説明

プライミング装置機能付き細胞分離装置およびそれを用いたプライミング法。

【課題】各血球成分を含む体液から細胞分離器を用いて特定の細胞を分離する手段において、簡便で効率的なエアー抜きを可能とするプライミング装置の付いた細胞分離装置とそれを用いたプライミング方法を提供する。
【解決手段】細胞分離器の上流側にプライミング液を含む容器と接続可能な回路とコネクターを有する、または、プライミング溶液を収容する容器を含み、尚且つ、細胞分離器の下流にシリンジと接続可能な回路とコネクターを有する装置を用いることにより、短時間且つ効率的にプライミングすることが出来る。細胞分離器の上流のコネクターとプライミング液を含む容器とを接続する、プライミング溶液を収容する容器にプライミング溶液を注入し、細胞分離器の下流をシリンジと接続した状態で、下流回路に接続したシリンジで細胞分離器内を陰圧にすることにより、プライミング液を高流速で細胞分離器及び回路内に導入し、プライミング液で満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢血、臍帯血、骨髄、組織抽出物、月経血など各血球成分を含む体液、及び、それらを粗分離した体液から細胞分離器を用いて特定の細胞を分離する手段において、簡便で効率的なエアー抜きを可能とするプライミング装置機能が付いた細胞分離装置とそのプライミング方法及び細胞分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血液学や科学テクノロジーの急速な進歩に伴い、全血・骨髄・臍帯血・組織抽出物をはじめとする体液から必要な血液分画のみを分離して患者に投与することで治療効果をより高め、さらに、治療に必要のない分画は投与しないことで副作用をより抑制する、という治療スタイルが広く普及している。
【0003】
例えば、血液輸血もその1つである。赤血球製剤は、出血および赤血球が不足する状態、または赤血球の機能低下により酸素が欠乏している場合に使用される血液製剤である。そのため異常な免疫反応や移植片対宿主病(GVHD)などの副作用を誘導する白血球は不要であり、除去する必要がある。場合によっては白血球に加えて血小板も除去することもある。
【0004】
一方、血小板製剤は、血液凝固因子の欠乏による出血ないし出血傾向にある患者に使用される血液製剤である。遠心分離により、血小板以外の不要な細胞や成分は除去され、必要とされる血小板成分のみを採取している。
【0005】
加えて近年、白血病や固形癌治療に向けた造血幹細胞移植が盛んに行われるようになり、治療に必要な細胞(造血幹細胞を含む白血球群)を分離し投与するようになってきた。この造血幹細胞のソースとして、ドナーの負担が少ない、増殖能力が優れている等の利点から、骨髄や末梢血に加えて臍帯血も注目を浴びている。また近年、月経血中にも幹細胞が豊富に存在することが示唆され、これまで廃棄されていた月経血も貴重な幹細胞ソースとして利用される可能性がある。
【0006】
骨髄や末梢血に関して、不要な細胞を除き白血球を分離・純化して投与することが望まれている一方で、臍帯血についても血縁者のためのバンキングが盛んになり、使用時まで凍結保存する必要性から、凍結保存による赤血球溶血を防ぐことを目的に白血球は分離・純化されている。
【0007】
分離方法としてはフィコールを用いた比重液による遠心分離法や赤血球沈降剤であるヒドロキシエチルスターチを用いた遠心分離法が提案されているが、閉鎖系での処理が不可能であり異物や菌が混入すること、処理するのに要する時間長いことなどの問題を有している。
【0008】
遠心分離法を用いない細胞分離方法として、最近では、赤血球と血小板は捕捉されず白血球のみを捕捉するフィルター材料を用いて白血球を回収する方法(特許文献1、特許文献2)、白血球及び赤血球を実質的に通過させることが可能である細胞分離材を用いた成体幹細胞分離方法(特許文献3)などが報告されている。
【0009】
これらの細胞分離材を用いて特定の細胞を分離する際に、体液を細胞分離材に接触させる前工程として、細胞分離材をプライミングする場合がある。
【0010】
プライミングとは、細胞分離材、細胞分離材が充填された細胞分離器、及び、その回路内を生理食塩水、緩衝液、または輸液などで満たす操作を言い、細胞分離器内や回路内のエアーを抜き、体液の流路を確保することを目的とする。特に、疎水性が高い細胞分離材を用いる場合には、プライミングを行うことが望ましい。
【0011】
しかしながら、通常の輸液ポンプでは専用の長い回路が必要であること、そして、細胞分離器や回路内を十分にプライミングすることが出来ず、エアーが残ってしまうこと、多量の液を流し多くの時間を費やさないと十分にプライミング出来ないこと、等の時間的、経済的な問題があった。また、シリンジ等で液をフラッシングして導入すると、菌が混入する危険性が高まってしまうという問題も存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2001−518792
【特許文献2】国際公開番号WO98/32840
【特許文献3】特願2006−202026
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、各血球成分を含む体液、及び、それらを粗分離した体液から細胞分離器を用いて特定の細胞を分離する手段において、簡便で効率的なエアー抜きを可能とするプライミング装置機能が付いた細胞分離装置とそのプライミング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、従来は容易に実現することが困難であった、無菌的な操作で短時間且つ効率的にプライミングすることが可能な細胞分離装置と、それを用いた細胞分離方法に関して鋭意検討を行った。
【0015】
その結果、細胞分離器の上流側にプライミング溶液を収容する容器と接続可能なコネクターを有する、または、プライミング溶液を収容する容器を含み、かつ、細胞分離器の下流側に減圧装置と接続可能なコネクターを有するプライミング装置を用いることにより、無菌的な操作で短時間且つ効率的にプライミングすることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち本発明は、以下に記述したプライミング装置機能が付いた細胞分離装置とそのプライミング方法に関する。
(1)細胞分離器の上流側に、プライミング溶液を収容する溶液と接続可能なコネクターを有する、または、プライミング溶液を収容する容器を含み、かつ、細胞分離器の下流側に、減圧手段と接続可能なコネクターを有することを特徴とする、細胞分離装置。
(2)減圧手段と接続可能なコネクターが、回収液導入用のコネクターと共有していることを特徴とする、(1)記載の細胞分離装置。
(3)細胞分離器の上流側に、体液が導入される容器を含んでいる、または、体液が導入される容器と接続可能なコネクターを有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の細胞分離装置。
(4)細胞分離器の下流側に、細胞分離器の通過液を収容するための容器を含むことを特徴とする、(1)から(3)のいずれかに記載の細胞分離装置。
(5)細胞分離器の上流側に、細胞分離器に捕捉された目的細胞を回収して収容するための容器を含むことを特徴とする、(1)から(4)のいずれかに記載の細胞分離装置
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の細胞分離装置を用いることを特徴とする、細胞分離方法。
(7)さらに、プライミング操作を含むことを特徴とする、(6)記載の細胞分離方法。
(8)細胞分離器の上流側のコネクターとプライミング溶液を収容する容器を接続し、さらに細胞分離器の下流側のコネクターとシリンジとを接続した後、下流に接続したシリンジを用いて細胞分離器内を陰圧にしてプライミングすることを特徴とする、(7)記載の細胞分離方法。
(9)プライミングを行った後に、細胞分離器に体液を導入して目的細胞を分離することを特徴とする、(6)から(8)のいずれかに記載の細胞分離方法。
(10)(1)から(5)のいずれかに記載の細胞分離装置、または、(6から(9)のいずれかに記載の細胞分離方法を用いて分離された細胞。
【0017】
この細胞分離装置と細胞分離方法を用いると、従来より短時間かつ簡便な操作で特別な機器を用いる必要無く、細胞分離装置内を閉鎖系でプライミングすることが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、末梢血、臍帯血、骨髄、組織抽出物、月経血など各血球成分を含む体液またはそれらを粗分離した体液中から特定の細胞、例えば有核細胞、単核球、造血幹細胞、間葉系幹細胞などを分離する細胞分離手段において、閉鎖的な操作で短時間且つ効率的にプライミングすることが可能であり、プライミング操作後の細胞分離操作をより効率的に行うことが可能であり、有核細胞や成体幹細胞の分離などに適用されうる。従って、本発明は再生医療などの分野への幅広い利用が期待される
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】細胞分離装置の例
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0021】
本発明における体液とは、末梢血、骨髄、臍帯血、月経血、組織抽出物を意味し、それらを粗分離したものであっても構わない。また動物種に関しても制限は無く、ヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、サル、イヌ、ネコなど哺乳動物であれば何であっても構わない。さらに体液の抗凝固剤の種類も問わず、ACD(acid-citrate-dextrose)液、CPD(citrate-phosphate-dextrose)液、CPDA(citrate-phosphate-dextrose-adenine)液などのクエン酸抗凝固であってもヘパリン、低分子ヘパリン、フサン(メチル酸ナファモスタット)、EDTAで抗凝固していても良い。使用する目的に応じて影響がなければ体液の保存条件も一切問わない。
【0022】
本発明において、細胞分離器に充填される細胞分離材は特に制限されないが、滅菌耐性や細胞への安全性の観点からは、ポリエチレンテレフタート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリプロピレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート)、ナイロン、ポリイミド、アラミド(芳香族ポリアミド)、ポリアミド、キュプラ、カーボン、フェノール、ポリエステル、パルプ、麻、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの合成高分子、アガロース、セルロース、セルロースアセテート、キトサン、キチンなどの天然高分子、ガラスなどの無機材料や金属等が挙げられる。
【0023】
好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリウレタン、ガラスである。これらの材料は一種類の単独とは限らず、必要に応じて材料を複合・混合・融合して用いても良い。さらには必要ならば、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、糖類など特定の細胞に親和性のある分子を固定しても構わない。
【0024】
本発明の細胞分離装置は効率的なプライミングを可能とする機能を付与する目的で細胞分離器の上流側にプライミング溶液を収容する容器と接続可能なコネクターを有する、またはプライミング溶液を収容する容器を含み、かつ、細胞分離器の下流側に減圧手段と接続可能なコネクターを有することを特徴としている。
【0025】
細胞分離器の上流側とは、体液を細胞分離器に導入する液の入口側のことを指し、細胞分離器の下流側とは、細胞分離器に導入した体液を排出する出口側のことを指す。
【0026】
細胞分離器の上流側には、プライミング溶液を収容する容器と接続することが可能なコネクターを有する、または、プライミング溶液を収容する容器を含むと同時に、体液が収容された容器と接続することが可能なコネクター、または、体液を収容するための容器も備えていることが好ましい。また、1つのコネクターが、上記プライミング溶液用と体液用を共用するものであっても、プライミング溶液を収容する容器が、体液を収容する容器を共用するものであっても構わない。
【0027】
プライミング溶液の容器等と接続可能なこのコネクターは、びん針であることが望ましいが、それに限定されず容器に接続できる構造を持つものであれば良い。また、このコネクターは、チューブを介して細胞分離器に接続されても良いし、直接細胞分離器に接続されていても良いが、チューブを介している方が、操作性が高まるためより好ましい。チューブを介して接続されている場合、プライミング溶液や体液の流路切り替えが出来るように更に三方活栓、クランプ、クレンメが付属していることが好ましい。
【0028】
細胞分離器の下流側のコネクターは、減圧手段と接続可能なコネクターを有するが、減圧手段としては、細胞分離器内を減圧にできれば良く、シリンジ等を用いるのが簡便で好ましい。そのため、このコネクターは、ルアスリップ型シリンジまたはルアロック型シリンジを問わず接続出来ることが好ましい。
【0029】
捕捉された細胞を回収する方法は、一般的に体液導入とは逆方向から回収液を導入する。つまり、細胞分離器の体液の出口側、本発明における下流側から回収液を導入し、上流側より細胞分離器に捕捉された細胞を回収する。従って細胞分離器の下流側には、減圧手段と接続可能なコネクターに加えて、細胞分離器に捕捉された細胞を回収するための回収液導入用のコネクターを持つことが好ましい。
【0030】
回収液導入方法は特に問わないが、シリンジを用いて回収することが一般的であることから、このコネクターは減圧手段と接続可能なコネクターと同じく、シリンジに接続出来る構造を持つことが好ましい。よって、減圧手段と接続可能なコネクターと回収液導入用のコネクターは共有していてもよいが、本発明においては必ずしも両者が共有している必要は無く、例えば三方活栓および、又はチューブを介して別に付属していても良い。
【0031】
また、細胞分離器の下流側には、減圧手段と接続可能なコネクターまたは回収液導入用のコネクターと別に、細胞分離器を通過した体液、及び、必要に応じて細胞分離器内の夾雑成分を除去するために使用された細胞分離器を通過した洗浄溶液を収容するための容器(廃液バッグ)を保有していても良い。
【0032】
更に、細胞分離器の上流側には、プライミング溶液の容器と接続可能なコネクター、及び、体液の容器と接続可能なコネクターとは別に、導入した回収液を収容するための容器(回収バッグ)を含んでいても良い。ここで導入した回収液を収容するための容器とは、細胞分離器に捕捉された細胞を回収するために、細胞分離器の下流側から回収液を導入し、細胞分離器を下流側から上流側に通過した細胞を含む回収液を収容するための容器を意味する。図1に本発明における細胞分離装置の一例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
本発明は、上記の細胞分離装置を用いた細胞分離方法も含む。以下に一例を示すが、本発明はこの方法に限定されない。
【0034】
第一に、細胞分離器の上流側のプライミング溶液を収容する容器と接続可能なコネクター(びん針)を生理食塩水又は緩衝液の入った容器に接続する。次に、下流の減圧手段と接続可能なコネクターに空のシリンジを接続する。これ以外のラインは、三方活栓やクランプまたはクレンメを用いて流路を遮断する。接続した空のシリンジのプランジャーを引き細胞分離器内を陰圧にすることにより、プライミング溶液(例えば、生理食塩水や緩衝液など)を細胞分離器内に高流速で導入する。プライミング溶液の液量は問わないが、細胞分離器の1倍から200倍、好ましくは1倍から100倍の体積でプライミングする。プライミングの際にエアーの抜けを良くするために入口よりも出口の方を高くした状態で細胞分離器内を陰圧にしてプライミングしても良い。
【0035】
第二に、体液を細胞分離器に流し、目的細胞を細胞分離器に捕捉させる。細胞分離器の上流側にある、体液が収容された容器と接続可能なコネクターと、体液が収容された容器とを接続する。また、この体液が収容された容器と細胞分離器を接続するライン、そして、細胞分離器を通過した液が収容される廃液バッグと細胞分離器を接続するライン以外は、三方活栓やクランプ、クレンメなどを用いて流路を遮断する。輸液ポンプや落差により体液を細胞分離器に導入し、細胞分離器を通過した液は廃液バッグに収容する。この操作の後、細胞分離器内の夾雑成分を除去する目的で、生理食塩水または緩衝液を細胞分離器に導入する操作を実施しても良い。その場合、例えば生理食塩水や緩衝液などプライミングに使う溶液と同じ液を用いることが好ましい。
【0036】
第三に、細胞分離器に捕捉された細胞を回収する。シリンジに回収液をとり、細胞分離器の下流側の回収液導入用コネクターに接続する。細胞分離器と下流側の回収液導入用コネクターを接続するライン、細胞分離器と回収バッグを接続するライン以外は遮断し、回収液のプランジャーを押し出し、細胞分離器に捕捉された細胞を回収バッグに回収する。
【0037】
本発明の細胞分離装置に用いることの出来る体液とは、哺乳動物、例えばヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、サル、イヌ、ネコ等の末梢血、臍帯血、骨髄、月経血、組織から採取することが出来、本発明の細胞分離装置は多種に渡った動物種の多様な体液を処理することが可能である。
【0038】
また、細胞分離装置内の細胞分離材、および回収液を選定することにより、上記体液中の有核細胞、単核球分画、造血幹細胞、間葉系幹細胞などを目的に応じて効率的に分離することが可能である。さらに、回収されたこれらの細胞も本発明の範囲内である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
厚さ(内径)9mm、直径(内径)32mmの容器に、ポリブチレンテレフタレート製不織布(繊維径3.8マイクロメートル)80枚を積層状態で充填し、細胞分離器を作成し、図1の(G)に示したような細胞分離装置を製造した。具体的には、細胞分離器の上流側に三方活栓を接続し、一方には回収バッグを接続し、もう一方にはチューブを接続した。さらに、チューブの上流に三方活栓を接続し、一方には体液が収容された容器と接続可能なびん針、もう一方にはプライミング溶液として生理食塩水の入った容器に接続可能なびん針を接続した。また、細胞分離器の下流側に三方活栓を介して一方をシリンジ接続部、もう一方にチューブを介して廃液バッグを接続した。各回路はクランプで遮断した。
【0041】
まず、細胞分離器上流側において生理食塩水の入った容器にプライミング溶液用のびん針を接続し、下流側のシリンジ接続部に空の50mLシリンジを接続した。プライミング溶液を収容する容器と細胞分離器の上流側、細胞分離器の下流側とシリンジ以外のラインは遮断した状態で、一気にシリンジのブランジャーを引き、生理食塩水50mLを通液した。このときに要したプライミングの時間は3秒であった。
【0042】
次に、体液が収容された容器と接続可能なびん針とウシ末梢血125mL(CPD:血液=200:28で混合した12%CPDを含むウシ末梢血)が入った容器を接続し、ヒト末梢血が入った容器と細胞分離器の上流側、そして、細胞分離器の下流側と廃液バッグ以外のラインは遮断し、ヒト末梢血を細胞分離器に導入した。有核細胞を細胞分離器に捕捉させ、細胞分離器通過液は廃液バッグに収容した。
【0043】
次に、生理食塩水と細胞分離器の上流側、細胞分離器の下流側と廃液バッグ以外のラインは遮断し、生理食塩水15mLを細胞分離器に導入し、細胞分離器内の夾雑成分を洗い流し、廃液バッグに収容した。
【0044】
最後に、4%ヒト血清アルブミンを含むサリンヘス30mL(25%ヒト血清アルブミンとサリンヘスを混合)をシリンジに取り、細胞分離器下流側のシリンジ接続部に接続した。回収バッグと細胞分離器の上流側、細胞分離器の下流側とシリンジ接続部以外のラインは遮断し、シリンジのブランジャーを押し込み、細胞分離器に捕捉された細胞を回収バッグに回収した。
【0045】
処理前血液の血算、回収した溶液の血算を血球カウンター(シスメックス、K−4500)により測定し、(分離後の有核細胞数/処理前の有核細胞数)×100、(分離後の赤血球数/処理前の赤血球数)×100、として、有核細胞および赤血球の回収率を算出した。その結果、有核細胞回収率は70%、赤血球回収率は3%であった。
【0046】
(実施例2)
細胞分離器の上流側の、プライミング溶液を収容する容器と接続可能なびん針の代わりに空のバッグ、体液が収容された容器と接続可能なびん針の代わりに空のバッグを用いること、および、各空のバッグにプライミング溶液としてウシ末梢血を含む生理食塩水57mL(CPD:血液=200:28で混合した12%CPDを含むウシ末梢血)を導入すること、生理食塩水15mLで細胞分離器内の夾雑成分を洗い流す工程を省くこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、ウシ末梢血を含む生理食塩水57mLを通液するのに要したプライミングの時間は3秒であった。また、有核細胞回収率は70%、赤血球回収率は17%であった。
【0047】
(実施例3)
生理食塩水15mLで細胞分離器内の夾雑成分を洗い流す工程を省くこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、生理食塩水50mLを通液するのに要したプライミングの時間は3秒であった。また、有核細胞回収率は77%、赤血球回収率は9%であった。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同様の細胞分離器を用い、その上流側をチューブを介してびん針に接続し、びん針をプライミング溶液である生理食塩水の入った容器に接続した。シリンジによる細胞分離器内の減圧操作をしない点以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、生理食塩水50mLを通液するのに要したプライミングの時間は3分40秒であった。また、有核細胞回収率は66%、赤血球回収率は2%であった。
【符号の説明】
【0049】
1 プライミング溶液を収容する容器と接続可能なコネクターおよびプライミング溶液を収容する容器(兼洗浄用の液)
2 減圧手段と接続可能なコネクター
3 細胞分離器
4 体液が導入される容器と接続可能なコネクターおよび体液を収容する容器
5 回収液導入用コネクター
6 回収バッグ
7 廃液バッグ
8 減圧目的と回収目的を兼用するコネクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞分離器の上流側に、プライミング溶液を収容する容器と接続可能なコネクターを有する、または、プライミング溶液を収容する容器を含み、かつ、細胞分離器の下流側に、減圧装置と接続可能なコネクターを有することを特徴とする、細胞分離装置。
【請求項2】
減圧手段と接続可能なコネクターが、回収液導入用のコネクターと共有していることを特徴とする、請求項1記載の細胞分離装置。
【請求項3】
細胞分離器の上流側に、体液が導入される容器を含んでいる、または、体液が導入される容器と接続可能なコネクターを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞分離装置。
【請求項4】
細胞分離器の下流側に、細胞分離器の通過液を収容するための容器を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の細胞分離装置。
【請求項5】
細胞分離器の上流側に、細胞分離器に捕捉された目的細胞を回収して収容するための容器を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の細胞分離装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の細胞分離装置を用いることを特徴とする、細胞分離方法。
【請求項7】
さらに、プライミング操作を含むことを特徴とする、請求項6記載の細胞分離方法。
【請求項8】
細胞分離器の上流側のコネクターとをが収容する容器を接続し、さらに細胞分離器の下流側のコネクターとシリンジとを接続した後、下流に接続したシリンジを用いて細胞分離器内を陰圧にしてプライミングすることを特徴とする、請求項7記載の細胞分離方法。
【請求項9】
プライミングを行った後に、細胞分離器に体液を導入して、目的細胞を分離することを特徴とする、請求項6から8のいずれかに記載の細胞分離方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載の細胞分離装置、または、請求項6から9のいずれかに記載の細胞分離方法を用いて分離された細胞。

【図1】
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【公開番号】特開2012−120457(P2012−120457A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271801(P2010−271801)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】