説明

プライマー組成物

【課題】プライマーとして、有機溶剤を用いず、被着体として、塗床等に使用される熱硬化性樹脂、タイル等の硬質無機材料に密着し、上塗り対象として前記熱硬化性樹脂やウレアウレタン樹脂等に使用できるプライマー組成物を提供する。。
【解決手段】下地と塗膜との密着力改善するために介在させるプライマー組成物であって、ウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンに、グリシジル基を有するシランカップリング剤を配合することで、下地が、エポキシ樹脂塗材、ウレタン樹脂塗材、ウレタンセメント樹脂塗材、アクリルウレタン樹脂塗材、アクリル樹脂塗材、無機硬質基材のいずれかであり、エポキシ樹脂塗材、ウレタン樹脂塗材、ウレタンセメント樹脂塗材、アクリルウレタン樹脂塗材、アクリル樹脂塗材、ウレアウレタン樹脂塗材上塗り塗材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の内装や外装には様々な素材が使用されている。これらの補修や塗り替えに、補修材や塗材に接着適性を持たせると本来の必要物性が得られないため、下地の素材と補修材、塗材にプライマーを介して密着性を確保する。できるだけ多くの被塗物に対応できるプライマーが望まれる。従来、被塗物の表面改質や密着適性がある樹脂を溶解させるため、溶剤を使用することが多かった。このため、臭気や環境汚染物質の放散があり、屋内施工環境の悪化があった。
【0003】
プライマーの被着体も難接着オレフィン等のシーリング材対象が多く、建築物の床材に使用される塗床のエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂塗床や外壁等に使用されるタイル即ち、磁器質、せっ器質、さらにこれらに機能性を付与する目的として釉が表面に塗布されている物を被着体とするものはなかった。
【0004】
特許文献1の発明は、塗装前に混合・使用される2材型のプライマーにあって、A成分として平均分子量700以下のエポキシ樹脂エマルション、B成分としてエポキシ樹脂の硬化剤、C成分としてアクリル系合成樹脂エマルションを含み、A成分とB成分+C成分あるいはA成分+C成分とB成分の形によりなるプライマー組成物、前記硬化剤が脂肪族アミン、アミドポリアミン、ポリアミド、ルイス塩基、芳香族アミンであるブライマー組成物、A成分ないしC成分を含む組成物が顔料成分を含む塗料化された組成であるプライマー組成物は、窯業系サィディング板、ALC板、珪酸カルシウム板などのサイディングおよび脆弱な下地の表面改質に用いられることを開示している。
【0005】
特許文献2の発明は、加水分解性ケイ素基含有単量体を多くとも8重量部、その他ビニル系単量体を少なくとも92重量部を用いて合成された主鎖が実質的にビニル系重合体鎖からなり、末端および(または)側鎖に加水分解性基と結合したケイ素含有基を1分子中に少なくとも1個有するシリル基含有ビニル系重合体および含有されていてもよい硬化触媒からなる組成物をベースとする無機質基材用プライマーで、従来のエポキシ系プライマーを用いたばあいの欠点であるALCのように多孔質で脆弱な表面に適用したばあい、塗膜はワレが生じやすく耐久性に劣るという欠点や、セメント押出成形板のように表面が緻密なものへの密着力が不充分であるという欠点や、低温で使用できないなどの欠点を解消することを開示している。
【0006】
特許文献3の発明は、水酸基及びアミノ基を有する自己乳化型カチオン性水分散液からなる主剤に、硬化剤としてエポキシ基含有オルガノシランを、該カチオン性水分散液のアミノ基と該オルガノシランのエポキシ基の当量比(アミノ基/エポキシ基)が0.5〜2.0の範囲となるように添加した、水系プライマー組成物で、各種窯業系サイディングボードに対して優れた付着性を有すると共に、各種上塗り塗料に対しても良好な付着性を有する、窯業系サイディングボード改修用水系プライマー組成物となることを開示している。
【0007】
特許文献4の発明は、ウレタン系防水材層と無機質仕上げトップコート層との間に用いる二液型水性層間プライマーにおいて、主剤が水性ポリウレタンポリオール水分散液であり、硬化剤が水性ポリイソシアネート化合物であり、主剤のヒドロキシル基と硬化剤のイソシアネート基の当量比OH/NCOが1:3〜2:1である水性層間プライマー、該水性層間プライマーを、ウレタン系防水材層の上に、樹脂分として10〜1,000g/m塗工したのち、無機質仕上げトップコートを塗工する無機質仕上げウレタン系防水工法、並びに、該水性層間プライマー層が形成され、その上に無機質仕上げトップコート層が塗り重ねられた複合塗膜層からなるウレタン系防水積層体で、ウレタン系防水材層と無機質仕上げトップコート層用プライマーとして、密着性、耐水性、低温特性に優れた水性層間プライマー、無機質仕上げウレタン系防水工法及びウレタン系防水積層体となることを開示している。
【0008】
特許文献5の発明は、(a)1分子中に少なくとも2個以上のメルカプト基を有するポリチオールと、(b)1分子中に、少なくとも1個以上のメルカプト基と反応性を有する官能基および少なくとも1個以上のアルコキシシリル基を有するシラン化合物と、水とを混合して、プライマー組成物で、金属、金属酸化物、ガラス、セラミックス、セメント、モルタルなどの無機基材とアクリル系樹脂との接着性に優れ、両者を接着させるプライマーとして好適に使用されるプライマー組成物となることを開示している。
【0009】
特許文献6の発明は、少なくとも下記(1)〜(3)のモノマー単位を有することを特徴とする水性プライマー用共重合体であり、(1)スチレン類と(2)(メタ)アクリル酸エステル類の質量比率が5/95〜60/40である水性プライマー用共重合体で、耐水性、防水性、及び密着性(基材補強性、耐久性)を備えた水性プライマー用共重合体及び水性プライマー組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平03−100082号公報
【特許文献2】特開平10−195338号公報
【特許文献3】特開2002−256221号公報
【特許文献4】特開2004−224825号公報
【特許文献5】再公表WO2009/113485号公報
【特許文献6】特開2011−74307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする課題は、プライマーとして、有機溶剤を用いず、被着体として、塗床等に使用される熱硬化性樹脂塗床、タイル等の硬質無機材料に密着し、上塗り対象として前記熱硬化性樹脂やウレアウレタン樹脂等に使用できるプライマー組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、下地と塗膜との密着力改善するために介在させるプライマー組成物であって、ウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンに、グリシジル基を有するシランカップリング剤を配合することを特徴とするプライマー組成物で1液で、水系で、下地への密着に優れ、上塗り塗膜の密着がよい。
【0013】
請求項2の発明は、前記下地が、エポキシ樹脂塗材、ウレタン樹脂塗材、ウレタンセメント樹脂塗材、アクリルウレタン樹脂塗材、アクリル樹脂塗材、無機硬質基材のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物で、塗り床材の塗り替え、内外壁の塗り替えなど、建築構造物の保護塗装ができる。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1に記載の塗膜が、エポキシ樹脂塗材、ウレタン樹脂塗材、ウレタンセメント樹脂塗材、アクリルウレタン樹脂塗材、アクリル樹脂塗材、ウレアウレタン樹脂塗材であることを特徴とする請求項1及び2いずれかに記載のプライマー組成物で、塗膜形成目的、対象を広げることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプライマー組成物は、1液型で、水系で、下地への密着に優れ、上塗り塗膜の被密着性がよく、塗り床材の塗り替え、内外壁の塗り替えなど、建築構造物の保護塗装が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は下地、プライマー、上塗り材の構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明はウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンにグリシジル基を有するシランカップリング剤を配合されたプライマー組成物が難接着である熱硬化性樹脂や無機質硬質材料に接着性が良く、このプライマー層が上塗り塗材となる硬化応力が発生する熱硬化性樹脂塗材を塗布しても密着性を維持できることである。
【0018】
作用効果は明確ではないが、ウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンの製造方法で、界面活性剤を使わないエマルジョンであり、シードとなる樹脂、官能基が水媒体側にあり、この対イオンを形成するものとグリシジル基を有するカップリング剤が複合的に作用し、これが、下地基材への密着性とプライマー層が形成後、被着体として上塗りの塗材応力にも耐えているものと考えられる。
【0019】
ウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンは特開平5−132535号(米国特許5173526号)に基づくもので、概略を以下に記す。(a)カルボキシル基含有の、水分散性のイソシアネートを末端基とするポリウレタンプレポリマーを形成させ、(b)プレポリマーに、ポリエチレン系不飽和モノマーを含有するビニルモノマー組成物を加えてプレポリマー/モノマー混合物を形成させ、(c)プレポリマーを水分散性にするのに充分な量の第三アミンをプレポリマー/モノマー混合物に加え、(d)プレポリマー/モノマー混合物を水に分散させ、(e)水性分散液に油溶性の遊離基ラジカル開始剤と連鎖−伸長剤を加え、そして、(f)水性分散液を加熱してビニルモノマーを重合させ、そしてプレポリマーの連鎖伸長させる方法で、(a)はイソシアネートを末端基とするポリウレタンプレポリマーを形成させ、そしてそれを酸基−含有ジオールと反させるてもより、また(b)のビニルモノマー組成物はC1〜C6アルキル(メト)アクリレートである少なくとも1個のモノマー、スチレンまたはその混合物およびC2〜C6ジオールのジアクリレートであるポリエチレン系不飽和モノマーを含有するビニルモノマー組成物である。
【0020】
前記方法で得られたウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンは前記ビニルモノマー組成物の選択と組成率で硬軟選択ができ、固形分が高く、成膜後は耐水性がよい。これらの市販品にハイブリデュールHY570(エアプロダクツ社、商品名、伸び率200%)、ハイブリデュールHY580(同前、伸び率120%)、ダイトサイザーPU−060(大都産業(株))等がある。
【0021】
本発明で必須要素のグリシジル基を有するシランカップリング剤はアルコキシシランに1官能以上のグリシジル基を有するもので、他の官能基では組成物の安定性が得られないか、密着性で効果が得られない。ウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンの固形分に対して、0.5〜3.0重量%が好ましい。この範囲で、組成物の安定性、効果が成り立つ。
【0022】
以下に実施例、比較例にて、詳細に説明する。
【0023】
プライマー組成物の安定性及び無機硬質基材について
【実施例1】
【0024】
ハイブリデュールHY580(固形分40%)100重量部にDynasylanGLYMO(エボニック デグサ社、商品名、3−グリシドキシプロピトリメトキシシラン)を1重量部を配合し、実施例1のプライマー組成物とした。
【0025】
比較例1
実施例1の GLYMOを AMEO(エボニック デグサ社、商品名、3−アミノプロピルトリエトキシシラン)に変えた以外、実施例1と同じに行い比較例1のプライマー組成物とした。
【0026】
比較例2
実施例1の GLYMOを AMMO(エボニック デグサ社、商品名、3−アミノプロピルトリメトキシシラン)に変えた以外、実施例1と同じに行い比較例2のプライマー組成物とした。
【0027】
比較例3
実施例1の GLYMOを DAMO(エボニック デグサ社、商品名、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)に変えた以外、実施例1と同じに行い比較例3のプライマー組成物とした。
【0028】
比較例4
実施例1の GLYMOを MEMO(エボニック デグサ社、商品名、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)に変えた以外、実施例1と同じに行い比較例4のプライマー組成物とした。
【0029】
比較例5
実施例1の GLYMOを VTMO(エボニック デグサ社、商品名、ビニルメトキシシラン)に変えた以外、実施例1と同じに行い比較例5のプライマー組成物とした。
【0030】
比較例6
実施例1の GLYMOを 9165(エボニック デグサ社、商品名、フェニルトリメトキシシラン)に変えた以外、実施例1と同じに行い比較例6のプライマー組成物とした。
【表1】

【0031】
組成物液状態:
実施例、比較例のプライマー組成物を混合後の液安定性で下記で評価した。
混合後、72時間後、増粘なく、沈降物もないものを○とした。
上記以外(凝集)を×とした。
塗膜乾燥性:
*1、オーロラタイル(ダントー(株)、商品名、磁器タイル)、*2、モルタルブロックに実施例、比較例のプライマー組成物を2.0kg/m塗布し、23℃ 相対湿度50%で7日間乾燥後外観を観察し、乾燥性を評価した。
塗膜が、割れ等の欠点なく成膜したものを○とした。
上記以外を×とした。
【0032】
密着性:
塗膜乾燥評価後、塗膜に切れ込みを入れ、そこから皮スキで強制的に塗膜を剥がし、下記、評価を行った。
剥がれる面を認められなものを○とし、
面として剥がれるものが、多いものを×とし、
上記○と×の中間のものを△とした。
【実施例2】
【0033】
実施例1のハイブリデュールHY580をダイトサイザーPU−060(大都産業(株)、商品名、固形分40%)に変えた以外同じく行い実施例2のプライマー組成物とした。
【0034】
比較例7
実施例1のDynasylanGLYMOを無配合とした以外実施例1と同じく行い比較例7のプライマー組成物とした。
【0035】
比較例8
実施例2のDynasylanGLYMOを無配合とした以外実施例2と同じく行い比較例8のプライマー組成物とした。
【0036】
比較例9
JUU−170(アイカ工業(株)、商品名、溶剤系アクリルエポキシ樹脂)を比較例9のプライマー組成物とした。
【0037】
【表2】

【0038】
*3は釉あり、*4は釉なし
【0039】
【表3】

【0040】
評価方法
無溶剤型エポキシ樹脂塗材として、ジョリエースエコJE−20(アイカ工業(株)、商品名、エポキシ樹脂塗り床材) 、軟質無溶剤型ウレタン樹脂塗材として、ジョリエースエコJU−20(アイカ工業(株)、商品名、伸び250%、ウレタン樹脂塗り床材)、硬質無溶剤型塗材として、アイカピュールJJ-103(アイカ工業(株)、商品名、伸び66%、ウレタン樹脂塗り床材)、溶剤型アクリルウレタン樹脂塗材として、ジョリエースJUX−27(アイカ工業(株)、商品名、溶剤型アクリルウレタン)、水系アクリル樹脂エマルジョン塗材として、ジョリパットJP−100(アイカ工業(株)、合成樹脂エマルジョン型建築仕上用塗材)をそれぞれ基材としてスレート平板に塗布し、下地とし、実施例1、実施例2のプライマー組成物を2.0kg/m塗布し、23℃相対湿度50%で7日間乾燥後、下地と同じ塗材を上塗り塗材とした。下地、上塗り塗材とも固形分として1kg/mとし、下地、上塗り塗材とも23℃相対湿度50%7日間静置させた。この試験体を前記密着性と同じに評価した。

【符号の説明】
【0041】
1 上塗り塗材
2 プライマー
3 下地
4 基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地と塗膜との密着力改善するために介在させるプライマー組成物であって、ウレタン樹脂自己乳化分散体をシードとするアクリル樹脂系エマルジョンに、グリシジル基を有するシランカップリング剤を配合することを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
前記下地が、エポキシ樹脂塗材、ウレタン樹脂塗材、ウレタンセメント樹脂塗材、アクリルウレタン樹脂塗材、アクリル樹脂塗材、無機硬質基材のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の塗膜が、エポキシ樹脂塗材、ウレタン樹脂塗材、ウレタンセメント樹脂塗材、アクリルウレタン樹脂塗材、アクリル樹脂塗材、ウレアウレタン樹脂塗材であることを特徴とする請求項1及び2いずれかに記載のプライマー組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2013−87211(P2013−87211A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229620(P2011−229620)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】