説明

プラグの製造方法及びその装置とプラグ

【課題】粉体材料を用いてプラグを加圧成形する際に、該粉体材料への加圧力が、金型との摩擦によって消費されるのを抑制し、粉体材料への加圧力を効率良く付与して製造し、さらに成形後のプラグを金型から容易に取り出すことのできる、高い生産効率の下にプラグを製造する方法について提供する。
【解決手段】 金型3内に充填された粉体材料2に対してスタンパ5を介して加圧成形を行って免震用のプラグを成形するにあたり、前記金型3の内側面に、該金型の内側面との摩擦係数が該金型3の内側面と該粉体材料2との摩擦係数よりも小さいコーティング材10を付着させてから加圧成形を行って、該加圧成形後のプラグ6表面に前記コーティング材10を残存させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震構造体に用いるプラグを粉体材料の加圧成形によって製造する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム等の粘弾性的性質を有する軟質板と鋼板等の硬質板とを交互に積層した免震構造体が、免震装置の支承等として使用されている。このような免震構造体の中には、例えば、軟質板と硬質板とからなる積層体の中心に中空部を形成し、該中空部の内部にプラグが圧入されたものがある。
【0003】
上記プラグとしては、全体が鉛からなるものが使用されることが多く、地震の発生に伴って積層体が剪断変形する際に、かかるプラグが剪断変形することで振動のエネルギーを吸収する。しかしながら、鉛は環境負荷が大きく、また、廃却時等に要するコストが大きい。そのため、鉛の代替材料を用いる場合にも、充分な減衰性能、変位追従性等を有するプラグの開発が試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鉛プラグに代えて、積層体の中空部に塑性流動材及び硬質充填材からなり、硬質充填材の隙間を塑性流動材で充填するようにした粉体材料を封入した免震装置が提案されている。かかるプラグは、鉛プラグと同様、長期の使用に際しても、その減衰性能及び変位追従性が安定して確保される。なお、塑性流動材としては、天然ゴムやアクリルゴムなどがあり、硬質充填材としては、ステンレス鋼粉、鉄粉などの金属粉体がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−316990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、鉛を使用することなく、減衰特性及び変位追従性が安定して確保された免震用のプラグが開示されているものの、近年、このようなプラグの更なる生産性の向上が求められており、この要求に対して、特許文献1は何等言及していない。
【0007】
特許文献1に記載の免震装置におけるプラグは、通常、金型内に充填された塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、スタンパにより所定の面圧にて加圧成形することで製造されるが、金型内にスタンパを出し入れさせて加圧成形を行う際に、金型内に充填した粉体材料が塑性流動材及び硬質充填材からなるゆえに、金型の内側面との間で大きな摩擦が発生した。その結果、粉体材料に付与する力が摩擦力として浪費され、加圧力が粉体材料に効率良く作用しないため、スタンパに対して無駄に大きな力を付与する必要があり、生産効率を阻害していた。
また、加圧成形を行って生産したプラグを金型から抜き出す際にも、塑性流動材及び硬質充填材からなるプラグと金型の内側面との間で摩擦が発生するため、金型からプラグを容易に抜き出すことは難しかった。
【0008】
従って、この発明の目的は、粉体材料を用いてプラグを加圧成形する際に、該粉体材料への加圧力が、金型との摩擦によって消費されるのを抑制し、粉体材料への加圧力を効率良く付与して製造し、さらに成形後のプラグを金型から容易に取り出すことのできる、高い生産効率の下にプラグを製造する方法について提供することにある。また、この発明の更なる目的は、かかる製造方法により生産したプラグを提供することに加え、当該プラグを用いた免震構造体及び免震構造体の製造装置を提供すること、更には免震構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、発明者らは、塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料と金型との間に発生する摩擦力を低減させると共に、成形後のプラグの金型からの抜き取り時での同摩擦力の低減をも図れる方法について鋭意研究した。そして、加圧成形中は勿論、成形後にもプラグ材と金型との摩擦低減が可能となる手段を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
(1)金型内に充填された粉体材料に対してスタンパを介して加圧成形を行って免震用のプラグを成形するにあたり、
前記金型の内側面に、該金型の内側面との摩擦係数が該金型の内側面と該粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させてから加圧成形を行って、
該加圧成形後のプラグ表面に前記コーティング材を残存させる
ことを特徴とするプラグの製造方法。
【0011】
ここで、「コーティング材を付着させ」とは、後述するように、コーティング材を金型の内側面に部分的又は全体に塗布する状態や、金型の円筒の内径に適合するような、円筒状のプラグコーティング材を嵌め込む状態を言う。
また、「残存」とは、後述するように、コーティング材が、プラグ表面に部分的又は全体に付着した状態や、プラグ表面全体を被覆する状態を言う。
【0012】
(2)スタンパの表面に、該スタンパとの摩擦係数が、該スタンパと前記粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させることを特徴とする前記(1)に記載のプラグの製造方法。
【0013】
(3)剛性板と弾性板とが交互に積層し、これらの板を貫通して積層方向に延びる中空部を形成した積層体の該中空部に、前記(1)に記載のプラグの製造方法により製造されたプラグを圧入することを特徴とする免震構造体の製造方法。
【0014】
(4)前記(1)に記載のプラグの製造方法により製造されたことを特徴とするプラグ。
【0015】
(5)粉体材料を挿入する金型の内側面に、該金型の内側面との摩擦係数が該金型の内側面と該粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させた金型と、
前記粉体材料を加圧成形するスタンパの表面に、該スタンパとの摩擦係数が、該スタンパと前記粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させたスタンパとを備える免震用のプラグの製造装置。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、鉛の代替材料である粉体材料を用いて、スタンパを用いてこれを加圧成形する際に、特に粉体材料とこれを充填する金型の内側面との摩擦を低減することができるため、スタンパに付与すべき力を低減することができる。従って、生産効率を向上したプラグの製造方法を提供することが可能となる。また、これにより得られたプラグを用いることで、免震構造体の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)〜(g)は、この発明に従うプラグの製造工程を示した図である。
【図2】比較的硬い樹脂をコーティング材として、この発明に従って製造されたプラグを示した図である。
【図3】比較的柔らかい樹脂をコーティング材として、この発明に従って製造されたプラグを示した図である。
【図4】(a)はこの発明に従って製造されたプラグを圧入した免震構造体の上面図であり、(b)はかかる免震構造体の断面図である。
【図5】(a)〜(h)は、この発明に従うプラグの製造工程にて使用される種々の形状の加圧面を有するスタンパを示した図である。
【図6】(a)〜(g)は、この発明に従う他のプラグの製造工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面を参照しつつ、この発明の実施形態を説明する。図1(a)〜(g)は、この発明に従うプラグの製造工程を示した図である。図2は、比較的硬い樹脂をコーティング材として、この発明に従って製造されたプラグを示した図である。図3は、比較的柔らかい樹脂をコーティング材として、この発明に従って製造されたプラグを示した図である。図4(a)はこの発明に従って製造されたプラグを圧入した免震構造体の上面図であり、(b)はかかる免震構造体の断面図である。図5(a)〜(h)は、この発明に従うプラグの製造工程にて使用される種々の形状の加圧面を有するスタンパを示した図である。図6(a)〜(g)は、この発明に従う他のプラグの製造工程を示した図である。
【0019】
本実施形態に係る免震構造体用プラグの製造装置1は、例えば、図1に示すように、粉体材料2が充填される円筒形状の金型3、並びに、かかる金型3内の粉体材料2を加圧する加圧面4a、4bを夫々有する2種のスタンパ5a、5bを備える。図1(b)〜(d)に示すスタンパ5aは、中央部が外周部よりも加圧方向へ突出した錘体形状の加圧面4aを有する傾斜スタンパ5aである。また、図1(e)〜(f)に示す別のスタンパ5bは、加圧方向に直交する平面状の加圧面4bを有する平面スタンパ5bである。かかる製造装置を用いて、図1(a)〜(f)の製造工程に示すように、金型3内に充填された塑性流動材と硬質充填材からなる粉体材料2を、傾斜スタンパ5a及び平面スタンパ5bにより順次加圧することで、免震構造体用のプラグ6を成形する。
以下に、プラグ6の製造工程について、その詳細を説明する。
【0020】
まず、図1(a)に示すように、金型3の内側面に対して、コーティング材10を付着させる。このコーティング材10は、金型3の内側面との摩擦係数が、金型3内に充填される粉体材料2と金型3の内側面との摩擦係数よりも小さく、粉体材料2と金型3の内側面との間に介在して潤滑剤として機能する。その後、図1(b)に示すように、金型3内に、プラグ6の材料となる粉体材料2を充填する。次いで、図1(c)に示すように、傾斜スタンパ5aを矢印の方向に移動させて、コーティング材10の介在下に錘体形状の加圧面4aにより粉体材料2を加圧成形し、粉体材料2の受圧面7の形状を、金型側の周辺部に比して中央部で陥没した錘体形状に変形させる。次いで、図1(d)に示すように、傾斜スタンパ5aの加圧方向とは反対の方向に引き上げた後、図1(e)に示すように、かかる傾斜スタンパ5aを、加圧方向に直交する平面状の加圧面4bを有する平面スタンパ5bと置き換える。次いで、図1(f)に示すように、平面スタンパ5bを矢印の方向に移動させて、平面スタンパ5bの加圧面4bで粉体材料2の受圧面7を加圧成形することにより、粉体材料2の受圧面7の形状を平面状にする。
【0021】
金型3内に充填される粉体材料2は、塑性流動材及び硬質充填材からなり、塑性流動材に含まれる物質としては、(天然ゴム、ポリブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ポリウレタン、ウレタン系エラストマー等の)エストラマー成分、(ロジン樹脂、フェノール樹脂等の)樹脂、カーボンブラック、(フタル酸、マレイン酸、クエン酸等の)可塑剤、(ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油等の)軟化材等が挙げられる。また、硬質充填材に含まれる物質としては、銅粉、ステンレス鋼粉、ジルコニウム粉、タングステン粉、青銅粉、アルミニウム粉、ニッケル粉、モリブデン粉、チタン粉、鉄粉等の金属粉体や金属化合物が挙げられる。
鉛の代替材料として上記の粉体材料を用いることにより、環境負荷の問題を解決することができると共に、十分な減衰性能、変位追従性等を有する免震プラグを提供することが可能となる。
なお、塑性流動材と硬質充填材のそれぞれについて選定される材料の組成、含有率、組み合わせ等は、免震プラグに所望される性能に応じて適宜変更することができる。また、粉体材料は、塑性流動材及び硬質充填材からなる構成に限定されるものではなく、その他の種々の粉体材料を適用することも可能である。
【0022】
ここで、図1を用いて説明したように、粉体材料2を加圧して圧縮変形させるためには、傾斜スタンパ5aや平面スタンパ5bを金型3の円筒内において出し入れさせる必要があるが、この際、円筒内に充填された粉体材料2と円筒内の壁面との間で、大きな摩擦が発生する。スタンパによって粉体材料に力を加える度に、粉体材料が金型の円筒内で流動させられるので、この流動に伴って、粉体材料と円筒内の壁面との間で擦れが生じて摩擦が発生するからである。従って、粉体材料に付与するための所望の力をスタンパへ与えても、その一部が摩擦力として浪費されてしまい、スタンパに対して無駄に大きな力を付与する必要がある。
このことから、本発明者らは、粉体材料と金型の内側面との間で生じる摩擦力を低減させることにより、摩擦によって消費されてしまう加圧力を粉体材料に効率良く作用させてプラグ生産の効率を向上させ得ること、さらに、成形後のプラグを金型から容易に取り出すことを見出した。
【0023】
従って本発明では、粉体材料と金型の内側面との間で生じる摩擦力の低減を実現する手段として、スタンパによって粉体材料を加圧成形する際、金型の内側面に、予め、金型の内側面との摩擦係数が粉体材料と金型内側面との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させた状態で粉体材料の加圧成形を行って、加圧成形後のプラグ表面にコーティング材を残存させる、上述のプラグの製造方法を採用した。
これにより、金型の内側面はコーティング材が付着した状態となっているので、スタンパにより加圧される金型内の粉体材料のうち金型の円筒内の壁面付近では、主に、このコーティング材と金型の円筒内の壁面との間で摩擦が発生することになる。そして、上述の通り、コーティング材は、金型の内側面との摩擦係数が粉体材料と金型内側面との摩擦係数よりも小さいため、コーティング材と金型の円筒内の壁面との間で発生する摩擦は、粉体材料と金型の円筒内の壁面との間で発生する摩擦よりも小さくなる。このように、粉体材料と金型の内側面との間にコーティング材を介在させることによって両者間で発生する摩擦力を低減させることが可能となるので、無駄な加圧力の消費を回避して、粉体材料に対して、所望の力を直接付与することができるのである。
そして、このようにコーティング材の介在下で粉体材料の加圧成形を開始すると、該コーティング材は粉体材料の流動に伴って徐々に粉体材料側へ取り込まれていくが、成形中、流動する粉体材料の外周面に留まるため、上述の低摩擦下における加圧成形の状態は維持される。さらに、加圧成形後のプラグ外周面にはコーティング材が残存するため、プラグは、あたかもコーティング材が被覆した状態に製造される。従って、金型からの成形プラグの取り出しを容易に行うことが可能となる。
【0024】
なお、コーティング材10としては、例えば、ポリテトラフルイロエチレン(PTFE)、FEP、PFA、PEEK等の樹脂や、シリコン等のゴム系材料を用いる。
・JIS硬度50°〜100°の比較的硬い樹脂としては、固体状のPTFE、PEEKが好適に用いられ、
・JIS硬度5°〜25°比較的柔らかい樹脂としては、ゲル状又は液状のシリコンや、PTFE、FEP、PFA塗料が好適に用いられるが、必ずしもこれらに限定されるわけではなく、金型の内側面との摩擦係数が、粉体材料と金型の内側面との摩擦係数よりも小さい材料であれば、他の材料を用いることも可能である。
【0025】
また、金型の内側面に対してコーティング材を付す方法としては、例えば、樹脂をハケ等により塗布する方法がある。また、コーティング材が比較的硬い樹脂である場合には、例えば、コーティング材が金型の円筒に適合するような、円筒状としたコーティング材を嵌め込む方法がある。
【0026】
図2及び図3は、上述のプラグの製造方法及び材料を用いて製造された、免震用のプラグの例を示している。
【0027】
図2に示すプラグは、円筒状の金型3内の壁面に、硬い樹脂からなる円筒状のコーティング材10を嵌め込むことによって、金型3の内側面にコーティング材10を付着させてから加圧成形を行ったプラグである。上記の通り、傾斜スタンパ5aや平面スタンパ5bによって粉体材料2を加圧成形した場合、金型3の円筒内における粉体材料2は流動し、スタンパ5a及び5bで押圧されることによりプラグの内圧が上がって、円筒状のコーティング材10は金型3の内側面に圧着される。また、金型3の円筒内における粉体材料2は流動するため、この流動する粉体材料2と比較的硬い樹脂からなるコーティング材とが接触して、コーティング材が幾分、粉体材料と混合されることになる。
その後、押圧されたプラグは、例えば、金型3からの脱型時に、円筒状のコーティング材10を破壊することにより取り出される。この場合、製造されたプラグの外周面は、図2に示すように、部分的にコーティング材が残存して付着した状態となる。円筒状のコーティング材10は破壊されるため、再利用することはできない。また、押圧されたプラグは、例えば、円筒状のコーティング材10は分割可能な形状になっており、金型3から脱型した後、コーティング材10を分割して外すことにより取り出されることもできる。この場合、製造されたプラグの外周面は、図2に示すように、部分的にコーティング材が残存して付着した状態となる。分割可能な円筒状のコーティング材10は、再利用することができる。さらに、押圧されたプラグは、円筒状のコーティング材10を外周面に付着させたまま取り出され、そのまま、積層ゴムへ挿入されることもできる。この場合には、製造されたプラグの外周面は、全体にコーティング材が付着した状態となる。
【0028】
一方、図3に示すプラグは、円筒状の金型内の壁面に、柔らかい樹脂をハケ等で塗布することによって、金型3の内側面にコーティング材を付着させてから加圧成形を行ったプラグである。上記同様に、傾斜スタンパ5aや平面スタンパ5bによって粉体材料2を加圧成形した場合、金型3の円筒内における粉体材料2は流動するため、この粉体材料2の流動に伴って、比較的柔らかい樹脂からなるコーティング材は粉体材料2と混合されることになる。その結果、製造されたプラグは、図3に示すように、外周面全体がコーティング材で被覆されており、さらに、コーティング材は粉体材料と混合されるため、円筒内で金型の壁面近くに位置した粉体材料ほどコーティング材の混合比率が高く、壁面から離間する粉体材料ほどコーティング材の混合比率が低い状態となる。
【0029】
さらに、滑り材となるコーティング材は、金型の内側面に対してだけでなく、スタンパ表面に対しても同様に付着させることが好ましい。この場合には、スタンパに対して、粉体材料との摩擦係数が、スタンパと粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させる。実際には、成形安定化のためには、先のコーティング材と同じにすることが好ましいが、他の材料を用いてもよい。
既述の通り、プラグの加圧成形のためには、金型の円筒内にスタンパを挿出入させることによって金型の円筒内に充填した粉体材料を加圧する必要があるが、この際、スタンパと円筒内で流動する粉体材料とが接触するため、このスタンパ及び粉体材料間においても、大きな摩擦が発生することになる。このため、粉体材料に対して所望の加圧力を付与するためには、スタンパに対して、さらに、スタンパと粉体材料との間で発生する摩擦に対抗する力を付与する必要がある。従って、スタンパと粉体材料との間にもコーティング材を介在させて、両者間で発生する摩擦を低減させることができれば、結果として、スタンパに対して付与すべき力を低減して、プラグの生産効率をさらに向上させることが可能となる。
【0030】
次に、本発明に従うプラグの製造方法により製造されたプラグを用いて、免震構造体を製造する方法について説明する。
【0031】
まず、上記のようにして得られたプラグ6を、図1(g)に示すように、プラグ製造装置1から抜き出す。
ここで、本発明に従うプラグの製造方法により製造したプラグの外周面は、上述の通り、金型内側面との摩擦係数が小さいコーティング材が部分的又は全体的に付着した状態となっている。従って、金型の円筒内から完成したプラグを抜き出す際も、このコーティング材が滑り材となって、円滑な抜き出しを実現することができる。
【0032】
図4は、本実施形態に係るプラグを圧入した後の免震構造体20を示しており、(a)は免震構造体の上面図を、(b)はかかる免震構造体の断面図を示している。該免震構造体は、図2(b)に示すように、略ドーナツ板状の剛性板12と、略ドーナツ形状の弾性板13とが交互に積層されてなり、該積層方向(鉛直方向)に延びる円筒状の中空部を中心部に有する積層体14を備えている。
【0033】
積層体14を構成する剛性板12と弾性板13とは、例えば、加硫接着により、或いは接着剤により強固に貼り合わされている。なお、加硫接着においては、剛性板12と未加硫ゴム組成物とを積層してから加硫を行い、未加硫ゴム組成物の加硫物が弾性板13となる。ここで、剛性板12としては、鋼板等の金属板、セラミックス板、FRP等の強化プラスチック板等を使用することができる。一方、弾性板3としては、加硫ゴム製の板等を使用することができる。
また、本発明の免震構造体を構成する積層体14は、外周面が積層体被覆材で覆われており、積層体14への外部からの雨や光を遮断し、酸素や、オゾン、紫外線による積層体14の劣化を防止することができる。被覆材としては、例えば、弾性板13と同一の材料である加硫ゴム等を使用することができる。なお、積層体14は、必ずしも積層体被覆材で覆われていなくてもよい。
積層体14は、震動により水平方向のせん断力を受けた際には、せん断変形して、震動のエネルギーを吸収する。また積層体14は、剛性板12と弾性板13とが交互に積層されている為、積層方向に荷重が作用した場合も、圧縮が抑制される。
【0034】
そして、本実施形態では、積層体14の中空部に対して、本発明に従うプラグの製造方法により製造したプラグ6を圧入する。
この際、上記同様に、本発明に従うプラグの製造方法により製造したプラグの外周面は、金型内側面との摩擦係数が小さいコーティング材が部分的又は全体的に付着した状態となっている。従って、金属等の剛性板が積層された中空部にプラグを圧入する際も、このコーティング材が滑り材となって、従来のコーティング材を用いない方法により製造したプラグ圧入する場合に比べて、円滑な圧入を実現することが可能となる。具体的には、積層体の中空部に対するコーティング材を用いていないプラグの摩擦係数は0.5〜0.75であるのに対し、積層体の中空部に対するコーティング材を用いたプラグの摩擦係数は0.03〜0.5となる。
【0035】
次いで、積層体14の中空部へプラグ6を圧入した後、積層体14の積層方向両端面(上端及び下端)に対し、夫々、略ドーナツ状のフランジ板を固定することにより、免震構造体が完成する。
【0036】
なお、図1に示す例では、スタンパとして、傾斜スタンパ5aや平面スタンパ5bを用いたが、必ずしもこれらの形状である必要はなく、加圧成形時に粉体材料2を変形させて、粉体材料2の流動を促し得る形状である限りは、特に限定されるものでは無い。例えば、図5(a)に示すように、加圧面4をその先端に向かって徐々に縮径するような形状としたり、図5(b)に示すように、加圧面4の外周部が中央部よりも加圧方向に突出した形状としたり、図5(c)に示すように、加圧面4が加圧方向に対し傾斜した形状としたり、図5(d)に示すように、加圧面4が加圧方向に対し部分的に傾斜した形状としたり、図5(e)に示すように、加圧面4をその先端に向かって段階的に縮径するような階段形状としたり、図5(f)に示すように、加圧面4に複数の針状突起を設けたような形状としたり、図5(g)に示すように、加圧面4が加圧方向に対し複数回した形状としたり、図5(h)に示すように、加圧面4を半球形状としたりできる。
【0037】
また、副次的な効果ではあるが、図1のような傾斜スタンパ5aを用いた場合、図1(c)の加圧工程において、受圧面7aにおける周辺の変化量が特に大きくなることから、金型3の壁面における粉体材料2の流動が強く促される。すなわち、粉体材料と金型の内側面との間で発生する摩擦力は、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパで加圧した際に発生する摩擦力よりも大きくなる。従って、かかる場合に、粉体材料と金型の内側面との間に滑り材となるプラグコーティング材を付す本発明のプラグ製造方法を用いれば、摩擦力の発生を、特に効果的に低減させることができる。
また、一般に、免震プラグの減衰性能及び変位追従性を向上させるには、プラグ内の空気含有率を小さくすることが有効である。しかし、粉体材料が、ゴムなどの粘性を有する塑性流動材を含む場合、粉体材料の流動性が低下し、粉体材料内の空気が抜けにくくなる。そして、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有するスタンパにより粉体材料を所定の面圧にて加圧して免震プラグを成形した場合には、受圧面から離間するほどに、粉体材料に負荷される圧縮力が小さくなり、受圧面から離間するほどに、粉体材料の空気含有率が大きくなってしまう場合がある。従って、図1のような傾斜スタンパ5aを用いて粉体材料を加圧すれば、粉体材料の流動を促すことができるので、粉体材料間の隙間を小さくして、粉体材料を空気が残留し難い最密配置として、空気含有率の小さいプラグを得ることが可能となる。
【0038】
また、図1(a)〜(g)の製造工程では、金型の円筒の一方向のみから粉体材料を加圧したが、図6(a)〜(g)の製造工程に示すように、対向する一対のスタンパ(図示例では、傾斜スタンパ5a及び5a’の組み合わせ、並びに、平面スタンパ5b及び5b’の組み合わせ)を用いて、粉体材料2を挟み込むように二方向から加圧成形してもよい。一方向から加圧するよりも、複数方向から加圧する方が、粉体材料に対し圧力を効率良く付加することができるので、プラグの生産性をさらに向上させることが可能となる。
【0039】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一部を示したに過ぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を相互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。
【実施例】
【0040】
次に、図1(b)〜(f)に示したところに従って、金型の内側面にコーティング材を付さない状態で粉体材料を充填しスタンパで加圧成形して製造したプラグ(比較例プラグ)、プラグコーティング材として硬い樹脂を用いて製造したプラグ(実施例プラグ1)、プラグコーティング材として柔らかい樹脂を用いて製造したプラグ(実施例プラグ2)、さらに、実施例プラグ1を製造する際に、粉体材料を加圧するスタンパに対してスタンパコーティング材を付した状態で製造したプラグ(実施例プラグ3)、実施例プラグ2を製造する際に、粉体材料を加圧するスタンパに対してスタンパコーティング材を付した状態で製造したプラグ(実施例プラグ4)を夫々試作した。以下に、これらを説明する。
【0041】
<比較例プラグ>
比較例プラグは、以下に説明する方法により製造した。
始めに、計算比重が5.536であり、表1の組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、内径が43.6mmの円筒状の金型内に充填する。次いで、かかる粉体材料を、図6に示すように、スタンパの軸線に対し60°にて傾斜してなる錐体形状の加圧面を有する傾斜スタンパであって、対向する一対の傾斜スタンパを用いて、かかる粉体材料を、一対のスタンパにて合わせて88.2MPaの面圧で挟み込んで加圧変形する。次いで、かかる傾斜スタンパを、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する平面スタンパと交換し、かかる平面スタンパを用いて粉体材料を加圧し、粉体材料の受圧面を平面化させることで製造した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.6mmであり、高さは56.7mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0042】
<実施例プラグ1>
実施例プラグ1は、以下に説明する方法により製造した。
始めに、内径が47.6mmの円筒状の金型内の壁面に、金型3の円筒に適合するような、円筒状としたプラグコーティング材を嵌め込むことによって、金型3の内側面にプラグコーティング材を付す。プラグコーティング材は、PTFE(硬い樹脂)である。
次いで、計算比重が5.536であり、表1の組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、金型内に充填する。
次いで、かかる粉体材料を、図6に示すように、スタンパの軸線に対し60°にて傾斜してなる錐体形状の加圧面を有する傾斜スタンパであって、対向する一対の傾斜スタンパを用いて、かかる粉体材料を、一対のスタンパにて合わせて50MPaの面圧で挟み込んで加圧変形する。次いで、かかる傾斜スタンパを、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する平面スタンパと交換し、かかる平面スタンパを用いて粉体材料を加圧し、粉体材料の受圧面を平面化させることで製造した。スタンパで加圧後、金型からプラグを取り出し、外周面に付着した円筒状のコーティング材を破壊して取り外した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.6mmであり、高さは56.7mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0043】
<実施例プラグ2>
実施例プラグ2は、以下に説明する方法により製造した。
始めに、内径が43.8mmの円筒状の金型内の壁面に、プラグコーティング材としてシリコン(柔らかい樹脂)を、ハケ等によって塗布する。
次いで、計算比重が5.536であり、表1の組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、金型内に充填する。
次いで、かかる粉体材料を、図6に示すように、スタンパの軸線に対し60°にて傾斜してなる錐体形状の加圧面を有する傾斜スタンパであって、対向する一対の傾斜スタンパを用いて、かかる粉体材料を、一対のスタンパにて合わせて50MPaの面圧で挟み込んで加圧変形する。次いで、かかる傾斜スタンパを、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する平面スタンパと交換し、かかる平面スタンパを用いて粉体材料を加圧し、粉体材料の受圧面を平面化させることで製造した。スタンパで加圧後、金型からプラグを引き抜いて取り出し、外周面に付着していたコーティング材を削り落とした。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.6mmであり、高さは56.7mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0044】
<実施例プラグ3>
実施例プラグ3は、以下に説明する方法により製造した。
始めに、内径が43.8mmの円筒状の金型内の壁面に、金型3の円筒に適合するような、円筒状としたプラグコーティング材を嵌め込むことによって、金型3の内側面にプラグコーティング材を付す。プラグコーティング材は、PTFE(硬い樹脂)である。
粉体材料を加圧するためのスタンパの表面に、コーティング材としてPTFEを付す。
次いで、計算比重が5.536であり、表1の組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、金型内に充填する。
次いで、かかる粉体材料を、図6に示すように、スタンパの軸線に対し60°にて傾斜してなる錐体形状の加圧面を有する傾斜スタンパであって、対向する一対の傾斜スタンパを用いて、かかる粉体材料を、一対のスタンパにて合わせて50MPaの面圧で挟み込んで加圧変形する。次いで、かかる傾斜スタンパを、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する平面スタンパと交換し、かかる平面スタンパを用いて粉体材料を加圧し、粉体材料の受圧面を平面化させることで製造した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.8mm(樹脂が全てプラグの外周面に付着した状態)であり、高さは56.7mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0045】
<実施例プラグ4>
実施例プラグ4は、以下に説明する方法により製造した。
始めに、内径が43.8mmの円筒状の金型内の壁面に、プラグコーティング材としてシリコン(柔らかい樹脂)を、ハケ等によって塗布する。次いで、計算比重が5.536であり、表1の組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、円筒状の金型内に充填する。
粉体材料を加圧するためのスタンパの表面に、コーティング材としてシリコンを付す。
次いで、計算比重が5.536であり、表1の組成を有する塑性流動材及び硬質充填材からなる粉体材料を、金型内に充填する。
次いで、かかる粉体材料を、図1に示すように、スタンパの軸線に対し60°にて傾斜してなる錐体形状の加圧面を有する傾斜スタンパであって、対向する一対の傾斜スタンパを用いて、かかる粉体材料を、一対のスタンパにて合わせて50MPaの面圧で挟み込んで加圧変形する。次いで、かかる傾斜スタンパを、加圧方向に直交する平面状の加圧面を有する平面スタンパと交換し、かかる平面スタンパを用いて粉体材料を加圧し、粉体材料の受圧面を平面化させることで製造した。なお、かようにして製造された免震プラグの直径は43.6mmであり(コーティング材を削り落とした)、高さは56.7mmである。製造された免震プラグの空気含有率は、金型内に充填される粉体材料の計算比重に対する、製造された免震プラグの実比重から算出した。
【0046】
【表1】

【0047】
*1 (天然ゴム)
未加硫、RSS#4
*2 (ポリブタジエンゴム(低シス))
未加硫、旭化成製「ジエンNF35R」
*3 カーボンブラック
ISAF、東海カーボン製「シースト6P」
*4 樹脂
日本ゼオン製「ゼオファイン」、新日本石油化学製「日石ネオポリマー140」、丸善石油化学製「マルカレッツM−890A」、「ゼオファイン」:「日石ネオポリマー140」:「マルカレッツM−890A」=40:40:20(質量比)
*5 可塑剤
ジオクチルアジペート(DOA)
*6 その他の配合剤
亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤[住友化学製「アンステージ6C」、ワックス[新日本石油製「プロトワックス1」]、亜鉛華:ステアリン酸:老化防止剤:ワックス=4:5:3:1(質量比)
【0048】
以上のようなプラグを製造したところ、プラグコーティング材を用いてプラグを製造した場合には、プラグの成形の際にスタンパに付与する力を低減することができることが分かった。さらに、プラグコーティング材だけでなく、スタンパコーティング材を用いて製造した場合には、より容易にプラグを成形することができた。
【0049】
また、本発明に従うプラグの製造方法により製造したプラグを用いた場合、金型の円筒内から完成したプラグを抜き出す際にも、比較例のプラグを抜き出す場合に比べて小さな力で抜き出すことができた。
【0050】
さらに、本発明に従うプラグの製造方法により製造したプラグを用いた場合、剛性板と弾性板とを交互に積層し、これらの板を貫通して積層方向に延びる中空部に圧入する際にも、比較例のプラグを抜き出す場合に比べて小さな加圧力で圧入することができた。
【符号の説明】
【0051】
1 プラグの製造装置
2 粉体材料
3 金型
4 加圧面
5 スタンパ
6 プラグ
10 コーティング材
12 剛性板
13 弾性板
14 積層体
20 免震構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に充填された粉体材料に対してスタンパを介して加圧成形を行って免震用のプラグを成形するにあたり、
前記金型の内側面に、該金型の内側面との摩擦係数が該金型の内側面と該粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させてから加圧成形を行って、
該加圧成形後のプラグ表面に前記コーティング材を残存させる
ことを特徴とするプラグの製造方法。
【請求項2】
前記スタンパの表面に、該スタンパとの摩擦係数が、該スタンパと前記粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させる
ことを特徴とする請求項1に記載のプラグの製造方法。
【請求項3】
剛性板と弾性板とが交互に積層し、これらの板を貫通して積層方向に延びる中空部を形成した積層体の該中空部に、請求項1に記載のプラグの製造方法により製造されたプラグを圧入することを特徴とする免震構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプラグの製造方法により製造されたことを特徴とするプラグ。
【請求項5】
粉体材料を挿入する金型の内側面に、該金型の内側面との摩擦係数が該金型の内側面と該粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させた金型と、
前記粉体材料を加圧成形するスタンパの表面に、該スタンパとの摩擦係数が、該スタンパと前記粉体材料との摩擦係数よりも小さいコーティング材を付着させたスタンパとを備える免震用のプラグの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−215213(P2012−215213A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79958(P2011−79958)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】