説明

プラスチックレンズの製造方法および該方法から得られるプラスチックレンズ

【課題】プラスチック基材上にハードコート層膜と反射防止層膜とからなる積層塗膜を硬化むらなく比較的短時間で形成することができるばかりでなく、耐熱性や耐衝撃性に優れたプラスチックレンズを製造することのできる、プラスチックレンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】特定の組成を有するハードコート層膜形成用塗料組成物をプラスチックレンズ基材上に塗布して得られた塗膜を予備硬化し、さらに予備硬化された該塗膜上に反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布して得られた積層塗膜に、特定の波長を有する遠赤外線を特定条件下で照射して該積層塗膜を硬化させるプラスチックレンズの製造方法および該方法から得られるプラスチックレンズ。なお、この方法によれば、前記プラスチック基材上にハードコート層膜と反射防止層膜とからなる積層塗膜を硬化むらなく比較的短時間で形成することができるばかりでなく、耐熱性や耐衝撃性に優れたプラスチックレンズを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜を形成し、さらにその表面に反射防止層膜を少なくとも形成してなるプラスチックレンズの製造方法に関するものである。さらに、本発明は、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜と反射防止層膜とを少なくとも形成してなるプラスチックレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズ、特に眼鏡レンズの材料としては、無機ガラス基材に代わってプラスチック基材が中心的に使用されている。これは、プラスチック基材が軽量性、耐衝撃性、加工性、染色性などの面で優れていることや、第2世代としてのプラスチックレンズ基材の開発や改良が行われ、より軽量化、高屈折率化へと進んだためである。しかしながら、これらプラスチック基材は、無機ガラス基材に比べて傷つき易いという欠点があった。
【0003】
そこで、この欠点を回避するため、プラスチック基材を用いた光学レンズの表面には、通常、シリコーン系の硬化性塗膜(所謂、ハードコート層膜)が設けられている。さらに、高屈折率のプラスチックレンズ基材を用いた場合には、このレンズ基材とハードコート層膜との間に起こる光の干渉(これは、干渉縞として現れる)を防ぐため、前記ハードコート層膜に金属酸化物微粒子を含ませて、その屈折率をレンズの屈折率に合わせるような処置が施されている。例えば、特許文献1には、前記金属酸化物微粒子として酸化チタン、酸化ジルコニウム、五酸化アンチモンなどを含む複合酸化物微粒子を使用することが開示されている。
【0004】
また、本発明者らも、特許文献2において、酸化チタン系微粒子を核粒子とし、さらにその表面をアンチモン酸化物で被覆したコア・シェル型の金属酸化物微粒子を使用することを提案している。
【0005】
また、プラスチックレンズ基材の表面に前記ハードコート層膜を設け、さらにその表面に従来公知の真空蒸着法(いわゆる、乾式法)によって反射防止層膜を設けた光学レンズにおいては、比較的高い温度雰囲気下にこのレンズを放置するとこれらの塗膜にクラックが生じ易いばかりでなく、このレンズに衝撃を与えると割れ易いという欠点があった。
【0006】
この欠点を解決するため、たとえば特許文献3においては、前記ハードコート層膜上に有機ケイ素化合物およびシリカ微粒子を含む塗料組成物を塗布し、さらに該塗膜を加熱硬化させることによって反射防止層膜を形成する方法(いわゆる、湿式法)が提案されている。しかし、この湿式法に基づき反射防止層膜を形成しようとすると、塗膜の加熱硬化に長い時間を要して、その生産性や作業性が低下するという問題があった。
【0007】
一方、プラスチック基板の表面に熱硬化性塗料組成物などを塗布して、さらに得られた塗膜に3μm以上の波長を有する遠赤外線を照射して該塗膜を硬化させる方法は、既に一般的に知られている。たとえば、特許文献4には、プラスチック成形品の表面にアルキルトリアルコキシシランの部分加水分解縮合物を主とする塗料を塗布し、さらにその被塗物から1〜100cmの距離においた0.1〜1.5W/cm2の全放射エネルギーを持つ遠赤外線放射素子から発生する3〜50μmの波長の遠赤外線を放射することにより硬化被膜を形成させるプラスチック成形品の表面硬化方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、このような従来公知の赤外線硬化法を、表面が湾曲(カーブ)している眼鏡レンズなどのプラスチックレンズ基材上に形成された塗膜(特に、前記反射防止層膜)の硬化にそのまま適用すると、該塗膜の表面や内部で硬化むらが発生してしまうという問題があった。これは、物体が受ける照射強度が遠赤外線照射源からの距離の二乗に反比例するため、前記プラスチックレンズ基材の湾曲面において熱量差(照射熱量の強度差)が生じてしまうことによるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−264806号公報
【特許文献2】特開2009−197078号公報
【特許文献3】特開2006−146131号公報
【特許文献4】特開昭63−17294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、プラスチック基材上にハードコート層膜と反射防止層膜とからなる積層塗膜を硬化むらなく比較的短時間で形成することができるばかりでなく、耐熱性や耐衝撃性に優れたプラスチックレンズを製造することのできる、プラスチックレンズの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記のような問題点を解決することを目的として鋭意研究を重ねた結果、プラスチックレンズ基材上に特定のハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布して、得られた塗膜を特定の条件下で予備硬化し、さらにその塗膜表面に特定の反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布して、得られた積層塗膜に特定の遠赤外線を特定条件下で照射すればよいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明に係るプラスチックレンズの製造方法は、
プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜を形成し、さらにその表面に反射防止層膜を形成してなるプラスチックレンズの製造方法において、
(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布する工程、
(2)前記工程(1)で得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行う工程、
(3)前記工程(2)で得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ系微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布する工程、および
(4)前記工程(3)で得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させる工程
を含むことを特徴としている。
【0013】
前記有機ケイ素化合物(A)および(B)は、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物であることが好ましい。
1a2bSi(OR34-(a+b) (I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基を含有する炭素数8以下の有機基、エポキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メタクリロキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メルカプト基を含有する炭素数1〜5の有機基またはアミノ基を含有する炭素数1〜5の有機基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基もしくはハロゲン化アルキル基またはアリール基であり、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキル基である。また、aは0または1の整数、bは0、1または2の整数である。)
【0014】
前記金属酸化物微粒子は、チタニウム、鉄、亜鉛、タングステン、錫、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、ニオブ、インジウム、セリウム、ケイ素、アルミニウム、イットリウム、鉛およびモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物微粒子または複合酸化物微粒子であることが好ましい。
【0015】
さらに、前記金属酸化物微粒子は、チタニウム、鉄、亜鉛、タングステン、錫、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、ニオブ、インジウム、セリウム、ケイ素、アルミニウム、イットリウム、鉛およびモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物微粒子または複合酸化物微粒子からなる核粒子の表面を、ケイ素、ジルコニウム、アンチモン、錫およびアルミニウムから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物または複合酸化物で被覆したコア・シェル型の金属酸化物微粒子であることが好ましい。
【0016】
前記ポリカルボン酸系化合物は、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸無水物であることが好ましい。
さらに、前記ポリカルボン酸系化合物は、該ポリカルボン酸系化合物の重量をXで表し、さらに前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる有機ケイ素化合物(A)の量をSiO2換算基準で求めた重量をYで表したとき、その重量比(X/Y)が5/100〜45/100となるような割合で該ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれていることが好ましい。
【0017】
また、前記シリカ系微粒子は、40〜100nmの平均粒子径を有し、しかも内部に空洞を有する中空シリカ系微粒子であることが好ましい。
前記工程(3)で得られた塗膜を、さらに60〜110℃の温度条件下で3〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行う工程(3a)を含むことが好ましい。
また、前記工程(3a)で得られた予備硬化塗膜の表面に、さらにフッ素系化合物またはその加水分解物を含む撥水コート処理用塗料組成物を塗布する工程(3b)を含むことが好ましい。
【0018】
さらに、前記フッ素系化合物は、加水分解基を有するフロロシラン化合物であることが好ましい。
また、前記工程(4)において前記遠赤外線の照射を、遠赤外線セラミックヒーターを用いて前記積層塗膜の表面温度が70〜130℃となるように行うことが好ましい。
【0019】
また、前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層膜との間に、さらにプライマー層膜を設けることが好ましい。
さらに、前記プライマー層膜は、有機樹脂化合物と金属酸化物微粒子とを含むプライマー層膜形成用塗料組成物を前記プラスチックレンズ基材上に塗布して硬化させたものであることが好ましい。
【0020】
本発明に係る第一のプラスチックレンズは、
(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物を含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布し、(2)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3)得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ系微粒子を含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布し、さらに(4)得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させることによって、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜および反射防止層膜を形成してなること
を特徴としている。
【0021】
本発明に係る第二のプラスチックレンズは、
(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布し、(2)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3)得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布し、(3a)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で3〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3b)フッ素系化合物またはその加水分解物を含む撥水コート処理用塗料組成物を塗布し、さらに(4)得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させることによって、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜を形成してなること
を特徴としている。
【0022】
また、上記のプラスチックレンズは、前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層膜との間に、さらにプライマー層膜を設けてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るプラスチックレンズの製造方法、すなわち有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物を含む特定のハードコート層膜形成用塗料組成物をプラスチックレンズ基材上に塗布して得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下に5〜30分間、加熱処理して予備硬化し、さらに有機ケイ素化合物(B)およびシリカ系微粒子を含む反射防止層膜形成用塗料組成物を前記予備硬化塗膜上に塗布して得られた積層塗膜に3〜20μmの特定波長を有する遠赤外線を5〜30分間照射して該積層塗膜を硬化させるプラスチックレンズの製造方法によれば、前記プラスチック基材上にハードコート層膜と反射防止層膜とからなる積層塗膜を硬化むらなく比較的短時間で形成することができるばかりでなく、耐熱性や耐衝撃性に優れたプラスチックレンズを製造することができる。
【0024】
さらに、本発明の製造方法によれば、密着性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐候性、耐褪色性などに優れた積層塗膜をプラスチックレンズ基材上に容易に形成することができる。
なお、表面が湾曲(カーブ)しているプラスチックレンズ基材上に前記積層塗膜を硬化むらなく比較的短時間で形成できるのは、ポリカルボン酸系化合物を含む前記ハードコート層膜形成用塗料組成物を使用して、これを塗布して得られる塗膜(すなわち、ハードコート層膜用塗膜)が完全に硬化する前に前記反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる積層塗膜(すなわち、ハードコート層膜用塗膜および反射防止層膜用塗膜)に、前記遠赤外線を照射して前記ハードコート層膜用塗膜の本硬化と前記反射防止層膜用塗膜との硬化(本硬化)を効率よく行わせているからである。
【0025】
また、このような効果を奏する理由は、現時点で必ずしも検証されているわけではないが、予備硬化された前記ハードコート層膜用塗膜中に含まれるポリカルボン酸系化合物が、照射された遠赤外線の振動エネルギーを吸収して熱振動を起こし、結果としてプラスチックレンズ基材の湾曲面上に形成された前記積層塗膜(特に、反射防止層膜用塗膜)の温度がその塗膜全体でほゞ均一になっていることが考えられる。
【0026】
本発明に係るプラスチックレンズは、先にも述べたように、耐熱性、耐衝撃性、密着性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐候性、耐褪色性などに優れたものであり、眼鏡用のプラスチックレンズとして好適に使用することができる。
【0027】
また、このプラスチックレンズの表面にフッ素系化合物による撥水コート処理を施したプラスチックレンズは、上記の特性の他に、耐水性や耐熱水性などにおいて優れた特性を備えている。さらに、前記プラスチックレンズを構成する前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層膜との間にプライマー層膜を設けてなるプラスチックレンズは、上記のものに較べてより一層、耐衝撃性に優れた性能を有している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るプラスチックレンズの製造方法および該方法から得られるプラスチックレンズについて具体的に説明する。
なお、本発明方法で使用される純水とはイオン交換水をいい、また超純水とは純水中に含まれる不純物をさらに取り除いたもので、不純物の含有量が0.01μg/L以下のものをいう。
【0029】
[プラスチックレンズの製造方法]
本発明に係るプラスチックレンズの製造方法は、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜を形成し、さらにその表面に反射防止層膜を形成してなるプラスチックレンズの製造方法において、
(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布する工程、
(2)前記工程(1)で得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行う工程、
(3)前記工程(2)で得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ系微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布する工程、および
(4)前記工程(3)で得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させる工程
を含むものである。
次に、これらの各工程について説明すれば、以下の通りである。
【0030】
工程(1)
[ハードコート層膜形成用塗料組成物の塗布]
この工程では、プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物を含むハードコート層膜形成用塗料組成物が塗布される。
【0031】
前記プラスチックレンズ基材としては、その屈折率が1.49〜1.80、好ましくは1.60〜1.74のものであれば特に制限なく使用することができる。これらのものとしては、ポリスチレン系樹脂、脂肪族アリル系樹脂、芳香族アリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリチオウレタン系樹脂、ポリチオエポキシ系樹脂などを用いて加工・製造された各種のプラスチックレンズ基材を挙げることができる。また、これらについては、現在市販されているかどうかの如何を問わず、プラスチックレンズ基材として製造されたもの(たとえば、試験供給品などを含む。)であれば、その殆どのものが使用可能である。
【0032】
前記ハードコート層膜形成用塗料組成物としては、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物を含むものが使用される。
ここで、前記有機ケイ素化合物(A)は、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物であることが好ましい。
【0033】
1a2bSi(OR34-(a+b) (I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基を含有する炭素数8以下の有機基、エポキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メタクリロキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メルカプト基を含有する炭素数1〜5の有機基またはアミノ基を含有する炭素数1〜5の有機基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基もしくはハロゲン化アルキル基またはアリール基であり、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキル基である。また、aは0または1の整数、bは0、1または2の整数である。)
【0034】
また、前記有機ケイ素化合物(A)の具体例としては、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、α-グルシドキシメチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキキシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキキシランなどが挙げられる。この中でも、本発明方法においては、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシランなどを使用することが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種類だけでなく2種類以上を混合して使用してもよい。
【0035】
また、前記有機ケイ素化合物(A)は、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に、SiO2換算基準で10〜35重量%、好ましくは15〜30重量%含まれていることが好ましい。ここで、前記有機ケイ素化合物(A)の含有量がSiO2換算基準で10重量%よりも過小であると、該有機ケイ素化合物を含む前記ハードコート層膜形成用塗料組成物をプラスチックレンズ基材上に塗布したとき、これより得られる塗膜と前記プラスチックレンズ基材との密着性が低下するので好ましくない。また、前記有機ケイ素化合物(A)の含有量がSiO2換算基準で35重量%よりも過大であると、以下で述べる金属酸化物微粒子の含有量が相対的に少なくなるので、該有機ケイ素化合物を含む前記ハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる塗膜(ハードコート層膜)の耐擦傷性が悪くなったり、あるいは高い屈折率を有する塗膜の形成が難しくなったりするので好ましくない。
【0036】
前記金属酸化物微粒子としては、現在市販されているかどうかの如何を問わず、プラスチックレンズ基材上への塗布目的で製造され、しかもその屈折率が1.52〜2.70、好ましくは1.60〜2.60のものであれば、特に制限なく使用することができる。
【0037】
これらの金属酸化物微粒子としては、チタニウム、鉄、亜鉛、タングステン、錫、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、ニオブ、インジウム、セリウム、ケイ素、アルミニウム、イットリウム、鉛およびモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物微粒子または複合酸化物微粒子を挙げることができる。
【0038】
さらに、チタニウム、鉄、亜鉛、タングステン、錫、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、ニオブ、インジウム、セリウム、ケイ素、アルミニウム、イットリウム、鉛およびモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物微粒子または複合酸化物微粒子からなる核粒子の表面を、ケイ素、ジルコニウム、アンチモン、錫およびアルミニウムから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物または複合酸化物で被覆したコア・シェル型の金属酸化物微粒子などを挙げることができる。この中でも、高い屈折率を有し、しかも耐光性や耐候性などに優れたプラスチックレンズを製造する必要がある場合には、チタニウムを含有する核粒子の表面を前記複合酸化物で被覆したコア・シェル型のチタン系金属酸化物微粒子を使用することが好ましい。さらに、このチタン系金属酸化物微粒子の核粒子は、アナターゼ型の結晶構造を有するものであってもよく、またルチル型の結晶構造を有するものであってもよい。また、これらの金属酸化物微粒子は、1種だけでなく2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
しかし、前記金属酸化物微粒子としては、動的光散乱法に基づき測定したその平均粒子径が7〜60nm、好ましくは8〜30nmの範囲にあるものを使用することが望ましい。ここで、前記金属酸化物微粒子の平均粒子径が7nmよりも過小であると、該金属酸化物微粒子を水溶液中に高濃度で分散させたとき、その水分散ゾルの粘度が著しく上昇する傾向があり、また前記平均粒子径が60nmよりも過大であると、粒子表面での光散乱が増加し、結果として該金属酸化物微粒子を含む水分散ゾルの濁度が高まってしまうことがあるので、好ましくない。
【0040】
また、前記金属酸化物微粒子の屈折率は、該金属酸化物微粒子に含まれる金属元素の種類やその構成(たとえば、コア・シェル型粒子など)などによって変動し、現在市販されている金属酸化物微粒子の屈折率は概ね1.52〜2.70の範囲にある。よって、その使用に際しては、前記プラスチックレンズ基材の屈折率に合致またはほゞ合致するものから適宜選択して使用することが好ましい。
【0041】
なお、前記金属酸化物微粒子を含む水分散ゾルは、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物を調製する際に、あらかじめ溶媒置換工程などに供して有機溶媒分散ゾルにしておくことが必要となる場合が多い。そしてこの場合は、前記溶媒置換工程などにかける前に、前記金属酸化物微粒子の表面を疎水化するため、シランカップリング剤などの有機ケイ素化合物やアミン化合物などの表面処理剤でその表面を処理しておくことが一般的である。よって、本発明で使用される前記金属酸化物微粒子は、上記のように、有機ケイ素化合物やアミン化合物などの表面処理剤を用いて表面処理を施した粒子であってもよい。
【0042】
また、前記金属酸化物微粒子(表面処理を施したものを含む。)は、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中にMOx換算基準(ここで、Mは金属を意味する。また、有機ケイ素化合物で表面処理された粒子にあっては、その表面処理物質をMOx、すなわちSiO2に換算した重量を含む。)で10〜70重量%、好ましくは15〜60重量%含まれていることが好ましい。ここで、前記金属酸化物微粒子の含有量がMOx換算基準で10重量%よりも過小であると、前記有機ケイ素化合物(A)の含有量に較べて相対的に少なくなるので、該金属酸化物微粒子を含む前記ハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる塗膜(ハードコート層膜)の耐擦傷性が悪くなったり、あるいは高い屈折率を有する塗膜の形成が難しくなったりするので好ましくない。また、前記金属酸化物微粒子の含有量がMOx換算基準で70重量%よりも過大であると、該金属酸化物微粒子を含む前記ハードコート層膜形成用塗料組成物をプラスチックレンズ基材上に塗布したとき、これより得られる塗膜と前記プラスチックレンズ基材との密着性が低下したり、あるいは前記塗膜の硬化時にその塗膜表面にクラックが発生したりすることがあるので好ましくない。
【0043】
前記ポリカルボン酸系化合物としては、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸無水物であることが好ましい。具体的には、アジピン酸、イタコン酸、リンゴ酸、ベンゼンテトラカルボン酸などのポリカルボン酸や、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等のポリカルボン酸無水物などが挙げられ、この中でも、耐擦傷性に優れているなどの観点から、ベンゼンテトラカルボン酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、イタコン酸などを使用することが好ましい。
【0044】
ここで、前記ポリカルボン酸系化合物は、先にも述べたように、後述する工程(4)で3〜20μmの波長を有する遠赤外線を、表面が湾曲しているプラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜(この塗膜表面も、プラスチックレンズ基材と同様に湾曲している。)に照射したとき、該積層塗膜(特に、反射防止層膜形成用塗膜)に硬化むらが発生するのを防止する効果があるので、本発明で使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物においては必要不可欠な成分である。
【0045】
また、前記ポリカルボン酸系化合物は、該ポリカルボン酸系化合物の重量をXで表し、さらに前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる有機ケイ素化合物(A)の量をSiO2換算基準で求めた重量(以下、単に「SiO2換算重量」という場合がある。)をYで表したとき、その重量比(X/Y)が5/100〜45/100、好ましくは10/100〜40/100となるような割合で該ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれていることが好ましい。ここで、前記重量比が5/100よりも過小であると、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる塗膜を予備硬化するための時間が長くなることがあり、さらには該塗膜上に反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる積層塗膜に遠赤外線を照射して硬化させる際に、該該積層塗膜(特に、反射防止層膜形成用塗膜)に硬化むらが発生し易くなるので好ましくない。また、前記重量比が45/100よりも過大であると、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物のポットライフが低下することになるので好ましくない。
【0046】
また、前記ポリカルボン酸系化合物が、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる塗膜の硬化剤としても機能するので、必ずしも必要不可欠な成分ではないが、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中には、さらに一般式M(CH3COCHCOCH3n(ここで、Mは金属元素を意味する。nはMの価数に一致する整数である。)で示されるアセチルアセトン金属キレート化合物、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等の金属アルコキシド、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属有機カルボン酸塩、過塩素酸リチウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、イミダゾール、ジシアンジアミド等の窒素含有化合物などから選ばれた硬化触媒を含んでいることが好ましい。この中でも、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物においては、アセチルアセトン金属キレート化合物などを使用することが好ましい。
【0047】
ここで、前記硬化触媒は、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる有機ケイ素化合物の種類やその含有量、さらには前記ポリカルボン酸系化合物の種類やその含有量などによっても異なるが、該硬化触媒の重量(MOx換算重量)をVで表し、さらに前記有機ケイ素化合物(A)の含有量(SiO2換算重量)をYで表したとき、その重量比(V/Y)が1/100〜20/100、好ましくは2/100〜15/100となるような割合で前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に添加することが好ましい。
【0048】
さらに、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中には、必要に応じてレベリング剤としての界面活性剤や紫外線が降り注ぐ環境下でプラスチックレンズを使用する際に発生するブルーイングなどを回避するための紫外線吸収剤、さらには特許第3203142号に記載の多官能性エポキシ化合物などを含んでいてもよい。
【0049】
ここで、前記界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサン等のシリコーン系界面活性剤や、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物等のフッ素系界面活性剤などを挙げることができる。この中でも、本発明で使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物中には、環境への負荷低減などの観点から、シリコーン系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0050】
また、前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などを使用することができる。
さらに、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中には、上記の成分を分散させるための有機溶媒を含んでいることが望まれる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。この中でも、レベリング性や蒸発速度などの観点から、メタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどから選ばれた有機溶媒を含んでいることが好ましい。
しかし、前記有機溶媒は、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物の調製時に有機ケイ素化合物(A)と混合された有機溶媒および前記金属酸化物微粒子の有機溶媒分散ゾルの調製時に用いられた有機溶媒をそのまま使用することが望ましい。また、この有機溶媒は、相溶性があれば異なった種類であってもよいが、できるだけ同じのものを使用することが好ましい。
【0051】
さらに、前記有機溶媒は、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる固形分の含有量が15〜55重量%、好ましくは20〜50重量%となるような割合で含まれることが好ましい。なお、ここでいう固形分含有量とは、上記の各成分のうち、前記有機ケイ素化合物(A)の含有量(SiO2換算重量)、前記金属酸化物微粒子(表面処理を施した粒子を含む。)の含有量(MOx換算重量)、さらには必要に応じて添加される前記硬化触媒(ただし、金属含有触媒の場合。)の含有量(MOx換算重量)を合算した重量をハードコート層膜形成用塗料組成物の全重量で除して100倍した値を意味する。
ここで、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる固形分含有量が15重量%よりも過小であると、十分な膜厚の塗膜が得られないため、耐擦傷性能力が不十分となり、また前記固形分含有量が55重量%よりも過大であると、ポットライフの低下を招きやすいので好ましくない。
【0052】
次に、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物の調製方法について具体的に述べる。ただし、ここで述べる調製方法はその一態様を示すものであるので、本発明で使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物はこれらの調製方法から得られたものに限定されない。
【0053】
(a)前記金属酸化物微粒子が水分散ゾルの状態で存在する場合には、この水分散ゾルを限外濾過装置などに供して、該水分散ゾル中に含まれる水をメタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの有機溶媒と溶媒置換して、該金属酸化物微粒子を含む有機溶媒分散ゾルを調製しておくことが望まれる。この場合、前記金属酸化物微粒子は、該有機溶媒分散ゾル中に10〜40重量%含まれていることが好ましい。
【0054】
(b)次いで、前記金属酸化物微粒子を含む有機溶媒分散ゾルと有機ケイ素化合物(A)とを混合する。ここで使用される前記有機ケイ素化合物(A)は、先に述べたように、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物であることが好ましい。
【0055】
1a2bSi(OR34-(a+b) (I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基を含有する炭素数8以下の有機基、エポキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メタクリロキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メルカプト基を含有する炭素数1〜5の有機基またはアミノ基を含有する炭素数1〜5の有機基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基もしくはハロゲン化アルキル基またはアリール基であり、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキル基である。また、aは0または1の整数、bは0、1または2の整数である。)
なお、前記有機ケイ素化合物(A)の具体例については、上記した通りである。
【0056】
(c)ここで、前記有機ケイ素化合物(A)は、予めメタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの有機溶媒と混合し、さらにこの混合液に加水分解触媒としての酸と水とを添加して該有機ケイ素化合物(A)の加水分解を行った後に、前記金属酸化物微粒子の有機溶媒分散ゾル(以下、単に「有機溶媒分散ゾル」という場合がある。)と混合することが好ましい。ただし、前記有機ケイ素化合物(A)は、前記有機溶媒分散ゾルと混合した後に、加水分解触媒としての酸と水とを添加(前記有機溶媒分散ゾル中に水が残存している場合は、この水の添加は必ずしも必要ない。)して加水分解してもよい。
【0057】
なお、前記有機ケイ素化合物(A)の加水分解は、撹拌しながら5〜30℃の温度条件下で1〜48時間かけて行うことが好ましい。また、前記加水分解を行った後、撹拌を止めて、該混合液を−20〜0℃の温度条件下で1〜7日間かけて熟成させてもよい。
【0058】
このように、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物の前駆体は、前記有機ケイ素化合物(A)と前記有機溶媒分散ゾルとを混合して調製されるが、この混合は、前記有機ケイ素化合物(A)の量(SiO2換算重量)をYで表し、前記有機溶媒分散ゾル中に含まれる金属酸化物微粒子(表面処理を施した粒子を含む。)の量(MOx換算重量)をWで表したとき、その重量比(Y/W)が30/70〜90/10、好ましくは35/65〜80/20となるような割合で行うことが好ましい。ここで、前記重量比が30/70よりも過小であると、先にも述べたように、基材や他の塗膜との密着性が低下することがあり、また前記重量比が90/10よりも過大であると、塗膜の屈折率や塗膜表面での耐擦傷性が低下することがあるので好ましくない。
【0059】
(d)次いで、得られた混合液中に、前記ポリカルボン酸系化合物を混合して十分に撹拌する。さらに、撹拌を止めて、前記混合液を−20〜0℃の温度条件下で1〜7日間かけて熟成させてもよい。
【0060】
また、必要に応じて前記界面活性剤や前記紫外線吸収剤なども、前記ポリカルボン酸系化合物の混合時に、撹拌しながら前記混合液中に添加してもよい。この場合、前記ポリカルボン酸系化合物、前記界面活性剤、前記紫外線吸収剤などは、その物理性状によっても異なるが、そのまま前記混合液中に混合してもよく、また上記の有機溶媒中に溶解または分散させてから混合してもよい。
【0061】
これにより、本発明で使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物が調製される。
このようにして得られた前記ハードコート層膜形成用塗料組成物は、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェットコート法などから選ばれた従来公知のコーティング方法を用いて、前記プラスチックレンズ基材上に塗布することができる。
【0062】
工程(2)
[ハードコート層膜の予備硬化]
この工程では、前記工程(1)でプラスチックレンズ基材上に形成された塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化が行われる。
【0063】
ここで、前記塗膜の予備硬化とは、該塗膜が完全に硬化していない状態をいい、さらに詳しくは該塗膜が指触乾燥(指で触れて乾いていることが確認できること)となっている状態を意味する。
【0064】
また、この予備硬化を行う方法としては、特にこれに限定されるものではないが、(1)前記プラスチックレンズ基材上に形成された塗膜を熱風雰囲気下または循環熱風雰囲気下に晒したり、あるいは(2)該塗膜に遠赤外線を照射したりする方法がある。
【0065】
前記塗膜の予備硬化を行うための加熱処理は、該塗膜の表面温度が60〜110℃となるような条件下で5〜30分間かけて行うことが望まれる。ここで、前記(1)の方法に基づく加熱処理は、前記の表面温度を付与可能な熱エネルギーを有する熱風雰囲気下または循環熱風雰囲気下に前記塗膜を5〜30分間、晒すことによって行い、また前記(2)の方法に基づく加熱処理は、前記の表面温度を付与可能な熱エネルギーを有する波長域3〜20μmの遠赤外線を5〜30分間、照射することによって行うことが好ましい。また、この場合、後者の方法によれば、前記塗膜中に硬化剤として機能する上記のポリカルボン酸系化合物が含まれているため、塗膜内部からも加熱されるので、硬化むらもなく比較的短時間で前記塗膜の予備硬化を終了させることができる。さらに、場合によっては、前記(1)および(2)の方法を併用してもよいが、この工程では、前記塗膜が予備硬化された状態に保っておくことが肝要である。
【0066】
ここで、前記加熱処理温度が60℃よりも過小であると、塗膜の硬化不足が起こり、次の工程で反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布した場合、双方の塗膜成分が混ざりあって、外観不良を引き起こすことがあり、また前記加熱処理温度が110℃よりも過大であると、プラスチックレンズの熱変形が起こり易くなるので好ましくない。さらに、前記加熱処理時間が5分間よりも過小であると、塗膜の硬化不足が起こり、また前記加熱処理時間が30分間よりも過大であると、塗膜の硬化が進み過ぎて、次の工程で形成される反射防止層膜との密着性が不足することになるので好ましくない。
【0067】
また、このようにして得られる塗膜(すなわち、ハードコート層膜)の厚さは、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる固形分含有量などによっても異なるが、1.0〜5.0μm、好ましくは1.5〜3.5μmの範囲にあることが望ましい。さらに、前記塗膜(ハードコート層膜)の屈折率は、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる前記金属酸化物微粒子の種類や含有量などによっても異なるが、該塗膜が完全に硬化された場合の屈折率として1.52〜1.80、好ましくは1.55〜1.78の範囲であることが望ましい。ただし、この塗膜(ハードコート層膜)の屈折率については、使用されたプラスチックレンズ基材の屈折率と合致していないと、得られるプラスチックレンズの表面に干渉渦が現れてしまうので、前記プラスチックレンズ基材の屈折率に合致またはほゞ合致するように前記金属酸化物微粒子の種類を選択すると共に、その含有量を適宜調整する必要がある。
【0068】
工程(3)
[反射防止層膜形成用塗料組成物の塗布]
この工程では、前記工程(2)で得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ系微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物が塗布される。
【0069】
前記反射防止層膜形成用塗料組成物としては、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ系微粒子、好ましくは中空シリカ系微粒子を含むものが使用される。
ここで、前記有機ケイ素化合物(B)としては、前記有機ケイ素化合物(A)と同様なものを使用することができる。すなわち、前記有機ケイ素化合物(B)は、前記有機ケイ素化合物(A)の場合と同様に、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物であることが好ましい。
【0070】
1a2bSi(OR34-(a+b) (I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基を含有する炭素数8以下の有機基、エポキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メタクリロキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メルカプト基を含有する炭素数1〜5の有機基またはアミノ基を含有する炭素数1〜5の有機基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基もしくはハロゲン化アルキル基またはアリール基であり、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキル基である。また、aは0または1の整数、bは0、1または2の整数である。)
【0071】
なお、前記有機ケイ素化合物(B)の具体例については、前記有機ケイ素化合物(A)の具体例として記載したものなどが挙げられるが、この中でも、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシランなどを使用することが好ましい。この場合、前記有機ケイ素化合物(B)は、1種だけでなく2種以上を混合して使用してもよい。
【0072】
また、前記有機ケイ素化合物(B)は、前記反射防止層膜形成用塗料組成物中に、SiO2換算基準で0.5〜5.5重量%、好ましくは1.0〜4.5重量%含まれていることが好ましい。ここで、前記有機ケイ素化合物(B)の含有量がSiO2換算基準で0.5重量%よりも過小であると、該有機ケイ素化合物を含む前記反射防止層膜形成用塗料組成物を前記予備硬化塗膜上に塗布したとき、これより得られる塗膜と前記予備硬化塗膜との密着性(すなわち、積層塗膜間の密着性)が低下し、さらには耐擦傷性が不十分となるので好ましくない。また、前記有機ケイ素化合物(B)の含有量がSiO2換算基準で5.5重量%よりも過大であると、以下で述べる中空シリカ系微粒子の含有量が相対的に少なくなるので、該有機ケイ素化合物を含む前記反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる塗膜(すなわち、反射防止層膜)の反射防止性能が悪くなるので好ましくない。
【0073】
前記シリカ系微粒子としては、平均粒子径が5〜100nm、好ましくは40〜100nmのものであれば、特に制限なく使用することができる。しかし、シリカ系微粒子の屈折率は、無孔質シリカ系微粒子と多孔質シリカ系微粒子とではその値が異なっているが、概ね1.35〜1.46の範囲にあるため、前記ハードコート層膜形成用塗布液を塗布して得られる塗膜(ハードコート層膜)に高屈折率の金属酸化物微粒子が含まれる場合には、該塗膜上に前記シリカ系微粒子を含む反射防止層膜形成用塗布液を塗布して得られる塗膜(反射防止層膜)の反射防止性能において、所望のものが得られないことがある。
【0074】
よって、前記シリカ系微粒子としては、平均粒子径が40〜100nm、好ましくは
50〜90nmの範囲にあり、しかも内部に空洞を有する中空シリカ系微粒子を使用することが好ましい。ここで、前記平均粒子径が40nmよりも過小であると、採用される塗布法や加工法などによっては、均一な膜厚の反射防止層膜を得ることが難しくなり、また前記100nmよりも過大であると、この反射防止層膜の設計が難しくなる。
【0075】
また、本発明において、「内部に空洞を有する中空シリカ系微粒子」とは、シリカ系無機酸化物からなる外殻(シェル部)の内部に空洞を有する中空シリカ系微粒子をいい、また「空洞」とは、粒子内部に形成された球形空間や異形空間の内部に空気などのガス状物質が含まれているものをいう。
【0076】
なお、このような構成からなる中空シリカ系微粒子の屈折率は、その空隙率(粒子中で空洞が占める割合)によっても異なるが、概ね1.15〜1.35の範囲にあるので、前記金属酸化物微粒子として高屈折率のものを使用する場合は、前記中空シリカ系微粒子として低屈折率のものを使用することが好ましい。
【0077】
また、前記シリカ系無機酸化物からなる外殻(シェル部)は、ケイ素とケイ素以外の金属元素とからなるシリカ系複合酸化物、たとえば-O-Si-O-Al-O-Si-O-などの複合酸化物で構成されていてもよい。ここで、前記ケイ素以外の金属元素としては、アルミニウム、ホウ素、チタニウム、ジルコニウム、スズ、セリウム、リン、アンチモン、モリブデン、亜鉛、タングステンなどが挙げられるが、本発明においては、前記中空シリカ系微粒子を用いて低屈折率の反射防止層膜を形成することを目的としているので、該中空シリカ系微粒子の屈折率を高めたり、あるいは光触媒活性を与えたりしないものから選択することが好ましい。
【0078】
さらに、前記中空シリカ系微粒子は、加水分解基を有する有機ケイ素化合物や珪酸液などを用いて、その表面にシリカ成分からなる被覆層を設けたものであってもよい。ここで、前記有機ケイ素化合物としては、特にこれに限定されるものではないが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどのアルコキシシランが挙げられる。
【0079】
なお、このような中空シリカ系微粒子は、従来公知の製造方法、たとえば特開2001-233611号公報、特開2004-203683号公報、特開2006-21938号公報、国際公開WO2006/009132号公報などに記載された方法に基づき製造することができる。さらに、特開2009-242475号公報に記載の中空有機・無機ハイブリッド微粒子を製造し、その表面をシランカップリング剤などで表面処理(シリカ系成分の被覆)する方法から得られたものであってもよい。
【0080】
前記反射防止層膜形成用塗布液中には、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物の場合と同様に、一般式M(CH2COCH2COCH3n(ここで、Mは金属を意味する)で示されるアセチルアセトン金属キレート化合物、チタンアルコキシド、ジルコアルコキシド等の金属アルコキシド、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属有機カルボン酸塩、過塩素酸リチウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、イミダゾール、ジシアンジアミド等の窒素含有化合物などから選ばれた硬化触媒を含んでいることが好ましい。この中でも、前記反射防止膜層膜形成用塗料組成物においては、アセチルアセトン金属キレート化合物などを使用することが好ましい。
【0081】
ここで、前記硬化触媒は、前記反射防止層膜形成用塗料組成物中に含まれる有機ケイ素化合物の種類やその含有量などによっても異なるが、該硬化触媒の重量(MOx換算重量)をVで表し、さらに前記有機ケイ素化合物(A)の含有量(SiO2換算重量)をYで表したとき、その重量比(V/Y)が1/100〜20/100、好ましくは2/100〜15/100となるような割合で前記反射防止層膜形成用塗料組成物中に添加することが好ましい。
【0082】
さらに、前記反射防止膜層膜形成用塗料組成物中には、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物の調製時に使用したポリカルボン酸系化合物、すなわちポリカルボン酸やポリカルボン酸無水物などを含んでいてもよい。このポリカルボン酸系化合物は、先にも述べたように、硬化触媒として機能するばかりでなく、遠赤外線照射時に発生する前記積層塗膜(特に、反射防止層膜)の硬化むらを回避させる機能を有している。しかしながら、後者の機能、すなわち硬化むらの回避機能については、該ポリカルボン酸系化合物が前記予備硬化塗膜(ハードコート層膜塗膜)中に含まれていることによって最大限に発揮される。よって、このポリカルボン酸系化合物は、前記反射防止膜層膜形成用塗料組成物中に必ずしも含まれている必要はない。
【0083】
さらに、前記反射防止層膜形成用塗料組成物中には、必要に応じてレベリング剤としての界面活性剤や前記紫外線吸収剤などを含んでいてもよい。
ここで、前記界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサン等のシリコーン系界面活性剤や、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物等のフッ素系界面活性剤などを挙げることができる。この中でも、本発明で使用される反射防止層膜形成用塗料組成物中には、環境への負荷低減などの観点から、シリコーン系界面活性剤を使用することが好ましい。
また、前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。
【0084】
さらに、前記反射防止層膜形成用塗料組成物中には、上記の成分を分散させるための有機溶媒を含んでいることが望まれる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。この中でも、レベリング性や乾燥速度などの観点から、メタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどから選ばれた有機溶媒を含んでいることが好ましい。
【0085】
しかし、前記有機溶媒は、前記反射防止層膜形成用塗料組成物の調製時に有機ケイ素化合物(B)と混合された有機溶媒および前記中空シリカ系微粒子の有機溶媒分散ゾルの調製時に用いられた有機溶媒をそのまま使用することが望ましい。また、この有機溶媒は、相溶性があれば異なった種類であってもよいが、できるだけ同じのものを使用することが好ましい。
【0086】
さらに、前記有機溶媒は、前記反射防止層膜形成用塗料組成物中に含まれる固形分の含有量が1.0〜8.0重量%、好ましくは2.0〜6.0重量%となるような割合で含まれることが好ましい。なお、ここでいう固形分含有量とは、上記の各成分のうち、前記有機ケイ素化合物(B)の含有量(SiO2換算重量)、前記シリカ系微粒子の含有量(MOx換算重量)、さらには必要に応じて添加される前記硬化触媒(ただし、金属含有触媒の場合。)の含有量(MOx換算重量)を合算した重量を反射防止層膜形成用塗料組成物の全重量で除して100倍した値を意味する。
【0087】
ここで、前記反射防止層膜形成用塗料組成物中に含まれる固形分含有量が1.0重量%よりも過小であると、十分な膜厚の塗膜を得ることが難しくなり、また前記固形分含有量が8.0重量%よりも過大であると、所望の薄膜を形成するための制御が困難となるので好ましくない。
【0088】
次に、前記反射防止層膜形成用塗料組成物の調製方法について具体的に述べる。ただし、ここで述べる調製方法はその一態様を示すものであるので、本発明で使用される反射防止層膜形成用塗料組成物はこれらの調製方法から得られたものに限定されない。
【0089】
なお、以下では、前記シリカ系微粒子として「中空シリカ系微粒子」を使用したときの調製方法を述べる。
(a)前記中空シリカ系微粒子が水分散ゾルの状態で存在する場合には、この水分散ゾルを限外濾過装置などに供して、該水分散ゾル中に含まれる水をメタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの有機溶媒と溶媒置換して、該中空シリカ系微粒子を含む有機溶媒分散ゾルを調製しておくことが望ましい。この場合、前記中空シリカ系微粒子は、該有機溶媒分散ゾル中に5〜30重量%含まれていることが好ましい。
【0090】
(b)次いで、前記有機ケイ素化合物(B)と有機溶媒とを混合して十分に撹拌する。ここで使用される有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられるが、この中でも、有機ケイ素化合物(B)との相溶性がよいなどの観点から、メタノール、エタノール、プロパノールなどを使用することが好ましい。
【0091】
また、前記有機ケイ素化合物(B)としては、先にも述べたように、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物であることが好ましい。
1a2bSi(OR34-(a+b) (I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基を含有する炭素数8以下の有機基、エポキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メタクリロキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メルカプト基を含有する炭素数1〜5の有機基またはアミノ基を含有する炭素数1〜5の有機基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基もしくはハロゲン化アルキル基またはアリ−ル基であり、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキル基である。また、aは0または1の整数、bは0、1または2の整数である。)
【0092】
この場合、前記有機ケイ素化合物(B)と前記有機溶媒との混合は、前記有機ケイ素化合物(B)が該混合液中にSiO2換算基準で30〜95重量%、好ましくは50〜80重量%含まれるように行うことが好ましい。
【0093】
なお、前記有機ケイ素化合物(B)の具体例については、上記したとおりである。
(c)次いで、前記混合液中に加水分解触媒としての酸と水とを添加して、該混合液中に含まれる有機ケイ素化合物(B)を加水分解させる。ただし、前記有機ケイ素化合物(B)が既に加水分解されている場合には、必ずしもこの操作を行う必要はない。
【0094】
ここで、前記有機ケイ素化合物(B)の加水分解は、前記混合液を撹拌しながら5〜30℃の温度条件下で1〜48時間かけて行うことが好ましい。また、前記加水分解を行った後、撹拌を止めて、該混合液を−20〜0℃の温度条件下で1〜7日間かけて熟成させてもよい。
【0095】
(d)次に、上記で得られた混合液中に、前記中空シリカ系微粒子の有機溶媒分散ゾルを混合して十分に撹拌する。さらに、その後、撹拌を止めて、該混合液を−20〜0℃の温度条件下で1〜7日間かけて熟成させてもよい。
【0096】
この場合、前記有機溶媒分散ゾルの混合は、該有機溶媒分散ゾル中に含まれる中空シリカ系微粒子の量(MOx換算重量)をKで表し、さらに前記混合液中に含まれる有機ケイ素化合物(B)の量(SiO2換算重量)をYで表したとき、その重量比(K/Y)が10/90〜70/30、好ましくは20/80〜60/40となるような割合で行うことが好ましい。ここで、前記重量比が10/90よりも過小であると、塗膜の屈折率が下がらないため、十分な反射防止機能が得られず、また前記重量比が70/30よりも過大であると、耐擦傷性が低下するので好ましくない。
【0097】
これにより、本発明で使用される反射防止層膜形成用塗料組成物が調製される。
このようにして得られた前記反射防止層膜形成用塗料組成物は、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェットコート法などから選ばれた従来公知のコーティング方法を用いて、前記予備硬化塗膜上に塗布することができる。
【0098】
工程(4)
[遠赤外線による積層塗膜の硬化]
この工程では、前記工程(3)で得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜の硬化が行われる。
【0099】
ここで行われる積層塗膜の硬化は、前記工程(2)で予備硬化された塗膜(ハードコート層膜)の本硬化と前記工程(3)で塗布された塗膜(反射防止層膜)の本硬化とを効率よく同時に行うものである。
【0100】
前記遠赤外線の照射は、前記積層塗膜を設けてなるプラスチックレンズ基材をレンズホルダーで挟んで水平に配置し、その真上と真下に設置した遠赤外線ヒーターから前記プラスチックレンズ基材上の積層塗膜面に対して直角に行うことが好ましい。ここで、前記遠赤外線ヒーターは、これより放射される遠赤外線の波長域を調整でき、しかも上下方向への移動が可能な構造となっていることが好ましい。
【0101】
また、前記遠赤外線ヒーターと前記プラスチックレンズ基材上の積層塗膜面との間の距離は5〜40cm、好ましくは10〜20cmの範囲にあることが望ましい。ただし、この距離の調整は、該遠赤外線ヒーターから放射されるエネルギー量や前記積層塗膜の表面温度などを考慮して適宜選択しながら行うことが好ましい。
【0102】
前記遠赤外線ヒーターとしては、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を放射できる市販の遠赤外線セラミックヒーターを使用することができる。なお、本発明で使用される、坂口電熱(株)製の遠赤外線セラミックヒーター(S−I型、)においては、そのカタログ上に、放射加熱される温度とピーク波長との関係は概ね200℃に対して6.15μmであり、また500℃に対して3.75μmであると記載されている。
【0103】
また、この積層塗膜の硬化には、先にも述べたように、3〜20μm、好ましくは3.5〜15μmの波長を有する遠赤外線が使用される。ここで、前記遠赤外線の波長が3μmよりも過小であると、前記積層塗膜中に吸収される振動エネルギー量が少なくなり、また前記遠赤外線の波長が20μmよりも過大であると、該赤外線から放射される振動エネルギー量が少なくなるため、共に前記積層塗膜の硬化が不十分となるので好ましくない。さらに、前記遠赤外線の照射時間は、5〜30分間、好ましくは7〜20分間の範囲から適宜選択することが望まれる。ここで、前記照射時間が5分間よりも過小であると、前記積層塗膜の硬化が不十分となることがあり、また前記照射時間が30分間よりも過大であると、本発明における当初の目的、すなわち前記積層塗膜の硬化をできるだけ短時間で効率よく完了させるという目的を達成できなくなるので好ましくない。
【0104】
なお、赤外線に関しては、その波長域によって、0.75〜2.5μmを近赤外線、2.5〜4μmを中赤外線、4〜25μmを遠赤外線、25〜1000μmを超遠赤外線と称することもあるが、本発明においては、3〜20μmの波長域を「遠赤外線」と呼ぶこととする。
【0105】
このようにして遠赤外線を照射した前記積層塗膜の表面温度は、70〜130℃、好ましくは80〜120℃の範囲にあることが望ましい。ここで、前記表面温度が70℃よりも過小であると、前記積層塗膜の硬化に長い時間を要するばかりでなく、該塗膜の硬化が不十分になることがあるので好ましくない。また、前記表面温度が130℃よりも過大であると、前記プラスチックレンズ基材が変形したりして該基材にダメージを与えることがあるので好ましくない。
【0106】
前記積層塗膜に対して前記遠赤外線を上記の条件下で照射すると、前記積層塗膜(すなわち、ハードコート層膜塗膜および反射防止層膜塗膜)を、硬化むらなく短時間で完全に硬化させることができる。このような効果を奏することができるのは、上記したように、前記予備硬化塗膜中に少なくともポリカルボン酸やポリカルボン酸無水物などのポリカルボン酸系化合物が含まれているからと考えられる。
【0107】
さらに、このようにして得られる積層塗膜は、塗膜間の密着性に優れているばかりでなく、耐熱性や耐衝撃性などにおいて優れた特性を有している。
また、場合によっては、前記積層塗膜に遠赤外線を照射する前に、前記反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布して得られた塗膜の予備硬化を行ってもよい。この予備硬化は、前記ハードコート層膜の場合と同様に前記塗膜を熱風雰囲気下または循環熱風雰囲気下に晒して、60〜110℃の温度条件下で3分〜30分間、加熱処理することによって行うことができる。ただし、本発明においては、このような予備硬化を必ずしも行う必要はない。
【0108】
しかし、前記塗膜の表面に、さらに撥水コート層膜を形成する場合には、該塗膜の予備硬化を行い、その結果得られた予備硬化塗膜の表面に撥水コート層膜形成用塗料組成物を塗布することが好ましい。なお、この撥水コート層膜の形成方法その他については、以下で詳述する。
【0109】
このようにして得られる積層塗膜を構成する上層塗膜(すなわち、反射防止層膜)の厚さは、要求される干渉色によっても異なるが、0.07〜0.13μm、好ましくは0.08〜0.12μmの範囲にあることが望ましい。さらに、前記塗膜(反射防止層膜)の屈折率は、前記反射防止層膜形成用塗料組成物中に含まれる前記シリカ系微粒子の屈折率やその含有量などによっても異なるが、1.30〜1.48、好ましくは1.33〜1.40の範囲であることが望ましい。ただし、この塗膜(反射防止層膜)の屈折率については、前記積層塗膜を構成するハードコート層膜の屈折率と0.1以上の屈折率差があれば、反射防止効果が期待できるので、前記ハードコート層膜の屈折率より0.1以上、好ましくは0.15〜0.2程度低い塗膜屈折率となるように前記シリカ系微粒子の種類(たとえば、中空シリカ系微粒子)を選択すると共に、その含有量を適宜調整する必要がある。なお、この塗膜(反射防止層膜)の場合は、比較的薄いものであるので、その屈折率が前記プラスチックレンズ基材の屈折率と異なっていても、上記の干渉渦が現れることはない。
【0110】
これにより、本発明に基づく特性を備えたプラスチックレンズが製造される。
次に、必要に応じて本発明で採用される撥水コート層膜の形成工程並びにプライマー層膜の形成工程について説明する。しかしながら、これらの撥水コート層膜やプライマー層膜の形成については、本発明において必ずしも必要とされるものではない。
【0111】
[撥水コート層膜の形成]
この工程では、前記反射防止層膜の表面に、さらに撥水コート層膜が形成される。
この工程についてさらに具体的に述べれば、前記工程(3)で得られた塗膜を、60〜110℃の温度条件下で3分〜30分間、加熱処理して予備硬化させたのち、その塗膜表面に、さらにフッ素系化合物またはその加水分解物を含む撥水コート層膜形成用塗料組成物を塗布して前記撥水コート層膜を形成することが好ましい。ここで、前記塗膜(反射防止層膜)の予備硬化とは、該塗膜が完全に硬化していない状態をいい、さらに詳しくは該塗膜が指触乾燥(指で触れて乾いていることが確認できること)となっている状態を意味する。(なお、以下で述べる第二のプラスチックレンズにおいて、前記の予備硬化操作を「工程(3a)」といい、さらに前記の塗布操作を「工程(3b)」という場合がある。)
また、前記フッ素系化合物としては、特に制限されるものではないが、加水分解基を有するフロロシラン化合物を使用することが好ましい。さらに具体的には、化学式CF3(CF2n(CH22Si(OC253(n=2〜16)、(CH3O)3Si-(CH22(CF2)n(CH22Si(OCH3)(n=4〜8)などで表されるフッ素系化合物やその加水分解物などが挙げられる。この中でも、防汚性、撥水性などの観点から、前記n=6以上のフッ素化合物を使用することが好ましい。
【0112】
前記撥水コート層膜形成用塗料組成物中には、前記フッ素系化合物(その加水分解物を含む)を分散させるための含フッ素有機溶媒を含んでいることが好ましい。具体的には、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ-1,3−ジメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。この中でも、濡れ性などの観点から、パーフルオロへキサンなどを使用することが好ましい。
【0113】
さらに、前記含フッ素有機溶媒と混合可能な有機溶剤も併用することが可能である。
また、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物中には、前記フッ素系化合物またはその加水分解物を0.1〜3重量%の範囲で含んでいることが好ましい。
【0114】
次に、前記撥水コート層膜の形成方法について述べれば、以下の通りである。
先にも述べたように、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物は、60〜110℃の温度条件下で3分〜30分間、加熱処理して予備硬化された塗膜(反射防止層膜)の表面に、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェットコート法などから選ばれた従来公知のコーティング方法を用いて塗布される。この場合、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物を予備硬化されていない塗膜(反射防止層膜)の表面にディッピング法を用いて塗布しようとすると、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物を入れたポット中に、前記基材上の塗布された前記反射防止層膜形成用塗料組成物が溶け落ちたりするので好ましくない。さらに、スピンコート法などを用いて塗布しようとすると、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物と前記反射防止層膜形成用塗料組成物とが混ざり合ったりするので好ましくない。
【0115】
ここで、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物は、前記塗膜(反射防止層膜)の表面に存在する水酸基(・OH)の量や該塗料組成物中に含まれるフッ素系化合物の種類や量などによっても付着量が異なるため、実験により塗布量を決定することが好ましいが、例えば、ディップコート法で行う場合、0.1〜3重量%濃度組成物に対して100〜400mm/分の引き上げ速度で塗布することが好ましい。
【0116】
このようにして、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られた塗膜は、前記工程(4)に示す条件下で該塗膜に遠赤外線を照射することによって硬化させることができる。この場合、遠赤外線を照射する前に、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られた塗膜の予備硬化を行ってもよい。ここで、前記塗膜(撥水コート層膜)の予備硬化とは、該塗膜が完全に硬化していない状態をいい、さらに詳しくは該塗膜が
指触乾燥(指で触れて乾いていることが確認できること)となっている状態を意味する。なお、この塗膜の予備硬化は、前記反射防止層膜の場合と同様に前記塗膜を熱風雰囲気下または循環熱風雰囲気下に晒して、40〜60℃の温度条件下で1分〜5分間、加熱処理することによって行うことができる。ただし、本発明においては、このような予備硬化を必ずしも行う必要はない。
【0117】
このようにして得られる塗膜(撥水コート層膜)の厚さは、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物中に含まれる固形分含有量などによっても異なるが、1〜10nmの範囲にあることが好ましい。
【0118】
これにより、撥水性に優れた塗膜を有するプラスチックレンズが得られる。さらに、この塗膜を施すことにより、防汚性や耐擦傷性などに優れたプラスチックレンズを得ることができる。
【0119】
[プライマー層膜の形成]
この工程では、前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層膜との間に、さらにプライマー層膜が形成される。この工程についてさらに具体的に述べれば、前記プライマー層の形成は、有機樹脂化合物と金属酸化物微粒子とを含むプライマー層膜形成用塗料組成物を前記プラスチックレンズ基材上に塗布して硬化させることによって行われる。
【0120】
また、前記プライマー層膜形成用塗料組成物を調製するために用いられる有機樹脂化合物としては、熱硬化性有機樹脂と熱可塑性有機樹脂とがあり、さらに具体的に述べれば、以下の通りである。
【0121】
前記熱硬化性有機樹脂としては、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
ここで、前記ウレタン系樹脂としては、たとえばヘキサメチレンジイソシアネート等のブロック型ポリイシシアネートとポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等の活性水素含有化合物との反応物などが挙げられ、また前記エポキシ樹脂としては、たとえばポリアルキレンエーテル変性エポキシ樹脂や分子鎖に柔軟性骨格(ソフトセグメント)を導入したエポキシ基含有化合物などが挙げられ、さらに前記メラミン系樹脂としては、たとえばエーテル化メチロールメラミンとポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールとの硬化物などが挙げられる。これらの中でも、ブロック型イシシアネートとポリオールとの硬化物であるウレタン系樹脂を使用することが好ましい。また、これらの熱硬化性有機樹脂は、1種類だけでなく2種類以上を使用してもよい。
【0122】
また、前記熱可塑性有機樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
ここで、前記アクリル系樹脂としては、たとえば(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーから得られる水系エマルジョンや前記モノマーとスチレン、アクリロニトリル等とを共重合させたポリマーエマルジョンなどが挙げられ、また前記ウレタン系樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのポリオール化合物とポリイシシアネートとを反応させてなる水系エマルジョンなどが挙げられ、さらに前記エステル系樹脂としては、たとえばハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテルまたはポリエステルを用いたマルチブロック共重合体の水分散型エラストマーなどが挙げられる。これらの中でも、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールとポリイシシアネートから得られる水分散型ウレタン系樹脂を使用することが好ましい。また、これらの熱可塑性有機樹脂は、1種類だけでなく2種類以上を使用してもよい。
【0123】
また、前記プライマー層膜形成用塗料組成物を調製するために用いられる金属酸化物微粒子としては、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物の調製のところで述べたようなものがある。
【0124】
さらに詳しく述べれば、チタニウム、鉄、亜鉛、タングステン、錫、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、ニオブ、インジウム、セリウム、ケイ素、アルミニウム、イットリウム、鉛およびモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物微粒子や複合酸化物微粒子、さらには該微粒子の表面をケイ素、ジルコニウム、アンチモン、錫およびアルミニウムから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物や複合酸化物で被覆したコア・シェル型の金属酸化物微粒子などが挙げられる。また、これらの金属酸化物微粒子は、1種だけでなく2種以上を混合して使用してもよい。
【0125】
さらに、前記金属酸化物微粒子としては、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物の調製用のものと同様に、屈折率が1.52〜2.70、好ましくは1.60〜2.60の範囲にあり、さらに平均粒子径が7〜60nm、好ましくは8〜30nmの範囲にあるものを使用することが望ましい。
【0126】
また、前記金属酸化物微粒子が水分散ゾルの状態で存在する場合には、前記プライマー層膜形成用塗料組成物を調製する際に、あらかじめ溶媒置換工程などに供して有機溶媒分散ゾルにしておくことが必要となる場合が多い。そしてこの場合は、前記溶媒置換工程などにかける前に、前記金属酸化物微粒子の表面を疎水化するため、シランカップリング剤などの有機ケイ素化合物やアミン化合物などの表面処理剤でその表面を処理しておくことが望まれる。よって、ここで使用される前記金属酸化物微粒子は、あらかじめ有機ケイ素化合物やアミン化合物などの表面処理剤を用いて表面処理を施した粒子であってもよい。
【0127】
さらに、前記プライマー層膜形成用塗料組成物中には、上記の成分、すなわち前記有機樹脂化合物および前記金属酸化物微粒子を分散させるための溶媒を含んでいることが望まれる。このような溶媒の具体例としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。この中でも、熱硬化性樹脂を用いる場合には、熱硬化性樹脂との相解性などの観点から、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましく、熱可塑性エマルジョン樹脂を用いる場合には、熱可塑性エマルジョン樹脂の分散性などの観点から、水やメタノールなどを使用することが好ましい。また、この溶媒は、お互いに相溶性があれば、1種だけでなく2種以上(たとえば、水およびメタノール)を含んでいてもよい。
【0128】
ここで、前記溶媒は、前記有機樹脂化合物および前記金属酸化物微粒子の種類やその含有量、さらには所望する塗膜(プライマー層膜)の厚さなどによっても異なるが、前記プライマー層膜形成用塗料組成物中に60〜95重量%となるような割合で含んでいることが好ましい。
【0129】
前記有機樹脂化合物と前記金属酸化物微粒子(表面処理を施したものを含む。)との混合割合は、前記有機樹脂化合物および前記金属酸化物微粒子の種類、さらには所望する塗膜(プライマー層膜)の屈折率などによっても異なるが、前記有機樹脂化合物をMで表し、さらに前記前記金属酸化物微粒子をNで表したとき、その重量比(M/N)が30/70〜90/10、好ましくは40/60〜80/20の範囲にあることが望ましい。ここで、前記重量比が30/70よりも過小であると、これらの成分を含むプライマー層膜形成用塗料組成物をプラスチックレンズ基材上に塗布したとき、これより得られる塗膜と前記プラスチックレンズ基材、さらにはこの塗膜上に積層されるハードコート層膜との密着性が悪くなる傾向にあるので好ましくない。また、前記重量比が90/10よりも過大であると、これらの成分を含むプライマー層膜形成用塗料組成物をプラスチックレンズ基材上に塗布したとき、これより得られる塗膜(プライマー層膜)の屈折率が所望値より低くなることがあるので好ましくない。
【0130】
また、前記プライマー層膜形成用塗料組成物中には、プラスチックレンズ基材に塗布する際にその濡れ性を改善するため、ポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサン等のシリコーン系界面活性剤やパーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物等のフッ素系界面活性剤などが含まれていてもよい。
【0131】
さらに、前記プライマー層膜形成用塗料組成物中には、必要に応じてベンゾフェノン系紫外線吸収剤やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、さらにはヒンダーアミン系光安定剤などが含まれていてもよい。
【0132】
次に、前記プライマー層膜形成用塗料組成物の調製方法について具体的に述べる。ただし、ここで述べる調製方法はその一態様を示すものであるので、本発明で使用されるプライマー層膜形成用塗料組成物はこれらの調製方法から得られたものに限定されない。
【0133】
(a)前記金属酸化物微粒子が水分散ゾルの状態で存在する場合には、この水分散ゾルを限外濾過装置などに供して、該水分散ゾル中に含まれる水をメタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどの有機溶媒と溶媒置換して、該金属酸化物微粒子を含む有機溶媒分散ゾルを調製しておくことが望まれる。この場合、前記金属酸化物微粒子は、該有機溶媒分散ゾル中に10〜40重量%含まれていることが好ましい。
【0134】
(b)次いで、前記金属酸化物微粒子を含む有機溶媒分散ゾルと前記有機樹脂化合物、すなわち前記熱硬化性有機樹脂または前記熱可塑性有機樹脂とを混合して十分に撹拌する。
【0135】
なお、前記有機樹脂化合物の具体例については、上記したとおりである。
前記有機樹脂化合物は、たとえば水分散型ウレタン系エラストマーなどである場合には、水分散液の状態で前記有機溶媒分散ゾルと混合することができる。しかし、水分散型でない有機樹脂化合物である場合には、あらかじめ有機溶媒に溶解させてから前記有機溶媒分散ゾルと混合することが好ましい。
【0136】
ここで、前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類などが挙げられるが、この中でも、蒸発速度や溶解性などの観点から、メタノール、プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを使用することが好ましい。
【0137】
この場合、前記有機樹脂化合物は、前記分散液中に3〜20重量%含まれていることが好ましい。
さらに、前記プライマー層膜形成用塗料組成物中には、必要に応じて前記界面活性剤や前記紫外線吸収剤などを添加してもよい。この場合、前記界面活性剤や前記紫外線吸収剤などは、その物理性状によっても異なるが、そのまま前記混合液中に混合してもよく、また上記の有機溶媒中に溶解または分散させてから混合してもよい。
【0138】
これにより、本発明で使用されるプライマー層膜形成用塗料組成物が調製される。
次に、前記プライマー層膜の形成方法について述べれば、以下の通りである。
上記で得られたプライマー層膜形成用塗料組成物は、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェットコート法などから選ばれた従来公知のコーティング方法を用いて、前記プラスチッレンズ基材上に塗布される。
【0139】
次いで、前記プラスチックレンズ基材上に形成された塗膜(プライマー層膜)を、60〜110℃の温度条件下で3〜30分間、加熱処理して硬化させる必要があるが、この場合においても、該塗膜を予備硬化の状態に止めておくことが好ましい。ここで、前記塗膜の予備硬化とは、該塗膜が完全に硬化していない状態をいい、さらに詳しくは該塗膜が指触乾燥(指で触れて乾いていることが確認できること)となっている状態を意味する。
【0140】
また、前記塗膜の予備硬化を行う方法としては、前記ハードコート層膜塗膜の予備硬化の場合と同様に、(1)前記プラスチックレンズ基材上に形成された塗膜を熱風雰囲気下または循環熱風雰囲気下に晒したり、あるいは(2)該塗膜に遠赤外線を照射したりする方法がある。
【0141】
このようにして得られる塗膜(プライマー層膜)の厚さは、前記プライマー層膜形成用塗料組成物中に含まれる固形分含有量などによっても異なるが、0.3〜3.0μm、好ましくは0.5〜2.0μmの範囲にあることが望ましい。さらに、前記塗膜(プライマー層膜)の屈折率は、前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる前記金属酸化物微粒子の種類や含有量などによっても異なるが、該塗膜が完全に硬化された場合の屈折率として1.52〜1.80、好ましくは1.55〜1.78の範囲であることが望ましい。
これにより、より優れた耐衝撃性を有するプラスチックレンズを得ることができる。
【0142】
[プラスチックレンズ]
次に、本発明に係るプラスチックレンズについて説明する。ただし、上記の製造方法から得られるプラスチックレンズであれば、ここに記載されるものに限定されない。
【0143】
本発明に係る第一のプラスチックレンズは、(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布し、(2)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3)得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布し、さらに(4)得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間照射して、該積層塗膜を硬化させることによって、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜および反射防止層膜を形成してなるものである。
【0144】
また、本発明に係る第二のプラスチックレンズは、(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布し、(2)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3)得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布し、(3a)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で3〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3b)フッ素系化合物またはその加水分解物を含む撥水コート処理用塗料組成物を塗布し、さらに(4)得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させることによって、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜を形成してなるものである。
【0145】
前記プラスチックレンズ基材は、先にも述べたように、その屈折率が1.49〜1.80、好ましくは1.60〜1.74の範囲にある市販品または試験供給品から適宜選択して使用することができる。このようなものとしては、ポリスチレン系樹脂、脂肪族アリル系樹脂、芳香族アリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリチオウレタン系樹脂、ポリチオエポキシ系樹脂などを用いて加工・製造された各種のプラスチックレンズ基材がある。
【0146】
前記ハードコート層膜形成用塗料組成物は、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物を含むものであり、その詳細については、上記したとおりである。さらに、このようなハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる塗膜を予備硬化させる方法の詳細についても上記したとおりである。
【0147】
また、このようにして得られる予備硬化塗膜(すなわち、ハードコート層膜)は、その膜厚が1.0〜5.0μm、好ましくは1.5〜3.5μmの範囲にあることが望ましく、またその屈折率(塗膜が完全に硬化されたものとして)が前記プラスチックレンズ基材の屈折率に合致またはほゞ合致しているものであることが好ましい。
【0148】
前記反射防止層膜形成用塗料組成物は、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ微粒子とを含むものであり、その詳細については、上記したとおりである。さらに、このような反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる積層塗膜を硬化させる方法の詳細についても上記したとおりである。
【0149】
また、このようにして得られる積層塗膜を構成する上層塗膜(すなわち、反射防止層膜)は、その膜厚が0.07〜0.13μm、好ましくは0.08〜0.12μmの範囲にあることが望ましく、またその屈折率が前記ハードコート層膜の屈折率より0.1以上低いものであることが好ましい。
【0150】
また、上記した第二のプラスチックレンズにおいて、前記撥水コート層膜形成用塗料組成物は、フッ素系化合物やその加水分解物などを含むものであり、その詳細については、上記したとおりである。さらに、このような撥水コート層膜形成用塗料組成物を塗布して得られる塗膜を硬化させる方法の詳細についても上記したとおりである。
【0151】
また、このようにして得られる積層塗膜を構成する最上層塗膜(すなわち、撥水コート層膜)は、その膜厚が1〜10nmの範囲にあることが望ましい。
このようにして得られる本発明に係るプラスチックレンズは、その表面に硬化むらのない積層塗膜を備えており、しかもその積層塗膜は耐熱性、耐衝撃性、密着性、耐擦傷性、耐摩耗性、耐候性、耐褪色性などにおいて優れた性能を有している。
【0152】
また、撥水コート処理を施した第二のプラスチックレンズにおいては、上記した特性の他に、撥水性や防汚性などの面において優れた特性を有している。
また、前記プラスチックレンズは、前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層膜との間に、さらにプライマー層膜を設けてなるものであることが好ましい。ここで、前記プライマー層膜は、前記有機樹脂化合物(すなわち、前記熱硬化性有機樹脂および前記熱可塑性有機樹脂から選ばれた少なくとも1種の有機樹脂化合物)と前記金属酸化物微粒子とを含む塗膜を硬化させて得られる硬化膜であって、その膜厚は、0.3〜3.0μm、好ましくは0.5〜2.0μmの範囲にあることが望ましい。
【0153】
なお、このようなプライマー層膜を設けてなるプラスチックレンズは、上記のものに較べてより一層、耐衝撃性に優れた性能を有している。
【0154】
[測定方法]
次に、本発明の実施例その他で使用された測定方法および評価試験法を具体的に述べれば、以下の通りである。
【0155】
(1)粒子の平均粒子径
ナノサイズの粒子径を有する前記金属酸化物微粒子の水分散ゾル(固形分含有量20重量%)0.15gに純水19.85gを混合して調製した固形分含有量0.15%の試料を、長さ1cm、幅1cm、高さ5cmの石英セルに入れて、動的光散乱法による超微粒子粒度分析装置(大塚電子(株)製、型式ELS−Z2)を用いて、粒子群の粒子径分布を測定する。なお、本発明でいう平均粒子径は、この測定結果をキュムラント解析して算出された値を示す。ただし、前記超微粒子粒度分析装置を用いた動的光散乱法で測定された前記微粒子の粒子径分布より得られる粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡で撮った前記微粒子のTEM写真より得られる粒子の平均粒子径の約3倍の値を示すことが分かった。よって、本発明で規定される前記微粒子の平均粒子径は、他の測定方法より得られる平均粒子径とは異なるものである。
【0156】
(2)粒子の屈折率
前記金属酸化物微粒子を含む水分散ゾルまたは有機溶媒分散ゾルをエバポレーターに供して分散媒を蒸発させたのち、120℃の温度で乾燥させて乾燥粉末とする。次いで、屈折率が既知の標準液試薬を2〜3滴、ガラス基板上に滴下し、これに前記金属酸化物微粒子の乾燥粉末を混合して混合液を調製する。この操作を、様々な屈折率を有する標準液試薬(MORITEX社製カーギル標準屈折率液)を用いて行い、前記混合液が透明になったときの標準液試薬の屈折率を前記粒子の屈折率とする。
因みに、この測定方法は、1.0〜2.31の屈折率をもつ粒子群の屈折率を測定するために適している。
【0157】
(3)塗膜の外観(干渉縞の度合いを観測する試験)
内壁が黒色である箱の中に蛍光灯「商品名:メロウ5N」(東芝ライテック(株)製、三波長型昼白色蛍光灯)を取り付け、蛍光灯の光を試料基板上に形成された積層塗膜の表面で反射させ、光の干渉による虹模様(干渉縞)の発生を目視にて確認し、以下の基準で評価する。
S:干渉縞が殆ど無い。
A:干渉縞が目立たない。
B:干渉縞が認められるが、許容範囲にある。
C:干渉縞が目立つ。
D:ぎらつきのある干渉縞がある。
【0158】
(4)塗膜の耐擦傷性試験
試料基板上に形成された積層塗膜の表面をボンスタースチールウール♯0000(日本スチールウール(株)製)で手擦りし、傷の入り具合を目視にて判定し、以下の基準で評価する。
A:殆ど傷が入らない。
B:若干の傷が入る。
C:かなりの傷が入る。
D:擦った面積のほぼ全面に傷が入る。
【0159】
(5)塗膜の反射試験(反射防止性の判定)
オリンパス光学株式会社製USPM−RUを用い、可視光域の反射率を測定し、最も反射率の低い値(ボトム反射率)を反射率として用いた。
【0160】
(6)塗膜の密着性試験
試料基板上に形成された積層塗膜の表面に、ナイフにより1mm間隔で切れ目を入れ、1平方mmのマス目を100個形成し、セロハン製粘着テープを強く押し付けた後、プラスチックレンズ基板の面内方向に対して90度方向へ急激に引っ張り、この操作を合計5回行い、剥離しないマス目の数を数え、以下の基準で評価する。
良好:剥離していないマス目の数が95個以上。
不良:剥離していないマス目の数が95個未満。
【0161】
(7)塗膜の染色試験(塗膜が均一に硬化しているかどうかを判定する試験)
耐熱ビーカーに、温度約90℃のお湯1リットルを入れ、これに分散染料(ダイスタージャパン株式会社製、Daianix Blue AC−E)3gおよび分散剤(センカ(株)製、セモールWS100)1gを加えて、よく攪拌する。次いで、この混合液の温度を約92℃に保ちながら、試料基板(プラスチックレンズ)を20分間浸漬させる。次に、前記試料基板を取り出して水洗した後、塗膜の染まり具合を目視にて判定し、以下の基準で評価する。
○:むらなく染まっている、またはまったく染まっていない。
(すなわち、塗膜が均一に硬化している状態を示す。)
△:染まりに、若干むらがある。
×:染まりに、むらがある。
【0162】
(8)塗膜の撥水試験
協和界面科学社製DM301を用い、静的接触角を測定し、撥水性評価とした。
良好:接触角100°以上
不良:接触角100°未満
【0163】
(9)塗膜の耐衝撃性試験
重さ17gの鋼球を127cmの高さから前記の実施例基板および比較例基板の中心部に落下させ、以下の基準で評価した。
良好:割れない
不良:割れる。
【0164】
(10)ポットライフ
本発明で使用される各種塗料組成物(すなわち、ハードコート層膜形成用塗料、反射防止層膜形成用塗料、トップコート層膜形成用塗料、プライマー層膜形成用塗料などの組成物)をそれぞれビーカーに入れて10℃の温度雰囲気下で攪拌しながら4週間、保管した。さらに、これらの塗料組成物をプラスチックレンズ基板上に塗布して、本発明の各実施例並びに各比較例に示す条件と同様な条件下で、プライマー層膜(ただし、必要に応じて形成される。)、さらにハードコート層膜、反射防止層膜、トップコート層膜の順に積層塗膜を形成した。
【0165】
次いで、前記(4)に示す「塗膜の耐擦傷性試験」の場合と同様な条件下で、得られた各積層塗膜の耐擦傷性試験を行った。すなわち、前記積層塗膜の表面をボンスタースチールウール♯0000(日本スチールウール(株)製)で手擦りして、前記の傷の入り具合を目視にて判定し、前記耐擦傷性試験を行ったときに得られた結果と比較した。その結果、前記(4)による耐擦傷性試験結果より悪い結果が得られている場合には、ポットライフに問題がある(或いは短くなっている)ことを意味している。
【0166】
[実施例]
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例に記載された範囲に限定されるものではない。
【0167】
(1)ハードコート層膜形成用塗料組成物の調製
[調製例1]
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モンメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)100gにメタノール(中国精油(株)製)50gを加えて、攪拌しながら0.01N塩酸25gを滴下した。さらに、室温にて一昼夜攪拌して前記γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解を行った。
【0168】
次いで、この混合液に、コア・シェル型の金属酸化物微粒子を含むメタノール分散液「オプトレイク1130Z(S−7・A8)」(日揮触媒化成(株)製)350g、ポリカルボン酸化合物としての無水トリメリト酸(キシダ化学(株)製)10g、硬化触媒としてのアセチルアセトンアルミニウム(キシダ化学(株)製)2g、有機溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル日本(株)製)100g、およびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)0.5gを加えて、室温にて一昼夜攪拌した。これにより、実施例用に使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物(以下、「ハードコート塗料H1」という)を調製した。
【0169】
なお、前記金属酸化物微粒子含有分散液「オプトレイク1130Z(S−7・A8)」は、チタニウムとジルコニウムとを含む複合酸化物微粒子(酸化物換算重量基準で、TiO2/ZrO2=51.19)を核粒子として、その表面にケイ素とジルコニウムとの複合酸化物で被覆(酸化物換算重量基準で、被覆物/核粒子=4.88)してなるコア・シェル型の金属酸化物微粒子からなり、さらに該粒子の表面をテトラエトキシシランで表面処理した平均粒子径9μmの金属酸化物微粒子をメタノール中に30重量%の濃度で分散させたものである。
【0170】
[調製例2]
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モンメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)90g、テトラエトキシシラン(キシダ化学(株)製)20gにメタノール(中国精油(株))50gを加えて、攪拌しながら0.01N塩酸40gを滴下した。さらに、室温にて一昼夜攪拌して前記γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび前記テトラエトキシシランの加水分解を行った。
【0171】
次いで、この混合液に、コア・シェル型の金属酸化物微粒子を含むメタノール分散液「オプトレイク1130Z(S−7・A8)」(日揮触媒化成(株)製)190g、ポリカルボン酸化合物としての1,2,4,5ベンゼンテトラカルボン酸(キシダ化学(株)製)15g、硬化触媒としてのジシアンジアミド(キシダ化学(株)製)2g、有機溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル日本(株)製)100g、およびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)0.5gを加えて、室温にて一昼夜攪拌した。これにより、実施例用に使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物(以下、「ハードコート塗料H2」という)を調製した。
なお、前記金属酸化物微粒子含有分散液「オプトレイク1130Z(S−7・A8)」の詳細については、上記したとおりである。
【0172】
[調製例3]
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モンメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)100gにメタノール(中国精油(株))50gを加えて、攪拌しながら0.01N塩酸25gを滴下した。さらに、室温にて一昼夜攪拌して前記γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解を行った。
【0173】
次いで、この混合液に、コア・シェル型の金属酸化物微粒子を含むメタノール分散液「オプトレイク1130Z(S−7・A8)」(日揮触媒化成(株)製)350g、硬化触媒としてのアセチルアセトンアルミニウム(キシダ化学(株)製)2g、有機溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル日本(株)製)100g、およびレベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)0.5gを加えて、室温にて一昼夜攪拌した。これにより、比較例用に使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物(以下、「ハードコート塗料C1」という)を調製した。(すなわち、このハードコート塗料C1中には、ポリカルボン酸化合物は含まれていない。)
なお、前記金属酸化物微粒子含有分散液「オプトレイク1130Z(S−7・A8)」の詳細については、上記したとおりである。
【0174】
[調製例4]
前記調製例1において、ポリカルボン酸化合物としての無水トリメリト酸の添加量をそれぞれ1g、7g、25gおよび40gに変更した以外は、調製例1に記載の条件下で一昼夜攪拌してハードコート層膜形成用塗料組成物をそれぞれ調製した。これにより、実施例および比較例で使用されるハードコート層膜形成用塗料組成物(以下、それぞれ「ハードコート塗料C2」、「ハードコート塗料H3」、「ハードコート塗料H4」および「ハードコート塗料C3」という)を得た。
【0175】
(2)反射防止層膜形成用塗料の調製
[調製例5]
テトラエトキシシラン(キシダ化学(株)製)40g、およびイソプロピルアルコール(キシダ化学(株)製)50gを混合し、攪拌しながら0.1N塩酸10gを滴下した。さらに、30℃の温度にて一昼夜攪拌して前記テトラエトキシシランの加水分解を行った。
【0176】
次いで、この混合液に、中空シリカ系微粒子を含む有機溶媒分散液「スルーリア」(日揮触媒化成(株)製)50g、プロピレングリコールモノメチルエーテル500gを加えて、30℃の温度にて一昼夜攪拌して熟成を行った。その後、硬化触媒としてのアセチルアセトンアルミニウム(キシダ化学(株)製)0.1g、レベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)0.5gを加えて、10℃の温度に冷却し、その温度に保ちながら一昼夜攪拌した。これにより、実施例および比較例で使用される反射防止層膜形成用塗料組成物(以下、「反射防止塗料AR1」という)を調製した。
【0177】
なお、前記中空シリカ系微粒子含有分散液「スルーリア」は、内部に空洞を有する平均粒子径60nmの中空シリカ系微粒子をイソプロピルアルコール中に20重量%の濃度で分散させたものである。
【0178】
[調製例6]
テトラエトキシシラン(キシダ化学(株)製)15g、メチルトリエトキシシラン(キシダ化学(株)製)5gおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル日本(株)製)50gを混合し、攪拌しながら0.1N塩酸10gを滴下した。さらに、30℃の温度にて一昼夜攪拌して前記テトラエトキシシランおよび前記メチルトリエトキシシランの加水分解を行った。
【0179】
次いで、この混合液に、中空シリカ系微粒子を含む有機溶媒分散液「スルーリア」(日揮触媒化成(株)製)80g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル日本(株)製)500gを加えて、30℃の温度にて一昼夜攪拌して熟成を行った。その後、硬化触媒としてのアセチルアセトンアルミニウム(キシダ化学(株)製)0.1g、レベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)0.5gを加えて、10℃の温度に冷却し、その温度に保ちながら一昼夜攪拌した。これにより、実施例および比較例で使用される反射防止層膜形成用塗料組成物(以下、「反射防止塗料AR2」という)を調製した。
【0180】
なお、前記中空シリカ系微粒子含有分散液「スルーリア」の詳細は、上記したとおりである。
【0181】
(3)撥水コート処理用塗料(トップコート層膜形成用塗料)の調製
[調製例7]
化学式CF3(CF27(CH22Si(OC253のフッ素系化合物(東レダウコーニング(株)製、AY43−158E)10gおよび含フッ素有機溶媒(信越化学社製FR−THINNER)500gを混合し、24時間攪拌し、撥水コート処理用塗料組成物(以下、「撥水コート用塗料T1」という)を調製した。
【0182】
(4)プライマー層膜形成用塗料組成物の調製
[調製例8]
市販のポリウレタンエマルジョン「スーパーフレックス420」(第一工業製薬(株)製))122g、コア・シェル型の金属酸化物微粒子を含むメタノール分散液「オプトレイク1120Z(S−7・G)」(日揮触媒化成(株)製)250g、メタノール(中国精油(株)製)480gを加えて、室温にて1時間攪拌した。
【0183】
次いで、この混合液に、レベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、L−7001)1.0gを加えて、室温にて一昼夜攪拌した。これにより、実施例および比較例で使用されるプライマー層膜形成用塗料組成物(以下、「プライマー用塗料P1」という)を調製した。
【0184】
なお、前記ポリウレタンエマルジョン「スーパーフレックス420」は、水分散型ウレタンエラストマーを水中に32重量%の濃度で分散させたものである。また、前記金属酸化物微粒子含有分散液「オプトレイク1120Z(S−7・G)」は、チタニウムとジルコニウムとを含む複合酸化物微粒子(酸化物換算重量基準で、TiO2/ZrO2=51.19)を核粒子として、その表面にケイ素とジルコニウムとの複合酸化物で被覆(酸化物換算重量基準で、被覆物/核粒子=4.88)してなるコア・シェル型の金属酸化物微粒子からなり、さらに該粒子の表面をγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシランで表面処理した平均粒子径9μmの金属酸化物微粒子をメタノール中に20重量%の濃度で分散させたものである。
【0185】
(5)プラスチックレンズ基材の前処理
[調製例9]
以下に示す市販品から、実施例および比較例で試験・評価する上で必要な枚数のプラスチックレンズ基材を用意した。
(a)屈折率1.60のプラスチックレンズ基材A(このレンズ基材は、三井化学(株)製の製品名「MR−8」のモノマーを重合させて得られたもの。)
(b)屈折率1.67のプラスチックレンズ基材B(このレンズ基材は、三井化学(株)製の製品名「MR−7」のモノマーを重合させて得られたもの。)
次いで、これらのプラスチックレンズ基材を、40℃の温度に保った水酸化カリウム水溶液(KOH濃度:10重量%)に2分間浸漬してエッチング処理を行った。さらに、前記水溶液中からこれらのレンズ基材を取り出して水洗した後、十分に乾燥させた。
【0186】
[実施例1]
調製例1で得られたハードコート用塗料H1を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材B(屈折率:1.67)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H1を塗布した。
【0187】
次いで、前記ハードコート用塗料H1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを100℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を100℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0188】
次に、調製例5で得られた反射防止用塗料AR1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR1を塗布した。
【0189】
次いで、前記ハードコート用塗料H1を塗布して予備硬化させた塗膜上に前記反射防止用塗料AR1を塗布した積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを、上下に2機設置した遠赤外線セラミックヒーター(坂口電熱(株)製、S−I型)の間に配置して水平に固定し、さらに室温の雰囲気下に30分間放置して乾燥させた後、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜面に対して直角方向から遠赤外線を15分間照射した。この時の遠赤外線の照射は、前記塗膜の表面温度が110℃となるように行った。
【0190】
これにより、その表面にハードコート層膜および反射防止層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズA-1」という)を得た。
次に、得られたプラスチックレンズA-1について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表1に示す。
【0191】
[実施例2]
調製例1で得られたハードコート用塗料H1を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材B(屈折率:1.67)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H1を塗布した。
【0192】
次いで、前記ハードコート用塗料H1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを100℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を100℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0193】
次に、調製例5で得られた反射防止用塗料AR1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR1を塗布した。
【0194】
次いで、前記反射防止用塗料AR1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0195】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0196】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを、80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0197】
次に、前記ハードコート用塗料H1、前記反射防止用塗料AR1および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを、上下に2機設置した遠赤外線セラミックヒーター(坂口電熱(株)製、S−I型)の間に配置して水平に固定し、さらに該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜面に対して直角方向から遠赤外線を15分間照射した。この時の遠赤外線の照射は、前記塗膜の表面温度が110℃となるように行った。
【0198】
これにより、その表面にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズA-2」という)を得た。
【0199】
次に、得られたプラスチックレンズA-2について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表1に示す。
【0200】
[実施例3]
調製例2で得られたハードコート用塗料H2を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材A(屈折率:1.60)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Aを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H2を塗布した。
【0201】
次いで、前記ハードコート用塗料H2を塗布したプラスチックレンズ基材Aを100℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜を100℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0202】
次に、調製例6で得られた反射防止用塗料AR2を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Aを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Aを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR2を塗布した。
【0203】
次いで、前記反射防止用塗料AR2を塗布したプラスチックレンズ基材Aを80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0204】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Aを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Aを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0205】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Aを、80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0206】
次に、前記ハードコート用塗料H2、前記反射防止用塗料AR2および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Aを、上下に2機設置した遠赤外線セラミックヒーター(坂口電熱(株)製、S−I型)の間に配置して水平に固定し、さらに該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜面に対して直角方向から遠赤外線を20分間照射した。この時の遠赤外線の照射は、前記塗膜の表面温度が100℃となるように行った。
【0207】
これにより、その表面にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズA-3」という)を得た。
【0208】
次に、得られたプラスチックレンズA-3について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表1に示す。
【0209】
[実施例4]
調製例8で得られたプライマー用塗料P1を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材B(屈折率:1.67)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記プライマー用塗料P1を塗布した。
【0210】
次いで、前記プライマー用塗料P1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを75℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を75℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0211】
次に、調製例1で得られたハードコート用塗料H1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H1を塗布した。
【0212】
次いで、前記ハードコート用塗料H1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを100℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を100℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0213】
次に、調製例5で得られた反射防止用塗料AR1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR1を塗布した。
【0214】
次いで、前記反射防止用塗料AR1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0215】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0216】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを、80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0217】
次に、前記プライマー用塗料P1、前記ハードコート用塗料H1、前記反射防止用塗料AR1および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを、上下に2機設置した遠赤外線セラミックヒーター(坂口電熱(株)製、S−I型)の間に配置して水平に固定し、さらに該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜面に対して直角方向から遠赤外線を7分間照射した。この時の遠赤外線の照射は、前記塗膜の表面温度が120℃となるように行った。
【0218】
これにより、その表面にプライマー層膜、ハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズA-4」という)を得た。
【0219】
次に、得られたプラスチックレンズA-4について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表1に示す。
【0220】
【表1】

[比較例1]
調製例3で得られたハードコート用塗料C1(この塗料には、ポリカルボン酸化合物が含まれていない。)を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材B(屈折率:1.67)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H1を塗布した。
【0221】
次いで、前記ハードコート用塗料C1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを100℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を100℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0222】
次に、調製例5で得られた反射防止用塗料AR1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR1を塗布した。
【0223】
次いで、前記反射防止用塗料AR1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0224】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0225】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを、80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0226】
次に、前記ハードコート用塗料C1、前記反射防止用塗料AR1および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを、上下に2機設置した遠赤外線セラミックヒーター(坂口電熱(株)製、S−I型)の間に配置して水平に固定し、さらに該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜面に対して直角方向から遠赤外線を15分間照射した。この時の遠赤外線の照射は、前記塗膜の表面温度が110℃となるように行った。
【0227】
これにより、その表面にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズB-1」という)を得た。
【0228】
次に、得られたプラスチックレンズB-1について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表2に示す。
【0229】
[比較例2]
調製例1で得られたハードコート用塗料H1を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材B(屈折率:1.67)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H1を塗布した。
【0230】
次いで、前記ハードコート用塗料H1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを100℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を100℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0231】
次に、調製例5で得られた反射防止用塗料AR1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR1を塗布した。
【0232】
次いで、前記反射防止用塗料AR1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0233】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0234】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを、80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0235】
次に、前記ハードコート用塗料H1、前記反射防止用塗料AR1および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを、110℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された積層塗膜を110℃の温度雰囲気下で15分間加熱して、該積層塗膜の硬化を行った。すなわち、ここでは、積層塗膜の硬化用熱源として遠赤外線を用いずに、110℃の熱風を用いて前記塗膜の表面温度が110℃付近となるようにした。
【0236】
これにより、その表面にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズB-2」という)を得た。
【0237】
次に、得られたプラスチックレンズB-2について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表2に示す。
【0238】
[比較例3]
調製例2で得られたハードコート用塗料H2を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材A(屈折率:1.60)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Aを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H2を塗布した。
【0239】
次いで、前記ハードコート用塗料H2を塗布したプラスチックレンズ基材Aを120℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜を、120℃の温度雰囲気下で20分間加熱して、該塗膜の硬化を行った。すなわち、ここでは、該塗膜(ハードコート層膜)の本硬化を行った。
【0240】
次に、調製例6で得られた反射防止用塗料AR2を入れたポット中に、上記で本硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Aを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Aを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR2を塗布した。
【0241】
次いで、前記反射防止用塗料AR2を塗布したプラスチックレンズ基材Aを80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0242】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Aを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Aを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0243】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Aを、80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0244】
次に、前記ハードコート用塗料H2、前記反射防止用塗料AR2および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して本硬化または予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Aを、上下に2機設置した遠赤外線セラミックヒーター(坂口電熱(株)製、S−I型)の間に配置して水平に固定し、さらに該プラスチックレンズ基材A上に形成された塗膜面に対して直角方向から遠赤外線を3分間照射した。この時の遠赤外線の照射は、前記塗膜の表面温度が100℃となるように行った。すなわち、ここでは、前記遠赤外線の照射量が少なかった。
【0245】
これにより、その表面にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズB-3」という)を得た。
【0246】
次に、得られたプラスチックレンズB-3について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表2に示す。
【0247】
[比較例4]
調製例8で得られたプライマー用塗料P1を入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材B(屈折率:1.67)を浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記プライマー用塗料P1を塗布した。
【0248】
次いで、前記プライマー用塗料P1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを75℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を75℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0249】
次に、調製例1で得られたハードコート用塗料H1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料H1を塗布した。
【0250】
次いで、前記ハードコート用塗料H1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを65℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を65℃の温度雰囲気下で7分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。すなわち、ここでは、該塗膜(ハードコート層膜)の予備硬化が十分でなかった。
【0251】
次に、調製例5で得られた反射防止用塗料AR1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR1を塗布した。
【0252】
次いで、前記反射防止用塗料AR1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0253】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0254】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを、80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0255】
次に、前記プライマー用塗料P1、前記ハードコート用塗料H1、前記反射防止用塗料AR1および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを、120℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された積層塗膜を120℃の温度雰囲気下で7分間加熱して、該積層塗膜の硬化を行った。すなわち、ここでは、積層塗膜の硬化用熱源として遠赤外線を用いずに、120℃の熱風を用いて前記塗膜の表面温度が120℃付近となるようにした。
【0256】
これにより、その表面にプライマー層膜、ハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ(以下、「プラスチックレンズB-4」という)を得た。
【0257】
次に、得られたプラスチックレンズB-4について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表2に示す。
【0258】
【表2】

[実施例5〜6および比較例5〜6]
調製例4で得られたハードコート用塗料C2、ハードコート塗料H3、ハードコート塗料H4およびハードコート塗料C3をそれぞれ入れたポット中に、調製例9で得られたプラスチックレンズ基材B(屈折率:1.67)を各1枚ずつ浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを120mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記ハードコート用塗料C2、H3、H4およびC3をそれぞれ塗布した。
【0259】
次いで、前記ハードコート用塗料C2、H3、H4およびC3をそれぞれ塗布したプラスチックレンズ基材Bを各1枚ずつ100℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を100℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0260】
次に、調製例5で得られた反射防止用塗料AR1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを各1枚ずつ浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを24mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記反射防止用塗料AR1を塗布した。
【0261】
次いで、前記反射防止用塗料AR1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを各1枚ずつ80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0262】
次に、調製例7で得られた撥水コート用塗料T1を入れたポット中に、上記で予備硬化された塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを各1枚ずつ浸漬し、さらにディッピング法を用いて該プラスチックレンズ基材Bを200mm/minの速度で引き上げて、該基材の表面に前記撥水コート用塗料T1を塗布した。
【0263】
次いで、前記撥水コート用塗料T1を塗布したプラスチックレンズ基材Bを各1枚ずつ80℃の熱風が循環供給されている熱風循環炉(エスペック(株)製、ST−120)に入れて、該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜を80℃の温度雰囲気下で10分間加熱して、該塗膜の予備硬化を行った。
【0264】
次に、前記ハードコート用塗料C2、H3、H4またはC3、前記反射防止用塗料AR1および前記撥水コート用塗料T1を順々に塗布して予備硬化させた積層塗膜を有するプラスチックレンズ基材Bを各1枚ずつ、上下に2機設置した遠赤外線パネルヒーター(坂口電熱(株)製、PH−100)の間に配置して水平に固定し、さらに該プラスチックレンズ基材B上に形成された塗膜面に対して直角方向から遠赤外線を15分間照射した。この時の遠赤外線の照射は、前記塗膜の表面温度が110℃となるように行った。
【0265】
これにより、その表面にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜からなる積層塗膜を有するプラスチックレンズ4枚(以下、上記のハードコート用塗料の使用順に、それぞれ「プラスチックレンズB-5」、「プラスチックレンズA-5」、「プラスチックレンズA-6」、「プラスチックレンズB-6」という)を得た。
【0266】
次に、得られたプラスチックレンズA-5(実施例5)、プラスチックレンズA-6(実施例6)、プラスチックレンズB-5(比較例5)およびプラスチックレンズB-6(比較例6)について、上記の測定方法に基づき、プラスチックレンズ基材上に形成された積層塗膜の外観(干渉渦の観察)、耐擦傷性、密着性、反射防止性、染色性(均一硬化性)、撥水性および耐衝撃性を観測または測定した。その結果を表3に示す。
【0267】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜を形成し、さらにその表面に反射防止層膜を形成してなるプラスチックレンズの製造方法において、
(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布する工程、
(2)前記工程(1)で得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行う工程、
(3)前記工程(2)で得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ系微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布する工程、および
(4)前記工程(3)で得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させる工程
を含むことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物(A)および(B)が、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物および/またはその加水分解物であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法。
1a2bSi(OR34-(a+b) (I)
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基を含有する炭素数8以下の有機基、エポキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メタクリロキシ基を含有する炭素数8以下の有機基、メルカプト基を含有する炭素数1〜5の有機基またはアミノ基を含有する炭素数1〜5の有機基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基もしくはハロゲン化アルキル基またはアリール基であり、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキル基である。また、aは0または1の整数、bは0、1または2の整数である。)
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子が、チタニウム、鉄、亜鉛、タングステン、錫、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、ニオブ、インジウム、セリウム、ケイ素、アルミニウム、イットリウム、鉛およびモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物微粒子または複合酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物微粒子が、チタニウム、鉄、亜鉛、タングステン、錫、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、ニオブ、インジウム、セリウム、ケイ素、アルミニウム、イットリウム、鉛およびモリブデンから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物微粒子または複合酸化物微粒子からなる核粒子の表面を、ケイ素、ジルコニウム、アンチモン、錫およびアルミニウムから選ばれた少なくとも1種の金属元素の酸化物または複合酸化物で被覆したコア・シェル型の金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記ポリカルボン酸系化合物が、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸無水物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記ポリカルボン酸系化合物が、該ポリカルボン酸系化合物の重量をXで表し、さらに前記ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれる有機ケイ素化合物(A)の量をSiO2換算基準で求めた重量をYで表したとき、その重量比(X/Y)が5/100〜45/100となるような割合で該ハードコート層膜形成用塗料組成物中に含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項7】
前記シリカ系微粒子が、40〜100nmの平均粒子径を有し、しかも内部に空洞を有する中空シリカ系微粒子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項8】
前記工程(3)で得られた塗膜を、さらに60〜110℃の温度条件下で3〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行う工程(3a)を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項9】
前記工程(3a)で得られた予備硬化塗膜の表面に、さらにフッ素系化合物またはその加水分解物を含む撥水コート処理用塗料組成物を塗布する工程(3b)を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項10】
前記フッ素系化合物が、加水分解基を有するフロロシラン化合物であることを特徴とする請求項9に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項11】
前記工程(4)において前記遠赤外線の照射を、遠赤外線セラミックヒーターを用いて前記積層塗膜の表面温度が70〜130℃となるように行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項12】
前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層膜との間に、さらにプライマー層膜を設けることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項13】
前記プライマー層膜が、有機樹脂化合物と金属酸化物微粒子とを含むプライマー層膜形成用塗料組成物を前記プラスチックレンズ基材上に塗布して硬化させたものであることを特徴とする請求項12に記載のプラスチックレンズの製造方法。
【請求項14】
(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布し、(2)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で5〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3)得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布し、さらに(4)得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させることによって、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜および反射防止層膜を形成してなるプラスチックレンズ。
【請求項15】
(1)プラスチックレンズ基材上に、有機ケイ素化合物(A)、金属酸化物微粒子およびポリカルボン酸系化合物とを含むハードコート層膜形成用塗料組成物を塗布し、(2)得られた塗膜を70〜110℃の温度条件下で5〜20分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3)得られた予備硬化塗膜の表面に、有機ケイ素化合物(B)およびシリカ微粒子とを含む反射防止層膜形成用塗料組成物を塗布し、(3a)得られた塗膜を60〜110℃の温度条件下で3〜30分間、加熱処理して、該塗膜の予備硬化を行ったのち、(3b)フッ素系化合物またはその加水分解物を含む撥水コート処理用塗料組成物を塗布し、さらに(4)得られた積層塗膜に、3〜20μmの波長を有する遠赤外線を5〜30分間、照射して、該積層塗膜を硬化させることによって、プラスチックレンズ基材上にハードコート層膜、反射防止層膜および撥水コート層膜を形成してなるプラスチックレンズ。
【請求項16】
前記プラスチックレンズ基材と前記ハードコート層膜との間に、さらにプライマー層膜を設けてなることを特徴とする請求項14〜15のいずれかに記載のプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2012−137636(P2012−137636A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290310(P2010−290310)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】