説明

プラスチックの成分検査装置および成分検査方法

【課題】プラスチック素材に含有されるハロゲン化合物を、連続的に成分検査するには、前処理に時間を要する。
【解決手段】プラスチックを主成分とする試料を固着し、検査温度範囲でデカブロモジフェニルエーテルに対し不活性な試料保持部を保持する試料室20と、試料室20を載置する試料台11を上下動させるニードル13と、検査管10を介して試料室20を加熱する加熱ヒータ12と、加熱によって試料から発生するデカブロモジフェニルエーテルガスをキャリアガス18に還流しながら分析する分析装置15とで構成したプラスチックの成分検査装置1により、プラスチック素材中に含有するデカブロモジフェニルエーテルを短時間に連続して検査できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック素材の検査装置、および成分検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な規模で地球環境問題の関心が高まっており、有害物質の規制などの取組みが進められている。欧州においては、環境破壊や健康に及ぼす危険を最小化することを目的に、電子電気機器類に含まれる特定有害化学物質の使用を制限するRoHS指令が制定され、2006年7月1日より施行されている。その対象物質は、鉛、カドミウム、六価クロム、水銀、ポリブロモビフェニル、ポリブロモジフェニルエーテルである。規制値はカドミウムが100ppm以下であり、それ以外の物質は1000ppm以下である。この規制に対する対応として、規制物質が誤使用もしくは混入し使用されることを防ぐため、材料や部品などの受入れ時に成分検査が行われる。元素分析が可能な鉛、カドミウム、水銀の成分検査は蛍光X線分析装置を用いて行われる。六価クロムの成分検査は、特定価数のイオン分析が可能なジフェニルカルバジド吸光光度法を用いて行われる。しかし、ポリブロモビフェニル、ポリブロモジフェニルエーテルのような特定構造を有する含ハロゲン化合物は、元素分析や特定の価数のイオン分析のみで成分検査を行うことはできない。したがって、例えばプラスチック素材中の含ハロゲン化合物の成分検査を行うには、上記の成分検査方法とは異なる方法を使う必要がある。
【0003】
プラスチック素材中の含ハロゲン化合物の成分検査を行う方法として、例えば、直接ガスクロマトグラフ法が開示されている。この方法は、プラスチック素材を粉砕し、溶媒によって特定成分の抽出した試料をガスクロマトグラフ法で分離し、質量分析法によって質量を分析することで成分検査を行う方法である(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、熱脱着法による含ハロゲン化合物の成分検査方法が提案されている。この方法は、プラスチック素材を溶媒で溶解させて容器に入れ、溶媒を揮発させて容器内面にプラスチック素材の薄膜を形成させる。この薄膜を加熱することで、含ハロゲン化合物を気化させ、ガスクロマトグラフ法と質量分析法とで成分検査を行うものである(例えば、非特許文献2、3参照)。この熱脱着法は、目的とする含ハロゲン化合物の気化が終了した時点で試料室の加熱を終了することで、成分検査時間を短縮することが可能である。
【非特許文献1】島津アプリケーションニュースNo.M231
【非特許文献2】島津アプリケーションニュースNo.M235
【非特許文献3】日本分析化学会第54年会講演要旨集P.47
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、直接ガスクロマトグラフ法は、前処理が煩雑であるため、短時間で多数のプラスチック素材を連続して成分検査することができないという課題を有していた。
【0006】
また、熱脱着法では、成分検査時間の短縮は可能であるが、成分検査終了後には、成分検査による加熱で溶融凝固したプラスチック素材が試料室に残渣として付着する。この残渣が付着した試料室を別の試料の検査に流用すると、残渣により検査精度が低下するため、別の試料の検査には新しい試料室を用い、一旦検査に使用した試料室は廃棄されていた。
【0007】
しかしながら、工業製品に適用するプラスチック素材を検査するには、多品種でしかも多量の試料について検査することが要請され、成分検査毎に試料室を廃棄することは、製品コスト面の問題だけでなく、廃棄物を多量に発生するため環境面でも問題がある。
【0008】
一方、試料室からこの残渣を完全に除去する前処理を施せば、上記問題は解決できるが、この前処理は成分検査毎に行わなければならず、しかも前処理に時間を要するという課題を有していた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、多種類のプラスチック素材中の含ハロゲン化合物の成分検査を、短時間で連続的に高い検査精度にて安価に行うことが可能な成分検査装置、および成分検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のプラスチックの成分検査装置は、プラスチックを主成分とする試料を設置する試料室と、試料室に着脱可能であり、かつ350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し不活性な材料で構成した試料保持部材と、試料室を加熱する加熱部と、加熱によって試料から発生する揮発成分を分析する分析部とを有する。このような成分検査装置によれば、含ハロゲン化合物の気化が終了した時点で試料室の加熱を終了しても試料室にプラスチック素材が付着しないため、連続した成分検査時の試料室の前処理を短時間で行うことができる。
【0011】
さらに、試料保持部材は、ポリイミド、二酸化ケイ素、ステンレス、不織布のうちから選択された1つの材料により構成されることが望ましい。これらの材料は、含ハロゲン化合物に対して極めて活性が低いため、含ハロゲン化合物の成分検査を高精度にて行うことができる。
【0012】
さらに、試料保持部材が、試料を圧着固定する板状成形体であり、試料室に試料を圧着固定した試料保持部材を係止する固定治具を有することが望ましい。この構成により、板状成形体を除去するだけで、試料室を汚さずに試料室から試料を除去することができる。
【0013】
さらに、試料保持部材が、試料を内包する板状成形体であり、試料室の周壁における内周には試料を内包した試料保持部材を嵌合固定する溝部を備えることが望ましい。この構成により、板状成形体を除去するだけで、試料室を汚さずに試料室から試料を除去することができる。
【0014】
さらに、試料保持部材が、試料表面に外周が当接支持する相独立した複数の粉体であり、試料室に試料を内在する複数の粉体を収納する粉体収納部を備えることが望ましい。この構成により、粉体を除去するだけで、試料室を汚さずに試料室から試料を除去することができる。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明のプラスチックの成分検査方法は、350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し非活性材料で構成した試料保持部材にプラスチックを主成分とする試料を保持する試料保持ステップと、試料保持部材を試料室に対し着脱可能に固定する固定化ステップと、試料保持部材を固定した試料室を加熱する加熱ステップと、試料室の加熱で試料から発生する揮発成分を分析する分析ステップを有する。このような成分検査方法によれば、含ハロゲン化合物の気化が終了した時点で試料室の加熱を終了しても試料室にプラスチック素材が付着しないため、連続した成分検査を行う際にも試料室の前処理を短時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、プラスチック素材における含ハロゲン化合物の所定量以上含有するか否かの成分検査を高精度・短時間で可能ならしめるとともに、安価に実現する成分検査装置、および成分検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明ではプラスチック素材としてポリスチレンを主成分とする樹脂、含ハロゲン化合物としてデカブロモジフェニルエーテルを例に挙げた一実施形態である。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態における成分検査装置1を模式的に示した構成図である。
【0019】
成分検査装置1は、検査管10、試料台11、加熱ヒータ12、ニードル13、ニードル加熱ヒータ14、分析装置15、制御装置16からなる。
【0020】
検査管10は石英よりなり、試料台11は検査管10内に設置される。耐熱性材料からなる試料室20内に固定された試料24(図2にて説明)はこの検査管10の上部から挿入され、試料台11の上に載置される。加熱ヒータ12は、試料室20内の試料24を周囲から加熱する。ニードル13は加熱ヒータ12により加熱された試料24から脱離したガスを分析装置15に移送する。ニードル加熱ヒータ14は、ニードル13を加熱し、ニードル13内のガスが液化、あるいは固化することを防止する。分析装置15は、ニードル13から移送されたガスをガスクロマトグラフ法にて分離後に質量分析法にてガスの分析を行う。制御装置16は、加熱ヒータ12、ニードル加熱ヒータ14、分析装置15などの制御を行う。
【0021】
次に、成分検査装置1による成分検査方法について説明する。
【0022】
まず、試料室20への試料24の固定方法について図2を参照して説明する。図2は、本発明の第1の実施の形態における試料の固定方法を示す概略図であり、図2(a)は第1の実施の形態における耐熱性材料からなる試料室20の斜視図である。試料室20は不活性処理化したステンレス製の有底円筒形状をしており、内部に固着された固定部32を備えている。固定部32は、同じく不活性処理化したステンレス製であり、試料室20の内壁から突出するとともに、底部から図2(b)に示す板状成形体23の厚み程度の空隙を介して複数個所設置されている。
【0023】
図2(b)に示すように、試料24を熱プレス法によって板状成形体23に圧着固定させる。ここで、板状成形体23は、二酸化ケイ素を主成分とする板状基板であり、固定部32に対応する位置に、切り欠き33が形成されている。試料24として、ポリスチレンを主成分とするシート状樹脂であり、内部にデカブロモジフェニルエーテル(以下、「Deca−BDE」と記す)が含有されるか否かを検査する。本実施の形態ではポリスチレンに1000ppmのDeca−BDEと炭酸カルシウムを添加し、試料24とした。この試料24を熱プレス法によって板状成形体23上に固着させる。熱プレスの温度は、Deca−BDEがポリスチレンから熱脱着しない200℃未満が好ましい。また、酸化反応を防止のため不活性雰囲気で熱プレスすることが好ましい。
【0024】
次に、図2(c)に示すように、試料24を固着した板状成形体23の切り欠き33を固定部32に対し遊挿させ、試料室20の底面に設置する。設置後に、板状成形体23をA方向に回転させて切り欠き33の位置をずらすことにより、固定部32を用いて固定する。
【0025】
このようにして試料24を固定した試料室20を準備した上で、成分検査を開始する。成分検査は、図1において、まず検査管10の上部からヘリウムを主成分とするキャリアガス18を流しながら、加熱ヒータ12によって加熱を行い、試料台11近傍を約350℃にする。その次に、試料24を固定した試料室20を、図1に示すように試料台11上に設置する。これにより、試料24は徐々に加熱され、設定温度である350℃近辺に達する。加熱する途中に、試料24から種々のガスが放出される。発生したガスはニードル13を介して分析装置15へ移送される。分析装置15では、移送されたガスをガスクロマトグラフ法にて分離した後に質量分析法にて分析を行う。制御装置16はこれらの分析結果に基づいて、ガス成分を同定する。
【0026】
本実施の形態における試料24では、分析の結果、Deca−BDEの質量数である960近傍およびDeca−BDEの分解物の質量数と考えられる800近傍にピークが検出され、試料24には、Deca−BDEが含まれていることが確認された。
【0027】
成分検査が終了した板状成形体23を成分検査装置1から取り外す。試料24は、板状成形体23に固着されているので、試料室20には付着せず、容易に試料室20と分離でき、試料室20は洗浄することなく、そのまま連続して上述と同じシート状樹脂を別の試料24として次の成分検査をしたが、分析の結果、上述と同一のピークが確認でき、試料室20が再利用することができることを確認した。
【0028】
以上のように、本実施の形態では、プラスチック素材に含まれる1000ppmのDeca−BDEの成分検査が可能であり、さらに、成分検査終了後は、同じ試料室20を用いて、連続して次の成分検査に用いることができる。なお、成分検査終了後も加熱ヒータ12による加熱を継続し、試料台11の近傍を350℃に保持しておけば、より短時間での連続した成分検査を行うことができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、Deca−BDEを含むポリスチレンを主成分としたプラスチック素材を試料24として用いたが、検出目的の化合物としては、Deca−BDEに限定されるものではなく、例えばペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカンなどの臭素系化合物、ペンタクロロジフェニルエーテル、ヘキサクロロシクロドデカンなどの塩素系化合物、ヘキサヨードシクロドデカンなどのヨウ素系の化合物などの含ハロゲン化合物に対しても同様に成分検査が可能である。なお、成分検査時の加熱ヒータ12の温度は、成分検査を行う含ハロゲン化合物が気化する温度などを考慮して適宜変更すればよい。また、プラスチック素材としてはポリスチレンに限定されるものでなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリカーボネートなどのプラスチック素材でも同様に成分検査が可能である。
【0030】
なお、板状成形体23の底部は、試料室20と密着させることで、均一に加熱が行われ、再現性のよいデータを取得することができる。
【0031】
本実施の形態では、板状成形体23に熱プレス法を用いて固着させたが、このような方法を用いることで、試料24の比表面積が大きくなることによって気化が短時間で起こるため、測定時間を短縮できる。また、切り欠き33を用いて固定部32に板状成形体23を係止する方法を例として示したが、板状成形体23を係止できればこの方法に限定されるものではない。また、試料室20の内側面に嵌合する円筒状の有底容器を用い、容器の底面に試料24を圧着してもよい。その場合は、容器側面と試料室20の内側面とが嵌合することで、固定部32の代わりに板状成形体23を係止することができる。板状成形体23の熱プレス温度は、プラスチック素材に含有されるハロゲン元素によって異なるが、100℃から200℃程度が好ましい。
【0032】
本実施の形態としては、板状成形体23として二酸化ケイ素を用いた例を示したが、二酸化ケイ素以外であっても、ポリイミド、ステンレス、不織布のうちから選択された1つの材料を用いることで、試料室20への試料24の付着がなく、短時間での成分検査を行うことができる。また、200℃以上350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し不活性な材料で構成されておれば、材料に限定することがなく成分検査を行うことができる。
【0033】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態で用いる成分検査装置1は、第1の実施の形態と同じであるため、説明は省略する。
【0034】
第2の実施の形態における成分検査装置1による成分検査方法について説明する。図3は、本発明の第2の実施の形態における試料の固定方法を示す概略図であり、図3(a)は本実施の形態における試料室20の斜視図である。試料室20は不活性処理化したステンレス製の有底円筒形状をしており、スリット状の溝部22が設けられている。
【0035】
次に、この溝部22への試料24の固定方法を図3(b)から図3(d)を参照しながら説明する。図3(b)に示すように、試料24を板状成形体23の上に載置する。板状成形体23は、ポリイミドフィルムを主成分としたフィルムである。試料24は、第1の実施の形態で用いた試料24を用いる。
【0036】
次に、図3(c)に示すように、成形した板状成形体23を試料24が内側になるように、コの字型に折り曲げ、試料24を内包する。その後、図3(d)に示すように、試料24を載置した板状成形体23を試料室20の内側に設けた溝部22に嵌合して固定する。
【0037】
このようにして試料24を設置し、第1の実施の形態と同様に試料24の成分検査を行う。その結果、第1の実施の形態と同様に、試料24には、Deca−BDEが含まれていることが、同じピークを検出することで確認された。
【0038】
次に、成分検査が終了した試料室20は、成分検査装置1より取り出す。試料室20に固定された試料24は成分検査によってプラスチック素材の一部が溶解するが、板状成形体23で覆われているため、試料室20には付着しない。したがって、試料室20と試料24および板状成形体23は容易に分離することができ、試料室20は洗浄する必要がなく、そのまま連続して次の成分検査に再利用することができる。
【0039】
以上のように、本実施の形態では、プラスチック素材に含まれる1000ppmのDeca−BDEの成分検査が可能であり、成分検査に用いた試料室20は、成分検査終了後に、連続して次の成分検査に用いることができる。
【0040】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、Deca−BDEやポリスチレンに限定されるのではなく、他の含ハロゲン化合物、他のプラスチック素材でも同様に成分検査が可能である。
【0041】
本実施の形態では、試料24を板状成形体23に熱プレス法を用いて固着させたが、このような方法を用いることで、試料24は、比表面積が大きく、気化されやすくなる。また、スリット状の溝部22で固定して成分検査を行う例を説明したが、固定する方法としてはスリット状の溝部22に限定されるものではなく、例えば図4に示すように、試料室20の周壁における内周に、試料24を内包した板状成形体23を嵌合固定する溝部を備えていればよい。本実施の形態では板状成形体23を試料室20から取り除く際に、単に溝部22から例えばピンセット等で挟持し引き抜くだけであるため、板状成形体23の交換(すなわち、試料24の交換)は実施の形態1よりも簡便に行うことができる。また、板状成形体23によって内包されることで試料24の温度が均一に上昇するため、再現性のよいデータを取得することができる。板状成形体23の熱プレス温度は、プラスチック素材に含有されるハロゲン元素によって異なるが、100℃から200℃程度が好ましい。
【0042】
また、本実施の形態では、板状成形体23としてポリイミドフィルムを用いた例を示したが、ポリイミドフィルム以外であっても、二酸化ケイ素、ステンレス、不織布のうちから選択された1つの材料を用いることで、試料室20への試料24の付着がなく、短時間での成分検査を行うことができる。なお、板状成形体23に二酸化ケイ素を適用する場合には、例えば二酸化ケイ素粉末を板状に形成した一対の焼結体に試料24を介在させるなどで対応できる。また、200℃以上350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し不活性な材料で構成しておれば、材料に限定することがなく成分検査を行うことができる。なお、含ハロゲン化合物に対し不活性な材料とは、含ハロゲン化合物のハロゲン基の脱離が起こらない材料を表す。
【0043】
さらに、本実施の形態では、熱プレス法による固着を行ったが、固着を行わず、板状成形体23への内包だけでも成分検査は可能である。
【0044】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態で用いる成分検査装置1は、第1の実施の形態と同じであるため、説明は省略する。
【0045】
第3の実施の形態における成分検査装置1による成分検査方法について説明する。図5は、本発明の第3の実施の形態における試料の固定方法を示す概略図であり、図5(a)は第3の実施の形態における耐熱性材料からなる試料室20の斜視図である。試料室20は不活性処理化したステンレス製の有底円筒形状をしている。
【0046】
図5(b)に示すように、試料室20の底部に、平均粒径5μmの二酸化ケイ素を主成分とする粉体41を敷き詰める。粉体41の上に試料24を載置する。載置後、粉体41を加えて試料24を覆い、その上に蓋42を被せることで、試料室20の内部に粉体収納部43を形成する。蓋42には微細孔44があり、その微細孔44によって、試料24からのガスが試料室20の外部に排出される。また、微細孔44は、粉体41の粒径より小さいことが望ましい。これにより、成分検査前後での粉体41の飛散が防止される。また、蓋42の表面には不活性化処理を施してある。
【0047】
このようにして試料24を設置し、第1の実施の形態と同様に試料24の成分検査を行った結果、第1の実施の形態と同様に、試料24には、Deca−BDEが含まれていることが確認された。
【0048】
成分検査が終了した試料24を、粉体41と共に成分検査装置1から取り外す。試料24は粉体41に覆われているため、試料室20には付着しない。したがって、容易に試料室20と分離でき、試料室20は洗浄することなく、そのまま連続して次の成分検査に再利用することができる。
【0049】
以上のように、本実施の形態では、プラスチック素材に含まれる1000ppmのDeca−BDEの成分検査が可能であり、成分検査に用いた試料室20は、成分検査終了後に、連続して次の成分検査に用いることができる。
【0050】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、Deca−BDEやポリスチレンに限定されるのではなく、他の含ハロゲン化合物、他のプラスチック素材でも同様に成分検査が可能である。
【0051】
本実施の形態では、試料24は粉体41に覆われ、粉体41を介して試料24が加熱されるため、熱分布が均一となり再現性のよいデータを取得することができる。
【0052】
なお、蓋42の形状は、粉体41が底部から外部に出なければ、特に制限はない。また、蓋42の代わりに、試料室20の内部に嵌合し底部に微細孔44を有する円筒状の有底容器を用いてもよい。
【0053】
また、用いる二酸化ケイ素の表面には、シラン処理をすることで、試料室20との分離がより確実に行われる。
【0054】
本実施の形態としては、粉体41として二酸化ケイ素を用いた例を示したが、二酸化ケイ素以外であっても、ポリイミド、ステンレス、不織布を原料とした粉体41を用いることで、試料室20への試料24の付着がなく、短時間での成分検査を行うことができる。また、200℃以上350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し不活性な材料で構成されておれば、材料に限定することがなく成分検査を行うことができる。
【0055】
以上のように、試料24を板状成形体23、粉体41を用いて試料室20に保持する成分検査装置、成分検査方法について説明した。板状成形体23、粉体41は、いずれも試料24を試料室20へ保持する試料保持部材である。この試料保持部材は、試料室20に着脱可能であり、かつ350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し不活性な材料であれば、板状成形体23、粉体41に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のプラスチックの成分検査装置および成分検査方法は、短時間で含ハロゲン化合物の成分検査が行えるプラスチックの成分検査装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施の形態における成分検査装置を模式的に示した構成図
【図2】本発明の第1の実施の形態における試料の固定方法を示す概略図
【図3】本発明の第2の実施の形態における試料の固定方法を示す概略図
【図4】本発明の第2の実施の形態における別の試料室の斜視図
【図5】本発明の第3の実施の形態における試料の固定方法を示す概略図
【符号の説明】
【0058】
1 成分検査装置
10 検査管
11 試料台
12 加熱ヒータ
13 ニードル
14 ニードル加熱ヒータ
15 分析装置
16 制御装置
18 キャリアガス
20 試料室
22 溝部
23 板状成形体
24 試料
32 固定部
33 切り欠き
41 粉体
42 蓋
43 粉体収納部
44 微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックを主成分とする試料を設置する試料室と、
前記試料室に着脱可能であり、かつ350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し不活性な材料で構成した試料保持部材と、
前記試料室を加熱する加熱部と、
前記加熱部の加熱によって前記試料から発生する揮発成分を分析する分析部とを有するプラスチックの成分検査装置。
【請求項2】
前記試料保持部材は、ポリイミド、二酸化ケイ素、ステンレス、不織布のうちから選択された1つの材料により構成されることを特徴とする請求項1に記載のプラスチックの成分検査装置。
【請求項3】
前記試料保持部材が、前記試料を圧着固定する板状成形体であり、
前記試料室に前記試料を圧着固定した前記板状成形体を係止する固定治具を有する請求項1あるいは2に記載のプラスチックの成分検査装置。
【請求項4】
前記試料保持部材が、前記試料を内包する板状成形体であり、
前記試料室の周壁における内周には前記試料を内包した前記板状成形体を嵌合固定する溝部を備える請求項1あるいは2に記載のプラスチックの成分検査装置。
【請求項5】
前記試料保持部材が、前記試料表面に外周が当接支持する相独立した複数の粉体であり、
前記試料室に前記試料を内在する前記複数の粉体を収納する粉体収納部を備える請求項1あるいは2に記載のプラスチックの成分検査装置。
【請求項6】
350℃以下の温度域で含ハロゲン化合物に対し非活性材料で構成した試料保持部材にプラスチックを主成分とする試料を保持する試料保持ステップと、
前記試料保持部材を試料室に対し着脱可能に固定する固定化ステップと、
前記試料保持部材を固定した前記試料室を加熱する加熱ステップと、
前記試料室の加熱で前記試料から発生する揮発成分を分析する分析ステップを有するプラスチックの成分検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−224570(P2008−224570A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66115(P2007−66115)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】