説明

プライマー組成物

【課題】透明性を阻害するような充填剤を含まない高透明シリコーンゴムとセラミック及び銀、金等の金属に対して優れた接着性を有するプライマー組成物を提供する。
【解決手段】シリコーンゴムと被着体とを一体成形させるためのプライマー組成物であって、1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物、オルガノオキシ基を含有する有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、縮合触媒、付加反応触媒及び溶剤を含有することを特徴とするプライマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴムと被着体とを良好に接着させることが可能なプライマー組成物に関し、より詳しくは、ゴムの強度アップのための通常シリコーンゴムに配合されている透明性に悪影響を与える煙霧質シリカ等の補強性充填剤を含まないシリコーンゴムと金属又は金属酸化物、更に従来から接着が難しいとされていた金、銀、白金などの貴金属類とを良好に接着させるためのプライマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムと金属との一体成型品は、シリコーンゴムの耐熱性などから各種ガスケットなどでの自動車用部品、レンジの窓枠シール、ポットのパッキンなどの家電類、複写機・プリンターの定着機周辺など幅広い分野に使用されてきた。近年、シリコーンゴムの電気、電子用途への応用が広がるに従い、電気接点に用いられる金、銀などの基材と、耐久疲労特性に優れるシリコーンゴムを接着させるプライマーの開発が望まれてきた。また最近では、発光ダイオード(LED)の高輝度化、高信頼性に伴い、電極に金や銀が使用されるだけでなくパッケージにセラミックが使用されるようになっている。
【0003】
従来、シリコーンゴムの接着対象に利用されるプライマー組成物は数多く提案されており、例えば特開昭52−32030号公報(特許文献1)には、テトラオルガノチタネート、エポキシ基含有アルコキシシラン、脂肪族不飽和結合含有有機ケイ素化合物、白金化合物、有機溶剤に可溶な重合体、有機溶剤からなる組成物が、特公昭61−2107号公報(特許文献2)には、アルコキシ基含有有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、ヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物からなる組成物が、特開平10−121023号公報(特許文献3)には、オルガノオキシ基含有の有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、ヒドロシリル基含有有機ケイ素化合物、及び/又は、1分子中に少なくとも1個のヒドロシリル基を有し、かつ非置換又は置換の2価又は3価の芳香環を1〜4個含有するか、又は炭素数2〜30のアルキレン基を有する有機ケイ素化合物、有機アルミニウム化合物を含有してなることを特徴とするプライマー組成物がそれぞれ提案されている。また、特開2005−344107号公報(特許文献4)には、1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物と溶剤とを含有することを特徴とするプライマー組成物が、金、銀、白金といった従来接着させることが困難であった金属とシリコーンゴムとを満足に接着させ、かつ接着性、接着耐久性(耐水蒸気性)も良好となるものであり、電気、電子部品等の広い分野で有効に利用することができると提案されている。
【0004】
従来のプライマー組成物では金や銀とシリコーンゴムの接着は不可能であったが、特開2005−344107号公報に提案されたプライマー組成物を使用した場合、金や銀と煙霧質シリカ含有シリコーンゴムを接着させることが可能となった。しかし、透明性を阻害するような充填剤を含まない高透明シリコーンゴムの場合、金・銀及び金属酸化物であるセラミックに対する満足な接着性が得られず、発光ダイオード(LED)パッケージ等に使用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−32030号公報
【特許文献2】特公昭61−2107号公報
【特許文献3】特開平10−121023号公報
【特許文献4】特開2005−344107号公報
【特許文献5】特開平10−120985号公報
【特許文献6】特開2007−146157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、透明性を阻害するような充填剤を含まない高透明シリコーンゴムとセラミック及び銀、金等の金属に対して優れた接着性を有するプライマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物、オルガノオキシ基を含有する有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、縮合触媒、付加反応触媒及び溶剤を含有するプライマー組成物が、充填剤を含まない高透明シリコーンゴムと接着させることが困難な金、銀等の貴金属やセラミック等とを良好に接着させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記プライマー組成物を提供する。
〔請求項1〕
シリコーンゴムと被着体とを一体成形させるためのプライマー組成物であって、1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物、オルガノオキシ基を含有する有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、縮合触媒、付加反応触媒及び溶剤を含有することを特徴とするプライマー組成物。
〔請求項2〕
1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物が、更に、エポキシ基を有することを特徴とする請求項1記載のプライマー組成物。
〔請求項3〕
(A)1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物: 10質量部、
(B)下記平均組成式(1)
1a2b(OR3cSiO(4-a-b-c)/2 (1)
(式中、R1は非置換又は置換1価炭化水素基、R2はエポキシ、(メタ)アクリル、アルケニル、アミノ、メルカプト又はアルコキシカルボニル官能性の官能基を有する1価の有機基、R3は非置換又は置換1価炭化水素基を示し、a、b、cは、0≦a≦3、0≦b≦3、0<c≦4、0<a+b+c≦4を満足する正数である。)
で示される、オルガノオキシ基含有の有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物: 0.5〜100質量部、
(C)縮合触媒: (B)成分100質量部に対し0.05〜50質量部、
(D)付加反応触媒、
(E)溶剤
を含有してなる請求項1又は2記載のプライマー組成物。
〔請求項4〕
一体成形される被着体が、金属又は金属酸化物である請求項1〜3のいずれか1項記載のプライマー組成物。
〔請求項5〕
一体成形される被着体が、貴金属である請求項4記載のプライマー組成物。
〔請求項6〕
一体成形されるシリコーンゴムが、補強性充填剤を含まない高透明付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化することによって得られたシリコーンゴムである請求項1〜5のいずれか1項記載のプライマー組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプライマー組成物は、金、銀、セラミックといった従来接着させることが困難であった金属及び金属酸化物と、充填剤を含まない高透明シリコーンゴムとを満足に接着させ、かつ接着性、接着耐久性(ヒートサイクル)も良好となるものであり、電気、電子部品等の広い分野で有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のプライマー組成物は、1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物、オルガノオキシ基を含有する有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、縮合触媒、付加反応触媒及び溶剤を含有するものであり、更に、1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物がエポキシ基を有することが好ましい。
【0011】
このようなプライマー組成物としては、
(A)1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物: 10質量部、
(B)下記平均組成式(1)
1a2b(OR3cSiO(4-a-b-c)/2 …(1)
(式中、R1は非置換又は置換1価炭化水素基、R2はエポキシ、(メタ)アクリル、アルケニル、アミノ、メルカプト又はアルコキシカルボニル官能性の官能基を有する1価の有機基、R3は非置換又は置換1価炭化水素基を示し、a、b、cは、0≦a≦3、0≦b≦3、0<c≦4、0<a+b+c≦4を満足する正数である。)
で示される、オルガノオキシ基含有の有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物: 0.5〜100質量部、
(C)縮合触媒: (B)成分100質量部に対し0.05〜10質量部、
(D)付加反応触媒、
(E)溶剤
を含有してなるものがより好ましい。
【0012】
以下に、(A)〜(E)成分について詳述する。
本発明において、1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物(A)は、接着性を付与させるために必須なものである。
【0013】
本発明の(A)成分は、分子中に芳香環(通常、1〜4価、好ましくは1〜2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等)を少なくとも1個、好ましくは1〜20個含有するものである。分子中に芳香環を有することで、基材への濡れ性が良好となり、シリコーンゴム及び各種基材(被着体)との界面での接着性が向上する。
【0014】
また、本発明の(A)成分としては、分子中にSi−H基(即ち、ケイ素原子に結合した水素原子)を少なくとも1個、通常1〜100個、好ましくは1〜50個、特には2〜20個程度含有するものである。このような化合物としては、ケイ素原子数1〜500、好ましくは1〜200、より好ましくは1〜50のオルガノシランや直鎖状又は環状構造等のオルガノポリシロキサン等の有機ケイ素化合物であるものが好適に使用できる。
【0015】
また、(A)成分は、グリシドキシ基等のエポキシ基を分子中に少なくとも1個有することが更に望ましい。このグリシドキシ基等のエポキシ基は、接着性を更に強固とするためのものであり、そのエポキシ当量は、好ましくは100〜5,000g/1mol、より好ましくは100〜2,000g/1mol、更に好ましくは120〜1,000g/1molの範囲である。エポキシ当量が100g/1mol未満では合成が困難となる場合があり、5,000g/1molを超えると接着性が不十分となるおそれがある。
【0016】
(A)成分として、特には、エポキシ当量が100〜5,000g/1mol、好ましくは100〜1,000g/1molで、分子中にフェニル骨格(即ち、2〜4価のフェニレン基)又はフェニル基を少なくとも1個有し、かつ分子中に少なくとも1個、通常1〜10個、特には2〜6個程度のSi−H基を含有する有機ケイ素化合物を好適に使用することができる。
【0017】
なお、本発明において(A)成分としては、エポキシ基を有していることが好ましいが、1分子中にSi−H基及び芳香環のみそれぞれ少なくとも1つ含む化合物であってもよく、その場合、(B)成分であるアルコキシ基含有シランにエポキシ基が含まれていれば、接着力を付与することが可能となる。
【0018】
本発明で使用される(A)成分として、具体的には下記のものが例示される。
【化1】

から選ばれる基であり、Rw,Rxは置換又は非置換の1価炭化水素基である。q=1〜50、h=0〜50、好ましくはq=1〜20、h=1〜10である。)で示される基、R''は
【化2】

(Rw,Rxは上記と同様であり、y=0〜100である。)から選ばれる基であり、Y’は
【化3】

(Rw,Rx,q,hは上記と同様である。)である。z=1〜10である。〕
【0019】
上記Rw,Rxの置換又は非置換の1価炭化水素基としては、炭素数1〜12、特に1〜8のものが好ましく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等、後述するR1で例示するものと同様のものが挙げられるほか、置換1価炭化水素基としてアルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、アルキルアミノ基等で置換したものが挙げられる。
【0020】
なお、上記接着性付与成分(A)は上記成分を単独で用いても併用してもよい。あるいは、上記成分の反応物でもよい。
【0021】
このような化合物としては、下記に示すものが挙げられる。
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
また、本発明においては、オルガノオキシ基含有の有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を配合する。この成分は(A)成分の働きを助け、金属への接着性を向上させるものであり、下記平均組成式(1)で示される有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(即ち、分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上の残存オルガノオキシ基を有するオルガノポリシロキサン)(B)であることが好ましい。
1a2b(OR3cSiO(4-a-b-c)/2 …(1)
(式中、R1は非置換又は置換1価炭化水素基、R2はエポキシ、(メタ)アクリル、アルケニル、アミノ、メルカプト又はアルコキシカルボニル官能性の官能基を有する1価の有機基、R3は非置換又は置換1価炭化水素基を示し、a、b、cは、0≦a≦3、0≦b≦3、0<c≦4、0<a+b+c≦4を満足する正数である。)
【0026】
上記式(1)中、R1は、好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜8の置換又は非置換の1価炭化水素基であり、脂肪族不飽和結合を有さないものが好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基や、これらの炭化水素基中の水素原子の一部又は全部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などによって置換されたクロロメチル基、2−ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、シアノエチル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノ置換アルキル基などが挙げられる。
【0027】
また、R2は官能基を有する1価の有機基であり、その官能基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、アミノ基、アミノアルキル置換アミノ基、メルカプト基、α−アルコキシカルボニル基などの付加反応性、縮合反応性を有する官能基が挙げられる。
【0028】
具体的には、
【化8】

(dは1〜8の整数)
で示されるグリシドキシプロピル基等のエポキシ置換アルキル基、
CH2=CH−
で示されるビニル基、
【化9】

(R4は水素原子又はメチル基、dは1〜8の整数)
で示される(メタ)アクリロキシプロピル基等の(メタ)アクリル置換アルキル基、H2N−(CH2d−(dは1〜8の整数)で示されるアミノプロピル基等のアミノ置換アルキル基、HS−(CH2d−(dは1〜8の整数)で示されるメルカプトプロピル基等のメルカプト置換アルキル基等を例示することができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。本発明においては、エポキシ基を少なくとも1つ含む化合物とアルケニル基を少なくとも1つ有する化合物の両方を配合することが好ましい。
【0029】
3は、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の非置換又は置換1価炭化水素基であり、R1で例示したものと同様のものを例示することができる。
【0030】
a、b、cは、0≦a≦3、0≦b≦3、0<c≦4、0<a+b+c≦4を満足する正数であり、好ましくは1≦a≦3、1≦b≦3、1≦c≦3、かつ1≦a+b+c≦4を満足する正数である。
【0031】
(B)成分としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基などのアルコキシシリル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、エステル基、無水カルボキシ基、アミノ基、アミド基等を有する有機ケイ素化合物が好ましく、より好ましくは分子中にエポキシ基を少なくとも1つ含有するものがよい。このような(B)成分としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン及びこれらの部分加水分解縮合物などが挙げられる。
【0032】
上記有機シラン化合物及びその部分加水分解縮合物の配合量は、(A)成分10質量部に対して0.5〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。この配合量が少なすぎると十分な接着性が得られない場合があり、多すぎると皮膜強度が低下してしまう場合がある。
【0033】
本発明においては、組成物中のオルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合した水素原子(Si−H基)の総量と、ケイ素原子に結合したアルケニル基の総量とのモル比(Si−H基/アルケニル基)が、0.9〜20、特に2〜15の範囲であることが好ましい。この比が小さすぎると後に硬化させるシリコーンゴムとの接着性が得られない場合があり、大きすぎると有効な接着皮膜が得られない場合がある。
【0034】
本発明では、更に縮合触媒(C)を配合する。縮合触媒としては、アミン系化合物、錫系化合物、チタン系化合物等があるが、特にチタン系の縮合触媒が効果的である。ここで、有機チタン化合物として具体的には、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ジエトキシチタンアセチルアセトナート、チタンジアセチルアセトナート、チタンオクチルグリコート、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、これらの部分加水分解縮合物等のチタン酸エステル類、チタンの部分アルコキシ化キレート化合物、チタンキレート化合物、チタンの珪酸エステルやそのキレート化物などが例示される。
【0035】
縮合触媒の配合量は、(B)成分100質量部に対して0.05〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20質量部、更に好ましくは1〜10質量部である。縮合触媒の配合量が少なすぎるとプライマー塗布後、プライマー成分の縮合反応が十分進行するために長時間の風乾時間を要する場合があり、多すぎると塗布直後から急速に縮合反応が進行して固まるために作業性が悪くなる場合がある。
【0036】
本発明のプライマー組成物には、付加反応触媒(D)を含む。これは、(A)〜(C)成分を加熱したときの反応促進剤であり、架橋されたプライマー皮膜を形成するために必要な白金族金属系触媒成分である。
【0037】
この白金族金属系触媒としては、ヒドロシリル化反応触媒として公知のものが全て使用できる。例えば、白金黒、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(式中、nは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。これらの中で、好ましいものとして、相溶性の観点及び塩素不純物の観点から、塩化白金酸をシリコーン変性したものが挙げられ、具体的には例えば塩化白金酸をテトラメチルビニルジシロキサンで変性した白金触媒が挙げられる。
【0038】
付加反応触媒の添加量は、触媒有効量であるが、通常、白金原子にして(A)〜(C)成分の合計中、質量換算で好ましくは1〜1,000ppm、より好ましくは3〜500ppm、特に好ましくは5〜100ppmである。
【0039】
本発明のプライマー組成物には、溶剤(E)を配合する。溶剤は、組成物の作業条件などを考慮してその種類及び配合量を調整することができ、このような溶剤としては、上記組成物が溶けるものであれば何でもよいが、例えばキシレン、トルエン、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、塩化メチレン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、リグロイン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ゴム揮発油、シリコーン系溶剤等の有機溶剤が挙げられ、プライマー塗布作業時の蒸発速度に応じ、1種又は2種以上を組合せて混合溶剤として用いてもよい。
【0040】
溶剤の配合量としては、塗布作業・乾燥工程に支障がない範囲であればいかなる量でも構わないが、例えば、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して100〜1,000質量部、好ましくは100〜900質量部である。
【0041】
本発明の組成物には、上記(A)〜(E)成分に加え、任意成分として硬化性、ポットライフを与えるための付加反応制御剤、直鎖あるいは環状のアルケニル基を含有する付加反応遅延剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。更に、本発明のプライマー組成物においては、本発明の目的を損なわない範囲で上記成分以外の公知の添加剤を適宜配合することは差し支えない。
【0042】
本発明のプライマー組成物は、前記各成分を常温下で均一に混合することにより容易に得ることができる。また、(A)〜(E)成分の混合物は、保存性を考慮して、2液あるいは3液に分けて保管し、使用直前に混合して使用することも可能である。
【0043】
本発明のプライマー組成物は、シリコーンゴムと被着体とを一体成形させるためのものであって、この場合、該プライマー組成物を清浄した接着用基体(被着体)面に適宜の方法、例えば「はけ塗り」や「スピンコート」などの手段で薄く塗布すればよい。ここで、塗布量は接着用基体表面にプライマー薄膜を形成させるのに十分な量とすればよく、通常0.1〜10μm、好ましくは0.5〜5μmの厚さであり、塗布量が多すぎると基体とシリコーンゴムとの接着性が低下することがある。更に塗布後は、室温に放置したのち、高温で焼付けを行うことが好ましく、例えば30分乃至それ以上時間をかけて風乾を行ってから150℃で15〜30分焼付けを行い、プライマー皮膜を硬化させてから、シリコーンゴムを120〜150℃で加熱成形して接着させることが好ましい。更に、シリコーンゴムと基材の間の接着を強固なものとするために、シリコーンゴムの加熱硬化・接着を行った後、アフターキュアしてもよい。アフターキュア条件としては、100℃以上、好ましくは120〜200℃、より好ましくは140〜160℃で、好ましくは30分以上、より好ましくは1〜24時間、特に好ましくは2〜10時間である。
【0044】
ここで、被着体である接着用基体としては、金、銀、白金等の貴金属に加え、セラミック等の金属酸化物、スチール、ステンレススチール、銅、アルミニウム、クロム、ニッケル、クロムメッキ鋼などの金属が挙げられる。またスチール等の金属やセラミック等の金属酸化物、プラスチックにメッキ等の表面処理を施すことにより、表面が金、銀、白金又はそれらを含有する金属で被覆されたものなども用いることができる。
【0045】
また、シリコーンゴムとしては、公知のシリコーンゴムを使用するもので、例えばジオルガノポリシロキサン生ゴムと充填剤とを主成分として有機過酸化物で硬化させる熱硬化型のシリコーンゴム組成物、ビニル基含有ジオルガノポリシロキサン生ゴムもしくはオイルとオルガノハイドロジェンポリシロキサンと充填剤とを主成分とし、白金系触媒によって加熱硬化させる付加硬化型のシリコーンゴム組成物を硬化することによって得られるシリコーンゴム等が挙げられるが、特に付加硬化型のシリコーンゴム組成物を硬化することによって得られるシリコーンゴムが好ましい。
本発明においては、金、銀、セラミック等との接着が困難であった、煙霧質シリカ等の補強剤などの透明性を阻害するような充填剤を含まない高透明付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化することによって得られるシリコーンゴムを好適に用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0047】
[実施例1〜6]
表1に示す成分を常温で均一になるように混合し、プライマー組成物を調製した。
[比較例1〜4]
表2に示す成分を常温で均一になるように混合し、プライマー組成物を調製した。
【0048】
[基材/シリコーンゴム一体成形品の準備]
基材として、幅25mm、長さ50mm、厚み0.2〜0.5mmの金メッキ基板、銀メッキ基板、セラミックを準備した。上記で得られたプライマー組成物を、各基材に刷毛にて1回塗布(不揮発成分がおよそ0.2mg/cm2)し、30分風乾した。次に、基材を150℃の乾燥機に入れ、30分オーブンキュアを行った。このプライマー硬化皮膜の上に、充填剤を含まない付加硬化型シリコーンゴム組成物(X−32−2965−3A/B、配合比100/100、信越化学工業(株)製)をゴムの厚みが2mmとなるように金属金型にて、100kgf/cm2の成形圧力で120℃/10分プレスキュアを行い、更に150℃/1時間オーブンキュアを行った。
【0049】
[接着評価]
接着試験は、基材の上に成形したゴムを1mm幅で碁盤の目のように切れ込みを入れ、側面からピンセットで強く圧迫して強制的に剥がす方法にて評価を行い、ゴム破壊:100%を○、ゴム破壊と界面剥離(20%未満)混在を△○、ゴム破壊と界面剥離(20%以上100%未満)混在を△、界面剥離:100%を×とした。また、この基材/シリコーンゴム一体成形品の初期接着性の評価と同様にして、耐熱衝撃性(100℃⇔−40℃/30分サイクル/100サイクル)試験後の接着性の評価を行った。結果を表1,2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
・溶剤:酢酸エチル/ヘプタン=7/3(質量比)
・接着助剤1
【化10】

【0053】
・接着助剤2
【化11】

【0054】
・オルガノオキシ基含有の有機シラン(アルコキシシラン1):γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業(株)製)
・オルガノオキシ基含有の有機シラン(アルコキシシラン2):ビニルトリメトキシシラン(商品名:KBM−1003、信越化学工業(株)製)
・縮合触媒:チタンテトラn−ブトキシド(モノマー)
・付加反応触媒:白金原子を1,2−ジビニル1,1,2,2−テトラメチルシロキサンのアルケニル基に配位させたもの、白金原子0.5質量%含有品
【0055】
表1,2の結果より、本発明のプライマー組成物は、接着性、接着耐久性(耐熱衝撃性)に優れ、金メッキ、銀メッキ、セラミック基材へシリコーンゴムを良好に接着させることが可能となり、過酷な環境条件下で使用する場合に有用なものであることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムと被着体とを一体成形させるためのプライマー組成物であって、1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物、オルガノオキシ基を含有する有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、縮合触媒、付加反応触媒及び溶剤を含有することを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
1分子中にSi−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物が、更に、エポキシ基を有することを特徴とする請求項1記載のプライマー組成物。
【請求項3】
(A)1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物: 10質量部、
(B)下記平均組成式(1)
1a2b(OR3cSiO(4-a-b-c)/2 (1)
(式中、R1は非置換又は置換1価炭化水素基、R2はエポキシ、(メタ)アクリル、アルケニル、アミノ、メルカプト又はアルコキシカルボニル官能性の官能基を有する1価の有機基、R3は非置換又は置換1価炭化水素基を示し、a、b、cは、0≦a≦3、0≦b≦3、0<c≦4、0<a+b+c≦4を満足する正数である。)
で示される、オルガノオキシ基含有の有機シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物: 0.5〜100質量部、
(C)縮合触媒: (B)成分100質量部に対し0.05〜50質量部、
(D)付加反応触媒、
(E)溶剤
を含有してなる請求項1又は2記載のプライマー組成物。
【請求項4】
一体成形される被着体が、金属又は金属酸化物である請求項1〜3のいずれか1項記載のプライマー組成物。
【請求項5】
一体成形される被着体が、貴金属である請求項4記載のプライマー組成物。
【請求項6】
一体成形されるシリコーンゴムが、補強性充填剤を含まない高透明付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化することによって得られたシリコーンゴムである請求項1〜5のいずれか1項記載のプライマー組成物。

【公開番号】特開2010−248434(P2010−248434A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101838(P2009−101838)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】