説明

プラスチックへの銀担持方法及びプラスチックの銀担体、銀イオン水の製造方法

【課題】従来よりも高い濃度で銀を担持させることを可能にする、プラスチックへの銀担持方法を提供する。
【解決手段】プラスチックに対して、銀を含有するプラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、プラズマ照射工程で照射したプラズマの銀をプラスチックに担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温プラズマを用いたプラスチックへの銀担持方法、及びこの銀担持方法により得られる、プラスチックの銀担体に係わる。
また、本発明は、プラスチックの銀担体を用いて、銀イオン水を製造する方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
科学の発展とともに、ダイオキシン類や重金属類による土壌汚染等が問題視されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、浄水処理過程の塩素殺菌処理において、原水中の有機物との反応によって、有害なトリハロメタンが発生する。
このトリハロメタンへの対策として、塩素に替わる新しい殺菌法の開発が期待されている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【0003】
現在、医薬向け容器や食品容器(袋形、箱形、皿形、カップ形、ボトル形等)及び各種包装材においては、その殺菌処理として、ガンマー線や電子線照射法が採用されている。
【0004】
また、それらの容器や包装材そのものに、抗菌性を付与させ、抗菌効果を持続させる機能性容器の開発、特に銀系抗菌性プラスチック製品の開発が進められ、既に製造、販売されている。
【0005】
そして、銀系抗菌性プラスチック製品の銀の担持体としては、大半がケイ酸塩系のゼオライトやシリカである。
また、製造方法としては、ゼオライトやシリカを樹脂に添加する方法か、或いは、ゼオライトやシリカを塗膜でプラスチック成形体の表面に被覆する方法が、ほとんどである(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、最近、銀の粉を樹脂の表面に熱融着コーティングしたペレット状の抗菌剤や、チタンと銀の燃焼合成法によるペレット状のもの等が報告されている。
この他、硝酸銀溶液中に大谷石からなる多孔質性担体を浸漬させて銀イオンを担持させる吸着法(特許文献2参照)が報告されている。
【0007】
【非特許文献1】Kim,H.K. et al.,”Dioxins in Drinking Water Treatment Process”,OrganohalogenCompounds,51,p.135-138,(2001)
【非特許文献2】Bellar,T.A. et al.,”TheOccurrence of Organohalides in Chlorinated Drinking Waters”,J. American Water Works Association,66,p.703-706,(1974)
【非特許文献3】Gray,N.F.,”Drinking Water Quality”,JohnWiley & Sons,p.315,(1994)
【特許文献1】特許第3087863号明細書
【特許文献2】特開平7−108168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、土壌汚染への対策や、塩素に替わる新しい殺菌法の開発が求められている。
【0009】
また、銀の粉を樹脂の表面に熱融着コーティングしたペレット状の抗菌剤や、チタンと銀の燃焼合成法によるペレット状のもののような、今までに報告されている銀系の抗菌剤は、銀イオン濃度が0.001ppm(ppb)のオーダーであり、濃度の低いものであった。
また、上記特許文献2に記載されている方法では、銀イオン濃度の表示はなく、充分高い銀イオン濃度は得られていないものと推測される。
【0010】
上述した問題の解決のために、本発明においては、従来よりも高い濃度で銀を担持させることを可能にする、プラスチックへの銀担持方法、及びプラスチックの銀担体を提供するものである。
また、プラスチックの銀担体を利用した、銀イオン水の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のプラスチックへの銀担持方法は、プラスチックに対して、銀を含有するプラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、プラズマ照射工程で照射したプラズマの銀をプラスチックに担持させるものである。
これにより、銀プラズマの照射で多孔質となったプラスチックに、銀を含有する物質(金属や金属化合物等)が担持される。
【0012】
本発明方法に係るプラズマ照射工程は、可視光の波長域におけるグロー放電プラズマを照射することによって実行することが可能であり、このようなプラズマ照射を行うことにより、人体への被爆や残留の危険性を全くなくすことができる。
また、強い電子エネルギーによって、ドライ状態下でのグラフト重合が可能になる。
【0013】
本発明においては、高分子化合物からなる物質の中で、成型品や薄膜にして使用することを目的として人為的に製造された、熱可塑性樹脂(Thermoplastic resin)、即ち、合成樹脂を、プラスチックの素材として使用することができる。
そして、具体的なプラスチックの素材としては、例えば、プラスチック成形体やプラスチック製の中空糸膜ろ過材が挙げられる。
プラスチック成形体としては、板状或いはシート状のプラスチックを用いた、袋形、箱形、皿形、カップ形、ボトル形といった容器が挙げられる。
中空糸膜ろ過材は、主に水浄化用のろ過材として市販されている、多孔質の肉厚を有するマカロニ状の中空糸である。
【0014】
なお、本発明に係るプラズマ照射工程において、気化した銀のガスは、反応炉内の限定された場所にのみ放散しているに過ぎない。
そこで、プラズマ照射工程において、より好ましくは、アルゴンガスをキャリアガスとして導入して、不活性で反応炉内を撹拌することができるようにする。これにより、プラスチックの表面に均一に銀を担持させることができる。
また、プラスチックの表面に均一に銀を担持させるための方法としては、その他に、反応炉内において銀蒸発体を移動させる方法や、試料を反応炉内で回転移動させる方法も可能である。
【0015】
また、本発明の銀担持方法において、より好ましくは、本発明に係るプラズマ照射工程の前に、プラスチックに対して、プラズマ(例えば、酸素プラズマ、窒素プラズマ、アルゴンプラズマ)を照射する前処理工程を行う。
この前処理工程では、プラズマの照射により、プラスチックの表面を洗浄する効果、即ち、プラスチックの表面に付着した油や埃等の汚れ(疎水性要因)を除去するクリーニング効果を有している。
また、この前処理工程では、ドライ状態で処理が行われる結果、プラスチックが多孔質となり、官能基がプラスチックの表面に修飾されやすくなる。即ち、官能基修飾効果を有している。
【0016】
本発明に係るプラズマ照射工程において、硝酸銀を用いて、銀を含有するプラズマを発生させることにより、プラスチックの銀担体を製造することができる。
このようにして得られた銀担体は、銀イオン水の原料として用いることができる。
【0017】
本発明のプラスチックの銀担体は、銀を含む物質が、プラスチックに担持されているものである。
この本発明のプラスチックの銀担体は、上述した本発明のプラスチックへの銀担持方法によって得られる。
【0018】
また、本発明の銀イオン水の製造方法は、本発明に係るプラスチックへの銀担持方法により作製したプラスチックの銀担体を用いて、この銀担体を水中に入れて、銀イオンを水中に溶出させるものである。
【発明の効果】
【0019】
上述の本発明のプラスチックへの銀担持方法によれば、プラスチックに担持させた銀に対応する機能、即ち、抗菌性等をプラスチックに持たせることができる。
【0020】
本発明のプラスチックの銀担体は、プラスチックに担持させている銀によって、この銀に対応する機能を有する。
例えば、イオン水の原料として使用して、高濃度の銀イオン水を作製することや、抗菌材、脱臭材、浄化材等に応用すること等が可能になる。
【0021】
本発明の銀イオン水の製造方法によれば、本発明に係るプラスチックへの銀担持方法により作製したプラスチックの銀担体を水中に入れて、銀イオンを水中に溶出させることにより、多孔質のプラスチックが広い表面積に多量の銀を担持しているので、濃度の高い銀イオン水を製造することが可能になる。
また、銀担体から徐々に銀イオンを溶出させることができるため、銀担体から何度も繰り返して銀イオン水を製造することができる。
従って、銀イオン水としての残留性・保持耐久力が優れているため、比較的少量の銀担体で銀イオン水を作製することが可能になり、銀イオン水の原料の運搬等が容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の具体的な実施の形態について説明する。
本発明において、銀は、銀元素のみ(合金も含む)、もしくは銀化合物の状態で、プラスチックに担持させる。
【0023】
本発明のプラスチックへの銀担持方法においては、担持させる銀を含むプラズマを発生させて、プラズマ照射工程を行う。
プラズマ照射工程は、プラズマ反応管炉を使用して実行することができる。
【0024】
本発明のプラスチックの銀担体を製造するための、製造装置の一形態の概略構成図を、図1に示す。
本装置は、プラズマ反応管炉5を使用して、本発明方法に係るプラズマ照射工程を行う。
このプラズマ反応管炉5は、プラズマを発生させる反応管から成り、この反応管の周囲には、電磁誘導コイル4が巻きつけられている。反応管は、例えば、石英管により構成する。電磁誘導コイル4は、例えば、銅パイプにより構成する。
このプラズマ反応管炉5は、外部誘導型の低圧低温プラズマ炉である。そのため、プラズマ反応管炉5の内部に電極がなく、安定した前駆体のプラズマを、大きい容積にわたって均一に得ることができ、3次元的なプラズマ照射ができる、という特徴を有する。
また、このプラズマ反応管炉5は、石英管から成るので、プラズマを発生させたときにプラズマガスと反応することがなく、プラズマガスが石英を透過して、内部作動ガスに直接作用する特徴がある。
ガスプラズマを発生させるための酸素、窒素、アルゴン等のガスボンベ6が、プラズマ反応管炉5に接続されている。
本装置は、高周波加熱を行うための高周波を供給する、高周波電源3を備えている。この高周波電源3から、電磁誘導コイル4の銅パイプに、高周波電力を供給して、プラズマ反応管炉5に対して、高周波誘導加熱を行うことができる。
本装置は、高周波電源3及び電磁誘導コイル4の銅パイプ内に送り込む冷却水を供給するために、水タンク1及び揚水ポンプ2を備えている。水タンク1では、内部の水が一定温度に保持される。揚水ポンプ2により電磁誘導コイル4の銅パイプの内部に冷却水を循環させることができる。
危険な反応排ガスを捕獲するためのトラップ部として、プラズマ反応管炉5の後段に、液体窒素トラップ7及び消石灰入りトラップ8が接続されている。
その後段に、真空排気装置として、真空度を測定するためのピラニー真空計9、真空ポンプ10を備えている。真空ポンプ10としては、例えば、油回転ポンプを用いる。真空ポンプ10によってプラズマ反応管炉5の内部の真空引きを行うことにより、低温でプラズマを発生させることができる。
さらに後段には、真空ポンプ10からの排気ガスを処理するために、強制吸引を行う電気吸引機11と、スクラバー(排気ガス洗浄装置)12とが設けられている。
【0025】
本発明の銀担体を製造するための製造装置は、図1に示した装置構成に限定されるものではない。
図1に示した装置構成は、実験的なものであり、比較的少量を作製する場合に適した構成である。
プラスチックの銀担体を、大量に生産する場合には、大量生産に適した装置構成とすれば良い。
【0026】
本発明により得られる、プラスチックの銀担体は、医薬品・医薬用具保存容器、病院内での食器及び配膳キャビネット、調理用まな板、生食魚介類保存容器、果物・生食野菜保存容器、惣菜容器、ランチボックス、低塩漬物容器、レトルト食品容器、幼児用プラスチック製おしゃぶり玩具、長期輸送・保存用緩衝材、水処理用中空糸膜ろ過材モジュール、等の製品に適用することが可能である。
【0027】
本発明によるプラスチックの銀担体を使用することにより、300W程度の小電力で、高濃度の銀イオン水が得られる。
また、銀イオン水としての残留性・保持耐久力が優れているため、比較的少量の銀担体で銀イオン水を作製することが可能になり、銀イオン水の原料の運搬等が容易にできる。
【0028】
銀イオン水においては、局所的に及び瞬時に、ヒドロキシルラジカル(活性酸素)と水素ラジカルが発生して、その殺菌効果が発揮される。
銀イオン水は、浄水場、病院、温泉地、プール、公園の噴水池、冷却塔、工場・家庭排水等の浄化用として、設置場所の大小に関係なく、その適用が期待できる。
【0029】
プラスチックの銀担体を作製する際の銀の原料としては、硝酸銀が適しているが、その他の原料を用いても構わない。
硝酸銀の場合、固体の状態から溶融・気化させて、ガスプラズマを発生させることができる。
【実施例】
【0030】
図1に示した装置を使用して、実際に、プラスチックの銀担体を作製した。
プラズマ反応管炉5は、石英製で、外径300mm、内径290mm、長さ1000mmの寸法として、透明な石英管から内部を容易に見ることが可能な構成とした。電磁誘導コイル4には、直径6mmの銅パイプを用いて、石英製の反応管炉5の周囲に38回巻き付けた。
また、高周波電源3から、高周波を発振させるように設定した。
さらに、ガスボンベ6として、酸素ガスボンベを接続した。
【0031】
試料として、ポリスチレン(PS)、ポリブテン(PB)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のそれぞれの板状プラスチック、並びに、中空糸膜ろ過材として外径1.0mmで内径0.8mmのポリエチレン製のチューブを用意した。
【0032】
ここで、板状プラスチックの各試料の材料について、以下に詳しく説明する。
【0033】
まず、ポリスチレン(PS)は、炭素と酸素からなる熱可塑性プラスチックであり、成形性と意匠性に優れていることから、ポリエチレン、ポリプロピレンと並ぶ汎用樹脂として広く使われている。
主な使用例としてテレビジョン受像機やエアコン等の家電製品、包装容器、雑貨等が挙げられる。
ポリスチレンの化学構造を、以下に示す。ポリスチレンは、このようなスチレン単位の繰り返し構造を持ち、側鎖のベンゼン環が嵩高く、分子鎖が剛直で絡みにくい、という特徴がある。
汎用タイプのポリスチレンは、非晶性で無色透明だが、脆いという欠点がある。
【0034】
【化1】

【0035】
次に、ポリブテン(PB)は、ポリエチレンやポリプロピレンと同じく、ポリオレフィン系の樹脂であり、側鎖に大きなエチル基をもつ螺旋構造をしている。
ポリブテンの化学構造を、以下に示す。
ポリブテンは、高温でも優れた強度を持ち、施工性に優れていることから、配管に使用されている。
【0036】
【化2】

【0037】
次に、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、ポリエステルの一種であり、エチレングリコール(HO-CH2-CH2-OH)とテレフタル酸から作られる結晶性樹脂である。
ポリエチレンテレフタレートの化学構造を、以下に示す。
ポリエチレンテレフタレートは、強靭性、寸法安定性、電気絶縁性等に優れており、ペットボトル等の容器として広く利用されている。
【0038】
【化3】

【0039】
(プラズマ照射工程)
プラズマ照射工程は、以下のようにして行った。
まず、図2に示すように、石英管から成るプラズマ反応管炉5内に、実験試料(プラスチック)21と硝酸銀22とを装填し、プラズマ反応管炉5の蓋を閉める。なお、このとき、硝酸銀22は鉄板24の上に乗せて、実験試料21は石英製ガラス板23に乗せて、それぞれプラズマ反応管炉5内に装填している。
鉄板24は、プラズマによる電磁誘導加熱の影響で、700℃以上に加熱されるため、結晶粒状の硝酸銀22を融解、蒸発させることができる。
一方、石英製ガラス板23は、電磁波の透過性が非常に優れているため、電磁誘導加熱の影響を最小限に抑えることができる。
【0040】
続いて、水タンク1に水を供給し、冷却水の循環路のバルブが開いているか確認した。
そして、揚水ポンプ2を作動させて、冷却水を電磁誘導コイル4の銅パイプ内に循環させた。このとき、水タンク1内の水量が一定になるように、バルブの状態を調節した。
次に、全てのスイッチがOFFになっていることを確認して、三相交流電源の主幹及び真空ポンプ10の電源のスイッチを入れた。
全閉の状態で、真空ポンプ10の油回転ポンプ(Oil rotary pump)を作動させて、減圧を開始した。このとき、真空度をピラニー真空計9で測定しながら減圧を行った。
【0041】
充分に減圧がなされた後に、プラズマ照射工程を開始した。
即ち、まず、三相交流電源の主幹スイッチ、高周波電源スイッチ、そして高周波電源装置の主幹スイッチの順にONにして、約1分間通電を行った。
通電が終了したら、加熱を開始した。
プラズマ反応管炉5内の圧力が安定したのを確認して、徐々にアノード電圧を上げて印加することにより、低温プラズマを発生させた。
このとき、アノード電圧の最大値を2.5kV、アノード電流を0.3A、グリッド電流を85mAとした。
【0042】
なお、プラズマ照射強度が弱すぎると電磁誘導加熱が不十分で硝酸銀が気化せず、プラズマ照射強度が強すぎると試料であるプラスチックがプラズマ反応管炉5内の雰囲気温度で融解してしまうため、プラズマの照射強度は一定とした。
また、プラズマ照射工程において気化した銀ガスをプラズマ反応管炉5内に均一に分散させるために、プラズマ反応管炉5内攪拌用のキャリアガスとして、アルゴンガスを常時1.0L/分の流量で流した。
【0043】
プラズマ照射工程を終了させた後に、アノード電圧を徐々に下げて、加熱を止め、高周波電源スイッチ、三相交流電源の高周波電源スイッチ、主幹スイッチの順にOFFにした。
次に、ガス専用バルブを閉め、ガスボンベの元栓を閉じた。
さらに、油回転ポンプの電源を切った。
その後、プラズマ反応管炉5のリークバルブを開放し、プラズマ反応管炉5の内部を大気圧に戻した。
そして、プラズマ反応管炉5の蓋を開けて、試料を取り出した。
【0044】
(生成物の評価)
プラズマ照射工程を行って、銀を担持させた試料について、生成物の評価として、XPS測定装置による測定を行った。
XPSとは、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)のことであり、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)とも呼ばれている。
真空中で固体表面にX線を照射すると、X線によってエネルギーをもらった表面原子から電子が飛び出す。この電子を光電子と呼び、光電子は元素に固有のエネルギー値を有しているため、そのエネルギー分布を測定することによって組成を調べることができる。
表面から深いところで発生した光電子は、表面に出てくるまでに吸収されてしまうため、XPSによって分析できる深さは、数十原子層(3〜5nm)の領域になる。
XPS測定には、サーベイ測定(広域スペクトル測定)と、マルチ測定(狭域スペクトル測定)との2種類がある。サーベイ測定では、0〜1100eV範囲程度の広域スキャンを行い、試料の構成元素を調べる。マルチ測定では、サーベイ測定から得られた元素を中心に狭域スキャンを行い、表面組成や組成割合を調べる。
【0045】
(実験1:直接銀プラズマ照射試験)
まず、試料に直接銀プラズマ照射工程を行った。
硝酸銀5gを鉄板に載せて、プラズマ反応管炉5内のガス導入口側のコイル巻き始め部分に鉄板24を配置した。
また、試料21としてポリスチレン(PS)を使用して、鉄板24からガス排気口側に100mmの位置に試料21を置いた。
そして、前述した条件によって、直接銀プラズマ照射を行った。
ポリスチレンの試料21は熱に弱く、鉄板24に近づけすぎると、鉄板24からの放射熱の影響で試料表面が溶けてしまう。
本実験装置において、鉄板24から100mm以上離れていれば、放射熱による融解が見られなかった。
【0046】
(実験2:試料位置と銀担持量の関係)
次に、プラズマ反応管炉5内の試料の位置による銀担持量の変化を調べた。
試料として、ポリスチレン(PS)を使用して、前述した条件によって、直接銀プラズマ照射を行った。なお、プラズマの照射時間は30分とした。
そして、図3Aに示すように、プラズマ反応管炉5の管軸方向に試料21(a〜h)の位置を変えた場合と、図3Bに示すように、プラズマ反応管炉5の管軸に垂直な方向(断面方向)に試料21(A〜E)の位置を変えた場合とで、それぞれ実験を行った。図3A及び図3Bにおいて、鉄板24は、ガス導入口(GasIN)側のコイル4の巻き始めの位置に固定して、各試料21の配置の基準とした。
図3Aにおいて、試料aは鉄板24からガス導入口側に150mm、試料bは鉄板24からガス排気口(GasOUT)側に100mm、試料cは鉄板24からガス排気口側に150mm、それぞれ離し、試料d〜hはそれぞれ100mm間隔で配置した。
図3Bにおいて、鉄板24からの距離が100mmの所に、ガス導入口側から見て左から試料A〜Eを20mm間隔で配置した。
【0047】
銀プラズマの照射を行った後の、各試料a〜h,A〜Eの銀担持量を測定した。
管軸方向に並べられた試料a〜hの測定結果を図4Aに示し、断面方向に並べられた試料A〜Eの測定結果を図4Bに示す。
【0048】
図4Aより、管軸方向に並べられた各試料の銀担持量は、硝酸銀22付近の試料a(8.48%)、試料b(7.21%)に集中していて、試料bから試料cへ50mm離れると、担持量が4.99%に減少していることがわかる。鉄板24から250mm離れている試料dでは担持量が僅か0.68%であり、さらに離れた試料e〜試料gにはほとんど担持されていないことがわかる。
このことから、硝酸銀22から試料21までの距離が離れるにつれて、担持量が急激に減少しており、気体状になった銀はプラズマ反応管炉5内全体を充満するように浮遊するのではなく、池の噴水のように放散している状態であり、その放散距離は鉄板24から150mm付近までしか到達していないことがわかった。
【0049】
図4Bより、断面方向に並べられた各試料の銀担持量は、試料Cが最も多く、7.21%であった。次いで、試料Cの両隣の試料B及び試料Dが約3%担持し、プラズマ反応管炉5の壁面に近い試料A及び試料Eが約1.5%担持した。よって、プラズマ反応管炉5の中心付近に置かれた試料が一番多く担持した。
このことから、プラズマ反応管炉5内に蒸発した銀は、プラズマ中で壁面から放射状に照射される電磁波の影響を受けて、管の中心付近に集まるような形で放散していると考えられる。
以上のことから、充分な量の銀を担持させるためには、プラズマ反応管炉5内に発生した銀ガスを均一に飛散・浮遊させる操作が不可欠となる。
【0050】
(実験3:非プラズマ照射と直接銀プラズマ照射との比較)
プラズマ照射を行っていない、オリジナルのポリスチレンの試料と、実験1と同様にして30分間直接銀プラズマ照射を行ったポリスチレンの試料とを、それぞれ作製した。
各試料について、XPS測定装置により、サーベイ測定とマルチ測定を行った。
サーベイ測定の結果を、図5A及び図5Bに示す。図5Aはオリジナルの試料の結果を示し、図5Bは直接銀プラズマ照射30分の試料の結果を示している。
また、マルチ測定の結果を、表1及び表2に示す。表1はオリジナルの試料の結果を示し、表2は直接銀プラズマ照射30分の試料の結果を示している。
【0051】
【表1】

【表2】

【0052】
図5Aに炭素Cのピークが表れていることから、オリジナルのポリスチレンの試料は炭素を中心とした組成であることがわかる。
銀プラズマを照射すると、図5Bに見られるように、銀のピークが370eV付近に現れた。このことから、ポリスチレンの試料に銀プラズマを照射すると、試料表面に銀が担持されることが確認できた。
また、表1及び表2のマルチ測定の結果から銀の含有組成比をみると、オリジナルの試料が0であるのに対してプラズマを照射した試料では7.21%に増加することがわかった。
【0053】
ポリスチレンの試料表面への銀の担持機構については、二通りが考えられる。
一つは、図6に示すような、試料21の表面もしくは微小な傷の表面に付着する油や埃(31)に銀が付着する場合である。
もう1つは、低温プラズマ雰囲気中で試料21の表面がグラフト状態となり、他の物質と反応し易く、銀がイオン結合により組成の中に組み込まれる場合である。このとき、推測される試料の組成の変化を、以下の化学式に示す。
【0054】
【化4】

【0055】
(実験4:試料表面の銀の担持状態の検討)
ポリスチレンの試料表面における銀の担持状態を調べるために、以下に説明する簡単な検査を行った。
実験3と同様にして得た銀プラズマ照射したポリスチレンの試料の表面を、乾いた紙で拭いた場合と、蒸留水で水洗いした場合との二通りの処理を行った。
処理を行った試料について、XPS測定装置により銀担持量を測定した。
ポリスチレンの試料の表面を紙で拭いた場合のサーベイ測定及びマルチ測定の結果を、図7A及び表3にそれぞれ示す。
ポリスチレンの試料の表面を水洗いした場合のサーベイ測定及びマルチ測定の結果を、図7B及び表4にそれぞれ示す。
【0056】
【表3】

【表4】

【0057】
先に示した表2と今回の表3のマルチ測定の比較から明らかなように、試料の表面を単に拭くだけで、付着していた銀は拭き取られて、銀の含有量は4分の1に減少する。
拭いても依然として担持している銀は、単なる油等の汚れやゴミ等への付着ではなく、ポリスチレンの試料組成とのイオン結合状態であると考えられる。
また、銀担持した試料を水洗いすると、図7Bから明らかなように、銀のピークが無くなり、表4のマルチ測定結果から0.05%まで減少していることがわかる。
このことから、試料の表面に担持された銀や表面に付着した銀は、水との接触時には容易に水に溶け出ることがわかる。
【0058】
(実験5:銀プラズマ照射時間と担持量との関係)
銀プラズマ照射時間と担持量との関係を調べるために、銀プラズマの照射時間を変えて、担持量を測定した。
ポリスチレンの試料を用いて、銀プラズマの照射時間を、10分、15分、30分、60分と変えた。その他は実験3と同様にして、銀プラズマの照射を行った。
得られた各試料について、XPS装置により銀の担持量を測定した。
測定結果として、銀プラズマ照射時間と担持量の関係のグラフを、図8に示す。
【0059】
図8より、銀プラズマ照射10分で0.43%担持、照射15分で4.84%担持、照射30分で7.77%担持、更に照射60分で7.99%担持した。
プラズマ反応管炉5内では、プラズマ照射開始から30秒程度で硝酸銀22の粉末が茶褐色に焦げたような状態になり、1分経過後から徐々に融解が始まる。
そして、5分経過後に粉末全体が融解し、その後ゆっくりと蒸発し、15分後には5g全ての硝酸銀22が気化した。
従って、図8に示されているように、硝酸銀22が完全に蒸発してから15分間は銀担持量が増加し、そして、照射時間30分〜60分の間で担持量の増加はわずかとなり、次第に飽和状態になる。
このことから判断すると、照射時間を増すことによる銀担持量の増加は期待できない。
従って、気化してプラズマ状態となった銀ガスは、効率良く試料に担持・吸着させなければ、無駄に排気されてしまうことになる。
【0060】
(実験6:前処理の有無による比較試験)
前述したように、試料表面への銀の担持機構について、付着とイオン結合の二通りが考えられた。
そこで、より効果的に銀を担持するために、前処理として酸素ガスプラズマ照射を行い、試料表面の微細な埃や油等の汚れを、活性酸素の強い酸化力で試料表面を酸化除去するクリーニングの効果について調べた。
また、酸素ガスプラズマをプラスチックに照射することにより、試料表面にヒドロキシル基(・OH)、カルボキシル基(・COOH)等の親水基が結合することを確かめ、この親水基が接木の役目をし、グラフト重合により銀が担持され易い状態になることを明らかにした。
推測される、グラフト重合によるプラスチック試料表面への銀のイオン結合変化を、以下の化学反応式に示す。
【0061】
【化5】

【0062】
このように、オリジナルの試料の状態(1)から、酸素プラズマの照射により、OH基とCOOH基が結合した状態(2)となり、銀プラズマの照射により、CHとOH基とCOOH基の水素原子Hの代わりに銀原子Agが結合した状態(3)となると推測される。
【0063】
試料としてポリスチレンの試料を用いて、前処理を行ってから、銀プラズマ照射を行った。
前処理は、以下のようにして行った。
図1のガスボンベ6として酸素ボンベを使用して、高純度(G2クラス:純度99.999%)の酸素ガスを、0.8L/分の割合でプラズマ反応管炉5内に送り込んだ。
さらに、高周波電源3から、電圧2.5kVの高周波アノード電圧を印加して、プラズマ反応管炉5内に、一様の薄紫色のプラズマグロー放電を発生させた。これにより、酸素プラズマによる試料21の表面の処理を行った。
そして、前処理の時間を30分と90分と変えてそれぞれ処理を行い、その後、同じプラズマ反応管炉5において銀プラズマ照射を30分行った。
それぞれ得られた試料について、XPS測定装置で測定を行った。
測定結果として、前処理時間と銀担持量との関係を、図9に示す。
【0064】
また、同様の条件で前処理と銀プラズマ照射を行った後に、試料の表面を紙で拭いたものについても、XPS測定装置で測定を行った。この測定結果も、図9に併せて示す。
さらに、表2及び表3の結果(直接銀プラズマ照射のみ)も、前処理時間0分のデータとして、図9に併せて示す。
【0065】
図9より、前処理を30分行った試料は10.10%、前処理を90分行った試料は12.30%と、銀の担持量が前処理を行っていない試料と比べて共に増加した。
このことから、酸素ガスによる前処理は効果的だと言える。
また、酸素ガスプラズマを30分照射した前処理後、銀を担持させた試料表面を乾いた紙で拭いた場合(図9中のClean surface)には、担持量は2.13%に減少し、およそ5分の1になった。
酸素ガスプラズマを90分照射した前処理後、銀を担持させた試料表面を乾いた紙で拭いた場合には、担持量は5.58%に減少し、およそ2分の1になった。
前処理を30分行った試料では銀担持量が増加したにもかかわらず、表面を拭いた場合には前処理を行わなかった試料の場合の銀担持量とさほど変化がなかった。
しかし、前処理を90分行った試料について、表面を拭いた場合には銀担持量が増加していることから、90分の前処理時間で、クリーニング効果が十分発揮され、その後親水基が試料表面に結合すると考えられる。そして、結合した親水基が接木の役割となり、銀担持量がさらに増加したと考えられる。
【0066】
(実験7:銀担持量の経持変化)
実験3と同様にしてポリスチレンに対して直接銀プラズマ照射を行った試料と、実験6と同様にしてポリスチレンに対して銀プラズマ照射の前に前処理を30分間行った試料とを用意した。
そして、各試料を4日間大気中に放置して、銀の担持量の変化を調べた。
銀プラズマ照射直後の担持量を1として、4日間放置した後の担持量を照射直後の担持量で除した割合を求めた。銀担持量の経持変化の測定結果として、この割合の変化を、図10に示す。
また、試料表面に担持した銀は水に溶けやすい状態であることが判明しているため、時間経過の間に空気中の水分を吸着する場合を考え、比較試料としてシリカゲルを敷き詰めたシャーレの中に試料を置き、乾燥状態で放置した場合の変化も調べ、併せて図10に示す。
図10において、●印は直接銀プラズマ照射で銀を担持させた試料の結果を示し、▲印は前処理の後に銀プラズマ照射を行った試料の結果を示し、○印は乾燥状態で放置した場合の結果を示している。
【0067】
図10より、直接銀プラズマ照射で銀を担持させた試料(●印)は、4日経過後に担持量が60%減少した。
このことから、本発明による低温プラズマ照射法によってプラスチック面に担持された銀は、時間経過によって減少することがわかった。
また、前処理を30分行った銀担持試料(▲印)は、4日経過後の担持量が約25%の減少に留まった。
従って、前処理を行うことにより、時間経過による担持量の減少を半分程度に抑えることができた。
【0068】
また、シリカゲルを用いて乾燥状態で放置した試料(○印)は、4日後には担持量が約55%に減少し、直接銀プラズマ照射の場合とほぼ同等であった。
このことから、空気中の水分の影響による担持量の変化ではなく、試料表面に担持された銀は、徐々にイオン状態となり空気中に放出するものと考えられる。
また、酸素ガスプラズマ照射による前処理によって担持量の経時変化が抑制できることから、十分な時間のプラズマ前処理照射が重要となる。
【0069】
(実験8:プラスチック試料の種類による担持量の違い)
これまで使用してきたポリスチレン(PS)の試料に加えて、ポリブテン(PB)の試料、ポリエチレンテレフタレート(PET)の試料についても、同様にして、銀プラズマ照射による銀担持を行った。
【0070】
オリジナルのポリブテン(PB)の試料のXPSサーベイ測定結果を、図11Aに示し、直接銀プラズマを30分間照射したポリブテン(PB)の試料のXPSサーベイ測定結果を、図11Bに示す。
また、それぞれのXPSマルチ測定結果を、表5及び表6に示す。
【0071】
【表5】

【表6】

【0072】
これらの結果から、銀プラズマを照射することにより、ポリブテン(PB)の試料表面に銀が担持されることがわかった。
また、表6のXPSマルチ測定結果から、銀が6.16%担持されていることがわかった。これは、表2に示されたポリスチレン(PS)の試料よりも、僅かに少ない値である。
【0073】
オリジナルのポリエチレンテレフタレート(PET)の試料のXPSサーベイ測定結果を、図12Aに示し、直接銀プラズマを30分間照射したポリエチレンテレフタレート(PET)の試料のXPSサーベイ測定結果を、図12Bに示す。
また、それぞれのXPSマルチ測定結果を、表7及び表8に示す。
【0074】
【表7】

【表8】

【0075】
これらの結果から、銀プラズマを照射することにより、ポリエチレンテレフタレート(PET)の試料表面に銀が担持されることがわかった。
また、表8のXPSマルチ測定結果から、ポリブテン(PB)の試料とほぼ同じ量、6.18%の銀が担持されていることがわかった。
【0076】
また、試料として、中空糸膜ろ過材(ポリエチレン、外径1mm、内径0.8mm)を用いて、同様に、直接銀プラズマを30分間照射した。
得られた試料のXPSマルチ測定結果を、表9に示す。
さらに、同様に直接銀プラズマを30分間照射した試料表面を水洗いして、得られた試料のXPSマルチ測定を行った。この測定結果も、表9に併せて示す。
【0077】
【表9】

【0078】
表9より、ろ過材の肉厚部分が多孔質であるため、銀の担持量が多いこと、また、水洗い後も銀の担持量が多く保持されることがわかる。
【0079】
(実験9:銀イオン水の作製実験)
ポリスチレン製シャーレ(直径90mm×高さ15mm)を用いて、実験3等と同様にして、銀プラズマ照射を行い、銀を担持させた。
この銀を担持させたシャーレを、300mlの蒸留水に水没させて、銀イオン測定器にて蒸留水中の銀イオン濃度を測定した。
水没させた瞬間を0分とし、0〜330分まで30分間隔で静置状態及び攪拌状態の銀イオン濃度をそれぞれ測定した。なお、攪拌状態は蒸留水をかき混ぜて、その30秒後のイオン濃度とした。
測定結果として、銀イオン濃度と経過時間のグラフを、図13に示す。
【0080】
図13に示すように、銀担持シャーレを蒸留水中に水没させた瞬間、イオン濃度は5.2mg/Lになり、攪拌することで20mg/Lまで上昇した。
このことから、試料表面に担持された銀は、水に溶け出す際にイオン状態となることがわかった。
また、銀イオンは0.1mg/Lで一般生菌を死滅させる効果があると言われているので、今回得られたイオン濃度5.2mg/Lは非常に高濃度であり、十分な殺菌効果が期待できる。
そして、水没後30分間は、静置状態並びに攪拌状態で銀イオン濃度は上昇し続け、最大で静止状態82mg/L、攪拌状態51mg/Lまで上昇した。
さらに、水没後30分〜60分の間で急激に濃度が減少し、静止状態、攪拌状態共に6.0mg/L程度で安定した。これは、試料表面から溶け出した銀イオンが蒸留水中の酸素や不純物と反応して、酸化銀等の化合物へ変化し、イオン状態ではなくなったためだと考えられる。
よって、水没後30分はイオンから化合物へ変化する量より銀イオンが溶け出す量の方が多く、水没後30分〜60分では試料表面の銀がすべて水中へ溶け出しておりイオンから化合物への変化のみが進行して、急激に濃度が減少したと推測される。
水没後60分からは、銀イオンと反応する物質が水中に無くなったために濃度の急激な減少が治まるものの、その後も時間経過によって少しずつ濃度が低下することから、液面から空気中の酸素等と反応していると考えられる。
【0081】
(実験10:ウェット条件での殺菌効果)
銀を担持させたプラスチックによる殺菌効果を調べた。
蒸留水100mlの入った容器内にミヤンマー産の黒胡麻5gを投入し、十分に液を攪拌させて黒胡麻表面に付着する細菌を蒸留水中に放出させた。この液を検査液とした。
この検査液25mlを、オリジナルのポリスチレン製シャーレ及び銀が担持されたポリスチレン製シャーレにそれぞれ取り、シェイキングミキサー(Shaking mixer)で攪拌しながら、クリーンベンチ内で24時間放置した。
その後、各容器(オリジナルシャーレ及び銀担持シャーレ)から1mlを採り、それらをペトリフィルム上に蒔き、インキュベータにて培養した。培養の条件は、インキュベータ内の温度を35℃とし、二酸化炭素濃度を5%、培養時間を48時間とした。
結果として、オリジナルシャーレから採取して培養した一般生菌のペトリフィルム上の写真を、図14Aに示す。また、銀担持シャーレから採取して培養した一般生菌のペトリフィルム上の写真を、図14Bに示す。
【0082】
各ペトリフィルムに表れたコロニー数(赤い斑点の数)を計測すると、図14Aのオリジナルシャーレの場合は637個、図14Bの銀担持シャーレの場合は0個であった。
また、銀担持シャーレ内の銀イオン濃度を測定したところ、4.4mg/L(4.4ppm)であり、非常に強力な殺菌力を示した。
【0083】
(実験11:ドライ条件での殺菌効果)
ミヤンマー産の黒胡麻2gを、オリジナルのポリスチレン製シャーレ及び銀が担持されたポリスチレン製シャーレに、水を介さず乾燥状態で入れて、クリーンベンチで24時間静置した。
その後、蒸留水100mlの入った容器に、各シャーレに入れて放置した黒胡麻をそれぞれ投入して、黒胡麻表面に付着する細菌を蒸留水中に放出させた。
これらの各液1mlをペトリフィルム上に蒔き、インキュベータにて培養した。培養の条件は、実験10と同様とした。
【0084】
ここで、黒胡麻とシャーレとの接触状態を、図15Aと図15Bに示す。
図15Aは、銀25が担持されたシャーレ21に黒胡麻40を乗せることにより、黒胡麻40の下側が接触した状態である。
図15Bは、黒胡麻40を銀25が担持されたシャーレ21で挟むことにより、黒胡麻40の上下側が接触した状態である。
【0085】
結果として、オリジナルシャーレに黒胡麻を片面接触させた場合について、一般生菌を培養したペトリフィルムの写真を、図16Aに示す。銀担持シャーレと片側接触させた場合について、一般生菌を培養したペトリフィルムの写真を、図16Bに示す。銀担持シャーレと両面接触させた場合について、一般生菌を培養したペトリフィルムの写真を、図16Cに示す。
【0086】
各ペトリフィルムに表れたコロニー数(赤い斑点の数)を計測すると、図16Aのオリジナルシャーレの場合のコロニー数は213個、図16Bの片面接触状態のコロニー数は165個、図16Cの両面接触状態のコロニー数は101個であった。
オリジナルシャーレと比べ、銀担持シャーレと接触させた場合、黒胡麻の生菌数は減少していることから、ドライ状態でも殺菌効果があり、接触面積が増えるにつれてその効果が増すことがわかった。
しかし、ウェット条件と比べると殺菌効果は弱いと言える。
【0087】
なお、図10に示したように、大気中に放置された銀担体の銀担持量が日数と共に減少していることから、銀担体から徐々に大気中に銀イオン状態となり放出されていると推測することができる。
そのため、ドライ条件では、試料表面から放出された微量な銀イオンによっても、殺菌効果が期待できる。
【0088】
(実験12:市販の銀担体との比較)
市販されている従来の銀担体と、本発明による銀担体との比較を行った。
市販されている銀イオン発現材(商品名:銀イオンパワー、発売元:株式会社ティーケープラン)を用意した。この銀イオン発現材は、前記した特許文献2に記載されている、ゼオライト銀のパウダーをポリエチレン樹脂の表面にコーティングした構成である。
この銀イオン発現材からの銀イオン濃度を、同じ銀イオン濃度測定器で計測した。
この測定結果を、図17中にx印で示す。
また、図13に示した、銀が担持されたポリスチレン製シャーレを水中内に投入した時の水中内銀イオン濃度の時間変化を、□印と実線で、図17に併せて示す。
【0089】
図17より、市販品による銀イオン濃度はかなり低い値であることがわかる。
同じ市販品(銀担体)のXPSサーベイ測定結果を図18に示し、XPSマルチ測定結果を表10に示す。
【0090】
【表10】

【0091】
図18と表10の結果から、この市販品の銀担体は、本発明による銀担体と比較して、銀の含有量が明らかに少ないことがわかる。
【0092】
図17中に記された以外の、銀担持方法として、銀ガス低温プラズマによる担体とのイオン結合によるものは皆無である。
最近、銀の粉を樹脂の表面に熱融着コーティングしたペレット状の抗菌剤が報告されている。
【0093】
銀イオン自体が人体に無害であり、殆どの細菌(レジオネラ属菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌O-157H7、ヘリコバクターピロリ菌)等に対して強い殺菌力を有すことは周知である。
しかし、重要なことは、銀イオン、或いは銀イオン水による殺菌は、局所的かつ瞬時にヒドロキシルラジカル(活性酸素)と水素ラジカルが発生してその効果が発揮されることである。当然のことながら、この効果が発揮されるためには、銀イオン濃度が高いことが必要である。
上述した細菌の殺菌には、0.1ppm(0.1mg/L)程度の濃度が必要とされているが、銀イオンの製造法に関するものはほとんど無く、銀系抗菌製品に関するものがほとんどであり、これらの製品の中には、銀イオン濃度においても、ラジカルの発生においても疑わしいものが余りにも多い。
【0094】
なお、銀イオン水に先行する殺菌法として、二酸化塩素殺菌が注目されている。
銀イオンに関して、日本の水質基準には銀が規定されていないが、米国環境保護局(USEPA)の飲料水規則ではSecondary standardで0.1mg/Lの規制値がある。
この濃度は、直接飲んでも人体に影響がない、との報告が、世界保健機構(WHO)から出されている。
しかし、後者の二酸化塩素については、現在水道水の前処理としての使用は認められているものの、二酸化塩素の生成時で反応物として残った亜塩素酸濃度が高くなると、ヘモクロビン障害や貧血等人体に悪影響を与えることが報告されている。さらに、二酸化塩素のデメリットとしては、貯蔵が困難であり、熱に対する不安定性や、溜まりすぎると爆発性・腐食性がある等の点があるため、用途が銀イオン水と比べてかなり限定されている。
【0095】
上述した実験から、以下に記載するような知見が得られた。
(1)担体として予めプラズマ反応管炉5内にポリスチレン、ポリブテン、ポリエチレンテレフタレート成形材及び中空糸膜ろ過材を設置し、さらに硝酸銀を設置し、管炉外より高周波誘導加熱を行い、硝酸銀を気化させ、同時にその高周波誘導により低圧管炉内に低温プラズマを発生させた。これにより、銀ガスプラズマ状態下において、各担体の表面にイオン結合によって銀を担持させることができた。
(2)プラズマ反応管炉5内における銀の気化ガスの飛散は、蒸発源の周りに限定されるため、アルゴンをキャリアガスとしてプラズマ反応管炉5内に送り込むことによって、銀の気化ガスをプラズマ反応管炉5内に均一に分散飛散させることができた。
(3)酸素ガスプラズマ又は窒素ガスプラズマを担体に照射する前処理を施すことによって、またその処理時間を増すことによって、銀担持量を増加させることができた。
(4)銀担体を水と接触させることによって、水中に容易に銀イオンが発現することがわかった。この時、水中での銀イオン濃度は非常に高く、強い殺菌作用があることがわかった。
(5)銀担体は、銀担体とのドライ接触状態でも殺菌効果があることがわかった。
(6)銀担体を水中に放置すれば、大気中に放置するよりも銀の担持量は時間と共により多く減少するが、両者ともそれぞれ、ある有限な濃度に漸近する。
【0096】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】プラスチックの金属担体の製造装置の一形態の概略構成図である。
【図2】試料及び硝酸銀の図1のプラズマ反応管炉内への装填状態を示す図である。
【図3】A、B 炉内の試料の位置を示す図である。
【図4】A、B 図3A及び図3Bの試料の位置と銀濃度との関係を示す図である。
【図5】A、B PS試料のXPSサーベイの結果である。
【図6】試料表面に油や埃が付着した状態を示す図である。
【図7】銀プラズマ照射したPS試料のXPSサーベイの結果である。 A 試料の表面を拭いた場合の結果である。 B 試料の表面を水洗いした場合の結果である。
【図8】銀プラズマの照射時間と、銀の担持量との関係を示す図である。
【図9】前処理時間による銀の担持量の変化を示す図である。
【図10】銀の担持量の経時変化を示す図である。
【図11】A、B PB試料のXPSサーベイの結果である。
【図12】A、B PET試料のXPSサーベイの結果である。
【図13】銀担持体を水中に投入したときの水中の銀イオン濃度の変化を示す図である。
【図14】A、B シャーレ内の一般生菌のコロニー数の状態である。
【図15】A、B 黒胡麻と銀担持体との接触状態を模式的に示す図である。
【図16】A〜C 黒胡麻表面に付着した菌をシャーレに接触させた場合のコロニーの状態である。
【図17】水中における銀イオン濃度の経時変化を比較して示す図である。
【図18】市販の銀担体のXPSサーベイの結果である。
【符号の説明】
【0098】
1 水タンク、2 揚水ポンプ、4 銅パイプ、5 プラズマ反応管炉、6 ガスボンベ、10 真空ポンプ、21 試料、22 硝酸銀、24 鉄板、25 銀、40 黒胡麻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックに対して、銀を含有するプラズマを照射するプラズマ照射工程を行って、
前記プラズマ照射工程で照射したプラズマの銀を、前記プラスチックに担持させる
プラスチックへの銀担持方法。
【請求項2】
前記プラズマ照射工程において、硝酸銀を用いて、銀を含有するプラズマを発生させる請求項1に記載のプラスチックへの銀担持方法。
【請求項3】
前記プラズマ照射工程において、アルゴンガスを流す請求項1に記載のプラスチックへの銀担持方法。
【請求項4】
前記プラズマ照射工程の前に、前記プラスチックに対して、酸素プラズマ、窒素プラズマ、アルゴンプラズマの少なくともいずれかを照射する前処理工程を行う、請求項1に記載のプラスチックへの銀担持方法。
【請求項5】
銀がプラスチックに担持されているプラスチックの銀担体。
【請求項6】
請求項1に記載されたプラスチックへの銀担持方法により作製した前記プラスチックの銀担体を、水中に入れて、銀イオンを水中に溶出させる銀イオン水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図14】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−263427(P2009−263427A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111618(P2008−111618)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年1月24日 社団法人日本機械学会発行の「第20回バイオエンジニアリング講演会 講演論文集」に発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】