説明

プラスチックレンズ及びプラスチックレンズの製造方法

【課題】 プラスチックレンズ基材上に、プラスチックレンズ基材の表面から順に、プライマー層、ハードコート層、有機薄膜で構成される有機系反射防止層を有するプラスチックレンズにおいて、耐久性、耐衝撃性、耐擦傷性に優れたプラスチックレンズおよびプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】 プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成し、プライマー層上に、金属酸化物微粒子と、一般式「R1SiX13」で表される有機珪素化合物と、ビフェニルスルフィド構造を有する化合物とを含有するコーティング組成物を用いてハードコート層を形成し、ハードコート層上にすくなくとも一般式「R2n3mSiX24-n-m」で表される有機珪素化合物と、平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子を含有するコーティング組成物を用いて、ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有する有機系反射防止層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ及びプラスチックレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性等に優れ、しかも割れにくく安全性も高いため、眼鏡レンズ分野において急速に普及してきている。また、近年では薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、チオウレタン系樹脂やエピスルフィド系樹脂等の高屈折率素材が開発されている。
一方、プラスチックレンズはガラスレンズに比べて傷つき易いため、一般的に、プラスチックレンズの表面にハードコート層を形成し、表面硬度を向上させている。また、表面反射を防止する目的でハードコート層の表面に無機物質を蒸着した反射防止層を成膜したり、さらに表面の撥水撥油性能を向上させる目的で反射防止層の表面にフッ素を含有する有機珪素化合物からなる防汚層を成膜している。このようにプラスチックレンズは、表面処理の技術革新により、高機能レンズとしてさらなる発展をしている。
【0003】
一方、ハードコート層と反射防止層の双方が設けられたプラスチックレンズでは耐衝撃性が著しく低下するといった欠点があり、このようなプラスチックレンズの耐衝撃性を向上させるアプローチについていくつかの手段が提案されている。
例えば、エステル系熱可塑性エラストマーを主成分とするプライマー組成物を用いて耐衝撃性を向上させる手法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このプライマー組成物は、特にプライマー層の表面に形成されたハードコートとの密着性が得られにくい性質があり、耐久性に問題があった。更にプライマー層により耐衝撃性は向上するものの、実使用上満足するレベルには至っていない。
【0004】
これとは別に、一般にプラスチックレンズは、耐熱性が低いという課題を有しており、プラスチックレンズ樹脂素材の高屈折率化に伴い、樹脂素材自体の耐熱性は低下する傾向がある。これにより、プラスチックレンズの熱膨張変形に対して上層に形成された無機反射防止層が追随できず、結果としてクモリやクラックなどを生じる問題があり、プラスチックレンズの高屈折率化に伴ってその問題が顕著になる傾向がある。
【0005】
このような問題に対して、有機薄膜からなる反射防止層を形成することでプラスチックレンズ基材の熱膨張変形に追随でき、耐熱性を向上させることが可能である。しかしながら、有機薄膜からなる反射防止層は、無機反射防止層に比べて空隙率が相対的に大きく、レンズ外からの酸素、水分、紫外光等のプラスチックレンズの耐久性を劣化させる因子を遮蔽する性質(保護効果)がほとんど期待できないため、無機反射防止層を用いる場合に比べて耐熱性は向上するものの、耐久性が低下する傾向がある。
【0006】
この耐久性を改善するために、下層に形成されたハードコート層自体の耐久性を向上させるアプローチ、あるいはハードコート層とプラスチック基材の層間にプライマー層を導入して密着性を向上させるアプローチが考えられる。
前者としてはルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を含むコーティング組成物を用いて、ハードコート層を形成する技術が提案されている。このハードコート層は、光活性の低い酸化チタンを用いているため、従来のアナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタンに比べ、耐久性が向上し、かつ高屈折率を維持することができる(例えば、特許文献1参照)。
後者としては、ケン化やプラズマ照射によるエッチングなどの表面改質手法と同様に、プライマー層を用いることにより、密着性を改善すると共に、耐衝撃性を向上させる効果を併せ持つ手法である。(例えば、特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開平11−310755号公報
【特許文献2】特開2000−144048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、有機薄膜からなる反射防止層を有するプラスチックレンズにおいて、ハードコートおよびプライマー技術を組み合わせた場合に、プライマー層とハードコート層の層間の密着性が得られにくく、耐久性が低下する問題点があった。また、耐衝撃性についてもある程度は向上するものの、十分なレベルには到達していなかった。この密着性および耐衝撃性が得られにくい理由として、プライマー層におけるバインダー樹脂とハードコート層におけるバインダー樹脂の結合力が不足していることが考えられる。この結合力を向上させるためには双方の密着性に寄与する官能基量を増やすことが必要であるが、このようなアプローチを取るとプライマー層およびハードコート層自体の架橋密度が低下し、耐擦傷性が低下する場合が多い。
【0009】
このように有機薄膜からなる反射防止層を有するプラスチックレンズにおいて、プライマー層とハードコート層を組み合わせた場合に、耐久性、耐衝撃性、耐擦傷性の全てに対応した性能を得ることが困難であった。
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、プラスチックレンズ基材上に、プラスチックレンズ基材の表面から順に、プライマー層、ハードコート層、有機系反射防止層を有するプラスチックレンズにおいて、耐久性、耐衝撃性、耐擦傷性に優れたプラスチックレンズ及びプラスチックレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を重ねた結果、特定構造を有する化合物をハードコート層に導入することにより、有機薄膜で構成される反射防止層を有する光学物品の耐久性、耐衝撃性、耐擦傷性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のプラスチックレンズは、プラスチックレンズ基材上に、前記プラスチックレンズ基材の表面から順に、プライマー層、ハードコート層、有機系反射防止層を有するプラスチックレンズにおいて、前記ハードコート層が少なくとも下記「A成分」、「B成分」、「C成分」を含有するコ−ティング組成物から形成された塗膜であることを特徴とする。
「A成分」;金属酸化物微粒子。
「B成分」;一般式、「R1SiX13」で表される有機珪素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は加水分解性基を表す)。
「C成分」:下記一般式(1)で表されるビフェニルスルフィド構造を有する化合物(式中、RおよびR´は炭化水素基もしくはヒドロキシル基、nは0〜5を表す)。
【0012】
【化1】

これによれば、C成分であるビフェニルスルフィド構造を有する化合物が、プライマー層およびハードコート層の双方の層間で密着成分として作用することにより、耐久性を向上させることができる。また、ビフェニルスルフィド構造は、剛直なベンゼン環が硫黄原子に結合した柔軟性を有する性質があり、プライマー層およびハードコート層の双方に接着しつつフレキシビリティーを発現すると考えられ、耐衝撃性を向上させることができる。さらに、ビフェニルスルフィド構造を有する化合物は、ハードコート層に使用するものの、プライマー層およびハードコート層の双方の層間に局在化していると考えられ、ハードコート層自体の架橋反応にはほとんど寄与しないため、耐擦傷性を低下させない効果を有する。
【0013】
また、本発明のプラスチックレンズは、前記「C成分」が前記コーティング組成物中に、前記コーティング組成物中の固形分に対して、0.03〜1.0重量%を含有することを特徴とする。ここで、コーティング組成物の固形分とは、コーティング組成物を乾燥硬化して得られる塗膜中に含まれる成分を示し、本発明において具体的には金属酸化物、有機珪素化合物、多官能エポキシ化合物、触媒の成分のことである。
これによれば、C成分であるビフェニルスルフィド構造を有する化合物が、0.03重量%未満の場合、プライマー層およびハードコート層の双方の層間で密着成分として作用すると共に、フレキシビリティーを発現する等の効果が不足して、耐久性および耐衝撃性が低下する。1.0重量%を超えると、ハードコート層自体の架橋反応に悪影響を与え、耐擦傷性が低下する。
【0014】
また、本発明のプラスチックレンズは、前記ハードコート層を形成するコーティング組成物中に、さらに多官能エポキシ化合物を含むことを特徴とする。
これによれば、前記ハードコート層を形成するコーティング組成物が、ビフェニルスルフィド構造を有する化合物であることにより、耐久性、耐衝撃性を向上できるが、コーティング組成物中に、さらに多官能エポキシ化合物を含むことで、ハードコート層の耐水性をより向上させると共に、下層に形成されたプライマー層との密着性を更に安定化することができる。
【0015】
また、本発明のプラスチックレンズは、前記プライマー層がポリエステル樹脂を含有するコーティング組成物から形成された塗膜であることを特徴とする。
これによれば、プライマー層に用いる樹脂としてエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂など様々な樹脂が選択可能である。その中でもポリエステル樹脂を用いることにより、耐久性、耐衝撃性、コーティング液のポットライフ、吸湿安定性、染色安定性、低温硬化性などを発現することができる。
【0016】
ポリエステル樹脂はプラスチックレンズ基材との密着性、耐衝撃性、耐擦傷性などに優れる性質を有するが、上層に形成されたハードコート層と密着性が得られ難い課題があった。これに対して「C成分」を併用することにより、ビフェニルスルフィド構造を有する化合物がプライマー層およびハードコート層双方の層間で密着成分として作用することにより、耐久性を向上させることができる。また、ビフェニルスルフィド構造は剛直なベンゼン環が硫黄原子に結合した柔軟性を有する性質があり、プライマー層およびハードコート層の双方に接着しつつフレキシビリティーを発現すると考えられ、耐衝撃性を向上させることができる。さらに、ビフェニルスルフィド構造を有する化合物はハードコート層に使用するものの、プライマー層およびハードコート層双方の層間に局在化していると考えられ、ハードコート層自体の架橋反応にはほとんど寄与しないため、耐擦傷性を低下させない効果を有する。
【0017】
また、本発明のプラスチックレンズは、前記有機系反射防止層が少なくとも下記「D成分」および「E成分」を含有するコーティング組成物から形成された塗膜からなり、前記ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有することを特徴とする。
「D成分」;一般式、「R2n3mSiX24-n-m」で表される有機珪素化合物(式中、R2は重合可能な反応基を有する有機基、R3は炭素数1〜6の炭化水素基、X2は加水分解性基、nは0又は1、mは0又は1を表す)。
「E成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子。
【0018】
これによれば、反射防止層が少なくとも「D成分」および「E成分」を含有するコーティング組成物から形成された有機系薄膜であることにより、プラスチックレンズ基材の熱膨張変形に追随することが可能となるため、耐熱性を向上させることができる。また、有機系薄膜自体の耐擦傷性を発現すると共に、下層に形成されたハードコート層への密着性、および低反射率を得るための低屈折率を発現することができる。
【0019】
また、本発明のプラスチックレンズの製造方法は、プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成する工程と、前記プライマー層上に、少なくとも下記「A成分」、「B成分」、「C成分」を含有するコーティング組成物を用いてハードコート層を形成する工程と、前記ハードコート層上に、少なくとも下記「D成分」および「E成分」を含有するコーティング組成物を用いて、前記ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有する有機系反射防止層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
「A成分」;金属酸化物微粒子。
「B成分」;一般式、「R1SiX13」で表される有機珪素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は加水分解性基を表す)。
「C成分」;下記一般式(1)で表されるビフェニルスルフィド構造を有する化合物(式中、RおよびR´は炭化水素基もしくはヒドロキシル基、nは0〜5を表す)。
【0020】
【化2】

「D成分」;一般式、「R2n3mSiX24-n-m」で表される有機珪素化合物(式中、R2は重合可能な反応基を有する有機基、R3は炭素数1〜6の炭化水素基、X2は加水分解性基、nは0又は1、mは0又は1を表す)。
「E成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子。
【0021】
この製造方法によれば、プラスチックレンズ基材上にプライマー層が形成され、このプライマー層上に、少なくとも「A成分」、「B成分」、「C成分」を含有するコーティング組成物を用いてハードコート層が形成されることにより、コーティング組成物に含まれる「C成分」としてのビフェニルスルフィド構造を有する化合物が、プライマー層およびハードコート層の双方の層間で密着成分として作用しつつフレキシビリティーを発現することにより、耐久性、耐衝撃性を向上させることができる。さらに、ハードコート層上に形成される有機系反射防止層が、少なくとも「D成分」および「E成分」を含有するコーティング組成物から形成されることにより、プラスチックレンズ基材の熱膨張変形に追随することが可能となり、耐熱性を向上させることができると共に、有機系反射防止層自体の耐擦傷性を発現し、下層に形成されたハードコート層への密着性、および低反射率を得るための低屈折率を発現することができる。すなわち、耐久性、耐衝撃性、耐擦傷性に優れたプラスチックレンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のプラスチックレンズ及びプラスチックレンズの製造方法の実施形態を説明する。
本実施形態のプラスチックレンズは、プラスチックレンズ基材と、プラスチックレンズ基材表面に形成されたプライマー層と、このプライマー層の上面に形成されたハードコート層と、このハードコート層の上面に形成された有機系反射防止層とを有する。
以下、プラスチックレンズ基材、プライマー層、ハードコート層、および有機系反射防止層(以後、反射防止層と表す)について説明する。
【0023】
(1.プラスチックレンズ基材)
プラスチックレンズ基材(以後、レンズ基材と表す)の材質としては、プラスチック樹脂であれば特に限定されないが、レンズ基材表面の上層に形成される有機薄膜からなる反射防止層との屈折率差を得るために、屈折率が1.6以上のレンズ素材が好ましい。屈折率が1.6以上のレンズ素材として、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチック、あるいはエピスルフィド基を有する化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造されるエピスルフィド系プラスチック等が挙げられる。
【0024】
ポリチオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物としては、公知の化合物を用いることができる。
イソシアナート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0025】
また、メルカプト基を持つ化合物としては、公知の化合物を用いることができる。
例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール等の脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。
【0026】
また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外に、硫黄原子を含むポリチオールをより好ましく用いることができる。具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパン等が挙げられる。
【0027】
エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。
例えば、既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。
【0028】
また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも、硫黄原子を含有する化合物がより好ましく用いることができる。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
【0029】
本発明におけるレンズ基材の重合方法としては、特に限定されることなく、一般にレンズ基材の製造に用いられている重合方法を用いることができる。
例えば、素材としてビニル系モノマーを用いる場合には、有機過酸化物等の熱重合開始剤を用いて熱硬化を行い、レンズ基材を製造することができる。また、ベンゾフェノン等の光重合開始剤を用いて、紫外線を照射することによってモノマーを硬化させ、レンズ基材を製造することもできる。
【0030】
また、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチックを用いる場合には、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を混合した後、ウレタン樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって製造できる。硬化触媒の具体例としては、エチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド等が挙げられる。
【0031】
さらに、レンズ素材としてエピスルフィド基を有する化合物を含む原料モノマーを重合硬化して得られるエピスルフィド系のプラスチックを用いる場合には、エピスルフィド基を持つ化合物を単独で、またはエピスルフィド基と共重合可能な他のモノマーと混合した後、エポキシ樹脂用の硬化触媒を添加、混合し、加熱により重合硬化を行うことによって製造できる。
【0032】
エポキシ樹脂用の硬化触媒は特に制限なく用いることができる。具体例としては、ジメチルベンジルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、トリジメチルアミノメチルフェノール等の3級アミン、エチルメチルイミダゾール等のイミダゾール類、などが挙げられる。
また、エピスルフィド基を持つ化合物と共重合可能な他のモノマーとしては、水酸基を持つ化合物、メルカプト基を持つ化合物、1級または2級アミン、カルボキシル基を持つ化合物などが挙げられる。
【0033】
水酸基を持つ化合物の具体例としては、イソプロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート等の多価アルコール類が挙げられる。メルカプト基を持つ化合物の具体例としては、チオフェノール、エチルチオグリコレート、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン等が挙げられる。
【0034】
(2.プライマー層)
プライマー層は、レンズ基材表面に形成される。プライマー層は、前記プラスチックレンズ基材と後述するハードコート層の双方の界面に存在して、レンズ基材上に形成される表面処理膜の耐久性を向上させる役割を担う。加えて外部からの衝撃吸収層としての性質も併せ持ち、耐衝撃性を向上させる性質も有する。また、プライマー層は、バインダー成分としての樹脂と、フィラー成分としての金属酸化物微粒子を含有したコーティング組成物を用いて形成される。
【0035】
バインダー成分としての樹脂は、レンズ基材とハードコート層の双方に密着性を発現する。フィラー成分としての金属酸化物微粒子は、プライマーの屈折率を発現すると共に、プライマー層の架橋密度向上に作用して、耐水性、耐候性、耐光性の向上を図ることができる。
【0036】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等を用いることができる。これらの樹脂の内、耐久性、耐衝撃性、液ポットライフ、吸湿安定性、染色安定性、低温硬化性などの観点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。ポリエステル樹脂は、樹脂中に密着性に作用する官能基が多数存在しており、レンズ基材およびハードコート層に対して、優れた密着性が得られるため、耐久性が向上する。
【0037】
ポリエステル樹脂としては、「特開2000−144048号公報」(特許文献1)に記載されているポリエステル系熱可塑性エラストマーを例示することができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント(H)構成成分にポリエステル、ソフトセグメント(S)構成成分にポリエーテルまたはポリエステルを用いたマルチブロック共重合体である。ハードセグメントとソフトセグメントとの重量比率[H/S]は、[30/70]〜[90/10]の範囲、望ましくは[40/60]〜[80/20]の範囲である。
【0038】
ハードセグメント構成成分としてのポリエステルは、基本的には、ジカルボン酸類と低分子グリコールよりなる。
ジカルボン酸類としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、デカメチレンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等の炭素数4〜20の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、ε−オキシカプロン酸等の脂肪族オキソカルボン酸、ダイマー酸(二重結合を有する脂肪族モノカルボン酸を二量重合させた二塩基酸)等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらのうち、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸を好ましく用いることができる。
【0039】
低分子グリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコール等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールを好ましく用いることができる。
【0040】
一方、ソフトセグメント構成成分としてのポリエステルは、ジカルボン酸類と長鎖グリコールよりなる。
ジカルボン酸類としては、前記ハードセグメント構成成分としてのポリエステルと同様なものが挙げられる。
長鎖グリコールとしては、ポリ(1,2−ブタジエングリコール)、ポリ(1,4−ブタジエングリコール)及びその水素添加物等が挙げられる。また、ε−カプロラクトン(C6)、エナントラクトン(C7)及びカプロリロラクトン(C8)もポリエステル成分として有用である。これらのうち、ε−カプロラクトンを好ましく用いることができる。
【0041】
また、ソフトセグメント構成成分のポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等のポリ(アルキレンオキシド)グリコール類が挙げられる。これらの内、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを好ましく用いることができる。
【0042】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの製造方法としては、例えばジカルボン酸の低級アルキルエステルを、脂肪族長鎖グリコール及び過剰の低分子グリコールをテトラブチルチタネート等の触媒の存在下で、150〜200℃の温度で加熱することにより、エステル交換反応を行い、低重合体を形成する。そして、形成された低重合体を、高真空下で、220〜280℃の温度で加熱攪拌することにより重縮合を行い、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを得る。なお、低重合体は、ジカルボン酸と長鎖グリコール及び低分子グリコールとの直接エステル化反応によっても得ることができる。
【0043】
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、他のポリマーと混合して使用することができる。例えば、通常のエステル系樹脂(PBT、PET等)、アミド系樹脂、あるいはアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらのポリマーを混合して用いる場合のポリマー全体に占める割合は、50%未満、望ましくは30%未満である。
【0044】
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、溶液タイプのプライマー組成物に調製することができる。しかし、加工性及び環境保護の観点より水性エマルジョンのプライマー組成物として使用することが望ましい。この水性エマルジョン化は慣用の方法により行うことができるが、具体的には、ポリマーを界面活性剤(外部乳化剤)の存在下、高い機械的剪断をかけて強制的に乳化させる強制乳化法が望ましい。
【0045】
一方、フィラー成分としての金属酸化物微粒子としては、Si、Al、Ti、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等金属酸化物を用いることができる。このうち、屈折率、透明性、耐光性、安定性などの観点から酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。また、酸化チタンと他の無機酸化物との複合粒子であってもよく、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In等の金属の酸化物と、酸化チタンとが複合したものを使用することができる。この複合酸化物微粒子の平均粒径は1〜200nmで好ましく、5〜30nmがより好ましい。
【0046】
また、金属酸化物微粒子は分散媒、例えば水、アルコール、もしくはその他の有機溶媒に分散させたものを用いるのが好ましい。この場合には、金属酸化物微粒子の分散安定性を高めるために、無機酸化物粒子の表面を有機珪素化合物、アミン系化合物で処理してもよい。
この処理の際に使用される有機珪素化合物としては、単官能性シラン、二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等が例示できる。
【0047】
アミン系化合物としては、アンモニウム、エチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが例示できる。なお、これらの有機珪素化合物、アミン化合物の添加量は、無機酸化物粒子の重量に対して1〜15重量%程度の範囲であることが好ましい。 このうち、エポキシ基を有する有機珪素化合物で処理することが好ましい。エポキシ基を有する有機珪素化合物で処理された金属酸化物微粒子を用いることにより、ポリエステル樹脂との結合点を増やすことができ、プライマー膜の架橋密度をさらに向上させ、耐久性が向上する。
【0048】
そして、金属酸化物微粒子として酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を用いる場合には、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合酸化物核粒子を含むことが好ましい。但し、後述するハードコート層にルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を使用する場合には、ハードコート層が紫外線吸収性能を有するため、プライマー層にはルチル型よりも光活性作用が高いアナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合酸化物微粒子を用いることも可能である。
【0049】
さらに、酸化チタン以外の無機酸化物微粒子として、酸化スズを使用することも可能である。例えば、酸化スズもしくは酸化スズ粒子と酸化ジルコニウム粒子、または酸化スズ粒子と酸化ジルコニウム粒子と酸化珪素粒子等の複合微粒子を核として、その表面を酸化珪素、酸化ジルコニウム、五酸化アンチモン、酸化アルミニウム等の1種もしくは2種以上からなる複合コロイド粒子で被覆された無機酸化物微粒子を用いることも可能である。酸化スズは酸化チタンに比べて屈折率は低く、高屈折率のプライマー層を得るためには使用量を多くする必要があるものの、酸化チタンのような光活性作用は少ないと考えられ、プライマー層およびハードコート層自体の耐久性が要求される場合において好ましい組合せである。
【0050】
しかしながら、耐光性および屈折率の点から、プライマー層についてもルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合酸化物微粒子を用いることがより好ましい。ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合酸化物微粒子は、耐光性に優れている上、アナターゼ型に比べて屈折率が高いために、プライマー膜中での使用量を減らせることができ、密着性に寄与する樹脂成分を増量することができる。
【0051】
このようにして得られるプライマー層形成用のコーティング組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。
また、コーティング組成物は、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0052】
さらに、コーティング用組成物(コーティング液)の塗布にあたっては、レンズ基材とプライマー層の密着性の向上を目的として、レンズ基材の表面を予め前処理するのが好ましい。前処理は、アルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、無機あるいは有機の微粒子による剥離/研磨処理、プラズマ処理等を用いることができる。
【0053】
また、コーティング用組成物の塗布/硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フローコート法等を用いてコ−ティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱/乾燥することにより、プライマー層を形成できる。プライマー層の膜厚は、0.01〜30μm、特に0.05〜30μmの範囲が好ましい。プライマー層が薄すぎると耐久性や耐衝撃性の性能が発現できず、逆に厚すぎると表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪や白濁、曇りなどの外観欠点を発生する場合がある。
【0054】
(3.ハードコート層)
ハードコート層は、レンズ基材表面に形成されたプライマー層上に形成される。
また、ハードコート層は、干渉縞を抑制する目的で、高屈折率のプラスチックレンズ基材と同程度の、高い屈折率が要求される。ハードコート層の高屈折率化への対応は、高屈折率を有する無機酸化物微粒子を用いる方法が一般的であり、具体的には、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、Tiから選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物(これらの混合物を含む)、及び/又は2種以上の金属を含む複合酸化物からなる無色透明の無機酸化物微粒子が用いられる。このうち、屈折率、透明性、分散安定性等の点から酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子が一般的に用いられる。
【0055】
しかしながら、酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子をハードコート層用の金属酸化物として用いた場合には次のような問題があった。酸化チタンは、光(紫外線)エネルギーを受けると活性を帯び、強い酸化分解力により、有機物を分解するという特性を有する(以後、光活性と表す)。その結果、酸化チタンがハードコート膜の構成成分として含有されている場合、光活性によりもう一つの主構成成分であるシランカップリング剤等の有機物を分解して、ハードコート膜のクラックや膜剥がれを発生させ、耐久品質が低下する傾向にある。
【0056】
これに対して、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物を用いることが好ましい。即ち、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を使用することで、酸化チタンの光活性に起因する種々の不具合点を改善することができる。それは、酸化チタンを含有する金属酸化物の結晶構造をアナターゼ型に代えてルチル型にすることによって耐候性や耐光性がより向上し、かつ屈折率はアナターゼ型の結晶よりもルチル型の結晶の方が高いので、比較的屈折率の高い無機酸化物微粒子が得られる。
【0057】
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンは、アナタ−ゼ型の酸化チタンが光(紫外線)エネルギーを受けると活性を帯び、強い酸化分解力により、有機物を分解するという特性を有するのと異なり、このような光活性が低い。これは、光(紫外線)を照射すると酸化チタンの価電子帯の電子が励起されて、OHフリーラジカルとHO2フリーラジカルができ、この強力な酸化力により有機物を分解するが、アナターゼ型酸化チタンよりルチル型酸化チタンの方が熱エネルギー的に安定であるため、フリーラジカルの生成量が極めて少ないためである。よって、ルチル型の結晶構造の酸化チタンを配合したハードコート層が耐候性や耐光性に優れているため、有機薄膜で構成される反射防止膜がハードコート層によって変質されるおそれが無く、耐候性や耐光性に優れたプラスチックレンズが得られる。
【0058】
そして、本実施形態のプラスチックレンズにおけるハードコート層は、少なくとも下記に示す「A成分」、「B成分」、「C成分」を含有するコ−ティング組成物から形成される。
「A成分」;金属酸化物微粒子。「B成分」;一般式、「R1SiX13」で表される有機珪素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は加水分解性基を表す)。「C成分」;下記一般式(1)で表されるビフェニルスルフィド構造を有する化合物(式中、RおよびR´は炭化水素基もしくはヒドロキシル基、nは0〜5を表す)。
【0059】
【化3】

先ず、「A成分」としての金属酸化物微粒子について説明する。
「A成分」は、酸化チタン及び酸化スズ、又は酸化チタン、酸化スズ及び酸化珪素からなるルチル型の結晶構造を有する複合酸化物の核粒子の表面を、酸化珪素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムからなる複合酸化物の被覆層で被覆したものを含む平均粒径1〜200nmの金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。
【0060】
先に述べたように、酸化チタンに光(紫外線)を照射すると酸化チタンの価電子帯の電子が励起されて、OHフリーラジカルとHO2フリーラジカルができ、この強力な酸化力により有機物を分解するが、アナターゼ型酸化チタンよりルチル型酸化チタンの方が熱エネルギー的に安定であるため、フリーラジカルの生成量が極めて少ない。しかし、このルチル型酸化チタンにおいてもフリーラジカルは生成されるため、複合酸化物からなる核粒子の表面を、酸化珪素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムからなる複合酸化物の被覆層で被覆したものを使用することが好ましい。これは、核粒子で生成されたフリーラジカルは、同様に強力な酸化力を有しているものの不安定であるため、被覆層を通過する間に被覆層の触媒作用により消滅するからである。
【0061】
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを得る手法はいくつか考えられるが、酸化スズとの複合酸化物、さらに酸化珪素を加えた複合酸化物とすることが好ましい。酸化スズとの複合酸化物を加えた場合、無機酸化物微粒子中に含まれる酸化チタン及び酸化スズの量は、酸化チタンをTiO2に換算し、酸化スズをSnO2に換算したとき、[TiO2/SnO2]の重量比が[1/3]〜[20/1]、好ましくは[1.5/1]〜[13/1]の範囲にあることが望ましい。
【0062】
SnO2の量を上記重量比の範囲よりも少なくしていくと、結晶構造がルチル型からアナターゼ型にシフトしていき、ルチル型の結晶とアナターゼ型の結晶を含む混晶になる、あるいはアナターゼ型の結晶となる。また、SnO2の量を上記重量比の範囲よりも多くしていくと、酸化チタンのルチル型結晶と酸化スズのルチル型結晶の中間にあるルチル型の結晶構造となり、いわゆる酸化チタンのルチル型結晶とは異なる結晶構造を示すようになり、しかも得られる無機酸化物微粒子の屈折率も低下する。
【0063】
また、酸化スズとの複合酸化物、さらに酸化珪素を加えた複合酸化物を加えた場合、無機酸化物微粒子中に含まれる酸化チタン、酸化スズ、及び酸化珪素の量は、酸化チタンをTiO2に換算し、酸化スズをSnO2に換算し、酸化珪素をSiO2に換算したとき、[TiO2/SnO2]の重量比が[1/3]〜[20/1]、好ましくは[1.5/1]〜[13/1]の範囲にあり、かつ[(TiO2+SnO2)/SiO2]の重量比が[50/45]〜[99/1]、好ましくは[70/30]〜[98/2]の範囲にあることが望ましい。
【0064】
SnO2の含有量については、酸化スズとの複合酸化物を加えた場合と同様であるが、これに酸化珪素を含ませることにより、得られる無機酸化物微粒子の安定性と分散性を向上させることができる。ここで、SiO2の量を上記重量比の範囲よりも少なくしていくと、安定性と分散性が低下する。また、SiO2の量を上記重量比の範囲よりも多くしていくと、この安定性と分散性はより向上するが、得られる無機酸化物微粒子の屈折率が低下するので好ましくない。しかし、このルチル型酸化チタンにおいてもフリーラジカルは生成される。これについては、酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子として、酸化チタンを含有する2種以上の複合酸化物を含む無機酸化物微粒子を使用した場合も同様である。
【0065】
そして、ルチル型の結晶構造を有する複合酸化物からなる核粒子の表面を、酸化珪素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムからなる複合酸化物の被覆層で被覆する。
被覆層に含まれる酸化珪素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムの含有量は、用いる複合酸化物の組み合わせにより、以下の(a)〜(c)に示す3項のうちから選択することが好ましい。
【0066】
(a)被覆層が酸化珪素と酸化ジルコニウムの複合酸化物で形成される場合
被覆層に含まれる酸化珪素と酸化ジルコニウムの量は、酸化珪素をSiO2に換算し、酸化ジルコニウムをZrO2に換算したとき、[SiO2/ZrO2]の重量比が[50/50]〜[99/1]、好ましくは[65/35]〜[90/10]の範囲にあることが望ましい。
【0067】
ZrO2の量が上記[SiO2/ZrO2]の重量比の範囲より多くなると、フリーラジカルをトラップすることのできるZr原子は増加するが、被覆層にひずみが生じて緻密な被覆層が形成されないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。また、ZrO2の量が上記[SiO2/ZrO2]の重量比の範囲より少なくなると、緻密な被覆層はでき易くなるが、フリーラジカルをトラップするためのZr原子が少ないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。
【0068】
(b)被覆層が酸化珪素と酸化アルミニウムの複合酸化物で形成される場合
被覆層に含まれる酸化珪素と酸化アルミニウムの量は、酸化珪素をSiO2に換算し、酸化アルミニウムをAl23に換算したとき、[SiO2/Al23]の重量比が[60/40]〜[99/1]、好ましくは[68/32]〜[95/5]の範囲にあることが望ましい。
【0069】
ここで、Al23の量が上記[SiO2/Al23]の重量比の範囲より多くなると、フリーラジカルをトラップすることのできるAl原子は増加するが、緻密な被覆層ができないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。また、Al23の量が上記[SiO2/Al23]の重量比の範囲より少なくなると、緻密な被覆層はでき易くなるが、フリーラジカルをトラップするためのAl原子が少ないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。
【0070】
(c)被覆層が酸化珪素と酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムの複合酸化物で形成される場合
被覆層に含まれる酸化珪素と酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムの量は、酸化珪素をSiO2に換算し、酸化ジルコニウムをZrO2に換算し、酸化アルミニウムをAl23に換算したとき、[SiO2/(ZrO2+Al23)]の重量比が[98/2]〜[6/4]、好ましくは[95/5]〜[7/3]の範囲にあることが望ましい。
【0071】
ZrO2とAl23の合計量が上記重量比の範囲より多くなると、フリーラジカルをトラップすることのできるZr原子とAl原子の合計量は増加するが、緻密な被覆層ができないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。また、ZrO2とAl23の合計量が上記重量比の範囲より少なくなると、緻密な被覆層はでき易くなるが、フリーラジカルをトラップするためのZr原子とAl原子の合計量が少ないため、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことになる。
また、被覆層の厚さは、核粒子で生成したフリーラジカルが無機酸化物微粒子の表面に出てきて、有機物の酸化を招くことを防ぐ観点から、0.02〜2.27nm、好ましくは0.16〜1.14nmの範囲にあることが望ましい。
【0072】
なお、ここでいう核粒子を構成する複合酸化物は、酸化チタン及び酸化スズからなる複合固溶体酸化物(ドープされた複合酸化物を含む)及び/又は複合酸化物クラスター、或いは酸化チタン、酸化スズ及び酸化珪素からなる複合固溶体酸化物(ドープされた複合酸化物を含む)及び/又は複合酸化物クラスターを意味する。また、核粒子及び/又は被覆層を構成する複合酸化物は、末端にOH基を有する複合含水酸化物であってもよく、さらに複合含水酸化物を一部含むものであってもよい。
【0073】
酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子の平均粒径は、1〜200nm、好ましくは5〜30nmの径の範囲が望ましい。平均粒径が1nm未満であると、プラスチックレンズ基材上にハードコート層を形成するための乾燥過程で、粒子同士がブリッジ化して均一に収縮しなくなり、さらにはその収縮率も低下して、充分な膜硬度を有するハードコート層が得られなくなる。一方、平均粒径が200nmを超えると、ハードコート層が白色化し、光学部品の用途には適さなくなる。
【0074】
また、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子は単独で用いても良く、あるいは他の無機酸化物粒子と併用してもよい。他の無機酸化物粒子としては、Si,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,Inから選ばれる1種又は2種以上の金属の酸化物(これらの混合物を含む)、及び/又は2種以上の金属を含む複合酸化物からなる無機酸化物微粒子を例示することができる。
【0075】
無機酸化物微粒子の具体的な例としては、平均粒径1〜200nmのルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する無機酸化物微粒子が、例えば水、アルコ−ル系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散した分散媒である。市販品の分散媒としては、酸化チタン及び酸化スズ、又は酸化チタン、酸化スズ及び酸化珪素からなるルチル型の結晶構造を有する複合酸化物の核粒子の表面を、酸化珪素と酸化ジルコニウム及び/又は酸化アルミニウムからなる複合酸化物の被覆層で被覆した平均粒径8〜10nmの無機酸化物微粒子を含むコーティング用の分散ゾル(触媒化成工業(株)製、オプトレイク)等を挙げることができる。
【0076】
さらにコーティング用組成物での分散安定性を高めるために、これらの無機酸化物微粒子表面を有機珪素化合物またはアミン系化合物、さらには酒石酸、リンゴ酸等のカルボン酸で処理したものを使用することも可能である。
この際に用いられる有機珪素化合物としては、単官能性シラン、二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等が挙げられる。また、処理に際しては加水分解性基を未処理で行う、あるいは加水分解して行ってもよい。さらに加水分解処理後は、加水分解性基が微粒子の−OH基と反応した状態が好ましいが、一部残存した状態でも安定性には何ら問題がない。
【0077】
また、アミン系化合物としてはアンモニウムまたはエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。なお、これらの有機珪素化合物、アミン化合物等の添加量は、無機酸化物粒子の重量に対して1〜15重量%程度の範囲であることが好ましい。
【0078】
無機酸化物微粒子の種類や配合量は、目的とする硬度や屈折率等により決定されるものであるが、配合量はハードコート組成物中の固形分の5〜80重量%、特に10〜50重量%の範囲であることが望ましい。配合量が少なすぎると、塗膜の耐摩耗性が不十分となる場合がある。一方、配合量が多すぎると、塗膜にクラックが生じ、染色性も不十分となる場合がある。
【0079】
次に「B成分」(一般式:「R1SiX13」で表される有機珪素化合物)について説明する。
「B成分」は、ハードコート層のバインダー剤としての役割を果たす。一般式:「R1SiX13」中、R1は、重合可能な反応基を有する有機基であり、炭素数は2以上である。R1はビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、1−メチルビニル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基等の重合可能な反応基を有する。
また、X1は、加水分解可能な官能基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0080】
「B成分」の有機珪素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン等があげられる。
この「B成分」の有機珪素化合物は、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0081】
そして、「A成分」を「B成分」と混合して、ハードコート層を形成するためのハードコート液を製造する。製造の際には、「A成分」が分散したゾルと、「B成分」とを混合することが好ましい。
「A成分」の配合量は、ハードコート層の硬度や、屈折率等により決定されるものであるが、ハードコート液中の固形分の5〜80重量%、特に10〜50重量%であることが好ましい。配合量が少なすぎると、ハードコート層の耐磨耗性が不十分となり、配合量が多すぎると、ハードコート層にクラックが生じることがある。また、ハードコート層を染色する場合には、染色性が低下する場合もある。
【0082】
次いで、「C成分」であるビフェニルスルフィド構造を有する化合物について説明する。
「C成分」はプライマー層およびハードコート層双方の層間で密着成分として作用することにより、耐久性を向上させることができる。また、ビフェニルスルフィド構造は剛直なベンゼン環が硫黄原子に結合した柔軟性を有する性質があり、プライマー層およびハードコート層の双方に接着しつつフレキシビリティーを発現すると考えられ、耐衝撃性を向上させることができる。さらに、ビフェニルスルフィド構造を有する化合物は、ハードコート層に使用するものの、プライマー層およびハードコート層双方の層間に局在化していると考えられ、ハードコート層自体の架橋反応にはほとんど寄与しないため、耐擦傷性を低下させない効果を有する。
【0083】
ビフェニルスルフィド構造を有する化合物としては、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾール、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)などが挙げられる。
添加量としては、コーティング組成物の固形分重量に対して、0.01〜5.0重量%が好ましく、0.03〜1.0重量%がより好ましい。ここで、コーティング組成物の固形分とは、コーティング組成物を乾燥硬化して得られる塗膜中に含まれる主要成分のことである。また、固形分重量とは、コーティング組成物における金属酸化物ゾル、有機珪素化合物、多官能エポキシ化合物、触媒など主要成分を総じた重量である。
ビフェニルスルフィド構造を有する化合物が0.01重量%より少ないと上記の効果が不足して耐久性および耐衝撃性が低下し、逆に5.0重量%より多すぎるとハードコート層自体の架橋反応に悪影響を与え、耐擦傷性が低下する。
【0084】
更に、ハードコート層に多官能性エポキシ化合物を含有することが非常に有用である。多官能性エポキシ化合物は、前記ビフェニルスルフィド構造を有する化合物により耐久性、耐衝撃性を向上できるが、これに併用することでハードコートの耐水性を向上させ、かつ下地のプライマー層との密着性を更に安定化することができる。特に多官能エポキシ化合物の分子中にヒドロキシル基が存在すると、プライマー層との密着性が向上することが認められる。従って、一分子中に一個以上のヒドロキシル基を含む多官能エポキシ化合物を用いることによって、この多官能エポキシ化合物全体の配合量を減らすことが可能であるため、耐擦傷性の低下を招くことなく、耐久性を向上させることが可能である。加えて、ハードコート層の上面に後述する反射防止膜を有機薄膜で形成した場合には、反射防止膜の膜厚が非常に薄くなることが多く、特に、反射防止膜に内部空洞を有するシリカ系粒子を使用する場合には、水分を通すために、ハードコート層に耐水性が必要となる。よって多官能エポキシ化合物は非常に有用である。
【0085】
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールヒドロキシヒバリン酸エステルのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートのジグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートのトリグリシジルエーテル、等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエーテル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
【0086】
このうち、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートのトリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物を好ましく用いることができる。
【0087】
さらに、ハードコート層に硬化触媒を添加してもよい。硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。
【0088】
このうち好ましい硬化触媒としては、過塩素酸マグネシウム、Al(III),Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセトナートが挙げられる。特に、Fe(III)を中心金属原子とするアセチルアセナートを使用することが最も好ましい。
硬化触媒の添加量は、ハードコート液の固形分の0.01〜5.0重量%の範囲内が望ましい。
【0089】
このようにして得られるハードコート層形成用のコーティング用組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。また、ハードコート層形成用のコーティング用組成物は、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0090】
また、コーティング用組成物の塗布、および硬化方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、あるいは、フローコート法によりコーティング用組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート被膜を形成することができる。
なお、ハードコート層の膜厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。膜厚が0.05μm未満では、基本性能が実現できない。また、膜厚が30μmを越えると表面の平滑性が損われたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。
【0091】
(4.反射防止層)
反射防止層は、ハードコート層上に形成される。
形成される反射防止層は、ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有し、かつ50nm〜150nmの膜厚の有機薄膜である。
【0092】
反射防止層を形成する有機薄膜としては、ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有し、かつ50nm〜150nmの膜厚であれば制限はないが、シリコーン系、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系、メラミン系などの樹脂、またはその原料モノマーを単独に用いて成膜した有機薄膜、あるいはこれらの樹脂、またはその原料モノマーと他の樹脂またはその原料モノマーとを2種以上併用して成膜した有機薄膜を好ましく用いることができる。
【0093】
このうち特に、プラスチックレンズとしての耐熱性、耐薬品性、耐擦傷性、などの諸特性を考慮した場合は、シリコーン系樹脂を含む低屈折率層とすることが好ましい。また、表面硬度の向上、あるいは屈折率の調整のため、微粒子状無機物などを添加することがより好ましい。添加する微粒子状無機物としては、コロイド状に分散したゾルなどが挙げられ、具体的には、シリカゾル、フッ化マグネシウムゾル、フッ化カルシウムゾルなどが挙げられる。
【0094】
また、反射防止層は、下記に示す「D成分」、および「E成分」を含有するコーティング用組成物を用いて、有機薄膜が形成される。
「D成分」は、一般式、「R2n3mSiX24-n-m」で表される有機珪素化合物(式中、R2は重合可能な反応基を有する有機基、R3は炭素数1〜6の炭化水素基、X2は加水分解基、nは0又は1、mは0又は1を表す)であり、「E成分」は、平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子である。
【0095】
「D成分」としての有機珪素化合物は、一般式「R2n3mSiX24-n-m」中のR2の重合可能な反応基を有する有機基として、例えばビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。R3の炭素数1〜6の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基、パーフルオロアルキル基等が挙げられる。X2の加水分解可能な官能基(加水分解基)の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0096】
こうした一般式「R2n3mSiX24-n-m」に基づく有機珪素化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、パーフルオロアルキルトリアルコキシシラン、パーフロオロアルキルトリクロロシラン等が挙げられる。
【0097】
「E成分」としてのシリカ系微粒子は、平均粒径1〜150nmシリカ系微粒子を、例えば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒からなる分散媒に、コロイド状に分散させたシリカゾルを挙げることができる。また、低屈折率化のために、例えば内部に空洞ないし空隙が形成されているシリカ系微粒子からなるシリカゾルを用いることが好ましい。シリカ系微粒子の内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、反射防止層の低屈折率化が達成される。
【0098】
内部に空洞を有するシリカ系微粒子は、「特開2001−233611号公報」に記載されている方法等で製造することができるが、本実施形態では、平均粒径が20〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用するのが望ましい。粒子の平均粒径が20nm未満になると、粒子内部の空隙率が小さくなって、所望の低屈折率が得られなくなる。また、平均粒径が150nmを超えると、有機薄膜のヘーズが増加するので好ましくない。
このように内部空洞を有するシリカ系微粒子としては、平均粒径20〜150nm、屈折率1.16〜1.39の中空シリカ微粒子を含む分散ゾル(触媒化成工業(株)製、スルーリア、及びレキューム)等が挙げられる。
【0099】
また、反射防止層を形成するコーティング用組成物には、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂や、これらの樹脂原料となるメタアクリレート類、アクリレート類、エポキシ類、ビニル類等の各種モノマーを、添加することができる。また、屈折率を低減する目的から、フッ素含有の各種ポリマー、またはフッ素含有の各種モノマーを添加することが好ましい。
【0100】
フッ素含有ポリマーとしては、フッ素含有ビニルモノマーを重合して得られるポリマーが好ましく、さらに他の成分と共重合可能な官能基を有することが好ましい。
このような低屈折率層用のコーティング用組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、水、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤を用いることができる。
【0101】
さらに、反射防止層を形成する「D成分」と「E成分」とを含有する低屈折率膜コーティング組成物は、必要に応じて、少量の硬化触媒、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダートアミン、ヒンダートフェノール等の光安定剤、分散染料、油溶染料、蛍光染料、顔料等を添加し、コーティング液の塗布性の向上や、硬化後の被膜性能を改良することができる。
【0102】
そして、反射防止層は、ハードコート層上に低屈折率膜コーティング組成物の被膜が、湿式法により形成されることが好ましい。
蒸着法やスパッタリング法などの乾式法で形成される無機膜は、下層の有機被膜からなるハードコート層との大きな熱膨張率差により耐熱性が低いのに対して、湿式法により形成される有機薄膜からなる反射防止層は、ハードコート層との熱膨張率差が小さいことから加熱によるクラックの発生が起こり難くなり、耐熱性に優れる。また、湿式法により形成することができるため、真空装置や大型の設備は不要となり、簡便に反射防止層を形成することができる。
【0103】
湿式法による低屈折率の反射防止層の成膜方法としては、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法などの公知の方法を用いることができる。これらの成膜方法のうち、プラスチックレンズのような曲面形状に膜厚が50nm〜150nmの薄膜をムラなく成膜することを考慮すると、ディッピング法、またはスピンナー法が好ましい。
なお、ハードコート層上に低屈折率の反射防止層を形成する際には、ハードコート層表面に前処理を行うことが好ましい。この前処理の具体例としては、表面研磨、紫外線−オゾン洗浄、プラズマ処理等によりハードコート層表面を親水化(接触角θ=60°以下)する方法が有効である。
【0104】
反射防止層の具体的な成膜方法は、以下の様な手順により行われる。
まず、「D成分」としての有機珪素化合物を有機溶剤で希釈し、必要に応じて水または薄い塩酸、酢酸等を添加して加水分解を行う。さらに、「E成分」としてのシリカ系微粒子が5〜50重量%の分率で有機溶剤中にコロイド状に分散した溶液を添加する。その後、必要に応じ、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加し、十分に撹拌した後にコーティング液として用いる。
【0105】
このとき、硬化後の固形分に対して、コーティング液の希釈する濃度は、好ましくは固形分濃度として0.5〜15重量%であり、より好ましくは1〜10重量%である。固形分濃度が15重量%を越えた場合には、ディッピング法で引き上げ速度を遅くしたり、スピンナー法で回転数を高くしても、所定の膜厚を得ることが困難であり、膜厚が必要以上に厚くなってしまう。また、固形分濃度が0.5重量%に満たない場合には、ディッピング法で引き上げ速度を早くしたり、スピンナー法で回転数を遅くしても、膜厚が必要よりも薄くなってしまい所定の膜厚を得ることが困難である。また、速度を速くし過ぎたり、回転数を遅くし過ぎると、レンズ上での塗りムラが大きくなりやすく、界面活性剤等の添加でも対応仕切れなくなってしまう。
【0106】
コーティング液をプラスチックレンズに塗布後、熱または紫外線によって硬化させることによって反射防止層が得られるが、加熱処理によって硬化させることが好ましい。加熱処理の際の加熱温度は、コーティング用組成物の組成、レンズ基材の耐熱性等を考慮して決定されるが、50℃〜200℃が好ましく、より好ましくは80℃〜140℃である。
【0107】
得られる反射防止層の膜厚は50nm〜150nmの範囲である必要がある。この範囲より厚すぎても薄すぎても十分な反射防止効果が得られない。また、反射防止層の屈折率は、反射防止層として機能するためには、下層に形成されたハードコート層の屈折率との差が0.10以上、好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.20以上とする必要がある。具体的な屈折率は、1.30〜1.45の範囲とすることが好ましい。
ここで、更なる低反射率、可視光領域での低反射領域の広帯域化を実現するために、前記に示す屈折率1.30〜1.45の層の他に、より高屈折率の層を中間層として用い、反射防止層を2層以上の複数層とすることも可能である。この場合の反射防止膜の合計膜厚は、所望の反射率に対して決定されるため、必ずしも50〜150nmの範囲とする必要はない。但し、反射防止層を2層以上の複数層とする場合には、生産性の観点で煩雑になることが多く、上記構成が好ましい場合が多い。
【0108】
以上のように、レンズ基材上にプライマー層、ハードコート層、反射防止層とが形成されたプラスチックレンズは、さらに、反射防止層の上面にプラスチックレンズ表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、フッ素を含有する有機珪素化合物からなる防汚層を成膜することができる。フッ素を含有する有機珪素化合物は、下記の一般式(2)で表される含フッ素シラン化合物を用いるのが好ましい。
【0109】
【化4】

一般式(2)中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であるが、好ましくはCF3−,C25−,C37−である。R1は加水分解可能な基であり、例えばハロゲン、−OR3、−OCOR3、−OC(R3)=C(R42、−ON=C(R32、−ON=CR5が好ましい。さらに好ましくは、塩素、−OCH3、−OC25である。R3は脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基、R4は水素または低級脂肪族炭化水素基、R5は炭素数3〜6の二価の脂肪族炭化水素基である。
【0110】
2は水素または不活性な一価の有機基であるが、好ましくは、炭素数1〜4の一価の炭化水素基である。a、b、c、dは0〜200の整数であるが、好ましくは1〜50であり、eは0または1である。mおよびnは0〜2の整数であるが、好ましくは0である。pは1以上の整数であり、好ましくは1〜10の整数である。また、分子量は[5×102]〜[1×105]の範囲であるが、好ましくは[5×102]〜[1×104]の範囲である。
【0111】
また、上記一般式(2)で示される含フッ素シラン化合物の好ましい構造のものとして、下記一般式(3)で示されるものが挙げられる。
【0112】
【化5】

一般式(3)中、Yは水素または低級アルキル基、R1は加水分解可能な基、qは1〜50の整数、mは0〜2の整数、rは1〜10の整数を表す。
【0113】
一般式(2)、あるいは一般式(3)で表される含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液を用いて反射防止膜上に塗布する方法を採用することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法、フロー法、ドクターブレード法、ロールコート塗装、グラビアコート塗装、カーテンフロー塗装、刷毛塗り等を用いることができる。
【0114】
有機溶剤としては、含フッ素シラン化合物の溶解性に優れるパーフルオロ基を有し、炭素数が4以上の有機化合物が好ましく、例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−4−メトキシブタン、パーフルオロ−4−エトキシブタン、メタキシレンヘキサフロライドを挙げることができる。また、パーフルオロエーテル油、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー油を使用することができる。その他に、フロン225(CF3CF2CHCl2とCClF2CF2CHClFの混合物)を例示することができる。これらの有機溶剤の1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0115】
有機溶剤で希釈するときの濃度は、0.03〜1重量%の範囲が好ましい。濃度が低すぎると十分な厚さの防汚層の形成が困難であり、十分な撥水撥油効果が得られない場合があり、一方、濃すぎると防汚層が厚くなり過ぎるおそれがあり、塗布後塗りむらをなくすためのリンス作業の負担が増すおそれがある。
【0116】
防汚層の膜厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層の膜厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmを超えて厚くなると反射防止効果が低下するため好ましくない。
【0117】
撥水処理液の塗布方法としてディッピング法を用いた場合、有機溶剤を用いて所定濃度に調整した撥水処理液中にプラスチックレンズを浸漬し、一定時間経過後、一定速度で引き上げる。浸漬時間としては0.5分〜3分程度が望ましい。0.5分以下であると、プラスチックレンズ表面への撥水剤の吸着が充分でないため、所定の撥水性能を得ることができない。3分以上の場合は、サイクルタイムの増加を招き好ましくない。引き上げ速度は、100mm/min〜300mm/minが望ましい。これは、撥水処理液濃度との兼ね合いで決めるものであるが、100mm/min以下では、防汚層が薄くなりすぎて所定の防汚性能が得られず、300mm/min以上では、防汚層が厚くなりすぎ、塗布後塗りむらをなくすためのリンス作業の負担が増すおそれがある。
【0118】
次に、本発明の実施形態に基づく実施例、および比較例を説明する。
【0119】
(実施例1)
(1)プライマー組成物の調製
ステンレス製容器内に、メチルアルコール3700重量部、水250重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル1000重量部を投入し、十分に攪拌したのち、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化珪素を主体とする複合微粒子ゾル(アナターゼ型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)、商品名オプトレイク1120Z U―25・A8)2800重量部を加え撹拌混合した。次いでポリエステル樹脂2200重量部を加えて攪拌混合した後、さらにシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7604)2重量部を加えて一昼夜撹拌を続けた後、2μmのフィルターでろ過を行い、プライマー組成物を得た。
【0120】
(2)ハードコート組成物の調製
ステンレス製容器内にブチルセロソルブ1000重量部を取り、「B成分」としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200重量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸300重量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7001)30重量部を加えて1時間撹拌した後、「A成分」として酸化チタン、酸化スズ、酸化珪素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z 8RU―25・A17)7300重量部を加え2時間撹拌混合した。次いでエポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名デナコールEX−313)250重量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20重量部、および「C成分」として4,4´−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾール10重量部(コーティング組成物の固形分に対して0.5重量%)を加えて3時間攪拌し、2μmのフィルターでろ過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0121】
(3)反射防止層を形成する低屈折率膜コーティング組成物の調製
ステンレス製容器内に、「D成分」としてテトラメトキシシラン208重量部を投入し、メタノール356重量部を加え、さらに水18重量部、0.01規定の塩酸水溶液18部を加え、ディスパーを用いて良く混合して混合液を得た。この混合液を温度25℃の恒温槽中で2時間攪拌してシラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中に「E成分」として中空シリカ−イソプロパノール分散ゾル(触媒化成工業(株)製、固形分濃度20%、平均一次粒子径35nm、外殻厚み8nm)をシラン加水分解物に対して重量比70/30となるように配合した。次いでシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7001)1重量部を混合した後、プロピレングリコールモノメチルエーテルで全固形分量が2%となるように希釈し、低屈折膜コーティング組成物を得た。
【0122】
(4)プライマー層、ハードコート層、反射防止層の形成
チオウレタン系プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン(株)製、商品名セイコースーパーソブリン生地、屈折率1.67)を準備した。
そして、準備したレンズ基材をアルカリ処理(50℃に保たれた2.0規定水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後に純水洗浄を行い、次いで25℃に保たれた0.5規定硫酸に1分間浸漬して中和する)し、純水洗浄及び乾燥、放冷を行った。そして、(1)において調製したプライマー組成物中に浸漬し、引き上げ速度30cm/min.で引き上げて80℃で20分焼成し、レンズ基材表面にプライマー層を形成した。そして、プライマー層が形成されたレンズ基材を、(2)において調製したハードコート組成物中に浸漬し、引き上げ速度30cm/min.で引き上げて、80℃で30分焼成し、プライマー層上にハードコート層を形成した。その後、125℃に設定したオーブン内で3時間加熱して、プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズを得た。形成されたプライマー層の膜厚は0.5μm、ハードコート層の膜厚は2.5μmであった。
【0123】
そして、プライマー層とハードコート層が形成されたプラスチックレンズを、プラズマ処理(大気プラズマ300W、120秒)した後、(3)において調製した低屈折率膜コーティング組成物中に浸漬し、引き上げ速度5cm/min.で引き上げて、80℃で30分焼成した後、100℃に設定したオーブン内で2時間加熱して低屈折率膜からなる反射防止層を形成し、プライマー層とハードコート層、および反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。形成された反射防止層の膜厚は100nmであった。
【0124】
(実施例2)
実施例1において、反射防止層の形成を、低屈折率コーティング組成物による湿式法に代えて、以下に示す真空蒸着法を用いた乾式法により形成した以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
反射防止膜の形成は、プラズマ処理(アルゴンプラズマ400W、60秒)を行った後、レンズ基材から大気に向かって順に、SiO2、ZrO2、SiO2、ZrO2、SiO2の5層からなる反射防止多層膜を、真空蒸着法((株)シンクロン製、CES−21を使用)にて形成した。各層の光学的膜厚は、1層目のSiO2層、2層目と3層目のZrO2とSiO2の等価膜層、および4層目のZrO2層、最上層である5層目のSiO2層が、それぞれλ/4となる様に形成した。なお、設計波長λは520nmとした。
【0125】
(比較例1)
実施例1のハードコート組成物の調整において、4,4´−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾールに代えて、ビフェニルスルフィド構造におけるS(硫黄原子)をC(炭素原子)に置き換えた2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)10重量部を用いてハードコート層を形成した以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0126】
(比較例2)
実施例1のハードコート組成物の調整において、4,4´−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾールに代えて、ビフェニルスルフィド構造におけるS(硫黄原子)をC(炭素原子)に置き換え、且つ1個のフェニル基を有する2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール10重量部(コーティング組成物の固形分に対して0.5重量%)を用いてハードコート層を形成した以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0127】
(比較例3)
実施例1のハードコート組成物の調整において、4,4´−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾールに代えて、ビフェニルスルフィドにおいてS(硫黄原子)をC(炭素原子)に置き換え、且つ1個のフェニル基とホスフェート基を有するジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート10重量部(コーティング組成物の固形分に対して0.5重量%)を用いてハードコート層を形成した以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0128】
(比較例4)
実施例1のハードコート組成物の調整において、4,4´−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾールに代えて、ビフェニルスルフィド構造においてS(硫黄原子)を有し、且つビフェニル基を有しないジドデシル−3,3´−チオジプロピオネート10重量部(コーティング組成物の固形分に対して0.5重量%)を用いてハードコート層を形成した以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0129】
(比較例5)
実施例1のハードコート組成物の調整において、4,4´−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾール10重量部(コーティング組成物の固形分に対して0.5重量%)を100重量部としてハードコート層を形成した以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0130】
(比較例6)
実施例1のハードコート組成物の調整において、4,4´−チオビス(6−t−ブチル−メタ−クレゾール10重量部を0.1重量部としてハードコート層を形成した以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0131】
(比較例7)
実施例1のハードコート組成物の調整において、酸化チタン、酸化スズ、酸化珪素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)製;商品名オプトレイク1120Z 8RU―25、A17)に代えて、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化珪素を主体とする複合微粒子ゾル(アナターゼ型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)、商品名オプトレイク1120Z U―25・A8)を用いた以外は、実施例1と同様にプライマー層、ハードコート層、反射防止層が形成されたプラスチックレンズを得た。
【0132】
以上の実施例1〜2および比較例1〜7で得られたプラスチックレンズ(以降、レンズと表す)の物性を、以下に示す評価方法で評価した。その結果を表1に示す。
評価項目は、干渉縞、反射率、耐擦傷性、初期密着性、耐湿性、耐温水性、耐光性、耐熱性、耐衝撃性、の9項目で評価した。各評価方法を以下に説明する。
【0133】
(1)干渉縞
3波長系の蛍光灯の直下にレンズをかざし、目視でレンズ表面の干渉縞の発生状況を確認し、干渉縞の発生がほとんどないものを○、干渉縞が明確に判るものを×として評価した。
(2)反射率
レンズの表面反射率を、分光光度計を用いて測定し、測定した視感度曲線に従って視感度補正した反射率に換算した。
【0134】
(3)耐擦傷性
レンズ表面に、スチールウール#0000を荷重1kgで印加し、3〜4cmの距離を10往復擦ったのち、目視でレンズ表面に入った傷の状態を下記のA〜Eの5水準の基準で評価した。
A:全く傷がない。
B:1〜5本の傷が確認される。
C:6〜20本の傷が確認される。
D:21本以上の傷があるが曇りには見えない状態。
E:多数の傷があり曇りに近い状態。
【0135】
(4)初期密着性
レンズ表面を約1mm間隔で基盤目状に100目クロスカットし、このクロスカットした部分に、粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名セロテープ(登録商標))を強く貼り付けたのち、急速に粘着テープを剥がし、粘着テープを剥がした後の基盤目の膜剥がれ状態を下記のa〜eの5水準で評価した。
a:全く膜剥がれがない(膜剥がれ目数=0/100)。
b:ほとんど膜剥がれがない(膜剥がれ目数=0〜5/100)。
c:やや膜剥がれが発生(膜剥がれ目数=6〜20/100)。
d:膜剥がれ発生(膜剥がれ目数=21〜50/100)。
e:密着不良(膜剥がれ目数=51〜100/100)。
【0136】
(5)耐湿性
レンズを恒温恒湿炉(40℃、90RH%)中に10日間放置し、その後恒温恒湿炉中からレンズを取り出して、室温下で3時間放置した後、密着性試験を行った。密着性試験は、(4)初期密着性と同一の方法、同一の評価基準で行った。
【0137】
(6)耐温水性
レンズを80℃の温水中に2時間浸漬し、その後レンズを温水中から取り出して水冷した後、密着性試験を行った。密着性試験は、(4)初期密着性と同一の方法、同一の評価基準で行った。
【0138】
(7)耐光性
レンズを、キセノンロングライフウェザーメーター(スガ試験機(株)製)にて200時間照射を行い、キセノンロングライフウェザーメーターからレンズを取り出して水冷した後、密着性試験を行った。密着性試験は、(4)初期密着性と同一の方法、同一の評価基準で行った。
【0139】
(8)耐熱性
眼鏡フレーム形状に合わせてレンズを玉摺り加工した後、眼鏡フレームにはめ込んで、ネジで完全に締めつけ、60℃の恒温槽中に30分投入した。その後レンズを取り出し、室温下で1時間放冷してからクラック発生の有無を評価した。クラックが発生していない場合は65℃の恒温槽に30分追加投入した後クラック発生の有無を評価した。これ以降は順次5℃ずつ昇温した恒温槽に30分間追加投入していき、クラックが発生した温度を耐熱限界温度とした。
【0140】
(9)耐衝撃性
16.3gの剛球をレンズ表面に垂直落下させる試験において、落下高さを127cmから10cm間隔で上げていき、破壊もしくは貫通した時点の落下高さを測定した。
【0141】
【表1】

表1の結果から、実施例1および2は、ハードコート層を形成するコーティング組成物中に、「C成分」としての一般式(1)で表されるビフェニルスルフィド構造を有する化合物を用いていることにより、耐湿性、耐温水性、耐光性、耐衝撃性が優れている。なお、実施例1は、有機系薄膜からなる反射防止層を形成しており、耐熱性も優れている。これに対して、比較例1〜4は、ハードコート層を形成するコーティング組成物にビフェニルスルフィド構造を有さない化合物を使用しており、耐湿性、耐温水性、耐光性、耐衝撃性が低い。
【0142】
また、比較例5および6では、ビフェニルスルフィド構造を有する化合物の添加量が適切な範囲(コーティング組成物中の固形分に対して、0.03〜1.0重量%)になく、いずれも耐擦傷性(比較例5)、もしくは耐湿性、耐温水性、耐光性、耐衝撃性(比較例6)が低い。また、比較例7は、ハードコート層を形成するコーティング組成物にアナターゼ型結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子を用いているため、耐光性が不足している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズ基材上に、前記プラスチックレンズ基材の表面から順に、プライマー層、ハードコート層、有機系反射防止層を有するプラスチックレンズにおいて、
前記ハードコート層が少なくとも下記「A成分」、「B成分」、および「C成分」を含有するコ−ティング組成物から形成された塗膜であることを特徴とするプラスチックレンズ。
「A成分」;金属酸化物微粒子。
「B成分」;一般式、「R1SiX13」で表される有機珪素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は加水分解性基を表す)。
「C成分」;下記一般式(1)で表されるビフェニルスルフィド構造を有する化合物(式中、RおよびR´は炭化水素基もしくはヒドロキシル基、nは0〜5を表す。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記「C成分」が前記コーティング組成物中に前記コーティング組成物中の固形分に対して、0.03〜1.0重量%を含有することを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記ハードコート層を形成するコーティング組成物中に、さらに多官能エポキシ化合物を含むことを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記プライマー層がポリエステル樹脂を含有するコーティング組成物から形成された塗膜であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、
前記有機系反射防止層が少なくとも下記「D成分」、「E成分」を含有するコ−ティング組成物から形成された塗膜からなり、
前記ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有することを特徴とするプラスチックレンズ。
「D成分」;一般式、「R2n3mSiX24-n-m」で表される有機珪素化合物(式中、R2は重合可能な反応基を有する有機基、R3は炭素数1〜6の炭化水素基、X2は加水分解性基、nは0又は1、mは0又は1を表す)。
「E成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子。
【請求項6】
プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成する工程と、
前記プライマー層上に、少なくとも下記「A成分」、「B成分」、「C成分」を含有するコーティング組成物を用いてハードコート層を形成する工程と、
前記ハードコート層上に、少なくとも下記「D成分」および「E成分」を含有するコーティング組成物を用いて、前記ハードコート層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率を有する有機系反射防止層を形成する工程と、
を有することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
「A成分」;金属酸化物微粒子。
「B成分」;一般式、「R1SiX13」で表される有機珪素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する炭素数が2以上の有機基、X1は加水分解性基を表す)。
「C成分」;下記一般式(1)で表されるビフェニルスルフィド構造を有する化合物(式中、RおよびR´は炭化水素基もしくはヒドロキシル基、nは0〜5を表す)。
【化2】

「D成分」;一般式、「R2n3mSiX24-n-m」で表される有機珪素化合物(式中、R2は重合可能な反応基を有する有機基、R3は炭素数1〜6の炭化水素基、X2は加水分解性基、nは0又は1、mは0又は1を表す)。
「E成分」;平均粒径1〜150nmのシリカ系微粒子。

【公開番号】特開2007−41434(P2007−41434A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227574(P2005−227574)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】