説明

プラスチックレンズ用硬化性組成物

【課題】良好な光学物性、力学的及び熱的物性を有し無色透明性、樹脂の脆さが改良された光学材料を調製し得る硬化性組成物の提供。
【解決手段】(a)構造式:



[式中、R、Rは、水素又はメチル基を表し、mとnの合計値は0〜30を表す。]で表される第一単量体、および(b)下記構造式[式中、Rは、水素又はメチル基、nは整数を表す。]で表される第二単量体を含んでなる硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率、アッベ数及び透明度等について良好な光学的特性を有し、かつ種々の機械的特性に優れた眼鏡用レンズ、カメラレンズ等の光学部品、さらには、接着剤、コーティング剤等の光学関連製品を提供し得る硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ガラスは、無機ガラスに比べて軽量であるため光学材料、特にレンズ材料として注目され、現在ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)等の重合体からなる有機ガラスが多く使用されている。 ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)よりなる有機ガラスは、軽量であるとともに、耐衝撃性、寸法安定性、機械加工性、染色性、ハードコート性に優れており、眼鏡用レンズとして無機ガラスに代る材料として多く使用されている。しかしながら、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)は、アッベ数が58と高く、分散は小さいが、屈折率が1.50程度と低く、このため実用面においてレンズの厚みを大きくせざるを得ず軽量化のメリットがなくなり、かつ見栄えも悪いという欠点があった。
【0003】
近年、かかる欠点を克服するための有効なより高屈折率のレンズ材料として、ビスフェノールAの誘導体が提示されている。該材料は良好な耐衝撃性、硬化性等の諸特性を有しているが、比較的高粘度であって、これ単独では注型等の作業性が悪いため、改良を目的として該材料を主成分とするレンズ材料組成物が種々開発されている(特開昭55-13747号公報、特開昭59-191708号公報)。しかし、当該レンズ材料組成物は、樹脂組成によっては白濁、着色するものも多く、またアッベ数も十分ではない。
【特許文献1】特開昭55-13747号公報
【特許文献2】特開昭59-191708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、バランスのとれた良好な光学物性(屈折率、アッベ数等)、並びに、力学的及び熱的物性(耐熱性、耐衝撃性等)を有し、かつ無色透明性及び樹脂の脆さが改良された光学材料(プラスチックレンズ)を調製し得る硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(a)構造式(1):
【化1】

[式中、R、Rは、水素又はメチル基を表し、mとnの合計値は0〜30を表す。]
で表される第1単量体、および
(b)構造式(2):
【化2】


[式中、Rは、水素又はメチル基を表し、nは1〜10の数を表す。]
で表される第二単量体
を含んでなる硬化性組成物に関する。
特に、本発明は、単量体が第一単量体(a)および第二単量体(b)からなる単量体を含んでなるプラスチックレンズ用硬化性組成物に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の硬化性組成物は、眼鏡用レンズ、カメラレンズ等の光学部品(特に、光学用レンズ)、さらには、接着剤、コーティング剤等の光学関連製品に使用できる。本発明の硬化性材料は、光学材料に特に適している。本発明のプラスチックレンズは、屈折率、アッベ数及び透明度等の良好な光学的特性を有し、かつ種々の機械的特性および物理的特性(例えば、耐熱性、軽量性、耐衝撃性、寸法安定性、機械的加工性、ハードコートの密着性)に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いられる第一単量体(a)は、芳香環を有するジメタクリレートまたはジアクリレートである。化学式(1)において、mおよびnのそれぞれは、0〜10、特に1〜5の数である。第一単量体(a)の具体例は、ビスフェノールAのエチレンオキサイド(EO)付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのEO付加物アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド(PO)付加物ジメタクリレート、ビスフェノールAのPO付加物アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で、または混合して用いられる。
【0008】
第二単量体(b)は、トリシクロデカン基を有するジメタクリレートまたはジアクリレートである。化学式(2)において、nは1〜10、例えば1〜5の数である。第二単量体(b)の具体例は、ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート等である。
【0009】
第二単量体(b)の量は、第一単量体(a)100重量部に対して10〜900重量部が好ましく、20〜200重量部がさらに好ましい。
【0010】
第三単量体(c)は、用いても用いなくてもよい。第三単量体(c)は、物理的性質および機械的性質、例えば、耐衝撃性、収縮性、染色性を向上させ、光学的性質、例えば屈折率を向上または調整することができる。第三単量体(c)は、重合性を有する重合性化合物である。第三単量体(c)は、単量体(c)を用いて重合して得られた重合体が、透明性を損なわないものであれば良い。第三単量体(c)の具体例は、メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアクリル酸もしくはメタクリル酸のエステル類、スチレン、p-クロロスチレン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物、オルソフタル酸ジ(メタ)アリル、イソフタル酸ジ(メタ)アリル、テレフタル酸ジ(メタ)アリル等の芳香族ジ(メタ)アリル化合物等である。
【0011】
メチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステル類は、希釈剤として機能できる。スチレン、p-クロロスチレン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物は、屈折率を調整(例えば、屈折率の増加)できる。
【0012】
第三単量体(c)の量は、第一単量体(a)100重量部に対して0〜80重量部が好ましく、0〜60重量部(例えば、1〜50重量部)がさらに好ましい。
【0013】
本発明の硬化性組成物を硬化させることによって、有機ガラス(特に、プラスチックレンズ)が得られる。有機ガラスは、単量体を重合開始剤の存在下、注型法等の公知の成型法で加熱共重合させることによって得られる。硬化性組成物を、重合開始剤を添加後、所定の温度下で前もって若干重合させておいた後、所望の型内に仕込み加熱硬化させて重合させることもできる。あるいは、X線、α線等の電離性放射線あるいは紫外線、可視光線、赤外線等のいわゆる光を用いて重合させることもできる。
【0014】
単量体を重合することによって硬化物が得られる。重合は、一般に、ラジカル重合またはイオン重合である。重合を開始するために、重合開始剤、例えば、ラジカル重合開始剤またはイオン重合開始剤を使用できる。
ラジカル重合開始剤の例は、有機過酸化物およびアゾ化合物である。たとえば、過酸化べンゾイル、ジイソプロピルぺルオキシジカーボネート、ターシャリーブチルぺルオキシピパレート、ターシャリブチルペルオキシネオデカノエート、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチロバレロニトリル等があげられる。
【0015】
重合には、イオン重合開始剤を用いてもよい。カチオン重合開始剤として、HSO、HClO等の水素酸や、BeCl、BF等のルイス酸が挙げられ、またアニオン重合開始剤として、Li、Na等のアルカリ金属や、CNa、CLi等のアルフィン触媒などが挙げられる。
【0016】
重合開始剤の使用量としては原料単量体の総重量100重量部に対して10重量部以下、例えば、0.05〜5.0重量部が望ましい。
必要に応じて前記重合性組成物に更に染料、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、各種安定剤、帯電防止剤、フォトクロミック化合物等を配合することもできる。
【0017】
プラスチックレンズの製造は、次のようにして行うことができる。
単量体(a)〜(c)に、重合開始剤、添加剤を混合、攪拌の後、脱泡する。次いで得られた混合物を、窒素あるいは空気の圧力で、モールドとガスケットから組み立てられた型に流し込む。重合は、20〜120℃で1〜48時間加熱して行い、離型をし、レンズが得られる。光重合の場合には、公知のケミカルランプ、キセノンランプ、低高圧水銀ランプ等の光源を用いて、活性エネルギー線、好ましくは波長200〜600nmの活性エネルギー線を型ごとに1分〜10分程度、照射することにより、レンズが得られる。更にレンズの外周を削ったり、汚れを洗浄する仕上げを行い製品が得られる。
【0018】
攪拌は、震盪機などを用いてシェイクしてもよい。攪拌時間は、原料によって異なるが系の粘度が100cps以下であれば、3〜30分程度である。
脱泡は、通常減圧下で時々振とうして溶解している空気を追い出す。脱泡を怠ると、成型品に微少な泡が多数発生して製品不良の原因になることがある。500mlの立方体で、100cpsの系であれば、3〜30分程度である。
【0019】
注入する型は、カーブの異なるガラスモールドを平行に配置し、適当な樹脂でできたリング状のガスケットで支えられている。ガスケットには、適当な注入可能部分があり、注入針のついている注入器を使用して組成物を注入する。重合は、常温から最高100℃付近まで徐々に温度を上昇させて行う。ただし、重合開始剤の半減期を考慮して温度の上昇速度は、重合時間とともに速くさせることが好ましい。離型工程では、重合完了後、60℃程度にまで冷却したガラスモールドとガスケットを分解して取り外す。光重合の場合には、活性エネルギー線を照射し、硬化したレンズをガラスモールドとガスケットを分解して取り外した後、必要に応じて、30分〜2時間程度、熱重合する事も出来る。仕上げでは、製品レンズの外周を削り取り大きさを整え、また表面汚物を除去する。
【実施例】
【0020】
以下に本発明を実施例により説明するが、実施例により本発明が制限されるものではない。
実施例および比較例における物性の評価は、次のようにして行なった。
屈折率及びアッベ数
アッベの屈折率計(アタゴ社製)を用い、中間液としてアルファブロモナフタリンを用いて25℃で行なった。
耐衝撃性
注型重合によって得られた中心厚み1.6mmのマイナス5ジオプターのレンズで、米国FDA規格のドロップボールテスト、すなわち5/8インチの直径を有する16.2gの鋼球をレンズ上方50インチ(約127cm)の高さから落下させるテストを行なった。なお、硬化物が割れないものを合格(○印で示す)とした。
【0021】
染色性
スミカロン−E−FBL(住友化学工業製)1gを、1Lの水に分散させた液を90℃に加熱し、この中にレンズを10分間浸漬して色むらがなく均一に染色できるかを目視で確認した。均一に染色できるものを合格(○印で示す)とした。
耐熱性
JISK7206、7207に準じて、 ヒートディストーションテスター(東洋精機製作所製)を用いて熱変形温度(℃)を測定した。
【0022】
実施例1
ビスフェノールAのエチレンオキサイド(EO)付加物ジメタクリレート[上記化学式(1)において、Rがメチル基であり、Rが水素であり、mとnの合計の平均値が2.6である化合物]50重量部、ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート[上記化学式(2)において、nが1である化合物]50重量部に重合開始剤としてジイソブチルバレロニトリル0.3重量部の混合物を2枚のガラスとエチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA、三井・デュポンポリケミカル製 P-1407)で作成されたガスケットよりなる型中に注入し、恒温槽中に入れ30℃から105℃まで20時間かけて徐々に昇温加熱した。得られた硬化樹脂を離型した後、さらに110℃で2時間加熱して後重合を行った。この硬化樹脂は無色透明で、屈折率1.55、アッベ数42、熱変形温度98℃であった。注型重合によって得られた中心厚み1.6mmのマイナス5ジオプターのレンズで、耐衝撃性テストを行ったが、レンズは割れなかった。
【0023】
実施例2〜5
表1に示す組成(単位:重量部)の混合物を実施例1と同様に注型重合を行ない硬化物の物性を測定した。その結果を表2に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
比較例1
ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート 100重量部に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1重量部の混合物を実施例1と同様に注型重合を行い無色透明な樹脂を得た。樹脂の屈折率1.529 アッベ数は53であったが、耐衝撃性が悪かった。
【0027】
比較例2〜4
表3に示す組成(単位:重量部)の混合物を実施例1と同様に注型重合を行ない硬化物の物性を測定した。その結果を表4に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体を含んでなるプラスチックレンズ用硬化性組成物であって、
単量体が、
(a)構造式(1):
【化1】

[式中、R、Rは、水素又はメチル基を表し、mとnの合計値は0〜30を表す。]
で表される第一単量体、および
(b)構造式(2):
【化2】


[式中、Rは、水素又はメチル基を表し、nは1〜10の数を表す。]
で表される第二単量体
からなることを特徴とするプラスチックレンズ用硬化性組成物。
【請求項2】
第一単量体(a)100重量部に対して、第二単量体(b)の量が10〜900重量部である請求項1に記載のプラスチックレンズ用硬化性組成物。
【請求項3】
第一単量体(a)が、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加ジアクリレートもしくはメタクリレートまたはビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジアクリレートもしくはジメタクリレートである請求項1または2に記載のプラスチックレンズ用硬化性組成物。
【請求項4】
第二単量体(b)が、トリシクロデカンジアクリレートまたはトリシクロデカンジメタクリレートである請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチックレンズ用硬化性組成物。
【請求項5】
第一単量体(a)および第二単量体(b)からなる請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチックレンズ用硬化性組成物。
【請求項6】
重合開始剤をも含有する請求項1〜5のいずれかに記載のプラスチックレンズ用硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のプラスチックレンズ用硬化性組成物を硬化してなるプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2007−327040(P2007−327040A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120742(P2007−120742)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【分割の表示】特願2001−342039(P2001−342039)の分割
【原出願日】平成13年11月7日(2001.11.7)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】