説明

プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子及びその製造方法、これを用いたプラスチゾル、組成物、及び字消し材

【課題】貯蔵安定性に優れ、これを用いてテキスタイル上に形成した塗膜において、強度と伸縮性のバランスが良好で、タックが抑制されるテキスタイルインクの製造に好適に用いられると共に、消字性に優れ、消しカス性が良好で、非ブリードアウト性に優れたプラスチック字消し材の製造に好適に用いられるアクリル系重合体微粒子やその製造方法、プラスチゾル、組成物を提供する。
【解決手段】メチルメタクリレート単位を72mol%以上92mol%以下の範囲で含有し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが5以上であるアクリル系重合体微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、これを用いてテキスタイル上に形成した塗膜において、強度、伸縮性に優れ、タック(べたつき感)が抑制されるテキスタイルインクに好適に用いられると共に、消字性に優れ、消しカス性が良好で、非ブリードアウト性に優れたプラスチック字消し材に好適に用いられるプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子、その製造方法、これを用いたプラスチゾル、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種テキスタイルに図柄等をプリントしたり、各種機能を有する塗膜を形成するために、テキスタイルインクが使用されている。テキスタイルインクは塗膜形成成分としてプラスチゾルと、顔料等の機能性成分とを含有し、これを用いてテキスタイル上に形成された塗膜に対し、強度に優れテキスタイルの変形に追従する伸縮性を有することが求められる。このようなテキスタイルインクとして、塩化ビニル系プラスチゾルを用いたものは、強度、伸縮性に優れた塗膜を形成し得るが、低温で焼却するとダイオキシンが発生するなどの環境問題を生起させることから、環境負荷の低減を図ることができるアクリル系重合体微粒子を用いたアクリル系プラスチゾルが提案されている(例えば、特許文献1、2等)。具体的には、テキスタイルインクとして、特定のガラス転移温度(Tg)を有するコアシェル型アクリル樹脂とリン酸系可塑剤、及び顔料からなるプラスチゾル(特許文献3)が報告されている。しかしながら、従来から、アクリル系プラスチゾルは貯蔵時にゾル状態が変化する等の貯蔵安定性に欠ける場合があり、これを用いたインクにおいて、貯蔵安定性に問題が生じる場合がある。特許文献5にはプラスチゾル組成物に用いるアクリル系重合体微粒子が記載されているが、重合体微粒子中のメチルメタクリレート単位の比率が少ないため、貯蔵安定性が悪いという問題があった。
【0003】
また、テキスタイル上に形成した塗膜に要求される強度と、適度な柔軟性を有する伸縮性とは、相反する特性であり、テキスタイル上の塗膜に要求される強度と伸縮性とを兼備するより優れた塗膜を形成し得るテキスタイルインク用プラスチゾルが求められている。更に、テキスタイル上の塗膜にはタック(べたつき感)がないことの要請もあり、強度と伸縮性とを充足し、タックが抑制された塗膜を形成し得るテキスタイルインク用プラスチゾルの要請がある。
【0004】
鉛筆やシャープペンシルで書かれたものを消すために用いる字消し材としては、弱い力でも消しやすいこと(消字性に優れること)、及び消しゴム本体が汚れないために消しクズが発生し、消しカスが消しゴム本体から離脱すること(消しカス性に優れること)が要求される。従来から、これらの特性を満たすプラスチック字消し材には塩化ビニル系プラスチゾルが用いられている。塩化ビニル系プラスチゾルは、塩素原子を含むことから、消しカスをごみとして焼却した場合の燃焼時に塩素原子に由来する有害物質が発生し、問題となる場合がある。現在この対策として、非塩素系化合物を用いた字消し材が種々検討されている。
【0005】
例えば、特許文献4には、アクリル樹脂と熱可塑性エラストマーを含有してなる字消しが提案されている。ここでは、コアシェル構造のアクリルゴムがアクリル樹脂の好ましい例として用いられているが、開示されているアクリル樹脂は可塑剤との相溶性が乏しいため、可塑剤と混合した場合、ゾル状にすることはできても成形体から可塑剤のブリードアウトを引き起こし、これを収納するプラスチック製筆箱等に固着するという問題が生じる。また、字消し材として、柔軟性を補うためにプロセスオイルを用いているが、プロセスオイルは極性が低く、紙面上の黒鉛を吸着する能力としては不十分である。また、プラスチゾル製造時に、コアシェル構造のアクリル樹脂をペレットとして用いる場合、可塑剤と混合して均質なプラスチゾルを得ることは困難であり、成形方法としては押出成形、射出成形に限られ、自由な形に成形できるというプラスチゾルの利点が損なわれている。また、消字性、消しカス性も市販品の字消し材に比べると十分なものではない。
【特許文献1】国際公開WO00/01748号パンフレット
【特許文献2】特開2002−226596号公報
【特許文献3】国際公開WO03/097754号パンフレット
【特許文献4】特開2005−169831号公報
【特許文献5】特開2005−232297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、貯蔵安定性に優れ、これを用いてテキスタイル上に形成した塗膜において、強度と伸縮性のバランスが良好で、タックが抑制されるテキスタイルインクの製造に好適に用いられると共に、消字性に優れ、消しカスが良好で、ブリードアウトが抑制されるプラスチック字消し材の製造に好適に用いられるプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子、プラスチゾル、組成物や、プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の分子量分布と特定量のメタクリレート単位を含有するアクリル系重合体微粒子を用いて得られるプラスチゾルは、極めて貯蔵安定性に優れ、これを用いてテキスタイル上に形成された塗膜は、強度と伸縮性が共に優れ、タックが抑制されることを見い出し、また、これを用いて作成した字消し材は、消字性に優れ、消しカス性が良好で、ブリードアウトが抑制されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、メチルメタクリレート単位を72mol%以上92mol%以下の範囲で含有し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが5以上であるプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子に関する。
【0009】
また、本発明は、上記プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子と、可塑剤とを含むことを特徴とするプラスチゾルや、該プラスチゾルと、機能性成分とを含む組成物に関する。
【0010】
本発明は、特に、テキスタイルインク又は字消し材に好適であるプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子、プラスチゾル、及び、組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子の製造方法であって、臨界ミセル濃度未満で単量体を重合してシード粒子を形成した後、該シード粒子の存在下で、開始剤及び連鎖移動剤の少なくとも一方を添加して、単量体を重合する工程を1回以上行なうプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子は、環境への負荷が小さく、これを用いて作成したテキスタイルインクにおいて貯蔵安定性に優れ、これを用いてテキスタイル上に形成した塗膜において、強度と伸縮性とのバランスが良好で、タックが抑制されると共に、これを用いて作成した字消し材において、消字性が良好で、消しカス性が良好であり、ブリードアウトが抑制される。本発明のプラスチゾルや組成物は、上記テキスタイルインクや字消し材の製造に好適であり、本発明のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子の製造方法は、効率よくプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子は、メチルメタクリレート単位を72mol%以上92mol%以下の範囲で含有し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(分子量分布)Mw/Mnが5以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子を構成するアクリル系共重合体は、メチルメタクリレート単位を72mol%以上、92mol%以下の範囲で含有するが、80mol%以下の範囲であることが好ましい。アクリル系重合体中のメチルメタクリレート単位の含有量が72mol%以上であれば、これを用いて得られるテキスタイルインクにおいて優れた貯蔵安定性を有し、更にインクを用いて得られる塗膜表面のタックを減少させることができる。また、これを用いて得られる字消し材においても、表面のタックを減少させることができる。また、アクリル系重合体中のメチルメタクリレート単位の含有量が92mol%以下であれば、テキスタイル上に柔軟性に優れる塗膜を形成することができる。字消し材においては、可塑剤のブリードアウトを抑制させることができ、消し性能が良好になる傾向が見られる。
【0015】
上記アクリル系重合体に含まれるメチルメタクリレート以外の単位としては、メチルメタクリレートと共重合可能な単量体の単位であれば、いずれであってもよいが、例えば、メチルアクリレートを始めとするアルキル(メタ)アクレートの単位を挙げることができる。アルキル(メタ)アクレートの単位としては、具体的には、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;等の単位を挙げることができる。中でも、メチルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートの単位は、これらの単位の単量体を容易に入手することができ、工業的実用化の点から好ましい。ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0016】
上記の他、アクリル系重合体は、必要に応じて各種の官能基を有する単量体の単位を含有していてもよい。かかる単量体の単位として、具体的には、アセトアセトキエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有(メタ)アクリレート単位;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート単位;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート単位;N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート単位;アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体単位;ウレタン変性(メタ)アクリレート単位;エポキシ変性(メタ)アクリレート単位;シリコーン変性(メタ)アクリレート単位;等を挙げることができる。
【0017】
上記アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、50万以上であることが好ましい。アクリル系重合体の分子量が50万以上であれば、これを用いたテキスタイルインクにおいて優れた貯蔵安定性を有し、適度な強度を有する塗膜を形成することができる。また、これを用いた字消し材において、消しカス性が良好になる傾向が見られる。
【0018】
上記アクリル系重合体は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mn(分子量分布)が5以上である。このような広い分子量分布を有することにより、アクリル系重合体の溶融性が向上し、これを用いてテキスタイル上に形成した塗膜において、テキスタイルの動きに追従して伸縮し、クラックや剥離の発生が抑制できる。また、字消し材においては、柔軟性を有した成形物を得ることができ、消しカス性が良好になる傾向が見られる。アクリル系重合体の分子量分布は正規分布のみならず、ピークの形状もいずれの形状を有するような分布であってもよく、複数のピークを有する分布であってもよい。
【0019】
アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnの測定は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の測定を行い、これらから求める。重量平均分子量(Mw)は、測定対象の重量平均分子量(Mw)を測定した後に、重量平均分子量2000以下のものを除外して解析した値を重合体粒子の重量平均分子量とすることが、好ましい。重量平均分子量が2000以下のものは不純物に由来する場合が多く、これを除外することにより実態に即した測定結果を得るためである。
【0020】
アクリル系重合体の分子量として具体的には、GPC法によるポリスチレン換算値として以下の条件で測定した測定値を採用することができる。
測定装置:東ソー(株)製、高速GPC装置HLC−8020
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGMHXLを3本直列に連結
オーブン温度:38℃
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:0.3質量%
流速:1mL/分
注入量:0.1mL
検出器:RI(示差屈折計)
また、上記アクリル系重合体は、後述する架橋形成前の重合体において、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上100℃以下であることが、好ましい。上記アクリル系重合体のTgが30℃以上であれば、これを用いたインクの貯蔵安定性が良好になり、形成される塗膜のタックが低下し、100℃以下であれば、柔軟性を有する塗膜を形成することができる。
【0021】
ここで、ガラス転移温度(Tg)は、重合体を構成する各単量体の単独でのTgと、各単量体の重量割合に基づいて一般的に採用されている計算法によって求められたTgを表す。具体的には、各単量体の単独でのTg(絶対温度)を、それぞれTg1、Tg2、Tg3、…とし、各単量体の重量割合(重量%)を、それぞれW1、W2、W3、…とした場合に、重合体のTgは次の数式(1)で求められる。
【0022】
100/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+… (1)
上記アクリル系重合体は、アクリル系重合体微粒子を用いてテキスタイル上に形成する塗膜に好適な強度と伸縮性を付与するために、適度な架橋構造を有することが好ましい。アクリル系重合体に形成する架橋の程度としては、アクリル系重合体のテトラヒドロフラン(THF)に対する不溶分(ゲル分率)が10質量%以下の範囲となる緩い程度であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下の範囲となる程度である。THF不溶分が10質量%以下のアクリル系重合体は、プラスチゾル中において可塑剤との相溶性に優れ、これを用いて得られる塗膜が伸縮性に富むものとなる。一般に、高分子化合物は分子量に比例してこれを用いて形成する塗膜の強度等の物性を向上させ得るが、上記アクリル系重合体はTHF不溶分が10質量%以下となるような架橋が導入されることにより、架橋形成前と比較して、これを用いてテキスタイルに形成される塗膜に適度な強度を付与することができる。
【0023】
ここで、アクリル系重合体のTHFに対する不溶分を示すゲル分率として、以下の測定方法による測定値を採用することができる。アクリル系重合体を2g精秤し、これを500mlのガラス製ビーカーにTHF400gと共に投入し、40℃で3 時間攪拌溶解し、これをメンブレンフィルターにて濾過し、不溶解分を取り出す。乾燥後の不溶解分の重量Wgを精秤し、次式により算出する。
【0024】
ゲル分率 (%)=(W/2)×100
上記アクリル系重合体にこのような架橋を形成する架橋性単量体単位としては、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート類等の多官能単量体の単位や、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有化合物の単位を挙げることができる。これらのうち、グリシジル(メタ)アクリレートの単位を特に好ましいものとして挙げることができる。
【0025】
架橋性単量体単位の含有量としては、0.1mol%以上であることが好ましく、5mol%以下であることが好ましく、より好ましくは0.7mol%以下である。
【0026】
上記アクリル系重合体は THFに対する相溶性を上記範囲に調整するため酸基を有することが、これを用いたテキスタイルインクや、プラスチゾル、組成物において、貯蔵安定性が向上する傾向を有する。このような酸基は、アクリル系重合体において5mgKOH/gの酸価を有する程度に導入されることが好ましい。
【0027】
上記アクリル系重合体にこのような酸基を導入する単量体単位としては、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸2−サクシノロイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸2−マレイノイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸2−フタロイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル等のカルボキシル基含有不飽和単量体の単位;アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有不飽和単量体の単位;2−(メタ)アクリロイキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有(メタ)アクリレートの単位等の酸基含有単量体単位を挙げることができる。
【0028】
このようなアクリル系重合体を含むプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子は、粒子構造として全体に亘って均一な組成を有するものであってもよいが、多層構造を有するものが好ましい。多層構造としては、シード粒子の周囲に異なる組成の上層を二層有するコアシェル構造、更にシェル部が複数層を有するもの(三層以上の構造)、中心部から表面へと組成が連続して変化するグラディエント型構造を有するもの等が挙げられる。アクリル系重合体微粒子が多層構造を有することにより、可塑剤と相溶性を有する重合体成分が、可塑剤と非相溶性の重合体成分で形成される表面層により、可塑剤との接触が抑制され、プラスチゾル中でのアクリル系重合体微粒子のゲル化が抑制され、プラスチゾルや組成物、これを用いたインクの貯蔵安定性が向上される。さらに、これを用いて得られる塗膜の強度や伸縮性の調整を容易に行うことができる。
【0029】
ここでいう相溶性とは、過硫酸カリウムを開始剤とする乳化重合によって製造された重量平均分子量が60万〜80万の共重合体と可塑剤とを50/50(質量%)の比で混合して塗工膜を形成し、130℃のオーブン中で20分間加熱して室温まで冷却して塗膜形成後、1日経過後に目視観察して塗膜表面に可塑剤のブリードアウトが見られない場合をいう。
【0030】
上記表面層としては、コア/シェル構造の場合はシェルをいい、三層以上の構造やグラディエント型構造の場合は最外層をいい、これらはTHF不溶分が1質量%未満であることが好ましい。
【0031】
上記アクリル系重合体微粒子が多層構造を有する場合、アクリル系重合体微粒子全体として上記構成のアクリル系重合体を有すれば、各層の組成はいずれであってもよいが、コア/シェル構造を有する場合、得られる塗膜の表面タックが抑制されることから、コアはメチルメタクリレート単位を20mol%以上85mol%以下の範囲で含有し、塗膜強度とプラスチゾルの貯蔵安定性が良好になることから、シェルはメチルメタクリレート単位を80mol%以上99mol%以下の範囲で含有することが好ましい。また、シェルは、カルボキシル基、スルホキシル基、リン酸基等の酸基を含有することが、貯蔵安定性の向上を図ることができることから好ましい。これらのうち、カルボキシル基が重合の容易さなどの点から好ましい。これらの酸基はシェルの表面に存在することが好ましく、シェルの酸価が5mgKOH/g以上となる範囲で含有されることが、これを用いたプラスチゾルの貯蔵安定性を向上させることができることから、好ましい。
【0032】
このようなコア/シェル構造において、コアの質量が60質量%以上90質量%以下、シェルの質量が10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。コアの質量が60質量%以上であれば、これを用いて柔軟性に優れる塗膜を形成することができ、90質量%以下であれば、タックが抑制された塗膜を形成することができ、インクにおいて優れた貯蔵安定性を有するものとできる。また、字消し材において、優れた可塑剤保持性を有するものとできる。
【0033】
上記アクリル系重合体微粒子の一次粒子の平均粒子径は、300nm以上であることが好ましく、500nm以上がさらに好ましい。一次粒子の平均粒子径が300nm以上であれば、プラスチゾルにおいて貯蔵安定性が良好になる傾向がある。
【0034】
ここで平均粒子径は、透過率が75〜95%の範囲内になるように調製したアクリル系重合体微粒子の水分散体中の、体積平均一次粒子径及び個数一次粒子径を、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定した値を採用することができる。
【0035】
上記アクリル系重合体微粒子は、上記アクリル系重合体を含有する一次粒子からなるものであれば、二次以上の高次構造は特に限定されず、例えば一次粒子が弱い凝集力で凝集した粒子、強い凝集力で凝集した粒子、熱により相互に融着した粒子等二次構造を有していてもよく、更に、これらの二次粒子を顆粒化等の処理によってより高次の構造を有するものとしたものであってもよい。アクリル系微粒子の高次構造化は、アクリル系重合体微粒子の粉立ちの抑制や、流動性の向上等の作業性を改善する目的、プラスチゾルにおける可塑剤に対するゲル化の抑制等の物性を改善する目的等、用途と要求に応じて行うことができる。
【0036】
上記プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子の製造は、臨界ミセル濃度未満で単量体を重合してシード粒子を形成した後、該シード粒子の存在下で、開始剤及び連鎖移動剤の少なくとも一方を添加して、単量体を重合する工程を1回以上行なう方法によることができる。
【0037】
上記シード粒子を形成する工程において、用いる単量体としては、メチルメタクリレート、上記(メタ)アクリレート類の他、必要に応じて上記酸基含有単量体や、その他の官能基を有する単量体等を用いることができる。これらの単量体を分散媒に分散させ、臨界ミセル濃度未満の条件下、必要に応じて開始剤等を添加して、重合させ、シード粒子を得る。臨界ミセル濃度未満で重合することにより、比較的大きな粒子径のシード粒子を得ることができる。
【0038】
使用する分散媒としては、水等を挙げることができる。
【0039】
使用する開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの有機過酸化物;酸化剤と還元剤との組み合わせによるレドックス重合開始剤等を挙げることができる。レドックス重合開始剤における酸化剤としては、例えば、上記過硫酸塩、上記有機過酸化物、過酸化水素水等を用いることができ、還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム等のアスコルビン酸(塩);エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウ等のエリソルビン酸(塩);糖類;ホルムアミジンスルフィン酸;ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等の亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素カリウム等のピロ亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウ等のチオ硫酸塩;亜燐酸、亜燐酸ナトリウム、亜燐酸カリウム、亜燐酸水素ナトリウム、亜燐酸水素カリウム等の亜燐酸(塩);ピロ亜燐酸、ピロ亜燐酸ナトリウム、ピロ亜燐酸カリウム、ピロ亜燐酸水素ナトリウム、ピロ亜燐酸水素カリウム等のピロ亜燐酸(塩);二酸化チオ尿素及びその誘導体;銅イオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン等の遷移金属イオンや、これらの遷移金属イオンをエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩やアセチルアセトン等のキレート剤により、安定な金属錯体としたものを挙げることができる。これらのうち、ホルムアルデヒド源になることがなく、良好な反応性が得られることから、二酸化チオ尿素及びその誘導体が好ましい。
【0040】
上記重合開始剤の使用量は、シード粒子を形成する単量体100質量部当たり0.015質量部〜3.5質量部の範囲であることが好ましい。
【0041】
上記単量体をミセル濃度未満の条件下、分散した分散媒に、必要に応じて開始剤を添加して、必要に応じて適宜加熱してソープフリー重合により、シード粒子を得ることができる。重合の際には、窒素等の不活性ガスにより系内を置換し、酸素濃度を下げておくことが好ましい。具体的には、分散媒中の溶存酸素濃度が2mg/Lであることが好ましく、重合系内の気相酸素濃度が2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。これは、酸素による重合阻害を排除し、重量平均分子量(Mw)が50万以上のアクリル系重合体を得ることが容易になるためである。
【0042】
得られたシード粒子の存在下で単量体の重合工程を行うことにより、シード粒子にコアと、その上層となるシェルを形成する。更に、得られた粒子の存在下で、単量体を重合して、重合を順次多段に複数回に亘って行なうことにより、多層構造の粒子を形成することができる。このような単量体の重合工程において、少なくとも1回の重合工程において、開始剤及び連鎖移動剤の少なくとも一方を、単量体の重合反応前又は反応中に添加して行なうことが好ましい。こうすることで粒子中に低分子量成分を組み込むことができ、分子量分布が5以上であるようなアクリル系重合体が得られるようになる。
【0043】
この工程で使用する単量体としては、メチルメタクリレートや、上記アルキル(メタ)アクリレートの他、上記酸基含有単量体やその他の各種の官能基を有する単量体、上記架橋性単量体を挙げることができる。これらの単量体は複数の重合工程を行なう場合は、それぞれ異なる組成で用いることができる。
【0044】
また、この工程で使用する開始剤としては、シード粒子の重合に用いる開始剤として例示したものと同様のものを挙げることができる。
【0045】
上記連鎖移動剤としては、メルカプタン、ポリメルカプタン、チオエステル、アルキルベンゼン化合物、等の連鎖移動剤を用いることができる。このうち、メルカプタンが好適である。具体例として2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、チオグリコール酸オクチル等を挙げることができる。
【0046】
これらの開始剤、連鎖移動剤はいずれか一方、又は双方を使用することができ、それぞれ1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
これらの開始剤、連鎖移動剤の使用量としては、単量体100質量部当たり0.01質量部〜5質量部を挙げることができる。
【0048】
これらの開始剤や連鎖移動剤の添加方法としては、単量体の重合前又は重合反応中に、開始剤、連鎖移動剤をそのまま、又は水溶液又は分散媒として一度に投入、あるいは、複数回に分割して投入、若しくは滴下する方法等いずれであってもよい。
【0049】
このような重合工程終了後、分散媒からの重合体微粒子の回収は、スプレードライ法(噴霧乾燥法)又は凝固法等の方法によることができる。分散性向上の観点から、一次粒子が多数集合した凝集粒子(二次粒子、又はそれ以上の高次構造)において、一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集している状態を作り出すことが容易なスプレードライ法による回収方法が好ましい。
【0050】
本発明のプラスチゾルは、上記プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子と、可塑剤とを含むものである。
【0051】
上記可塑剤としては、プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子を可塑化する能力があれば、いずれであってもよい。具体的には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジー2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤;ポリ−1,3−ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤;アルキルスルホン酸フェニルエステル等のアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤;脂環式二塩基酸エステル系可塑剤;ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤;クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類等を挙げることができる。これらの可塑剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0052】
上記可塑剤のプラスチゾル中の含有割合としては、得られる塗膜の柔軟性の点から、プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子100質量部に対して50質量部以上用いることが好ましく、70質量部以上用いることがさらに好ましい。また、得られる塗膜や、成形体においてブリードアウト抑制の点から、アクリル系重合体微粒子100質量部に対して400質量部以下の範囲で用いることが好ましく、さらに好ましくは300質量部以下である。また、上記フタル酸エステル系可塑剤の含有量は、エンドクリン撹乱問題の点からプラスチゾル中1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。
【0053】
上記プラスチゾルの調製方法としては、プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子と可塑剤を所定の割合で混合、攪拌する方法を挙げることができる。
【0054】
本発明の組成物は、上記プラスチゾルと、機能性成分とを含むものであり、着色性、隠蔽性、軽量化や意匠性等の機能性を付与されたアクリル系重合体の塗膜を形成することができる。本発明の組成物に用いる機能性成分としては、例えば、クレー、バライト、雲母、黄土等の天然無機顔料、酸化チタン、亜鉛黄、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック等の合成無機顔料、アルミニウム粉、亜鉛粉等の金属粉、マダーレーキ等の天然染料系顔料、ニトロソ系、アゾ系、フタロシアニン系、塩基性染料系、有機蛍光系等の合成有機顔料等の顔料や、鉱物性充填材 、合成充填材 又は植物性充填材等の充填剤を挙げることができる。充填剤としては、例えば、繊維ガラス、木粉、フライアッシュ、セルロース繊維、もみ殻、堅果の殻、中空球、プラスチック球、ヒュームドシリカ、ガラス球等を挙げることができる。テキスタイルインク用途では、隠蔽性を高めるために酸化チタンを含有することが好ましい。字消し材用途では、炭酸カルシウムを含むことが好ましい。
【0055】
上記機能性成分の含有割合としては、着色等の効果を得るためにプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子100質量部に対し0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。また、良好な塗膜強度を得るため、アクリル系重合体微粒子100質量部に対し400質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましい。
【0056】
上記組成物は、上記プラスチゾル、機能性成分の機能を損なわない範囲において、酸化防止剤、非ハロゲン系難燃剤、粘度調整剤、希釈剤、消泡剤、防黴剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、レベリング剤、接着剤等の添加剤を配合することができる。
【0057】
上記組成物の調製は、上記プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子、可塑剤、機能性成分、必要に応じて上記添加剤を混合、攪拌する方法によることができ、ディゾルバー、ニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールミル等の攪拌機を使用することができる。
【0058】
上記組成物を用いて塗膜を形成するテキスタイルとしては、織物、編物等の布地やフェルト、不織布等いずれのものであってもよい。具体的には、シャツ、トレーナー、エプロン、靴下、手袋等の衣類、靴、鞄等の雑貨、カーテン、テーブルクロス、タペストリー等の室内装飾品、椅子、ソファー等の家具、車両用のシート、ヘッドレスト、トノカバー、サンバイザー等、その他帆布等を挙げることができる。
【0059】
これらのテキスタイルに塗膜を形成する方法としては、スクリーン印刷等の直接印刷や熱転写印刷等を適用することができる。熱転写印刷は、離型紙等の上にテキスタイルインク組成物を塗布した後、加熱して得られたゲル化膜をテキスタイルに加熱圧着して塗膜を形成する方法である。テキスタイル上に形成された塗膜は、加熱されることによって固化する。加熱条件は、塗布された膜の厚さや配合組成により適宜選択することができ、例えば、100℃〜250℃、1秒〜5分等を挙げることができる。
【0060】
上記組成物を用いて字消し材を形成する方法としては、熱プレス成型が好ましい。また、ゾル状態の字消し材組成物を成形型に流し込み加熱により硬化させることもできる。これにより、角型だけではなく、人形、自動車等複雑な形状を有した字消し材を提供することができる。また、一度ゲル化させた字消し材組成物を必要に応じて粉砕し、押し出し成型、射出成型することも可能である。得られた字消し材は、必要に応じて所定の寸法に裁断されて製品とすることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例を用いて詳述する。
【0062】
[実施例1]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A1の合成
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗及び冷却管を装備した5リットルの4つ口フラスコに、純水952gを入れ、60分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、シードモノマーとして、メチルメタクリレート45.6g及びn−ブチルメタクリレート34.9gを入れ、180rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、35gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.70gを一度に添加し、ソープフリー重合を開始した。そのまま80℃にて攪拌を60分継続し、シード粒子分散液を得た。
【0063】
引き続きこのシード粒子分散液に対して、第一滴下モノマー(メチルメタクリレート637.0g、n−ブチルメタクリレート343.0g、グリシジルメタクリレート7.0g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)9.80g及び純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を3.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、第一滴下重合体分散液を得た。
【0064】
引き続きこの第一滴下重合体分散液に対して、過硫酸カリウム0.84gを加え、さらに第二滴下モノマー(メチルメタクリレート392.6g、メタクリル酸27.4gジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)8.2g及び純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を1.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌を継続して、第ニ滴下重合体分散液を得た。
【0065】
得られた第二滴下重合体分散液を室温まで冷却した後、スプレードライヤー(大川原化工機(株)製、L−8型)を用いて、入口温度170℃、出口温度75℃、アトマイザ回転数25000rpmにて噴霧乾燥し、アクリル系重合体微粒子A1を得た。得られたアクリル系重合体微粒子A1について分子量、分子量分布を測定した。重量平均分子量(M
w)は2000以下の部分を除外して解析して求めた。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例2]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A2の合成
メチルメタクリレート45.6gを50.0gとし、n−ブチルメタクリレート34.9gを30.4gとした外は、実施例1と同様に、シード粒子分散液を得、その後、実施例1と同様にして、第一滴下重合体分散液を得た。
【0067】
引き続き、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物0.07g、硫酸鉄(II)7水和物0.014g、二酸化チオ尿素(ADEKA製、商品名:テックライト)0.378gを添加した。さらに第二滴下モノマー(メチルメタクリレート377.8g、メタクリル酸42.2g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)8.2g、2.5%過酸化水素水19.6g、チオグリコール酸2−エチルヘキシル(淀化学製、商品名:OTG)0.84gおよび純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を1.5時間かけて滴下し、引き続きメタクリル酸1.4gと純水41.3gを滴下した。続いて80℃にて1時間攪拌を継続して、第二滴下重合体分散液を得た。得られた第二滴下重合体分散液から実施例1と同様に、アクリル系重合体微粒子A2を得て、分子量、分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例3]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A3の合成
実施例2と同様にシード粒子分散液を得て、引き続きこのシード粒子分散液に対して滴下する第一滴下モノマーとして、(メチルメタクリレート609.4g、i−ブチルメタクリレート370.6g、グリシジルメタクリレート7.0g、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名:ペレックスO−TP)5.00g及び純水350.0gを混合攪拌して乳化したもの)を用いた外は、実施例2と同様にして、アクリル系重合体微粒子A3を得て、分子量、分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例4]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A4の合成
表1記載のモノマーを使用し、初期の過硫酸カリウムを0.28g、二酸化チオ尿素(ADEKA製、商品名:テックライト)を0.224g、2.5%過酸化水素水を1.029gとし、第二滴下モノマー中にOTG1.12gを添加した外は、実施例2と同様にしてアクリル系重合体微粒子A4を得て、分子量、分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例5]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A5の合成
表1記載のモノマーを使用し、初期の過硫酸カリウムを0.28g、第一滴下重合体分散液に対して添加する過硫酸カリウムを1.68g、第二滴下モノマー中にOTG1.68gを添加した外は、実施例1と同様にしてアクリル系重合体微粒子A5を得て、分子量、分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1、2]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A6、7の合成
表1記載のモノマーを使用した外は、実施例1と同様にしてアクリル系重合体微粒子A6、7を得て、分子量、分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例3]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A8の合成
表1記載のモノマーを使用し、第一滴下時間を2.5時間、第二滴下時間を2.5時間とした外は、A1と同様にしてアクリル系重合体微粒子A8を得て、分子量、分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例4]プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子A9の合成
表1に示すモノマーを用い、第一滴下重合体分散液に対して添加する過硫酸カリウムを2.8gにした他は実施例1と同様の方法で噴霧乾燥することで重合体微粒子A9を得て、分子量、分子量分布を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表中の略号:
「MMA」:メチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルM」)
「BMA」:n−ブチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルB」)
「IBMA」:i−ブチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルIB」)
「GMA」:グリシジルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルG」)
「MAA」:メタクリル酸(三菱レイヨン製、商品名「メタクリル酸」)
「EDMA」:エチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルED」)。
【0076】
[実施例6]テキスタイルインク組成物の調製
可塑剤としてポリエステル系可塑剤(DIC(株):商品名:ポリサイザーW−230−S)100質量部、フィラーとして酸化チタン「JR−600A」(テイカ(株)製)30質量部、及び分散剤としてDisperplast1150(Bykchemie社製)1.0質量部をプラスチック製容器に投入し、真空ミキサー((株)シンキー製ARV−200)にて10秒間大気圧で混合攪拌した後、20mmHgに減圧して更に90秒間混合攪拌し脱泡した。実施例1で得られたアクリル系重合体微粒子A1を100質量部加え、同条件で混合攪拌、脱泡し、均一なテキスタイルインク組成物を得た。得られたテキスタイルインク組成物について以下の方法により貯蔵安定性を評価した。更に、これを用いて塗膜を形成し、強度、伸度を測定した。
【0077】
[貯蔵安定性]
テキスタイルインク組成物を調製してから3時間以内にBrookfield型粘度計(東機産業(株)製、BH型粘度計、7号ローター)を用いて、測定温度25℃、回転数5rpmにて粘度を測定し、これを初期の粘度とした。40℃の恒温槽にて保温し、10日後に取り出して再び粘度を同条件下において測定した。テキスタイルインク組成物の増粘率Sを以下の式から算出し(単位:%)、算出値により、以下の基準により貯蔵安定性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0078】
S=[(貯蔵後の粘度/初期の粘度)−1]×100(%)
◎:100未満
○:100以上200未満
×:500以上からゲル化。
【0079】
[塗膜の強度]
剥離紙を敷いたガラス板の上に得られたテキスタイルインク組成物を2mm厚に塗布し、130℃×20分加熱してゲル化させ、均一な塗膜を得た。これをガラス板から剥離した後、上記方法で調整したシートをダンベル2号型(JIS K6251)に打ち抜き試験片とした。この試験片について、試験温度25℃、試験速度200mm/min.の条件下、テンシロン万能試験機にて引っ張り試験を行い、最大点応力の値から、塗膜の強度を以下の基準により評価した。結果を表3に示す。
強度(単位:MPa)
◎:4.0以上
○:4.0未満3.0以上
×:2.0未満。
【0080】
[塗膜の伸度]
上記引っ張り試験において、破断点伸度の値から、塗膜の伸度を以下の基準により評価した。結果を表3に示す。
伸度(単位:%)
◎:300以上
○:300未満200以上
×:100以下。
【0081】
[塗膜の弾性率]
上記引っ張り試験において、最大点応力の値から、塗膜の弾性率を以下の基準により評価した。結果を表3に示す。
◎:10MPa以下
○:10MPa以上20MPa以下
×:30MPa以上
[塗膜のタック]
得られた塗膜について、目視観察を行い、以下の基準によりタックを評価した。結果を表3に示す。
【0082】
試料を長さ150mm×幅150mmに切り取り、これを試験片とする。試験片2枚を重ね合わせた後、ガラス板ではさみこみ、一番上のガラス板に5kgの重りを片寄りがないように載せ、25℃で3時間放置する。規定時間経過後、ガラス板から試験片を取り出し、試験片の剥がれ具合を評価した。
◎:容易に剥離可能
○:剥離が可能
×:剥離が困難、不能
[実施例7〜12、比較例5〜8]テキスタイルインク組成物の調製
表2に示す、アクリル系重合体微粒子、可塑剤、フィラー、分散剤を用いた外は実施例6と同様にしてテキスタイルインク組成物を調製し、その貯蔵安定性の評価を行い、塗膜を形成し、塗膜の強度、伸度、弾性率、タックについて評価を行なった。結果を表3に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
(注)表中の数字は質量部を示す。
「メザモール」:株式会社ランクセス社製アルキルスルホン酸フェニル系可塑剤(商品名「Mesamoll」)
「ATBC」:大日本インキ化学工業株式会社製クエン酸エステル系可塑剤(商品名「モノサイザーATBC」)
「W−230S」:大日本インキ化学工業株式会社製ポリエステル系可塑剤(商品名「ポリサイザーW−230S」)
「PL−012」:理研ビタミン株式会社製グリセリンエステル系可塑剤(商品名リケマールPL−012)
「W−150」:大日本インキ化学工業株式会社製脂環式エステル系可塑剤(商品名「モノサイザーW−150」)
【0085】
【表3】

【0086】
結果より、本発明のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子を用いたテキスタイルインク組成物においては、強度、伸度、弾性と共に優れ、タック性に優れたものであることは明らかである。
【0087】
[実施例13]字消し材の作成
可塑剤としてアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤(ランクセス(株)製:商品名「Mesamoll」、別名「ASAP」)120質量部、フィラーとして重質炭酸カルシウム「ホワイトンSB」(白石カルシウム(株)製)40質量部をプラスチック製容器に投入し、真空ミキサー((株)シンキー製ARV−200)にて10秒間大気圧で混合攪拌した後、20mmHgに減圧して更に90秒間混合攪拌し脱泡した。アクリル系重合体微粒子A5を100質量部加え、同条件で混合攪拌、脱泡し、均一な字消し材用組成物を得た。得られた字消し材用組成物を丸型アルミカップに厚さ5mmになるように入れ130℃10分間の条件で加熱して、ゲル化させた。以下の方法により消字性、消しカス性、非ブリードアウト性を評価した。結果を表5に示す。
【0088】
[消字性]
JIS S 6050に準拠して試験片、試験紙を用意した。試験紙との接触部分を6mmの円弧になるように仕上げたものを試験片とした。試験片を着色紙に対して垂直に、しかも着色線に対して直角になるように接触させ、試験片に重りとホルダーの質量の和が0.5kgになるように重りをのせ、150±10cm/min.の速さで着色部を4往復させた。着色部と磨消部の濃度を測定し、以下の式により消字率を算出し、以下の基準により消字性を評価した。
消字率(%)=(1−(磨消部の濃度÷着色部の濃度))×100
◎:消字率が90%以上
○:消字率が80%以上90%未満
×:消字率が80%未満。
【0089】
[消しカス性]
上記試験片を試験者の手で5cmの距離を30往復した後、試験片の磨消面を観察し、下記基準により評価した。
◎:消しカスが発生し、字消し材本体に汚れが残らない
○:消しカスが発生するが、カスが細かすぎる。あるいは、カスが字消し材本体に付着した状態になっているが、分離可能な状態
×:消しカスがほとんど又は全く発生せず、字消し材本体が汚れてしまう。
【0090】
[非ブリードアウト性]
上記試験片を常温でペーパータオルの上に置き、3日後に紙への可塑剤の移行状態を観察し、下記基準にて評価した。
◎:全く又はほとんど移行していない
○:一部移行が認められるが、試験片の形状が判定できるほどではない。
×:試験片の形がわかる程度に移行が観察される。
【0091】
[実施例14〜17、比較例9、10]字消し材の作成
表4に示す、アクリル系重合体微粒子、可塑剤を用いた外は実施例13と同様にして字消し材組成物を調製し、字消し材を作成し、消字性、消しカス性について評価を行なった。結果を表5に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
(注)表中の数字は質量部を示す。
【0094】
【表5】

【0095】
比較例9はアクリル系重合体微粒子にA6を使用した例である。架橋剤の量が多いため、可塑剤のブリードアウトがおき、消字性、消しカス性は評価できなかった。比較例10は、アクリル系重合体微粒子にA8を使用した例である。分子量分布が狭いため、消しカス性に劣るものだった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルメタクリレート単位を72mol%以上92mol%以下の範囲で含有し、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが5以上であるプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子。
【請求項2】
請求項1記載のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子と、可塑剤とを含むプラスチゾル。
【請求項3】
請求項2記載のプラスチゾルと、機能性成分とを含むことを特徴とする組成物。
【請求項4】
請求項1記載のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子の製造方法であって、臨界ミセル濃度未満で単量体を重合してシード粒子を形成した後、該シード粒子の存在下で、開始剤及び連鎖移動剤の少なくとも一方を添加して、単量体を重合する工程を1回以上行なうプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子を含む字消し材。
【請求項6】
用途がテキスタイルインク又は字消し材である請求項2記載のプラスチゾル。
【請求項7】
用途がテキスタイルインク又は字消し材である請求項3記載の組成物。

【公開番号】特開2009−74087(P2009−74087A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223475(P2008−223475)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】