説明

プラスチックレンズの製造方法

【課題】高屈折率でかつ離型性に優れたプラスチックレンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のプラスチックレンズの製造方法は、(A)1分子中に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物(B)1分子中にSH基を1個以上有する含硫黄化合物(C)硫黄原子およびセレン原子のうち少なくとも一方を有する無機化合物(D)内部離型剤の混合物を注型重合して得られるプラスチックレンズの製造方法において、成分(A)、成分(B)および成分(C)のうち少なくとも前記成分(A)と前記成分(C)とを有する組成物を、冷却しても各成分が再結晶により析出しなくなる状態になるまで予備反応させた後、成分(D)を添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性や加工性が良く、割れ難く安全性も高い等の様々なメリットを備えている。このため、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の分野で広く用いられている。
プラスチックレンズは、当初、屈折率が1.50の素材が広く使われていたが、近年、レンズの薄型化を目的として、高屈折率のプラスチックレンズの開発が進められ、高屈折率の樹脂素材としては、エピスルフィド化合物とチオール化合物とを重合してなる樹脂素材(例えば、特許文献1参照)、エピスルフィド化合物と反応可能な官能基を有する含硫黄化合物とからなる樹脂素材(例えば、特許文献2参照)、エピスルフィド化合物、無機硫黄、チオール化合物および紫外線吸収剤からなる樹脂素材(例えば、特許文献3参照)および硫黄原子を含むエピスルフィド化合物を重合してなる樹脂素材(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
【0003】
【特許文献1】WO89/10575号公報
【特許文献2】特開平3−81320号公報
【特許文献3】特開2004−315556号公報
【特許文献4】特開2001−2783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記樹脂素材は高屈折率化に限界がある、または硫黄原子を含むことで高屈折率化が可能であるが、その反面、硫黄原子を含むことで重合後の金型からの離型性が悪くなり、プラスチックレンズを良好に成形し難いという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、高屈折率でかつ離型性に優れたプラスチックレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)1分子中に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物(B)1分子中にSH基を1個以上有する含硫黄化合物(C)硫黄原子およびセレン原子のうち少なくとも一方を有する無機化合物(D)内部離型剤の混合物を注型重合して得られるプラスチックレンズの製造方法において、成分(A)、成分(B)および成分(C)のうち少なくとも前記成分(A)と前記成分(C)とを有する組成物を、冷却しても各成分が再結晶により析出しなくなる状態になるまで予備反応させた後、成分(D)を添加することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法である。
この発明によれば、予備反応した後に成分(D)内部離型剤を添加するので、成分(A)〜(D)を同時に重合する場合のような離型性が悪くなるというおそれがない。従って、離型性が良好で、かつ高屈折率なプラスチックレンズを容易に得ることができる。
【0007】
本発明では、前記予備反応後の冷却温度が、10℃以上かつ35℃以下であることが好ましい。
この発明では、冷却温度を10℃以上かつ35℃以下とするので、各成分が再結晶により析出しし難くすることができ、プラスチックレンズをより容易に製造することができる。
【0008】
本発明では、成分(D)の添加量が、成分(A),成分(B),成分(C)の合計量に対して、0.1ppm以上10000ppm以下であることが好ましい。
この発明では、成分(D)の添加量が0.1ppm〜10000ppmであるので、内部離型剤により離型性を十分に向上させることができ、さらに内部離型剤がプラスチックレンズの外観へ悪影響を及ぼすおそれをなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のプラスチックレンズの製造方法について実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態では、眼鏡用のプラスチックレンズを例示する。本実施形態で製造する眼鏡レンズは、一般的なプラスチックレンズよりも厚く、例えば、10mm以上15mm以下程度の厚さである。
【0010】
本実施形態における眼鏡レンズの製造方法は、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)のうち少なくとも成分(A)と成分(C)とを有する組成物を、10℃以上35℃以下に冷却しても各成分が再結晶により析出しなくなる状態になるまで予備反応させた後、成分(D)を成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計量に対して0.1ppm〜10000ppmとなるように添加して光学材料用樹脂を得る調合工程と、前記光学材料用樹脂を成形モールドに充填する注入工程と、所定の温度条件下に前記成形モールドを曝すことによって前記光学材料用樹脂を硬化させる硬化工程とを備えている。
(A)1分子中に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物
(B)1分子中にSH基を1個以上有する含硫黄化合物
(C)硫黄原子およびセレン原子のうち少なくとも一方を有する無機化合物
以下、これらについて詳細に説明する。
【0011】
〔重合性組成物〕
重合性組成物の主成分であるモノマー化合物は、前記した(A)化合物や(B)化合物である。エピスルフィド基を有する化合物やジスルフィドエポキシ化合物を重合硬化した樹脂は、非常に高屈折率であり、しかも従来の樹脂とほぼ同等のアッベ数を実現しており、光学性能の非常に優れた樹脂である。その反面、重合反応性が高く、21℃でも有毒なガスを発生しながら重合反応が進行するため取り扱いが難しい。また、硬化後に光学的歪みが発生し易い。
ここで、エピスルフィド基は下記の式(1)で示される。
【0012】
【化1】

【0013】
但し、式中Xは、硫黄原子またはセレン原子表す。2つのエピスルフィド基のそれぞれの末端の硫黄原子が相互に結合している場合には、分子内に1つ以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、かつ、チオエポキシ基を有する化合物となる。
【0014】
分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物としては、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルプロパン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルブタン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−3−チアペンタン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−メチルヘキサン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−3,6−ジチアオクタン、1,2,3−トリス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、2,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、2,2−ビス(2、3−エピチオプロピルチオメチル)−1−(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、1、5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2−(2、3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(2、3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,2ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアヘキサン、1,5,6−トリス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4−(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4−(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,1,1−トリス{[2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル]チオメチル}−2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、1,1,2,2−テトラキス{[2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル]チオメチル}エタン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)−5,7ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン等の鎖状脂肪族の2,3−エピチオプロピルチオ化合物、および、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス{[2−(2,3−エピチオプロピルチオ)エチル]チオメチル}−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン等の環状脂肪族の2,3−エピチオプロピルチオ化合物、および、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,2−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、1,4−ビス(2,3−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス[4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−(2,3エピチオプロピルチオ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(2,3−エピチオプロピルチオ)フェニル]スルフォン、および4、4’−ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族2,3−エピチオプロピルチオ化合物等を挙げることができる。これらの1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0015】
分子内に1つ以上のジスルフィド結合(S−S)を有し、かつ、エポキシ基およびチオエポキシ基のうち少なくともいずれかを有する化合物としては、例えば、ビス(2,3−エポキシプロピル)ジスルフィドやビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドなどの分子内に1つのジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物、ビス(2,3−エピチオプロピルジチオ)メタン、ビス(2,3−エピチオプロピルジチオ)エタン、ビス(6,7−エピチオ−3,4−ジチアヘプタン)スルフィド、1,4−ジチアン−2,5−ビス(2,3−エピチオプロピルジチオメチル)、1,3−ビス(2,3−エピチオプロピルジチオメチル)ベンゼン、1,6−ビス(2,3−エピチオプロピルジチオメチル)−2−(2,3−エピチオプロピルジチオエチルチオ)−4−チアヘキサン、1,2,3−トリス(2,3−エピチオプロピルジチオ)プロパンなどの分子内に2つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物が挙げられる。これらの1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0016】
モノマー化合物としては、これらの分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物とジスルフィドエポキシ化合物のいずれか一方を使用できると共に、両者を併用して用いることができる。
分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物やジスルフィドエポキシ化合物を含有する重合性組成物に対しては、主に得られる樹脂の屈折率等の光学物性の調整や、耐衝撃性、比重等の諸物性を調整するため、あるいはモノマーの粘度、その他のハンドリング性を調整するためなど、樹脂の改良をする目的で、樹脂改質剤を加えることができる。
【0017】
樹脂改質剤としては、上記分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物、チオール化合物、メルカプト有機酸類、有機酸類および無水物類、アミノ酸、メルカプトアミン類、アミン類、(メタ)アクリレート類等を含むオレフィン類が挙げられる。これらの樹脂改質剤はいずれも単独でも2種類以上を混合して使用しても良い。
重合反応における硬化触媒としては3級アミン類、ホスフィン類、ルイス酸類、ラジカル重合触媒類、カチオン重合触媒類等が通常用いられる。また、必要に応じて、鎖延長剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料、充填剤、内部離型剤なとの種々の物質を添加してもよい。
【0018】
(B)1分子中にSH基を1個以上有する含硫黄化合物
本発明の光学材料用組成物における(B)成分は、1分子中にSH基を1個以上有する含硫黄化合物である。1分子中にSH基を1個以上有する化合物としては、特に限定されないが、好ましくは液状の含硫黄化合物で比較的低粘度であるものが使用され、特に好ましくは他成分との反応性及び相溶性が良好であり、ガラス転移温度並びに靭性を低下させず、なるべく高屈折率を有するものが用いられる。
成分(B)の1分子中にSH基を1個以上有する含硫黄化合物は、SH基以外にスルフィド結合、ポリスルフィド結合、さらには他の官能基を有する鎖状の化合物でも、環状の化合物であってもよく、好ましくはSH基を2個以上有するポリチオール化合物であり、特に好ましくは高硫黄含有率のポリチオール化合物であり、単独で用いることも、また2種以上混合して用いることもできる。具体的な化合物としては、例えば、次の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,2,3−プロパントリチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2−メチルシクロヘキサン−2,3−ジチオール、1,1−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、チオリンゴ酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(2−メルカプトアセテート)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,3−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパンビス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン等の脂肪族ポリチオール化合物。
1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3−トリメルカプトベンゼン、1,2,4−トリメルカプトベンゼン、1,3,5−トリメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、2,5−トルエンジチオール、3,4−トルエンジチオール、1,3−ジ(p−メトキシフェニル)プロパン−2,2−ジチオール、1,3−ジフェニルプロパン−2,2−ジチオール、フェニルメタン−1,1−ジチオール、2,4−ジ(p−メルカプトフェニル)ペンタン、1,2−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン等の芳香族ポリチオール化合物及びメルカプト基以外に硫黄原子を含有する芳香族ポリチオール化合物。
ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2−メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3−メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,2−ビス(3−メルカプトプロピル)エタン、1,3−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−メルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−メルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−メルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、テトラキス(2−メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3−メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、ビス(1,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5−ジメルカプト−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)ジスルフィド等、及びこれらのチオグリコール酸及びメルカプトプロピオン酸のエステル。
ヒドロキシメチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(2−メルカプトアセテート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−チオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−ジチオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、3−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、1,2,5−トリメルカプト−4−チアペンタン、3,3−ジメルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、3−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、3−メルカプトメチルチオ−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、3,6−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、3,7−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、4,6−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、3−メルカプトメチル−1,6−ジメルカプト−2,5−ジチアヘキサン、3−メルカプトメチルチオ−1,5−ジメルカプト−2−チアペンタン、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,4,8,11−テトラメルカプト−2,6,10−トリチアウンデカン、1,4,9,12−テトラメルカプト−2,6,7,11−テトラチアドデカン、2,3−ジチア−1,4−ブタンジチオール、2,3,5,6−テトラチア−1,7−ヘプタンジチオール、2,3,5,6,8,9−ヘキサチア−1,10−デカンジチオール、4,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチオラン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−ビス(メルカプトメチルチオ)メチルー1,3−ジチエタン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタン、2−メルカプトメチル−6−メルカプト−1,4−ジチアシクロヘプタン等のメルカプト基以外に硫黄原子を含有する脂肪族ポリチオール化合物。
3,4−チオフェンジチオール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等のメルカプト基以外に硫黄原子を含有する複素環化合物、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、グリセリンジ(メルカプトアセテート)、1−ヒドロキシ−4−メルカプトシクロヘキサン、2,4−ジメルカプトフェノール、2−メルカプトハイドロキノン、4−メルカプトフェノール、3,4−ジメルカプト−2−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,2−ジメルカプト−1,3−ブタンジオール、ペンタエリスリトールトリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールモノ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールトリス(チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチル−トリス(メルカプトエチルチオメチル)メタン、1−ヒドロキシエチルチオ−3−メルカプトエチルチオベンゼン等のメルカプト基以外にヒドロキシ基を含有する化合物。
2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(3−メルカプトプロピル)−1,4−ジチアン、2−(2−メルカプトエチル)−5−メルカプトメチル−1,4−ジチアン、2−(2−メルカプトエチル)−5−(3−メルカプトプロピル)−1,4−ジチアン、2−メルカプトメチル−5−(3−メルカプトプロピル)−1,4−ジチアン、2,4−ビス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオラン、2−メルカプトメチル−5−メルカプト−1,3−ジチオラン、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオラン、2−(3−メルカプトプロピル)−4−メルカプトメチル−1,3−ジチオラン、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3,5−トリチアン、2,4,5−トリス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオラン、2,2−ビス(メルカプトメチル)−5−メルカプト−1,3−ジチオラン、2−(1,2−ジメルカプトエチル)−4−メルカプトメチル−1,3−ジチオラン、2−(1,2−ジメルカプトエチル)−4−メルカプト−1,3,5−トリチアン、2−(3−メルカプトプロピル)−4,5−ビス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオラン、2,2,4,5−テトラキス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオラン、2−(1,2−ジメルカプトエチル)−4,5−ビス(メルカプトメチル)−1,3−ジチオラン等の環状化合物が挙げられる。
【0019】
(C)硫黄原子およびセレン原子のうち少なくとも一方を有する無機化合物
本発明の光学材料用組成物における(C)成分は、硫黄原子およびセレン原子のうち少なくとも一方を有する無機化合物である。本発明で好適に使用される無機化合物は、「標準化学用語辞典」(日本化学会編(1991)丸善)に記載されている通りの化合物であり、炭素を含まない化合物及び炭素を含んでいても比較的簡単な化合物を指す。例えば、炭素を含む比較的簡単な化合物である二硫化炭素、チオシアン酸カリウム等は無機化合物として扱う。本発明の光学材料用組成物においては、この無機化合物の含有量を増加させることにより、さらなる光学材料の高屈折率化が可能となる。
硫黄原子を有する無機化合物の具体例としては、硫黄、硫化水素、二硫化炭素、セレノ硫化炭素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸およびその塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化硼素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、金属硫化物、金属水硫化物等があげられる。これらの中で好ましいものは硫黄、二硫化炭素、硫化リン、硫化セレン、金属硫化物および金属水硫化物であり、より好ましくは硫黄、二硫化炭素および硫化セレンであり、特に好ましくは硫黄である。
セレン原子を有する無機化合物の具体例としては、硫黄原子を有する無機化合物の具体例として挙げたセレノ硫化炭素と硫化セレンを除き、セレン、セレン化水素、二酸化セレン、二セレン化炭素、セレン化アンモニウム、二酸化セレン等のセレン酸化物、セレン酸およびその塩、亜セレン酸およびその塩、セレン酸水素塩、セレノ硫酸およびその塩、セレノピロ硫酸およびその塩、四臭化セレン、オキシ塩化セレン等のハロゲン化物、セレノシアン酸塩、セレン化硼素、セレン化リン、セレン化砒素、金属のセレン化物等があげられる。これらの中で好ましいものは、セレン、二セレン化炭素、セレン化リン、金属のセレン化物であり、特に好ましくはセレンおよび二セレン化炭素である。
これら硫黄原子を有する無機化合物、セレン原子を有する無機化合物は、単独でも、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0020】
(D)内部離型剤
本発明に使用する内部離型剤は、例えばフッ素系ノニオン界面活性剤、シリコン系ノニオン界面活性剤、アルキル第4級アンモニウム塩、酸性リン酸エステル、流動パラフィン、ワックス、高級脂肪酸及びその金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、ビスアミド類、ポリシロキサン類、脂肪族アミンエチレンオキシド付加物等が挙げられ、これらのうちモノマー組合せ、重合条件、経済性、取り扱い容易さより適宜選ばれる。
これら内部離型剤は、単独で使用してもよく、また二種以上を混合して使用してもよい。
本発明において用いるフッ素系ノニオン界面活性剤およびシリコン系ノニオン界面活性剤は分子内にパーフルオロアルキル基またはジメチルポリシロキサン基を有しかつヒドロキシアルキル基やリン酸エステル基を有する化合物であり、前者のフッ素系ノニオン界面活性剤としてはユニダインDS−401(ダイキン工業株式会社製)、ユニダインDS−403(ダイキン工業株式会社製)、エフトップEF122A(新秋田化成株式会社製)、エフトップEF126(新秋田化成株式会社製)、エフトップEF301(新秋田化成株式会社製)があり、後者のシリコン系ノニオン界面活性剤としてはダウ社の試作品であるQ2−120Aがある。
一般的に内部離型剤は、原料の調合時に添加することが考えられるが、本発明においては、成分(A)、成分(B)および成分(C)のうち少なくとも成分(A)と成分(C)とを有する組成物を、10℃以上35℃以下に冷却しても各成分が再結晶により析出しなくなる状態になるまで予備反応させた後、内部離型剤を添加している。これは、本発明において、原料の調合時に内部離型剤を添加してしまうと、調合した原料を高温(50℃〜70℃)で予備反応をさせることから、予備反応時に内部離型剤が想定外の反応を引き起こし、モノマーの増粘や歪が発生したり、また重合して得られるプラスチックレンズが白く濁ってしまうといった外観異常などの問題が発生するためである。
また、本発明において用いるアルキル第4級アンモニウム塩は通常、カチオン界面活性剤として知られているものであり、アルキル第4級アンモニウムのハロゲン塩、燐酸塩、硫酸塩などがあり、クロライドの型で例を示せば、トリメチルセチルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、ジメチルエチルセチルアンモニウムクロライド、トリエチルドデシルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ジエチルシクロヘキシルドデシルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0021】
また、本発明に用いる酸性燐酸エステルとしてはイソプロピルアシッドホスヘート、ジイソプロピルアシッドホスヘート、ブチルアシッドホスヘート、ジブチルアシッドホスヘート、オクチルアシッドホスヘート、ジオクチルアシッドホスヘート、イソデシルアシッドホスヘート、ジイソデシルアシッドホスヘート、トリデカノールアシッドホスヘート、ビス(トリデカノールアシッド)ホスヘートなどが挙げられる。
また、本発明において用いる高級脂肪酸の金属塩は、ステアリン酸、オレイン酸、オクタン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸、リシノレイン酸等の亜鉛塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、銅塩等であり、具体的には、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸ニッケル、オレイン酸ニッケル、パルミチン酸ニッケル、ラウリン酸ニッケル、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、ラウリン酸銅、パルミチン酸銅などが挙げられる。
また、本発明において用いる高級脂肪酸エステルは、例えばステアリン酸、オレイン酸、オクタン酸、ラウリン酸、リシノール酸等の高級脂肪酸とエチレングリコール、ジヒドロキシプロパン、ジヒドロキシブタン、ネオペンチルグリコール、ジヒドロキシヘキサン等のアルコールとのエステルである。
該内部離型剤の使用量は単独または二種以上の混合物として、成分(A)、成分(B)、成分(C)の合計重量に対して、0.1〜10000ppmの範囲である。
添加量が0.1ppm未満であると、離型能が悪化し、10000ppmを越えるとレンズに曇りを生じたり、重合中にレンズがモールドから早期離型し、レンズの表面の面精度が悪化する場合もあるが、モノマーの組成、離型剤の種類によっても異なるため、必ずしも限定的なものではない。
【0022】
〔プラスチックレンズの製造〕
ます、本実施形態のレンズを注型重合法によって製造する工程について、その概要を図1〜図6を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る調合工程を示す図である。図1に示すように、調合工程では、まず、成分(A)としての1分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物11、成分(C)としての硫黄原子およびセレン原子のうち少なくとも一方を有する無機化合物13および硬化触媒その他の成分を含有する重合性組成物L1を調合し、60℃の温度条件で撹拌しながら予備反応を行う。その後、予備反応により得られた重合性組成物L2を10℃以上35℃以下の温度範囲まで冷却し、成分(B)としての1分子内にSH基を1つ以上有する含硫黄化合物12および成分(D)としての内部離型剤14を添加し、撹拌することで硬化性組成物Lを得る。
【0023】
図2は、本発明の実施形態に係る注型重合用の凹型と凸型を示す図である。図2に示すように、レンズの凸面成形面111を有する凹型110と、レンズの凹面成形面121を有する凸型120について、それぞれ洗浄したものを準備する。
次に、図3は、本発明の実施形態における注型重合用の成形モールドを示す図である。図3に示すように、これらの凸面成形面111と凹面成形面121を対向させ、凹型110と凸型120の周面に粘着テープ130を巻いてこれらの型の間の空隙140を封止して成形モールド150を組み立てる。一方、図示しない原料調合槽でモノマー化合物に硬化触媒その他の成分を配合して硬化性組成物が調合される。
【0024】
図4は、本発明の実施形態における原料供給装置と成形モールドを示す図である。図4に示すように、調合された硬化性組成物Lは原料調合槽から原料貯蔵供給装置160の圧力容器である貯蔵容器161に分配される。原料貯蔵供給装置160を成形モールドに注入する場所まで搬送し、貯蔵容器161の内部に圧力気体を導入して貯蔵容器161の中の硬化性組成物Lを注入配管162とバルブ163を介して注入ノズル164から組み立てた成形モールド150のキャビティ140内に押し出して充填する注入工程を行う。
【0025】
そして、図5は、本発明の実施形態における硬化工程を示す図である。図5に示すように、成形モールド150を恒温室(重合炉)170内に配置し、所定の温度と時間に設定された環境下に成形モールド150を曝すことによって、充填された硬化性組成物Lを重合、硬化させる硬化工程を行う。
最後に、図6は、本発明の実施形態におけるプラスチックレンズを示す図である。図6に示すように、硬化したプラスチックレンズからレンズ成形型110,120を脱離することによってプラスチックレンズ180を得ることができる。
【0026】
以下に、上記した各工程についてさらに詳細に説明する。
成形モールド150としては、例えば図2に示したような粘着テープ130によって側面が保持された2枚のガラスよりなる成形モールド150やガスケットで側面が保持された成形モールドが好ましく用いられる。
注入工程では、まず、粘着テープ130の所定の位置に下穴加工を施し、図示しない下穴部に注入ノズル164を挿入する。凸レンズ用の成形モールド150は外周部における2枚のレンズ成形型110,120の間隔が狭いので、その間に挿入が可能なように、先端が非常に細い注入ノズル164を使用する。貯蔵容器161内に圧力気体を導入して貯蔵容器161に充填されている硬化性組成物Lを注入配管162とバルブ163を介して注入ノズル164へ押し出すことにより注入し、キャビティ140内が硬化性組成物Lで満たされたのを検知してバルブ163を閉じて注入を終了させた後、注入口を封止する。
【0027】
次に、本実施形態のプラスチックレンズ180の製造方法では、所定の温度条件下に成形モールド150を曝すことによって成形モールド150に充填され硬化性組成物Lを重合し、硬化させる硬化工程を有する。
標準的な重合条件としては、約30℃から約100℃まで約20時間かけて昇温した。重合後は、重合炉170から成形モールドを取り出し、成形モールドを分解して硬化したプラスチックを取り出してプラスチックレンズを得る。
【0028】
ここで、プラスチックレンズ180の注型重合では、プラスチックレンズ180の両面が成形モールド150からの転写で所定の光学面に仕上げられたフィニッシュトレンズを製造する場合と、片面が成形モールド150からの転写で光学面に仕上げられ、反対側の面が研磨加工により光学面に削られるセミフィニッシュトレンズを製造する場合とがある。
【0029】
フィニッシュトレンズは、一般に薄く、凸レンズでも凹レンズでも最小の厚みは1mm程度である。これに対してセミフィニッシュトレンズはやや厚手で、凸レンズでも凹レンズでも最小の厚みは5〜20mm程度である。
【0030】
成形モールドから重合したプラスチックレンズを取り出す温度は、例えば100℃以下であり、より好ましくは70℃以下であり、最高温度から降温させる時間は、1〜5時間程度であり、強制的に冷却して1時間程度の降温時間とすることができる。
【0031】
得られたプラスチックレンズ180のレンズ度数の安定化やレンズの光学歪みを取り除くためには、成形モールド150から取り出したプラスチックレンズ180を再加熱しアニール処理を行うことが好ましい。このときの処理温度は70℃〜160℃であり、好ましくは80℃〜140℃である。また処理時間は10分〜6時間であり、好ましくは1時間〜3時間である。
【0032】
重合成形されたプラスチックレンズ180がフィニッシュトレンズの場合は、研磨加工せずに、染色、ハードコート膜の形成、反射防止膜の形成などの処理工程を必要により経て最終的なプラスチックレンズ180となる。
【0033】
重合成形されたプラスチックレンズ180がセミフィニッシュトンズの場合は、一方の面を所定の光学面に削る研磨工程を行う。研磨工程後、染色、ハードコート膜の形成、反射防止膜の形成などの処理工程を必要により経て最終的なプラスチックレンズ180となる。
【0034】
このような本実施形態によれば、以下の効果がある。
本実施形態では、化合物11、無機化合物13および硬化触媒その他の成分を含有する重合性組成物L1を調合し、60℃の温度条件で撹拌しながら予備反応を行い、その後、含硫黄化合物12および内部離型剤14を添加し、撹拌することで硬化性組成物Lを得る。
このため、予備反応した後に内部離型剤14を添加するので、化合物11、含硫黄化合物12、無機化合物13および内部離型剤14を同時に重合する場合のような離型性が悪くなるというおそれがない。従って、離型性が良好で、かつ高屈折率なプラスチックレンズ180を容易に得ることができる。
【0035】
予備反応により得られた重合性組成物L2を10℃以上35℃以下の温度範囲まで冷却するので、各成分が再結晶により析出しし難くすることができ、プラスチックレンズ180をより容易に製造することができる。
【0036】
内部離型剤14の添加量が0.1ppm〜10000ppmであるので、内部離型剤14により離型性を十分に向上させることができ、さらに内部離型剤14がプラスチックレンズ180の外観へ悪影響を及ぼすおそれをなくすことができる。
【実施例1】
【0037】
本実施形態の効果を確認するための実施例について説明する。
[実施例1]
(プラスチックレンズの形成)
混合容器内に原料として、硫黄67g、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド267gを仕込んだ。
その後、混合容器内温度を65℃として混合攪拌を行った。次いで、触媒として2−メルカプト−1−メチルイミダゾール1.7gを加え、屈折率(20℃)1.679となるまで、60℃で予備反応を行った。
その後、得られた樹脂組成物を20℃に冷却した。そこへ、ベンジルメルカプタン17g、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.1g、ジ−n−ブチルスズジクロライド0.67g、内部離型剤14としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.353mgをよく混合し均一とした溶液を加えて均一な光学材料用樹脂とした。得られた光学材料用樹脂を、13×10Pa(10torr)、10分間、20℃の条件下で脱気処理した。
この樹脂を、成形用モールドを模した鋳型、つまり、2枚の鏡面仕上げのガラスモールドの周囲を粘着テープで保持して成形された鋳型の中に注入し、30℃から100℃まで20時間かけて昇温し、重合硬化させた。室温まで放冷した後、重合硬化された部材をモールドから離型し、硬化したプラスチックレンズを得た。
【0038】
[実施例2〜6]
内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)の添加量を0.1〜10000ppmに変えて、実験を行った。その他の条件は実施例1と同様である。内部離型剤14の添加量を表1に示す。
【0039】
[実施例7〜9]
内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)をテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリドに変更し、さらに、内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)の添加量を0.1〜10000ppmに変えて実験を行った。その他の条件は実施例1と同様である。内部離型剤14の添加量を表1に示す。
【0040】
[実施例10]
混合容器内に原料として、硫黄67g、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド267g、ベンジルメルカプタン3gを仕込んだ。
その後、容器内温度を65℃として混合攪拌を行った。次いで、触媒として2−メルカプト−1−メチルイミダゾール1.7gを加え、屈折率(20℃)1.679となるまで、60℃で予備反応を行った。
その後、得られた樹脂組成物を20℃に冷却した。そこへ、ベンジルメルカプタン14g、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.1g、ジn−ブチルスズジクロライド0.67g、内部離型剤14としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド0.353mgをよく混合し均一とした溶液を加えて均一な光学材料用樹脂とした。その他の条件は実施例1と同様である。
【0041】
[比較例1〜3]
内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)の添加量を0ppm〜20000ppmに変えて、実験を行った。その他の条件は実施例1と同様である。内部離型剤14の添加量を表2に示す。
【0042】
[比較例4]
内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)を65℃での混合攪拌前に混合し、実験を行った。その他の条件は実施例1と同様である。
【0043】
[比較例5〜7]
比較例2,3と同様にして、内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)をテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリドに変更し、さらに、内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)の添加量を0.05ppmおよび20000ppmに変えて、実験を行った。その他の条件は実施例1と同様である。内部離型剤14の添加量を表2に示す。
【0044】
[比較例7]
内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド)をテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリドに変更し、さらに、比較例4と同様に内部離型剤14(テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド)を65℃での混合攪拌前に混合し、実験を行った。その他の条件は実施例1と同様である。内部離型剤14の添加量を表2に示す。
【0045】
[比較例8、9]
冷却時の温度を5℃および40℃に変更させて実験を行った。その他の条件は比較例5と同様である。
【0046】
(評価方法)
実施例の効果を確認するために、離型性と外観の評価を行った。
離型性評価については、コバの薄い形状のレンズを重合した後、離型時にレンズの割れやクラックが生じる確率で判断した。評価基準はレンズの割れ、クラックの生じる確率が0%(○)、30%未満(△)、30%以上(×)とした。
外観評価については、重合後のレンズ外観を、暗箱での目視評価で判断した。評価基準はレンズに白濁が生じない(○)、白濁が多少あるが、レンズの品質には問題がない(△)、白濁がレンズの品質に影響を与える(×)とした。評価結果を表1に示す。
また、樹脂用組成物の屈折率の評価を行った。レンズの屈折率の評価は、アタゴ社のアッベ屈折率計を用いてe線(波長546nm)で測定した。
屈折率を測定するために、2mm厚のフラット板を生成して、測定に使用した。フラット板は、厚みが2mmとなる様にテープにて外周部を封止した2枚のガラス平板中に、樹脂組成物を注入し、レンズ基材の製造条件で、重合硬化、離型及びアニール処理して製造した。得られた2mm厚のプラスチック板の屈折率の測定を行ったところ、nd=1.75であった。
【0047】
[評価結果]
実施例1〜実施例10の評価結果を表1に示す。
比較例1〜比較例9の評価結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

※A:ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
B:ベンジルメルカプタン
C:硫黄
【0049】
【表2】

※離型性の判定
○:レンズに割れ、クラックが起こる確率が0%
△:レンズに割れ、クラックが起こる確率があるが、30%未満
×:レンズに割れ、クラックが起こる確率が30%以上
※外観の判定
○:歪、白濁などが見られない。
△:歪、白濁が多少あるが、レンズとしては問題がない。
×:歪、白濁が多く発生して、レンズに影響がある。
【0050】
実施例1,7,10は内部離型剤14を予備反応後に添加し、良好な離型性および外観を有するプラスチックレンズ180を得た。これに対し、比較例4,7は混合撹拌前に内部離型剤14を添加し、不良な外観のプラスチックレンズ180を得た。
よって、内部離型剤14を予備反応後に添加することで良好な外観のプラスチックレンズ180を得られることがわかった。
【0051】
実施例1〜10では、内部離型剤14の添加量は0.1ppm〜10000ppmであるのに対し、比較例2,5は0.05ppmである。このため、実施例1〜10は良好ないし問題ない離型性および外観を得ることができ、比較例2,5は内部離型剤14の添加量が足りず十分な離型性を得られなかった。また、比較例3では内部離型剤14を20000ppm添加したところ、離型性は良好であるが、外観は内部離型剤14により不良となった。
よって、内部離型剤14は0.1ppm〜10000ppmの範囲で添加することにより、離型性および外観の良好なプラスチックレンズ180を得られることがわかった。
【0052】
実施例1〜10では、予備反応後の冷却温度が20℃であるのに対し、比較例8,9はそれぞれ5℃、40℃である。このため、実施例1〜10は良好ないし問題ない離型性および外観を得ることができ、比較例8,9は外観不良となった。これは、比較例8では冷却温度が低すぎたために再結晶による析出が発生し、比較例9では冷却温度が高すぎたために冷却効果が薄く重合時の歪みが発生したためである。
よって、予備反応後の冷却温度は10℃以上35℃以下とすることにより、離型性および外観の良好なプラスチックレンズ180を得られることがわかった。
【0053】
また、実施例および比較例において内部離型剤14の種類による離型性および外観への影響は確認できないことから、内部離型剤14としてテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミドまたはテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリドのいずれを用いてもよいことがわかった。
【0054】
さらに、実施例10と実施例1,7との離型性および外観はともに良好であったため、予備反応におけるベンジルメルカプタンの存在の有無が離型性および外観になんら影響を与えるものではないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、眼鏡用プラスチックレンズに利用できる他、防塵ガラス、防塵水晶、コンデンサレンズ、プリズム、光ディスクの反射防止、ディスプレイの反射防止、太陽電池の反射防止、光アイソレータの製造方法として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る調合工程を示す図。
【図2】本発明の実施形態に係る注型重合用の凹型と凸型を示す図。
【図3】本発明の実施形態における注型重合用の成形モールドを示す図。
【図4】本発明の実施形態における原料供給装置と成形モールドを示す図。
【図5】本発明の実施形態における硬化工程を示す図。
【図6】本発明の実施形態におけるプラスチックレンズを示す図。
【符号の説明】
【0057】
L…硬化性組成物、L1…重合性組成物、L2…重合性組成物、11…化合物、12…含硫黄化合物、13…無機化合物、14…内部離型剤、110…凹型、111…凸面成形面、120…凸型、121…凹面成形面、130…粘着テープ、140…キャビティ、150…成形モールド、160…原料貯蔵供給装置、161…貯蔵容器、162…注入配管、163…バルブ、164…注入ノズル、170…恒温室(重合炉)、180…プラスチックレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のエピスルフィド基を有する化合物
(B)1分子中にSH基を1個以上有する含硫黄化合物
(C)硫黄原子およびセレン原子のうち少なくとも一方を有する無機化合物
(D)内部離型剤
の混合物を注型重合して得られるプラスチックレンズの製造方法において、
成分(A)、成分(B)および成分(C)のうち少なくとも前記成分(A)と前記成分(C)とを有する組成物を、
冷却しても各成分が再結晶により析出しなくなる状態になるまで予備反応させた後、
成分(D)を添加することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法であって、
前記予備反応後の冷却温度が、10℃以上かつ35℃以下であることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラスチックレンズの製造方法であって、
成分(D)の添加量が、成分(A),成分(B),成分(C)の合計量に対して、0.1ppm以上10000ppm以下であることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−105229(P2010−105229A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277812(P2008−277812)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】