説明

プラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法

【課題】殺菌剤を使用することなく、簡単で低コストの方法によりプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法を提供する。
【解決手段】プラスチックボトルの少なくとも内面を内面温度が65℃以上70℃未満となるように湿熱加熱殺菌し、次いで殺菌済みプラスチックボトルに殺菌済みミネラルウォーターを充填し、プラスチックボトルの口部を密封する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年PETボトル等プラスチックボトル詰めのミネラルウォーターの消費が増大している。従来PETボトル等のプラスチックボトルは、ミネラルウォーターの充填の前に過酸化水素または塩素系殺菌剤等の殺菌剤を使用して殺菌している。しかし殺菌剤を使用する殺菌方法は殺菌剤を洗浄するために多量の水を使用しなければならず、製造工程も複雑であって製造コストが嵩むという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
また、殺菌剤を使用する殺菌方法のかわりに温水を使用してPETボトルを殺菌する方法も種々提案され使用されている。一例として、特許文献1には、内容物をpH4.0以下の酸性飲料を常温で充填することを目的として、65℃ないし85℃の温水を間欠的に倒立状態のボトル内面に噴射してボトル内面に付着したかびや酵母を殺菌した後常温状態の酸性飲料を充填・密封する酸性飲料のPETボトル充填法が示されている。この方法は、殺菌剤を使用しないで容器を殺菌することができるので、殺菌剤を使用する方法に比べて低コストであるという長所がある。しかしながら、この方法は酸性飲料を対象としたものであり、酸性飲料以外の用途への適用については示唆するところがなく、研究開発の余地を残すものである。
【0004】
本発明は、上記従来のプラスチックボトル殺菌方法の問題点にかんがみなされたものであって、殺菌剤を使用することなく、簡単で低コストの方法によりプラスチックボトルを殺菌することができるプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法を提供しようとするものである。
【特許文献1】特許第2844983号公報
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的を達成するプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法は、プラスチックボトルの少なくとも内面を内面温度が65℃以上70℃未満となるように湿熱加熱殺菌し、次いで殺菌済みプラスチックボトルに殺菌済みミネラルウォーターを充填し、プラスチックボトルの口部を密封することを特徴とするものである。
【0006】
本発明の1側面においては、前記湿熱加熱殺菌を
ボトル内面温度:67℃以上70℃未満
殺菌時間:3秒以下(0秒は含まない)
の範囲で行うことを特徴とする。
【0007】
本発明の他の側面においては、前記湿熱加熱殺菌を
ボトル内面温度:65℃以上70℃未満
殺菌時間:3秒を越え、5秒以下の範囲で行うことを特徴とする。
【0008】
本発明の他の側面においては、前記湿熱加熱殺菌を
ボトル内面温度:63℃以上70℃未満
殺菌時間:5秒を越え、10秒以下の範囲で行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の他の側面においては、前記湿熱加熱殺菌は、温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱されるとともに無菌エアーにより空間内の少なくとも一部が陽圧保持される無菌閉鎖空間にプラスチックボトルを導入して行われることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の側面においては、前記無菌閉鎖空間に導入されるプラスチックボトルは、外面を温水及び/又は蒸気による湿熱加熱殺菌された後に無菌閉鎖空間内に導入されることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の側面においては、前記無菌閉鎖空間に導入されるプラスチックボトルの外面殺菌の工程は、温水噴出ノズルまたは蒸気噴出ノズルより温水及び/又は蒸気を該プラスチックボトルに噴出させ、該プラスチックボトルの外面温度が65℃以上96℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする。
【0012】
本発明の他の側面においては、前記無菌閉鎖空間に導入されるプラスチックボトルの外面殺菌は、前記無菌閉鎖空間に連通し、プラスチックボトルの搬入・搬出口が設けられた外面殺菌室内で行われることを特徴とする。
【0013】
本発明の他の側面においては、前記外面殺菌室は、水蒸気で満たされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボトルに充填する内容物がミネラルウォーターであり、ボトル内面の温水による殺菌は63℃以上70℃未満で10秒以下の殺菌時間で行うことができる。したがって、比較的に低いエネルギーでボトルを殺菌することができ、またボトル自体の耐熱性を低くすることもできるので、ミネラルウォーターを経済的に製造することができる。
【0015】
本発明の1側面によれば、前記湿熱加熱殺菌は、温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱されるとともに無菌エアーにより空間内の少なくとも一部が陽圧保持される無菌閉鎖空間にプラスチックボトルを導入して行われるので、従来の殺菌剤散布の方法に比べて空間内殺菌後の洗浄工程や洗浄設備が不要となり、従来と同等の無菌環境が維持されつつも設備コスト等が削減される。
【0016】
また、本発明の1側面によれば、前記無菌閉鎖空間に導入されるプラスチックボトルは、外面を温水及び/又は蒸気による湿熱加熱殺菌された後に無菌閉鎖空間内に導入されるので、ボトルは汚染度の高いボトル外面のかびや細菌が殺菌された状態で無菌閉鎖空間内に導入され、その結果閉鎖空間内に導入されるかびや細菌の量が最大限に減少し、ボトル内面殺菌後のボトルにかびや細菌が再び付着する可能性が最大限に減少し、ボトル内外面の殺菌をもっとも効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
本発明の方法が適用される容器は、PETボトル、ポリエチレンボトル等のプラスチックボトル(以下「ボトル」と略称する)である。
【0018】
本発明の方法においては、ボトルの外面の殺菌と内面の殺菌を分けて2段階で行い、まず無菌閉鎖空間の外において温水または蒸気でボトルの外面を湿熱加熱殺菌した後無菌閉鎖空間内にボトルを導入してボトルの内面を温水で殺菌することを特徴とする。
【0019】
ボトルの外面の湿熱加熱殺菌は、65℃〜95℃で行い、65℃の場合殺菌時間は10秒以上、95℃の場合は2秒以上が好ましい。ボトル外面の殺菌もできれば無菌閉鎖空間としての外面殺菌室内で行うことが好ましい。ここで無菌閉鎖空間とは、容器搬入のための出入り口を設けた作業室内の一部空間を囲って密封空間とし、この密封空間内に温水噴射や水蒸気噴出などの湿熱加熱殺菌を行い陽圧の無菌空気を導入して無菌状態を維持するようにした空間を意味する。クリーンルーム内で湿熱加熱殺菌を行うと、水蒸気によりクリーンルーム天井部のHEPAフイルターが損傷を受けるので、クリーンルームは湿熱加熱殺菌およびその後のフイラーによる内容物のボトルへの充填作業を行うには不適である。またこのような無菌空間を使用することにより、設置費用が高価で、例えば風流制御などの各種制御が難しいクリーンルームを使用しないですむので、容器殺菌に要する費用を一層低減することができる。
【0020】
ボトル外面の殺菌が行われる外面殺菌室は、温水を放散するか水蒸気を吹込むことにより発生する水蒸気で満たすようにしてもよい。外面殺菌室を水蒸気で満たすことにより、ボトル外面殺菌効果が向上するとともに、外面殺菌室内がボトル搬入口の外部の大気に対してエアシールされた状態となり、外部の大気中の菌が無菌閉鎖空間内に流入することが防止される。
【0021】
本発明の方法によれば、ボトルに充填する内容物がミネラルウォーターであり、ボトル内面の温水による殺菌は65℃以上70℃未満で10秒以下の殺菌時間で行うことができる。したがって、比較的に低いエネルギーでボトルを殺菌することができ、またボトル自体の耐熱性を低くすることもできるので、ミネラルウォーターを経済的に製造することができる。
【0022】
温水によるボトル外面の殺菌は、ボトルが正立、倒立いずれの状態の場合でも、図1に示すように、閉鎖空間を設けて複数の温水スプレーノズルをボトルの側面および底面に向けて温水を噴射することにより行うことができる。
【0023】
ボトル内面の殺菌は、上記ボトル外面殺菌を行なう無菌閉鎖空間と同一条件の無菌閉鎖空間内で行う。この無菌閉鎖空間内において、ボトルが倒立の状態において、1本の温水スプレーノズルを図2に示すようにボトルの口の下方に配置し、温水をボトル内部に向けて噴射することによって行う。温水スプレーノズルをボトルの内部に挿入して温水を噴射することも可能であるが、図2に示すように温水スプレーノズルをボトルの口の下方に固定して配置した状態で温水を噴射する方が、温水スプレーノズルの昇降動作が不要であるので、装置の機械的な構造を簡素化することができ、また、ボトル内壁を伝ってノズル近傍にたまった温水をノズルから噴射された温水とともに容器内壁へ再び噴射するいわゆる温水のジャグリングも行うことができ使用する温水の量を低減することができるんで、飲料製品の製造コストを低減することができる。なお図2の例では、ボトルの内面のみならずボトルの外面にも温水を噴射して殺菌を行っている。
【0024】
ボトル外面の殺菌を外面殺菌室内で行なう場合は、この外面殺菌室をボトル内面の殺菌を行なう無菌閉鎖空間と連通させるように構成することが好ましい。こうすることによって、ボトルが両無菌閉鎖空間の間に移送される途中で外部から菌が付着することが防止される。また、この外面殺菌室内で温水を用いて湿熱加熱殺菌する場合、使用する温水はボトル内面殺菌に用いた温水を循環させて再利用することもできる。
【0025】
ボトル内面の殺菌を終了後ボトルは上記と同一条件の無菌閉鎖空間内に設けられたフイラーに移送され、殺菌済みのミネラルウォーターがボトル内に充填される。ミネラルウォーターが充填されたボトルは上記と同一条件の無菌閉鎖空間内に設けられたキャッパーに移送され、殺菌済みキャップで密封された後製品として無菌閉鎖空間外に排出される。
【実施例1】
【0026】
供試ボトルとして500ml 角形φ28mmのPETボトルを使用した。
また、供試菌としてAspergillus niger ATCC6275を30日間ポテトデキストロース寒天培地で培養したものを使用した。
【0027】
供試ボトルの外面に、供試菌の胞子懸濁液を0.1ml噴霧して、10cfu/ホ゛トルとなるように懸濁液を付着させた後、一昼夜クリーンルーム内で乾燥させ、供試ボトルとして用いた。
この供試ボトルを正立の状態で図2に示す方法により湿熱加熱殺菌した。
【0028】
殺菌後のボトル外面の生残菌数をポテトデキストロース寒天培地で30℃×7日間培養して菌数を計測し、Log(初期菌数/生残菌数)より、殺菌効果を求めた。
ボトル外面の殺菌温度・時間と殺菌効果の関係を表1に示す。
【表1】

【実施例2】
【0029】
供試ボトルとして500ml 角形φ28mmのPETボトルを使用した。
また、供試菌としてAspergillus niger ATCC6275を30日間ポテトデキストロース寒天培地で培養したものを使用した。
【0030】
供試ボトルの内外面に、供試菌の胞子懸濁液を各0.1ml噴霧して、10cfu/ホ゛トルとなるように懸濁液を内外面にそれぞれ付着させた後、一昼夜クリーンルーム内で乾燥させ、供試ボトルとして用いた。
【0031】
この供試ボトルを倒立の状態で図3に示す方法によりその内外面を温水殺菌した。
【0032】
殺菌後のボトル内外面の生残菌数をポテトデキストロース寒天培地で30℃×7日間培養して菌数を計測し、Log(初期菌数/生残菌数)より、殺菌効果を求めた。
ボトル内外面それぞれの殺菌温度・時間と殺菌効果の関係を表2に示す。
【表2】

【実施例3】
【0033】
供試菌としてAspergillus niger ATCC6275を30日間ポテトデキストロース寒天培地で培養したものを使用した。
【0034】
この供試菌の胞子懸濁液を図4の装置内の機器表面の適当な場所に10cfu/100cmとなるように付着させ、乾燥後、温水循環による殺菌を行った。
【0035】
殺菌後の機器表面の生残菌数をポテトデキストロース寒天培地で30℃×7日間培養して菌数を計測し、Log(初期菌数/生残菌数)より、殺菌効果を求めた。
機器表面における殺菌温度・時間と殺菌効果の関係を表3に示す。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】温水によるボトル外面の殺菌方法の1例を示す説明図である。
【図2】温水によるボトル内面の殺菌方法の1例を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックボトルの少なくとも内面を内面温度が65℃以上70℃未満となるように湿熱加熱殺菌し、次いで殺菌済みプラスチックボトルに殺菌済みミネラルウォーターを充填し、プラスチックボトルの口部を密封することを特徴とするプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項2】
前記湿熱加熱殺菌を
ボトル内面温度:67℃以上70℃未満
殺菌時間:3秒以下(0秒は含まない)
の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項3】
前記湿熱加熱殺菌を
ボトル内面温度:65℃以上70℃未満
殺菌時間:3秒を越え、5秒以下
の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項4】
前記湿熱加熱殺菌を
ボトル内面温度:63℃以上70℃未満
殺菌時間:5秒を越え、10秒以下
の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項5】
前記湿熱加熱殺菌は、温水及び/又は蒸気により空間内壁全面および空間内に設置された装置表面が湿熱加熱されるとともに無菌エアーにより空間内の少なくとも一部が陽圧保持される無菌閉鎖空間にプラスチックボトルを導入して行われることを特徴とする請求項1〜4に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項6】
前記無菌閉鎖空間に導入されるプラスチックボトルは、外面を温水及び/又は蒸気による湿熱加熱殺菌された後に無菌閉鎖空間内に導入されることを特徴とする請求項1〜5に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項7】
前記無菌閉鎖空間に導入されるプラスチックボトルの外面殺菌の工程は、温水噴出ノズルまたは蒸気噴出ノズルより温水及び/又は蒸気を該プラスチックボトルに噴出させ、該プラスチックボトルの外面温度が65℃以上96℃未満となるように湿熱加熱殺菌することにより行われることを特徴とする請求項6に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項8】
前記無菌閉鎖空間に導入されるプラスチックボトルの外面殺菌は、前記無菌閉鎖空間に連通し、プラスチックボトルの搬入・搬出口が設けられた外面殺菌室内で行われることを特徴とする請求項6または7に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。
【請求項9】
前記外面殺菌室は、水蒸気で満たされていることを特徴とする請求項8に記載のプラスチックボトル詰めミネラルウォーターの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−160373(P2006−160373A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32845(P2006−32845)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【分割の表示】特願2003−93855(P2003−93855)の分割
【原出願日】平成15年3月31日(2003.3.31)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】