説明

プラスチック中空板の製造方法および製造装置

【課題】 キャップシートとバックシートからなる二層品のキャップ上にライナーシートを融着させた、三層構成をもつプラスチック中空板の製造において、ライナーシートとライナー加圧ロールとの間に空気が巻き込まれるのを防いで、ライナーシートの表面の平滑性が改善された製品を与える製造技術を提供する。
【解決手段】 ライナー加圧ロールと、熱可塑化状態のライナーシートとの間の空気を真空吸引して負圧状態に保つことにより、ライナーシートがライナー加圧ロールに向かって押しつけられて密着し、全面的に急冷されるように図る。具体的には、ライナー加圧ロールとライナーシートとが接触する直前の位置で開口するリップを有する空気吸引ノズルを配置するか、または、サクションロールを加工したライナー加圧ロールを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック中空板の製造方法および製造装置に関する。本発明により、軽量で剛性が強く、物理的特性の方向性がほとんどないプラスチック中空板であって、表面の平滑性が改善されたものが提供される。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、代表的にはポリエチレンを材料とし、真空成形により多数のキャップを形成したキャップフィルムと、平坦なバックフィルムとを貼り合わせ、多数の密閉された空気室を形成したプラスチック製の気泡シートが、主として緩衝包装の分野で、また一部は断熱材として使用されている。この二層構成の気泡シートに対して、キャップシートのキャップの頂を連ねてもう1枚の平坦なライナーシートを貼り合わせた、三層品がある。三層構成の気泡シートを構成する各フィルムの厚さを厚くして行けば、剛性が増して、プラスチック中空板として使用可能になる。この種のプラスチック中空板の材料としては、ポリプロピレンが最適である。ポリプロピレンを材料とするプラスチック中空板は、自動車部品やコンテナーをはじめとする種々の製品の構造材として、広く使用されるようになってきた。
【0003】
気泡シートタイプのプラスチック中空板の製造に関しては、平坦性、すなわち製品に反りが生じるのが避け難いという問題と、平滑性、すなわちライナーシートの表面が不規則な凹凸をもち、いわゆる「ゆず肌」になってしまうという、二つの問題があった。前者の、平坦性の改善に関して、出願人は、反りの発生する主原因が二層品へのライナーシートの貼り合わせに際して生じるバイメタル効果であることを突き止め、その対策を提案した(特許文献1)。提案された対策とは、二層品を温度分布が均一な弾性体状態にして若干の延伸を行ない、その上で溶融状態のライナーシートを貼り合わせて三層品としたのち、ライナーシートが収縮するに任せ、その収縮に二層品の延伸緩和を同調させることによって、製品全体に生じる歪みを最小限にする、というものである。
【0004】
一方、平滑性の問題は、案外、解決が面倒であることが経験された。出願人は、ライナーシートの表面が「ゆず肌」になるのは、ライナーシートを二層品に貼り合わせるにあたって、ライナーシートがライナー加圧ロールの表面に密着していないからであろうと考え、それまで梨地であったロール表面を鏡面加工してみたが、かえって不成績であった。その理由は、ライナーシートとライナー加圧ロールとの間に空気が巻き込まれた状態で、ライナーシートが不均一に冷却されていること、つまり、ライナーシートの表面は、ライナー加圧ロールに接して急冷される部分と、間接的に徐冷される部分とが、微細に混在しているということがわかった。とくにポリプロピレンを材料にする場合は、問題が深刻である。一般にプラスチックは、溶融状態から固化するときに体積が縮小するが、ポリプロピレンはその度合が、急冷の場合に大きくて、徐冷の場合に小さい。この冷却速度により体積収縮の度合が異なるという性質が、微細な凹凸の形成を顕著なものにしていると考えられる。
【0005】
ライナーシートのライナー加圧ロールへの密着を確保するには、ピンチロールを使用してシートを加圧ロールに押しつけることが、直接的な解決法である。この目的を達成するため、1枚のシートを成形することに限られるが、表面材質をフッ素樹脂製とし、鏡面加工したタッチロールを使用することが提案されている(特許文献2)。このロールで押しつける方法は、プラスチック中空板のライナーシートとする、厚さ125〜1200μmのシートを対象とする場合、ほぼ1kg/cm以上の圧力を加えれば、密着の効果があることがわかった。しかし、プラスチック中空板の製造に関しては、ライナーシートのキャップに融着する側を別のロールに接触させることは、その側を冷却させることにほかならないから、二層品とライナーシートとの融着不完全を招き、好ましくない。対策として、二層品をキャップの側から加熱して、キャップの温度を高めておくことが考えられる。この加熱は、従来の技術においても行なわれており、ピンチロール使用の場合に加熱の度合を強化して実施してみたが、効果には限界があることがわかった。
【0006】
ライナーシートをライナー加圧ロールに密着させる別の手段として、空気の力を利用することが考えられる。発明者らは、下降するライナーシートがライナー加圧ロールに接触する直前の位置において、細長いスリットから空気を吹き出してライナーシートに吹き当て、この空気の力を駆動力としてライナーシートをライナー加圧ロールに対して押しつけ、密着させることを試みた。この試みは一応の成功をみたが、吹き付けた空気をどこに逃がすかという問題があり、大量の空気の吹き出しはライナーシートの動きを乱す危険があるし、ライナーシートが二層品と融着する側を冷却するという点では、ロールによる押しつけが引き起こす冷却ほど深刻でないにしても、やはり好ましいことではない。密着の効果を高めようとすると、融着不良を招きかねないからである。
【特許文献1】特開2002−326297
【特許文献2】特開平5−237917
【特許文献3】特許第2630870号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、気泡シートタイプのプラスチック中空板の製造において残る平滑性の問題を解決し、ライナーシートの表面が不規則な凹凸をもつ「ゆず肌」となることを防いでプラスチック中空板を製造する技術を提供すること、より具体的にいえば、空気の力によりライナーシートをライナー加圧ロールに密着させ、それによってライナーシート表面の均一な冷却を行ない、平滑性の高いプラスチック中空板を製造することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決した本発明のプラスチック中空板の製造方法は、プラスチックを材料とする、多数のキャップ状突起をもつキャップシート、平坦なバックシートおよびもう1枚の平坦なライナーシートの三層から構成されるプラスチック中空板を製造する方法であって、図1に示すように、
A)回転する金属の円筒に多数の凹みを設け、凹みの底を真空吸引源に接続した成形ロール(2)を用いて、T−ダイ(1A)から押し出され、熱可塑化状態にあるプラスチックシートを真空成形して多数のキャップ状突起を有するキャップシート(I)を形成すること、
B)キャップシート(I)の底面に、T−ダイ(1B)から押し出され、熱可塑化状態にあるバックシート(II)をバック加圧ロール(3)により押圧して貼り合わせ、二層品(IV)を形成すること、
C)二層品を、バックアップロール(4)で下から支え、二層品のキャップの頂部に対し、T−ダイ(1C)から押し出され、熱可塑化状態にあるライナーシート(III)を、ライナー加圧ロール(5)により押圧して貼り合わせ、三層品(V)を形成すること、および
D)三層品を引き取って冷却し、所定の寸法に裁断すること、
からなる製造方法において、
ライナー加圧ロールと、それに向かって下降する熱可塑化状態のライナーシートとの間の空間に存在する空気を吸引除去し、この空間を常に負圧状態に保つことにより、ライナーシートがライナー加圧ロールに向かって押しつけられるように図ることによって、ライナーシートをライナー加圧ロールに対して密着させて全面的に急冷したのち、キャップシートに押圧することにより、ライナーシートとライナー加圧ロールとの間における空気の巻き込みを防いで貼り合わせを行なう、という原理を特徴とする、ライナー表面が平滑なプラスチック中空板の製造方法である。この原理を実現するための、本発明の具体的な方法には、下記の二つの態様がある。
【0009】
そのひとつの態様は、ライナー加圧ロールと、熱可塑化状態のライナーシートとの間の空間に存在する空気を吸引除去し、この空間を常に負圧状態に保つ手段として、吸引ノズルを使用する。すなわち、図2に示すように、ライナー加圧ロール(5)と、それに向かって下降する熱可塑化状態のライナーシート(III)との間に、両者が接触する直前の位置で開口するリップ(6A)を有する吸引ノズル(6)を配置し、このノズルを通じて空気を吸引することを特徴とするライナー表面が平滑なプラスチック中空板の製造方法である。
【0010】
いまひとつの態様は、ライナー加圧ロールと、熱可塑化状態のライナーシートとの間の空間に存在する空気を吸引除去し、この空間を常に負圧状態に保つ手段として、特殊な構造のライナー加圧ロールを使用する。すなわち、図4および図5に示すように、ライナー加圧ロール(7)として、表面から内部に向かう多数の空気孔(7B)を有する円筒(7A)の表面に、細い金属線を、密ではあるが微細な空隙を設けて巻き付けたのち表面を研削することによって、外観は平滑であるが多数の空気吸引スリットをそなえた表面層(7C)を有するように形成したライナー加圧ロールを使用し、この空気吸引スリットおよび細孔を通じて円筒内部を経て空気を吸引することを特徴とするライナー表面が平滑なプラスチック中空板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法に従うときは、いずれの態様によっても、プラスチック中空板を構成するライナーシートとキャップシートおよびバックシートからなる二層品(IV)とからプラスチック中空板(VI)を製造するに当たり、Tダイ(1C)から熱可塑化状態で降下してきたライナーシート(III)が、図6に示すように、ライナー加圧ロール(5または7)に一直線(C)上で密着し、ロールに密着した表面が全面的に急冷され、一方でロールに接しない側は、なお熱可塑化状態を保ったままで二層品のキャップの頂きに貼り合わされるから、得られた三層品(V)、すなわちプラスチック中空板(VI)は、平滑なライナー表面を有するとともに、キャップとライナーとの融着が完全で、十分な強度をもった製品となる。
【0012】
ライナー加圧ロール(5)に一直線(C)上で密着したライナーシート(III)は、密着した瞬間にロール全長にわたって急冷され、ポリプロピレンを材料として選択した場合でも、前述したポリプロピレンに固有の、冷却固化の履歴によって体積縮小の度合が異なるという問題にわずらわされることなく、均質な固化表面を有するものになるから、製品プラスチック中空板の平滑性は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の方法の実施に当たっては、ライナー加圧ロールとライナーシートとの間の負圧が、ライナーシートをライナー加圧ロールに密着する駆動力として、効果的に作用するように図らなければならない。容易に理解されるように、負圧はある限度以上ないと効果的でないが、過度に高くしようとすることは、真空設備の能力や消費エネルギーが過大になるばかりでなく、一直線上で均一かつ安定的に密着させるという観点で、かえって不利になることがある。
【0014】
経験によれば、第一の態様に関しては、ライナー加圧ロールにライナーシートが接触する直線からノズルに向かって10mmの距離にある位置において、水柱20mm以上の負圧が実現していれば、有効である。この達成すべき負圧の値は、使用したプラスチックの特性と、ライナーシートの厚さに応じて選択する。これには若干の試行錯誤を要するが、当業者は、適切な条件を容易に見出すことができるであろう。
【0015】
上記した第一の態様の製造方法を実施するための、本発明のプラスチック中空板の製造装置は、プラスチックを材料とする、多数のキャップ状突起をもつキャップシート、平坦なバックシートおよびもう1枚の平坦なライナーシートの三層から構成されるプラスチック中空板を製造する装置であって、図1に示したような、下記の各部分:
イ)キャップシート用のプラスチックシート(I)、バックシート(II)およびライナーシート(III)を熱可塑化状態で押し出すための、それぞれのT−ダイ(1A,1B,1C)、
ロ)熱可塑化状態にあるキャップシート用のプラスチックシートを真空成形によりキャップシートとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた成形ロール(2)、
ハ)成形ロール上で成形されたキャップシートのキャップの底面にバックシートを貼り付けて二層品(IV)を得るためのバック加圧ロール(3)、
ニ)二層品を、ライナーシート貼り合わせの前に下方から支えるパックアップロール(4)、
ホ)二層品のキャップの頂きに熱可塑化状態にあるライナーシートを貼り合わせて、三層品(V)とするためのライナー加圧ロール(5)、および
ヘ)三層品を引き取って裁断し、プラスチック中空板(VI)とする引き取り切断手段、
を有するプラスチック中空板の製造装置において、
図2に示したように、ライナー加圧ロール(5)と、それに向かって下降する熱可塑化状態のライナーシート(III)との間に、両者が接触する直前の位置で開口するリップ(6A)を有する真空吸引ノズル(6)を配置し、このノズルを通じて空気を吸引するための吸引経路(6B)および真空源(図示してない)を設けてなり、真空吸引による負圧によって、ライナーシートをライナー加圧ロールに対して一直線(C)上で密着させて全面的に急冷することを可能にしたことを特徴とし、それによって、図6に示したように、ライナーシート(III)がライナー加圧ロール(5)に密着し、空気の巻き込みを防いだ状態で貼り合わせを行ない、ライナー表面が平滑なプラスチック中空板を製造する装置である。
【0016】
上記した第二の態様の製造方法を実施するための、本発明のプラスチック中空板の製造装置は、プラスチックを材料とする、多数のキャップ状突起をもつキャップシート、平坦なバックシートおよびもう1枚の平坦なライナーシートの三層から構成されるプラスチック中空板を製造する装置であって、図1に示したような、下記の構成部分:
イ)キャップシート用のプラスチックシート(I)、バックシート(II)およびライナーシート(III)を熱可塑化状態で押し出すための、それぞれのT−ダイ(1A,1B,1C)、
ロ)熱可塑化状態にあるキャップシート用のプラスチックシートを真空成形によりキャップシートとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた成形ロール(2)、
ハ)成形ロール上で成形されたキャップシートのキャップの底面にバックシートを貼り付けて二層品(IV)を得るためのバック加圧ロール(3)、
ニ)二層品を、ライナーシート貼り合わせの前に下方から支えるパックアップロール(4)、
ホ)二層品のキャップの頂きに熱可塑化状態にあるライナーシートを貼り合わせて、三層品(V)とするためのライナー加圧ロール(7)、および
ヘ)三層品を引き取って裁断し、プラスチック中空板(VI)とする引き取り切断手段、
を有する製造装置において、図4および図5に示すように、ライナー加圧ロール(7)として、表面から内部に向かう多数の空気孔(7B)を有する円筒(7A)の表面に、細い金属線を、密ではあるが微細な空隙を設けて巻き付けたのち表面を研削することによって、外観は平滑であるが多数の空気吸引スリットをそなえた表面層(7C)を有するように形成したライナー加圧ロールを使用し、この空気吸引スリットおよび細孔を通じて空気を吸引するための、円筒内部から外部への真空吸引経路(図示してない)および真空源を設けてなり、真空吸引によりライナー加圧ロールの表面に生じた負圧によって、ライナーシートをライナー加圧ロールに対して密着させ、全面的に急冷することを可能にしたこと特徴とする製造装置である。
【0017】
第一の態様の製造方法を実施するための装置に関しては、図3に示したように、ノズルの両端において、ライナー加圧ロールの両端から僅少の距離を置いて遮蔽板(8)を固定的に配置することが好ましい。この態様によれば、ライナー加圧ロールにライナーシートが接近する領域に側面から空気が流入することが防止できて、負圧の形成によるライナーシートのライナー加圧ロールへの密着が効果的に行える。真空吸引は、ノズルの各部において吸引力に差があると、形成される負圧が部分によって異なり、全幅にわたる密着の均一性が確保できなくなる。したがって、広幅のノズルを設ける場合は、真空源との間に吸引した空気のマニホールドを設けるなどして、ノズル全体で均一な吸引が可能になるよう図るといった配慮を必要とする。
【0018】
第二の態様の製造方法を実施するための装置に使用するライナー加圧ロール(7)は、従来から「サクションロール」として知られる(前掲特許文献3)、シート状の物体を搬送するためのロールを加工したものが、好都合に採用できる。表面と内部を結ぶ多数の空気孔を有する円筒の表面に、細い金属線を巻き付けてなるサクションロールは、一定の張力をもってシート状物体を搬送することができるよう、その表面は平滑でないが、金属線の巻き付け密度を、密ではあるが微細な空隙が残るようにし、その表面を研削してほぼ半分が残る程度に、つまり最大径の部分が表面に来るようにすると、外観はほぼ平滑になるが、多数の空気吸引スリットをそなえた表面が形成される。このような加工を施したロールは、熱伝導も良好で、ライナーシートの密着とそれによる急冷が容易であるうえ、これに接触して得られた製品の表面は、ほぼ平滑である。
【0019】
本発明のプラスチック中空板を構成する3種のシート、すなわちキャップシート用のシート(I)、バックシート(II)およびライナーシート(III)は、いずれも熱可塑化した状態で加工するものであるから、T−ダイから溶融押出しされたプラスチックシートを使用することが有利である。3枚のシートを、図1に示したように、すべてT−ダイ(1A,1B,1C)から溶融押出しして供給すれば、完全インライン操業が可能である。
【0020】
しかし、同じ加工条件つまり熱可塑化した状態は、別に製造したこれらのシートを、いったんリールに巻き取ってから繰り出し、加熱ロールに接触させて所要の温度に加熱することによっても実現可能である。場合によっては、上記のT−ダイから直接溶融押出しすることと、加熱ロールによる可塑化とを併用することもできる。3種のシートの内、いずれか1種または2種をT−ダイから供給し、残る2種または1種を加熱ロールにより加熱することである。
【0021】
本発明のプラスチック中空板の材料としては、熱可塑性であってシート化可能なものであれば、とくに制限はないが、プラスチック気泡シートの材料としてとくに有用なポリエチレンおよびポリプロピレン、とくに後者が、ここでも好適に使用可能である。
【0022】
製品のシート厚さや坪量、さらにキャップの直径および高さ、配置および密度などは、プラスチック中空板の用途に関連して所望される物理的特性、たとえば面方向の坐屈強度、面に垂直な方向の圧縮強度や、加工特性たとえば切断、曲げそのほかの加工性の良否等に従って選択する。プラスチック中空板の用途として現在展開されている、自動車の内装材、包装箱の材料などに関していえば、シートの厚さは、それぞれ下記の範囲が一般的であって、
キャップシート:250〜1500μm、
バックシート: 125〜800μm、
ライナーシート:125〜1200μm
この厚さは、坪量にして450〜3000g/m2に相当する。
【0023】
キャップの直径は、3〜15mmの範囲、高さはそれに応じて3〜15mmの範囲が一般的である。配置は、千鳥配置、格子配置、斜め格子配置など、任意に選択できる。気泡シートに行なわれている千鳥配置は、方向性がないという点で好ましいが、切断や折り曲げ加工に関しては、格子配置が有利である。特性の方向性を全くなくした製品は、正方形の格子状にキャップを配置したものであるが、縦・横の方向により多少の方向性を持たせることをむしろ所望する場合は、キャップの密度を方向により変化させればよい。
【0024】
本発明のプラスチック中空板には、製造に当たって、任意の添加剤、たとえば着色剤、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、燃焼補助剤などを添加できることはいうまでもない。
【0025】
本発明の製品プラスチック中空板の表面が平滑度高く得られるという効果は、その製造に当たって、ライナー加圧ロールの表面に、製品プラスチック中空板に関連した情報を記載したポジまたはネガの型板を設けておき、プラスチック中空板の製造と同時に、型板どおりの表面を形成することによって、製品に関する所望の情報を、製品表面に記載することができるという利益をもたらす。「製品に関する情報」とは、たとえば製品のグレード、各種の仕様および製造の時期などに関する事項である。これにより、通常は製造後に別途印刷をした紙を貼り付けたり、または直接印刷を施したりして与えていた情報を、そうした工程を経る必要なく、ただちに形成することが可能になる。これは、製造工程の簡素化、製品コストの低減および環境への負荷の低減など、さまざまな利益につながる。
【実施例1】
【0026】
材料としてHIPP「住友ノーブレン」(住友化学製)を使用し、図1に示した構成であって、3種のシートをすべてT−ダイから押し出して供給するようにした装置を用いて、プラスチック中空板を製造した。3種のシートの押し出し厚さはつぎのとおりであり、
キャップシート:0.7mm
バックシート: 0.4mm
ライナーシート:0.6mm
キャップの大きさは、外径が5mm、ピッチが8mmであって、配置は15°傾斜配列である。
【0027】
直径300mm×長さ2000mmの外寸を有し、内部に水冷水の流路を設けたライナー加圧ロールに対して、図2にみるような断面構造を有し、先端のリップのスリットが60度傾いた直線上で、10mmの距離の点にノズルが開口するように配置した。ノズル開口部の長さは、ロールの長さに等しい2000mmであり、ライナーシートの幅は、約1950mmである。吸引ノズルの両端には、図3に示した遮蔽板(8)を設け、側面から空気が流入して、吸引効果が低下することを防いだ。遮蔽板(8)は、回転するロールの両端に対して、接触はしないがきわめて近接するように保持して、遮蔽効果を高めた。
【0028】
ノズル先端部で水柱80mmの負圧が形成されるように真空吸引を行ない、ライナーシートのライナー加圧ロールへの密着を図りながら、二層品へのライナーシートの貼り付けを行なった。ライナーシートは、真空吸引によるライナーシートの密着を行なわなかった場合にライナーシートがライナー加圧ロールに接触する直線(C)より、約10mm上方の直線(C)において、ライナー加圧ロールに密着しつつ貼り付けられた。
【0029】
密着による急冷の効果は、ライナーシートの温度の変化からも確認できた。すなわち、Tダイを樹脂温度200〜230℃で吐出されたポリプロピレンのライナーシートは、ライナー加圧ロール通過後、従来の密着不完全な状態では、表面温度が110℃前後あったが、本発明にしたがって真空吸引により密着を図った後は、表面温度が80℃近辺まで低下していた。
【0030】
得られた三層のプラスチック中空板は、厚さが5mm、坪量が1500g/mである。この製品のライナーシートの側は、ほぼ完全な鏡面といってよい平滑さを示した。機械的強度(面方向の坐屈強度、面に垂直方法の圧縮強度)は、従来の製品にまさるとも劣らないものであった。
【実施例2】
【0031】
外径が300mm、長さが2000mmで、直径0.9mmのステンレス鋼のワイヤを僅少の間隙をもって巻いた、市販のサクションロールの表面を研削して、表面をほぼ平滑にしたロールを製造した。このような加工を施したものをライナー加圧ロールとして使用し、実施例1と同じ仕様のプラスチック中空板を、同様の操作条件で製造した。製品の表面を観察して、ワイヤの間隙が転写されていないことが確認できた。これは、ワイヤの間隙がきわめて微細(ほぼ0.08mm)であって、熱可塑化状態のライナーシートが急冷され、間隙に引き込まれることがないまま凝固したためと解される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のプラスチック中空板の製造方法を説明するための、従来の装置の全体構成を示す断面図。
【図2】本発明に従うプラスチック中空板の製造技術の第一の態様を特徴付ける、真空吸引によるライナーシートのライナー加圧ロールへの密着のための、ノズルとその周辺を示す断面図。
【図3】図2の装置に、ノズルの両端に遮蔽板を設けた態様を示す断面図。
【図4】本発明に従うプラスチック中空板の製造技術の第二の態様を特徴付ける、真空吸引によりライナーシートを吸引して密着させるライナー加圧ロールの構造を示す、ロールの横断面図。
【図5】図4のライナー加圧ロールの構造を示す、ロールの拡大縦断面図。
【図6】本発明に従って、真空吸引によるライナーシートの密着を行なった場合を、若干誇張して表現した断面図。
【符号の説明】
【0033】
1A,1B,1C T−ダイ
2 成形ロール
3 バック加圧ロール
4 バックアップロール
5 ライナー加圧ロール
6 真空吸引ノズル
6A リップ 6B 吸引経路
7 ライナー加圧ロール
7A 円筒 7B 空気孔 7C 表面層
8 遮蔽板
I キャップシート
II バックシート
III ライナーシート
IV 二層品
V 三層品
VI プラスチック中空板
ライナーシートがライナー加圧ロールに接触する直線(真空吸引による密
着を行なわない場合)
ライナーシートがライナー加圧ロールに接触する直線(真空吸引による密
着を行なった場合)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックを材料とする、多数のキャップ状突起をもつキャップシート、平坦なバックシートおよびもう1枚の平坦なライナーシートの三層から構成されるプラスチック中空板を製造する方法であって、
A)回転する金属の円筒に多数の凹みを設け、凹みの底を真空吸引源に接続した成形ロールを用いて、熱可塑化状態にあるプラスチックシートを真空成形して多数のキャップ状突起を有するキャップシートを形成すること、
B)キャップシートの底面に、熱可塑化状態にあるバックシートをバック加圧ロールにより押圧して貼り合わせ、二層品を形成すること、
C)二層品をバックアップロールで下から支え、二層品のキャップの頂部に対し、熱可塑化状態にあるライナーシートを、ライナー加圧ロールにより押圧して貼り合わせ、三層品を形成すること、および
D)三層品を引き取って冷却し、所定の寸法に裁断すること、
からなる製造方法において、
ライナー加圧ロールと、それに向かって下降する熱可塑化状態のライナーシートとの間の空間に存在する空気を吸引除去し、この空間を常に負圧状態に保つことにより、ライナーシートがライナー加圧ロールに向かって押しつけられるように図ることによって、ライナーシートをライナー加圧ロールに対して密着させて全面的に急冷したのち、キャップシートに押圧することにより、ライナーシートとライナー加圧ロールとの間における空気の巻き込みを防いで貼り合わせを行なうことを特徴とする、ライナー表面が平滑なプラスチック中空板の製造方法。
【請求項2】
ライナー加圧ロールと、熱可塑化状態のライナーシートとの間の空間に存在する空気を吸引除去し、この空間を常に負圧状態に保つ手段として、ライナー加圧ロールとライナーシートとが接触する直前の位置で開口するリップを有する吸引ノズルを配置し、このノズルを通じて空気を吸引することを特徴とする請求項1の製造方法。
【請求項3】
ライナー加圧ロールと、熱可塑化状態のライナーシートとの間の空間に存在する空気を吸引除去し、この空間を常に負圧状態に保つ手段として、表面から内部に向かう多数の細孔を有する円筒の表面に、細い金属線を、密ではあるが微細な空隙を設けて巻き付けたのち表面を研削することによって、外観は平滑であるが多数の空気吸引スリットを有するように形成したライナー加圧ロールを使用し、この空気吸引スリットおよび細孔を通じて円筒内部を経て空気を吸引することを特徴とする請求項1の製造方法。
【請求項4】
二層品のキャップの頂を、ライナーシートの貼り合わせに先だって加熱することにより、貼り合わせを容易にする工程を含む請求項1の製造方法。
【請求項5】
ライナー加圧ロールの内部に冷却媒体を通し、接触したライナーシートの急冷を助けつつ貼り合わせを行なう請求項1の製造方法。
【請求項6】
ライナー加圧ロールの表面に、製品プラスチック中空板に関連した情報を記載したポジまたはネガの型板を設けておくことにより、プラスチック中空板の製造と同時に製品に関する情報をその表面に記載する請求項1の製造方法。
【請求項7】
各シートが、いずれもポリプロピレンであって、それぞれ下記の範囲の厚さをもち、
キャップシート:250〜1500μm
バックシート: 125〜800μm
ライナーシート:125〜1200μm
坪量が450〜3000g/m2であるプラスチック中空板を製造するため、ライナー加圧ロールとライナーシートとの間の負圧を、ライナー加圧ロールにライナーシートが接触する直線から10mmの距離にある位置において、水柱20mm以上であるようにして実施する請求項2の製造方法。
【請求項8】
請求項2に記載した、ライナー表面が平滑なプラスチック中空板の製造方法を実施するための装置であって、下記の構成部分:
イ)キャップシート用のプラスチックシート(I)、バックシート(II)およびライナーシート(III)を熱可塑化状態で押し出すための、それぞれのT−ダイ(1A,1B,1C)、
ロ)熱可塑化状態にあるキャップシート用のプラスチックシートを真空成形によりキャップシートとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた成形ロール(2)、
ハ)成形ロール上で成形されたキャップシートのキャップの底面にバックシートを貼り付けて二層品(IV)を得るためのバック加圧ロール(3)、
ニ)二層品を、ライナーシート貼り合わせの前に下方から支えるパックアップロール(4)、
ホ)二層品のキャップの頂きに熱可塑化状態にあるライナーシートを貼り合わせて、三層品(V)とするためのライナー加圧ロール(5)、および
ヘ)三層品を引き取って裁断し、プラスチック中空板(VI)とする引き取り切断手段、
を有する製造装置において、ライナー加圧ロールとライナーシートとが接触する直前の位置で開口するリップを有する真空吸引ノズル(6)を配置し、このノズルを通じて空気を吸引するための吸引経路(6B)および真空源を設けてなり、真空吸引による負圧によって、ライナーシートをライナー加圧ロールに対して密着させ、全面的に急冷することを可能にしたこと特徴とする製造装置。
【請求項9】
ノズルの両端において、ライナー加圧ロールの両端から僅少の距離を置いて遮蔽板(8)を固定的に配置し、ライナー加圧ロールにライナーシートが接近する領域に側面から空気が流入することを防止した請求項5の製造装置。
【請求項10】
請求項3に記載した、ライナー表面が平滑なプラスチック中空板の製造方法を実施するための装置であって、下記の構成部分:
イ)キャップシート用のプラスチックシート(I)、バックシート(II)およびライナーシート(III)を熱可塑化状態で押し出すための、それぞれのT−ダイ(1A,1B,1C)、
ロ)熱可塑化状態にあるキャップシート用のプラスチックシートを真空成形によりキャップシートとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた成形ロール(2)、
ハ)成形ロール上で成形されたキャップシートのキャップの底面にバックシートを貼り付けて二層品(IV)を得るためのバック加圧ロール(3)、
ニ)二層品を、ライナーシート貼り合わせの前に下方から支えるパックアップロール(4)、
ホ)二層品のキャップの頂きに熱可塑化状態にあるライナーシートを貼り合わせて、三層品(V)とするためのライナー加圧ロール(7)、および
ヘ)三層品を引き取って裁断し、プラスチック中空板(VI)とする引き取り切断手段、
を有する製造装置において、ライナー加圧ロール(7)として、表面から内部に向かう多数の空気孔(7B)を有する円筒(7A)の表面に、細い金属線を、密ではあるが微細な空隙を設けて巻き付けたのち表面を研削することによって、外観は平滑であるが多数の空気吸引スリットをそなえた表面層(7C)を有するように形成したライナー加圧ロールを使用し、この空気吸引スリットおよび細孔を通じて空気を吸引するための、円筒内部から外部への真空吸引経路(図示してない)および真空源を設けてなり、真空吸引によりライナー加圧ロールの表面に生じた負圧によって、ライナーシートをライナー加圧ロールに対して密着させ、全面的に急冷することを可能にしたこと特徴とする製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−113382(P2009−113382A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290110(P2007−290110)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000199979)川上産業株式会社 (203)
【Fターム(参考)】