中、R7は炭素数1〜10の有機基、R8は水素原子又は1価の有機基を示し、mは0,1又は2である。)
で示されるオルガノオキシシランの1種類以上の加水分解物又は共加水分解物を塗布し、加熱硬化、特に好ましくは50〜140℃で5分〜3時間加熱硬化させると、このプラスチック成形品はその表面に本発明のプライマー組成物が塗布されていることから、このプライマー被膜とオルガノポリシロキサン被膜との相乗作用により、接着性、耐磨耗性も良好で、耐候性が優れるという有利性が与えられる。
【0098】
上記オルガノポリシロキサン組成物の塗布量は、加熱硬化後の厚さが0.2〜20μm、特に0.5〜15μmとなるように塗布することが好ましい。薄すぎると所望の硬度、耐磨耗性が得られない場合があり、厚すぎると硬化後にクラックが発生する場合がある。
なお、塗布方法は特に限定されないが、ロールコート、ディップコート、フローコート、バーコート、スプレーコート、スピンコートなどにより行うことができる。
【0099】
ここで、上記式(1)において、R7の有機基としては、炭素数1〜10の非置換又は置換1価炭化水素基、例えば、アルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルケニル基、又はこれらの炭化水素基の水素原子の一部がエポキシ基、(メタ)アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基などで置換された、またO,NH,NCH3等のヘテロ原子が介在された有機基などが挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、フェニル基、フェネチル基などのアリール基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等のハロゲン化アルキル基、p−クロロフェニル基などのハロゲン化アリール基、ビニル基、アリル基、9−デセニル基、p−ビニルベンジル基などのアルケニル基、3−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、9,10−エポキシデシル基などのエポキシ基含有有機基、γ−メタクリルオキシプロピル基、γ−アクリルオキシプロピル基などの(メタ)アクリルオキシ基含有有機基、γ−メルカプトプロピル基、p−メルカプトメチルフェニルエチル基などのメルカプト基含有有機基、γ−アミノプロピル基、(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基などのアミノ基含有有機基、β−シアノエチル基などのシアノ基含有有機基などを例示することができる。
【0100】
また、R8は水素原子又は炭素数1〜10の1価の有機基であり、有機基としてはアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基又はアシル基が挙げられ、アルキル基、アシル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、フェニル基、イソプロペニル基、メトキシエチル基、アセチル基等が例示される。
【0101】
これらの条件を満たすシラン化合物の具体例としては、
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリプロポキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−シアノエチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシ又はトリアシルオキシシラン類、
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ(2−メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロペノキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジ(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジイソプロペノキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、γ−プロピルメチルジメトキシシラン、γ−プロピルメチルジエトキシシラン、γ−プロピルメチルジプロポキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、β−シアノエチルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン又はジアシルオキシシラン類、
更に、テトラアルコキシシラン類の例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート及びt−ブチルシリケート等、
ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)デカン、ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリルオキシジメチルシリル)ベンゼン、1,8−ビス(トリメトキシシリル)−3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロオクタン等のビスシラン化合物を挙げることができる。
【0102】
これらのシラン化合物は、1種以上を用いて(共)加水分解すればよく、また、これらのシラン化合物の(共)加水分解物は1種単独で又は2種以上の混合物として使用することもできる。
【0103】
上記シラン化合物の(共)加水分解物は、例えば酸触媒存在下、そのシラン化合物の低級アルコール溶液に水を添加して加水分解を行うことによって得ることができる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等が例示される。更にそのアルコールと併用可能な溶媒としてはアセトン、アセチルアセトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類が例示される。
【0104】
また、オルガノポリシロキサン組成物に、1〜100nmのシリカ微粒子を水又はメタノール、エタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの溶剤に分散させたコロイダルシリカを固形分で5〜70質量%添加したコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物(ハードコーティング組成物)を塗布する方法が、耐擦傷性を向上するためにより好ましい。
【0105】
コロイダルシリカの添加方法としては、単純にオルガノポリシロキサン組成物に添加してもよいし、上記したシラン化合物と予め混合してから加水分解してもよい。また、水分散コロイダルシリカの場合、シラン化合物を加水分解する際に必要な水の一部もしくは全部として、水分散コロイダルシリカ中の水を利用して加水分解してもよい。
【0106】
オルガノポリシロキサン組成物に添加可能な紫外線吸収剤として、無機系のものとしては、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、アンチモン含有酸化スズ、スズ含有酸化インジウム、酸化鉄、シリカ、アルミナなどの単一もしくはこれらの複合金属酸化物微粒子、及びこれらの混合物;チタン、亜鉛、ジルコニウムなどの金属キレート化合物、及びこれらの(部分)加水分解物、縮合物;有機系のものとしては、主骨格がヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系である化合物誘導体、側鎖にこれら紫外線吸収剤を含有するビニルポリマーなどの(共)重合体などを挙げることができる。
更に、上記のオルガノポリシロキサン組成物の硬化触媒として、第四級アンモニウム塩、有機酸のアルカリ金属塩、アルミニウム、チタン、クロム及び鉄等のアルコキシドやキレート、過塩素酸塩、酸無水物、ポリアミン、ルイス酸等を触媒量添加してもよい。
【0107】
本発明のプライマー組成物は、各種プラスチック材料に好適に使用され、特にポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂、含硫黄樹脂、これら樹脂を2層以上積層した複合積層材料等に好適に使用される。
ポリシロキサン系硬質被膜を被覆したプラスチック材料は、光学特性に優れるため、光学材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0108】
以下、合成例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は質量%、部は質量部を示す。また、粘度はJIS Z 8803に基づいて測定した25℃での値である。水分量はカールフィッシャー法にて測定した値である。重量平均分子量は、標準ポリスチレンを基準としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。加水分解率は、13C−NMR分析において、50.0〜50.5ppmに観測されるメトキシシリル基由来のピークと49.0〜49.5ppmに観測される加水分解で生じるメタノールに由来するピークの積分値にて、下記式から算出した。
加水分解率(%)=〔メタノール由来ピークの積分値/(メタノール由来ピークの積分値
+メトキシシリル基由来ピークの積分値)〕×100
また、29Si−NMR分析において、下記のピークの消失及び出現によって、加水分解されているかを確認した。
−43〜−42.5ppmに観測されるピーク・・・トリメトキシシリル基由来
−42.5〜−42ppmに観測されるピーク・・・ジメトキシヒドロキシシリル基由来
−42〜−41.5ppmに観測されるピーク・・・メトキシジヒドロキシシリル基由来
−41.5〜−41ppmに観測されるピーク・・・トリヒドロキシシリル基由来
【0109】
<加水分解性シリル基と有機系紫外線吸収性基とが側鎖に結合したビニル系重合体(A)の合成>
[合成例1]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに溶剤としてジアセトンアルコール152gを仕込み、窒素気流下にて80℃に加熱した。ここに予め調製しておいた単量体混合溶液(2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−メタクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93、大塚化学(株)製)81g、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランを90g、メチルメタクリレート256.5g、グリシジルメタクリレート22.5g、ジアセトンアルコール350g)を混合したもののうち240g及び予め調製しておいた重合開始剤としての2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)2.3gをジアセトンアルコール177.7gに溶解した溶液のうち54gを順次投入した。80℃で30分反応させた後、残りの単量体混合溶液と残りの重合開始剤溶液を同時に80〜90℃で1.5時間かけて滴下した。更に80〜90℃で5時間撹拌した。
得られたトリメトキシシリル基及び有機系紫外線吸収性基が側鎖に結合したビニル系重合体の粘度は6,120mPa・s、またその共重合体中の紫外線吸収性単量体の含有量は18%、トリメトキシシリル基がC−Si結合を介して側鎖に結合したビニル系単量体量は20%であった。また、標準ポリスチレンを基準とするGPC分析による重量平均分子量は66,200であった。このようにして得られたビニル系重合体(溶液)をA−1とする。
【0110】
[合成例2,3、比較合成例1,2]
表1に示した組成で、合成例1と同様にして、ビニル系重合体A−2,3及び比較用ビニル系重合体RA−1,2を得た。
【0111】
<分子内に窒素原子と加水分解性シリル基を含有する有機ケイ素化合物の合成>
[合成例4]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン222gとシリル化剤としてのヘキサメチルジシラザン242gを仕込んで窒素気流下に120℃に加熱し、ここにγ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン496gを滴下して反応させ、120℃で5時間加熱撹拌した後、低沸点分を減圧下100℃で除去したところ、粘度1,387mPa・sの粘稠な化合物862gが得られた。
次いで、この反応生成物862gとトルエン862gを撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに仕込み、窒素気流下に室温でここに無水酢酸143gを滴下して反応させ、110℃で2時間加熱撹拌させたのち、50℃でメタノール141gを滴下し、50℃で1時間加熱撹拌し、次いで減圧下に100℃で低沸分を除去し、赤褐色透明で高粘稠な化合物を得た。
この化合物の赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、3,000cm-1以上の領域にOH基あるいはNH基に起因する吸収は認められず、1,650cm-1にアミド基に起因する強い吸収が認められた。
得られた化合物を不揮発分(JIS K 6833)が25%になるようプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)で希釈したものを、分子内に窒素原子とアルコキシシリル基を含有する化合物(溶液)C−1とする。
【0112】
<コロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物の合成>
[合成例5]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた1リットルフラスコにメチルトリエトキシシラン336g、イソブタノール94gを仕込み、氷冷下に撹拌しながら5℃以下に維持し、ここに5℃以下とした水分散コロイダルシリカ(スノーテックスO(平均粒子径15〜20nm)、日産化学工業(株)製、SiO220%含有品)283gを添加して氷冷下で3時間、更に20〜25℃で12時間撹拌したのち、ジアセトンアルコールを27g、プロピレングリコールモノメチルエーテルを50g添加した。次いで10%プロピオン酸ナトリウム水溶液を3g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーンKP−341(信越化学工業(株)製)0.2gを加え、更に酢酸にてpHを6〜7に調整した。そして、不揮発分(JIS K 6833)が20%となるようにイソブタノールで調製し、常温で5日間熟成して得られたコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物の粘度は4.2mm2/s、GPC分析による重量平均分子量は1,100であった。このものをコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物HC−1とする。
【0113】
[合成例6]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコにメチルトリメトキシシラン328g、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン10gを仕込み、撹拌しながら20℃に維持し、ここに水分散コロイダルシリカ(スノーテックスO(平均粒子径15〜20nm)、日産化学工業(株)製、SiO220%含有品)98g、0.25Nの酢酸水溶液230gを添加して3時間撹拌した。更に、60℃にて3時間撹拌後、シクロヘキサノン300gを添加し、常圧にて副生メタノールを留去した。次いでイソプロパノール300g、0.25%テトラブチルアンモニウムヒドロキシドのイソプロパノール溶液134g、レベリング剤としてポリエーテル変性シリコーンKP−341(信越化学工業(株)製)0.5gを添加し、更に不揮発分(JIS K 6833)が20%となるようにイソプロパノールで調整した。こうして得られたコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物の粘度は4.3mm2/s、GPC分析による重量平均分子量は2,300であった。このものをコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物HC−2とする。
【0114】
【表1】

【0115】
(注)
MPTMS :γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
RUVA−1:2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−メタクリロキシエチル)フェニル
]−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93、大塚化学(株)製)
RUVA−2:2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロキシエチル)ベンゾフェノン(BP
−1A、大阪有機化学工業(株)製)
MMA :メチルメタクリレート
GMA :グリシジルメタクリレート
VIAc :酢酸ビニル
MHALS :1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート
【0116】
以下にプライマー組成物としての実施例を挙げる。
[実施例1]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体A−1を477.7g[固形分換算で100質量部とする]、有機溶剤に分散したシリカ微粒子としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに分散したコロイダルシリカ(PMA−ST、固形分濃度30%、一次粒子径10〜15nm、日産化学工業(株)製)112.4g[固形分換算17.6質量部]、ジアセトンアルコールを827.3g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル187.4gを仕込み、25℃に維持しながらよく撹拌した。ここに脱イオン水5.6g[A−1中のメトキシシリル基1モルに対して0.7モル]を加え、25℃に保ちながら3時間撹拌した。その後、脱水剤としてオルトギ酸エチル138.1g[脱イオン水1モルに対して3モル]を添加し、更に、25℃にて3時間撹拌後、不揮発分(JIS K 6833)が12%となるようにジアセトンアルコールで固形分を調製した。このものをプライマー組成物P−1とする。
こうして得られたプライマー組成物P−1の粘度は32.3mm2/s、水分量は605ppm、13C−NMR分析による加水分解率は58%であった(図1 P−1)。また29Si−NMR分析では、−43〜−42.5ppmに観測されるトリメトキシシリル基由来のピークはほとんど消失し、替わりに−42.5〜−42ppm(ジメトキシヒドロキシシリル基由来)、−42〜−41.5ppm(メトキシジヒドロキシシリル基由来)、及び−41.5〜−41ppm(トリヒドロキシシリル基由来)のピークが観測された(図2 P−1)。
【0117】
[比較例1]
脱イオン水を添加しての加水分解操作及びオルトギ酸エチルを添加しての脱水操作を行わない以外は、実施例1と同じ操作を行った。このものをプライマー組成物PR−1とする。
こうして得られたプライマー組成物の粘度は24.0mm2/s、水分量は798ppm、13C−NMR分析による加水分解率は1%であった(図3 PR−1)。また29Si−NMR分析では、−43〜−42.5ppmに観測されるトリメトキシシリル基由来のピークはほとんど残っており、−42.5〜−42ppmに観測されるジメトキシヒドロキシシリル基由来のピークは僅かであった(図4 PR−1)。
【0118】
[比較例2]
オルトギ酸エチルを添加しての脱水操作を行わない以外は、実施例1と同じ操作を行った。このものをプライマー組成物PR−2とする。
こうして得られたプライマー組成物の粘度は35.1mm2/s、水分量は0.46%、13C−NMR分析による加水分解率は60%であった。
【0119】
[実施例2]
撹拌機、コンデンサー及び温度計を備えた2リットルフラスコに加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体A−1を477.7g[固形分換算で100質量部とする]、ジアセトンアルコール827.3gを仕込み、25℃に維持しながらよく撹拌した。ここに脱イオン水5.6g[A−1中のメトキシシリル基1モルに対して0.7モル]を加え、80℃に保ちながら5時間撹拌した。室温まで冷却後、有機溶剤に分散したシリカ微粒子としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに分散したコロイダルシリカ(PMA−ST、固形分濃度30%、一次粒子径10〜15nm、日産化学工業(株)製)112.4g[固形分換算17.6質量部]、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル187.4gを仕込み、25℃に維持しながら10時間撹拌した。その後、脱水剤としてオルトギ酸エチル138.1g[脱イオン水1モルに対して3モル]を添加し、更に、25℃にて3時間撹拌後、不揮発分(JIS K 6833)が12%となるようにジアセトンアルコールで固形分を調製した。このものをプライマー組成物P−2とする。
こうして得られたプライマー組成物P−2の粘度は30.7mm2/s、水分量は538ppm、13C−NMR分析による加水分解率は25%であった(図5 P−2)。また29Si−NMR分析では、−43〜−42.5ppm(トリメトキシシリル基由来)、−42.5〜−42ppm(ジメトキシヒドロキシシリル基由来)、−42〜−41.5ppm(メトキシジヒドロキシシリル基由来)、及び−41.5〜−41ppm(トリヒドロキシシリル基由来)のピークが観測された(図6 P−2)。
【0120】
[実施例3,4及び比較例3〜5]
実施例1と同様な操作を行い、表2,3に示した組成(固形分換算)を用いてプライマー組成物を得た後、加水分解及び脱水操作を行った。得られたプライマー組成物をそれぞれP−3(実施例3)、P−4(実施例4)、PR−3(比較例3)、PR−4(比較例4)、PR−5(比較例5)とした。またプライマー組成物の物性も表2,3に記した。
【0121】
なお、実施例及び比較例に用いた略号のうち、合成例で説明していない略号は以下の通りである。
<有機溶剤に分散したシリカ微粒子>
B−1 :プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに分散したコロイダ
ルシリカ(PMA−ST、固形分濃度30%、一次粒子径10〜15nm
、日産化学工業(株)製)
B−2 :メチルエチルケトンに分散したコロイダルシリカ(MEK−ST、固形分
濃度30%、一次粒子径10〜15nm、日産化学工業(株)製)
B−3 :メチルイソブチルケトンに分散したコロイダルシリカ(MIBK−ST、
固形分濃度30%、一次粒子径10〜15nm、日産化学工業(株)製)
【0122】
<脱水剤>
ゼオライト系固体吸着剤モレキュラーシーブ3A:(和光純薬工業(株)製)
【0123】
<熱可塑性樹脂>
POL−1 :ポリメチルメタクリレート樹脂(ダイヤナールBR−80、三菱レイヨン
(株)製)の40%ジアセトンアルコール溶液
【0124】
<有機系紫外線吸収剤>
UVA−1 :2−[2−ヒドロキシ−4−(1−オクチルオキシカルボニルエトキシ)
フェニル]−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリ
アジン(チヌビン479、チバ・ジャパン(株)製)
UVA−2 :2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(シーソーブ10
6、シプロ化成(株)製)
【0125】
<無機系紫外線吸収剤>
UVA−3 :酸化亜鉛微粒子の15%アルコール系溶剤分散液(ZNAP15WT%、
シーアイ化成(株)製)
【0126】
<ヒンダードアミン系光安定剤>
HALS−1:N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4
−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン(サンドバー3058Li
q.クラリアント・ジャパン(株)製)
【0127】
また、実施例中の各種物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
評価は、本発明のプライマー組成物、その硬化被膜単独、及び該硬化被膜の上にコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物層を順次硬化・積層させた積層膜について各種評価を行った。
【0128】
(1)保存安定性:プライマー組成物を、100mLポリビン中、室温で2週間保存した後の粘度を測定し、下記の基準で評価した。
[保存安定性]
○:2週間後の粘度と初期粘度との差が10mm2/s未満
△:2週間後の粘度と初期粘度との差が10mm2/s以上100mm2/s未満
×:2週間後の粘度と初期粘度との差が100mm2/s以上
【0129】
(2)線膨張係数:プライマー組成物1.5gをアルミカップに秤取り、室温にて8時間放置、揮発成分を除去した。次いでホットプレート上で80℃にて1時間、130℃にて1時間硬化させた。室温まで放冷後、アルミカップからプライマー硬化被膜を剥離させ、15mm×5mmの試験片を型抜きした(膜厚:約150μm)。
分析機器:TMA7000(ULVAC真空理工(株)製サーモメカニカルアナライザー)
温度条件:25〜150℃、5℃/分昇温
荷重: 5g
雰囲気: 空気
測定: 3回測定、35〜45℃の温度範囲の値を平均した。
【0130】
(3)初期塗膜外観:プライマー組成物層及びコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物層を順次硬化・積層した積層膜の試験片について塗膜外観を目視にて観察した。
【0131】
(4)一次密着性:JIS K 5400に準拠し、試験片をカミソリの刃で2mm間隔の縦横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作り、市販のセロハン粘着テープをよく密着させた後、90度手前方向に急激に剥がした時、被膜が剥離せずに残存したマス目数(X)をX/25で表示した。
【0132】
(5)耐水性及び耐水密着性:試験片を沸騰水中に2時間浸漬した後に、目視にて外観観察、及び前記(2)と同様にして密着性試験を行った。
【0133】
(6)耐擦傷性試験:ASTM1044に準拠し、テーバー磨耗試験機にて磨耗輪CS−10Fを装着し、荷重500g下で500回転後の曇価を測定した。耐擦傷性(%)は(試験後の曇価)−(試験前の曇価)で示した。
【0134】
(7)耐候性試験:岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターを使用し、[ブラックパネル温度63℃、湿度50%RH、照度50mW/cm2、降雨10秒/1時間で5時間]→[ブラックパネル温度30℃、湿度95%RHで1時間]を1サイクルとして、このサイクルを繰り返す条件で250時間、500時間の試験を行った。耐候性試験前後に、JIS K 7103に準拠して黄変度を、また耐候塗膜クラック、耐候塗膜剥離の状態を目視又は顕微鏡(倍率250倍)にて観察した。
【0135】
[耐候塗膜クラック]
耐候性試験後の塗膜外観を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:僅かにクラックあり
×:塗膜全体にクラックあり
【0136】
[耐候塗膜剥離]
耐候性試験後の塗膜の状態を下記の基準で評価した。
○ :異常なし
△1:コロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物層とプライマー組成物層との
間で一部剥離
△2:プライマー組成物層と基材との間で一部剥離
×1:コロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物層とプライマー組成物層との
間で全面剥離
×2:プライマー組成物層と基材との間で全面剥離
【表2】

【0137】
【表3】

【0138】
[実施例5〜8、比較例6〜10]
実施例1〜4及び比較例1〜5で得られたプライマー組成物を室温で1週間保存した後に、表面を清浄化した0.5mmポリカーボネート樹脂板(ユーピロンシート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)に硬化塗膜として約6〜8μmになるようにディップコーティング法にて、それぞれ塗布し、135℃にて30分硬化させた。更に該塗膜上に合成例5,6で作製したコロイダルシリカ含有オルガノポリシロキサン組成物(HC−1,2)、添加剤として、紫外線吸収剤(UVA−2,3)などを混合したものを、硬化塗膜として約2〜3μmになるようにディップコーティング法にて塗布し、135℃にて1時間硬化させた。このようにして得られた塗膜を試験片とし、各種物性評価の結果を表4,5に示した。
【0139】
【表4】

【0140】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】実施例1のプライマー組成物P−1の13C−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1のプライマー組成物P−1の29Si−NMRスペクトルである。
【図3】比較例1のプライマー組成物PR−1の13C−NMRスペクトルである。
【図4】比較例1のプライマー組成物PR−1の29Si−NMRスペクトルである。
【図5】実施例2のプライマー組成物P−2の13C−NMRスペクトルである。
【図6】実施例2のプライマー組成物P−2の29Si−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(I)〜(III)を含むことを特徴とするポリシロキサン硬質被膜形成用プライマー組成物の製造方法。
(I)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)及び有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を含むプライマー前駆体を調製する工程、
(II)(I)で得られたプライマー前駆体に水を加えて加水分解を行う工程、
(III)(II)で得られた加水分解物を含む組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
【請求項2】
下記の工程(IV)〜(VI)を含むことを特徴とするポリシロキサン硬質被膜形成用プライマー組成物の製造方法。
(IV)加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)に水を加えて加水分解を行う工程、
(V)(IV)で得られた加水分解物に、有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)を添加する工程、
(VI)(V)で得られた組成物に脱水剤(C)を添加して組成物中の水分を除去する工程。
【請求項3】
脱水剤(C)が、オルトカルボン酸エステル、ジアルキルカルボジイミド及び固体吸着剤から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
脱水剤(C)が、オルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル及びオルト酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
加水分解に使用する水の量が、ビニル系重合体(A)中の加水分解性シリル基の加水分解性基1モルに対して、5モル未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
更に、ビニル系重合体(A)に、加水分解性ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解縮合物(D)を配合して共加水分解することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
加水分解性ケイ素化合物及び/又はその(部分)加水分解縮合物(D)が、分子内に窒素原子及びアルコキシシリル基を含有する化合物であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
加水分解性シリル基及び有機系紫外線吸収性基がそれぞれ側鎖に結合したビニル系重合体(A)が、加水分解性シリル基がC−Si結合を介して結合したビニル系単量体(a−1)、有機系紫外線吸収性基を有するビニル系単量体(a−2)と、共重合可能な他の単量体(a−3)とからなる単量体成分を共重合して得られるビニル系重合体であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
有機溶剤に分散したシリカ微粒子(B)が、0.5〜100nmの範囲の一次粒子径を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
基材に、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により製造されたプライマー組成物を被覆、硬化させてなる被膜の表面に、ポリシロキサン硬質被膜を積層してなることを特徴とする被覆物品。
【請求項11】
ポリシロキサン硬質被膜が、
(R7mSi(OR84-m (1)
(式中、R7は炭素数1〜10の有機基、R8は水素原子又は1価の有機基を示し、mは0,1又は2である。)
で示されるオルガノオキシシランの1種類以上の加水分解物又は共加水分解物と、シリカ微粒子とを含むハードコーティング組成物から形成されることを特徴とする請求項10に記載の被覆物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−65076(P2010−65076A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229986(P2008−229986)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】