説明

プラスチゾル組成物

【課題】貯蔵安定性に優れ、且つ、低温における基材との接着性及び耐着色性に優れたプラスチゾル組成物を提供すること
【解決手段】(a)塩化ビニル系樹脂微粒子、(b)ブロックポリウレタン、(c)ポリイソシアネート及び炭素原子数8〜12の脂肪族モノアルコールの反応生成物、(d)ポリアミン化合物、(e)可塑剤、及び、(f)充填剤を含むことを特徴とするプラスチゾル組成物。前記(b)成分のブロックポリウレタンは、ポリエステルポリオール及びポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンのイソシアネート基を、ブロック化剤を用いてブロックして調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチゾル組成物に関し、詳しくは、保存安定性に優れ、低温における基材との接着性、及び耐着色性に優れる、ポリ塩化ビニル系プラスチゾル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から工業的に広く用いられているプラスチゾルは、特別に調整された粒径と粒度分布を有する重合体粒子を、充填剤と共に可塑剤中に均一に分散させてなる、液状又は糊状の、粘稠な組成物である。このプラスチゾル組成物は、基材に塗布して適切な加工温度を加えることにより、強靱な塗膜を形成する。
【0003】
上記重合体粒子としては、通常、ポリ塩化ビニル系あるいはアクリル重合体系の粒子が知られている。特に、ポリ塩化ビニル系プラスチゾルは、室温における長期貯蔵安定性が良好である上、塗膜も柔軟で耐久性に優れているため、例えば鋼板被覆、衣料、建材、日用品、雑貨、及び自動車部品等の分野において、幅広く用いられている。
【0004】
従来、種々のプラスチゾルが提案されている(例えば、特許文献1〜8)が、これらのプラスチゾルは、省力化のために近年要求されている低温速硬化(110℃、20分)の条件を満たすことができないだけでなく、貯蔵安定性、及び、低温における基材への接着性や塗膜の耐着色性の面で満足できるものは未だ得られていない。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−10682号公報
【特許文献2】特開平1−225650号公報
【特許文献3】特開平1−252650号公報
【特許文献4】特開平2−73842号公報
【特許文献5】特開平3−220271号公報
【特許文献6】特開平4−126783号公報
【特許文献7】特開平4−323242号公報
【特許文献8】特開平5−222258号公報
【0006】
そこで本発明者は、貯蔵安定性、及び、低温における基材への接着性や塗膜の耐着色性に優れたプラスチゾルを得るために鋭意検討した結果、塩化ビニル系樹脂微粒子を主成分とし、これに、特定のブロックウレタン、特定のウレタン化合物、及びポリアミン等を配合した場合には、良好な結果を得ることができることを見出し本発明に到達した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、貯蔵安定性に優れ、且つ、低温における、基材との接着性及び耐着色性に優れたプラスチゾル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記の目的は、(a)塩化ビニル系樹脂微粒子、(b)ポリエステルポリオール及びポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンのイソシアネート基を、ブロック化剤を用いてブロックして得られるブロックポリウレタン、(c)ポリイソシアネート及び炭素原子数8〜12の脂肪族モノアルコールの反応生成物、(d)ポリアミン化合物、(e)可塑剤、及び、(f)充填剤を含むことを特徴とするプラスチゾル組成物によって達成された。
【0009】
本発明においては、(b)成分である前記ブロックポリウレタンに使用されるポリエステルポリオールが、2〜3官能のポリエステルポリオールであることが好ましく、また、(b)成分である前記ブロックポリウレタンに使用されるポリイソシアネートが、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートであることが好ましい。
【0010】
更に、本発明においては、前記(c)成分である反応生成物の原料ポリイソシアネートがトリレンジイソシアネートであることが好ましく、前記(c)成分である反応生成物の原料の一つとして使用される炭素原子数8〜12の脂肪族モノアルコールが、2−エチルヘキサノール、イソノニルアルコール及びラウリルアルコールから選択された少なくとも1種のモノアルコールであることが好ましい。
【0011】
また、前記(d)成分であるポリアミン化合物は、ポリエチレンポリアミンとダイマー酸の反応によって得られるポリアミドポリアミンであることが好ましく、前記(e)成分である可塑剤が、フタル酸ジイソノニルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラスチゾルは、貯蔵安定性に優れているだけでなく、低温速硬化性にも優れているので、低温における基材に対する塗膜の接着性や耐着色性に優れ、自動車用のシール材や保護材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のプラスチゾル組成物について詳細に説明する。
本発明に使用される(a)成分である塩化ビニル系樹脂微粒子としては、通常、塩化ビニルゾルの組成物として用いられる塩化ビニル系樹脂を使用することができる。このような塩化ビニル系樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など、その重合方法に基づいて特に限定されることはない。本発明で使用することのできる塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−スチレン共重合体、塩化ビニル−イソブチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−スチレン−無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニリトル共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−イソプレン共重合体、塩化ビニル−塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、及びそれらのブレンド品;若しくは、他の塩素を含まない合成樹脂、例えば、アクリル重合体微粒子を始め、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、ポリエステル等と塩化ビニル系樹脂とのブレンド品、ブロック共重合体、グラフト共重合体等を挙げることができる。
【0014】
本発明で使用する塩化ビニル系樹脂微粒子の分子量は、塗膜強度、貯蔵安定性等の観点から、質量平均分子量で10万〜数100万であることが好ましく、平均粒子径は、可塑剤への拡散性や貯蔵安定性の観点から、0.1〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明で使用する(b)成分であるブロックウレタンは、ポリイソシアナート及びポリエステルポリオールとを反応させて得られるイソシアネート基を有するポリウレタンの該イソシアネート基を、ブロック化剤を用いてブロックして得られるものである。
【0016】
上記ポリイソシアネートとしては、プロパン−1,2−ジイソシアネート、2,3−ジメチルブタン−2,3−ジイソシアネート、2−メチルペンタン−2,4−ジイソシアネート、オクタン−3,6−ジイソシアネート、3,3−ジニトロペンタン−1,5−ジイソシアネート、オクタン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート、メタテトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート)、1,3−又は1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、水添トリレンジイソシアネート等、及びこれらの混合物があげられる。これらのポリイソシアネートは、三量化してなるイソシアヌル体であってもよい。
【0017】
ここで、ポリイソシアネートのイソシアヌル体は、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、ジオキサン等の不活性溶媒中又はジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、アルキル基の炭素原子数が7〜11(以下C〜C11 のように記す)の混合アルキルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ヘキサノールベンジルフタレート等のフタル酸エステル、トリスクレジルホスフェート、トリスフェニルホスフェート等のリン酸エステル、ジ−2−エチルヘキシルアジペート等のアジピン酸エステル、又は、C7〜C11の混合アルキルトリメリテート等のトリメリット酸エステル等の可塑剤中で、周知の触媒、例えば三級アミン、四級アンモニウム化合物、マンニッヒ塩基、脂肪酸のアルカリ金属、アルコラート等を使用して、公知の方法で重合することによって得られる。高揮発性の溶剤下で重合反応させたものは、最終的に適当な高沸点の溶剤、例えば可塑剤で溶剤置換処理することが好ましい。
【0018】
本発明においては、これらのポリイソシアネートの中でも、特にジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)を用いることが、良好な接着性、耐着色性及び貯蔵安定性を得る上から好ましい。
【0019】
前記(b)成分で使用するポリエステルポリオールとしては、例えばポリカルボン酸と多価アルコールから製造される、公知のポリエステル又はラクタム類から得られるポリエステル等が挙げられる。上記ポリカルボン酸としては、例えばベンゼントリカルボン酸、アジピン酸、琥珀酸、スベリン酸、セバシン酸、蓚酸、メチルアジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、チオジプロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸又はこれらに類する任意の適当なカルボン酸を使用することができる。
【0020】
上記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ビス(ヒドロキシメチルクロルヘキサン)、ジエチレングリコール、2,2−ジメチルプロピレングリコール、1,3,6−ヘキサントリオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、グリセリン又はこれらに類する任意の適当な多価アルコールを使用することが出来る。その他、ポリヒドロキシ化合物として、ポリテトラメチレングリコール、ポリカプロラクトングリコール等も使用し得る。
【0021】
本発明においては、上記ポリエステルポリオールの中でも、2〜3価のポリエステルポリオールを用いることが、良好な接着性を得る観点から好ましい。
【0022】
本発明で使用する、(b)成分であるブロックポリウレタンを構成するポリウレタンを製造するに際しては、まず、前述したポリジイソシアネートとポリエステルポリオールとのモル比を、通常、ジイソシアネート化合物/ポリエステルポリオール=(1.5〜3.5)/1とし、好ましくは(2.0〜3.0)/1として、NCO%が1〜20%程度、好ましくは2〜15%のプレポリマーを製造する。
【0023】
上記ウレタンプレポリマーは、40〜140℃、好ましくは60〜130℃という通常の反応温度で通常の方法により得ることができる。このウレタンプレポリマーの生成反応に際しては、反応を促進させるために、公知のウレタン重合用触媒、例えば、ジブチルスズジラウレート、オクチルチンジラウレート、第一スズオクトエート、スタナスオクトエート、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛などの有機金属化合物、又は、トリエチレンジアミン、トリエチルアミンなどの第三級アミン系化合物を使用することも可能である。
【0024】
前記ブロック化剤としては、例えば、マロン酸ジエステル(マロン酸ジエチルなど)、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル(アセト酢酸エチルなど)等の活性メチレン化合物;アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム(MEKオキシム)、メチルイソブチルケトオキシム(MIBKオキシム)等のオキシム化合物;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ヘプチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ステアリルアルコール等の一価アルコール又はこれらの異性体;メチルグリコール、エチルグリコール、エチルジグリコール、エチルトリグリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール等のグリコール誘導体;ジ−イソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等のアミン化合物;フェノール、クレゾール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、第三ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、シクロヘキシルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ナフトール等のフェノール類;ε−カプロラクトン等があげられる。
【0025】
上記ブロック化剤を用いてブロックポリウレタンを得るためのブロック化反応は、公知の反応方法によって行われる。ブロック化剤の添加量は、遊離のイソシアネート基に対して通常1〜2当量、好ましくは1.00〜1.5当量である。
【0026】
通常、前記したポリウレタン(ウレタンプレポリマー)のブロック化反応においては、ウレタンプレポリマー製造反応の最終段階でブロック化剤を添加する方法をとるが、ブロック化剤を任意の段階で添加して反応させ、ブロックポリウレタンを得ることもできる。
【0027】
即ち、ブロック化剤の添加は、所定の重合反応終了時に添加しても、重合反応初期に添加しても、或いは、重合反応初期に一部添加し重合反応終了時に残部を添加するなどの、何れの方法によることも可能であるが、本発明においては、重合反応終了時に添加することが好ましい。この場合、所定の重合反応終了時の目安としては、イソシアネート%(例えば「ポリウレタン」槙書店、昭和35年発行、第21頁記載の方法により測定できる)を基準とすればよい。ブロック化剤を添加する場合の反応温度は、通常50〜150℃であり、好ましくは60〜120℃である。反応時間は1〜7時間程度である。反応に際しては、前記した公知のウレタン重合用触媒を添加して反応を促進することも可能である。また、本発明で使用する可塑剤(e)を、適宜加えてもよい。
【0028】
本発明のプラスチゾル組成物に使用する、(b)成分のブロックポリウレタンの配合量は、(a)成分の塩化ビニル系樹脂微粒子(必要に応じて1部を、アクリル重合体微粒子を始めとする、他の塩素を含まない合成樹脂等で置き換えても良い。)100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、特に1〜10質量部であることが好ましい。(b)成分であるブロックポリウレタンの配合量が1質量部未満であると、基材に対する塗膜の接着性、塗膜の耐寒性、および塗膜強度が不充分となるおそれがあり、50質量部を超えて使用した場合には、調製されたプラスチゾル組成物の粘度が高くなり、塗布する際の作業性に悪影響を与える。
【0029】
本発明に使用される(c)成分の反応生成物を製造する原料ポリイソシアネートとしては、例えば、プロパン−1,2−ジイソシアネート、2,3−ジメチルブタン−2,3−ジイソシアネート、2−メチルペンタン−2,4−ジイソシアネート、オクタン−3,6−ジイソシアネート、3,3−ジニトロペンタン−1,5−ジイソシアネート、オクタン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート、メタテトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート)、1,3−又は1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、水添トリレンジイソシアネート等、及びこれらの混合物があげられる。これらのポリイソシアネートは、三量化してなるイソシアヌル体であってもよい。
【0030】
本発明においては、これらのポリイソシアネートの中でも特にトリレンジイソシアネート(TDI)を用いることが、(b)成分のウレタン樹脂、(d)成分のポリアミドポリアミンを始めとするポリアミン、及び(e)成分の可塑剤との相溶性を良好にする観点から好ましい。
【0031】
本発明に使用される(c)成分の反応生成物を製造する、他方の原料である炭素原子数8〜12の脂肪族モノアルコールとしては、例えば、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、イソウンデカノール、ドデカノール、イソドデカノール等があげられる。
本発明においては、これらの中でも特に、2−エチルヘキサノール、イソノニルアルコール及びラウリルアルコールから選択された少なくとも1種のアルコールを使用することが、(b)成分のウレタン樹脂、(d)成分のポリアミドポリアミンを始めとするポリアミン、及び(e)成分の可塑剤との相溶性を良好にする観点から好ましい。
【0032】
本発明に使用される(c)成分の反応生成物を製造する場合には、上記ポリイソシアネートと炭素原子数8〜12の脂肪族モノアルコール、及び必要に応じてウレタン重合用触媒とを、通常40〜140℃、好ましくは60〜130℃で、数分〜10時間程度かけて混合する。
【0033】
上記ウレタン重合用触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、第一スズオクトエート、スタナスオクトエート、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛等の有機金属化合物、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の第三級アミン系化合物等、反応を促進することのできる公知のウレタン重合用触媒を使用することが可能である。
【0034】
この場合、(c)成分を製造する反応を、(b)成分を製造した系内で行うこともでき、これによって製造コストを下げることができる。
【0035】
本発明における(c)成分の使用量は、(b)成分のブロックポリウレタン100質量部に対して30〜100質量部であることが好ましい。30質量部以下であると相溶性が不十分となり、100質量部を超えるとプラスチゾルのチキソ性を阻害する傾向がある。
【0036】
本発明に使用される、(d)成分のポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン等の脂肪族ポリアミン;イソホロンジアミン、メンセンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン等の脂環式ポリアミン;m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、トリレン−2,4−ジアミン、トリレン−2,6−ジアミン、メシチレン−2,4−ジアミン、メシチレン−2,6−ジアミン、3,5−ジエチルトリレン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトリレン−2,6−ジアミン等の単核ポリアミン;ビフェニレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、2,5−ナフチレンジアミン、2,6−ナフチレンジアミン等の芳香族ポリアミン;あるいは、これらポリアミン類から得られる変性ポリアミンを使用することができる。
【0037】
上記変性ポリアミンとしては、エポキシ付加変性物、アミド化変性物、アクリル酸エステル変性物、イソシアネート変性物、マンニッヒ化変性物等があげられるが、特に、ポリエチレンポリアミンとダイマー酸から得られるポリアミドポリアミンを用いることが、良好な接着性を得ることができるので好ましい。
【0038】
本発明のプラスチゾル組成物に使用する上記(d)成分のポリアミン化合物は、(a)成分の塩化ビニル系樹脂微粒子(1部をアクリル重合体微粒子等で置き換えても良い。)100質量部当り、0.01〜10質量部配合することが好ましく、特に0.05〜5質量部の割合で配合することが好ましい。
【0039】
本発明に使用される(e)成分である可塑剤としては、従来からポリ塩化ビニル系のプラスチゾルに用いられている可塑剤を用いることができる。このような可塑剤としては、例えば、ジイソノニルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸系可塑剤;ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ−n−デシルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート等の脂肪酸エステル系可塑剤;トリブチルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤;トリメリテート系可塑剤、ピロメリテート系可塑剤、安息香酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤等を挙げることができる。これらの可塑剤は、そのいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、安価で入手しやすいという観点から、ジイソノニルフタレートを用いることが好ましい。また可塑剤の配合量は、塗膜強度及び施工作業性等の観点から、塩化ビニル系樹脂微粒子(1部をアクリル重合体微粒子等で置き換えても良い。)100質量部当たり、50〜500質量部であることが好ましく、特に80〜300質量部であることが好ましい。
【0040】
本発明に使用される(f)成分である充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、カオリンクレー、シリカ、硫酸バリウム等の他、ガラス繊維、ワラストナイト、アルミナ繊維、セラミック繊維、各種ホイスカー等の繊維状充填剤等、通常用いられている充填材を使用することができる。本発明においては特に、安価であるという理由から炭酸カルシウムを用いることが好ましい。なお、充填剤の配合量は、塗膜強度、コスト等の観点から、塩化ビニル系樹脂微粒子(1部をアクリル重合体微粒子等で置き換えても良い。)100質量部当たり50〜800質量部であることが好ましく、特に80〜500質量部であることが好ましい。
【0041】
なお、本発明のプラスチゾルには、公知の他の添加剤、例えば、着色剤、酸化防止剤、発泡剤、希釈剤、紫外線吸収剤等を配合することができる。着色剤としては、例えば二酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料等を使用することができる。
【0042】
酸化防止剤としては、例えばフェノール系、リン系、硫黄系、アミン系等の酸化防止剤を使用することができる。発泡剤としては、加熱によりガスを発生するタイプの発泡剤を使用することができ、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスホルムアミド等のアゾ系発泡剤を使用することができる。希釈剤としては、例えば、キシレン、ミネラルターペン、イソパラフィンソルベント等の溶剤を、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等のものを使用することができる。
【0043】
本発明のプラスチゾルを調製する方法には特に制限はなく、従来からプラスチゾルの調製に慣用されている方法を適宜用いることができる。例えば、前記(a)〜(f)成分及び必要に応じて他の添加剤を、公知の混合機を用いて充分に混合撹拌することにより、本発明のプラスチゾルを調製することができる。混合機としては、プラネタリーミキサー、ニーダー、グレンミル、ロール等を使用することができる。
【0044】
本発明のプラスチゾルは、公知の塗装方法、すなわち、刷毛塗り、ローラー塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装等により塗布することが可能である。プラスチゾルを塗布した後加熱し、塗膜を形成する。加熱方法も通常の方法に従えばよく、例えば熱風循環乾燥炉等を用いて行うことができる。
【0045】
本発明のプラスチゾルは、塗料、インキ、接着剤、粘着剤、シーリング剤等に応用することができるだけでなく、雑貨、玩具、工業部品、電気部品等の成型品にも応用することができる。紙布などに応用すれば人造皮革、敷物、壁紙、衣料、防水シート等になり、金属板に適用すれば防蝕性金属板とすることができる
以下、本発明を、実施例及び比較例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0046】
製造例−1〔(b)+(c)成分〕
フタル酸ジイソノニル 500質量部、及びアデカニューエースYT-651((株)ADEKA製ポリエステルポリオール)、分子量650、水酸基価260)を115質量部仕込み、100〜110℃、30mmHg以下で1時間減圧脱気した。60℃まで冷却し、水添MDIを139質量部、及びアデカスタブOT-1((株)ADEKA製OT-1:ラウレート錫系安定剤)を0.02質量部添加し、60〜70℃で4時間反応させた。60℃まで冷却した後、メチルエチルケトンオキシム 46質量部を添加し、80〜90℃で1時間反応させた。IRにてNCOの吸収が無いことを確認した後、2-エチルへキサノール 120質量部、及びトリレンジイソシアネート 80質量部を添加し、80〜90℃で1時間反応させた。IRにてNCOの吸収が無いことを確認して反応を終了させた。(BU−1)
【0047】
製造例−2〔(b)+(c)成分〕
フタル酸ジイソノニル 500質量部、及びアデカニューエースYT-651を92質量部仕込み100〜110℃、30mmHg以下で1時間減圧脱気した。60℃まで冷却し、水添MDIを118質量部添加し、90〜100℃で4時間反応させた。60℃まで冷却しジシクロヘキシルアミン 90質量部を添加し、80〜90℃で1時間反応させた。IRにてNCOの吸収が無いことを確認した後、2-エチルへキサノールを120質量部、及びトリレンジイソシアネートを80質量部添加し、80〜90℃で1時間反応させた。IRにてNCOの吸収が無いことを確認して反応を終了させた。(BU−2)
【0048】
製造例−3〔(b)成分〕
フタル酸ジイソノニルを700質量部、及びアデカニューエースYT-651を115質量部仕込み、100〜110℃、30mmHg以下で1時間減圧脱気した。60℃まで冷却し、水添MDIを139質量部添加し、90〜100℃で4時間反応させた。60℃まで冷却しメチルエチルケトンオキシム 36質量部を添加し、80〜90℃で1時間反応させた。IRにてNCOの吸収が無いことを確認して反応を終了させた。(BUH−1)
【0049】
製造例−4〔(b‘)+(c)成分〕
フタル酸ジイソノニル 500質量部、及びアデカポリエーテルG-700((株)ADEKA製ポリエーテルポリオール、分子量700、水酸基価225)を125質量部仕込み、100〜110℃、30mmHg以下で1時間減圧脱気した。60℃まで冷却し、水添MDIを131質量部、及びアデカスタブOT-1を0.02質量部添加し、60〜70℃で4時間反応させた。60℃まで冷却した後メチルエチルケトンオキシム 44質量部を添加し、80〜90℃で1時間反応させた。IRにてNCOの吸収が無いことを確認した後、2-エチルへキサノール 120質量部、及びトリレンジイソシアネート 80質量部を添加し、80〜90℃で1時間反応させた。IRにてNCOの吸収が無いことを確認して反応を終了させた。(BUH−2)
【0050】
製造例−5〔(d)成分〕
ダイマー酸 345質量部とペンタエチレンヘキサミン182質量部に、180〜190℃で窒素を吹き込みながら、2時間脱水反応させた。更に180〜190℃、30mmHg以下で2時間減圧脱水反応させた後100℃まで冷却し、フタル酸ジイソノニルを500質量部添加し、90〜100℃、30mmHg以下で1時間減圧脱気した。(PA−1)
【0051】
実施例1,2及び比較例1,2
塩化ビニル系樹脂の微粒子等を、下記表1に示す割合で配合し、ニーダーにより混合分散して各実施例及び比較例のプラスチゾル組成物を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
〈評価方法及び結果〉
表1で得た、以下の手順に従って製造したプラスチゾル組成物に係る、貯蔵安定性、接着性及び耐着色性について、それぞれ以下の方法で評価した。その結果を併せて前記表1に示した。
【0054】
ジイソノニルフタレート(DINP)を全量仕込み、ディスパーで撹拌しながら塩化ビニル系樹脂の微粒子(PVC)を徐々に添加し、全量添加した後に、室温で30分間混合して均一化させた。その後、ディスパーで撹拌しながら、CaCO3、ブロックウレタン、及びポリアミドポリアミンを順次添加し、全量添加した後に、室温で30分間混合して均一化させた。
【0055】
(1)貯蔵安定性
B型回転粘度計を用い、25℃でプラスチゾルの初期粘度を測定した。その後、プラスチゾルを密封容器に入れ、40℃で、4,7,10日間保持した後25℃に冷却し、同様に粘度を測定し、初期からの粘度変化率に基づき、下記の基準に従って評価した。
○:10日後の増粘率が130%以内のもの
△:10日後の増粘率が130%を超えたもの
×:固化したもの
【0056】
(2)接着性
100×25×1.0mmの電着塗装鋼板の端部にプラスチゾルを塗布し、接着部の厚さが3mmとなるようにスペーサーを挟んで圧着した。この状態で、110℃で20分間焼き付けを行った後、スペーサーを取り除き、引っ張り速度50mm/分でせん断方向に引っ張り、破壊状態を目視で観察し下記の基準で評価した。
○:凝集破壊したもの
×:界面破壊したもの
【0057】
(3)耐着色性
プラスチゾルをカチオン電着板に塗布、乾燥した後の塗膜について、目視により耐着色性を評価した。
○:ほとんど着色のないもの
△:着色の小さいもの
×:着色の大きいもの
【0058】
表1から明らかなように、本発明で使用した(C)成分である反応生成物を使用しない比較例1の場合には、相溶性が低下するためにプラスチゾルの製造が困難となり、(B)成分のポリエステルポリオールを使用して得られるブロックポリウレタンを、ポリエーテルポリオールを用いて製造したものに変えた比較例2の場合には、低温での接着性が低下する。これに対して、(a)〜(f)成分からなる本発明の実施例1及び2のプラスチゾルの場合には、貯蔵安定性、低温での接着性、及び耐着色性に優れた塗膜が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のプラスチゾルは、貯蔵安定性に優れているだけでなく、低温における基材に対する塗膜の接着性や耐着色性にも優れているので、自動車用のシール材や保護材として好適であり、産業上極めて有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩化ビニル系樹脂微粒子、(b)ポリエステルポリオール及びポリイソシアネートを反応させて得られるポリウレタンのイソシアネート基を、ブロック化剤を用いてブロックして得られるブロックポリウレタン、(c)ポリイソシアネート及び炭素原子数8〜12の脂肪族モノアルコールの反応生成物、(d)ポリアミン化合物、(e)可塑剤、及び、(f)充填剤を含むことを特徴とするプラスチゾル組成物。
【請求項2】
(b)成分である前記ブロックポリウレタンに使用されるポリエステルポリオールが、2〜3官能のポリエステルポリオールである、請求項1に記載されたプラスチゾル組成物。
【請求項3】
(b)成分である前記ブロックポリウレタンに使用されるポリイソシアネートが、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートである、請求項1又は2に記載されたプラスチゾル組成物。
【請求項4】
前記(c)成分である反応生成物の原料ポリイソシアネートがトリレンジイソシアネートである、請求項1〜3の何れかに記載されたプラスチゾル組成物。
【請求項5】
前記(c)成分である反応生成物の原料の一つとして使用される炭素原子数8〜12の脂肪族モノアルコールが、2−エチルヘキサノール、イソノニルアルコール及びラウリルアルコールから選択された少なくとも1種のモノアルコールである、請求項1〜4の何れかに記載されたプラスチゾル組成物。
【請求項6】
前記(d)成分であるポリアミン化合物が、ポリエチレンポリアミンとダイマー酸の反応によって得られるポリアミドポリアミンである、請求項1〜5の何れかに記載されたプラスチゾル組成物。
【請求項7】
前記(e)成分である可塑剤が、フタル酸ジイソノニルである、請求項1〜6の何れかに記載されたプラスチゾル組成物。

【公開番号】特開2013−18929(P2013−18929A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155418(P2011−155418)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】